人気ブログランキング |
タグ:ハル・ブレイン ( 153 ) タグの人気記事
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その13 You Still Believe in Meセッション
 
Pet Sounds再訪、あと二曲まできて長らく足踏みしてしまいました。立ち向かうには気力の必要なアルバムで、ちょっと気を抜くと、戻れなくなってしまいます。

かくてはならじ、今日は残った二曲のうち、相対的に楽なほうを検討します。さっそく完成版のステレオ・ミックス。

The Beach Boys - You Still Believe in Me


何度も書いているように、Pet Soundsの特徴のひとつは、耳慣れない音が聞こえることです。このYou Still Believe In Meも例外ではありません。

なんのヴィデオだったか、ブライアン・ウィルソンが、フィル・スペクターからなにを学んだか、ということを、明解に語っていました。ブライアン曰く、スペクターが呈示したことでなによりも重要なのは「第三の音」なのだそうです。

第三の音とはなにか? ギターとピアノをいっしょに鳴らす、このとき、われわれの耳に響くのは「ギターの音」と「ピアノの音」という二種類の別々の音ではない、この二つが合成されたべつの音、「第三の音」である、とブライアンは説明していました。

スペクターはカスタネットだ、と考えた愚人や、スペクターはエコーだ、という凡人とは、やっぱり、ブライアン・ウィルソンは出来がちがいます。

たとえば、ブライアン・ウィルソンが昔も今も愛してやまないBe My Babyはどうなっているでしょうか。

The Ronettes - Be My Baby


人それぞれ異なるでしょうが、わたしが最初に感じるのは、コードです。昔から、Be My Babyを聴くと、まずそのことを感じてきました。

最初はよくわからなかったのですが、必死で聴き、また、スペクターの汎用的手法がわかってきた現在の場所でいうなら、複数のアコースティック・ギター(12弦もあるかもしれない)、ピアノ、それにひょっとしたらハープシコード、という組み合わせだと想像します。

ブライアンも、このモワモワしたスープ状の音を分析したのだと思います。そして、この「第三の音」をスペクター以上に大々的に利用したアルバムがPet Soundsなのだ、といっていいでしょう。

Pet Soundsではつねにそうだといっていいでしょうが、You Still Believe in Meも、はじめから「第三の音」が利用されています。

イントロの楽器は、作詞のトニー・エイシャーがピアノの弦にクリップをとめて鳴り方を変え、ブライアン自身がプレイしたと伝えられています。ブライアンは、それだけではなく、ここにヴォーカルを重ねて、独特の響きをつくっています。

音の重なり方を解きほぐす参考に、パーソネルを書き写しておきます。

ドラムズ……ハル・ブレイン
パーカッション……ジェリー・ウィリアムズ
ティンパニー、ラテン・パーカッション……ジュリアス・ウェクター
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……ジェリー・コール、バーニー・ケッセル、ビリー・ストレンジ
ハープシコード……アル・ディローリー
ベース・クラリネット……ジェイ・ミグリオーリ
サックス……ビル・グリーン、ジム・ホーン、プラズ・ジョンソン

歌がはじまったときに背後で鳴っているのも「第三の音」です。アル・ディローリーのハープシコードがいちばん目立つ音ですが、そのすぐ上に接着するように、ハープシコードと一体になって、ひとつの構造物を構成するかのごとき形で、ギターがおかれています。二本かと思ったのですが、このクレジットでは三本になっています。

Pet Soundsの異常さには馴れてしまったので、改めて、この違和感、いや、そういうネガティヴな意味ではなく、「異質感」とでもいえばいいのか、それまでに経験したことのないものに出合った感覚を思いだすのはむずかしくなってしまいました。

しかし、あの時代、いや、いまでもそうかもしれませんが、ポップ・フィールドで、このようなギターの使い方をしていたのは、ブライアン・ウィルソンただひとりではないでしょうか。

ポップ/ロックの世界では、ギターというのは、コードを弾くものであり、単独でオブリガートを入れるものであり、そしてなによりも、ソロをとるものでした。これはいまでもほとんど変わっていないでしょう。

しかし、ブライアンのPet Soundsでのギターの使い方は、アンサンブルを構成する楽器のひとつとして、隅々までアレンジして、全体のなかにとけ込ませる、というものでした。

これはやはりノーマルではありません。ブライアンはそのことを明確に意識していたにちがいありませんし、そういうギターの使い方にさまざまな工夫を凝らしています。

この曲で気になるのは、あとはパーカッションと管です。

調べてデータを起こしてくれたのに、こんなことをいっては申し訳ないのですが、こういう風にデータを書いていて、それでなにも疑問に思わないのかなあ、と文句をいいたくなってしまいます。

この曲にドラムといえるようなものは入っていないので、ハル・ブレインがプレイしたのは、たぶんパーカッションでしょう。

とはいえ、いっぽうで、ジュリアス・ウェクターがプレイした「ラテン・パーカッション」ってなんだよ、とも思います。そんなものも見あたりません。

目立つのは自転車のベルのような音。これはチーンとやるだけのものと、チリリンとやるものの二種類のように聞こえます。ただし、チンと一発だけのほうは、ひょっとしたら、パーカッションなのかもしれません。

ひとつはつぎの曲と同じ楽器かもしれず、だとしたら、自転車のベルではなく、なにかのパーカッションかもしれません。

The Beach Boys - She Knows Me Too Well


しかし、チリリンのほうはまちがいなく自転車のベル、だれがプレイしたのやら、です。

結局、ジュリアス・ウェクターはティンパニー、ハル・ブレインは得体の知れないチリン、ジェリー・ウィリアムズが自転車のベル、という役割分担でしょうか。

エンディングの豆腐屋のラッパみたいなものは、昔読んだものではオーボエと書かれていた記憶があるのですが、このクレジットではどうもそうではないようです。昔の車のクラクション? いや、スティーヴ・ダグラスのクラリネット、と考えておきます。

時間切れなので、ホーンについては簡単に。

ハリウッドには、ビリー・メイやショーティー・ロジャーズやニール・ヘフティーのように、ホーン・アレンジの世界ではそれと知られた人がたくさんいました。ブライアン・ウィルソンのホーン・アレンジは、そういうビッグ・ネームたちのものとは性質が異なります。

ブライアンのホーン・アレンジは、ちょうどオーティス・レディングのように、コーラス・グループのヴォーカル・アレンジャーが、歌の延長線上でつくるタイプのものでした。

だから、ビリー・メイのアレンジのように、スウィング感を追求するわけではなく、和声的な響きの美しさを主眼としたものでした。このYou Still Believe in Meは、そうした「歌うホーン・アレンジ」の典型で、何度か、うーむ、美しいなあ、という瞬間があります。

もう置き場所をつくっている余裕がなくなってしまったので、脈絡もなく、最後に、あとで置こうと思ってアップしておいたサンプルを貼りつけておきます。

トラッキング・セッションのテイク9から22までです。ブレイクダウンやホールドが多いのですが、その理由がそれぞれに異なっていて、音楽が生まれていく過程の面白みに満ちた断片です。

サンプル The Beach Boys "You Still Believe in Me" (take 9 through 22)


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ビーチボーイズ
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)


ビーチボーイズ
The Pet Sounds Sessions
The Pet Sounds Sessions
by songsf4s | 2011-11-24 23:54 | 60年代
お嬢さん、失礼ですが、お名前は?――スターの向こうのガール・シンガーたち
 
昨日、アリサ・フランクリンを聴いていて、ほら、これじゃなくて、あの曲、と頭のなかでジタバタしてしまいました。思いだしたかったのはこの曲。

Aretha Franklin - Respect


もうひとつ続けて、わたしが「同系統」と感じるアリサ・フランクリンの曲を。

Aretha Franklin - I Say a Little Prayer


ユーチューブも最近は馬鹿にならないようで、ここまでくれば盤と同じ音質、イチニッパだなんて呆れた超低音質ファイルが、いっぱしに値段をぶら下げ、ウェブを駆けめぐっていますが、こうなるとユーチューブは立派な「配信バスター」です。

いや、この曲、もとの録音自体、かなりハイレベルで、これがトム・ダウドなら、やっぱり腕はたしかだったのだ、と思います。こういう立体感があり、クリアな音はもっとも好むところです。

それはともかく、タイトルに書いたように、本日の主役はうしろで歌っている女性シンガーたちです。

フロントのシンガーより、そういう人たちの声が気になることがしばしばあります。前回、アリサ・フランクリンを聴いているうちに、そちらのほうに気が流れました。

Respectでアリサといっしょに歌っているのは、妹だというのを昔読んだ記憶があったのですが、調べると、キャロライン・フランクリンという名だそうです。いくつか盤がありますが、姉さんのようには成功しなかったようです。

ついでにいうと、ドラムはジーン・クリスマン、ベースはトミー・コグビルです。Memphis Undergroudもコグビルだったような気がしますが、調べるのはネグッてつぎへ。

バート・バカラックとハル・デイヴィッドのI Say a Little Prayerをヒットさせた(たぶんオリジナルでもある)のはディオーン・ウォーウィックですが、このアリサ・フランクリン・ヴァージョンも、FENではよく聴きました。

どちらかというと、ウォーウィック盤より、アリサのほうが好みでしたが、その理由のいくぶんかはバックグラウンド・ヴォイスでした。こちらもクレジットがあります。スウィート・インスピレーションズが歌っているそうです(ドラムはロジャー・ホーキンズ)。

グループ名と同じタイトルという変な曲がヒットしましたっけ。

The Sweet Inspirations - The Sweet Inspiration


スウィート・インスピレーションズは、シシー・ヒューストン(娘がウィットニー、姪がディオーンとディー・ディーのウォーウィック姉妹)がつくったグループで、Just One Lookのドリス・トロイや、ジュディー・クレイも在籍したことがあるそうですが、I Say a Little Prayerのころのメンバーはよくわかりません。

スウィート・インスピレーションズのベースはたぶんNYで、バックグラウンドやデモで引っ張りだこだったとか。ちょうどハリウッドのブロッサムズのような存在だったようです。

アリサ・フランクリンが嫌いなわけではないのですが、声量があって、なおかつうまい、というのはわたしのおおいに好むところではなく、うしろで歌っているキャロライン・フランクリンやスウィート・インスピレーションズのほうに、強く耳を引っ張られました。

同じような、といっていいかどうかは微妙ですが、ギター・インストなどの女声コーラスというのも、同様の魅力があります。そういうことを意識するきっかけになった曲。

The Ventures - Lolita Ya Ya


これはスタンリー・キューブリックの映画『ロリータ』のテーマで、音楽監督と作曲はネルソン・リドルでした。サントラではなく、リドル自身による再録音なのだろうと思いますが、ともかく、元のほうをどうぞ。

Nelson Riddle - Lolita Ya Ya


これを聴いたときは、ふーん、でした。アレンジとしてはヴェンチャーズはかなり忠実にリドルの譜面をギター・コンボに置き換えていると思います。しかし、出来はヴェンチャーズのほうが数段上です。

それはなぜかといえば、ひとつはリード・ギターを重ねた音色のすばらしさ。レッキング・クルーの技量の高さが如実にあらわれたトラックです(この時期には、ツアー・バンドのメンバーはスタジオではプレイしていない)。

そしてもうひとつ、女性コーラスもヴェンチャーズ盤のほうがずっとチャーミングです。この二つで、勝負はついた、といっていいでしょう。

さらに魅力的な女声コーラス入りギター・インスト。

The T-Bones - No Matter What Shape (Your Stomach's in)


これまたレッキング・クルーの仕事で、ドラムはハル・ブレイン、ギターは不明ですが、この時期のTボーンズのリードはしばしばトミー・テデスコがプレイしていました。初期にはグレン・キャンベルが派手なプレイをしているLPもあります。

ギター・インストというのは、ご存知のように、ギンギラギンのギター・プレイを聞かせるものではありません。楽曲とサウンドで勝負するものです。

だから、たとえばシャドウズは、低音弦でスタートして、ひとまわりするとオクターヴ上げたり、ミュートに切り替えたり、半音移調をしたりといった工夫をしました。

Tボーンズが、というか、プロデューサーのジョー・サラシーノが、というべきでしょうが、女声コーラスを入れたのは、当然、そういう意図でしょう。

こういうタイプのサウンドがお好みならば、右のリンクから、Add More Musicにいらっしゃり、「レア・インスト」ページで、TボーンズのNo Matter What Shape (Your Stomack's In)とShippin' Chippin'をお聴きになるといいでしょう。とくに後者は女声コーラスのアルバムといってもいいほどです。

こうした女声コーラスをやった人たちの名前というのは、すごく気になるのですが、Tボーンズについては、いまだに判明していません。

また、日本ではむしろ、No Matter What ShapeよりヒットしたShippin' Chippin'のシングル・ヴァージョンも、女声コーラスが魅力的なのですが、これはクリップをエンベッドできないので、ご自分で検索なさってみてください。

f0147840_004868.jpg小学校のときは、どういうわけか女声コーラスが好きで、つぎの曲もやはり映画を見ておおいに気に入り、つづけて二度、映画館に行きました。

依然としてクリップはないようなので、以前アップしたサンプルをもう一度貼りつけます。映画『黄金の男』のテーマ。

サンプル Martial Solal "Generique"

いやはや、だれがいけないのか、全体にピッチが狂って聞こえます。主犯はベースだと思いますが、それだけではないような……。

Tボーンズのほんわりとした味とはかけ離れた、強い歌ですし、インストというより、ほとんど歌のほうが主役に聞こえますが、気分はTボーンズと同じようなものなのだと思います。

アメリカのほんわりとしたものに戻ると、すでに記事にしたものですが、これが代表のような気がします。

Robin Ward - Wonderful Summer


フロントのロビン(ジャッキー)・ウォードは、本邦にはファンが多いようで、LPでもリイシューがあり、CD化もされました。ドラムはほとんどハル・ブレインで、その面でも楽しめるアルバムでした。

ただ、純粋に声だけでいうと、わたしはロビン・ウォードより、バックグラウンドで歌っているジャッキー・アレンのほうが好きです。まあ、フロントを食ってはいかんのですが、そういうことはまま起きるものです。ジャッキー・アレンは全編で大活躍しています。

最後に、ちょっと毛色の違うものを。女声コーラスなしだとドンと価値の落ちてしまう曲です。

James Taylor - Long Ago and Far Away


うしろで歌っているのはジョニ・ミッチェルです。いまじゃ、アン・マレイと並ぶ魔女声おばばになってしまいましたが、若いころは可憐な声をしていました。

いや、でも、彼女は本質的に、フロントで歌うより、こういうふうにうしろに下がったときに、フロントを食ってしまう、魔女タイプのシンガーだと思いますが。

ジェイムズ・テイラーは完全にジョニ・ミッチェルの引き立て役になっています。いや、わたしがこのシンガーをあまり好かないから、そう思うのかもしれませんが。

ヴァレリー・カーターなんかも、若いころはそういうタイプだったと思うのですが、これだ、という決定的な録音が思い浮かびません。バックグラウンドの仕事はけっこうやったと思うのですがね。

ジョニ・ミッチェルでおしまいと思ったのですが、もうひとついっちゃいます。そのヴァレリー・カーターが、バックグラウンドではなく、フロントで歌っているトラックでお別れとまいりましょう。コーラスも彼女のオーヴァーダブでしょう。ジュディー・コリンズのヒットのオリジナル。

Howdy Moon - Cook with Honey


なんともはや、かくも可憐なりしに、時は残酷な死神、彼女もまた魔女への道を歩みつつあります。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう


アリサ・フランクリン
Now
Now


アリサ・フランクリン
I Never Loved a Man the Way I
I Never Loved a Man the Way I


スウィート・インスピレーションズ
Sweet Inspirations
Sweet Inspirations


Tボーンズ
No Matter What Shape (Your Stomachs In)
No Matter What Shape (Your Stomachs In)


Tボーンズ(中古)
No Matter What Shape/Sippin And Chippin
No Matter What Shape/Sippin And Chippin


マルシャル・ソラル(『勝手にしやがれ』と『黄金の男』のOST)
A Bout de Souffle
A Bout de Souffle


ロビン・ウォード(MP3アルバム)
The Very Best Of
by songsf4s | 2011-11-21 23:59 | 60年代
The Best of Jim Gordon補足7 E.C. was NOT there again
 
k_guncontrolさんのコメントを拝見して、すこしトム・ダウドが卓についたものを聴いていました。

アリサ・フランクリンのLady Soul、オーティス・レディングのOtis Blue、k_guncontrolさんがあげられたダウドのものは、どちらもいい盤で、とりわけ前者はロジャー・ホーキンズとジーン・クリスマンのドラミングが印象的です。

しかし、フェイム・スタジオやアメリカン・サウンド・スタジオというのは、それ自体が独立した特殊な世界(たしかトム・ダウドは、フェイムの機材に愕然としたということを書いていた記憶あり)で、なかなか他と比較するのはむずかしいと感じます。

アメリカン・サウンドで、ダウドがエンジニアリングではなくプロデュースをしたハービー・マンのヒット・アルバムから。ドラムはジーン・クリスマン。

Herbie Mann - Memphis Underground


ガキのころからこれが好きでしてね。ドラムというのは、ちゃんと録らないとカッコよく聞こえないのだから、だれがエンジニアにせよ、いい録音なのだと思います。

こちらはエンジニアリングもダウドなのだと思います。まだヤング・ラスカルズといっていた時期のヒット・シングル。

The Young Rascals - A Girl Like You


アリサ・フランクリンもいきましょう。いちばん有名な曲。ドラムはロジャー・ホーキンズ。

Aretha Franklin - Chain Of Fools


たしかに血沸き肉踊ります。ただ、わたしには、それがエンジニアリングの力なのか、フェイム・スタジオ本来の鳴りなのか、そのあたりがどうもよくわかりません。

まあ、考えてみると、ハリウッドの場合も、スタジオとエンジニアを混同しているのかも知れません。

わたしがもっとも好きなエンジニアはリー・ハーシュバーグです。

ユーチューブのクリップでどこまで伝わるか不安ですが、ハーシュバーグの代表作を。ドラムはもちろんハル・ブレイン、彼にとっても代表作のひとつ。ベースはキャロル・ケイ。

Harpers Bizarre - Anything Goes


はじめて聴いたとき、スティック・トゥ・スティック・プレイに目を丸くし、ハーパーズのドラマーってビッグバンド出身かよ、と感心しちゃいました。ものを知らないと安心して音楽が聴けますw

いや、録音の話。こういう立体感を追求したオーケストラのステレオ録音と、ドラム、ベースの太さを親柱としたR&B的音作りというのは、同じ平面で比較してもあまり意味がなさそうです。わたしはコンボの録音に対するセンスが鈍いような気がしてきました。

本日は、トム・ダウドがプロデュースした、デレク&ザ・ドミノーズの唯一のスタジオ録音アルバム、Layla and Other Assorted Love Songsです。って、ほとんど時間切れになってからこんなこといってどうするのか、ですが。

ということで、遠回りはせずに、まっすぐに行きます。

当時の印象としては、とくにすごくはないけれど、そこそこは聴けるアルバム、というところでした。ジム・ゴードンのプレイについても、まだ惚れ込むにはいたっていませんが、うまいなあ、と思いました。

Derek & The Dominos - Keep on Growing


というように、前のアルバム、いや、クラプトンのソロ・デビューとはまったくちがう、ジム・ゴードンらしさが出たプレイです。なぜ、ソロではこのプレイができなかったのか不思議です。

ドラムの録音は、よくもないけれど、ひどくもない、といったところでしょうか。いや、わたしはちゃんと盤(というかFlacだが)を聴いて書いていますよ。ユーチューブのクリップを聴いてあれこれいっているわけじゃありません。

もう一曲。

Derek & the Dominos - Little Wing


Why Does Love Got to Be So SadやLaylaなどにもいえるのですが、こういうトラックを聴くと、このアルバムの好ましからざる側面が明らかになります。

なんで、ギターの音がこうごちゃごちゃしてるの、なんか誤魔化したいのかよ、という不満です。

それと、ドゥエイン・オールマンのあつかいはこれでいいのか、ということも感じます。これではゲストじゃなくて、下男でしょうに。ゲストなら、もっと丁重なミキシングをします。このあたりの偉ぶり方には反感を抱きます。

というか、ウィンウッドのときと同じで、オールマンにもショックを受けてしまい、だれのプレイだかわからないように、麻雀牌みたいに混ぜてしまったのかも知れません。

まあ、ジミーといっしょにラリパッパしていただけで、なにがなんだかわかっていなかったのだろうと、好意的に(呵呵)解釈しておきます。

で、結局、このアルバムでいちばんいいと思ったのは、じつはこの曲でした。もちろん、クラプトンへの嫌がらせで貼りつけるのだから、そのへんを誤解しないでいただきたいと思いますが。

Derek & the Dominos - Thorn Tree in the Garden


クラプトンがいないので、ほんとうに清々しいサウンドです(いや、歌っていない、というだけで、右チャンネルのギターはクラプトンだろう)。この曲が好きだったので、のちにボビー・ウィットロックのソロを見たとき、即座に買いました。

Bobby Whitlock - A Game Called Love


もう一曲、ボビー・ウィットロックのデビュー盤から。こちらはジム・ゴードンの凄絶なドラミングつき。以前のThe Best of Jim Gordonに入れました。

Bobby Whitlock - Song for Paula


いや、話を戻します。

Laylaというアルバムは、じつにごちゃごちゃとスッキリしない代物です。いっそ、クラプトン抜き、ボビー・ウィットロックをフロントに立て、ドゥエイン・オールマンのギターだけでつくったら、いいアルバムになったかも知れない、と思います。ジム・ゴードンのドラムにカール・レイドルのベースなんだから、悪い盤をつくるほうがむずかしいくらいです。

上記のKeep on Growingを聴いても、Little Wingを聴いても、ボビー・ウィットロックが入ってくると、おお、いいな、と思います。ジム・ゴードンもするどいビートで攻め込みます。

これで文句を言ったらバチが当たるというものですが、音がごたつくなあ、とやはり不満を感じます。結局、はっきりいって、ひとり多いのです。

いらない人を削れば、いい盤になったかも知れませんが、いらないのは、削ってはいけない看板の人だったから、秀作になり損ね、まあ、ジミーのプレイでも聴くか、というアルバムに留まってしまったのでした。

ドミノーズにはもうひとつ、当時リリースされたアルバムがあるのですが、そこまでやるかどうかは、明日になってから考えます。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



エリック・クラプトン
Eric Clapton: Deluxe Edition
Eric Clapton: Deluxe Edition


デレク&ザ・ドミノーズ(デラックス版2枚組)
Layla & Other Assorted Love Songs
Layla & Other Assorted Love Songs


デレク&ザ・ドミノーズ(セッションズ拡大版3枚組)
The Layla Sessions : 20th Anniversary Edition
The Layla Sessions : 20th Anniversary Edition


アリサ・フランクリン
レディ・ソウル+4
レディ・ソウル+4


ハービー・マン
Memphis Underground
Memphis Underground


(ヤング・)ラスカルズ
Groovin
Groovin


ハーパーズ・ビザール
Feelin Groovy: Best of Featuring 59th St Bridge So
Feelin Groovy: Best of Featuring 59th St Bridge So
by songsf4s | 2011-11-20 23:59 | ドラマー特集
The Best of Jim Gordon補足3 アルバート・ハモンド、ゲーリー・パケット&ザ・ユニオン・ギャップ
 
今日はPet Sounds検討を一休みして、先日来、飛び飛びでやっている、ジム・ゴードンのクレジットについて少々。

本題の前に、ひところ見失っていたジョニー・キャッシュ・ショウでのデレク&ザ・ドミノーズのクリップを再発見したので、貼りつけておきます。ジム・ゴードンのベーシックなセットの全体像がわかります。

Derek And The Dominos - It's Too Late


それほどすごいプレイではありませんが、どのヒットもタイムがきれいで、リラックスしてグルーヴを楽しむことができます。

それにしても、クラプトンを蹴散らさんばかりに攻め込むボビー・ウィットロックにニヤリとします。ドミノーズ破綻の真の原因はこれではないでしょうかねえ。Laylaだって、ボビー・ウィットロックとジム・ゴードンとドゥエイン・オールマンがいたから、格好がついているのでしてね。

いま、ちらっとカスタマーレビューとやらを見て苦笑しました。ドミノーズの唯一のスタジオ録音は「もはや語り尽くされた感のある名盤」なのでそうです。

どうして、そのように無考えにクリシェを使うのでしょうか。意識せずに自然にクリシェが出てきたら、危険信号です。判断停止、他人の判断借用開始、と宣言したも同然だからです。

ウェブによって、われわれはマスメディアから解放されたのだと思っていました。いや、まだそう信じているのですが、評論家言葉を無考えにコピーしてまき散らす輩があとを絶たないのはどういうことなのでしょうか。

こういうのを見るたびに、自分の書くものの危うさを自覚し、冷や汗が出ます。慣用句の助けなしに文章を書くのはむずかしいのはたしかです。しかし、慣用句を使う一瞬、そのことを自覚し、数秒でいいから、他の道をさぐり、うまくいかずに慣用句を援用する、といった「逡巡の手順」はぜったいに必要です。

今後、「もはや語り尽くされた感のある名盤」などという言葉を使いそうになったら、自分自身に、「名盤であるなら、いくらでも切り口は残されている、語り尽くされることなどありえない。評論家人種の陳腐な言葉で語り尽くされてしまうようなら、そんなものは名盤のはずがない」と自分自身をぶん殴ろうと思います。

では、心して、盤のたすきの陳腐な売り文句にならないように注意しつつ、本日の本題へと。

◆ やっと晴れそうなカリフォルニアの空 ◆◆
今回は、「この曲はハル・ブレインなのか、ジム・ゴードンなのか」と右往左往した曲を二種聴いてみます。

まずは、サザン・カリフォルニアでは雨は降らないんだぜ、でもなあ、いざ降るとなれば猫犬降りなのよ、というアルバート・ハモンドのビルボード・チャート・トッパー。

Albert Hammond - It Never Rains in Southern California


これはハル・ブレインのトップ・テン・ヒッツ・リストにあがっています。それで、ずっとハルのプレイと考えてきました。イントロ・リックのハイピッチ・タムの音も、ハルのオクトプラスセットのものに思えたのです。

しかし、だれかがコントラクト・シートを発掘したのか、近年、ジム・ゴードンのプレイであるとするソースをいくつか見かけました。

ということで、何度か、心を空にして聴いてみました。ジム・ゴードンの第一のシグネチャーは、フロアタムの一打によるアクセントである、という自分でつくった聞き分け規則第一条にしたがって、これはジミーのトラックと結論を出しました。

00:50から00:51にかけて、ファースト・ヴァースが終わり、ファースト・コーラスに入る直前、まずタムタムをフラムで一打(フラムは両手で叩くから二打というべきかもしれないが、両手のほぼ同時ヒットなので、一打と勘定しておく)、つづいて、フロアタムの強い一打を入れています。

これはハル・ブレインはあまりやらず、ジム・ゴードンはしばしば使った手法なので、この曲のストゥールに坐ったのはジミーである、という最終結論にしました。

ハル・ブレインのディスコグラフィーは、パーカッションをプレイしたものもリストアップしています。このアルバート・ハモンドのビルボード・チャート・トッパーも、そのケースではないでしょうか。

Albert Hammond "It Never Rains In Southern California" (アルバム全体)のクレジット

Albert Hammond - vocals, guitar
Joe Osborn - bass
Ray Pohlman - bass
Hal Blaine - drums
Jim Gordon - drums
Jay Lewis - guitar
Larry Carlton - guitar
Michael Omartian - keyboards
Don Altfeld - percussion
Carol Carmichael - vocals

二人のベースの聞き分けはイージー・アズ・パイです。レイ・ポールマンとジョー・オズボーンではサウンドもスタイルもまったく違います。曲のほうの"It Never Rains In Southern California"のベースはジョー・オズボーンです。

◆ 近ごろ愛すると? ◆◆
もう一曲、これはハル・ブレインがリストアップしていたわけではなく、こちらが勝手に、ハルのプレイだと思いこんだ曲です。

Gary Puckett & the Union Gap - Woman Woman


ドラムがどうの、という前に、久しぶりにまじめに聴いて、「And lately when I love you, I know you're not satisfied」のラインで、あっはっは、と大笑いしてしまいました。中学のときのバンドでこの曲をやったのですが、歌詞の意味なんかぜんぜんわかっていなかったようです。考えてみると、ずいぶん露骨な歌詞じゃないですか!

てなことはどうでもよくて、最近、何度か、このトラックはジム・ゴードンのプレイであるとしているソースにぶつかりました。こちらはハル・ブレインのディスコグラフィーにあるわけではないし、音を聴いても、ハルかジミーのどちらかにしか思えず、ジミーだとするなんらかの根拠(たとえば、だれか関係者の証言)があるのなら、そういう結論でけっこうだと思います。

いや、まったく、ハル・ブレインとジム・ゴードンが重なっているアーティストはやっかいです。ハル・ブレインのトップ・テン・ヒッツにあるゲーリー・パケット&ザ・ユニオン・ギャップの曲は、こちらのほうです。

Gary Puckett & The Union Gap - Young Girl


こちらはハル・ブレインなのだとしたら、Woman Womanがまたわからなくなって、元の木阿弥、ふたたび混迷に陥りそうです!

そういう危険な方向は避け、せっかくだから、ゴールデン・カップスのWoman Womanをサンプルにしました。記憶していたとおり、リード・ヴォーカルはマモル・マヌーでした。OggからMP3に再変換したものです。

サンプル The Golden Cups "Woman Woman "

なんと申しましょうか、「若々しい」というあたりか。良くも悪くとも、あの時代らしい音です。カップスは愛想ひとついうでもなく、笑顔を見せるでもなく、じつにとっつきの悪いグループでしたが、いまになると、可愛いくらいで、つまり、こっちが年をとったのだな、とがっかりしました。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう


デレク&ザ・ドミノーズ
Layla & Other Assorted Love Songs
Layla & Other Assorted Love Songs


アルバート・ハモンド
Golden Classics
Golden Classics


ゲーリー・パケット&ザ・ユニオン・ギャップ
Greatest Hits
Greatest Hits


ゴールデン・カップス
ザ・ゴールデン・カップス
ザ・ゴールデン・カップス
by songsf4s | 2011-11-13 23:45 | ドラマー特集
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その7 Let's Go Away for Awhileセッション
 
わたしは断じて知り合いではないので(つきあいのある編集者が担当だったため、気をつかっている)、あくまでも公人あつかい、敬称はつけませんが、矢作俊彦までSmileについてツイートしていて驚きました。

考えてみると、初期の長篇『マイク・ハマーへ伝言』では、警察無線を乗っ取って、ビーチボーイズのCatch a Waveを流した作家ですから、Smileに関心があっても不思議はないようなものですが、ファンというほどではないだろうと思っていたので、少々驚きました。

まあ、わたしはThe Pet Sounds Sessionsのときほど興奮はしていないので、さあて、そろそろ聴くか、と思うだけで、まだ一音も聴いていません。

なんせ、さんざんろくでもないブートを買った(いま、投下資本の総計を計算しそうになって、思いとどまった。「この盤はあなたの健康を著しく害する場合があります」と警告のステッカーを貼るように法律で定めるべきだ!)ばかりでなく、何度も聴いてしまったので、そう簡単には御輿が持ち上がらないのです。

今日も「BeachBoysさん」がアップロードしたSmile紹介動画を紹介します。デカ箱もあるのだ!



ライトアップもできちゃうんだぜ、というブライアン・ウィルソンさんの紹介でした!

アフィリエイトではないので、注文してくださっても、こちらは一文にもなりませんが、いちおう、この謎のデカ箱の注文先を以下に書き写しておきます。ブライアン・ウィルソンのサイン入り、CD5枚、LP2枚、シングル2枚、〆て699ドル!

特製限定版The Smile Sessionsボックス

さて本日のPet Soundsは、残るもう一曲のインスト、Let's Go Away for Awhileです。

インストなので、ビーチボーイズの歌はありませんが、わたしは、ブライアン・ウィルソンの代表作のひとつと考えています。わたしばかりでなく、じつはこの曲が大好き、という方は多いだろうと思います。ブライアン・ウィルソンさん(今日は今風の不見識敬称付けをやってみるか! どれほどみっともないかの実例として)も、この曲はフェイヴだそうです。呵呵。

それではまず、オフィシャル・リリース、というか、正確にはファイナル・テイクの近年のステレオ・リミックスから。

The Beach Boys - Let's Go Away for Awhile (stereo)


しつこくいっておきますが、われわれがかつてこんな音を聴いていたと思ったら大間違い、LPのときとはまったく異なるミックスです。

ヴォーカル曲はちょっとちがうのですが、インスト曲のいいものは、ほとんどすべてといっていいほど、視覚的な要素を包含し、われわれは音の刺激によって、脳裏になんらかの像を形作ります。

これは以前にも書いたと思うのですが、この映画を見たとき、Let's Go Away for Awhileを思いだしました。

Star Trek the Motion Picture


これはカーク提督が現場復帰することになり、新しいエンタープライズをはじめて見るシークェンスです。音楽監督のジェリー・ゴールドスミスさん(なれなれしく、さん付け失礼)には申し訳ありませんが、ちがうでしょう、巨匠、ここはブライアン・ウィルソンさん(しつこい)の曲を流す場面でしょうに、と、映画館でツッコミを入れました。

Let's Go Away for Awhileは、どういうわけか、Unsurpassed Mastersにはファイナル・テイクしか収録されていません。したがって、セッションを伺い知るよすがとなるのは、The Pet Sounds Sessionsボックスに収録された、セッション抄録ぐらいです。

つぎのクリップはThe Pet Sounds Sessionsボックスのものとは微妙に異なるようですが、おおむねアイデンティカルです。

The Beach Boys - Let's Go Away for Awhile (some takes, edited)


パーカッションのジュリアス・ウェクターのカラー写真なんて見た覚えがないなあ、と思ったのですが、でも、判別がつかないだけで、バハ・マリンバ・バンドの盤のジャケットには顔を出しているのだろうと思います。

Julius Wechter & the Baja Marimba Band - I'll Marimba You


ジュリアス・ウェクター&ザ・バハ・マリンバ・バンドは、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスのスピンオフなので、ハル・ブレインをはじめ、メンバーはほぼ同じ、要するにレッキング・クルーの仮面のひとつでした。

いや、この人たちがPet Soundsをつくったのかと思うと、妙な気分になるかも知れないので、バハ・マリンバ・バンドのことは忘れてください!

Let's Go Away for Awhileのパーソネルを書き写しておきます。例によってブラッド・エリオットの記述にもとづくものです。

ドラムズ……ハル・ブレイン
ティンパニー、ヴァイブラフォーン……ジュリアス・ウェクター
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
ギター……アル・ケイシー、バーニー・ケッセル
ピアノ……アル・ディローリー
テナー・サックス……スティーヴ・ダグラス、プラズ・ジョンソン
バリトン・サックス……ジム・ホーン、ジェイ・ミグリオーリ
トランペット……ロイ・ケイトン

のちに、べつのセッションでストリングスがオーヴァーダブされていますが、そちらのメンバーは略させていただきます。

上記のクリップでは、スライド・ギターはバーニー・ケッセルに違いない、などと書いていますが、そう決めつけられるだけの根拠はないと思います。ふつう、ジャズ・ギタリストはスライドなんかしません。有名なほうがリードをとる、なんていうのも考え違いです。リードをとりたがる人もいますが、そんなつまらないことには興味のない人もいます。

テイク1では、またいきなりホールド、ブライアンはハル・ブレインに、「No drums, Hal」と言い渡します。ドラムはいらない、といったわけではありません。正確にいうと「スネアのバックビートはなしだ」といったのです。

「その5 Wouldn't It Be Niceセッション」で書きましたが、ブライアン・ウィルソンという人は、ハーモニック・センスばかりでなく、リズミック・センスもあるアレンジャー/プロデューサーでした。

ハル・ブレインが、ドラマーのクリシェを持ち出すと、そうじゃなくて、といって彼が指示するのは、ドラマーにとっては自明ではないパターンなのです。

このLet's Go Away for Awhileについても、ブライアン・ウィルソンが考えたパターンは、スネア抜き、キック・ドラムのみ、という変なものですが、The Pet Sounds Sessionsでテイク1での修整を聴き、すばらしいアイディアだったと、改めて感嘆しました。

こういうささやかなディテールの、小さな工夫を山ほど積み上げた結果として、長い年月のあいだ聴いても陳腐化せず、つねに新しい発見のあるサウンドができあがるのだと思います。

f0147840_23551721.jpg

上掲のクリップに引用されていますが、67年にブライアン・ウィルソンは以下のように語ったそうです。

“I think that the track Let's Go Away For Awhile is the most satisfying piece of music I have ever made. I applied a certain set of dynamics through the arrangement and the mixing and got a full musical extension of what I'd planned during the earliest stages of the theme. The total effect is ... ‘let's go away for awhile,' which is something everyone in the world must have said at some time or another. Most of us don't go away, but it's still a nice thought. The track was supposed to be the backing for a vocal, but I decided to leave it alone. It stands up well alone.”

直接に訳すとニュアンスをそこなってしまうので、英語が苦にならない方はご自分でどうぞ。

重要なのは前半です。Let's Go Away For Awhileは、これまでに自分がつくったもののなかでもっとも満足のいく仕上がりになった、と明言し、アレンジとミックスに「a certain set of dynamics」を適用し、この「テーマ」の最初期の段階で考えたものを十全に実現することができた、といっています。

dynamicsをどう解釈するか、です。あまり考え込んでいる余裕はないので、あっさりいっちゃいますが、短い曲のなかで山あり谷ありのドラマを展開したといっているのでしょう。

リズム・セクションだけでそろりと入って、途中からストリングスが主役になり、狂言まわしのようなハル・ブレインの派手なフィルインで場面転換、スライド・ギターが全体のトーンを微妙に移行させ、またもとのレールにもどってエンディングへ、という、変化に富んだ、それでいて一瞬の遅滞もない、ハイパー・スムーズな音の流れをつくった、といっているのでしょう。

そういう「音のドラマ」をつくろうと意図して、それが思った通りに、あるいはそれ以上にうまくいき、おおいに満足した、ブライアンがいいたいはそういう意味だと考えます。

そして、われわれリスナーも、この稀有な音のドラマ、フィル・スペクターの言葉を援用するならば、「ポケット・シンフォニー」に深い満足を感じましたし、それがいまも変わらないことで、さらにブライアン・ウィルソンという才能に深い敬愛の念をいだきます。


[11/05 09:00付記]
書くつもりでいたのにひとつ忘れてしまったことがありました。

「その4 Pet Soundsセッション」で、Pet Soundsというトラックは、アルバム・クローザーなのだ、と書きました。また、「その2 Sloop John B.セッション」では、この曲はLPではA面の最後に置かれていた、たいていの場合、Let's Go Away for Awhileまででピックアップをあげていた、ということも書きました。

つまり、Pet SoundsというのはAB面がシンメトリカルにつくられているということです。アルバムとしてのPet Soundsは、A面についてはI’m Waiting For The Dayまででおしまい、B面については、I Just Wasn’t Made For These Timesまでで終わりであり、二つのインスト曲はコーダとして配されている、ということです。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ビーチボーイズ
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)


ビーチボーイズ
The Pet Sounds Sessions
The Pet Sounds Sessions


矢作俊彦
マイク・ハマーへ伝言 (角川文庫)
マイク・ハマーへ伝言 (角川文庫)


ビーチボーイズ
Smile Sessions
Smile Sessions


ビーチボーイズ(LP)
Smile Sessions [Analog]
Smile Sessions [Analog]
by songsf4s | 2011-11-04 23:55 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その6 Caroline, Noセッション
 
前回、ベスト・オヴ・ジム・ゴードン補足をやったので、気になって、すこしリストアップし、検索もしてみました。

以前と異なり、面白いブログや、賛成はできないけれど興味深い見解もあったりして、やはり、近々、大々的にやろうと思いました。補足程度ではすまず、ベスト・オヴ・ジム・ゴードン・パート2になるかもしれません。

さて、本日はまたPet Soundsにもどります。今回は、シングルではブライアン・ウィルソンの単独名義でリリースされた、アルバム・クローザーのCaroline, Noです。

毎度同じことを繰り返していますが、Pet Soundsというのは、じつにさまざまな音がコラージュされたアルバムです。

そのストリップ・ダウンを試みたThe Pet Sounds Sessionsでやっと聞こえた音というのもじつに多く、トラッキング・セッションやトラック・オンリーを聴いて、何度もアッといいました。とくに驚きに満ちた曲といくのがいくつかあり、Caroline, Noはそのひとつです。

ではまずリリース・ヴァージョンから。ブライアン・ウィルソン単独名義になったのは、ひとつには、ビーチボーイズの曲としてはきわめて異例ですが、ハーモニーがなく、ブライアンのヴォーカルだけだからでしょう。

Beach Boys - Caroline, No


録音は1966年1月31日に、ブライアンのホーム・グラウンド、ハリウッドのユナイティッド・ウェスタン・レコーダーで、チャック・ブリッツが卓についておこなわれました。

この録音のメンバーは、ビーチボーイズ研究家のブラッド・エリオットによると、以下のようになっています。ただし、楽器の呼び方はエリオットと異なっているものがあります。

ドラムズ……ハル・ブレイン
ヴァイブラフォーン……フランク・キャップ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……グレン・キャンベル、バーニー・ケッセル
ハープシコード……アル・ディローリー
ウクレレ……ライル・リッツ
フルート……ビル・グリーン、ジム・ホーン、プラズ・ジョンソン、ジェイ・ミグリオーリ

オーヴァーダブ・セッション
ドラムズ……ハル・ブレイン(in vampとあるが、つまりエンディング・シークェンス入口でのフィルインのことだろう)
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ハープシコード……アル・ディローリー
テナー・サックス……スティーヴ・ダグラス

またまた謎のパーソネルで、耳で聴いたものとの整合性をとるのに苦労させられます。まあ、Pet Soundsはどの曲もそうなのですが。

リリース・ヴァージョンをいつまで聴いていても、聞こえない音は永遠に聞こえないので、セッションのほうを聴きます。

サンプル The Beach Boys "Caroline, No" (highlights from tracking session)

ヴォーカルが消えてまず驚いたのは、フランク・キャップがプレイしているヴァイブラフォーンです。こんなラインだったとは、ついぞ知りませんでした。美しい。

f0147840_23501057.jpg
ハル・ブレイン(左)とフランク・キャップ

それから、フルートのラインがまた魅力的で、これまたトラッキング・セッションでの驚きでした。管楽器はみなそうですが、フルートも数本重ねたときにもっとも魅力的なサウンドになります。

ライル・リッツがウクレレをプレイしたことになっていて、だとするなら、ハープシコードとほぼ重なるような形でコードを鳴らしているのがそれでしょうか。ほかに選択肢がないからそういうことにするだけで、LPを聴いているあいだは、あれがウクレレだと思ったことはありませんでしたし、いまもってウクレレがあんな音になるかなあ、と思っています。

f0147840_23502924.jpg
ウクレレを弾くライル・リッツ。60年代のハリウッドのスタジオでは、アップライト・ベースのプレイヤーとして活躍したが、もともとはウクレレ・プレイヤーとしてスタートしたという。近年はまたウクレレに戻り、アルバムをリリースしている。

ベースはこの曲でも二本、アップライトとフェンダーに聞こえるのに、パーソネルではキャロル・ケイが二回、フェンダーを弾いたことになっています。

まあ、彼女が教則ヴィデオで実演しているように、ピックの音を消すことはある程度までは可能ですが、それでもなお、ベーシックに記録されているのはアップライトに思えます。

ハープシコードといっしょに鳴っているのはギターのような気もするのですが、しかし、グレン・キャンベルとバーニー・ケッセルはエレクトリックをプレイしたのでしょう。前者が12弦、後者が6弦だろうと思います。

この二本のギターはリリース・ヴァージョンではまったく聞こえません。それどころか、前掲のThe Pet Sounds Sessionsのセッション抄録でも、ミックスのせいで判別できません。しかし、Unsurpassed Mastersでは聞こえます。

サンプル The Beach Boys "Caroline, No" (take 3)

12弦ギターは落ち着かず、テイクの合間にTake FiveやGreen Sleevesかなにかを弾いたりしています。バーニー・ケッセルではなく、グレン・キャンベルであろうと推定するゆえんです。

いや、グレンはモズライトをはじめ三本の12弦をもっていたことがわかっていますが、ケッセルの12弦というのは見たことがない、というのも理由のひとつ。

グレン・キャンベルの12弦ギター各種
f0147840_23237.jpg
Hamer

f0147840_230660.jpg
Mosrite

f0147840_2304699.jpg
Ovasion Viper

ハル・ブレインはドラムズとなっていますが、最初のパスはプラスティック・ボトルで4拍目をコンとやっているのでしょう。ドラムセットを叩くのはオーヴァーダブのときです。

セッション抄録のほうで、ブライアンが、That's beautiful, Hal, couldn't be any better, reallyといっていますが、これはブライアン自身の発案になる、プラスティック・ボトルのことでしょう。

パーソネルに見あたらないものとしてはさらに、タンバリンとシンバル(のようなもの)が聞こえます。ほかに打楽器系統のプレイヤーがいないので、ハル・ブレインまたはフランク・キャップがオーヴァーダブしたのかもしれませんが、最初から聞こえていることが引っかかります。ハルがひとりですべてをやったのでしょうか。

Pet Sounds全編を貫く特徴のひとつは、意外な楽器の組み合わせですが、ヴァイブと4本のフルートの美しいコンビネーションに、プラスティック・ボトルのエコーのかかったボコンという音は、とりわけ印象に残る意外な組み合わせでした。

どうやらブライアン・ウィルソンは、あらゆる音が頭のなかで鳴っていたようで、レコーディングは、それを頭から取り出して、現実の音に置き換える作業だったようです。

しかし、というか、だから、というか、はじめは聞こえていた二本のギターが、結局、ミックス・アウトされたのは、やはり計算違いの結果なのだろうと思います。頭のなかではいい音で鳴っていたけれど、じっさいにやってみたら、どうも違う、というので、オミットされてしまったのだろうと思います。

結果的に、それでよかったと思います。ほんとうは複雑なのに、耳立つのはパーカッション、ヴァイブ、ハープシコード、フルート、そして、ブライアン・ウィルソンひとりのヴォーカル、というすっきりした仕上がりは、希望ではじまったアルバムの、失望のエンディングにふさわしいと感じます。

と、殊勝なことをいったものの、じつは、ヴォーカルが終わった直後の、ハル・ブレインの派手なフィルインが、ひょっとしたら、この曲のいちばん好きなところかもしれません。

自分がドラマーだったら、こういう、一瞬のプレイで場をさらう、というのをやってみたいと思います。いや、わたしがやっても無駄なんですが。ハル・ブレインだからこそ、抑揚のコントロールによって、印象的なフレーズとして聴かせられたのです。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ビーチボーイズ
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)


ビーチボーイズ
The Pet Sounds Sessions
The Pet Sounds Sessions
by songsf4s | 2011-11-01 23:54 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その5 Wouldn't It Be Niceセッション
 
1997年のThe Pet Sounds Sessionsは、予想したとおり驚異に満ちたボックスでした。前回も書いたように、ヴォーカルなどの下敷きになって埋もれていた音が山ほど浮上してくるし、アレンジの変更過程がわかるし、ブライアン・ウィルソンの指揮ぶりも伝わってきて、60年代のハリウッドのスタジオのあり方について、飛躍的に知識を増大させ、理解を深める役割を果たしてくれました。

The Pet Sounds Sessionsを聴いて、ドラムに関していちばん驚いたのは、Wouldn't It Be Niceでした。まずはリリース・ヴァージョン。

The Beach Boys - Wouldn't it be Nice (official release, mono)


オフィシャルといったって、LPとはぜんぜんちがうじゃないか、ですがね。ハル・ブレインの一打目は、LPのときはこんな派手な音ではありませんでした。

つづいてテイク1から数テイク。最初の一分ほどでやめていただいても、話の筋道には影響しないので、ご随意に。

The Beach Boys - Wouldn't it be Nice (some takes)


ブライアン・ウィルソンは、イントロでいきなりホールドして、ハル・ブレインに指示を出しています。入り方が違うというのです。

ハルは、4小節構成のイントロの最後の小節の後半2分音符分を使って、スネアの4分3連プラス4分1打のフィルインで入っています。これはいたってノーマルな入り方です。多くのドラマーが、こういうイントロだ、適当に入ってくれ、といわれたら、こういう形で入ろうとするだろうと思います。

ハル・ブレインはHal Blaine & the Wrecking Crewのなかで、以下のようにいっています。

「プロデューサーたちは、プロダクションへのわれわれの関わり方も、他のミュージシャンたちとはちがうことを承知していた。アレンジャーというのは、十のうち九は、チャートをわたすときに『自分でも気に入らないんだけどね』というものだし、プロデューサーも『このスコアで満足しているわけじゃないんだが』という。チャートはあくまでもガイドにすぎず、それ以上のものではないと思ってくれ、というのがつねなのである。われわれはチャートに襲いかかり、書かれているもののはるか彼方にまで突き進むことを求められた」

これが彼らの日常でした。管や弦のプレイヤーはアレンジャーから譜面を渡されるのですが、ドラム、ベース、ギターなどのリズム・セクションのプレイヤーはコード・チャートだけを渡され、リハーサルのあいだに自分でアレンジし、譜面を起こしました。むろん、グレン・キャンベルやジェイムズ・バートンのように読譜能力のないプレイヤーは、ラインを記憶するしかありませんが。

f0147840_233197.jpg

しかし、ブライアン・ウィルソンはふつうのアレンジャーではありません。Pet Soundsに関しては、ギターは音を聴けばアレンジされたラインを弾いているのはすぐにわかります。

ベースについては、キャロル・ケイがはっきりと、譜面を渡され、ほとんどすべてブライアンの指示通りにプレイした、自分が考えたラインはわずかにすぎない、と証言しています。あのモータウンのヒット曲のベースラインを書いた人が、ほとんどなにもアレンジしなかったのです。

このWouldn't It Be Niceの初期テイクを聴くと、ブライアンがどういうフレーズで入るのかをハル・ブレインに何度も説明しなおしています。

サンプル The Beach Boys "Wouldn't It Be Nice" (take 1 through 6)

さまざまなセッションを聴けばわかりますが、ハル・ブレインはプロデューサーやアレンジャーの意図をすばやく掴む能力を持ったプレイヤーで、そのおかげで不動のエースになったのではないかと思うほどです。それがこの曲では、なかなかブライアンの意図が伝わりません。それだけ、ドラマーの観点からは尋常ではない入り方だったということです。

譜面があれば早いのですが、ブライアンはあまり譜面を書かないので、「イントロの4小節目の最初の拍でバン、ワン、トゥー、スリー、ババン」などと口で説明しています。これでどこで叩くかはわかるのですが、それぞれのビートをなにで叩くかはわかりません。

だからはハルは、テイク4では、最初の「バン」をスネアとキックで、つぎの「ババン」をスネアのみでやって、またホールドされてしまいます。

テイク6では、バンもババンもキックのみでやりますが、これも駄目。ブライアンは、スネアで、とも、タムタムで、とも、なんともいわずに、ノー、というだけです。ひょっとしたら、ビートはわかっていても、どれで叩けばいいかということは、ブライアンもまだ決めかねていたのかもしれません。

結局、イントロのドラムが落ち着くのはテイク7です。ハル・ブレインにとっては忘れられないセッションになったのではないでしょうか。

譜面を使わずにいうと、いや、譜面に書いても、ちょっと面倒な入り方です。確認のために書いておきます。

f0147840_118334.jpgイントロの4小節目の1拍目をキックと(たぶん)スネアでまず1打。これがブライアンのいう「バン」です。その小節の4拍目の裏拍の8分をキックで1打、つぎの小節の頭の拍をスネアとキックとシンバルで同時に1打。

と思うのですが、キックを強く踏み込むと、スネアワイア(響き線。スネアの裏に張られている)が共鳴を起こして、スネア自体が鳴ったように聞こえることもあるので、たしかなことはわかりません。

しかし、重要なのはその点ではなく、「ババン」のほうです。「バ」は4小節目の最後の拍の裏拍(表拍ではないことに注意)、つまり、頭に8分休符が入っているので、細かくいうと、「ババン」というより、「ンババン」なのです。

「バン」は5小節目の頭なので、この「ババン」はふたつの小節にまたがっています。この点も、困難とはいわないまでも、自明ではありません。譜面なしでこれをやらせようとしたために、ちょっと混乱が起きたのでしょう。

しかし、このまったく自明ではないドラムの入り方に、アレンジャーとしてのブライアン・ウィルソンの能力の高さが端的にあらわれています。こういう、ドラマーがすぐには理解できないようなフレーズを使ったリズム・アレンジをできるアレンジャーは、綺羅星のごとく大編曲家がいたハリウッドにあっても、ほんの一握りだったと思います。彼らのほとんどは弦や管のアレンジャーであって、リズム・アレンジは守備範囲外でしたから。

パーソネルを書き写しておきます。

ドラムズ……ハル・ブレイン
ベル、ティンパニー、パーカッション……フランク・キャップ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……ジェリー・コール、ビル・ピットマン
マンドリン……バーニー・ケッセル、レイ・ポールマン
ピアノ……アル・ディローリー
オルガン……ラリー・ネクテル
アコーディオン……カール・フォーティーナ、フランク・マロコ
サックス……スティーヴ・ダグラス、プラズ・ジョンソン、ジェイ・ミグリオーリ
トランペット……ロイ・ケイトン

Pet Soundsのメンバーについては、エディションによって異なっているなど、複数の意見があって、どれも百パーセントは信用できません。上記のメンバーも、隅々まで納得がいくものではありません。

たとえば、オルガンの音は聞こえないし、マンドリンではなく、ギターとしているソースもあります。

そもそも、いろいろ不思議な音がたくさん鳴っているPet Soundsのなかでも、Wouldn't It Be Niceは、最初に聴いたときは、どういう楽器編成なのかさっぱりわからず、目が回りました。

ヴィデオPet Storyのなかでブライアンが、あれはアコーディオンを重ねたんだ、あの音がスタジオに鳴り響いた瞬間、みんな、『うわ、なんだこの音は』と大騒ぎさ、と楽しそうに語っています。

つまり、ブライアンの意図はそういうことだったのでしょう。いや、Wouldn't It Be Niceだけでなく、このPet Soundsというアルバム全体が、「うわ、なんだ、この音は」とビックリさせるためのものだったのです。

だから、と開き直りますが、ずっとアコーディオンとマンドリンの組み合わせとは思っていませんでした。いや、マンドリンについては異論もあります。じっさい、マンドリン、ギター、それに、そのどちらでもないなにかの音が、テイクの合間に聞こえてきます。

アコーディオンがアコーディオンに聞こえなかったのは、ああいうリズムでスタッカートでコードを弾いていたからでしょう。アコーディオンのよくある弾き方ではありません。

ギターについていうと、一本は、

You know its gonna make it that much better
When we can say goodnight and stay together

という、ヴァースでもブリッジでもないから、コーラスと思われる箇所と、スロウダウンする、

You know it seems the more we talk about it
It only makes it worse to live without it
But lets talk about it
Wouldn't it be nice

というブリッジで、フェンダー・ベースのオクターヴ上を弾いています。このエレクトリックはその役割専用です。

こういうほとんど聞こえない細部へのこだわりは、Pet Sounds全体に見られるものですが、その淵源はまちがいなくフィル・スペクターです。

f0147840_23314979.jpgこのWouldn't It Be Niceでも卓についたラリー・レヴィンが回想していました。ある曲の録音で、バランスをとっていった結果、ギターが不要になってしまったので、あの音は聞こえない、帰ってもらったらどうだ、といったら、スペクターは、ダメだ、聞こえなくても、いなくなれば全体のバランスが崩れて音が変わる、と拒否したのだそうです。スペクター・セッションにしばしば顔を出していたブライアンは、そういうフィル・スペクターの、ディテールを大事にする音作りをつぶさに目撃したことでしょう。

話は途中のような気もするのですが、時間切れが迫っているので、もうひとつサンプルをいくことにします。こんどは音のいいものを。

サンプル The Beach Boys "Wouldn't It Be Nice" (tracking session, edited, from The Pet Sounds Sessions Box)

The Pet Sounds Sessionsに収録された、セッションのハイライトです。これを聴いて、ここまで書いてきたようなことをあれこれ思ったのですが、もうひとつ、4分3連のフィルインでスロウダウンしてからの部分で、あっと思いました。

上掲の歌詞でいうと、talk about itのあと、フランク・キャップのティンパニーとハル・ブレインのスネアやタムタムのフィルインで元のテンポにもどり、Wouldn't it be niceというフレーズになります。

しかし、このセッション・ハイライトを聴くと、ティンパニーとドラムのフィルインの部分は、いきなり元のテンポに戻らず、スロウから元に戻る遷移過程になっていて、しかも、フランク・キャップとハル・ブレインのタイミングが合わず、ハルが遅れた形になっています(フランキーが早すぎるともいえるが)。

f0147840_0142125.jpgこのズレをきれいに修正することができず、結局、このフィルインの段階でいきなり元のテンポに戻すという選択をしたのではないかと推測します。なんにせよ、ハル・ブレインにとっては、ひどい魔日でした!

小さなことですが、途中でまた自転車のベルが使われていることにも、ニヤリとします。自転車のベルはほとんどペット・サウンズの象徴といえるのではないでしょうか。ブライアン・ウィルソンから見れば、この世界そのものが音楽であり、あらゆるものが楽器だったのであり、それをわれわれに知らせたかったのだと思います。

トラッキング・セッションも難航しますが、ヴォーカル・セッションも大難航だったと伝えられています。じっさい、セッションを聴くと、じつにいろいろなヴォーカルが重ねられていることがわかります。

しかし、この記事も大難航で、すでにギリギリ一杯、それに、そもそも、ヴォーカル・ハーモニーの分析はわたくしの手には余るので、本日はここまで、Wouldn't It Be Nice完です。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ビーチボーイズ
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)


ビーチボーイズ
The Pet Sounds Sessions
The Pet Sounds Sessions


ハル・ブレイン回想録(英文)
Hal Blaine and The Wrecking Crew
Hal Blaine and The Wrecking Crew
by songsf4s | 2011-10-28 23:59 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その3 Trombone Dixieセッション
 
前回のSloop John B.では、最後は時間がなくてとんでもない駆け足になったことを反省して、今日はよけいなことをいわずに、本題へ。

といいつつ、また周囲をぐるぐるするというか、熱そうな温泉に足先をちょっと入れてみるようで恐縮ですが、今回は、完成されず、Trombone Dixieという仮題しかない曲です。

では、まずOKテイクから。ヴォーカルはありません。バッキング・トラックしかこの曲には存在しないのです。

The Beach Boys - Trombone Dixie


このトラックが最初にオフィシャル盤に収録されたのは、Pet Soundsの初CD化だった、東芝盤CDのボーナスとしてだと思います。ボーナスの、アウトテイクのといったって、その多くはボツ、期待するほうが馬鹿を見ますが、このトラックは、未完成とはじつに惜しい、と思いました。

イントロが8小節、ヴァースも8小節という構成ですが、ヴァースの5小節目、ティンパニーの二打とギターのスライド・ダウンの組み合わせによる風変わりなオブリガートが入っていて、最初に聴いたときは、うわあ、こんなのを思いつくのはブライアン・ウィルソンぐらいしかいないぜ、と感嘆しました。

こんな奇妙なオブリガート、しかもヴァースとコーラスのつなぎ目といったキリのいいところではなく、ヴァースの途中にはさみ、それきりで二度と出てこないものをおいた以上、すでにメロディーの、すくなくとも腹案ぐらいはできていたのではないかと思いますが、どのテイクを聴いても、まったくヒントはありません。

ギタリストのハワード・ロバーツは、フィル・スペクターのようなポップ系のプロデューサーは、スタジオでバンドを鳴らしながら音を作っていった、それ以前の巨匠たちは、スタジオに入る前にそういう作業を済ませていた、といった趣旨の批判をしています。

いいたいことはよくわかりますが、わたしは、そういう作り方だって、かならずしも悪いとはいえないと思います。プレイヤーとしてロバーツが、若いプロデューサーたちのそういう試行錯誤につきあうのはイヤだったというのは、容易に想像できますけれど。

コード・チェンジとサウンドのアイディアが先行し、メロディーができないまま、スタジオに入ってしまう、というのはありうることです。これだけいいサウンドとコード・チェンジがあれば、ほかならぬブライアン・ウィルソン、いいメロディーを載せるぐらいのことは朝飯前だったでしょうに。なぜ、ヴォーカルを載せないまま棚上げにされてしまったのか、謎です。

そうなると、後年、ここにメロディーを載せてみようという人があらわれても、なんの不思議もありません。

Sean Macreavy - Why Why Winona (Trombone Dixie) / Mona Kani


まったく知識がないのですが、ヴォーカルは女性なので、Mona Kaniという人がシンガーなのでしょう。ショーン・マクレヴィーのほうはソングライター、プロデューサーということでしょうか。

残念ながら、この時期のブライアン・ウィルソンらしいコード・チェンジの妙を生かしたメロディーとはいいかねますが(ブライアンはこういう平板凡庸なメロディーは書かない)、こういう試みがもっと増えてくれればいいのにと思います。

Unsurpassed Masstersによると、Trombone Dixieは11テイクで完成しています。ほとんどは途中でブレイク・ダウンしているか、ブライアンないしはプレイヤーがホールドしているので、二度目のコンプリート・テイクでOKになっています。

f0147840_23583417.jpgむろん、このまえにブライアンの長い「口移し」(各パートをまわって、どういうプレイをするかを指示する。譜面を書かない人だったので、歌ってきかせたらしい! キャロル・ケイだけは、譜面をもらったと証言している)とリハーサルがあるのですが、それにしても、テイクに突入してから完成までの早さは、それが仕事とはいえ、さすがはレッキング・クルーです。

ブライアンはテーブルを叩いて、あと1テイクの時間しかない、いいテイクを頼むよ、などとプレッシャーをかけますが、そんな状況は彼らにとっては日常茶飯事、いや、オーヴァータイムになれば割増料金、むしろ望むところ、いっこうに動ずる気配もなく、ふつうにプレイしています。

さて、Unsurpassed Mastersのほうを聴いてみましょう、と最初のほうのテイクを聴いて、ありゃ、でした。昨日だったか、あれこれファイルの整理などしながら聴いていて、ブライアンがまたジェリー・コールをからかっている、などとツイートしたのですが、他の曲とまぎれて、いい加減なことをいってしまったようです。

この曲では、テイク1をホールドして、いまのはジェリーが入っていなかった、マイクがデッドだったのでやりなおし、といっているだけです。しかし、わからないのは、ジェリーがジェリー・コールで、彼がいつものようにギターを弾いているとしたら、デッド・マイクではない、ということです。テイク1でも、ギターは二本とも録れています。

ジェリーがコールではないか、またはギターを弾いていなかったとか? テイク1でオフマイクになっているのは、自転車のベルなのですが、ジェリー・コールはベルをやったのでしょうか?

f0147840_005352.jpg

いわずもがなかもしれませんが、説明しておきます。ブライアンは自分の自転車のベルの音が気に入り、この時期、何度かパーカッションとしてそのベルを使っています。Trombone Dixieでも、そのベルが鳴っています。自転車ごとスタジオに入れたそうです。

どのテイクがいいか、ちょっと悩みました。アレンジの変更などはなく、たんにいいテイクが録れるまで繰り返すだけの直線的なセッションだからです。すぐにブレイクダウンしてしまったテイク8と、最初のコンプリートであるテイク9にしました。

サンプル The Beach Boys "Trombone Dixie" (take 8 and 9)

California Girlsが典型ですが、ブライアン・ウィルソンはいいイントロをたくさんつくっています。このTrombone Dixieのイントロも盛り上がります。片や管とアップライト・ベースのコンビネーション、片や自転車ベル、ジングルベル、カスタネット、ハル・ブレインのドラム、そしてギターを重ねたサウンドのなんたる心地よさ!

40周年記念盤の付属DVDにPet Storyというヴィデオが入っているのですが、そのなかで、ブライアンはこんなことをいっています。

f0147840_023952.jpg

「いろいろな人が、Pet Soundsは史上最高のアルバムだといってくれるのは大変嬉しい。でも、自分にとっての史上最高のアルバムはフィル・スペクターのクリスマス・アルバムだ」といい、さらにつづけます。

「I liked the way he [Phil Spector] sat at the piano, I liked the way he talked, I liked his voice, I liked his face, I liked the way he looked, I liked him! What can I tell you?」

ブライアン・ウィルソンがフィル・スペクターに傾倒していた、いや、いまも傾倒しているのは有名なことですが、それにしても、そこまでいうかあ、です。

フィル・スペクターになりたくて、自分なりの新しいウォール・オヴ・サウンドをつくろうとした、それがPet Soundsだった、フィリップはすばらしいミュージシャンといっしょにやっていた、だから自分も同じミュージシャンでPet Soundsを録音した、とブライアンは明言しています。

ものをつくる人というのは、こういう影響関係というのを率直に語らない傾向があるのですが、ブライアンのなんと素直なこと、ファン気質丸出しで、率直に、スペクターごっこをしたかったのだと明かしてしまうのだから、驚くというか、惚れ直します。

しかし、ブライアン・ウィルソンの名誉のためにいっておきます。フィル・スペクターになりたい一心でつくったアルバムかもしれませんが、やはり飛び抜けた才能のある人が物真似をすると、物真似を超えてしまうということを、Pet Soundsは証明しています。

f0147840_0111473.jpg
左からブライアン・ウィルソン、ひとりおいてフィル・スペクター、その背後にサングラスをかけて顔が半分隠れているのがジャック・ニーチー、ひとりおいてマイク・ラヴ、ボビー・ハットフィールド。1965年、ゴールド・スター・スタジオで。

スペクターから出発して、ブライアン・ウィルソンは、スペクターがたどり着けなかった場所まで(結果的に、かもしれないが)行ってしまったのです。そういうことは、作者自身には見えないものです。

たとえば、ブライアン・ウィルソンのパーカッションの使い方は、フィル・スペクターより複雑で、深みのあるものへと変化していきます。その一例がTrombone Dixieのパーカッション・アレンジです。

フィル・スペクターについてブライアン・ウィルソンが語っていることのなかには、もう一点、重要な概念があるのですが、それはべつの機会に、べつの曲で。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ビーチボーイズ
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)


ビーチボーイズ
The Pet Sounds Sessions
The Pet Sounds Sessions
by songsf4s | 2011-10-25 23:17 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その2 Sloop John B.セッション
 
Pet Soundsにはさまざまなエディションがありますが、もっとも画期的だったのは、初のリアル・ステレオ・ミックスや、トラッキング・セッション、バックトラックなどを収録した、1997年のThe Pet Sounds Sessionsボックスでした。

このボックスではじめて、ヴォーカルがなくなり、トラックがどれほどすごい音で鳴っていたかがわれわれにもわかりました。「スペクターのミュージシャンたち」が、スペクター・セッション以上に、遺憾なく力量を発揮したことが明らかになったのです。

同じころ、Pet Sounds Sessionsの直後ぐらいでしょうが、Unsurpassed Mastersというブート・シリーズのリリースがはじまりました。60年代のビーチボーイズのアルバムのトラッキング・セッションやオルタネート・ミックス(とくにリアル・ステレオ)を収録したもので、Vol. 12のディスク1、および13と14のすべてのディスク、合わせて8枚がPet Soundsにあてられています。

f0147840_013937.jpg

当然、テイク数も、Pet Sounds SessionsよりUnsurpassed Mastersのほうが多いので(ちょっと多すぎるのだが!)、このシリーズでは、トラッキング・セッションについては主としてこちらを参照するつもりです。

今回はLPに先立ってシングル・リリースされたSloop John B.です。これはトラッド曲で、たとえば、わたしがもっていたものでは、キングストン・トリオのヴァージョンがありました。

となれば、当時流行りのフォーク・ロック・スタイルで、ということになりそうなものですが、12弦ギターがそれらしい雰囲気をつくってはいるものの、すくなくともわたしは、たとえば、バーズやママズ&ザ・パパズやP・F・スローンの同類とは、よかれあしかれ、感じませんでした。

いや、ビーチボーイズのSloop John B.でプレイしたハル・ブレインは、バーズやママズ&ザ・パパズやP・F・スローンのトラックでプレイしましたし、他のパートもずいぶん重なっているはずですが、そういう印象は持ちませんでした。

まずは完成品のクリップから。といっても最近のステレオ・リマスターなので、わたしが子供のころに聴いたものとはかけ離れたサウンドです。

The Beach Boys - Sloop John B.


子どものころは、たいした曲じゃねえな、とナメていましたし、アルバムのなかで聴くようになってからも、それほど好きではありませんでした。楽曲の構造が単純すぎて、アルバムの他の曲と乖離しているように感じました。

置かれた場所もA面のラストなので、ちょうど都合がよく、その前のLet's Go Away for a Whileまででピックアップを上げて、B面に移るのがつねでした。

それがブライアン・ウィルソンの意図だと思ったからです。つまり、Pet Soundsは本来、12曲構成のLPだったのに、会社の要請でシングル曲を無理やり押し込むことになり、やむをえず、もっとも無害なところに配置することで、ダメージを最小限に抑えた、ということです。

そんな調子で、何十年ものあいだ、Sloop John B.は、ブライアン・ウィルソンの乾坤一擲のアルバムの小さな汚点、と思ってきました。

しかし、Pet Sounds Sessionsに収録されたステレオ・ヴァージョンと、トラッキング・セッション、そして、ファイナル・バッキング・トラックを聴いて、のけぞりました。

わたしが知っているSloop John B.とはまったくちがう音でした。とくに、ヴォーカルをとったトラックでの、ハル・ブレインのドラムとキャロル・ケイのベースのプレイとサウンドにはほんとうに驚きました。

ちょうどこの直前ぐらいに、キャロル・ケイとは何十通ものメールを交換し、さまざまな曲のディテールについて質問していたので、なおのこと、このサウンドは「さもありなん」でした。

彼女は繰り返し、「わたしは一度も女っぽいプレイなどしたことがない」といっていますが、まさにそういう人にふさわしい、じつにマッチョな、野太いサウンドです。

タイムの善し悪しは複雑なプレイよりも、シンプルなプレイにあらわれるもので、ドラムでいえば、16分のパラディドルをきれいに聞かせられる人なら、たいていのプレイに適応できるとみなして大丈夫です。

f0147840_043728.jpg

キャロル・ケイについていえば、4分音符で押しまくるプレイ(たとえば、ハーパーズ・ビザールのThe Biggest Night of Her Life)には、いつも感服します。精妙なタイムに裏付けられた、豪快なプレイです。不十分な技術しかないプレイヤーは、4分音符だけを弾きつづけたら、すぐにボロを出します。

Unsurpassed Mastersに行く前に、Sloop John B.の最善のエディションである、The Pet Sounds Sessionsに収録された、トラック・オンリーを貼りつけておきます。このエディションではじめて、Sloop John B.のときも、ハル・ブレインは眠ってはいなかったことがわかりました。

サンプル The Beach Boys "Sloop John B." (final backing track from "The Pet Sounds Sessions")

このころのキャロル・ケイはフェンダー・プレシジョン(ジョー・オズボーンも初期のプレシジョン)を弾いていますが、ふつうはこんな音にはなりません。

ブライアン・ウィルソンのセッションにかぎらず、フィル・スペクターや、スナッフ・ギャレットのセッションで、さらにはさまざまなプロデューサーのセッションで、フェンダーとアップライトを重ねる手法はしばしば使われていました。

わたし自身が確認したかぎりでは、スペクター以前にスナッフ・ギャレットが(たしか)ジーン・マクダニエルズの曲で複数ベース手法を採用しています。

LPでは、おそらくはカッティングの関係で、アップライト・ベースの音は抑えがち、沈みがちなミックスでした。しかし、CDでは針飛びがないせいだと思うのですが、多くの場合、アップライトの音は太く、重くなる傾向があります。むろん、ディジタル・マスタリングの特性でもあるのでしょう。

最近のエディションではベースをいっそう前に出していますが、そもそも、前に出そうといって出せるのは、フェンダーのみならず、アップライトでも同じフレーズを弾いているからにちがいありません。それで、なかにはギョッとするようなリミックスがあるのでしょう。

順序が前後してしまいましたが、この曲のパーソネルは(ときおり修正されるが)以下のようになっています。

ドラムズ……ハル・ブレイン
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
ギター……アル・ケイシー、ジェリー・コール
ギター(オーヴァーダブ)……ビリー・ストレンジ
オルガン……アル・ディローリー
グロッケンシュピール……フランク・キャップ
タンバリン……ロン・スワロウ
フルート……スティーヴ・ダグラス、ジム・ホーン
クラリネット……ジェイ・ミグリオーリ
バリトン・サックス……ジャック・ニミッツ

わからないことがいろいろあります。タンバリンの音は聞こえませんが、かわりにウッドブロックかなにか、木製のパーカッションがずっと聞こえています。ロン・スワロウ(聞かない名前だ!)という人は、そちらをプレイしたのではないでしょうか。

オルガン・ベースが入っていると、なにかで読んだ記憶があるのですが、そうなるとバリトン・サックスが宙に浮くので、このクレジットが正しいなら、あれはバリトンか、あるいはバリトンとオルガン・ベースを重ねたものなのでしょうか。ふつうのオルガンの音は鳴っていないと思います。

ジェイ・ミグリオーリがクラリネットをプレイしたとありますが、さまざまなテイクを聴いても、クラリネットの音はわたしには拾い出せません。テイク4と5のあいだで、フルートだけに音を出させるとき、ブライアンが「ムーヴ・イン、ジェイ」といっているので、フルートをプレイした可能性が高いでしょう。

サンプル The Beach Boys "Sloop John B." (tracking session take 3 through 5 from "Unsurpassed Masters vol. 12" disk 1)

Unsurpassed Mastersには、Sloop John B.のほとんどのテイクが収録されています。とくにトラックに関しては、テイク1からOKのテイク14まで、すべてが入っています。

それを通して聴いて、あれ、と首を傾げたことがあります。ビリーストレンジの12弦のオーヴァーダブというのはどれのことなのだ、です。イントロで聞こえる12弦はテイク1から入っています。12弦と6弦の2本でスタートしているようです(あとですくなくとも一本、コード・ストロークが重ねられていると思う)。

f0147840_0133137.jpg
ビリー・ストレンジ(右はナンシー・シナトラ)

Unsurpassed Mastersに収録された、オーヴァーダブ・セッションのテイク5aを聴いて、やっと、ビリー・ストレンジがどういうプレイをしたのかがわかりました。

サンプル The Beach Boys "Sloop John B." (take 5a, guitar overdubbing from "Unsurpassed Masters vol. 12" disk 1)

でも、このビリー・ストレンジの12弦のプレイは、リリース・ヴァージョンではほとんど聞こえないくらいにミックス・アウトされてしまいます。そういうことはよく起こります。驚くようなことではないのかもしれません。

でも、ブライアンは、週末、子どもたちを連れてハリウッドに買い物に来ていたビリー・ストレンジを町で捕まえ、いまからオーヴァーダブをやってくれ、といったのだそうです。

ビリー・ストレンジが、ギターをもってきていない、といったら、ブライアンは楽器屋(サンセット&ヴァインのWallichs Music Cityか?)に連れて行き、フェンダーの12弦とアンプを買い、ビリーをスタジオに押し込んでオーヴァーダブをしたと伝えられています。しかも、セッションが終わると、ギターとアンプはもっていっていい、といわれたので驚いた、とビリー・ストレンジは回想しています。

f0147840_016889.jpg

そうまでして録音したのが、リードでもなんでもなく、ミックス・アウトされてほとんど聞こえなくなるリックだったというのだから、おやおや、です。でも、これはブライアンのサウンド構築手法と密接に結びついていることかもしれないと感じます。まあ、そのへんの詳細はこのシリーズのあとのほうで書くつもりですが。

子どものころは、それほど面白いと感じず、大人になっても、あまりSloop John B.を聴かなかったのは、たぶん、非ロック的なニュアンスが強すぎたからだと思います。

The Pet Sounds Sessionsの新しいマスターのSloop John B.にショックを受けたのは、ひとつにはもちろん、90年代なかばに、ハル・ブレインやキャロル・ケイのプレイを徹底的に聴きこむ作業をしたからでしょうが、もうひとつは、やはりドラムとベースが前に出て、よりロック・ニュアンスが強まったためでした。

また、LPのときには、他のトラックとちがって、楽器が少なく、サウンド・レイヤーが薄く感じられましたが、ヴォーカルがなくなり、トラックだけが姿をあらわしたら、すでにアルバム・トラックと同じような、サウンド・レイヤー構築がはじまっていたことがわかり、連続性があったのだと納得がいきました。

いやはや、やってみれば、やっぱりPet Soundsは手強く、われながら隔靴掻痒の記事になりましたが、懲りずに、次回はいよいよ、アルバムのほうのセッションへと入り込みます。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ビーチボーイズ
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)
ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)


ビーチボーイズ
The Pet Sounds Sessions
The Pet Sounds Sessions
by songsf4s | 2011-10-24 23:58 | 60年代
クライム・ギターズ: 60年代スパイ、クライム映画音楽
 
このところ無休でやっていたので、たまにはいいかと昨夜はのんびりしていたのですが、なにもしなくても、いちおう当家を開いてみようというお客さんも多数いらっしゃって、そうなると根が貧乏性の小心者、そぞろ落ち着かない心地になります。

どうせ今日はうちにいるのだから、久々のリアルタイム更新をしようと思います。午前中の二時間ほどを使って、曲を並べてみます。が、そのまえに、ちょいと落語を。

今日はそっちのほうに行くつもりはないのですが、8月15日とくれば(大東亜戦争ではなく)怪談だなあ、とひとりごちました。桂小南で知ったのではなかったかと思うのですが、ユーチューブにはこの人のものがありました。

桂枝雀「皿屋敷」


多くの落語がそうですが、骨格だけを取り出せば、この「皿屋敷」も短い噺です。どう引き延ばすのかと興味深く聴きましたが、なるほど、やはり演出の仕方にはその人の地が出るもので、いかにも枝雀らしい肉付けでした。

もうひとつ、こんどはお江戸のほうで、のちの六代目三遊亭圓生によるものがありました。SP盤なら短いから骨格の明瞭なものだろうと思って聴いたのですが、予想はみごとに外れました。

三遊亭圓生(橘家圓蔵)「皿屋敷」


エンタツ・アチャコの早慶戦がヒットしたことを受けたものなのか、「皿屋敷」にラジオの実況中継をはめこむという、後年の圓生とは異なったスタイルの演出で、さすがに若いなあ、と思いました。

芝居などでは、皿屋敷は「番町皿屋敷」の外題で、東京の麹町での出来事に置き換えられていますが、もともとは「播州皿屋敷」で、上方からきた伝説のようです。子どものころに映画を見た記憶があるのですが、だれが主演だったかも記憶から飛んでしまいました。

昔、ライノがCrime Jazzという2枚シリーズをリリースしたとき、そういうのは好きだなあ、でも、俺がなじんできたのは、そっち方面ではなく、ポップ/ロック系なんだけど、と思いました。

先日、サーフ・ミュージックを束にして並べたとき、十代はじめの音楽的気分の在処としては、サーフの隣はスパイだ、なんて思いました。今日はそのあたりを、いい加減かつテキトーに思いつきで並べます。

まずはビリー・ストレンジ御大のダノ・リードで、若き日のジェリー・ゴールドスミスの代表作を。



ライノの編集盤のいう「クライム・ジャズ」というのは、ジュールズ・ダッシンの「裸の町」あたりに代表されるようなフィルム・ノワールないしは犯罪映画に付された、ジャズ系の映画音楽を指しているようです。

OSTとしては、ギターをリード楽器にした8ビートのものというのは少ないのですが、しかし、この分野を切りひらいたとも目されるヘンリー・マンシーニの曲は、8ビートでした。ドゥエイン・エディーのカヴァーでその曲を。

Duane Eddy - Peter Gunn


エディーのギター・サウンドは妙にこの曲に合っていて、楽しいサウンドですが、あのギター・リックを繰り返す以外にはやりようがなかったようで、メロディーはサックスが引き受けているところで、思わず笑ってしまいます。

デビュー・ヒットはアリゾナで録音し、あとからハリウッドでプラズ・ジョンソンのサックスをオーヴァーダブしたといわれていますが(こういうのはうっかり信用すると思わぬうっちゃりを食らうことがあるが)、この曲もプラズのプレイだったりするのでしょうか。

ちょいと予定変更で、つぎの曲でいったんおしまいにし、午後、もう何曲か追加することにします。おあとが気になる方は昼下がりにでもまたおいでください。

The Marketts - Batman


またしても、マイケル・ゴードンの名前がくっつけてありますが、泥棒のことは無視してください。ドラムはハル・ブレイン、ギターはトミー・テデスコ、プロデュースはジョー・サラシーノです。

それではここでおなか入り、午後にまた。

さて、後半です。もっと早くはじめるつもりだったのですが、タイトルを忘れてしまった曲を探して、手間取ってしまいました。

タイトルはわかったものの、ユーチューブに目的のクリップはなく、かわりにカヴァーだというクリップがあったのですが、これがほぼ完璧なコピーで、長い時間をかけて本物と比較していたため、手間取ってしまいました。

映画『077/地獄のカクテル』よりDriftin'


これをお聴きになれば想像がつくでしょうが、もとはシャドウズです。わたしだったら、このクリップにシャドウズと書いてあれば、そのまま信じてしまうくらいに完璧にそっくりです。

ちがうのは、イントロのハイハットの途中で、このカヴァーにはキック一打が入っていることぐらいで、あとはミックスによるニュアンスの違い程度しかわかりません。適当にリミックスしたものを、カヴァーといってアップした、というのが、わたしの推測ですが、はてさて。

映画は、中学のときに見たきりで、なんともいいかねますが、くだらねえな、ジェイムズ・ボンドの物真似のなかでもCクラスだ、とせせら笑ったことだけ記憶に残っています。

予告編を貼りつけますが、まあ、見ないほうが賢明だと思います。この記憶から飛んでしまったマット・モンローもどきの主題歌はエンニオ・モリコーネによるもののようです。



二度出てくる屋根から転げ落ちるスタントはがんばっています。イタリアあたりは、危険なことを平気でやる傾向があったので、そのせいじゃないでしょうか。うーむ、なんだかひどい時代に映画少年をやっていたような気がしてきて、落胆しました。

映画やテレビドラマの曲のカヴァーというわけではなく、スパイ映画をイメージした音楽というのもつくられました。わたしとしてはもっとも意外だったのは、この曲がそうだったということ。レズリー・ギターはビリー・ストレンジ、ドラムズはハル・ブレイン、ベースはキャロル・ケイ。

The Beach Boys - Pet Sounds


このメロディーを思いついたとき、ブライアン・ウィルソンの頭にあったのはスパイ映画だったそうで、そういわれれば、そうかもしれないなあ、と思ういっぽう、ずいぶん原型から遠いテクスチャーへと加工したのだろうとも思いました。

たんなる調査不行届にすぎず、映画ないしはテレビの音楽をカヴァーしたものである可能性も残りますが、つぎの曲も、クライム・ストーリーないしはスパイものをイメージしてつくられたものだろうと思います。

Al Caiola - Underwater Chase


けっこうなサウンドで、どうしてアル・カイオラの人気がないのかと不思議です。曲としても魅力的ですし、カイオラのプレイ、サウンドもけっこうなものです。

つづいて、いまもって人気の高いイギリスのドラマのテーマ曲。「プリズナーNo.6」



「秘密情報部員ジョン・ドレイク」の主演だったパトリック・マグーハンの新しいドラマというので、スパイものだと思って見はじめたら、あれですから、中学生はびっくりしました。家族にはひどい不評でした。まあ、そうでしょうね。

以前にも書きましたが、この曲でギターをプレイしたのはヴィック・フリックという人で、ジェイムズ・ボンド・テーマや『ア・ハード・デイズ・ナイト』に出てくるThis Boyのインスト・カヴァー、Ringo's Themeも、フリックのプレイです。フリックはジョン・バリーのバンドでギターを弾いていたそうで、それで映画のテーマをプレイすることになったようです。

それではそのJames Bond Themeを。



やはりよくできたテーマで、曲としてもちょっとしたものですが、ヴィック・フリックのサウンドは耳に残りますし、じっさい、この分野のスタンダードとなった印象があります。

やはりジェイムズ・ボンドのテーマ曲、こんどはビリー・ストレンジのカヴァーで。ドラムズはいつものようにハル・ブレイン。

Billy Strange - Goldfinger


おつぎは、わたしらの世代の子どもがギターをもつと、かならずといっていいほど弾いた曲です。1弦を開放にして、2弦を開放から半音ずつ上げ下げしながら2本の弦を交互にピッキングするだけなので、まだコードもわからないうちに弾けるリックでした。

Sandy Nelson - Secret Agent Man


サンディー・ネルソンの盤でじっさいにドラムをプレイしたのはたいていの場合、アール・パーマーであったことはすでに何度か書きました。この曲も、精確なタイムで、ネルソンのプレイである可能性はゼロ、アール・パーマーと断言します。

サンディー・ネルソンは、フィル・スペクターの知り合いで、彼のデビュー・ヒット、To Know Him Is to Love Himでストゥールに坐ったことで知られます。

ゴールド・スター・スタジオのオーナー、スタン・ロスだったか、デイヴ・ゴールドだったか、どちらかがそのときのことを回想して、ひどいドラマーだった、といっていました。才能あるドラマーは、テクニックは未熟であっても、若いころからタイムだけは精確なものです。

ロスないしはゴールドが、ひどいドラマーだったといったとき、当然、タイムが不安定なことを指しているに違いありません。そんなにひどいタイムのドラマーは、長年プレイしても、タイムが安定することはありません。このSecret Agent Manのドラマーが、名義人のサンディー・ネルソンのはずがない、と断言するゆえんです。

こういう商売のやり方は60年代のハリウッドでは日常茶飯事でした。だから、ヴェンチャーズがスタジオ版とツアー版でメンバーが異なるなんていうのは、べつに驚くようなことではないのですがねえ。いやまったく、疲れることです。

疲れたところで、本日は擱筆します。この続きはやるかもしれませんし、やらないかもしれません。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ビリー・ストレンジ(MP3)
Secret Agent File
Secret Agent File


ドゥエイン・エディー(ライノ2枚組)
Twang Thang-Anthology
Twang Thang-Anthology


マーケッツ
Batman Theme
Batman Theme


シャドウズ
Complete A's & B's
Complete A's & B's


ビーチボーイズ(モノ/ステレオ)
ペット・サウンズ(MONO&STEREO)
ペット・サウンズ(MONO&STEREO)


ジェイムズ・ボンド編集盤
Best of Bond: James Bond (Score)
Best of Bond: James Bond (Score)
by songsf4s | 2011-08-15 09:25 | Guitar Instro