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ラロ・シフリン・フィルモグラフィー2 ヘンリー・レヴィン監督『サイレンサー殺人部隊』中篇
 
リプリーズ・レコード時代のディーン・マーティンのボックスを聴いて思ったのは、なんだよ、このハル・ブレインだらけは、ということです。かのEverybody Loves Somebody以降、ディノのあらゆるレコーディングで、ハルがストゥールに坐ったのではないかと思うほどです。

ディーン・マーティン Everybody Loves Somebody(リメイク45ヴァージョン ハル・ブレイン・オン・ドラムズ)


以前、書肆の求めに応じてハリウッド音楽史を書いたのですが、先様の都合でお蔵入りしてしまいました。いま、そのときにきちんと調べて書いたディノの大復活劇を参照して、三段落ぐらいにまとめようと思ったのです。しかし、そういっては手前味噌がすぎますが(いつものこと!)、入念に練り上げた(呵呵)パラグラフなので、当人にもいまさら切り刻むのは困難、そのまま貼り付けることにしました。

ジミー・ボーウェンが友人の紹介でリプリーズ・レコードに入社することになった顛末(フランク・シナトラ・リプリーズ・レコード会長がじきじきに電話してきた!)から、以下の段落へとつながります。縦組を想定した文字遣いなので、あしからず。

 ボーウェンには、リプリーズで仕事をするなら、ぜひ自分の手でレコーディングしたいと思っていたシンガーがいた。ディーン・マーティンである。希望叶って、彼は六三年の《ディーン・“テックス”・マーティン・ライズ・アゲイン》Dean "Tex" Martin Rides Againから、ディノのプロデュースを引き継いだ。前作が久しぶりにチャートインしたことを受け、同じ路線を行ったカントリーの企画盤だった。しかし、ヒットはしなかった。
 ボーウェンにとっては二枚目のディノのアルバム、六四年の《ドリーム・ウィズ・ディーン》Dream with Deanは、ラス・ヴェガスのショウのあと、いつもラウンジに場所を移して歌っていた曲を、その雰囲気のまま録音するというディノ自身が望んだ企画で、いかにも彼らしい、リラックスしたムードの好ましいアルバムだ。バーニー・ケッセル、レッド・ミッチェル、アーヴ・コトラーというウェスト・コースト・ジャズ生き残り組もすばらしいプレイをしている。だが、このメンバーからわかるとおり、シングル・カットに向くものはないし、ビートルズの嵐が吹き荒れた年には、古めかしく聞こえただろう。

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《ドリーム・ウィズ・ディーン》の録音では一曲足りなくなり、ピアノのケン・レインが、自分が昔、シナトラのために書いた曲をやってみてはどうかと提案し、その曲を録音して仕事は終わった。この埋め草の曲はあとで意味をもつが、LP自体はチャートインしなかった。
 二枚つづけて失敗したボーウェンは、つぎはヒットさせなければ、と覚悟したのではないだろうか。それまでの二枚の保守路線を捨て、ドラスティックな転換を図った。ビートルズ旋風の真っ最中だったことも、この決断に影響を与えただろうし、ディノ自身や会社上層部の同意も得やすかっただろう。
 選ばれた曲は、前作で埋め草として録音され、思わぬ好評を得たケン・レインの曲、〈エヴリバディー・ラヴズ・サムバディー〉Everybody Loves Somebodyだった。最初のジャズ・コンボ・ヴァージョンは、片手がグラスにいっている姿が彷彿とする、いかにもディノらしいインティミットな雰囲気があり、ケッセルのプレイと合わせて、なかなか楽しめる。しかし、これをシングル・カットしようと考えるプロデューサーはひとりもいないだろう。ここからが手腕を問われるところだ。
 ボーウェンは先行するヴァージョンを参照したという。わたしが聴いたことがあるのは、シナトラ、エディー・ヘイウッド、ダイナ・ワシントンの三種だが、ボーウェンはワシントンの名をあげている[*注1]。ボーウェンの構想とアーニー・フリーマンのアレンジへの影響を考えるなら、シナトラ盤よりスピードアップしたヘイウッド盤のミディアム・テンポ、ワシントン盤のストリングスがヒントになったのかもしれないが、いずれも微妙で、直接的な影響は観察できない。
 ボーウェンとフリーマンは、先行ヴァージョンには見られなかった華麗な衣装をつくりあげた。まず、ボーウェンが好んだハル・ブレインをドラムに据え、メインストリーム・シンガーの盤にしては強めのバックビートを叩かせた。ここにアップライト・ベースのみならず、ダノを加えるというスナッフ・ギャレットやフィル・スペクターの手法を適用し(ただし、完全なユニゾンではなく、アップライトと付いたり離れたりする)、エレクトリック・ギターには2&4のカッティング、ピアノには四分三連のコードを弾かせた。そして、左チャンネルには女声コーラス、右チャンネルにはストリングスとティンパニーを載せた。

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 前作にくらべると装飾過多といえるほどだが、ディノという「一昔前のスター」をよみがえらせたのは、ハルのタムにティンパニーを重ねることまでやってみせた、この厚いサウンドにほかならない。〈エヴリバディー・ラヴズ・サムバディー〉は、ビートルズの〈ア・ハード・デイズ・ナイト〉A Hard Day's Nightに替わって、六四年八月一五日付でビルボード・チャートのトップに立った。
 この大ヒットでディノは復活したどころか、キャリアのピークを迎えた。それまでのヒット枯渇が一転してヒット連発となり、秋にはフォロウ・アップの〈ザ・ドア・イズ・スティル・オープン〉The Door Is Still Openがまたしてもトップテンに入った。もちろん、スタッフは変わらず、この曲でもハル・ブレインがストゥールに坐った。そして翌年には、新たな「商品価値」を得たディノをホストにして「ディーン・マーティン・ショウ」がはじまり、九シーズンつづくヒットとなる。
 ディノという大スターが、後半生も「現役のスター」でありつづけることができたのは、〈エヴリバディー・ラヴズ・サムバディー〉というモンスター・ヒットのおかげだった。ジミー・ボーウェンという嵐の時代に適応できる二十代のプロデューサー、いまやアレンジャーとしてヴェテランになりつつあったアーニー・フリーマン、時代を背負う位置に立ったハル・ブレインの力に負うところ大だ。このスタッフはやがて、もうひとりの低迷する大スターも復活させることになる。
 しかし、大きく見れば、ディノがこのように新しい時代のメインストリーマーのあり方を示すことができたのは、ビートルズが「ルールを破壊した」結果だったと考えるべきだろう。

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左からサミー・デイヴィス・ジュニア、ハル・ブレイン、レイ・ポールマン、そしてジミー・ボーウェン。

Dream with Dean収録のオリジナル・レコーディングのクリップはありませんでしたが、ピアノ一台という点が異なるものの、以下のクリップのようなムードです。このクリップでピアノを弾いているのがケン・レインではないでしょうか。

ディーン・マーティン Everybody Loves Somebody(テレビ・ライヴ)


この話を持ち出したのは、ひとつには、「マット・ヘルム」シリーズも、ディノの大復活の延長線上でつくられたといいたかったからです。Everybody Loves Somebodyのヒットによるチャートへのカムバックがなければ、テレビのレギュラー番組も、本編のシリーズも、彼のところには持ち込まれなかったでしょう。

そして、もうひとつはハル・ブレインです。ジミー・ボーウェンはハル・ブレインとアーニー・フリーマンという彼の「手駒」に固執しました。ディノの復活によって、フランク・シナトラをプロデュースするチャンスが巡ってきたとき、ボーウェンはアレンジャーからプレイヤー、さらにはエンジニアにいたるまで、シナトラの従来のスタッフを退け、彼のスタッフである、アーニー・フリーマン、ハル・ブレイン。エディー・ブラケットを配置し、同じようにフランクもビルボード・チャート・トップに返り咲かせます。

いわゆる「シナトラ一家」(アメリカでは「ラットパック」と呼んでいる)はみな義理堅かったように見えます。しかし、その義理堅さは異なった形をとって顕れたように思います。

シナトラは、ボーウェン=フリーマン=ブレイン=ブラケットで世紀のカムバックを成し遂げたあとも、このヒット・レシピには固執しませんでした。ハル・ブレインは2曲のチャートトッパーをはじめ、彼にいくつもヒットをもたらしたのに、ついに「シナトラのドラマー」にはなりませんでした。フランク・シナトラは古い付き合いを途絶えさせることなく、その後も、ネルソン・リドル、ビリー・メイといった昔馴染みのアレンジャーを起用しました。これも彼の義理堅さゆえのことなのでしょう。

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「シナトラ会」の会合 集合したかつてのシナトラのアレンジャーたち。左から、ビリー・メイ、ドン・コスタ、会長その人、そしてゴードン・ジェンキンズ。まるで「生きているアメリカ音楽史」たちの記念写真。

いっぽう、ディーン・マーティンは、彼に再び栄光をもたらしたスタッフを大事にしつづけたように見えます。だから、以後、可能なかぎりハル・ブレインが彼のセッションのストゥールに坐るように気を配ったのではないでしょうか。まあ、なかば成田山のお札みたいな験かつぎだったのかもしれませんが。

ハル・ブレインはポップ・フィールドではキングでしたが、映画の世界はべつです。彼が音楽映画以外でスコアもプレイした例は、それほど多くないでしょう。AIPのビーチ・ムーヴィーなどは、ハル・ブレインだらけのスコアがあったりしますが、一般映画ではそれほどプレイしていないと思います。

それなのに、マット・ヘルム・シリーズでは、ハルのプレイがそこらじゅうにばら撒かれているのはなぜか、と考えると、むろん、映画スコアにも8ビートが求められる時代になったからという側面もあるでしょうが、同時に、ディノの希望もあったのではないか、という気がしてきます。カムバック以後のディノは、ハル・ブレインをヒットのお守りのように思っていたのではないでしょうか。いや、まったくの憶測ですが。

◆ ラウンジ・タイム ◆◆
今回で『サイレンサー殺人部隊』は完了のつもりだったのですが、なぜこの映画はハル・ブレインだらけなのか、と考えているうちに、脇筋に入り込んでしまったので、今日はちょっとだけ聴いて、次回完結ということにします。

『サイレンサー殺人部隊』よりカー・チェイス・シークェンス


ここはちょっと笑いました。マット・ヘルムが「フランス警察に告ぐ。この車にはinnocentな(=無辜の)女性が乗っている」と表示する(!)のですが、それでも警察は撃ってきます(音声認識して文字に変換する技術もすごいがw)。それでディノがつぶやきます。

「フランスの男らしいぜ。この世にinnocentな(=清純な)女の子がいるなんてことは、てんから信じていないとくる」

まあ、フランスだとかイタリアだとかいった国に対して持っているイメージは、わたしの場合もマット・ヘルムと似たようなものです!

いったん、追跡者を振り切ったところで、ハープシコードをあしらったけっこうなラウンジ・ミュージックが流れるのですが、あまりよく聞こえないし、すぐに終わってしまうので、サンプルにしました。

サンプル Lalo Schifrin "Suzie's Themre"

一難去ってまた一難、警察のつぎは悪漢に追跡されますが、こんどは「この文字が読めるとしたら、車間距離を詰めすぎです」とテールに表示されるので、また笑いました。この手のジョークは豊富な映画で、それでうかうかと最後まで見てしまったのでありました。

もう一曲、ラウンジ系のものをサンプルにしました。

サンプル Lalo Schifrin "I'm Not the Marrying Kind"

この曲は、最後にディノのヴォーカル・ヴァージョンも出てきますが、サブ・テーマという感じで、二種のインスト・ヴァージョンも使われます。おおむねノーマルなラウンジ・ミュージックなのですが、途中で入ってくるギターがベラボーにうまいところが、いかにもこの時代のハリウッドらしいところです。ハワード・ロバーツなのかトミー・テデスコなのか、はたまたクレジットされていないギタリストなのか、そのへんはわかりませんが。

ベースはアップライトなので、当然、キャロル・ケイではなく、未詳のプレイヤーによるものです。このセットのときは、ドラムもハル・ブレインではなく、アール・パーマーだろうと推測できます。


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ディーン・マーティン
Dino: The Essential Dean Martin
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by songsf4s | 2011-07-09 22:58 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー2 ヘンリー・レヴィン監督『サイレンサー殺人部隊』前篇

当家のお客さん方には事新しく申し上げるほどのことではありませんが、1960年代中期、ハリウッドでつぎからつぎへとヒットを生んだ一群のスタジオ・プレイヤーたちを、後年、ハル・ブレインは「レッキング・クルー」と名づけました。

これは彼の回想記Hal Blaine & the Wrecking Crewによって広まり、まるでそのようなバンドが存在したかのように語られることになりますが、キャロル・ケイはこれを真っ向から否定しています。ハルが勝手にでっちあげた名前に過ぎず、当時からそう呼ばれていたわけではない、というのです(したがって、なんという表題だったか、時間旅行をして、ブライアン・ウィルソンに『スマイル』を完成させようという物語のなかで、ブライアンがプレイヤーたちを「レッキング・クルー」と呼ぶのは大間違いのコンコンチキ。いや、主人公はわれわれのとは異なる時間線に迷い込んだのかもしれないが)。

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キャロル・ケイのいうことが正しいのであって、ハルは「吹いた」のだろうと思いますが、なんだって名前がないと不便ですから、ビリー・ストレンジやトミー・テデスコなど、クルーの中核的プレイヤーにもこの名称は追認され、やがて、この名称をタイトルとしたドキュメンタリー映画までつくられるにおよびました。わたしは、CKさんのおっしゃることも尊重しつつ、名前はあったほうがいいという立場から、留保つきでこの名称を使っています。

(いわゆる)「レッキング・クルー」という名前を、ハル・ブレインはどこから思いついたのでしょうか。回想記のなかでは、われわれより前の世代のプレイヤーはスーツにネクタイという姿でスタジオにやってきた、だが、われわれはジーンズとTシャツだった、彼らはわれわれのことを、スタジオ文化を「破壊する」(wreck)輩だといった、と説明しています。

つまり、旧弊なサウンド・パラダイムを破壊し、新しい音をつくる集団、というのがハル・ブレインの命名意図だったようです。

しかし、いっぽうで、映画から思いついたのだろう、という外野の声もあります。

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日本では「サイレンサー」シリーズなどと呼ばれていましたが、アメリカでは主人公の名前をとって「マット・ヘルム」と呼ばれた、ドナルド・ハミルトン原作のスパイ・アクション・シリーズ第四作『サイレンサー破壊部隊』というものです。

たまたま、というか、ハルはこの映画から「レッキング・クルー」という名前を頂戴したと見る立場からは必然でしょうが、テーマをはじめ、この映画のスコアのあちこちでハルのドラミングを聴くことができます。

やれやれ、長いイントロでしたが、ということで、ラロ・シフリン・フィルモグラフィー・シリーズの2回目は、1966年のマット・ヘルム・シリーズ第二作『サイレンサー殺人部隊』です。

◆ ロッキン・スコア ◆◆
まずは、主演俳優がみずから紹介するめずらしい予告編を貼りつけます。

『サイレンサー殺人部隊』オリジナル・トレイラー


いまどきのタームでいえば「スパイ・ファイ」(Spy-Fi。スパイとSci-Fi=サイ・ファイ=サイエンス・フィクションを合成した語で、SF的要素のあるスパイものを指す)、昔はたんにスパイ映画などといっていた、諜報組織に属すエイジェントをヒーローにした、ジェイムズ・ボンド類似のアクション映画です。

ボンドは実在の組織に属していましたが、たとえば「ナポレオン・ソロ」のU.N.C.L.E.のように、この種のお話では架空の組織もしばしば登場することになっていて、ディーン・マーティン扮するマット・ヘルムは、I.C.E.すなわちIntelligence Counter Espionage(しいて訳すなら「防諜部」といったぐあいの凡庸な名称)に属しています。なんて、わざわざ書くほどのことでもないのですが。

さらにどうでもいいことですが、マット・ヘルムは今回も、前作『サイレンサー沈黙部隊』同様、世界征服を目指す秘密組織BIG O(なにを略したかは略す)が秘密兵器「ヘリオビーム」(ヘリウムを利用したレーザー光線のようなものを想起させたいのだろう)なるものでワシントンを破壊しようという陰謀に立ち向かいます。文字で読むと馬鹿馬鹿しく見えるでしょうが、映画で見るともっと馬鹿馬鹿しいのです。

でもまあ、小学校の終わりから中学にかけて、こういうスパイ・ファイにどっぷり漬かっていたので、わたしの場合は(ほかの人のことは断じて知ったことではない!)、あちこちに埋め込まれた手抜きにニヤニヤしながら、なんとなく最後まで見てしまいます。あの時代にしかないタイプの映画であり、70年代には絶滅してしまったからです。

いくつか気の利いた台詞がありますし、知っていればちょっと笑う楽屋落ちもあるので、百人のうち三人ぐらいは、これはこれで面白い、という方もいらっしゃるかもしれません。映画はその程度の出来ですが(しつこいが、わたしはこういうBムーヴィーをそこそこ好む)、あの時代の音楽がお好きな方なら、ちょっと身を乗り出すようなスコアです。

サイレンサー殺人部隊』タイトル・シークェンス


わっはっは、です。スネア、タムタム、フロアタムと流すストレート・シクスティーンスを聴いただけで、ハル・ブレインとわかる派手さです。Jazz on the Screenデータベースにはドラムはアール・パーマーだけ、先日、三河のOさんが教えてくださった強力なラロ・シフリン・ディスコグラフィーにはベースのキャロル・ケイの名前しかありませんが、この場合はまったく問題ありません。百パーセントの自信をもって、テーマをプレイしたドラマーはハル・ブレインと断言します。

いちおう、Jazz on the Screenのパーソネルをペーストしておきます。

Inc: Bud Shank, Plas Johnson, reeds; Howard Roberts, Tommy Tedesco, guitar; Carol Kaye, acoustic double bass; Earl Palmer, drums; Emil Richards, percussion.

キャロル・ケイはアコースティック・ダブル・ベースと書かれていますが、彼女はフェンダーしかプレイしないので、これは記載ミスです。ただし、スタンダップ・ベースの音がするトラックはあるので、だれかがプレイしたはずですが。

『ブリット』同様、バド・シャンクがフルートのようですが、プラズ・ジョンソンも、サックスではなく、木管(reed)と書かれています。

プラズはアルトとテナーのクレジットしか見たことがありませんが、フルートもプレイしたのかもしれません。仕事でやるかどうかはべつとして、木管プレイヤーはたいていフルートの経験もあるはずですから。でも、あまり見ないということは、たとえフルートをプレイするとしても、テナー・サックスの場合のような圧倒的技量ではなかったのでしょう。

◆ ハル・ブレイン・ストライクス ◆◆
フランス語吹き替えがちょっと珍なのですが(まあ、それをいうなら、日本語吹き替えのほうがもっとずっと珍だが)、つぎはディノがクラブでアン=マーグレットと知り合う場面。



はじめのほうで歌っているのはディノ・デジ&ビリー、すなわちディーン・マーティンの息子のバンドです。もちろん、ディノ・デジ&ビリーの盤の多くはハル・ブレインがプレイしていますし、この曲もまたどこからどう見てもハル以外にはありえないというプレイです。

ハルがStraight sixteenth against shuffle=「シャッフル・ビートに逆らう16分のパラディドル」と呼んでいるイディオムが多用されていますが、Straight sixteenth against shuffleをこういうアクセント、ニュアンスでプレイするドラマーはハル・ブレインしかいません。

この映画でもっとも好きなトラックは、残念ながらクリップが見当たらないので、サンプルをアップします。メロディーはメイン・タイトルと同じ、リード楽器をギターにしただけの変奏曲なのですが、やっぱりギターだと盛り上がり方が数段違うなあ、と思います。

サンプル Lalo Schifrin "Iron Head"

かつてのジェイムズ・ボンド・シリーズには、かならず敵側の強力な殺し屋というのが出てきましたが(ジョーズだのグレート・トーゴーだの、印象深い敵役がたくさんいた)、この曲のタイトルになっている「鉄の頭」というのも、頭に鉄板を貼りつけた(『宇宙大作戦』のミスター・スポックの髪型に似ている!)ゴリラ野郎のことです。

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この鉄板の由来がどこかで説明されるのかと思ったのですが(たとえば、ロボトミーをしたあとで鉄板をかぶせたといった、いかにもSpy-Fi的な趣向だとか)、ついに説明されませんでした。マット・ヘルムが鉄板を殴って痛がるシーンがありますが、それぐらいの用途しかないようです!

で、ディノと鉄頭が格闘する場面で、この典型的なスパイ・アクション・ギター・インストが流れます。典型的過ぎて、半歩パロディーに踏み込んでいるところがこのトラックの魅力ですが、そのあたりを意識していたのか、無意識だったのか、微妙なところです。

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この鉄頭、殴られても痛くない、などというくだらない用途しかないだけでなく、最後は電磁石に頭が貼りついてしまうという情けない事態になる。

いうまでもなく、この曲もドラムはハル・ブレインと一小節でわかります。ギターは、12弦だけでなく、6弦も重ねられているのかもしれませんが、だれでしょうねえ。クレジットがあるのはトミー・テデスコとハワード・ロバーツのみ。この二人のデュオでしょうか。

映画としては、とくにすぐれているわけではないのですが、音楽を聴くと、やはりどれも捨てがたく、まだ佳曲があるので、次回はラウンジ的なものを中心に、さらに『サイレンサー殺人部隊』をつづけます。


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by songsf4s | 2011-07-08 23:23 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー1 ピーター・イエイツ監督『ブリット』後篇
 
『ブリット』でもっとも印象が強かったのは、もちろん、カー・チェイス・シークェンスですが、あれが印象に残らなかったらどうかしていることになるので、ノー・カウントという感じがします。

もうひとつ、その後もずっと忘れなかったショットは、じつに地味なもので、おそらく、たいていの人は気にもとめないだろうと思います。

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というショットです。これは食料品店で買物をしたブリットが道路を横断するだけの、とくに重要ではないショットですが、子どものわたしには、紙袋の口をあけたまま胸のところに抱えてもつのが、なんとも粋に感じられました。

いまでも、男が食料品を買うなら、あのようにもつべきであって、いわゆるレジ袋は、人間の尊厳を損ねる代物と感じます。一定以上の年齢の方は、かつて、どこのスーパーもあのような紙袋を使っていたことをご記憶でしょう。あれにもどせばいいんです。

しかし、映画の記憶というのはじつに奇妙だと思います。ほかの重要なショットは忘れたのに、スティーヴ・マクウィーンが食料品を抱えて歩く姿が非常によかった、ということはついに忘れませんでした。

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前述の道路を横断するショットのつぎに出てくる、ブリットがアパートの階段を上る場面。この映画で唯一の、サイケデリックの時代らしい意匠は、このアパートの廊下に張られたポスター。

たとえば、ジャン=ピエール・メルヴィルの『サムライ』で忘れがたいのは、Tシャツ一枚のアラン・ドロンが撃たれた傷の手当てをするショットです。鏡に映ったドロンのTシャツが見慣れぬものだったのです。

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いえ、いまではあたりまえのTシャツです。しかし、あの映画を見たとき、中学生のわたしはランニング・シャツかVネックの半袖シャツを着ていました。あのようなデザインのアンダーシャツがあることに驚いたのでした。

映画というのは、ともすれば、そのような重要性の低いショットで記憶されてしまうものなのではないでしょうか。

◆ 現実音3種 ◆◆
アクション映画といえども、当然ながら、アクション・シーンだけで成り立っているわけではなく、スコアもタイプの異なるものが使われますし、放送やクラブなどの現実音もあります。

以下は、開巻まもなく、ブリットが恋人(ジャクリーン・ビセット)と食事にいった店で流れている音楽ですが、ライヴ・バンドが入っている店という設定で、むろんじっさいにプレイしたメンバーとは異なるものの、バンドの姿もフィルムに捉えられています。以下のクリップは、盤ヴァージョンではなく、オリジナルの映画ヴァージョンを使っています。

『ブリット』より A Song for Cathy


やはり1968年という時代を反映して、木管プラス3リズム(この編成はいい。ピアノではなく、ギターなのが好み。ギターとフルートは相性がいい)という、比較的ノーマルなジャズ・コンボの形式をとりながら、全体としては、かすかなサイケデリック味のある、ポップ・チューンになっています。

わたしがあのとき大人で、1968年に映画のなかでこの曲にぶつかれば、これは、と思って、音楽監督の名前を記憶したにちがいありません。あの時代にしか生まれないような、折衷的サウンドです。

これがもうちょっとあとになると、この種の曲をやるなら、ベースはスタンダップではなく、フェンダーでしょう。1967年にはスタンダップしかプレイしていなかったスティーヴ・スワローが、1971年の日比谷公会堂では、半分ほどはフェンダーを使ったことを思い起こします。そういう転換期だったことの、この曲はドキュメントになっているように感じます。

もう一曲、同じシーンで使われるものですが、劇中では背景ノイズにまぎれてほとんど聴こえないトラックです。

『ブリット』より Cantata for Combo


これまた折衷的サウンドで、いまになると、いかにも転換期のトラックに感じられます。映画のなかではよく聴こえないのは、じつに残念です。

つぎは安ホテルの部屋に警護つきで閉じ込められた証人が、手持ちぶさたでラジオのスウィッチを入れる、というシーンで、ラジオから流れてくる、この映画で唯一の、折衷的ではない、ストレートなロック系の曲です。

『ブリット』より Hotel Daniels (Radio Source)


このメンバーなら、こういう曲は当然アール・パーマーであってしかるべきですが、そのようには聴こえません。あちこちで突っ込んでいて、まるでジョン・グェランのような、エースらしからぬプレイです。

ギターはハワード・ロバーツとボブ・ベインだけしか名前が挙がっていません。いくらセッション・ワークとはいえ、ロバーツやベインのようなヴェテランがこういうプレイをするかなあ、とも思います。

トミー・テデスコはあるとき、コンダクターに「ヴァン・ヘイレン風にやってくれ」といわれ、だれだそいつは、といったら、かたわらの若いギタリストに、デタラメに弾けばいいんだ、といわれ、デタラメに弾いたら、ワン・テイクでオーケイだった、といっています。ハワード・ロバーツも、クラプトン風に弾いてくれとかなんとかいわれて、だれだそいつは、ときいたら、デタラメにやればクラプトン風になるといわれて、デタラメに弾いたのかもしれません。

冗談はさておき、このトラックにかぎっては、オルガンはべつとして、あまりプロらしく聴こえません。どうせAMラジオから流れる設定、ダイナミック・レンジはうんと狭くすることになる、というので、よそでとった若いプレイヤーのトラックをもってきたのかもしれません。

◆ アクション、アゲイン ◆◆
映画から切り離し、盤で聴いても、『ブリット』は佳曲目白押しで、里程標的なアクション映画にふさわしいスコアだと感じます。

つぎはふたたびアクション映画らしいサウンドを。証人が死亡したことを隠すために、早朝、病院から遺体を運び出すシーンで流れる曲です。

『ブリット』より Quiet Morning


もったいない、これだってテーマに使えたのに、といいたくなります。一瞬しか流れないストリングスのアレンジとサウンドもおおいに好みです。

アコースティック・ギターのアルペジオが入って、後半はドラムレスのテーマの変奏曲になります(この部分は映画では流れない)。ギターは当然ハワード・ロバーツとボブ・ベインとして(リードは前者か)、フルートはバド・シャンク、テナー・サックスはプラズ・ジョンソン、ピアノはマイク・メルヴォインといったメンバーと考えられます。

久しぶりに『ブリット』を見て、ほうと思ったのは二点。このころからズーム・レンズが多用されるようになったと思うのですが、開巻まもなく、ビルの上から道路の車の行き来に、慌てず騒がずじりじりと寄っていくズームの使い方に感嘆しました。

自分でヴィデオカメラで撮影してみて、パーンとズームはゆっくりと、と言い聞かせても、やはり、下手くそなドラマーがフィルインで突っ込むようなタイミングになってしまうことが、骨身に徹してわかりました。ズーム・レンズは好きではないのですが、それでもなお、ズーム・レンズの使い方にも巧拙があり、この映画のオペレーターは第一級だと感じました。

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すでにアメリカン・ニュー・シネマの時代に突入していた。ニュー・シネマの視覚的な特徴はこうした望遠レンズによる絵だった。

また、スティーヴ・マクウィーンの演技も、今回の再見では興味深いものに感じられました。アクション映画のヒーローとはほど遠い、じつに言動の穏やかな男の像を手堅く作り上げています。最後に、チャーマーズ(ロバート・ヴォーン)に向かって、「知ったことか!」(Bullshit!)と怒りをぶつける場面を、強調したかったのでしょう。

犯人を射殺したヒーローは、未明に帰宅し、ガンベルトを置き、安らかに眠る恋人の姿をたしかめ、疲労もあらわな自分の顔を鏡で見ます。アクション映画の転換点になった作品らしいエンディングです。

『ブリット』より Ending Title



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ブリット(Bullitt)
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by songsf4s | 2011-07-07 23:55 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー1 ピーター・イエイツ監督『ブリット』中篇
 
前回は、『ブリット』という映画自体にはふれませんでした。アクション映画の里程標、転換点となった作品ですから、いまさら、という気もしますが、ごくかいつまんで書いておきます。

サンフランシスコ市警のフランク・ブリット警部補(スティーヴ・マクウィーン)は、上院議員(かなにからしい)のチャーマーズ(ロバート・ヴォーン)が小委員会の参考人として出席させようとしている男を、保護するように命じられます。

『ブリット』フル パート2


この証人は「組織」の金を盗んでシカゴから逃亡してきたギャングで、ブリットは男をホテルに閉じ込め、部下二人とともに警護にあたりますが、部下がシフトについている夜間に、二人組の襲撃を受けて、証人も警官も撃たれてしまいます。

ブリットは、証人がだれに、どのように襲撃されたかを追及しつつ、いっぽうで、襲撃後、まもなく病院で死亡した証人の遺体を隠し、捜査のために死を隠蔽します。死の前日、証人を乗せたタクシーの運転手(ロバート・デュヴァル)の証言などをヒントにし、やがて、証人と思われていた男が、じつは別人だとわかり……。

◆ 「例のあの場面」 ◆◆
映画のシーンのタイプとしての「カー・チェイス」という言葉が広く使われるようになったのは、『ブリット』以後のことだったという記憶があります。

『ブリット』 カー・チェイス・シークェンス


このフェンダー・ベースもやはりキャロル・ケイでしょう。本格的な追いかけっこがはじまるまでの、サスペンスを高めていく演出と編集もちょっとしたものですし、ラロ・シフリンも、サスペンスの醸成におおいに貢献しています。

なにしろこちらは十五歳だったので、むろん、大興奮でした。いまになると中程度の出来に見えるかもしれませんが、当時は、こんなものははじめて見た、とおおいに驚きました。

たとえばジェイムズ・ボンド・シリーズのなにかで、カー・チェイス・シーンというのをすでに見ていたはずですが、そういうものとはまったく異なるものと受け止めました。

その違いはなにか? ひとことでいえば、リアリズムです。撮影方法もディテールの演出も編集も、当時としては非常に先端的で、以後、こういうものを見るたびに、『ブリット』が切り拓いた土壌の上にできたものだと、つねに意識したほどです。

その後、驚くべきカー・チェイス・シーンはいくつも見ていますが、それでもなお、今回の再見でも、これはこれでよくできたシークェンスだと感嘆しました。坂の使い方は斬新ですし、カメラに車がぶつかってくるところにも、車載カメラの「一人称視点」にも、転がるホイール・キャップにも、転倒するバイクにも、すごい、すごい、とびっくりした記憶が、あざやかによみがえりました。カー・チェイスをこのように演出したのはピーター・イエイツをもって嚆矢とする、といって大丈夫でしょう。

◆ ヒットマンの影 ◆◆
『ブリット』にも当然ながらさまざまなタイプの音が使われていますが、たとえばラウンジ的なもの、ロック・ニュアンスの強い曲といったものは次回にまわすことにし、今回は、もうひとつサスペンスフルなタイプの音楽を貼りつけておきます。

『ブリット』よりIce Pick Mike


証言者が銃撃を生き延びたので、ヒットマンはこんどはひそかに病院で襲撃しようとしますが、この男に病室をきかれた医師がブリットに知らせたために、襲撃は失敗し、男は逃走します。ブリットが逃走するヒットマンを追う、夜の病院内でのシークェンスに使われたのがこの音楽です。

ただし、このクリップは盤にするために再録音されたステレオ・トラックを使っています。べつにこちらだって悪くはないのですが、しいて優劣をつけるなら、やはり映画用のオリジナル・レコーディングのほうが、強いエッジがあって、好ましく感じます。

そういうニュアンスの違いに関心をもたれる方は多くはいらっしゃらないでしょうが、いちおう、モノーラルの映画ヴァージョンもサンプルとしてアップしておきます。

サンプル Lalo Schifrin "Ice Pick Mike" (original mono recording)

ちらっと出てくるタムタムのプレイを頼りに卦を立てるだけですが、このドラムはアール・パーマーではないでしょうか。いや、ラリー・バンカーやスタン・リーヴィーのプレイに通じているわけではないので、たんなる山勘のようなものですが。

リード楽器に使うこともあれば、あるいはちょっとしたオブリガートのこともありますが、ラロ・シフリンはほんとうにフルートの好きな人だと、この曲を聴いても思います。

次回は、上述のように、いくつかタイプの異なる、非アクション映画的な曲をあげ、『ブリット』を終えるつもりですが、それにしては残った曲数が多く、「後篇」で終わらなかった場合はどういえばいいのかと悩みつつ、今回はおしまい。


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by songsf4s | 2011-07-06 23:44 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー1 ピーター・イエイツ監督『ブリット』前篇
 
そんな大見得きって大丈夫かと自分に問うと、あまり大丈夫でもないかな、という頼りないこたえが返ってきましたが、以前からずっとやろうと思っていた、ラロ・シフリンの映画スコアの跡づけにとりかかろうと思います。

本来、そういうことをやるときは、ほぼ全作品を見なおし、聴きなおし、全体の構図をつかみ、しかるのちに細部の位置づけをおこなうべきなのだろうと思います。でも、そういうことをいっていると、いつまでもとりかかれないので、事前の再見は抜きで進めます。

予断もなし、といいたいところですが、そもそも、予断があるからラロ・シフリンがスコアを書いた映画を数本見直してみようと思ったのです。60年代終わりに起きた、オーケストラ・スコアからのテイクオフ、ジャズ・ニュアンスの強い8ビート・スコア誕生の最大の原動力となったのは、ラロ・シフリンではないか、という予断です。

記憶をたどると、どうも、そんな気がしてきたので、じっさいにそうなのかどうかをたしかめようというのが、この「ラロ・シフリン・フィルモグラフィー」シリーズの目的です。

◆ プレリュード ◆◆
ラロ・シフリンのキャリアを見渡し、あと知恵で考えて、最初に重要なのはどの曲かというと、なんといっても『スパイ大作戦』のテーマです。この曲については、「Mission Impossible by Lalo Schifrin」という記事で詳細に検討しているので、ここでは細かいことを略させていただきます。

トム・クルーズ主演による本編のほうでも、テレビ・シリーズと同じ曲が使われているので、お客さんのどなたもよくご承知でしょうが、いちおう、クリップだけ貼りつけておくことにします。

スパイ大作戦


5拍子、5度の半音下(フラッティッド・フィフス)の多用、というジャズ的要素が濃厚な曲なのですが、レンディションないしはサウンドの感触は、ロック/ファンク的で、これがターニング・ポイントでなくてなんだというのだ、という音です。

その背景には、ドラム=アール・パーマー、ベース=キャロル・ケイという、8ビートの分野のエース・プレイヤーの参加がありますが、ラロ・シフリンも、後年の言葉でいうなら、ジャズ・ロックないしはフュージョン的な、折衷的サウンドを目指してアレンジ、コンダクトしたのだろうと思います。その意図に沿って、ジャズ・プレイヤーとして出発し、ポップやR&Bの分野でエースとして活躍していたアール・パーマーとキャロル・ケイが選ばれたのではないでしょうか。

◆ タイトル・シークェンス ◆◆
『スパイ大作戦』の翌々年、1968年公開の『ブリット』は、映画としても大きな転回点になった作品ですが、子どものわたしは音楽にもおおいに惹かれました。改めて聴きなおしても、ちょっとしたものでした。

『ブリット』オープニング・タイトル


アクション映画というのはこういう風にはじまってほしい、といいたくなる、わたしがもっとも好むタイプのオープニング・シークェンスの絵と音の組み合わせです。

あの時代のタイトルのつくり方を知らないと、ニュアンスがおわかりにならないかもしれませんが、文字の扱いも、60年代前半の典型的なスタイルとは異なり、シンプルで渋い方向へとシフトしていて、歴史に残る映画というのは、やはり「いいぞ!」という雰囲気を濃厚に漂わせて登場するのだな、と感心しました。

アメリカ議会図書館のJazz on the Screenデータベース(毎度、お世話になっている三河のOさんが教えてくださった)によると、この映画の録音には以下のプレイヤーが参加しているそうです。

Inc: Bud Brisbois, trumpet; Milt Bernhart, trombone; Bud Shank, flute; Plas Johnson, tenor sax; Howard Roberts, guitar; Michael Melvoin, piano; Ray Brown, Bill Plummer, Max Bennett, Carol Kaye, acoustic double bass; Stan Levey, Larry Bunker, Earl Palmer, drums.

テーマに関しては、フェンダーベースは一小節でキャロル・ケイとわかるサウンドとプレイです。『スパイ大作戦』のコンビでドラムもアール・パーマーといいたくなりますが、あまりアールらしいサウンドには聞こえません。ラリー・バンカーないしはスタン・リーヴィーではないでしょうか。

台詞が入ったところで、ベースだけになりますが、ここはフェンダーではなく、アップライトです。レイ・ブラウンのプレイでしょうか。この曲のほかの箇所はフェンダーのみであって、アップライトと重ねているようには聞こえませんが、このあたりは微妙なので、ハリウッドのポップ系セッションでは広くおこなわれていたように、二本のベースを重ねた可能性もあると思います。

このメンバーは、ジャズ系とポップ系の混成部隊といえなくもありませんが、管のプレイヤーはもともと分野を問わずに仕事をするものですし、リズム・セクションも、60年代中期以降のハリウッドでは、両方の分野でプレイする人のほうが多かったくらいです。

『ブリット』フル パート1


あるいは、ひょっとしたら、作曲者、アレンジャーの明快なヴィジョンによって、トップ・ダウンでこういう音ができたわけではないのかもしれません。プレイヤーのほとんどが、分野を横断して仕事をしていたために、自然に折衷的なグルーヴが生まれた可能性だってあると思います。

議会図書館のデータベースには、リチャード・ハザードとジョージ・デル・バリオという二人のオーケストレイターがクレジットされています。この二人の譜面は、ノーマルなビッグバンド・スタイルで書かれていたのではないでしょうか。

しかし、いざ、録音がはじまり、音を出してみると、とりわけキャロル・ケイのせいで、ファンク色の強いものになったので、コンダクターであるラロ・シフリンがそれをそのまま生かすことにした、という可能性もあると感じました。

本日はテーマのみしか取り上げられなかったので、次回も『ブリット』をつづける予定です。


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by songsf4s | 2011-07-01 23:55 | 映画・TV音楽