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大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その3
 
前回は、タイトルに名前をかかげている大滝詠一の曲にも、フィル・エヴァリーすなわちエヴァリー・ブラザーズの曲にもふれず、看板に偽りありだったが、それは時間を遡行し、わたしの目から見た「中継点」を示すためだった。

今回は水源地の話、ドンとフィルのエヴァリー兄弟のハーモニーについてであるが、ここでもまた、カヴァーからエヴァリーズのオリジナルへとたどって、時間を遡行してみる。

Simon & Garfunkel - Bye Bye Love


The Everly Brothers - Bye Bye Love


サイモン&ガーファンクルのカヴァーは、アルバム Bridge Over Troubled Water の最後から二番目に置かれていて、そのつぎのSong for the Askingは拍手のあとに登場することもあって、アンコールのニュアンスがあり、Bye Bye Loveは事実上のエンディング曲と意図されたように感じる。アルバムの終わりであり、このアルバムのリリース直後に解散を宣言した、このデュオの終幕を意味していた。

サイモン&ガーファンクルは、おそらくはディランの影響でモダン・フォークへとシフトする以前の、トム&ジェリーと名乗っていた時代には、明らかなエヴァリー・ブラザーズ・フォロワーのポップ・デュオだったので、ごく初期からこの曲をやっていたのだろう。

最後のアルバムの事実上のエンディングの位置にこの曲を置いたのは、出発点に戻り、円環を閉じて、デュオとしてのキャリアを終えようと云う意味だと思われる。

シングル・カットはされなかったものの、FENではしじゅう流れていて、ほとんどヒット曲同然だった。ポップ・チャートの世界ではよく起こる、いわば「借景」のような現象で、かつての大ヒット曲、大スターへのノスタルジー、とりわけ、50年代の音楽を体験したDJたちの記憶を刺激した結果のエアプレイだったのだろう。

そのオリジナルであるエヴァリー・ブラザーズのBye Bye Loveは、彼らのケイデンスからのデビュー・シングルであり、ビルボード・チャートの2位まで行く大ヒットになった。

エヴァリーズのオリジナルと比較すると、S&Gのカヴァーは楽器が多く、サウンドに厚みがあるが、基本的にはストレート・カヴァーであり、コピーといってよいだろう。

エヴァリーズのヴァージョンについていえば、ビートルズのShe Loves Youに似て、いきなりバイ・バイ・ラヴというコーラス・パートから入り、そのハーモニーの響きでリスナーの耳を引っ張っている点が印象的だ。

片や「イエー、イエー、イエー」、片や「バイ・バイ」と、聞き間違えようもなければ、誤解のしようもない、シンプルな言葉を投げつけてくる点にも、強い近縁性を感じる。

ジョン・レノンとポール・マッカートニーは、このような、気持のよいハーモニーの響き、シンプルで「強い」言葉、という二つの要素のコンビネーションを、曲の冒頭でいきなりぶつける、という「つかみ方」をエヴァリーズから学んだのではないだろうか。

他のカヴァーとしては、レイ・チャールズ、ボビー・ヴィー、ロイ・オービソン、デイル&グレイス、リッキー・ネルソン&ドン・エヴァリー、ジョージ・ハリソンのものをもっているが、ここでは略す。しいて云えば、ボビー・ヴィー盤は好ましい。ジョージ・ハリソンは、メロディーも歌詞もほとんど赤の他人のような、不思議な解釈をしている。

Grateful Dead - Wake Up Little Susie


The Everly Brothers - Wake Up Little Susie


1969年、グレイトフル・デッドは、彼らの家に居候してリハーサルをしていた、デイヴィッド・クロスビー、スティーヴ・スティルズ、グレアム・ナッシュの三人の、ヴォーカル・ハーモニーを中心にしたアコースティック・サウンドというアイディアに刺激され、自分たちもかつてのアコースティックなバンドへの回帰を試みた。

その結果、アコースティック・ギターを大々的に利用した(そしてペダル・スティールを導入した)、Workingman's DeadとAmerican Beautyという2枚のスタジオ・アルバムが生まれたが、それと並行して、ライヴでも、第一部をアコースティック・セットとし、旧来の彼らのスタイルは第二部に集中する、という形でツアーをおこなった。

アコースティック・セットで歌われた曲は、デッドのオリジナルは少なく、大部分がブルース、トラッドだった。そのなかにあっては、エヴァリー・ブラザーズの大ヒット曲であるWake Up Little Susieはきわめて例外的な、ポップ・フィールドからの選曲である。

S&Gの場合もそうだが、これはつまり、ジェリー・ガルシアやボブ・ウィアもまた、少年時代、ギターを手にし、ろくにコードも知らないまま、これならできると、ラジオから流れるエヴァリーズに合わせてギターを弾き、歌ったことのあらわれに違いない。

ライヴ録音でこの曲のイントロが流れたときの客の反応にも、彼らもまたデッド同様、少年時代にエヴァリーズに親しんだことを示す喜びが感じられる。

自分の経験をいうと、S&Gの時より、デッドがカヴァーしたことのほうが、のちにエヴァリーズを聴こうと思い立つ動機になった。

そのエヴァリーズのオリジナルは、Bye Bye Love以上に強く、「エヴァリーズ的ななにものか」を感じさせる。説明はあとまわしにして、キーワードだけいえば、3度のハーモニー、シンプルな循環コード、ブードローとフェリスのブライアント夫妻のソングライティング・スタイル、である。

なお、ほかにジョー・メルソン(ロイ・オービソンのソングライティング・パートナー)とフランキー・ライモン&ザ・ティーネイジャーズのヴァージョンがある。フランキー・ライモンは2パート・アレンジだが、彼自身のダブル・トラックに聞こえる。なかなか好ましいヴォーカル・レンディションである。

Glen Campbell & Bobbie Gentry - All I Have to Do Is Dream


The Everly Brothers - All I Have to Do Is Dream


グレン・キャンベルとボビー・ジェントリーの共演アルバムは1968年のリリースだが、グレンがBy the Time I Get to Phoenix以下のヒットを連発した結果、ボビーとのアルバムもあとになって売れはじめ、それを受けて、再度デュオを組み、シングルとしてリリースされたのが、エヴァリーズの大ヒット曲のカヴァーである、このAll I Have to Do Is Dreamだった。

アルバムのクレジットではドラムはハル・ブレイン、ベースはジョー・オズボーンになっているが、このシングルのほうのベースはキャロル・ケイのように思える。

カヴァーの多い曲なのだが、やはりヒットしただけあって、ほかのヴァージョンとは異なり、いいサウンドをつくっている。共演だから、クレジットには、ケリー・ゴードンとアル・ディローリーというそれぞれのプロデューサーが併記されているものの、基本的にはグレン・キャンベルが主体で、このサウンドもグレンのプロデューサー兼アレンジャーとして大ヒットを生み出していた、アル・ディローリーがつくったものだろう。

エヴァリーズのオリジナルについていえば、わたしは、これこそがオーセンティックなエヴァリー・ブラザーズ・スタイルなのだとみなしている。

・循環コードに載せた、無理のない自然なメロディーの流れ、
・それを背景とした、メロディー・ラインにしか思えないハーモニー・ライン、
・年齢の近い同性の肉親だけがもっている、区別ができないほど似た声、
・以上によって生み出される、きわめて心地のよい、ユートピア的な音像

といったことが、エヴァリーズのオーセンティシティーだとわたしは考えている。

これは、ケイデンス時代のエヴァリーズのほとんどの曲に当てはまることなのだが、なかでもAll I Have to Do Is Dreamは、すべての要素が百パーセントの濃度で含有された「エヴァリーズ的ななにものか」の化身のように思える。

ためしに、歌ってみると了解できるはずだ。メロディーである下のドンのパートは当然、楽に歌えるのだが、上のハーモニーであるフィルのパートも、ハーモニーを歌っている感覚はなく、ちょっと音域の高いところで動くメロディー・ラインを歌っているような気分になる。

歌ったときのこの感覚こそが、エヴァリーズなのだ。

ほかに、ゲーリー・ルイス&ザ・プレイボーイズ、ロイ・オービソン、ニティー・グリティー・ダート・バンド、ジェフ・ブリッジズ&カレン・アレン(映画『スターマン』の挿入曲)、リンダ・ロンスタット&カーミット(つまり、セサミ・ストリートかなにかに出演したときのものだろう!)、ウィリアム・ベル&カーラ・トーマス(わが家にある唯一のソウル・レンディションw)、ヒューゴー・モンテネグロ・オーケストラ、ジャン&ディーン、サイモン&ガーファンクルなどのカヴァーがある。自分たちのスタイルに引っ張り込んでいるニティー・グリティー・ダート・バンド盤がもっとも好ましい。

なお、The Beatles at the Boobという、ラジオ番組でのプレイを収録したブートに、エヴァリーズがこの番組に出演した時のものがあるのだが、DJは「これはポールの選曲」といってから、All I Have to Do Is Dreamを流している。いきなりポールの名前が出てくるのだが、これはポール・マッカートニーと考えてよいだろう。

手を付けたときは三回ぐらいで終わるかと思ったが、今日はエヴァリーズの代表作を三曲並べただけになってしまった。この分ではあと三回ぐらいはつづきそうな気配である。次回はさらにエヴァリーズのヒット曲とその余波を聴く。


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by songsf4s | 2014-01-07 23:15 | 60年代
ジェリー・ラゴヴォイ・ストーリー Good Lovinl'篇(ラスカルズ、グレイトフル・デッド他)
 
今日はThe Jerry Ragovoy Story: Time Is on My Side 1953-2003という、ジェリー・ラゴヴォイ(どこのサイトでも発音を発見できない難読姓。ご存知の方がいらしたら乞御教示)のソングブックを聴いていました。

子どものころからもっとも親しんだジェリー・ラゴヴォイの曲といえば、当然、これ。

The Young Rascals - Good Lovin'


日本ではシングルのリリースがものすごく遅れて、Once Upon a Dreamのときでした。B面はそのOnce Upon a DreamからアメリカではシングルA面としてカットされたIt's Wonderfulだったのだから、これだけでどれくらい遅れたかがおわかりでしょう。

このシングルは、たしか、1969年の学園祭の打ち上げで、好奇心から飲んだ酒のせいで(小生十六歳でしたな)、みんなで寮の四階から「かわらけ投げ」をすることになり、そのとき聴いていたシングル盤を片端からぶん投げているあいだに、なくしてしまいました。

わたしはせこい人間なので、酔眼朦朧としながらも、ちゃんとレーベルを確認して、「なに? テンプスのBeauty Is Only Skin Deep? 俺んじゃねえからいいや」てな調子で、自分のだいじな盤は投げないように、注意深くやっていたのですが、だれか(たぶんテンプスの持ち主!)に隙を見て投げられてしまったようです、って、どうでもいい話でした!

気になる曲のオリジナルはできるだけ集めてきたのですが、Good Lovin'はどういうわけか遭遇せず、オリンピックスのヴァージョンを聴いたのは比較的最近のことです。

スタジオ録音より先にテレビ・ライヴが見つかったので、出来がいいそちらのほうを。オルガンはビリー・プレストンと表示されています。

The Olympics - Good Lovin'


なんだか、カッコいいのだかわるいのだか、とっさには判断しかねますが、力強いノリは買えます。

大ヒット曲のわりにはカヴァーがすくなく、わが家にあるものでクリップが見つかったのは、山ほどあるグレイトフル・デッド盤をのぞけば、これぐらいでした。

Jay & the Americans - Good Lovin'


ジェイ&ディ・アメリカンズなので、当然のごとくラテン・フィールが入ってきます。ジェイ・ブラックの声が嫌いでなければ、悪くないヴァージョンでしょう(残念ながらわたしは不得手。ただし、これくらいのヴォイス・コントロールなら、嫌いというほどではない。カンツォーネ風の曲にめげるだけ)。

デッドのGood Lovin'は、スタジオ録音が二種、ライヴは両手の指と両足の指を足してもまだ不足というぐらいの数があります。メイジャー・デビュー以前からレパートリーだったのですが、Shekedown Street以後のアレンジがいいと思います。

まずは、そのShakedown Street収録ヴァージョンを。ただし、近年のCDにボーナスとして入っている、ボブ・ウィアのかわりに、プロデューサーのローウェル・ジョージがリード・ヴォーカルをとったアウトテイクをサンプルとして。

サンプル Grateful Dead feat. Lowell George "Good Lovin'"

つぎもほぼ同じものですが、ペダル・スティールなどは入っていない、グレイトフル・デッドのオフィシャル・リリースト・ヴァージョン。こちらのヴォーカルはボブ・ウィア。まだピアノはキース・ゴッドショーなので安心してお聴きあれ。

Grateful Dead - Good Lovin' (Studio Version)


同じ時期のライヴ録音も貼りつけます。78年のエジプト・ツアーのピラミッド・ライヴ(スフィンクス・ライヴだったか?)から。こちらもまだゴッドショー在籍です。

Grateful Dead - Good Lovin' - Egypt 9-16-78


エジプト・ライヴは評判がよくないのですが、この曲に関するかぎり、ボロクソにいうほどじゃないじゃんか、です。キース・ゴッドショーとしてはグランド・ピアノで弾きたかったでしょうが、なんせ砂漠のど真ん中ですからね。

もう残り時間僅少なので、これを最後の曲にします。モータウンのエルジンズのカヴァー。なかなかけっこうな出来です。

サンプル The Elgins "Good Lovin'"

駆け足でGood Lovin'だけ聴きましたが、ジェリー・ラゴヴォイの代表作はこれ一曲というわけではないので、次回はたぶんこのつづきをやることになるでしょう。


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ジェリー・ラゴヴォイ
Jerry Ragovoy Story: Time Is on My Side
Jerry Ragovoy Story: Time Is on My Side


ラスカルズ
Original Album Series
Original Album Series


グレイトフル・デッド
Shakedown Street (Dig)
Shakedown Street (Dig)


ジェイ&ディ・アメリカンズ
Jay & The Americans / Sunday & Me
Jay & The Americans / Sunday & Me


エルジンズ
Motown Anthology
Motown Anthology
by songsf4s | 2012-01-29 23:55 | ソング・ブック
グレイトフル・デッドのブランチ探し その6 Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu
 
もうお忘れの方もいらっしゃるでしょうし、お初という方もいらっしゃるでしょうから、この記事のタイトルの意味を改めて説明します。

グレイトフル・デッドがカヴァーした曲のオリジナル一覧というものがあります。ものすごく長いリストなので、ここに改めてペーストはしませんが、「グレイトフル・デッドのルーツ、ではなく、ブランチ探し序曲」という記事に全曲リストアップしてあります。

むろん、ファンとしては、デッドがどこから曲をもってきたかは知りたいことです。でも、問題は、デッドはおそろしくキャリアが長く、レパートリーも膨大で(ロック界の古今亭志ん生!)、これがあの曲のルーツといわれても、えーと、その曲って、デッドはいつカヴァーしたんだっけ、と頭を掻くようなものがたくさんあります。

ということで、ルーツから逆にたどって(いや逆にたどったものを、さらに逆にたどるのだが)、オリジナル曲のリストを参照して、デッドのカヴァー・ヴァージョンを見つけて聴いてみようというのが、この「グレイトフル・デッドのブランチ探し」シリーズの趣旨であります。ルーツの反対なのでブランチ。よろしいあるか?

◆ ロッキン風邪でブギーウギー流感なのよ ◆◆
本日はRockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Fluです。昔から好きな曲ですが、デッドがやっていたとは知りませんでした。しかも、もっともいい時期の録音があります。いや、そのまえに、オリジナルから。

ヒューイ・ピアノ・スミス Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu


うーん。こういうサウンドは好みの分かれるところでしょう。嫌いではありませんが、とくにこういうのが好きというわけでもありません。たしかに、ピアノ・プレイには独特の魅力がありますが。

デッドのヴァージョンのクリップはないので、かわりに、とりあえずジェリー・ガルシア・バンドのクリップを。ドラムはロン・タット、ベースはジョン・カーンという悪くないメンバーですが、ガルシアは不調のようです。

JGB Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu


といってすますのもなんなので、デッド・ヴァージョンはサンプルにしました。

サンプル Grateful Dead "Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu"

So Many Roadsボックスのどの曲だったか、サウンドチェックのときに、ジェリー・ガルシアが、この曲を知っているか、俺は若いころ歌ったことがある、といって、シンプルなカントリー・チューンを歌いはじめると、まわりがそろりとついていくところがありましたが、このRockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Fluはあれに似ています。

このトラックが録音された1972年のヨーロッパ・ツアーは、デッドの歴史におけるひとつのピークで、それを記録したアルバムEurope '72にはすぐれたトラックが多数収録されています。現在、流通しているヨーロッパ・ツアーの全曲を収録したボックスが72枚組、当時リリースされたLPは3枚組、それをCD化したものは2枚組、36分の1の競争率で選ばれたトラックと、あとからリリースされたそのアウトテイクの比較だから、という以上に、このRockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Fluのプレイは不安定です。

ビル・クルツマンなんか、まだ方針が立っていないという雰囲気のプレイで、お世辞にもすばらしいとはいえませんが、後半、なんとなく形ができてきて、あと数回、ステージでやれば、まったく黒さのない、デッド独特のヴァージョンができあがるのではないか、と想像してしまうところが、ファンとしては楽しいところです。

◆ LA的折衷サウンド ◆◆
わたしがもっともよく聴いたヴァージョンはジョニー・リヴァーズのものです。

ジョニー・リヴァーズ Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu


ドラムはジム・ゴードン、ベースはジョー・オズボーンです。ジミーは派手なことをするわけではありませんが、このアルバムでは終始一貫、レイドバックした、しかし、よけいな重みのないグルーヴをつくっていて、彼の代表作のひとつといえます。

記憶ですが、ギターはディーン・パークスとラリー・カールトン。どちらが主としてリードをとったのかは不明ですが、当時、「規定演技」のうまいプレイヤーだなあ、と思いました。クレジットはありませんが、ディーン・パークスはジョニー・リヴァーズの多くのアルバムをアレンジしたそうです。

ピアノはラリー・ネクテル。すごいプレイとはいいませんが、「明日に架ける橋」のできそこないクラシック風ピアノに比べれば(あの程度のプレイを誉める人間がたくさんいるのはどういうことなのだ? だれも音なんか聴いていないということか?)、はるかに賞賛に値するプレイで、ラリーとしては上々の部類だと思います。リオン・ラッセルだったら、こういう曲では泣く子も黙る凄絶なプレイをしたでしょうが。

でもまあ、つまるところ、この曲はジム・ゴードンとジョー・オズボーンの「ゲーム」であり、ほかのことはそれほど重要ではありません。黒さと余分な重さのない、それでいてソウルフルなグルーヴで、わたしのおおいに好むところです。

◆ その他のヴァージョン ◆◆
なにしろ有名な曲なので、ほかにもたくさんあります。もう満腹で、これ以上はけっこう、という方も多いでしょうが、いちおう貼り付けておきます。

ジェリー・リー・ルイス


ロイ・ミルトン&ミッキー・チャップマン


ロイ・ミルトンはセントラル・アヴェニューR&Bの代表的なシンガーで、LA南部のサウンドを知りたければ、いの一番で聴くべき人です。ミルトンはドラマーでもありました。当時は一発録りなので、ミルトンはドラムをプレイしながら歌ったために、他のシンガーより強いバックビートが録音されることになった、なんていう話も伝えられています。

もう2種、自前サンプルを。

サンプル Alan Price "Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu"

サンプル Ronnie Mack "Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu"

ロニー・マックはMemphisのヒットがある、ギター・インストの人なのですが、よくあったパターンで、女声ヴォーカル入りでやっています。このちょっと脂っけの強い音には、それなりの魅力があります。

時間がないので、以下はただベタベタとペースト。

パティー・ラベル


クリケッツ(ホワイト・ドゥーワップ風)



クリス・ファーロウ(ギター・ブレイクよし)


フレイミング・グルーヴィーズ


ジョニー・リヴァーズ(近年のライヴ。ドサでもそこそこ)



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グレイトフル・デッド
Steppin' Out with the Grateful Dead England 72
Steppin Out With the Grateful Dead England 72


ジョニー・リヴァーズ
Summer Rains: The Essential Rivers 1964-1975
Summer Rains: The Essential Rivers 1964-1975


ヒューイ・ピアノ・スミス
Having a Good Time
Having a Good Time


ジェリー・ガルシア
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
(大量のボーナス・トラックを加え、リマスターしたスタジオ録音のソロ・アルバム4種に、ボーナス・ディスクを付した5枚組ボックス)
by songsf4s | 2011-06-04 23:57
グレイトフル・デッドの早死にトラック群 その3 死者の見る音の夢 Europe '72からWake of the Floodへ
 
散歩ブログを更新しました。

「栴檀〔センダン〕は双葉より芳しからず」

当家にお知らせを書くのを忘れてしまいましたが、一昨日には、

「杉の大密林、のような草──鎌倉中央公園」

という記事もアップしております。よろしければ、併せてどうぞご覧あれ。

◆ サウンドの覚醒 ◆◆
この一連のデッド記事のきっかけは、k_guncontrolさんの設問でした。どのような考えからの設問であったかは、前回の記事に寄せられたk_guncontrolさんのコメントに明らかにされています。まあ、それで打ち切りといえば打ち切りです。

でも、わたしはデッドとドラッグということにはまったく関心がなく、しかも、Live/Deadではただの前史、デッド先史時代のサウンドであり、「わたしのデッド」はまだはじまってすらいないのです。

今日は、もっとも重要なアルバムを取り上げ、それでこのシリーズを終わり、途中になっているゲーリー・チェスターや「グレイトフル・デッドのブランチ探し」をレジュームしたいと思います。

まず一曲。これでやっとデッドの音が確定し、以後、これを基準にサウンドが作られることになります。

グレイトフル・デッド Eyes of the World


もう一曲、同じく1973年のアルバム、Wake of the Floodから、そのオープナー。フィドルはゲストのヴァサー・クレメンツです。

グレイトフル・デッド Mississippi Half-Step Uptown Toodleoo


◆ 金型の問題 ◆◆
Wake of the Floodはさまざまな面で最重要のデッド・アルバムです。まず、ワーナーとの契約を更新せずにデッドが独立し、Grateful Dead Recordsを発足した、そのデビュー盤であったこと。

アーティストが自分のレーベルを作るといっても、たいていの場合、レコード会社の経営をはじめるわけではなく、どこかの既存会社の傘下に独立したレーベルをつくり、親会社を通じて販売をおこないます。ところが、デッドは過激というか、無謀というか、大胆というか、完全に独立した会社を作り、みずから製造と配給をおこなったのです(むろん、米国内にかぎったことで、海外の配給は既存ルートを通じておこなった)。

ここで、デッドの本質に深く関係する経営決断がおこなわれます。デッドがワーナーを嫌った最大の理由は、同社が磨り減ったプレス金型を平気で使いつづけることでした。

塩ビの盤をプレスする金型は、当然ながら、最初のほうがキレのある音で、プレスを繰り返すうちに磨耗して、だんだん音が悪くなっていきます。デッドは、金型を頻繁に交換し、音質の悪い盤が販売されるのを食い止めたいと考えました。

グレイトフル・デッド Weather Report Suite


ふつうの会社は、なぜ磨り減った金型を使いつづけるのか? もちろん、コストの問題です。価格は忘れてしまいましたが、GDRが倒産するにいたった理由のひとつとして、プレス金型の費用負担があげられていたので、ちょっとした値段ではあったのでしょう。

いちいちプレス工場(たしか、全米に散らばる三社と契約したとあった)にGDRの社員を送って、プレス工程を監視し、定めた枚数になったら、金型の交換を命じたというのだから、本気だったのです。

なぜそんなことにそこまでこだわったのか、と思う人もいるでしょうが、わたしは、これがデッドの本質、デッドの生命それ自体なのだと思います。彼らはずっとすぐれた音質を追及しつづけたのであり、すべてをコントロールする自由を手に入れたとき、アウトプットを劇的に改善しようと意気込んだにちがいありません。

グレイトフル・デッド Stella Blue


◆ 低音からのテイクオフ ◆◆
アレンビックによるモンスターPAの構築、アレンビック製のフィル・レッシュのカスタム・ベースにも、彼らの考え方がストレートにあらわれています。

すでに何度も書いたことですが、アレンビックのフィル・レッシュ・カスタム・ベースは、アウトプットが4チャンネルありました。弦の一本一本に、独立したチャンネルが割り当てられ、弦ごとに独立してアンプに送り込まれるようになっていたのです。

なぜそんな馬鹿げたことをしたかといえば、ベースの音質改善のためでした(ベースだけで4チャンネル・サラウンドができたはずだが、そんなことをしたという記録はない!)。レッシュが嫌ったのは、四本いっぺんに鳴らしたとき、音が割れることでした。コードを鳴らしたときに、音が割れないベースがほしかったのであり、その要求から生まれたのが、弦ごとのチャンネル分離というアイディアだったというのです。

それが合理的か否かはひとまずおくとして、ここにデッドというバンドの本質、すくなくとも、彼らの絶頂期であった70年代の時点での本然があらわれています。音そのものをどこまでも追求したかったのです。

はじめてデッドの夢見る音が見えたような気がしたのは、前回ふれた1972年のライヴ・アルバム、Europe '72でのことです。こんな静かなライヴ・サウンドをうっかりつくるバンドはない、ということは、これは彼らが望んだ音なのだ、と思ったのです。

グレイトフル・デッド Jack Straw (from 72 Europe Tour)


ヨーロッパ・ツアーのとき、ガルシアはストラト、レッシュはギブソン・セミアコ・ベースかフェンダーというように思っていましたが、レッシュはすでにアレンビックのようです。ただし、4チャンネルになっていたかどうかは不明ですが。

グレイトフル・デッド Truckin' (from 72 Europe Tour)


レッシュはかつて、もっとも好きなベース・プレイヤーにジェファーソン・エアプレインのジャック・キャサディーをあげていました。

ジェファーソン・エアプレイン Somebody to Love (from 69 Woodstock Festival)


1969年のLive/Deadの段階でなら、まさにそうだろうと思います。レッシュのサウンドとプレイにはしばしばジャック・キャサディーの影響を感じました。しかし、72年のヨーロッパ・ツアーでのレッシュは、もうジャック・キャサディーとはまったく異なった方向を見定めていたと思います。

Live/Deadは、とりたててヴィジョンもなく、ただ、そのときのデッドをそのまま記録しようとした音です。アンペクスのコンパクトな8トラック・テープ・マシンが手に入った、じゃあ、ずっとやりたかった本格的なライヴ録音をしてみよう、というだけでしょう。

Europe '72は、すくなくともエンジニアのベティー・キャンターらは、どういう音を作るか、明確に目標を定めていたと感じます。それぞれの楽器のひとつひとつの音のきらめきを、可能なかぎり鮮明にとらえる、というヴィジョンだったに違いありません。

◆ 幸運な合一 ◆◆
たまたま、キース・ゴッドショーを迎えたデッドは、一段高みに入り、ミッキー・ハートが抜けたためにひとりになったビル・クルツマンは、自分のプレイとサウンドを見直した結果、最適のチューニングにたどりつき、彼のもっといい時期に突入します(正確には、ミッキー・ハートがトラップに坐らなくなったWorkingman's Deadのときから、クルツマンの変化ははじまっているが)。

アレンビックの最初のカスタムを手にしたフィル・レッシュもサウンドを更新し、それに合わせてプレイ自体も微妙に変化させ、太い低音を排除する独特のスタイルの構築に取り掛かります。

こうしたことがあいまって、幸運な合一が生まれ、Europe '72という、デッドのもっともすぐれたライヴ盤が誕生しました。

この勢いがそのまま会社設立、最初の盤の制作にも持ち越され、Wake of the Floodという、デッドの最良のスタジオ・アルバムが誕生します。

どちらにも共通するのは、ハイパー・クリアな中高音域と、邪魔な重さを排除した軽い低音部という基本方針です。そのヴィジョンが生み出した最良のトラックが、最初にあげたEyes of the Worldでした。

GDRがリリースした盤は、Wake of the Flood、From the Mars Hotel、Blues for Alah、そしてライヴ盤のSteal Your Faceと、わずか四枚ですが、わたしはいずれも好きで、ここがデッドのピークだったと考えています。

Steal Your Faceはゴミ盤の扱いを受けていますが、それは音質面では正しくあっても、プレイの面ではまちがっています。Stella Blueの最良のヴァージョンは、Steal Your Face収録のものです。ゴミ盤とは、Dead Setのようなもののことです。

今夜もあっというまにタイム・イズ・タイト。要するには、わたしが考えるデッドとは、キース・ゴッドショーがいて、ミッキー・ハートがいなかった時代のことだ、という話です。80年代、ブレント・ミドランドがいた時代のデッドはもちろん問題外、聴くに耐えませんが、60年代もたんなる前史、助走にすぎなかったと思います。ほんとうにすごい音は72年からはじまったのです。


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グレイトフル・デッド
Live/Dead
Live/Dead


グレイトフル・デッド
Workingman's Dead
Workingman's Dead


グレイトフル・デッド(DVD-A)
Workingman's Dead
Workingman's Dead


グレイトフル・デッド
アメリカン・ビューティ(デラックス・エディション)
アメリカン・ビューティ(デラックス・エディション)



グレイトフル・デッド
The Grateful Dead (Skull & Roses)
The Grateful Dead (Skull & Roses)


グレイトフル・デッド
Europe '72
Europe '72


グレイトフル・デッド
Wake of the Flood (Dig)
Wake of the Flood (Dig)



グレイトフル・デッド
Warner Bros. Studio Albums Box Set [12 inch Analog]
Warner Bros. Studio Albums Box Set [12 inch Analog]


グレイトフル・デッド
Wake of the Flood (Dig)
Wake of the Flood (Dig)


グレイトフル・デッド
Golden Road
Golden Road
(ワーナー時代の12枚組ボックス。ライノのマスタリング。現在はばら売りでもこのマスタリングが使われているらしい。いや、ひとつひとつ確認したわけではないが)


ジェリー・ガルシア
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
(大量のボーナス・トラックを加え、リマスターしたスタジオ録音のソロ・アルバム5種に、ボーナス・ディスクを付した5枚組ボックス)


ボブ・ウィア
Ace
Ace
by songsf4s | 2011-06-03 23:51
グレイトフル・デッドの早死にトラック群 その2 Europe '72のクールな熱さ
 
今日、ひょんなことから、おや、というクリップに遭遇したので、貼り付けておきます。

星野みよ子 Somebody Bad Stole de Wedding Bell


星野みよ子というシンガーは、ヒット曲もなく、キャリアも不明ですが、当家では、(仮)丘のホテル by 星野みよ子 (OST 『ゴジラの逆襲』より)という記事で、彼女の歌う挿入歌「湖畔のふたり」をご紹介しました。

さらに、「湖畔のふたり by 星野みよ子」という記事では、その後、三河のOさんからご喜捨を受けたゴジラ・ボックス収録の高音質ヴァージョンもご紹介しました。たぶん、当家の全サンプルのなかで、最多アクセスの曲です。

どういう人気なのか、はかりかねるのですが、しいていうなら、かなり魅力的な曲なのに、ふつうの『ゴジラの逆襲』サントラCDには収録されていないからではないでしょうか。キャリアがよくわからないという点も、この場合、魅力を増す要素かもしれません。

f0147840_0125369.jpg

今日もいちおう検索してみましたが、バイオのようなものは見つかりませんでした。コロムビアの通販のみのボックスに、彼女の歌が数曲収録されているようですが、いずれも聴いたことはありません。

テレビ・ドラマ・データベースの星野みよ子の項

日本映画データベースの『俺の拳銃は早いぜ』の項

日活初期のアクション映画のようで、監督は野口博志、助監督は鈴木清太郎、すなわちのちの鈴木清順です。配役のトップには河津清三郎の名前があって、あらま、です。のちに悪役で売った人も、若いころは二枚目の善玉をやっていたのでしょうか。当家では「木村威夫追悼 鈴木清順監督『刺青一代』その3」で河津清三郎にふれています。

◆ この門をくぐる者、希望を捨てよ ◆◆
さて、前回、話がどこにも行き着かず、まったく中途半端なところで終わってしまったグレイトフル・デッド一件です。今日もどこにも行き着かないようなことになってはまずいので、簡単そうな設問から。

Live/Deadはデッド入門に適しているのか、言い換えるなら、デッドの代表作なのか?

Live/Deadがデッド入門に適切だとおっしゃる方は、古くからのデッドのファンか、あるいは、そういう人たちに追随する新しいファンなのでしょう。そのような立場があっても不思議はないし、否定的に見たりもしません。わたし自身も、Live/Deadによって、デッドというバンドのほんとうの力を知った、というように、当時は思いました。

しかし、ガルシアがいた時代だけにかぎっても、30年の長きに渡って活動したグループを、一枚のアルバムで代表させられるなどと考えるほど、わたしは楽観的な人間ではありません。だから、いまの時点でいうなら、せいぜい「Live/Deadは、グレイトフル・デッドに強い関心を持つ人が多数生まれるきっかけになったアルバムだった」ぐらいのところだと思います。

わたしが読んだでバイオ本では、デッドが有名になったのはそのつぎのアルバム、はじめてスタジオ録音がうまくいった(とわたしは考える)Workingman's Deadのヒットのおかげだそうです。わたし自身も、このときから、デッドのアルバムが出れば、迷わずに買うようになったのだから、Workingman's Deadによってファン層が一気に膨れ上がったというバイオ本の記述は納得がいきます。

では、Live/Deadより、Workingman's Deadを、デッド入門に最適の一枚とするべきか? ここがむずかしいのです。Workingman's Deadは、アコースティック・アルバムです。これと同系統といえるのは、同じ年にリリースされたAmerican Beautyだけといっていいでしょう。同系統のアルバムが二枚しかないもので、そのバンドの音楽を代表させていいのか、と自問せざるをえません。

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American Beauty タイトルはAmerican Realityとも読めるようにデザインされている。

以前、American BeautyのHDCDをMP3にしたものをサンプルとしてアップしたので、再度、それを貼り付けておきます。HDCDのマスタリングのデモとしてアップしたものなので、かつてのマスタリングとは音の感触が大きく異なるトラックを選んでいます。

サンプル Grateful Dead "Friend of the Devil" (HDCD)

サンプル Grateful Dead "Brokedown Palace" (HDCD)

なんとも判断がむずかしいのですが、この二枚がデッドのカタログのなかでも抜きん出ているのは、やはりたしかです。Live/Dead以降のデッドはつぎつぎと聴くに値するアルバムをリリースしていきますが、そのなかでもWorkingman's DeadとAmerican Beautyは突出していると思います。

このあたりのデッドは変貌はげしく、翌71年にリリースしたダブル・ライヴ・アルバムGrateful Dead(ジャケット・デザインからSkull & Rosesと通称される)は、アコースティック・デッドとはあまり関係ないところで成立しています。しいていうなら、カントリー系の曲が多少収録されている点が、アコースティック・デッドとの連関といえます。その系統の曲を。

グレイトフル・デッド Mama Tried (Skull & Roses ver.)


これはマール・ハガードのカントリー・チューンのカヴァーです。フィル・レッシュのベース・ラインとグルーヴが、まったくカントリー的ではないところに強くデッド的ニュアンスを感じますが、そうじゃなければ、デッドがやる意味がないのだから、当たり前です。

ビル・クルツマンはオーソドクスなドラミングをしていて、なんなら、ハガードその人のバッキングだってOKに聞こえますが、それでもなお、彼のタイムのよさが発揮された、気持のいいプレイです。デッドの大きな魅力は、レッシュ=クルツマンのグルーヴでした。

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この文脈では、Live/Deadとの比較が重要です。二年のあいだに、やはりかなり音が変化したと感じます。会場の違いもありますが、さらに加えるに、楽器ではなく、PAなどの機材と録音の変化が大きいのかもしれません。Live/Deadより「整理された」音になり、聴きやすくなっています。逆にいえば、Elevenのような「ワイルドでありながら、一体感のあるアンサンブル」といった味わいは、すでに稀薄になっています。

このあたりでジェリー・ガルシアは最初のソロ・アルバムGarciaをリリースし、つづいてボブ・ウィアもAceの録音に入ります。

そのせいか、デッドとしてのスタジオ録音はおあずけになり、72年にはまたライヴ、こんどはダブルでも足りなくなり、トリプル・アルバム・セットとして、ヨーロッパ・ツアーを記録したEurope '72がリリースされます(非デッド・ファンをゲンナリさせて申し訳ないが、現在ではツアーの全記録が72枚組CDボックスとしてリリースされている。タイポではない。72枚組!)。

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Europe '72は、それまでとはまた異なるサウンドで、穏やかで控えめな音ながら、デッドというバンドの印象がまた変化し、あとから振り返れば、ここで「物心がついた」といいたくなるようなある「基盤」、のちのち「デッドらしさ」と受け取られるなにものかを表出させたアルバムでした。

サンプル Grateful Dead "Cumberland Blues" (Europe '72 ver.)

Cumberland BluesはWorkingman's Deadでデビューした曲で、スタジオ録音もすばらしいのですが、このライヴ・ヴァージョンは、アルバム・オープナーだったこともあって、スタジオ盤より強く印象に残りました。

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デッドはどこかのハード・ロック・グループのように「狂熱のライヴ!!!」なんていう売り文句にはほど遠いサウンドのバンドですが、そのイメージは、わたしの場合、ここで確定しました。

Live/DeadのElevenには、まだ「ホット」という形容を使えましたが、アップテンポでホットなプレイをしているにもかかわらず、このCumberland Bluesはクールです。

その理由はやはり機材と録音にあるのかもしれませんし、同時に、デッド自身もホットではない方向へと変化したのだと思います。

単純明快な変化がふたつあります。ミッキー・ハートが抜けた結果、ドラムがビル・クルツマンひとりになって、彼のすぐれたタイムと、ベースのフィル・レッシュの独特のグルーヴが渾然一体となった、いかにもデッドらしいグルーヴが確立したことがひとつ。

もうひとつは、キース・ゴッドショーという卓越したピアノ・プレイヤーが加わったことで、ライヴのサウンドの手ざわりがアコースティックな方向に変化したことです。

機材の面でいうと、のちに有名になる、アレンビックによるモンスターPAが完成したことは大きかったでしょう。各チャンネルが相互干渉した結果の、混雑した音をを「ライヴらしさ」と考えていたわたしは、Europe '72のクリアな録音に驚きましたが、PAの変化も録音の変化に影響したことは間違いありません。

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まだスピーカーの数が少なめで、ドラムが1セットだけであることから、1970年代前半と推測できる。

いま手元に写真がないのですが、以前はSGやギブソン・セミアコなどを使っていたフィル・レッシュも、たしかこのツアーでは、最初のアレンビックのカスタムか、さもなければ、フェンダーを使ったのだったと思います。まだ翌年のWake of the Floodほどではありませんが、Live/Deadのころにくらべると、じつに軽い音に変化していて、レッシュが理想の音への道を歩みはじめたことがわかります。

また時間がなくなってきましたが、この時期のデッドは一枚一枚が独立しているといっていいほどで、Live/Deadだけが特殊というよりは、変化の速度が速かった結果として、Live/Deadは「置いていかれた」のではないかと思います。

もう一回、この項をつづけて、次回もさらなるデッドの変身を跡付けたいと思います。


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グレイトフル・デッド
Live/Dead
Live/Dead


グレイトフル・デッド
Workingman's Dead
Workingman's Dead


グレイトフル・デッド(DVD-A)
Workingman's Dead
Workingman's Dead


グレイトフル・デッド
アメリカン・ビューティ(デラックス・エディション)
アメリカン・ビューティ(デラックス・エディション)


グレイトフル・デッド
The Grateful Dead (Skull & Roses)
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グレイトフル・デッド
Europe '72
Europe '72


グレイトフル・デッド
Warner Bros. Studio Albums Box Set [12 inch Analog]
Warner Bros. Studio Albums Box Set [12 inch Analog]


グレイトフル・デッド
Golden Road
Golden Road
(ワーナー時代の12枚組ボックス。ライノのマスタリング。現在はばら売りでもこのマスタリングが使われているらしい。いや、ひとつひとつ確認したわけではないが)


ジェリー・ガルシア
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
(大量のボーナス・トラックを加え、リマスターしたスタジオ録音のソロ・アルバム5種に、ボーナス・ディスクを付した6枚組ボックス)


ボブ・ウィア
Ace
Ace
by songsf4s | 2011-06-02 23:52
グレイトフル・デッドの早死にトラック群 その1 Live/Deadの生き死にの問題
 
同じようにコメントできっかけをいただいて、グランド・ファンクは記事にして、グレイトフル・デッドは記事にしない、ということは、当家の場合はありえないわけでして、当然、今日はデッドです。

ゲーリー・チェスターのつづきもしたいのですが、あちらはアーティストが多様で、時期もスパンが大きく、準備に手間取っています。

◆ アンサンブルとインプロヴの両立 ◆◆
k_guncontrolさんのデッドに関するコメントは短いので、そのまま引用させていただきます。

「『LIVE/DEAD』を『デッド入門にはこれ』という紹介のされ方を良く見るのですが、自分にはあのアルバムのみ妙に他アルバムと異なったものに聞こえます。あのライブ・アルバムはデッド史においてどういう位置付けで、他のアルバムにはどう繋がるのか、その辺りを是非一度お願いします。」

1969年のダブル・ライヴ・アルバム、Live/Deadは、グレイトフル・デッドにとって出世作といっていいのでしょう。それまでの3枚とは異なって、それなりに評判になっていました。

わたしはセカンドのAnthem of the Sunを買ったのですが、中学生にはややハイブロウだったというべきか、それともたんに、それほど出来がよくなかったか(いまだにそれほどいいとは思わない)、つぎのAoxomoxoaは買いませんでした。

そのつぎのLive/Deadも、渋谷百軒店のBYG(はっぴいえんどのマネージメント・オフィスである「風都市」が経営していたロック喫茶)で聴き、おおいに感銘を受けたものの、ダブル・アルバムなので手が出ませんでした(その後、72年のはじめ、大学合格祝に友人にプレゼントされた)。

LPのディスク1のA面全体を占めていたこの曲で、グレイトフル・デッドは一躍有名になったといっていいでしょう。いや、シングル・ヒットではないから、アンダーグラウンド的な名声ですが。長い曲なので、以下は冒頭のみのクリップです。

グレイトフル・デッド Dark Star(Live/Deadヴァージョン)


これのどこが高校生に面白かったのか、いまになると明瞭に思い出すことはできません。ヴァース-コーラス-ヴァース-コーラスといった明快な構成ではなく、セカンド・ギターはコード・カッティングではなく、リードにからんでいき、そこにベースもいっしょになって、ふわふわと上昇下降を繰り返すところが面白かった、といったあたりでしょうか。

そういう話は聞いたことがありませんが、時期からいってスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』を意識していた可能性もあると思います。デッドもトリップ・ミュージックと言われていましたが、『2001年宇宙の旅』のいわゆる「スペース・コリダー」シークェンスも「サイケデリック・シーン」などといわれました。

しかし、長い年月がたって、Dark Starはあまり聴かなくなり、最近、このアルバムで聴くのは、この曲、というか、つながった二曲の、とくに接続部分の変化の仕方が好きです。以下、その二曲のクリップを並べますが、問題はその中間なのでありまして……。

グレイトフル・デッド Saint Stephen(Live/Deadヴァージョン)


ぶつっと切れていますが、このままつぎのElevenに突入しているのです。

グレイトフル・デッド Eleven(Live/Deadヴァージョン)


この曲もぶつっと終わっているのは、そのままつぎのTurn on Your Lovelightに突入しているからです。無茶なことをやったものだ、なんていいたくなりますが、デッドはいつだってそうなのだということが、のちのちわかってくることになります。

Elevenというのは、タイトルが示しているように11拍子です。このクリップでいうと、3:30ごろに4/4から11拍子に切り替わります。11拍子といっても、この場合は3+3+3+2と勘定すれば適応可能です。途中に変拍子が入る3/4としてプレイするのです。

とはいえ、それを滑らかに、自然に聞かせるのは、やはり簡単ではないでしょう。すくなくともこの時期は、ラリパッパのイメージに反して、デッドはむやみにリハーサルしたそうですが、バンドが一体となってこういう変拍子をものともせずに突き進むには、徹底的に練習するしかなかったと、エーと、フィル・レッシュだったかが、そのようにコメントしていました。じっさい、この一糸乱れぬ突進はいまでもスリリングです。

◆ 色は匂えど ◆◆
しかし、この時点ではLive/Deadは買わず、つぎにデッドを買ったのは、Live/Dead以上に大きな評判となり、一気にデッドのファン基盤が形成されることになった1970年のWorkingman's Deadでした。

グレイトフル・デッド Uncle John's Band(スタジオ録音ヴァージョン)


ついでに、以前、「オーヴァーサンプルのUncle John's Bandをダウンサンプルする」という記事につけた、DVD-AをMP3にしたヴァージョンも再度貼り付けておきます。

サンプル Grateful Dead "Uncle John's Band" (downsampled from DVD audio)

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いくら、ライヴとスタジオは異なるとはいえ、Live/DeadとWorkingman's Deadという二枚がほぼ同じころに録音されたのだから、変なものです。Workingman's Deadは、アルバム全体がアコースティックというわけではありませんが、フォーク、ジャグバンド・ミュージックのルーツを強く意識していたのはまちがいありません。

もう一曲、Workingman's Deadから、ほんとうはCumberland Bluesをと思ったのですが、クリップがなかったので、こちらを。以前、「Dire Wolf by Grateful Dead」という記事で取り上げた曲です。ペダル・スティールはジェリー・ガルシア。

グレイトフル・デッド Dire Wolf


k_guncontrolさんの、Live/Deadだけがちがっている、という見解におこたえしようとしているのですが、なかなかそこにたどりつけません。

それは、ひとつには、この時期のデッドは、すくなくとも盤を通して聴くかぎりにおいては、ころころスタイルとサウンドが変わっていったせいです。

それともうひとつ、機材も変化します。Live/Deadのとき、ジェリー・ガルシアはギブソンSGだったようです。レッシュのベースもそのあたりだったようです。

あいだに二枚のスタジオ盤をはさんで、つぎのライヴ・アルバムのときには、ジェリー・ガルシアはたぶんストラトキャスターにしていました。おそらく、70年の二枚のアコースティック・アルバムのときから、メインはストラトになっていたと思いますが。

グレイトフル・デッド Sing Me Back Home (1971)


1972年のヨーロッパ・ツアーは全面的にストラトだったのではないでしょうか。

グレイトフル・デッド Jack Straw(72年ヨーロッパ・ツアーより)


レッシュはギブソンのセミアコ・ベース、ボブ・ウィアはエピフォンのセミアコでしょうか。もっと大きな違いは、ミッキー・ハートが抜け、ドラムがビル・クルツマンひとりになったことと、トム・コンスタンティンに代わってキース・ゴッドショーが入り、オルガンではなく、主としてピアノが使われるようになったことです。

時間がなくなってきたので、駆け足で。

Live/Deadの最大の制作動機は、アンペクスの8トラックを手に入れたことだそうです。以後、デッドは、あらゆるライヴ・ギグをすべて録音することになり、それがいまCDや配信で洪水のごとくに大放出され、われわれを悩ませているのです。

デッドは68年のセカンド・アルバムのときに、ライヴ録音とスタジオ録音のコラージュを試みています(エンジニアでもあったプロデューサーのデイヴ・ハーシンガーは、おまえら、頭がおかしい、といってスタジオを出て行ってしまい、実質的にデッドの最初のセルフ・プロデュース・アルバムとなった!)。すくなくともデビュー当初は、彼らはライヴのほうが圧倒的に面白いといわれていて(まあ、多数派は全キャリアを通じてそうみなしているだろうが)、デッドとしては、それを実証したかったのでしょう。

しかし、当時の録音技術は彼らを満足させるものではなく、その貧弱な音をカヴァーするために、ライヴ・テープをスタジオ録音とシャッフルしてしまうという、実験音楽の時代にふさわしい手法を思いついたのでしょう。

そこへ、運搬容易なアンペクスの8トラックが登場し、彼らは、これならばまともな音で録音できると考えたようです。

ものすごく中途半端なところで、こういうときはライヴ更新をすることにしているのですが、今日はすでにエネルギー欠乏、半分睡眠状態なので、中途半端で失礼ながら、ここまでとし、次回に持ち越しとさせていただきます。


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Live/Dead
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グレイトフル・デッド
Golden Road
Golden Road
(ワーナー時代の12枚組ボックス。ライノのマスタリング。現在はばら売りでもこのマスタリングが使われているらしい。いや、ひとつひとつ確認したわけではないが)
by songsf4s | 2011-06-01 23:59
Uncle John's Band by Grateful Dead その2
タイトル
Uncle John's Band
アーティスト
Grateful Dead
ライター
Robert Hunter, Jerry Garcia
収録アルバム
The Golden Road (1965-1973)
リリース年
1970年
他のヴァージョン
various live versions of the same artist, Phil Lesh & Phriends
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この曲をご存知ない方には、やはり先に聴いておいていただいたほうがいいでしょう。You Tubeにスタジオ・ヴァージョンがあるので、よろしければお聴きになってみてください。動画はありませんが、昨日あげておいたライヴより、こちらのほうがUncle John's Bandの本来の姿だと感じます。

◆ ヴァージョン一覧 ◆◆
各ヴァージョンの検討にとりかかるまえに、今日取り上げる正規盤収録の各種Uncle John's Bandの録音日時と収録アルバムの一覧を以下に示します。このほかに、わが家にない正規盤が10種以上ありますし、ブートやウェブで聴けるテーパーのプライヴェート録音も無数にあるので、とんでもない騒ぎなのです。

1969.11.08……Dick's Picks Vol 16 (jam only)
studio 1970……Workingman's Dead
1970.05.02……Dick's Picks Vol 8
1970.12.23……Workingman's Dead (remastered CD bonus)
1971.04.27……Ladies And Gentlemen ... The Grateful Dead
1971.08.24……Dick's Picks Vol 35
1972.09.17……Dick's Picks Vol 23
1972.09.27……Dick's Picks Vol 11
1974.03.23……Dick's Picks Vol 24
1974.08.06……Dick's Picks Vol 31
1974.10.19……Grateful Dead Movie (DVD and CD)
1977.05.19……Dick's Picks Vol 29
1979.12.26……Dick's Picks Vol 5
1989.10.16……Nightfall Of Diamonds
1990.03.24……Dozin' At The Knick

◆ スタジオ録音 ◆◆
UJBのスタジオ録音は、デッドの最初のアコースティック・アルバムであるWorkingman's Deadに収録されています。Dire WolfEyes of the Worldのときにも書きましたが、Workingman's Deadは、デッド史における最重要アルバムの一枚です。このアルバムで一気にファン層が広がり、現在では自壊現象を起こしそうなほどとほうもなく肥大化している、ラージャー・デッドヘッズ・コミュニティー構築への第一歩だったといっていいでしょう。

f0147840_23483381.jpgそれまでわたしが知っていたデッドは、Anthem of the SunとLive/Deadに記録された、実験音楽のバンドなので、個人的にも、このアルバムをはじめて聴いたときには驚きました。UJBはアルバム・オープナーですから、どんな音なのかわかっていないときに、アコースティック・ギターのイントロが流れてきたのだから、「えっ?」でした。

しかし、意外ではあったものの、デッドの文脈を離れて、もっと大きな時代の文脈からいえば、アコースティック・サウンドへのシフトはごく自然なことで、驚天動地の驚きというほどのことはなく、やっぱりな、と一面で納得もしました。

ビルボード・チャートには反映されませんでしたが、Uncle John's Bandは、当時、アメリカで勃興しつつあった各地のFM局(AM局が短い曲しかかけないのに対して、長い曲やアルバム全体をかけた)ではヘヴィー・ローテーションで流され、デッドというバンドを広く知らしめる結果になったそうです。

f0147840_23493112.jpgそれももっともだというサウンドです。イントロからして、じつに気持のいい音色とグルーヴなのです。ビル・クルツマンとフィル・レッシュのグルーヴというと、それまではハイ・テンション、ハイ・イナージーだと思っていましたが、この二人が、じつはゆったりした、懐の深いグッド・グルーヴもつくれることがこの曲でわかりました。デッドをグルーヴのバンドと考えはじめたのも、このアルバムからです(とくにCumberland BluesとDire Wolfがいい)。

ここからの数年間は、クルツマン=レッシュのグルーヴを聴いているだけでも十分に楽しめるほどなのですが、この転換が起きた理由は、やはり、このアルバムで、それまでとは異なるアプローチが必要になり、表現(ベースでいえばラインの取り方、ドラムならフィルインや変拍子のプレイ)より、グルーヴを強く意識するようになったからではないかと、現在では考えています。

さまざまな意味できわめて重要な、ひょっとしたらデッド史の最大の転換点になった曲が、スタジオ録音のUncle John's Bandです。

◆ 1970年録音2種 ◆◆
f0147840_23543183.jpgUncle John's Bandのもっとも古いライヴ・ヴァージョンは、Dick's Picks Vol.16に収録された69年11月8日のエレクトリック・セットのものですが、これは歌なしで、中間部のAm7にいくところのフレーズを中心としたジャムです。歴史的意義はありますが、それ以上のものではないでしょう。

つぎはDick's Picks Vol 8に収録された、70年5月2日ヴァージョン。これはアコースティック・セットですし、スタジオ録音とほぼ同時期なので、スタジオ盤にもっとも近い雰囲気のあるライヴ録音です。

f0147840_23551379.jpg昔読んだものでは、初期のアコースティック・セットは、ガルシアとウィアの二人だけか、ここにニュー・ライダーズのメンバーが加わるだけだったとされていましたが、アーカイヴ・テープが出てきてみると、フル・メンバーでやっているものがずいぶんあります。この日も、控えめながら、ドラムとベースがちゃんと入っています。わたしは、UJBはアコースティックの曲と考えているので、このヴァージョンは好みです。

このUncle John's Bandの最後には、ガルシアのアナウンスが収録されています。どうやら、第一部のエンディングだったようで、われわれはこれでしばらく引っ込む、つぎはニュー・ライダーズがステージに上がる、そのあとはエレクトリック・グレイトフル・デッドだ、といっています。「アコースティック・デッド」だの、「エレクトリック・デッド」だのというのは、デッドヘッズが使う俗称みたいなものと思っていましたが、ガルシア自身がいっているのなら、これは正式名称なのだな、とよけいなことを思いました。

f0147840_00524.jpgつぎはWorkingman's Deadのリマスター拡大版に収録された、70年12月23日ヴァージョン。これはエレクトリック・セットです。しかし、たんにギターをアコースティックからエレクトリックに持ち替えただけという雰囲気で、アレンジも構成もオリジナルからそれほど遠くないものになっています。

ボブ・ウィアはしばしば音程を外していますし、ガルシアのギターもミス・タッチがありますが、全体の雰囲気は好みです。ストップ・タイムからエンディングにかけての盛り上げもけっこう。最後にガルシアとウィアがThanks a lot, see you laterといっているので(きれいにハモっているので笑ってしまう)、第一部のエンディングだったことがわかります。

◆ 71年から73年まで ◆◆
f0147840_03055.jpg71年最初のものは、Ladies and Gentlemen...The Grateful Deadに収録された、フィルモア・イーストで71年4月27日に録音されたヴァージョンです。まだアコースティック・ヴァージョンの尻尾がついているエレクトリック・ヴァージョンですが、クルツマンがスネアのフレーズをすこし変え、パラディドルを減らし、バックビートを増やしていて、過渡期という印象のプレイです。わたしはこの時期のクルツマンのスネアのチューニングが好きなので、これはこれで悪くないと思います(ミッキー・ハートはドラムではなく、ウッドブロックを叩いているらしい)。全体には、まだアコースティック・ヴァージョンの雰囲気が濃厚に残っています。

Dick's Picks Vol.35収録の71年8月24日ヴァージョンは、スタジオ録音のときのスタイルからすこし離れはじめています。とくにクルツマンが、パラディドルをやめ、あくまでもバックビート中心のプレイをしていることが目立ちます。Uncle John's Bandのヴァージョンとしての出来を云々する以前に、クルツマンのプレイが楽しくて、きれいなライド・ベルやスネアのサウンド、そして、この曲でもついに「攻め」に転じたフィル・レッシュの強いベースのほうを聴いてしまいますが、ヴォーカルもまあまあで、悪くないヴァージョンだと感じます。

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つぎは72年に移り、Dick's Picks Vol 23収録の72年9月17日ヴァージョン。これはちょっと違和感があります。テンポが速すぎるのです。デッドはしばしばテンポを変えますが、これはアレンジ変更の際の手続きのようなもので、どうやるのがいちばんいいか模索する途上での「ためらいキズ」のようなものだと考えています。Uncle John's Bandについては、このテンポはダメだ、と判断したのではないでしょうか。

Dick's Picks Vol 11収録ヴァージョンは、Vol.23のわずか十日後、72年9月27日の録音ですが、テンポはもとにもどっています。テンポがもどったせいか、エレクトリック・アレンジも落ち着きはじめたという印象のあるヴァージョンです。これ以前からすでにキース・ゴッドショーが参加していますが、Uncle John's Bandでピアノがはっきり聞こえるのは、このヴァージョンが最初です。本質的なことではないのですが、ピアノ入りもいいなあ、と感じます。

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73年録音のUncle John's Bandはうちにはなくて(Winterland 1973 - The Complete Recordingsというボックス・セットには73年ヴァージョンが2種収録されている)、つぎは74年に飛び、Dick's Picks Vol 24収録の74年3月23日の2種です。同じセットで2回やったわけではなく、サウンド・チェックでプレイしたものです。そういうものまで正規盤に収録されてしまうのところがいかにもデッドらしいところ。サウンド・チェックでは参考程度の意味しかありませんが、ひとつだけ注目すべきことがあります。ボブ・ウィアがミュートを使っているのです。

◆ 74年の2種 ◆◆
f0147840_0171967.jpgつぎのDick's Picks Vol 31収録の74年8月6日ヴァージョンを聴くと、やはりウィアはあちこちでミュートを使っています。いいんだか悪いんだか、なんとも判断がつきませんが、スタジオ盤からかなり遠いところまできた証左ではあるでしょう。

アコースティック・ヴァージョンが躰に染みこんでいる人間にとっては、かなり違和感があるのはたしかですが、Uncle John's Bandではないと思って聴けば、これはこれでいいのかもしれないと思います。インプロヴに突入すると、まったくべつの曲のような気がしてきてしまうんですがねえ。ジャムが終わって歌にもどると、やっぱりUncle John's Bandなので、かえって驚いてしまうほどです。このヴァージョンからプレイング・タイムが10分を超えるようになるのも偶然ではなく、アコースティックの曲ではなくなり、エレクトリックの曲になった証拠です。

The Grateful Dead MovieおよびそのサウンドトラックCDに収録された、74年10月29日ヴァージョンを聴くと、ああ、やっぱり、72年からこの曲はちょっとダレはじめたのだな、と感じます。いや、このヴァージョンがよくないからではなく、逆に、ピシッとしたパフォーマンスだからです。

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ひところ、ガルシアがこの映画の編集にかかりきりだったというだけあって、どの曲も、無数の選択肢のなかから、非常にいいヴァージョンが収録されています。Uncle John's Bandも、全体としてみれば非常にいい出来だと思います。もちろん、あくまでもエレクトリック・ヴァージョンとしては、という限定つきですが、ガルシアのソロもいいし、ゴッドショーのピアノも、やっとこの曲での落ち着き場所を見つけたと感じます。オーディエンスの反応もよく、UJBがデッドを象徴する曲だというコンセンサスができあがったと感じます。

◆ 70年代後半以降 ◆◆
75年と76年は休眠期があることもあって、うちにはUJBはひとつもありません。正規盤としては、76年のLive at the Cow Palaceに収録されたヴァージョンがあるようですが、この盤はうちにはありません。

Dick's Picks Vol 29収録の77年5月19日ヴァージョンになると、アコースティック・ヴァージョンは遠くなりにけり、べつの曲だと思って聴いたほうがいいムードです。全員、スタジオ盤でやったプレイがどんなだったか、もう忘れちゃったにちがいありません。トーンもスタイルもラインもまったくスタジオ盤には似ていません。デッドの曲はしばしばそうなることになっていますが、この曲もついにジャムのヴィークルになったか、という感じです。ランニング・タイムも11:47と、現在までにリリースされたUJBとしては最長。

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78年(休止期か?)の録音は、うちにないだけでなく、リリースされたものがなく、つぎはDick's Picks Vol 5収録の79年12月26日ヴァージョン。これはちょっとどうも……。キーボードがキース・ゴッドショーからブレント・ミドランドになるのは80年だと思っていましたが、このヴァージョンのキーボードはミドランドで、ハイ・ハーモニーも彼の声です。ミドランドの声とキーボードはわたしの天敵で、三十六計逃げるに如かず。Dick's Picks Vol 5にはもうひとつ、Shakedown Street後半のジャムからなだれ込む、短いUJBが収録されていますが、当然、どうというものでなし。

つぎはずっと飛んで、Nightfall Of Diamonds収録の1989年10月16日ヴァージョン。もう箸にも棒にもかからないというべきでしょう。ほかのだれの声よりも、ブレント・ミドランドの声が大きく、しかも、みごとに外しまくっていて、最後まで聴くことすらできません。

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つぎは買ったことをおおいに後悔した、Dozin' At The Knick収録の1990年3月24日ヴァージョン。ミドランドが不愉快なだけでなく、この時期になると、クルツマンのスネアのチューニングがひどく低くなり、フィル・レッシュが高音部でのにぎやかなプレイをしなくなります。かつて愛したバンドが最後はどうなっていくのかという興味だけしかありません。

◆ その他のヴァージョン ◆◆
もうおしまいにしてもいいのですが、ウェブで手に入れたプライヴェート録音ヴァージョンその他にもふれて、Uncle John's Band棚卸しを完璧に終えておきたいと思います。

1970年1月16日、ポートランドのSpringer's Innで録音と記載されたものは、あらあらという脱力ヴァージョン。まだスタジオ録音もしていない段階での貴重な録音でしょうが、しかし、デモという雰囲気で、アレンジもまだ固まっていないことがうかがわれます。デッド史の脚注でしょう。

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Terrapin Station、Playing in the Band、Jam、Uncle John's Band、I Need A Miracle、Birtha、Good Lovin'、Casey Jonesとつづく1時間14分以上の長いものの一部としてUJBが登場するファイルもあります。録音日時は不明で、タグにはunknow 80's recordingとだけ記載されていますが、ミドランドの声とキーボードが聞こえるので、80年代であることは間違いありません。

UJBの出来がどうこうという以前に、この長丁場をほとんど止まらずに一気にやっているのに呆れます(76年の浅草国際のときのフランク・ザッパ&ザ・マザーズを思いだす)。初期からそうですが、こういうとき、どうやってタイミング出しをしているのかは興味深いところで、いくつか見たものでは、どうやらおもにガルシアが振り返り、ドラマーたちに目、口、手などできっかけを出しているようです。それにしても、それだけでどうにかなるのは、発足以来、生きたまま抜けたオリジナル・メンバーはいないバンドらしいところだと思います(抜けたのは途中加入のメンバーか、ロン・マカーナンとジェリー・ガルシアという在籍時死亡のオリジナル・メンバーのみ)。

でも、80年代のものとしては、このUJBはいいほうの部類なのではないでしょうか。ほんとうにプライヴェート録音かよ、という音質で、テーパー席(デッドのライヴでは、録音するオーディエンスのために特別席が設けられていた!)で録音したものではなく、サウンド・ボードからダイレクトに録ったものに思われます。正規盤並みの音質。UJBも悪くありませんが、ほかの曲のほうはもっとよくて、好調の日の録音です。

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フィル・レッシュのバンド、フィル・レッシュ&フレンズも、Uncle John's Bandをカヴァーしています。世界各地にあるシャドウズやヴェンチャーズのコピー・バンドと似たような存在なのですが、ホンモノがひとり入っているだけで、「ニセモノ感」はおおいに減じられるらしく、デッドのコピーに堕していないところが、このグループの面白いところです(デッド・コピー・バンドというのもけっこうあって、その名もアンクル・ジョンズ・バンドという名前のグループもある)。

フィル・レッシュ&フレンズのUJBはサンバ・アレンジです。後期デッドからブレント・ミドランドを抜いたような音で、ミドランド嫌いのわたしとしては、それなりに楽しめる音です。こうなると、ヴォーカルがピッチを外しているところまでがご愛敬に思えてきます。

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◆ 70年代初期のブート ◆◆
ブートももっています。初期のブートにはよくあったことで、録音日もロケーションも記載されていませんが、音からいって70年代初期、それも70年か71年のものと思われます。あまりいい音質とはいえませんし、モノーラルですが、それでも、70年代後半以降のUJBを聴いたあとだと、やっぱりこのほうがいいと感じます。

かなり出来はいいので、これがどの日の録音か同定したくなってきます。コンプリート・セットリスト・サイト(デッドのライヴがすべて記録されている!)を調べ、このあたりのプライヴェート録音を徹底的に収拾して、きちんと比較すればいいのですが、考えただけでも気が遠くなってしまいます。

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Grateful Dead "San Francisco 1" The early boot LP of the early 70's, recording date unknow, possibly 1970 or 71.
初期のブートをご存知のオールドタイマーなら懐かしいであろう、「品質保証」のブタ印ブート。あのころはこのような無地にスタンプを押したようなジャケットばかりで、デザインされたものは稀だった。ファクトリー・シールぐらい剥がしてスキャンしろよ、といわれそうだが、これにはやむをえない事情がある。それについてはつぎの写真のキャプションをご覧あれ。

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同じブートLPの裏。しかし、これはジャケットに糊づけすらされていない。ジャケットとシールのあいだにはさんであるだけ。おかげで、ひょいと抜き出してスキャンできたので楽だった!

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盤はイエロー・ビニール。レーベルにはアーティスト名やタイトルなどは記載されていなくて、他の盤にも使える汎用のもの。レーベルの円周に沿って、All rights reservedだのなんだのとタワゴトが並べてある。許可を得ずにこのディスクをコピーするのを禁ずる、などといっているが、そういうお手前が海賊盤業者ではないか! オールドタイマーはよくご記憶だろうが、70年代はじめのブートは日本に入ると4000円なんていう価格になったので、恨み骨髄に徹している。柏木にあったあの新×レコードが消えたときは、ボラれまくった人間として快哉を叫んだものである。

年老いたオリジナル・ヘッズだけの考えかもしれませんが、Uncle John's Bandは、やはり本来アコースティックの曲であり、どのヴァージョンがいいかとなれば、なによりもオリジナルのスタジオ録音、つぎがアコースティック・セットのライヴです。エレクトリック・ヴァージョンも、せいぜい72年ぐらいまでの、アコースティック・ヴァージョンの雰囲気を濃厚に残したものがいいと感じます。

いま、元にもどって、はじめから流していますが、Workingman's Deadリマスター拡大版収録のUJBは、エレクトリック・ヴァージョンとしては最良なのではないかと感じました。


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by songsf4s | 2008-05-12 23:58 | 風の歌
Uncle John's Band by Grateful Dead その1
タイトル
Uncle John's Band
アーティスト
Grateful Dead
ライター
Robert Hunter, Jerry Garcia
収録アルバム
Workingman's Dead
リリース年
1970年
他のヴァージョン
various live versions of the same artist, Phil Lesh & Phriends
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これまでにもいろいろ大物を取り上げてきましたが、書きはじめたいまも、ほんとうにこの曲をやるのかよ、と自分自身に確認しています。なんたって、デッドヘッズにとっては「国歌」みたいな曲で、これが流れたら、起立、脱帽、直立不動で斉唱、てなものなんですからね。

先月の馬鹿ソング特集では、当ブログの三役である、グレイトフル・デッド、キンクス、プロコール・ハルムの曲をまったく取り上げませんでした(特集が終わってから、ハルムのHomburgは馬鹿ソングだったことに気づいた)。今月は、ハルムは登場しないものの、キンクスは登場の予定ですし、デッドにいたっては山ほどあり、絞りに絞り込んで、やっと三曲まで減らしましたが、これ以上は無理なので、いまは三曲とも取り上げる気でいます。よって、そろそろとりかからないと、今月下旬は屍累々のデッドだらけになってしまいそうなのです。

この曲には長い年月のあいだに、デッドの歴史とともにいろいろな属性が付与されてきましたが、そうしたことはあとにして、まずは歌詞を見ていくことにします。といっても、今日じゅうに最後までたどり着ける見込みは立たず、ひょっとしたら、歌詞だけで二日がかり、20種におよぶヴァージョンの検討にまた二日、なんてことになるのではないかと心配しています。デッドがやっても短い曲ではなく、時代が下ると10分台に突入しますが、フィル・レッシュ&フレンズのカヴァーにいたっては20分を超えるため、ただ聴くだけだって、ただごとではないのです。

You Tubeに1980年のレイディオ・シティー・ミュージック・ホールでのライヴ・ヴァージョンがありますので、よろしかったらどうぞ。すでにキーボードはブレント・ミドランドなので、わたしの好まない時期のものですが、公平にいって、いいほうの出来です。すくなくとも、いつもは外しまくるボブ・ウィアが比較的まともに歌っているので、デッドに不慣れな方でも大きな違和は感じないだろうと思います。警告しておきますが、デッドの場合、ハーモニーは「外すためにある」ので、ピッチがどうこうという批評は、はじめから無効です。

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◆ バック・ダンサーズ・チョイス ◆◆
ではファースト・ヴァース。例によって、デイヴィッド・ドッドの注釈入りデッド歌詞サイトに掲載されているものをそのまま使います。行の区切り、大文字小文字の使い分け、カンマなど、まったくいじっていません。

Well, the first days are the hardest days,
don't you worry anymore
When life looks like Easy Street
there is danger at your door
Think this through with me
Let me know your mind
Wo-oah, what I want to know
is are you kind?

「最初のうちがいちばんきついものさ、だから心配することはない、生活が楽になったと思ったときこそ、すぐそこに危険が近づいているものだ、いっしょにこのことをよく考えてみよう、きみの気持を教えてくれないか、ぼくが知りたいのは、きみがやさしい心の持主かどうかということだ」

f0147840_2131640.jpg歌詞のいっていることとは逆に、ファースト・ヴァースがいちばん楽です。問題になるのはeasy streetぐらいでしょう。辞書には「《口》 裕福な境遇、金に困らない身の上」とあります。日本語の「生活が楽」「暮らし向きがよい」というニュアンスより、もっと金がある状態でしょう。また、チャップリンの映画にEasy Streetというタイトルのものがあるとも出ています。ロバート・ハンターはしばしばいろいろなものを引用するので、そういうこともつねに念頭に置かなくてはいけないのです。

言葉の表面的な意味はむずかしくないのですが、なにをいわんとしているかとなると、むずかしいヴァースです。この曲は反戦歌として解釈することもできるので、そういう前提で読み直すと、その方向に沿った解釈も可能だとわかりますが、とりあえず、いまは限定せずにおきます。

セカンド・ヴァース。

It's a Buck Dancer's Choice, my friend,
better take my advice
You know all the rules by now
and the fire from the ice
Will you come with me?
Won't you come with me?
Wo-oah, what I want to know,
will you come with me?

「これはバック・ダンサーズ・チョイスなんだ、ぼくのアドヴァイスをきいておくほうがいいと思うよ、もうこれですべてのルールはわかったはずだし、火と氷の区別もつくだろう、さあ、いっしょに来るかい? 頼むから来たまえよ、きみがいっしょに来るかどうか、それが知りたいね」

f0147840_1571249.jpgBuck Dancer's Choiceについては、いろいろな説が入り乱れています。Buck Danceというのは、19世紀終わりに登場したダンスで、シンプルなタップ・ダンスのようなものだそうです。buck-and-wingともいうそうで、このほうの語義は、リーダーズでは「黒人のダンスとアイルランド系のクロッグダンスの入りまじった複雑な速いタップダンス」となっていて、「シンプル」という他の辞書の定義と矛盾します。ともあれ、まずこれが一説。

他の意見としては、Buck Dancer's Choiceというタイトルの曲があり、それを指すというのもあります。これはfiddle tuneだというのだから、フォーク・ダンスのようなものだと思われますが、この曲が演奏されたら、buck=男鹿、つまり、男のほうがパートナーを選べるのだそうです。ほかにもさまざまな意見がありますが、わたしには、これがこのヴァースの文脈に合う、もっとも妥当な解釈のように思えます。

◆ 潮の満ちてくる川の畔 ◆◆
以下は、なんといえばいいのかよくわからない部分。ヴァースではないし、コーラスでもないのです。ということは、消去法でブリッジということになってしまいますが、それにしては位置が奇妙です。でも、現にそこにあるのだから、ああだこうだいってもはじまりません。

Goddamn, well I declare
Have you seen the like?
Their walls are built of cannonballs,
their motto is Don't Tread on Me

「なんてことだ、こいつは驚いた、これに似たものを見たことがあるか? 壁は砲弾でできている、連中のモットーは『俺を踏みつけるな』だ」

はじめからよくわかっていないのですが、ここにきていよいよ脈絡を失った感じです。デイヴィッド・ドッドの注釈では、Don't Tread on Meというのは、アメリカの愛国者、クリストファー・ギャズデンがデザインした「ギャズデン・フラグ」という旗に書かれたモットーなのだそうです。サンプルをいただいてきたので、ご覧あれ。

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つまり、踏みつけてみろ、ただじゃおかないからな、という威嚇なのでしょう。この旗のヘビは、ヤマカガシなんかではなく、ガラガラヘビだそうです。独立戦争のとき、バハマのイギリス基地を襲ったアメリカ海兵隊のドラムにも、このシンボルが描かれていたそうです。以上、砲弾でできた壁と平仄は合っています。

意味はなんだ、といわれると、口ごもらざるをえませんなあ。ひとつだけいえることは、このUncle John's Bandが書かれたとき、アメリカはヴェトナム戦争の泥沼でもがいていた、ということです。「これに似たもの」の「これ」はヴェトナム戦争を指しているのではないでしょうか。この線に沿って解釈すると、theirが指しているのは、アメリカの戦争推進派ではなく、ヴェトナムのことである可能性もあるように思います。アメリカはガラガラヘビを踏んでしまった、と。

つづいてコーラス。ここにコーラスがくるのです。ヴァースのあと、コーラスのまえなんていうところにブリッジがあるはずがない、というので、まえの4行をなんと呼べばいいのかわからなくなったのです。

Come hear Uncle John's Band
by the riverside
Got some things to talk about
here beside the rising tide

「この川の畔に来て、アンクル・ジョンズ・バンドを聴かないか、この満ちてくる潮のそばで話し合いたいことがあるんだ」

川の畔なのに、潮が満ちてくるということは、河口に近いということになります。どこか特定の川を指していたのかどうかはわかりません。ポトマック河だったりして? いや、これはただの思いつき。あの時代、戦争推進派のバンドなんていうのはめったになく、デッドも当然、戦争反対派でした。「話し合うべきこと」とは、戦争のことなのか、それとも、そんなふうに限定しないほうがいいのか、なんともいえません。仮に、あくまでも仮に、ヴェトナム戦争の文脈で捉えるなら、セカンド・ヴァースのwill you come with meという問いかけは、きみは戦争についてどちらの側に立つのだ、と解釈できるような気が、ここまでくるとしてきます。

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◆ 風のごとく去る ◆◆
サード・ヴァース。

It's the same story the crow told me
It's the only one he know
like the morning sun you come
and like the wind you go
Ain't no time to hate,
barely time to wait
Wo-oah, what I want to know,
where does the time go?

「それはカラスに聞かされたのと同じ話、あいつはこの話しか知らないんだ、きみは朝の太陽のようにやってきて、風のように去る、憎んでいる時間なんかない、待てる時間もほとんどない、ぼくが知りたいのは、時はどこへいってしまうのかということ」

カラスねえ。単純に伝承を探ると、たとえば世界大百科のカラスの項には、西洋の伝承として「カラスは不気味な鳴声、黒い姿から不吉な鳥とされ、死と関係づける俗信が多い。家のまわりをカラスが飛ぶのは死の前兆とされ、カラスの群れがけたたましく空中を飛びかうのは戦争を予言するのだという」とあります。また、ギリシャ神話には、告げ口をするおしゃべりな鳥として出てくるそうです。さらに、ジョニー・ホートンの1964年のシングルに、Same Old Tale The Crow Told Meという曲があるようです。そして、カラスといえば、エドガー・アラン・ポーの『大鴉』も無視するわけにはいかんだろう、という意見も当然ながらあります。

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「風のように去る」というと、日本人の場合、「風林火山」の「疾きこと風のごとし」を思い浮かべます。そんなの関係ないだろう、なんて頭から否定しないほうがいいのです。ロバート・ハンターは日本文化にも関心があり、歌詞のなかに「招き猫」を登場させたり(いや、断定はできないが、そう考えることができる)、芭蕉にインスパイアされたと思われる歌詞も書いています。

◆ この曲はどう進むのか? ◆◆
フォースにして最後のヴァース。

I live in a silver mine
and I call it Beggar's Tomb
I got me a violin
and I beg you call the tune
Anybody's choice
I can hear your voice
Wo-oah what I want to know,
how does the song go?

「ぼくは銀の鉱山に住んでいて、ここを乞食の墓穴と呼んでいる、ヴァイオリンをもっているんだけれど、なにか曲をあげてくれないか、だれのお好みでもかまわない、君たちの声は聞こえているよ、ぼくが知りたいのは、その曲がどういう風になっているかということだけさ」

むずかしいですねえ。デイヴィッド・ドッドのサイトにも、このヴァースについてはなんの意見も寄せられていません。文字通りに受け取ると、ここは戦争とは関係ないように読めるのですが、どうですかね。ロバート・ハンターの歌詞は、しばしば音楽、バンド、聴衆について語っています。そういう流れからいうと、ここはデッドとデッドヘッズのことを歌っているように、わたしには思えます。でも、silver mineとはなんのことなのか? beggar's tombはなにを指すのか……見当もつきません。

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最後のコーラス。

Come hear Uncle John's Band
by the riverside
Come with me or go alone
He's come to take his children home
Come hear Uncle John's Band
playing to the tide
Come on along or go alone
he's come to take his children home

「アンクル・ジョンズ・バンドよ、この川の畔に来ないか、ぼくといっしょに来るか、それともなければ、ひとりでいくか、彼は自分の子どもたちを連れ帰りにやってきた、アンクル・ジョンズ・バンドよ、潮の満ち干に合わせてプレイしてくれ、いっしょに来るか、ひとりでいくか、彼は自分の子どもたちを連れ帰りにやってきた」

何度いっしょに歌ったかわからないコーラスですが、いざ、意味を考えてみると、なんのことなのか、さっぱりわかりません。シングアロングした経験からいうと、ここは音としてうたって楽しいくだりです。高校生のときは、「潮の満ち干に合わせてプレイする」というのは、きれいなイメージだと思いました。いまでも悪くないと思いますが、そんなことをいっても解釈にはなんの多足にもなりませんな。

これでなにかを書いたことになるのかどうか、いたって心もとないのですが、まあ、とにもかくにも、よろめきつつではあれ、最後までたどり着けたので、諒としてください。本日は歌詞を見るだけで精いっぱいだったので、音の検討は明日以降にさせていただきます。

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by songsf4s | 2008-05-11 23:30 | 風の歌