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アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その2 I Stand Alone篇

前回、エディー・ホーが大成しなかったことを嘆きましたが、それは彼の側に原因があったようです。ずっと以前に読んだショート・バイオによると、クスリでボロボロになってしまったとありました。

アル・クーパー&マイケル・ブルームフィールド Albert's Shuffle

(いうまでもなくSuper Sessionのオープナーにして、マイケル・ブルームフィールドの代表作だが、ミスはあるものの、エディー・ホーのソリッド・バックビートもおおいなる魅力。1打のみのアクセントや短いフィルインを多用するという基本方針を立てたセンスもすばらしい。むろん、考えてやるのではなく、直感的にそういう道を選んだのだろう)

ドラマーは薬物にやられる割合が高いように感じるのはひが目でしょうか。ジム・ゴードン、ダラス・テイラー、エディー・ホーといったわたしの好きなドラマーは、バックビートすらまともに叩けなくなって消えていってしまったのだから、ひどいものです。殺人を犯す前のジム・ゴードンはタイムが不安定だったというのだから驚きます。「タイムの不安定なジム・ゴードン」というのは、自家撞着を起こした、ありえない表現です。

そう考えると、ハル・ブレインのすごさがいっそう際だちます。クスリどころか、アルコールもいっさい飲まないというのですからね。まだスタジオ・ドラマーになる以前、駆け出しのころに酒のおぼれそうになり、一念発起して禁酒したというのです。そうじゃなければ、Open 24 HRSのプレイヤーにはなれないでしょうが。

ホリーズのボビー・エリオットはさらに興味深く、レコーディングやツアーの直前になると、禁酒するのだそうです。仕事のあいだはつねにクリスタル・クリアな精神状態を保たなければいけないわけですな。

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ボビー・エリオットはブリティッシュ・ビート・グループのドラマーのなかでもっともタイムが安定していた。それにしてもすっかりおじいさんになっちゃって……。

うーん、しかし、ラリパッパであれだけ精密なバックビートを叩いていたジム・ゴードンはやっぱり天才だったということを、ボビー・エリオットのスタイルが証明しているのかもしれません!

◆ アル・クーパーのWestern Union Man ◆◆
アル・クーパーのR&Bカヴァーの2回目、順番からいうと今回はLive Adventuresですが、都合であとまわしにし、アル・クーパーのソロ・デビュー盤I Stand Aloneに進みます。このアルバムの多くはナッシュヴィル録音で、R&Bカヴァーの2曲もナッシュヴィルです。

サンプル Al Kooper "Hey, Western Union Man"

ベーシックは、とくにギター(ウェイン・モス、ジェリー・ケネディー、チャーリー・ダニエルズの3人がクレジットされている)、ベース(チャーリー・マコーイ。ハーモニカなんかよりベースのほうがずっといい)に関してはいい出来だと思います。

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ドラムはちょっともたつくところはあるものの、バトリーにしてはマシなプレイというか、スネアのチューニングが腹の立つほど低くはないのが救いです(ただし、何度か使っているロールはあまりきれいではない)。管は問題外のひどさ。こんな金管の扱いはないでしょうに。ハリウッドのエース・アレンジャー、たとえばビリー・メイあたりが聴いたら、笑い死にしちゃうでしょう。

この曲の魅力は、つまるところ、ヴァースにおけるベースとギターの単調な繰り返しの気持よさと、コーラスで一転して明るく華やかになることだと思います。

I Stand AloneのCDは昔は日本盤しかなかったのですが、最近はアメリカでもセカンドとの2ファーがあります。ボーナス入りですが、Easy Does Itのハイライトにすぎず、未発表音源ではないでしょう。しかし、マスタリングについては、米盤のほうが好ましいかもしれません。

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◆ ジェリー・バトラーのWestern Union Man ◆◆
いまになると管をはじめ、不満足に思う部分も目立ってきましたが、子どものころはこの曲は大好きで、ときおり、元はどうなのだろうと気にしていました。オリジナルはインプレッションズのリード・テナーだったジェリー・バトラーが歌ったもので、バトラー自身がギャンブル&ハフと共作しています。

Jerry Butler Hey, Western Union Man


すごくエイリアンなサウンドとバランシングで、いったいどこで録音したのかと思案投げ首です。ギャンブル&ハフが噛んでいるということは、フィラデルフィア録音ということかもしれません(あとからいろいろ検索してみて、バトラーのPhiladelphia Sessionsという編集盤にこの曲が収録されているのを確認した)。

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左からリオン・ハフ、ジェリー・バトラー、ケニー・ギャンブル(2008年)

ベースはおおいに好み、ドラムは左手は最低ですが、右手は好みです。左手を自在に使えないドラマーというのはいっぱいいて、このプレイヤーも、ハイハットはきれいなのに、スネアの抑揚がガタガタで、ソフトにいくべきところで、ガンといってしまう不器用さです。イントロのスネアのひどさったらありませんぜ。赤ん坊が棒をもって遊んでいるみたいです。

弦も洗練されているとはいいかねますが、セヴンスのラインを弾いてしまうところなんかニヤニヤ笑ってしまいますし、Oh, western union man, send a telegramというコーラスでのラインのつくりは好ましいと思います。弦が面白いというところが、やっぱりフィリーですな。人数僅少なのはブラック・ミュージックではふつうのことで、予算の問題だから目をつぶります。人数僅少の面白さというのもあることですし(苦しい!)。

ウェスタン・ユニオンというのは、日本でいえばNTTの電報部門というあたりで、アメリカでは電話と電報はべつの会社の業務だったのです。まだあるのかと検索したら、ありました。電話会社の再編には巻き込まれなかったようです。

そのウェスタン・ユニオンの人間に「ヘイ」と呼びかけ、俺のベイビーに電報を届けてくれよ、というジョニー・マーサーならぜったいに書かないドアホ歌詞です。コーラスを日本語にすると「ヘイ、ウェスタン・ユニオン・マンよ、電報を送ってくれ、俺のベイビーに電報を送ってくれ、電報を送れ、すぐ電報を送れ、電報を送れ」といっているだけですからね。作詞家はオウム信者かもしれません。

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R&Bチャート・トッパー、ポップ・チャートでは16位までいっているのでちょっとしたヒットなのですが、ヒットしたときに聴いた記憶はありません。まだこちらがR&Bを聴く気がなかったのでしょう。

カヴァー対オリジナルの対戦は拮抗していますが、ベースと弦が好ましいオリジナルに軍配というところでしょうか。自分でどこかのパートをプレイするとしたら、アル・クーパー盤のギターをやりたいですね。こういうのを弾いているとメンフィス・アンダーグラウンド的トランス状態(あの曲を知っている人にしかわからない喩えだが)に入れます。

◆ アル・クーパーのToe Hold ◆◆
I Stand Alone収録のもう一曲のR&Bカヴァーは、Toe Holdです。

サンプル Al Kooper "Toe Hold"

この曲もやっぱり、ベースはいいけれど、管はちょっとなあ、です。だれの責任なのでしょうか。アレンジャーは3人、チャーリー・カレーロとチャーリー・マコーイとアル・クーパー。カレーロはNYセッションのみでしょうから、ナッシュヴィルはアル自身かマコーイなのでしょう。なんでこんな管にしようと思ったのか意図からしてさっぱりわかりません。プレイヤーも下手なのかもしれません。ひどいラインでも、超一流がプレイすると、いいラインに聞こえちゃったりしますからね。

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でもまあ、ケニー・バトリーもいつもよりはすこしタイムがアーリーで、なぜかチューニングはノーマルだから、とくに問題はなく、マコーイのベースはけっこうなので、グルーヴとしては悪くなく、それで子どものころは好きだったのだと思います。

◆ ウィルソン・ピケットとサム&デイヴのToe Hold ◆◆
どちらがオリジナルとはにわかに断じられないのですが、先行ヴァージョンとしてはウィルソン・ピケット盤とサム&デイヴ盤があります。ソングライター・クレジットはアイザック・ヘイズとデイヴ・ポーターとなっているので、サム&デイヴがオリジナルと考えたくなりますが、こちらはお蔵入りして、リリースされたのは後年のベスト盤でのことなのです。では、まずウィルソン・ピケットから。

サンプル Wilson Pickett "Toe Hold"

MG'sの音には聞こえないので、クレジットを見てみました。残念ながらこの曲についてはパーソネルはブランクでしたが、録音場所は「フェイム」となっていました。つまりマッスルショールズ録音ということです。ということは、ドラムはロジャー・ホーキンズ、ベースはデイヴ・フッドなのでしょう。録音時期が近いHey Judeではドゥエイン・オールマンがギターを弾いていたりするので、ほかのパートの推測はやめておきます。

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こちらのヴァージョンも、ベースは好きだけれど、管はなんなんだよ、です。R&Bはこんなもんでしょうかね。ハリウッドのオーケストラの洗練されたホーン・アレンジを山ほど聴いたあとだと、ナッシュヴィルもマッスルショールズも素人に思えてしまうだけのことで、あちらとしてはふつうにやっているのでしょう。

もうひとつは、また町を移動して、こんどはメンフィスのスタックスです。

サンプル Sam & Dave "Toe Hold"

こちらのドラムはどこからどう聴いてもアル・ジャクソンなので、MG'sと考えて大丈夫の三乗です。ウィルソン・ピケット盤同様、なかなかグリージーな味わいがあって、なんでボツにしたのかな、もったいない、と思う出来です。ウィルソン・ピケット盤を優先するという「政治判断」でしょうか(この時期、スタックス・レコードはアトランティックの傘下にあり、アトランティックのウィルソン・ピケットに対しても、スタックスとしては配慮する必要があったと思われる)

ウィルソン・ピケット盤同様、シンプルなアレンジなのですが、メンフィス・ホーンのほうはちゃんとした音に聞こえます。やっぱり、こちらの受け取り方の問題ではなく、マッスルショールズのホーンのレベルが低いのでしょう。

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手前より時計回りに、ウェイン・ジャクソン(背中を向けている)、アイザック・ヘイズ、サム・ムーア、デイヴ・ポーター、ドナルド・“ダック”・ダン(バッフルの向こう)、デイヴ・プレイター、スティーヴ・クロッパー、ブッカー・T・ジョーンズ。

今回ははからずもR&B三都物語になってしまい、おやおやでした。あれこれ文句をつけたものの、メンフィスもマッスルショールズもフィリーも、やっぱり血の騒ぐ音をつくっていて、もうそういう年じゃないなあ、と思いながらも、並べて聴けばグッと盛り上がり、グルーヴに乗ってしまうのでした。R&Bの愉しみはそこにあるわけですからね。

次回の分も、次々回の分もすでに何度も聴いて、いよいよ血がたぎってきています。この数年、ハリウッドのクールなソフィスティケーションにどっぷりつかっていましたが、戻ろうと思えば、ほんの数日で子どもに戻れるものだなあと感心しています。次回はいよいよ、大好きなあの忙しい曲が登場します。盛り上がるのですよ、これが。


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Beg, Scream & Shout!: The Big Ol' Box Of 60's Soul
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by songsf4s | 2010-11-15 23:58
アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その1 Super Session篇

今日も映画のことを書く気力がないので、「目をつぶっても通れる朝比奈峠」(わたしにしかわからない冗談、失礼)に逃げることにして、前回に引きつづき音楽駄話です。宙ぶらりんになっている『シャレード』が気になっているお客さんもいらっしゃるでしょうが、いましばらくお待ちください。

◆ 昔の企画の蒸し返し ◆◆
昼間、ツイッターでAdd More Musicのキムラセンセとちょっとお話しし、そのとき、アル・クーパーのリッピングをやり直しているということをうかがいました。最近、主体性を放棄しているので、じゃあ、夕食はうちもアル・クーパーにしよう、などと、献立を工夫するのに倦んだ主婦のようなことを考えました。

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そこまではいいのですが、アル・クーパーでなにをするのよ>俺、なのです。シャレで「名作」「傑作」の連呼でもやろうかと思ったのですが、主体性は放棄しても、プライドの破片の二、三粒はまだポケットの底に袂ぐそのように残っているので、名作と傑作の連呼はさすがにできませんやね。

で、以前、メーリング・リストで、アル・クーパーのカヴァー曲を列挙して、そのオリジナルや他のヴァージョンを並べるというのをやったことを思いだしたのです。

いまごろになってJollyがどうのとか騒いでいる鈍い連中がいるとかいう話を聞きましたが、なにをいまさらチャンチャラ可笑しい、今回のシリーズにはJollyはまったくお呼びではありません。アル・クーパーのオリジナル曲ではなく、R&Bカヴァーだけが対象です。

◆ Stop (Super Session) ◆◆
アル・クーパーのアルバムにはほとんどつねに、1、2曲、R&Bカヴァーが収録されています。それだけならまだしも、これがなかなか味のある選曲で、子どものときにすごく気になりましたし、あれこれとR&Bを集めるきっかけにもなりました。

ビルボード・トップ40を集めはじめて20年ほどもたつと、かつてアル・クーパーのカヴァーではじめて接した曲も、オリジナルがそろってきて、一堂に集めて聴いてみると、やはりささやかなイメージが浮かんできました。

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かつての企画をここにそのまま再現すると、サンプルの数がちょっとまずいほど多くなりそうな気もするので、適宜間引いたり、音質を落としたりすることになると思いますので、先にお詫びしておきます。

トップ・バッターはマイケル・ブルームフィールド、スティーヴ・スティルズという二人のギタリストを迎え、ベーシックはスタジオ・ライヴ、あとでホーンやヴォーカルをオーヴァーダブしただけというロウ・バジェットながら、ゴールド・ディスクになってウハウハだったというSuper Sessionからです。

Super Sessionには2曲のR&Bカヴァーが収録されていますが、まずマイケル・ブルームフィールドのギターをフィーチャーしたStopから行きます。

サンプル Al Kooper & Michael Bloomfield "Stop"

ドラムはエディー・ホー、ベースはハーヴィー・ブルックスです。この曲はAlbert's Shuffleと並んで、ブルームフィールドのギターのヴィークルなのですが、いまになるとエディー・ホーのドラミングにも耳を引っ張られます。

スネア、タムタムのチューニングもよく、タイムは精確、やるべきことはすべてやっていて、いいドラミングです。タムタムというのはどうしてドラマーの個性を強く反映してしまうのかと不思議に思います。ぜんぜん異なるコンテクストなのに、やっぱりモンキーズのDaydream Believerのプレイヤーだなあと感じるのだから面白いものです。

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オリジナルはハワード・テイトというジョージア出身のシンガーのヴァージョンです。

サンプル Howard Tate "Stop"

わたしはテイトの盤はもっていなくて、ライノのR&Bボックスに収録されたこのトラックだけしか知りません。はじめてこのオリジナルを聴いたときは、思わず笑ってしまいました。Super SessionのStopは、曲という感じではなく、ちょっとしたフレーズを元にしたジャムにしか聞こえなかったのに、元までたどったら、ちゃんと曲になっていたのだから、なんだか化かされたみたいで可笑しかったのです。ホントに曲だったのかよー、でした。

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しかし、よくこういう曲に目をつけたものだと思います。自分で歌う気でいたのかもしれませんが、インストにしてしまったのは、それはそれで好判断だったと思います。ブルームフィールドのベスト盤に入れるべきかどうかは微妙ですが、エディー・ホーのドラミングという付録も考慮して、わたしがコンパイルするとしたら、やはり繰り入れるでしょう。

◆ カーティス・メイフィールドのMan's Temptation ◆◆
Super Sessionにはもう一曲、R&Bカヴァーが入っています。Man's Temptationです。

サンプル Al Kooper & Michael Bloomfield "Man's Temptation"

子どものときは、この曲に対してアンビヴァレントな見方をしていました。いい曲だと好ましく感じるいっぽうで、ポップすぎて、このアルバムのジャム・セッションというコンテクストとは合致しないとも見ていました。こういうプレイならマイケル・ブルームフィールドである必要はなく、子どもはそこが不満でした。もっと弾きまくってほしいのです。

f0147840_0453781.jpgしかし、家貧しゅうして孝子出ず(は関係ないが)、マイケル・ブルームフィールドのギターが活躍しない分は、エディー・ホーが叩きまくって補っています。久しぶりに聴いて、こんなに叩いていたっけとビックリしてしまいました。ストップ・タイムのところではジム・ゴードンのようなハイ・ピッチの追加タムらしきものまで、深いリヴァーブをかけた派手な音で鳴らしていて、いやはや、です。

三島由紀夫は、太宰が浮いて安吾が沈むとは、石が浮いて木の葉が浮くようなものだ、といっていますが(太宰嫌いのわたしはガキのころ大拍手した)、ジョン・グェランやラス・カンケルが浮いて、エディー・ホーが沈むなんて、この宇宙の物理法則に反します。

タイムだけをとっても、グェランやカンケルは問題外、エディー・ホーはジム・ゴードンよりちょっと落ちるかな、ぐらいの精密さですからね。はじめからグェランやカンケルなんかとはリーグが二つぐらいちがいます。プロのミュージシャンのなかにも、音感はいいのに、タイムはまったくダメという人はめずらしくないですから、ドラマーの善し悪しが判断できないのでしょう。

この曲のオリジナルはインプレッションズまたはジーン・チャンドラーのどちらかだろうと思います。まずはジーン・チャンドラーから。

サンプル Gene Chandler "Man's Temptation"

同じ曲ではあるのですが、なんだか地味だなあ、と思います。

おっと、時間切れなので、いったんここまででアップし、残りは順次書き足します。

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つづいて、たぶんこちらのほうがオリジナルではないかと思われる、インプレッションズ盤。

サンプル The Impressions "Man's Temptation"

インプレッションズというのは不思議なグループです。いや、カーティス・メイフィールドが不思議な人というべきかもしれませんが、すばらしい楽曲が山ほどあるのに、アレンジとサウンドが退屈で、カヴァー盤の巨大供給源になっているのです。

インプレッションズのオリジナル対カヴァー・ヴァージョンの対戦成績は、わたしの基準からいうと、インプレッションズの全敗、カヴァーの全勝です。You Must Believe Me程度でも、ゾンビーズやホリーズの後塵を拝してしまうのだから、インプレッションズのレンディションをわたしがどれほど退屈に感じているかおわかりでしょう。

もちろん、Man's Temptationも、エディー・ホーが叩きまくるSuper Sessionヴァージョンの敵ではなく、なんでこんなボケボケの音なんだよ、と思うだけです。

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Super Sessionというのは、ジャム・セッションの流行をつくりだしたエポック・メイキングなアルバムでしたが、じつは、シンプルではあるものの、アレンジとサウンド・メイキングで勝利を手に入れた盤だと思います。

Man's Temptationにそれがはっきりとあらわれていますし、あとからホーンやヴォーカル・ハーモニーをオーヴァーダブした姿勢、考え方からも、アル・クーパーがジャムに強くこだわったわけではないことが明瞭にうかがえます。オリジナルと比較すると、プロデューサーが仕事をしたことがよくわかるのです。

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マイク・ブルームフィールド&アル・クーパー
Super Session
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マイク・ブルームフィールド&アル・クーパー
スーパー・セッション(紙ジャケット仕様)
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Beg, Scream & Shout!: The Big Ol' Box Of 60's Soul
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インプレッションズ
One By One / Riding High
One By One / Riding High


by songsf4s | 2010-11-14 23:51
Without Her by Blood, Sweat & Tears
タイトル
Without Her
アーティスト
Blood, Sweat & Tears
ライター
Harry Nilsson
収録アルバム
Child Is Father to the Man
リリース年
1968年
他のヴァージョン
Nilsson, Glen Campbell, Herb Alpert & the Tijuana Brass, George Tipton, Telly Savalas
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Moons & Junesの曲となると、スタンダードが多いことはくどくくりかえしていますが、スタンダード曲のなにより困る点はヴァージョンの多さです。30種もあったりすると、聴くだけでひどく骨で、書く前に力尽きてしまいます。

そうはいっても、避けられない曲というのはあるので、まあ、あと半月弱のあいだに、追々そういう大物も取り上げていくことにしますが、今日はスタンダードではなく、それなりにヴァージョン数はあるけれど、見ただけでたじろぐほど多くはない、という60年代の曲にしました。

f0147840_23271384.jpgニルソンの最大のヒットは、Everybody's Talkin'とWithout Youでしょう。すぐれたソングライターだったのに、シンガーとしての代表作がいずれも他人の曲とは、なんとも不運な人だなと思いますが、それはべつの話。いまいおうとしているのは、またべつのことです。ニルソンにはNilsson Sings Newmanというすぐれたアルバムがあり、このなかにLiving without Youという曲が収録されています。

で、もうおわかりでしょうが、Without Youとも、Living without Youとも、今日の曲は関係ありません。今日はWithout Herです。そこをお間違えのないように。ニルソンのWithout三部作(なんてものは存在しない。いまでっち上げた。そもそも、作者はそれぞれ別人)はどれもいい曲で、ときおり混乱してしまい、コーラスをうたって、どれがどういうタイトルだったか確認しちゃったりするのです!

◆ 月行き気球 ◆◆
それでは歌詞を見ていきます。ファースト・ヴァース。

I spend the night in a chair
Thinking she'll be there
But she never comes
And I wake up and wipe the sleep from my eyes
And I rise to face another day without her

「彼女がやってくるような気がして、椅子に坐ったまま一夜を過ごすが、来るはずがないのだ、そして目覚め、目をこすって眠気を払う、そして、また彼女なしの一日に立ち向かうために起きあがる」

字句通りに解釈していくと、thereがものすごく引っかかるのですが、なんとも判断しかねるので、頭を低くして通過することにします。

It's just no good anymore
When you walk through the door of an empty room
You go inside and set a table for one
It's no fun when you have to spend a day without her

「だれもいない部屋のドアを抜けて、中に入り、ひとり分のテーブルをセットするのは、もう楽しくもなんともない、彼女なしに一日を過ごすなんて面白くない」

anymore「もう~ではない」とある以上、一時的には楽しかったということなのでしょう。ひとりになってせいせいした、という気分をいっているのだろうと思います。

ブリッジ。

We burst the pretty balloon
It took us to the moon
It's such a beautiful thing
But it's ended now
And it sounds like a lie if I said
I'd rather die than live without her

「ぼくらは二人を月まで連れていってくれた美しい気球を破裂させてしまった、すばらしいことだったけれど、もう終わってしまった、彼女なしに生きるくらいなら死んだほうがましだ、なんていったところで、嘘に聞こえるだけだろう」

ブッキッシュに英語を学んだ人間としては、balloonのあとにthatかwhichがあってくれたほうが安心できるのですが、どのヴァージョンを聴いても、itがあるか、なにもないかのように聞こえます。しかし、意味としてはそういうこと、つまり、関係代名詞があった場合と同じなのだろうとみなしました。天にも昇る気分になる気球を手に入れたのに、それをダメにしてしまった、ということです。なにをしたのか知りませんが、おおかた気球をウォーターベッドとまちがえ、暴れすぎたのでしょう!

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サードにして最後のヴァース。

Love is a beautiful thing
When it knows how to swing
And it moves like a clock
But the hands on the clock tell the lovers to part
And it's breaking my heart
To have to spend a day without her
Can't go on without her

「うまくいっているあいだは、恋はすばらしいが、やがて時は巡り、時計の針は恋人たちに別れの時を告げる、また彼女なしに一日過ごさなければならないのかと思うと胸も張り裂けそうだ」

◆ BS&T盤のギタリスト ◆◆
タイトルからして当然ですが、ご覧のように、歌詞はちょっとしたダウナーです。いや、曲だって、明るく元気いっぱいというタイプではないのですが、なかなかきれいな曲だし、看板にしたアル・クーパー盤、じゃなかった、ブラッド・スウェット&ティアーズ盤のアレンジは軽快で、楽しげといってもいいようなサウンドです。

久しぶりにBS&TのWithout Herを聴いて、あれっと思いました。ギターがすごくうまいのです。コードしか弾きませんが、それでもうまいのです。ほら、チャーリー・バードとかローリンド・アルメイダとか、ああいう感じです。

BS&Tのギターは、悪名高きスティーヴ・カーツ(スペルはKatz。今回は不精せずに辞書を見た。カッツでもなければキャズでもなかった。やっぱり辞書は引いてみるものである)ですからね、まさかあ、ウッソー、ありえなーい、なのです。なんたって、このバンドに愛想を尽かした理由のひとつは、ギターのアホらしさなんですから(もうひとつはデイヴィッド・クレイトン・トーマスの声)、こんなに弾けちゃったら、スティーヴ・カーツに謝らなければならないことになります。

いままで、どこで、何回、スティーヴ・カーツを罵倒したっけなあ、いまさら、あれは間違いでした、なんていえないぜ、と焦りつつ、頼んます、と十字を切ってから(ウソ)、クレジットを確認しました。セーフ! この曲のギターは、ゲストのアル・ゴーゴーニ、と書いてありました。

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Alはもちろんアル・クーパー、Randyはランディー・ブレッカー、Fredはフレッド・リプシアス、ジョン・サイモンの「メンデス・ピアノ」というのは、楽器の種類ではなく、セルジオ・メンデス・スタイルのピアノという意味である。

そりゃそうですよ(と、スティーヴ・カーツじゃないとはっきりしたとたん、居丈高になった)、Without Herのようなプレイができる人が、You've Made Me So Very Happyの、なにをもたもたやってんだ、間奏が終わっちゃうぞ、といいたくなるプレイをするはずがありません。

しかし、これほど無惨なまでに弾けない人が、ソロなんか弾くのは、はずかしくて、つらくて、居ても立ってもいられなかっただろうなあ、よく4枚も耐えたものだと、いまになると、感心しつつ、同情しちゃいます。って、たんに鉄面皮だっただけか。

◆ アル・ゴーゴーニ・マイクロ・バイオ ◆◆
えーと、なんの話でしたっけ。そう、アル・ゴーゴーニのギター。やっぱり、ほんもののギタリストのプレイは気持いいなあ、と思ってから、あれ? アル・ゴーゴーニって、ソングライターじゃなかったっけ? てえんで、またあわてました。ホリーズのI Can't Let Go(オリジナルはエヴィー・サンズ)の人のはずです。

調べてみて、わたしの認識不足だったことがわかりました。セッション・ギタリストとしてスタートしたと、オフィシャル・サイトのバイオにちゃんと書いてあったのです。ヴィニー・ベルのバイオも、NYのことをよく知らないわたしには面白かったのですが、ゴーゴーニのバイオもなかなか面白いので、長くなりますが、すこし彼のキャリアについて見てみます。

最初は、アル・ネヴィンズ(オールドン・ミュージック)と知り合い、デモ・セッションの仕事をもらったそうです。スタートはデモというのは、ハリウッドでも同じです。当時、NYで本番のセッションをやっていたファースト・コール・プレイヤーは、Tony Mottola、Al Caiola、Barry Galbraith、Billy Butler、Al Casamenti、Bucky Pizzarelliとあります。このうち、わたしが知っているのは、トニー・モトーラとアル・カイオラのみ。やっぱりNYシーンには無知ですわ。ガルブレイスなんていわれても、受験のときに読まされた、ジョン・ケネス・ガルブレイスの英語はむちゃくちゃにむずかしかった、なんて、ぜんぜん関係ないことを思いだすだけです。

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これもハリウッドと同じなのですが、やがて、こうしたヴェテランたちのプレイが、時代にそぐわないと感じられるようになり、プロデューサーたちは、若いギタリストを登用するようになります。こちらも名前をあげておくと、アル・ゴーゴーニのほかに、もちろんヴィニー・ベル、そして、ヒュー・マクラケン、エリック・ゲイルらだそうです。こちらはおなじみばかり。やっぱり世代的な問題ですな。モトーラやカイオラは50年代派、ゴーゴーニやベルは60年代派というところでしょう。

アル・ゴーゴーニがプレイした曲としては、以下のようなものがあげられています。

"The Name Game" by Shirley Ellis, "Solitary Man" and "Cherry Cherry" by Neil Diamond, "Sherry", "Big Girls Don't Cry", "Walk Like a Man" and "Dawn" by Four Seasons, "Our Day Will Come" by Ruby & the Romantics, "My Boyfriend's Back" by The Angels, "Leader of the Pack" by The Shangri-Las, and "Chapel of Love" by The Dixie Cups

f0147840_23542342.jpg有名曲ばかりですが(久しぶりにシャーリー・エリスが聴きたくなった)、いずれもギターが活躍する曲とはいいかねます。60年代中期、ギターとドラムがサウンドの中心になったときに、NYの音が古めかしく感じられるようになるのは、こういうところにもあらわれているような気がします。プレイヤーより、プロデューサー、アレンジャーのセンスの問題でしょうが。

チップ・テイラーと知り合ったことから、ゴーゴーニはソングライティングにも手を染め、ここでやっとI Can't Let Goになるわけですが、その後もセッション・ワークはつづき、こんどは以下のような楽曲がリストアップされています。

"Brown Eyed Girl" by Van Morrison, "I'm a Believer" by The Monkees, "At Seventeen" by Janis Ian, "The Sound of Silence" by Simon & Garfunkel, "Brand New Key" by Melanie, "1-2-3" by Len Barry, and "Sugar Sugar" by The Archies

またまた有名曲がぞろぞろですが、このへんになると、リアルタイムで聴いたものばかりです。ジャニス・イアンのAt Seventeenといわれて、そういえば、この曲のギターは、Without Herに似ているな、と思いました。

◆ もう一度BS&T盤 ◆◆
本題に入る前に長い道草をしてしまったので、あとは急ぎます。Without Herには、いくつかのヴァージョンがありますが、やはり、最初に聴いたBS&T盤がいちばんしっくりします。

フレッド・カテーロのボサ・ノヴァ・アレンジがアイディアの勝利ですし、ドラムのボビー・コロンビーとベースのジム・フィールダーのグルーヴもけっこうなものです。そもそも、BS&Tのいいところは、ボビー・コロンビーが、あの当時のバンドのドラマーとしてはタイムがよく、テクニックにも問題がなかったことでしてね。

アル・クーパーのヴォーカルを褒める人はあまりいないでしょうが、この曲については、べつに違和感はありません。I Love You More Than You'll Ever Knowのような曲には(アル・クーパー自身の作だが!)不向きな人ですが、Without Herのように、つぶやくようにうたうのが正解の曲は、ボロが出ません。

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だいぶお年を召してからのハリー・ニルソンとアル・クーパー。アル・クーパーは、Without Herのみならず、I Stand AloneではOneもカヴァーしている。

アル・クーパーはソングライターとしても魅力のある人ですが、いや、自身がソングライターだから、というべきか、カヴァーのセンスもすぐれていました。このWithout Herが収録されたBS&Tのデビュー盤は、アル・クーパーのオリジナル曲より、カヴァーの曲のほうが楽しめます。ランディー・ニューマンのJust One Smile(オリジナルはたぶんジーン・ピトニー盤)、ティム・バックリーのMorning Glory(ヴォーカルはスティーヴ・カーツ)も取り上げていますし、ゴーフィン=キングのSo Much Loveもなかなかいい曲で、この曲は、わたしはBS&T盤しか知りません。

Without Herが終わると、気持はつぎのJust One Smileのイントロへの準備ができていて、それが出てこないと、あれっとコケます。それくらい、子どものころによく聴いた盤だったということです。

So Much LoveはBS&T盤しか知らないと書いてから、自分がもっているものをすべて把握しているとはかぎらないことを思いだし、検索したら、あらら、やっぱりありました。ベニー・キング盤(これがオリジナルか)とダスティー・スプリングフィールド盤。これだから、だれも信用してはいけないというのです!

◆ 他のヴァージョン ◆◆
ニルソン盤は、ソースが異なる4種類のWithout Herをプレイヤーにドラッグしてあるのですが、微妙に異なっていて、面倒なことになっています。基本的なアレンジ、ムードは同じなのですがねえ。

4種の内訳を書いておくと、New Nilsson Songbook(楽曲売り込み用のデモLP)、Pandemonium Shadow Show、Aerial Pandemonium Ballet(初期の2枚のLPをベースにした、いわばリミックス・アルバムのようなもの)、そしてWithout Her: Without You - The Very Best Of Nilsson Vol. 1です。おおむね、マスタリングが異なっている程度なのですが、Aerial Pandemonium Ballet収録ヴァージョンだけは、テイクも異なるようです。ギターが入っていて、ニルソンがヴォーカルを重ねているこのヴァージョンが、わたしにはもっとも好ましいものに思えます。

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Gentle on My Mind収録のグレン・キャンベルのカヴァーもなかなかけっこうです。グレンの声に合っている曲ですし、ギターを中心としたベーシック・トラックのアレンジも(ガットがうまい!)、ブリッジのストリング・アレンジも、録音も、すべてがいいぐあいに収まっています。プロデューサー/アレンジャーはアル・ディローリー。

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アル・ディローリー(手前)とグレン・キャンベル

初期のニルソンのアルバムでアレンジャーをつとめた、ジョージ・ティプトンのヴァージョンはインストゥルメンタルです。オーケストレーターであり、映画音楽の作曲家でもあるので、ティプトンの1970年のニルソン・ソングブック、Nilsson by Tiptonはイージー・リスニングないしはオーケストラ・ミュージックです。WBのリリースなので、当然、ギターもドラムも、そこはかとなく、馴染みのサウンドです。確信はもてないので、だれとはいいませんがね。こういうのは好みが分かれるでしょうが、年をとると、この種のサウンドに抵抗がなくなるので、いまでは悪くないと感じます。ギターとドラムを筆頭に、当然、うまい人ばかりですしね。

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ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスのヴァージョンは、インストゥルメンタルではなく、This Guy's in Love with Youのような、ハーブ・アルパートによるヴォーカル・ヴァージョンです。ピッチのいい人ではないし、いかにも素人丸出しでうたうので、こういうつぶやくような曲は合っています。

しかし、このアレンジはどうでしょうかねえ。ベース、ギター、パーカッション、ヴォーカルだけの部分と、かなり大きなオーケストラによるフォルテシモのパートが交互に出てくるのです。静かなヴォーカル部分はけっこうだと思うのですが、派手なオーケストラ・パートはいらないように思います。

f0147840_0142699.jpgブリッジは、ハーブ・アルパートの不安定なピッチが悪いほうに出た印象で、頭から尻尾まですべてが素人にうたいやすい曲というのは、そうそうあるものじゃないからなあ、と思います。この曲でもドラムはいつものようにハル・ブレインでしょう。

ほかに、テリー・サヴァラス(そう、コジャックのサヴァラス)のヴァージョンをはじめ、トリビュート・アルバムのヴァージョンなど、いくつか試聴してみましたが、特筆すべきものはありませんでした。
by songsf4s | 2008-06-17 23:54 | Moons & Junes