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Bye Bye, Baby (ハワード・ホークス監督『紳士は金髪がお好き』 その2)
 
イギリスのベース・プレイヤーは、ジェット・ハリスだけで終わるつもりではなく、いくつか聴いて確認しておいたのですが、やはりちょっと気が抜けた感じで、今日は、宙ぶらりんになっている『紳士は金髪がお好き』に戻ることにします。

◆ パブリック・ドメイン ◆◆
著作権法も法律なので、細部においては意味を解しかねることがたくさんあります。細かいことはわたしにも理解できないので省略し、結論だけいうと、『紳士は金髪がお好き』は、著作権更新手続きをとらなかったため、著作権者がいなくなり、いまではパブリック・ドメイン、すなわち公共のものになっているのだそうです。

ということで、いつもなら「パブリシティーだとみなしてねと暗黙のうちに要請し、暗黙のうちに了解してもらっているつもり」のスクリーン・ショットも、今回にかぎり、だれにも遠慮せずに貼り付けていいということが判明しました。なんなら、24コマ×60秒×90分で、全コマ貼り付けても、理論上はまったく問題ないのです。

したがって、ユーチューブにも映画全編がアップされています。まず、前回も貼り付けたものですが、フルムーヴィーのパート2をおいておきます。ご覧になりたい方はどうぞというだけにすぎず、音楽の場面だけを独立させたクリップもべつに貼り付けます。

フル パート2


◆ 異なったパターンのデュエット曲 ◆◆
それでは、二曲目、まもなく出航、お見送りの方は下船ください、という場面で、まずはジェイン・ラッセルが、そして、あとからマリリン・モンローが歌うBye Bye Baby。



声の質がまったく異なる二人のシンガーが交互に歌うのは大きな効果を上げるときがあるということを、以前、スティーヴン・スティルズの相方(デイヴィッド・クロスビー、クリス・ヒルマン、ドニー・デイカス)の使い方を例にあげて書いたことがあります。

CS&N Wooden Ships


話は脇にそれますが、久しぶりに聴いて、やっぱりダラス・テイラーのタイムは好みだなあ、と思いました。タムタムのチューニングもけっこう。ついでにいうと、12弦のカッティングが雑で癇に障ります。ということは、真正直にクロスビーがプレイしたということでしょう。

サンプル Manassas "Both of Us (Bound to Fall)"

サンプル Stephen Stills "Midinight in Paris"

前者はクリス・ヒルマン、後者はドニー・デイカスが相方です。

『紳士は金髪がお好き』に話を戻します。このデュエットは、一緒に歌うのではなく、先にジェイン・ラッセルが行き、あとからマリリン・モンローが歌うようになっていて、モンローの声に特徴があるので、クリス・ヒルマンとスティーヴ・スティルズのような効果が生まれています。

しかし、この曲のもっとも好ましいところは、女声コーラスです。アメリカというか、ハリウッド産音楽に固有のハーモニー、他の土地ではぜったいに得られない響きだといいたくなります。

◆ 従者あり ◆◆
航海に出て最初のシーンは、マリリン・モンローがデッキチェアに坐って、乗船客リストをチェックしているところです。客船など乗ったこともなければ、そういう習慣についてもまったく無知なのですが、リストには、たとえば、「スミス夫妻とその従者」(Mr. and Mrs. Smith and valet)というように記載されているのだそうです。

マリリン・モンロー扮するローレライは、末尾に「とその従者」と記載されている乗客を拾い出しているのです。そこにやってきたドロシー(ジェイン・ラッセル)が、なんだって突然、従者なんかに興味をもったのだとききます。

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ローレライ「“従者あり”って書いてあれば、その人は価値があるってことよ。あなたにふさわしい紳士を探しているんじゃないの」
ドロシー「あら、お生憎様。たったいま、自分で二十人ほど調達したところよ」
ロ「あのねドロシー。お金持ちの棒高跳び選手なんてものがいるなんて話をきいたことがある?」
ド「ないかもしれないけれど、だからどうだというの。あたしは自分より速く走れる男がすきなのよ」
ロ「まったく行く末が思いやられるわね。あなたは一文無しの野暮天を相手に時間を無駄にしているのよ」
ド「あんたねえ、世の中にはお金のことなんかまったく気にしない人間もいるってことを考えたことがないの?」
ロ「馬鹿をいってるんじゃないの。まじめな話をしているのよ。愛のない結婚なんてしたくないでしょ?」
ド「あたしが? 愛のない結婚ですって?」
ロ「そうよ。自分のものではないお金のことを考える時間しかなかったら、どうやって愛のための時間なんかつくれるっていうの?」

といった調子で、またしても二人の考え方の違いを浮き彫りにするダイアログですが、ローレライのいうことも、よく考えると筋が通っているところが可笑しくて、なんど見てもニヤニヤしてしまいます。まじめくさって人生論を披瀝するマリリン・モンローがなんともいえず魅力的な場面です。

◆ 肌もあらわな男たち ◆◆
ドロシーが「自分で二十人ばかり調達した」といったのは、船に乗り合わせたアメリカのオリンピック・チームのことです。

で、つぎのシーンでは、その肉体美を誇る青年たちとジェイン・ラッセルのナンバー、ホーギー・カーマイケル作のAin't There Anyone Here for Loveです。このシーンは、初見のとき、ギョッとしました。

フル:パート3


いやはや、といったきり絶句してしまう視覚的デザインと振り付けです。以前、「This Country's Going to War by the Marx Brothers (OST 『我が輩はカモである』より)」という記事でご紹介した曲が歌われるシーンにつぐ史上第二位といいたくなる、恐るべきソング&ダンス・シーンです。

この映画の原作は「ロアリング・トゥエンティーズ」の産物です。1920年代に一般化したものの代表としては、観光旅行とスポーツがあげられるのだそうで、『紳士は金髪がお好き』は、まさに20年代の「尖端風俗」を描いたものだったことが、このシーンに如実にあらわれています。

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いや、でも、このシーンの奇妙な手ざわりの根源は、もう少しべつなところにあるようです。つまり、直感がいうことを素直に書くならば、これはスポーツのエロティシズムを表現したものなのではないでしょうか。

そしてまた、「見世物としての男の肉体」というものが成立したことを証言しているようにも感じます。だってほら、ジェイン・ラッセルは黒のワンピースという色気のないコスチュームなのに対して、男たちは半裸であるばかりでなく、肌と区別がつかない水着をまとい、ジェイン・ラッセルの性的欲求を満たす存在として踊っているわけですからね。

まったく、この調子ではいつまでたっても終わりそうにありませんが、さすがはハワード・ホークス、ディテールが豊富なので、やむをえません。気長に見ていくことにします。次回、富豪の紳士、のようなものが登場します。


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DVD
紳士は金髪がお好き [DVD]
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サウンドトラック
Gentlemen Prefer Blondes
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Wooden Ships(デイヴィッド・クロスビーとのデュエット)
Crosby Stills & Nash
Crosby Stills & Nash


Both of Us(クリス・ヒルマンとのデュエット)
Manassas
Manassas


Midnight in Paris(ドニー・デイカスとのデュエット)
Stills/Illegal Stills/Thoroughfare Gap
Stills/Illegal Stills/Thoroughfare Gap
by songsf4s | 2011-04-23 23:51 | 映画
A Little Girl from Little Rock(ハワード・ホークス監督『紳士は金髪がお好き』より)
 
3.11以後最初のレギュラー・プログラムは、ディザースター映画にしようというのが当初のプランでした。しかし、再見した『2012』は、やはり馬鹿馬鹿しさのつきまとう映画で、途中で見るのを止めてしまいました。ド派手な破壊シーンが笑える映画でしたが、震災のあとでは、さすがに初見のときのようには笑えませんでした。

それで方向転換し、もっともくつろげるタイプの映画にしました。マリリン・モンローとジェイン・ラッセル主演の『紳士は金髪がお好き』です。以前にも書いたようにハワード・ホークスはもっとも好ましい監督のひとりだし、マリリン・モンローはすばらしいし、挿入曲もいいものがあるし、しかも、めっぽう可笑しいとくるのだから、こりゃたまらん、です。

◆ まちがった側 ◆◆
とりあえず、どんな映画か、トレイラーでその概略を。

予告編


ぜんぜんおわかりでない? ドロシー・ショウ(ジェイン・ラッセル)とローレライ・リー(マリリン・モンロー)はショウ・ガールで、二人でコンビを組んでナイトクラブに出演しています。

したがって、劇中、二人は歌って踊ることになり、それがこの映画のひとつの「売り」になっています。二人のデュエットによるオープニング・クレジットを貼り付けます。曲はA Little Girl from Little Rock、軽快かつ粋ですぜ。



いやはや、圧倒的色彩感覚! ステレオ初期にいい録音がたくさんあったことによく似ていますが、昔はカラー映画(正しくは「総天然色映画」というべきか!)であることを強く意識して色彩設計をしたと、いまにして思います。さらにいえば、この映画はテクニカラーなので、いっそう昔のカラー映画の味が際立っています。

音楽監督はライオネル・ニューマンですが、この映画の音楽関係のクレジットは複雑を極め、だれがこのシーケンスのアレンジをしたかは明白ではありません。どうであれ、中間部のストリングスの処理なんか、滅法界にうまくて、これぞハリウッド、と感じます。

on the wrong side of the tracks、まちがった側に、という言い回しが登場しますが、文脈からおわかりであろうように、「貧乏な」という意味の慣用句です。

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◆ ダイアモンドを見透かす眼力 ◆◆
ブロンドとブルネットという髪の色が象徴するように、二人はそれこそ正反対のキャラクターで、冒頭、それが説明されます。まず、ドロシーがローレライにこういいます。

You know, I think you're the only girl in the world who can stand on the stage with spotlights in your eyes and still see a diamond inside a man's pocket.

「ステージに立ってスポットライトで目がくらみながら、それでも客席の男のポケットに収まったダイアを見つけられる女は、世界であんたただひとりでしょうよ」

そこへ彼女のボーイフレンドのガス・エズモンド(トミー・ヌーナン)があらわれ、胸のポケットから小箱を取り出します。中身はもちろん、ダイアモンドの指輪。世界一のダイアモンド探索眼の持ち主はちゃんと見抜いていたのです。

ガス「サイズはこれでいいかな?」
ローレライ「大きすぎてダメなんてことはぜったいにないのよ」

むろん、ガスは指輪のサイズのことをいっているのですが、ローレライはダイアモンドのサイズのことを聞かれたのかと思ったのですな。開巻からここまで5分半ほど、じつに気持のいいテンポで、ローレライのキャラクターが鮮やかに描かれます。ハワード・ホークスですからね、こういうことに抜かりはないのです。

フル パート1


ローレライとガスが、わたしたちは結婚することになった、というと、ドロシーが皮肉屋ぶりを発揮します。

ドロシー「結婚て、相手はあなたたちどうし?」
ガス「もちろん。ほかに誰と結婚するっていうんだ」
ドロシー「ローレライはきっと財務長官と結婚すると思っていただけよ」

財務長官はsecretary of treasuryですが、treasuryには「財宝」の意味もあり、「宝物の番人」といったニュアンスがあります。ローレライのキャラクターを強調し、同時に、そういうことをいうドロシーのキャラクターもあらわす台詞です。

◆ 人口統計の問題 ◆◆
ガスには故郷オハイオ州デイトンに怖い父親がいて、毎日、長距離電話をかけ、小言をいっています。ガスとローレライは、父親の目が届かないパリに行って結婚しようとするのですが、ローレライは金目当てで息子と付き合っているだけだと見抜いている父親がそれを許しません。

しかし、それでもローレライはパリに旅することになり(ガスが迎えに来るまではアメリカに戻らないという)、ドロシーもガスの頼みでお目付け役としてついて行くことになります。

シェルブール港を目指す船には、アメリカのオリンピック・チームも乗り合わせます(アニタ・ルースによる原作は1925年刊行。1924年にはパリでオリンピックが開催された)。それを見てガスはローレライのことを心配し、ドロシーに「彼らはきみだけのことにしておいてくれよ」というと、ドロシーが「なんて偶然なの。あたしもそのつもりだったの」と笑います。

フル パート2


見送りに来たガスは二人の船室に行きます。こんどはローレライがドロシーの人物批評をします。ドロシーが「君に悪い影響を与えるのではないかと心配だ」というガスに、ローレライはこういいます。

「ドロシーは悪い人じゃないの、頭が空っぽなだけ。ただ見た目がいいっていうだけで男に惚れてしまうのよ。いつも彼女にいってるの、金持ちに惚れるのは、貧乏人に惚れるのと同じぐらい簡単なのよってね。でも彼女ったら、わかってるわよ、でも、背が高くて、浅黒い男に出会うと、手遅れになるまで人口統計のことを思い出さないのよ、ていうわけ」

人口統計というのは、すなわち、金持ちと貧乏人の比率のことですな。いや人口統計=vital statisticsは、字句どおりに読むと「死命を制する数字」なんていう解釈も成り立つので、「財産の計算」なんてことも含意しているのでしょう。

これで、ローレライはローレライなりの知性をもっていることがわかります。背の高さだとか、浅黒い精悍な肌などというのは、人生の選択において考慮するべき要素ではないと、理知的な結論を下しているわけです。どうであれ、マリリン・モンローが「vital statistics」なんて単語をいうと、失礼ながら、思わず笑ってしまいます。

うーん、まだ話は始まっていない、というぐらいなのですが、時間のほうは容赦なく過ぎ去り、本日はここまで。次回は船旅での騒動です。


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by songsf4s | 2011-04-06 23:01 | 映画・TV音楽