- タイトル
- On the Street Where You Live
- アーティスト
- Bob Thompson
- ライター
- Alan Jay Lerner, Frederick Loewe
- 収録アルバム
- Just for Kicks
- リリース年
- 1959年
- 他のヴァージョン
- OST, Nat King Cole, Shelly Manne, Enoch Light, the Miracles, the Four Tops, Marvin Gaye, Doris Day, Ray Sharpe, Andy Williams, Frank DeVol, Vic Damone, Quincy Jones

★ 3月10日追記: サンプルのリンクを修正しました。ご不便をおかけし、申し訳ありません。
当ブログとしてはめずらしいことながら、今日は短く、さっと書いてみようと、この記事に取りかかりましたが、さて、どうなりますか。ヴァージョンがたくさんあるので、半分以上は無視することになるでしょう。
前々回のI Could Have Danced All Night その1のときに、『マイ・フェア・レディ』の他の曲もどっとプレイヤーにドラッグし、ざっと聴きました。最終的に二曲に絞り、どちらにしようかと迷って、オミットしたのが、このOn the Street Where You Liveです。
といっても、楽曲としてどうこうということではなく、I Could Have Danced All Nightにしても、今日のOn the Street Where You Liveにしても、ある特定のヴァージョンだけがすごくよかったわけで、実質的にロビン・ウォードと今日のボブ・トンプソンを比較し、前者のほうがよかったから、I Could Have Danced All Nightにしただけです。で、そろそろ更新しなければならないのに、『マイ・フェア・レディ』以来、見終わった映画はなく、この二番煎じとあいなったというしだい。そういえば、ちょうど八代目三笑亭可楽の『二番煎じ』を聴くのにももってこいの時季ですな。いや、ぜんぜん関係ないのですが。
◆ グルーヴ指向のアレンジ ◆◆
さて、ボブ・トンプソンのOn the Street Where You Liveです。聴いていただくのがなによりでしょう。ロウ・ファイ・ファイルで恐縮ですが、サンプルですので……。
サンプル
トンプソンのリズム・アレンジはいつも楽しくて、弦や管よりリズムのほうばかり考えていたのではないかと思うほどです。こういうアレンジャーはきわめて稀です。ふつう、アレンジャーというのは、メロディー指向というか、弦をどうするか、管をどうするかを考えたものですし、その能力でギャラを得ていたのです。
リズム・セクション、とくにポップ/ロック系では、以前にも書きましたが、プレイヤーがアレンジするのが当然の慣行でした。つまり、たとえば、ドラムならハル・ブレインが、ベースならキャロル・ケイが、ピアノならドン・ランディーが、ギターならトミー・テデスコが自分で譜面を書くものだったのです。ロックンロール時代には、アレンジャーはリズム・セクションには口を出さず、コード・チャートをわたすだけでした。口を出したくても、ハル・ブレインやキャロル・ケイよりいい譜面が書けないから、どうにもならないのです。
例外はブライアン・ウィルソンとビリー・ストレンジです。ともにリズム・セクションのプレイヤーなので、自分で譜面を書けました。いや、ブライアンの場合は、ベース以外の譜面は書かないのですが、ドラムにいたるまで、フレーズは自分でつくっていたことが、Pet Sounds Sessions収録のWouldn't It Be Niceの初期テイクにはっきりと記録されています。入口のフレーズが、自分の指示したものとちがうと、ハル・ブレインのプレイを二度にわたって遮っているのです。
以前、ボブ・トンプソンのことを調べていて、どこかのサイトで、学生時代のトンプソンがドラムを叩いている写真に遭遇しました。それを見て、やっぱりそうか、と膝を叩きました。わたしが大好きなフィーリクス・スラトキンのI Get a Kick Out of Youのアレンジは、ドラムの経験がないアレンジャーには無理ではないかと、ずっと思っていたのです。

このOn the Street Where You Liveは、I Get a Kick Out of Youほど、ドラムと全体が密接に縫い合わされているわけではありませんが、アレンジャーがドラム譜を書けるなら、あらかじめ譜面を用意したほうが、スタジオに入ってから細かな打ち合わせをするより、短時間でレコーディングをすませられます。ブライアン・ウィルソンのように、スタジオ・タイムを考えずに録音ができるアレンジャーなど、ほかにはいなかったのです。予算通りに仕事を終えたいなら、完璧な譜面を用意するほうが賢明です。だから、この曲でも、トンプソンはドラム譜を書いたのだろうと推測します。
I Get a Kick Out of Youが収録されたスラトキンのアルバム、Fantastic Percussionでドラムを叩いたのはシェリー・マンだということを、お客さんのオオノさんにご教示いただきましたが、このOn the Street Where You Liveのドラマーも同じタイム、同じアクセントに聞こえるので、おそらくシェリー・マンなのでしょう。ベースがうまいおかげもあるのですが、非常にいいグルーヴで、聴いていて朗らかな気分になります。
◆ オーケストラもの ◆◆
トンプソンのパーカッシヴなアレンジさえご紹介すれば、今日の目的は達したことになるのですが、もうすこしだけつづけます。
つぎに楽しいのはイーノック・ライトのヴァージョンです。こちらもトンプソン盤同様、リズム・アレンジが勝負のヴァージョンです。ボンゴとトラップ・ドラムが狂言まわしをつとめ、つぎからつぎへとめまぐるしく登場人物=リード楽器が交代する、テンポの速いコメディーのようなヴァージョンです。イーノック・ライトのものには、つねにユーモアが揺曳していて、そこが大きな魅力になっています。

前回、ご紹介したLet's Dance Bossa Novaとはちがうアルバムに収録されているのですが、ドラマーは同じひとのようです。この曲でもI Could Have Danced All Night同様、二拍目でキックの強いアクセントを使っています。それだけなら、イーノック・ライトの好みにすぎない可能性もありますが、キックのチューニングとタイムも同一に聞こえます。いやはや、それにしてもめまぐるしいアレンジで、じつに楽しくなります。パート譜を起こすコピイストは大変だったでしょうけれど。
NYからハリウッドに戻って、フランク・ディヴォールは、スタンダード・シンガーのオーケストレーションをたくさんやったひとなので、いかにもそれらしく控えめで上品な管のアンサンブルです。こういうアンサンブルはハリウッドのお家芸で、インフラストラクチャーがこういうスケール感を生みだすのです。おかしなことに、こちらのドラマーもイーノック・ライトのものと同じような、キック一発のアクセントを使っています。こちらは一拍目ですが。


いつもスロウ&ムーディーなジャッキー・グリーソンは、この曲ではめずらしくアップテンポでやっています。リズム・セクションはストレートな4ビート、管はディクシー気味という、やや違和感のあるアレンジで、偏見かもしれませんが、ジャッキー・グリーソンは、やっぱりスロウ&ムーディーのほうがいいと感じます。
アンドレ・プレヴィンのピアノとリロイ・ヴィネガーのベースというシェリー・マンのトリオは、I Could Have Danced All Nightのほうはかなり変なアレンジでしたが、こちらは素直にミディアムでやっています。わたしはピアノ・トリオが不得手なので、さっぱりわかりませんが。

◆ 歌もの ◆◆
映画では、この曲は、フレディーという、イライザがまだコクニー丸出しの下品な花売り娘だったころから彼女に気があり、淑女としての彼女に再会してからは、「イライザ命」と心に決めた好青年が歌います。フレディーはイライザに一目会いたいと、ヒギンズの家を訪ねるのですが、イライザに面会を断られてしまい、それでも多幸症状態なので、ヒギンズ邸の周囲を歩きながら、この歌を歌ってしまうわけです。まあ、若者にはありがちな気分なのでしょう。


そういう曲なので朗々と歌いがちなのです。ミュージカルのなかではそれでいいのですが、単独の録音となると、どうでしょうかね。そういうのはわたしの好みではないのです。なんたって、元をたどればがちがちのロック小僧ですからね。
そういうひとだからしかたありませんが、ヴィック・ダモーンはもろに「音吐朗々」世界で、おっとっと、とつぶやいて、つぎのトラックにジャンプ、でした。
そこへいくと、ディノはやっぱり、どこまでも「スタイリスト」です。歌もののなかでは、このディーン・マーティン盤がいちばん懐の深い歌いっぷりで、非常に好ましい出来です。

フォー・トップス、ミラクルズ、マーヴィン・ゲイと、モータウンが3種もあるのが、おやおやです。しかも、モータウン風アレンジはゼロ。メインストリームの上品なスタイルです。全部ハリウッド録音でしょう。モータウンがなぜハリウッドで録音するようになったかは、わたしにとっては追求するに足るテーマで、何度か考えたのですが、こういうメインストリーム・サウンドがデトロイトでは不可能だったこともひとつの理由だと思います。

アップテンポのボビー・デアリン(「ダーリン」読みは当家では廃止した。本来の音からあまりにも遠すぎる)は、歌詞の意味と懸け離れてしまっていて、「いい」カヴァーではないでしょうが、これくらいのほうがわたしは乗れます。ハルでもアールでもない、ジャズ系のドラマーがフィルを叩きまくっています。もう時間切れなので、これが最後、レイ・シャープも悪くありません。