- タイトル
- And Your Bird Can Sing
- アーティスト
- The Beatles
- ライター
- John Lennon, Paul McCartney
- 収録アルバム
- Anthology
- リリース年
- 1996年
- 他のヴァージョン
- officially released later take

ご来訪いただいたお客さんのご指摘にしたがって、「散歩やせんとて」掲載の古建築の名称を訂正したり、ここにはリンクを掲示していない、ささやかなブログの更新をしたりしているうちに時間がなくなり、『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』は、挿入曲を切り出し、MP3にするところまでしかできませんでした。
やむをえず、「黄金光音堂」の「エルヴィス映画見直し」シリーズの次回に備えて、なにか映画でも見ようかと思ったのですが、今日はもうすでに一本見ているので(こちらのつぎの映画のつもり)、それもやめにしました。そうそう、エルヴィス映画見直しのトップバッター「アカプルコの海」は、昨夜完結したので、ご興味のある方はどうぞあちらをご覧になってください。エルヴィス映画あまたあるなかで、OSTに関するかぎり、『アカプルコの海』はベストです。
◆ ビートルズというエアポケット ◆◆
『くたばれ悪党ども』のスコアを切り出して、MP3に事故はないか確認しているうちに、プレイリストの先頭に戻り、ビートルズが流れてきました。今日は手早くそんな話を書こうと思ってタイプしはじめているのですが、あと40分でシンデレラ・タイム、どこまで書けますか。
ハル・ブレインやビリー・ストレンジやキャロル・ケイ(みなさんにお世話になったにもかかわらず、敬称略しました、どうかあしからず、って英語で書かないとな)のことで大騒ぎしていたころに小さなサークルができあがり、いまもMLをつかって連絡などをしています。
そのなかのおひとり、ときおり当家にも書き込んでくださるAdd More Musicのオーナー、キムラセンセは、わたしのわずか数カ月年上で、「並行進化」というぐらい、じつに似たような音楽趣味の通りを歩んできました。
ところがですね、当たり前すぎてあまりビートルズのことなど話さないからなのですが、キムラセンセのフェイヴァリットは、A Hard Day's Nightだと、このあいだはじめて知ったのです。もう付き合いは10年以上なのですがね。
なるほど、A Hard Day's Nightはもっともだと思います。われわれリアルタイム世代の場合、Abbey Roadというのはぜったいに出てこないのです。うっかりすると、あのころにはもうビートルズを見切って、ほかのものを聴いていたりするぐらいなので(わたしの場合は、後輩が買ってきたAbbey Roadを脇から聴いて、ケッ、くだらねえ、とせせら笑った)、フェイヴァリットなどにあげるリアルタイム・ビートルズ・ファンは、ごく稀な倒錯者だけです。66年ぐらいでビートルズは終わった、と考えるのがノーマルなリアルタイム・ファンの共通認識といっていいでしょう。
◆ And this bird can sing, too ◆◆
キムラセンセのA Hard Day's Nightがベスト、というメールを読んで、わたしはどうなのだろうなあ、と思いました。このあいだのリマスター騒動やらなにやら、いろいろあるので、プレイヤーにビートルズを載せてみたのです。
それで、あれこれ聴いているうちに、これじゃなくてさあ、という声が聞こえてきたのです。これじゃないなら、どれなんだよ? それはこれです。
左側はどうでもいいので、右チャンネルに意識を集中してください。最初のパスでできあがったノーマルな録音をいったん1トラックにトラックダウンし(それが右チャンネルに定位されている)、空いたトラックにジョンとポールのヴォーカルを重ねる、というセッションを記録したトラックです。二人とも吹いてしまったので、当然、ボツになり、Anthologyで陽の目を見ることになりました。
いやあ、これを聴いたときはいろいろな意味で驚きました。
・ブートをたくさん買ったが、このテイクはブートにはなかった。
・ジョン&ポールの完全なデュエットがこの時期になってまだ録音されていた!
・このテイクならシングル・カットもできるアレンジなのに、なぜあの地味なリリース・テイクへと退行させていったのか?
・そして、最大の驚きは「ジョン・レノンの声は死んでいなかった!」ということ。
いやあ、こんな核爆弾のようなテイクがブートにもならずにヴァージンのまま残っていたなんて奇蹟としかいいようがありません(いや、正確にいうと、このひとつ前の、吹いていない、ノーマルな初期テイクがすばらしいのだが)。Anthologyを全部買って、この1曲で元が取れました。
なにがすごいといって、start to weigh you downやwill it bring you downの「ダウン」のところのジョンの声と歌い方です。ここを聴いたときは涙があふれました。ジョンの声は、この時点ではまだまったく衰えていなかったのだ、という感動です。これこそ、ロウ・ティーンのときにわたしが愛したジョン・レノンの歌声です。
ジョンは自分の声が嫌いだった(!)そうで、しきりに声を変える方法をジョージ・マーティンやジェフ・エメリックに要求したと伝えられています。その結果がRainであり、なによりもTomorrow Never Knowsを筆頭とするRevolver収録曲の、加工した声なのです。もちろん、以後、さまざまなアルバムでジョンの声は極端に加工され、「あのジョン・レノン」は宙空に消失してしまいます。
ジョン・レノン自身とは逆に、たいていのファンはジョンの声を愛していました。だからファンにとってはRevolverはおおいなる失望でした。
ところが、よけいな加工をしていないトラックが出てきてみたら、ジョン・レノンの声が完璧に冷凍保存されていたのだから、それはもう「あふれ出でよ、わが涙」ですよ。わたしと同世代のビートルズ・ファンなら、このエモーションの爆発は説明抜きでわかるはずです。
おっと、時間がなくなったので、とりあえず、ここまでで更新し、あとは、五月雨式にパラグラフを付け加えていくことにします。
◆ 非公式見解 ◆◆
つぎのパラグラフを書こうとしたら、近所に住む老母からSOSの電話があって、あわてて飛び出すという一幕があり、一時間近くが無駄になりました。いろいろなことが起きるものです。ひょっとして、つぎのパラグラフをお待ちの方がいたとしたら、どうも相済みません。
さてトラックを戻します。
ジョン・レノンの声、という極端な基準だけでビートルズを聴いていくと、ベストはAin't She Sweetである、なんていうわけのわからない結論が論理的に導きだされてしまうので、ここでいったん、この基準は棚上げにします。
A Hard Day's Nightがベストである、というキムラセンセの明快な主張に呼応して、わたしも明快に行きたいのですが、これがそうはいかないですねえ。A Hard Day's Nightは、「客観的に」あるいは「公式に」は、わたしもビートルズのベストというかもしれません。
しかし、主観的には、あるいはプライヴェートにはどうかというと、どうもA Hard Day's Nightではないようです。いや、Please Please MeからRubber Soulまで、どのアルバムも、なにかの風が吹けば、ベストにあげてしまう可能性を持っている、ということをまず申し上げておきます。
そのうえで、どれがいちばん好きか? いまの気分は「Help!のA面だけ」またはRubber Soulです。
◆ さて、一等賞は…… ◆◆
いや、こういうベスト選びみたいなことは、ちょっとした遊びにすぎず、ほとんどなんの意味もない、ということを先に申し上げておかないといけませんでした。ただの遊びです、とくどく繰り返しておきます。
しかし、Help!のA面がベストというのも、「ジョン・レノンの声だけ」という基準とあまり懸隔のない、特殊な基準から考えているのかもしれません。Help!のA面のなかでも、とくにどれがいいと考えているかというと、Another Girlだからです! この基準でいうと、二番目にいいのはThe Night Beforeです。どういう基準かわかりますか? わたしのクセをご存知のミニMLの友人たちなら、喝破するかもしれないので、ちょっと時間をおきしょうか。
The Beatles "Another Girl"
The Beatles "The Night Before"
いきなりナグラのテープ・マシンが映るところがすごい。昔は、映画のワイルド・トラックはナグラで録音するものと決まっていた。放送関係でも利用された。
では、理由を書きます。グルーヴです。ポールのグルーヴがいいのは、Help!にはじまったことではありません。だから、ここで問題にしているのはリンゴのほうです。
わたしが最初に買ったビートルズのLPはHelp!です。だからなのだと思いますが、この二曲でのリンゴのライドは体にしみこんでいますし、いま聴いても、安定しているし、なによりもグッド・フィーリンのある、いいプレイだと思います。
もうすこし深いところまでたどりつくつもりでしたが、あれこれあってバテてしまったため、今夜はここまでとします。じっとリアルタイムの更新につきあってくださった方が万一いらしたら、心よりお礼申し上げます。お退屈さまでした。