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タグ:キンクス ( 3 ) タグの人気記事
Father Christmas by the Kinks
タイトル
Father Christmas
アーティスト
The Kinks
ライター
Ray Davies
収録アルバム
Come Dancing With the Kinks: The Best of the Kinks 1977-86
リリース年
1977年
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◆ いいだしかねて…… ◆◆
キンクスのレイモンド・ダグラス・デイヴィスは、わたしにとってはもっとも重要なソングライターです。中学のときから聴きつづけ、いまでもロックンロール史上最高の作詞家と思っているのだから、たぶん棺桶に入るときも、まだ同じように思っていることでしょう。

f0147840_00783.jpgレイモンド・ダグラスは、その長い長いキャリアのなかで、クリスマス・ソングのようなものを2曲だけ書いています。ひとつは本日のFather Christmas、もうひとつはアルバム、Arthur or the Decline and Fall of the British Empireに収録されたAustraliaという曲です。

後者は、「クリスマス・ソング」といっては強引の誹りをまぬかれないものです。We'll surf like they do in the U.S.A., we'll fly down to Sidney for a holiday, on a sunny Christmas dayという一節が、クリスマスに関係するだけだからです。もっとも、わたしのような得手勝手な人間は、あっさり「RDのクリスマス・ソングのひとつ」といってはばかりませんが。

じゃあ、本日のFather Christmasは、正真正銘のクリスマス・ソングか、というと、これがまた、すくなくとも、ふつうの人が楽しいときに聴く曲ではないのはたしかです。ダウナーなのです。まあ、レイモンド・ダグラスがストレートなクリスマス・ソングを書くはずもなく、彼の長年のファンとしては、これくらいのダウナーは当たり前と受け取るのですけれどね。

とまあ、そのような事情があって、ついに本番の特集のあいだはこの曲を持ち出すことができず、特集の尻尾、フェイドアウトというか、コーダというか、はみ出した場所に配置することになりました。

The Kinks - Father Christmas


◆ トナカイの災難 ◆◆
それでは歌詞を見ていきます。やや長めですが、Baby It's Cold Outsideのようなことはありませんから、しばらくご辛抱を。ファースト・ヴァース。

When I was small I believed in Santa Claus
Though I knew it was my dad
And I would hang up my stocking at Christmas
Open my presents and I'd be glad

「幼いころはサンタクロースを信じていた、もっとも、それが父親だということはわかっていたけれどね、クリスマスには靴下を吊し、プレゼントを開けては喜んだものさ」

dadとgladの脚韻はなかなかです。RDらしさをチラリと感じます。それにしても、この幼時の回想は、のちの嵐の予感をすでにはらんでいます。つづいてセカンド・ヴァース。

But the last time I played Father Christmas
I stood outside a department store
A gang of kids came over and mugged me
And knocked my reindeer to the floor

f0147840_013937.jpg「でも、最後にサンタクロースを演じたとき、つまりデパートの外にサンタの恰好をして立ったんだけれどね、そのとき、子どもの一団がやってきて、俺に襲いかかり、俺のトナカイを床に殴り倒してしまったんだ」

長じてサンタのアルバイトをする語り手は、あまり仕合わせのよい人生は送っていないのでしょう。そこにこの設定のポイントが隠れていると感じます。弱者が弱者に襲いかかる構図です。

◆ サンタの災難 ◆◆
以下はコーラス。いくぶん変形しながら、以後、繰り返し歌われることになるパートです。

They said:
Father Christmas, give us some money
Don't mess around with those silly toys
We'll beat you up if you don't hand it over
We want your bread so don't make us annoyed
Give all the toys to the little rich boys

「奴らはこういうんだ、サンタのおっさん、金を寄こせよ、あんな馬鹿みたいな玩具で俺たちの邪魔をするんじゃねえぞ、そんなもの渡したら、ぶちのめしてくれるからな、ほしいのは現ナマさ、だから邪魔するのはやめろ、そんな玩具なんか、みんな金持ちの小僧どもにやっちまえ」

breadはもちろんパンのことです。そのまま受け取っても結果は同じことですが、ここは俗語の「現ナマ」の意味でいっているのでしょう。

f0147840_03475.jpgこういうことがらというのは、時代にかかわらず存在したのですが、昔はそれをストレートに表現しなかったわけで(60年代のこのタイプの曲として、ロイ・オービソンのPretty Paperを取り上げています)、その点に時代の変化を感じます。

サード・ヴァース。

Don't give my brother a Steve Austin outfit
Don't give my sister a cuddly toy
We don't want a jigsaw or Monopoly money
We only want the real McCoy

「俺の弟に『600万ドルの男』の扮装なんか寄越すんじゃねえぞ、妹に可愛い玩具もいらない、俺たちはジグソー・パズルも、『モノポリー』ゲームの玩具の金もいらない、ほしいのはホンモノだけだ」

スティーヴ・オースティンは、ドラマ『600万ドルの男』でのリー・メイジャーズの役名だそうです。知りませんでしたが。われわれが幼いころ、『月光仮面』の扮装をして遊んだのと同じようなことなのでしょう。ウルトラマンだの、仮面ライダーだの、それぞれの世代に、それぞれのお好みがあるでしょうが。

◆ 玩具のかわりにマシンガン ◆◆
フォース・ヴァース。

But give my daddy a job 'cause he needs one
He's got lots of mouths to feed
But if you've got one, I'll have a machine gun
So I can scare all the kids down the street

「でも、うちの親父に仕事は寄こせ、親父には仕事が必要なんだ、食わせなければならない口がいっぱいあるんだからな、でも、おまえがもっているなら、俺にマシンガンをくれ、街にいる小僧どもみな震えあがらせてやるんだ」

えらいことをいう子どもですが、よそごとといってはいられない状況が日本にも伏在していて、ちょっと怖さを感じます。この歌を書いてからずいぶんたってからのことですが、レイ・デイヴィスは、連れの女性の財布を奪った男を追いかけ、脚を撃たれたそうです。ひょっとしたら、そのとき、自分がかつて書いたこの曲のことを思いだしたかもしれません。

RDの父親は長いあいだ失業していたと自伝に書かれています。RD自身、若くして失業し、職業安定所にいって、父親にばったり会ってしまったときのことを、父の胸中を思いながら、感慨深げに回想しています。

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最初のものとはいくぶん異なるブリッジ。

Father Christmas, give us some money
We got no time for your silly toys
We'll beat you up if you don't hand it over
We want your bread so don't make us annoyed
Give all the toys to the little rich boys

「サンタのおっさん、金を寄越しな、くだらない玩具なんかどうでもいいんだよ、金を寄越さないなら、ボコボコにしてやるからな、俺たちがほしいのは金だ、だから邪魔すんじゃねえ、そんな玩具なんか、みんな金持ちの小僧どもにやっちまいな」

最後のヴァース。

Have yourself a merry merry Christmas
Have yourself a good time
But remember the kids who got nothin'
While you're drinkin' down your wine

「みなさんには愉快な、愉快なクリスマスをどうぞ、どうか楽しいひとときをお過ごしください、でも、ワインを飲みほすときには、なにひとつもたない子どもたちのいることをお忘れなく」

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◆ 有害な正直さ ◆◆
レイ・デイヴィスは、カクテル・パーティーで思わず本音をいってしまうような人なのだと思います。他人のネクタイを褒められず、首にぶら下げるより、そこに首をぶら下げるほうが似合う、などといってしまうタイプの人です。じっさい、自伝のなかで、パーティーは嫌いだとはっきりいっていますし、ひどいパーティーのことも書いています。

f0147840_093878.jpgそれが彼とキンクスのキャリアに大きな災いをもたらしたこともありましたが(不愉快なことをしつこくいうアメリカ音楽家組合関係者を殴り倒し、以後、アメリカ市場から長いあいだ閉め出されたのもそのひとつ)、ひとつだけはっきりいえることがあります。正直で、誠実な人間であり、きれいごとの嘘っぱちはいわない、ということです。

クリスマスにこんな曲を聴きたいリスナーがいるとは、レイモンド・ダグラスも考えてはいなかったでしょう。それでも、こういう曲を書いてしまう人なのです。RDはほとんどつねに、Right place, wrong timeまたはWrong place, right timeの人でした。しかし、人々の目が同じところに集まっているときに、ふと、その反対側に視線をやることこそ、鋭敏な詩人の最大の資質です。

せっかく、きれいにクリスマス・ソング特集をやってきたのだから、こんな曲、持ち出さなければいいのに、と思いつつ、もっとも愛するソングライターの、ダウナーな曲を取り上げずにはいられないのだから、RD同様、わたしもWrong place, right timeかもしれません。「本番」が終わるまで日延べしたことが、わたしのせめてものみなさまへの気遣いです。


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キンクス
Come Dancing: Best of Kinks 1977-86 (Hybr) (Dig)
Come Dancing: Best of Kinks 1977-86 (Hybr) (Dig)
by songsf4s | 2007-12-27 00:04 | クリスマス・ソング
Autumn Almanac by the Kinks その2
タイトル
Autumn Almanac
アーティスト
The Kinks
ライター
Ray Davies
収録アルバム
Singles Collection
リリース年
1967年
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◆ 生まれ育った土地への執着 ◆◆
さっそく昨日のつづきで、第五ブロック。これまでに出てこなかったメロディー、コード・パターンで、第二のブリッジのようになっています。そんなものを表現する用語はないのですが!

This is my street
And I'm never gonna leave it
And I'm always gonna stay
If I live to be ninety-nine
'Cause all the people I meet
Seem to come from my street
And I can't get away
Because it's calling me
Come on home
Hear it calling me
Come on home

「ここはわたしの通り、けっしてここから離れることはないだろう、たとえ99歳まで生きたとしても、ずっとここにいる、会う人会う人がみなわたしの通りからやってきたように思えるから、どちらにしろ逃げることはできない、通りが、帰っておいで、帰っておいでと呼びかけるのだから」

f0147840_235322100.jpg自伝を読んだという有利な地点からいえば、ここは、モデルとなった庭師とRD自身の観点が渾然一体となって表現されたブロックだと感じます。自伝のなかで、彼は、デイヴィーズ邸の庭師となる以前に、この人物を毎日のように見かけていたと書いています。まるで通りに住んでいるように見えたことが、ここに表現されているのではないでしょうか。

また、RDが家族に強い絆を感じていたことも反映されていると感じます。RDはデビューまもなく、まだ十代のうちに結婚しますが、スターが集まる地区には引っ越さず、実家や姉たちの家から歩いていけるところにある、子どものころからよく知っていたクラシックな家に住みます。だから、子どものころから見かけていた人物を庭師に雇ったのです。

彼はこの庭師の仕事ぶりをよく眺めていたそうで、たぶん、共感できるなにかを、この庭師のすがたか、または日々の行動に感じたのでしょう。あえて想像をたくましくすれば、季節のめぐりにシンクロした生活というものへの共感ではないかと思います。

このあとは、すでに出てきたライン、コーラスに聞こえる部分をちょっと変形しながら繰り返して終わります。

Oh, my autumn almanac
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac
Oh, my autumn almanac
Yes, yes, yes, yes, yes, yes, yes, yes

最後のyesを繰り返すところだけが、これまでに出てきていないコード・パターンになっています。

◆ イレギュラー尽くしの楽曲構成 ◆◆
歌詞はいろいろな点でイギリス的であり、同時に「レイ・デイヴィーズ的」とでもいうしかないものですが、曲のほうは、歌詞にもまして、じつになんとも妙な展開をします。

ふつう、ポップ・チューンというのは、せいぜい、ヴァース、コーラス、ブリッジという三要素で構成されるもので(間奏はこのいずれかのパターンを利用する)、ヴァースを何度繰り返そうとも、おおむね同じコード進行だし(まれに、部分的に変化させることはある)、コーラスも同様につくられているものです。

f0147840_23544679.jpgところが、このAutumn Almanacは、そういう常識的な構成はとらず、同じところには戻らない、というルールでつくったかのように、どんどんパターンが変わっていきます。しかも、リーズナブルとはいえないところにジャンプするし、そのうえ、その際に変拍子(基本は4/4だが、3/4や2/4をはさんだりする)まで使うのだから、じつにもって厄介きわまりない造りです。

いちおう、コードをとってみたのですが、まだ穴がありますし、たぶん、ベースとギターとピアノがちがうところを弾いている(言い換えるなら、分散和音になっている)せいで、確信がもてない箇所もあります。しかし、奇妙なコード・チェンジこそがこの曲の「アイデンティティー」なので、とりわけイレギュラーな部分について、すこし検討してみることにします。

以下、楽器をやらない方にはチンプンカンプンのマンボ・ジャンボな話になるので、飛ばしてください。楽器をやる方でも、この曲をご存知ないと、隔靴掻痒にお感じになるでしょうが、一般論として、そのコードからそこへは移動しない、ということがポイントになるので、その点だけつかんでいただければと思います。

譜面やギター・タブ・サイトも参照しましたが、どれも全面的に納得はできず、以下は自分の耳に聞こえたコードを記述しました。譜面やタブ・サイトと意見が分かれたということは、それだけわかりにくい曲だということで、わたしのコードも、間違いがあるにちがいありません。耳のいい方の修正をお待ちしています。

◆ 終わりなき変化 ◆◆
それではコードを見ていきますが、テキストのままだと環境によって見え方が変わる、つまり歌詞とコードの位置関係がズレる恐れがあるので、JPEGにしました。読めるかどうか、おおいに問題ですが、ヴューワーで拡大すれば読めることは確認しましたので、いったん画像を保存していただければ大丈夫でしょう。

なお、JPEGにしたにもかかわらず、歌詞とコードがいくぶんズレているかもしれません。テキスト・ファイルをPhotsoshopに貼りつけたときに、フォントのせいで、コードとコードの空白が詰まってしまい、時間の関係でていねいに修正できなかったのです。おおむね、こういう順番でコードが変わる、ぐらいに受け取ってください。

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冒頭の、歌詞がなく、コードだけの部分はイントロです。これはいたってノーマルなI-IV-Vパターンです。それはいいのですが、歌に入ったとたん、IVのマイナー、すなわちBmになるわけで、いきなり反則技でくるのだから、面喰らいます。

いや、そもそも、イントロがI-IV-Vの形式になっているからといって、このIすなわちF#がキーといえるかどうかも微妙です。どこがキーだかよくわからないのですが、ひょっとしたらAではないかという気もします。コーラスから入るタイプの曲のように、冒頭の音がキーではないこともあるわけで、そういう風に捉えたほうがいいかもしれません。

yes, yesと繰り返すところは、ギターは、たとえばDかAのまま動かずに、ピアノとベースだけ動くというようにしても、不自然ではなく聞こえるはずです。でも、たぶん、動かしていると思います。ひどく忙しい移行ですが、66年の大ヒット、Sunny Afternoon以来、この時期のRDはそういう手法をよく使っています。

つぎのパートもイレギュラーなコード・チェンジが出てきます。

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eveningとpeopleのあいだで4分音符がひとつ飛ばされ、3/4をはさむ変拍子になっています。でも、そんなのは「常識の範囲内」といっていいくらいで、このあとの展開がまた変なのです。

Tea以降のD#m-Bb-C#-G#-B-Bbというちょっと変則的な流れも、まあ、百歩譲って、了解の範囲内ということにしておきましょう。でも、B-Bbと降りてきたのに、つぎのコードがBmって、そりゃなんだよ、そんなのありか、と思います。教育を受けた作曲家ならぜったいに避けるにちがいない、強引なコード・チェンジです。Bmが出てくるたびに、ポンとどこかに飛んでしまう、強い「転調感」があります。おそらく、それがRDの狙いなのでしょう。

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このブロックの前半は、いたってノーマルな3コードで、聴いていても安定感があります。ただし、キーがどこだかわからないので、戻るべき場所に戻ったという感覚はありません。ふつうの曲なら、この部分はそういうどっしりとした安定感をもたらすはずです。そもそも、東西南北がわからないのだから、どこにいても、なんとなく落ち着かないのだと思います。

AからAmに移行するThis is my streetのところも、やはり強い転調感がありますが、ここからの展開はじつにきれいで、この曲のハイライトでしょう。stayからninety-nineにいたる、C-Em-Bb-Aという進行は、ついこのあいだ、ボビー・ゴールズボロのBlue Autumnで見たばかりのパターンです。あのときは、同じパターンの曲を思いつかない、などと書きましたが、灯台もと暗し、よく知っている曲に使われていました!

'Cause all the people I meetのmeetのところからつぎのコードは、よくわかりません。D7とFはまちがっているかもしれませんし、たとえ正しくても、なにかもうひとつコードがはさまっているかもしれません。いずれにしても、また転調して、不思議なところにいくのですが、それがこの曲の本質で、どんどん転調しつつ、どことも知れない場所に向かって進んでいく感覚があります。

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ここはいままでに出てきたコードをちょっと変形して繰り返すだけですし、コード・チェンジ自体にも異様なところはなく、さすがにエンディングは、ぐるっと環を描いて「元に戻った」感覚があります。キーはAではないか、と書いたのは、最後がここに来るからです。

このyes, yes, yes, yes, it's my autumn almanacだけが、この曲の一貫性を保っている要素で、これがなければ、ただ異なるパターンがつぎつぎに出てくるだけの、バラバラな印象をあたえてしまうでしょう。

◆ 破綻、成長、破綻、成長の「コード・チェンジ」 ◆◆
RDはオフィシャル本で、この曲を書き上げたときは、Waterloo Sunsetのときと同じように、またひとつ階段を上がった気がしたと語っています。たしかに、尋常一様の曲ではありません。

コードが複雑、といったとき、われわれがふつう思い浮かべるのは、まず、テンションが山ほどついた、メイジャーやマイナーやセヴンスなどの当たり前のものではないコードが頻出する曲のことでしょう。トム・ジョビンの曲などですね。あるいは、ジャズではごく当たり前な、本来はシンプルなコードなのに、「解釈として」テンションをつけていく場合でしょう。

Autumn Almanacのコードは複雑ですが、上記のような意味ではいたってシンプルです。ベースとの分散和音的なものはべつとして、ギターはメイジャー、マイナー、セヴンスぐらいしか使っていません。たんに、そのメイジャーとマイナーの組み合わせが、常識はずれなだけです。

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スタジオのRD。覗き窓があるバッフルなど、アメリカのスタジオの写真では見たことがない。そもそも、アメリカのバッフルは首から下ぐらいの高さになっている。覗き窓の向こうには、フライングVを弾くデイヴ・デイヴィーズがいる。手前はピート・クエイフ。

ポップ/ロックの世界は、ときに奇妙なコード進行を使うことはあっても、おおむね、なんらかの単純なパターンに還元できるものです。つまり、なじみのパターンの組み合わせで曲をつくれるということです。

キンクスの、そしてレイモンド・ダグラスの最初の大ヒット曲であるYou Really Got Meは、そうした、基本的にはシンプルな構成の曲でした。印象的なのは、こういうタイプのハード・ドライヴィングなストレート・ロッカーにはめったに使われない、転調があるからです。

RDは、プレイヤーになるつもりで(アイドルはなんとタル・ファーローだった!)、ソングライターになる気などなく、ましてやシンガーになるつもりなどさらさらなかったそうです。パイと契約して、最初のレコーディングのときにRDが歌ったプレイバックを聴き、弟のデイヴが「兄貴って、コマーシャルな声してるな」と感心したというぐらいで、ちょうど本邦のサベージのように、「会社に歌わされた」にすぎないのです。

You Really Got Meの原型は、プロになる以前につくっていたということですが、最初の大ヒット曲に、すでに異例の転調があったことは注目すべきことだと思います。

f0147840_0243517.jpgしかし、彼のソングライティングが内省的になっていくのは、リード・シンガーであり、ソングライターであるという重圧から、神経衰弱で寝込み(Do a Brian Wilson「ブライアン・ウィルソンをやる」、すなわち、ツアーに同行せず、スタジオ・ワークに集中するという案も出たとか)、そこから回復するときに書いたSunny Afternoon以降のことだと感じます。ベースがペダル・ポイント的に下降する(ただし、ギターもいっしょに動くので、ペダル・ポイントではない)という手法は、Sunny Afternoonからはじまり、Waterloo Sunset、Autumn Almanac(この曲は下降ではなく、上昇だが)へとつながっていきます。

RDの転調への執着は、You Really Got Me以来のものですが、そこから、転調につぐ転調で、目的地がさっぱり見えないAutumn Almanacまでの距離の、なんと遠いことか! たしかに、この曲を書き上げて、RDがある達成感をいだいたのも不思議ではなく、これほど奇妙な構成をとった曲を、わたしはほかに知りません。You Really Got Meから3年で、とんでもないところまで来たと思います。

ただし、世の中はそういうものですが、RDの成長とともに、キンクスは女の子に追いかけまわされ、シャツを引きちぎられるアイドル・グループから、カルト・バンドへと必然的な変化を強いられることになります。こんどは、女の子にかわって、わたしのような人間が彼らの「基盤」になっていくわけで、そこからの脱出に、RDはまた悪戦苦闘することになるでしょう。


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The Kinks
Ultimate Collection
Ultimate Collection
by songsf4s | 2007-11-14 23:27 | 秋の歌
Autumn Almanac by the Kinks その1
タイトル
Autumn Almanac
アーティスト
The Kinks
ライター
Ray Davies
収録アルバム
Singles Collection
リリース年
1967年
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このところ、歌詞の解釈をしなかったり、楽な曲を取り上げたり、休んだりしていた理由は、400ページを超える(訳せば1000枚超)レイ・デイヴィーズの大部な自伝を読むのに忙しかったせいですが、それもようやく終わりました。じつに不思議な自伝で、自伝的小説ないしは彼の世界観のひどくひねくれた表明、ぐらいに受け取っておいたほうがよさそうです。たしかに「非公認自伝」とでも名づけるしかないと納得しました。

f0147840_23504739.jpgそれはそれとして、ポップ・スターの自伝として事実を拾うこともできます。たとえば、Waterloo Sunsetの歌詞と録音にどれほど手間をかけ、どれほどだいじに、だいじに、つくっていったかということも語られています(プロデューサーのシェル・タルミーすら排除して、RD自身のセルフ・プロデュースによることが明かされている)。彼にとって「生涯の曲」は、Waterloo SunsetとDaysのようで、ジュリーという女性とこの曲については何度も言及されています。

ということは、あの視点の移動、一人称から三人称への転換は、「たまたまそうなった」のではなく、意図的におこなったことにちがいありません。なぜ、ああいうイレギュラーなことをしたかについては、残念ながら、なにも言及されていないのですが。

本日は、Waterloo Sunsetの直後に録音された、きわめつけの秋の曲、歌詞も曲もじつに不可解な、いかにも1967年のレイ・デイヴィーズらしいスタイルでつくられた、かのAutumn Almanacを取り上げます。秋の歌特集は、あくまでもこの曲を取り上げることを目的としているので、ほかの曲は露払い、付け足り、脇役にすぎません。

◆ 「スイッピンミマサ」 ◆◆
それではファースト・ヴァース、といいたいところですが、なにがヴァースやらコーラスやらブリッジやら、よくわからない曲なので、適当と思われる場所で、任意にブロック分けしながらやっていきます。以下は、通常の曲ならたぶんファースト・ヴァースに相当する部分です。

From the dew-soaked hedge
Creeps a crawly caterpillar
When the dawn begins to crack
It's all part of my autumn almanac
Breeze blows leaves of a musty-coloured yellow
So I sweep them in my sack
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac

「夜明けとともに、露に濡れた生け垣から、いも虫がモゾモゾと這い出してくる、これもまたわたしの秋の暦の一部、風が黄色い朽ち葉を吹き飛ばすので、わたしは落ち葉を掃いて袋に入れる、そう、これがわたしの秋の暦」

この曲は、シングルのみのリリースで、同時期のアルバム、Something Elseには収録されず、アメリカではヒットしなかったので、わたしが聴いたのは70年代はじめにリリースされた、The Kink Kroniclesという編集盤でのことでした。

f0147840_23523091.jpgこのダブル・アルバムではじめて聴いた曲のなかでは、Autumn Almanacは出色の出来だと思いましたが、なにをいっているのかさっぱり聴き取れず、往生しました。ファースト・ラインなんて、ぜんぜん聴き取れなかったし、sweep them in my sackも「スイッピンミマサ」と聞こえて、単語に分離することができませんでした。RDのディクションも、コクニーがひどいのでしょうが、ヴォキャブラリーが流行歌の歌詞にはないものだということも影響しています。レイモンド・ダグラスというのは、「そういう人」なのです。

いも虫は暖かい時分のものだろう、という方がいらっしゃるかもしれませんが、そうとはかぎりません。つい昨日も、わが家の柚子の木で這っているのを見ました。一昨年の十月には、本葉が出て、育ちはじめた水菜を黒いいも虫に全滅させられたこともあります。秋にも、さまざまないも虫がいるのです。

◆ カラント・バン ◆◆
以下は、冒頭のヴァースのようなものとは、メロディーもコードも異なる第二ブロック。そういうものは、ふつうなら、コーラスまたはブリッジのはずですが、どちらとも判断できません。どんどん相貌が変化していく曲なのです。

Friday evenings, people get together
Hiding from the weather
Tea and toasted, buttered currant buns
Tryin' to compensate for lack of sun
Because the summer's all gone

「金曜の宵になると、ひどい天気から逃れてひとびとが集まり、お茶と炙ってバターを塗ったカラント・バンで、太陽が顔を出さないことのかわりにしようとする、夏はもう遠い話だから」

f0147840_23552118.jpgcurrantは干しぶどう、レーズンのことなので、currant bunとは、要するにぶどうパンなのですが、bunとあるので、日本でよく見る食パン型のぶどうパンではありません。bunは丸い形のものですが、hamburger bunのように大きなものではなく、もっと小さなもののようです。

ここは比較的よく聞こえるところなので、昔からいっしょに歌っていましたが、バタードのあとが、やはりよくわかりませんでした。currant bunsなんて言葉が出てくる歌は、あまりないでしょう(検索すると、ピンク・フロイドがむやみに引っかかるので、彼らの曲にそういうタイトルのものがあるのかもしれません)。こんな言葉にも、RDの食べ物に対するこだわりがあらわれています。

people get togetherとhiding from the weatherは、この曲のなかで、いっしょに歌っていていちばん気持ちのよいラインです。ということは、たとえ文字でどのように見えようとも、すぐれた韻だということにほかなりません。

f0147840_23563921.jpg歌詞サイトによっては、tryin' to compensateをcan't compensateとしているところがあります。じっさい、聴き取りにくいところなのですが、歌詞の出来として、can'tでは平板で、あまりよろしくないと感じます。tyrin' toのほうがずっと上等です。ここでは、『The Kinks: The Official Biography』という本に掲載された歌詞にしたがっておきます。オフィシャルというのだから、RD本人ではなくても、だれかキンクス側関係者がチェックしたものだろうと思うからです。

なお、この本では、ここまでの二つのブロックをひとつのものとして書いています。それがRDの意図かもしれません。

◆ 背中の痛みと悪夢 ◆◆
以下は短いものですが、オフィシャル本では、単独のブロックがあたえられています。メロディーとしては、第一ブロックの「So I sweep them in my sack/Yes, yes, yes, it's my autumn almanac」と同じで、印象としてはコーラスに聞こえるパートです。

Oh! my poor rheumatic back!
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac
Oh, my autumn almanac
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac

「ああ、リューマチの背中が痛む! それもわたしの秋の暦」

おそろしく短いブロックですが、「ララ、ラーラ、ラーララ」などといったナンセンス・シラブル(メロディーは第一ブロックの「Breeze blows leaves of a musty-coloured yellow」と同じ)でつないでいます。

レイモンド・ダグラスは、子どものころにトラック競技で背中を痛めて以来、大人になっても、しばしばこの痛みに悩まされたようです。それがこの、歌としては異例の「季節表現」につながったと思います。古傷をもつ人なら、この「季節感」は身に染みるでしょう! こんなことを歌にした人はRDしかいないのじゃないでしょうか。

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左からレイモンド・ダグラス、甥っ子のテリー(Waterloo Sunsetに登場する)、弟のデイヴ。この写真の表情が、すなわちRDという人物の生涯をあらわしているような気がする。

しかし、「背中」はRDのパラノイアの対象でもあり、このAutumn Almanacの語り手のだいじな属性でもあるようです。前述のオフィシャル本によると、この曲のモデルとなったのは、当時のデイヴィーズ邸の庭師で、彼はせむしだったのだそうです(いま辞書を引いたところ、せむしのpolitically correctな表現は「脊柱後彎」のようです。表現ではなく、たんなる病名じゃないか、といいたくなりますが)。

RDはこの人物を小さなころから知っていて、彼の悪夢の登場人物であり、子どものころに背中をケガしたときは、せむしになるとおびえたということが自伝に出てきます。

それはともかく、庭師だとわかれば、冒頭に出てくる、生け垣の毛虫や落ち葉の掃除は、当然のラインなのだとおわかりでしょう。いきなり出てくるから、戸惑うだけなのです。いや、まあ、それが「表現」というものなのですが。

◆ 食べ物に対する偏執 ◆◆
以下は、これまでは出てこなかったメロディー、コード・パターンで、ブリッジのように聞こえます。

I like my football on a Saturday
Roast beef on Sunday's all right
I go to Blackpool for my holidays
Sit in the open sunlight

「土曜にはサッカーを楽しむことにしている、日曜のロースト・ビーフも悪くない、休日にはブラックプールに出かけ、外に坐って陽の光を楽しむ」

脊柱後彎の庭師の生活には思えない描写ですが、モデルが庭師だということなど、作者だけが知っていたことで、それを知らなければ、べつにおかしくはありません。じっさい、ここはRD自身の生活の描写でしょう。

RDはサッカーきちがいで、自分でもプレイし、オフィシャル本にも、メロディー・メイカー・イレヴンというクラブ(音楽誌の「メロディー・メイカー」関係者のクラブということでしょう)での写真が載っていますし、ショーン・コネリーらがいる芸能人クラブでもプレイしたと自伝にあります。

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メロディー・メイカー・イレヴン。前列左から二人目にレイモンド・ダグラス、後列右から二人目がデイヴ・デイヴィーズ

また、ワールド・カップの決勝(イギリスで開催されたときのことのようなので、サッカー・ファンなら時期を特定できるでしょう)にイングランドが進出したときは、夜のライヴ・ギグのスケデュールと重なってしまい、テレビ観戦を優先したために、ひどいトラブルになったことも自伝に記されています。

ロースト・ビーフの登場は、当然、RDの食べ物への偏執があらわれたと、長年のファンには感じられます。このころから食べ物が歌詞に登場しはじめ、Alcohol、Skin and Bones、Hot Potatoes、Motorwayといった(まだほかにもいくつかあったはずですが)、RCA時代の飲食物の歌へとつながっていきます。

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レイモンド・ダグラス(左端)、その背後にピート・クエイフ、ストゥールにミック・エイヴォリー、そしてデイヴ・デイヴィーズ(右端)

まだ歌詞もやっとなかばを過ぎたばかりですが、残り時間僅少で、これから画像のスキャンもしなければならないので、歌詞の後半、そして摩訶不思議な展開をする複雑な曲とコードについては、明日以降に(ひょっとしたら、さらに2回に分けて)検討することにします。


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The Kinks
Ultimate Collection
Ultimate Collection
by songsf4s | 2007-11-13 23:21 | 秋の歌