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Search for Vulcan [from Thunderball] by Leroy Holmes (『サンダーボール作戦』より)
タイトル
Search for Vulcan
アーティスト
Leroy Holmes
ライター
John Barry
収録アルバム
The Crime Scene (Ultra-Lounge Vol. 7)
リリース年
不明(60年代)
他のヴァージョン
Ray Barretto, the John Barry Orchestra
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どうも今年の春は様相がおかしく、近所の桜並木の染井吉野のなかにはまだ見ごろといえる株がいくつかあるいっぽう、その脇ではもう躑躅が開花しはじめていますし、わたしの好きな花水木も咲きはじめました。

しかし、この時期に目にあざやかなのは新緑のほうでしょう。欅はどの木も日々緑が豊かになっていくのがはっきりわかります。欅よりさらに好ましいのは楓類で、さまざまな種類の楓がふさふさとやわらかな葉を茂らせています。毎年、あれを見るたびに、これは食べられないのだろうかと思います。さわるとなんともいえない手触りで、食べられそうな気がしてくるのですが……。

◆ ヴァルカン捜索 ◆◆
Thunderballシリーズをもう1イニング延長したはいいのですが、もはや飛び抜けた出来のものはなく、どれを看板に立てるかで苦慮してしまいました。こういうときには、珍なほうへと気分は傾くのですが、その方面でも、こりゃたまらん、と腹を抱えるほどのものはありません。そこで、微妙に方向転換することにしました。

じつは、いちばん面白く感じたのは、Thunderballのテーマではなく、挿入曲のSearch for Vulcanのリロイ・ホームズによるカヴァーなのです。これはかなり高得点なので、テーマではないから、などと了見の狭いことはいわず、これを看板に立てることにして、サンプルをいってみましょう。

サンプル

このトラックを単独で聴いても出来のいいことはわかりますが、オリジナルを聴くと、いっそうそれが明瞭になります。



というわけで、ずいぶんとオリジナルとはへだたったところに成立したカヴァーなのです。とりわけ、C-Ab-GおよびBb-F#-Fという冒頭のエキゾティックなギターのフレーズは、一瞬、どこから出現したのかと考え込んでしまいましたが、オリジナルでは派手に、ホットに鳴っているホーン・ラインを、極度に縮小し、クールにプレイしたものだとわかり、うへえ、でした。オリジナルのメロディー・ラインは背景のリフのように扱われ、オルガンと女声コーラスがやっていますが、この処理も粋です。

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どういうわけか、リロイ・ホームズのSearch for Vulcanは、ウルトラ・ラウンジ・シリーズに重複して収録されていて、このLeopard Skin Fuzzy Samplerという巻でも聴ける。

リロイ・ホームズはオーケストラ・リーダーとして、主に映画音楽のカヴァーで売った人ですが、アレンジャー、オーケストレーターとして、MGMやUAで多くのシンガーのバッキングもしたそうです。いくつか曲も書いていて、当家では、一昨年のクリスマス・ソング特集で、アル・カイオラとリズ・オルトラーニによるHoliday on Skisを取り上げ、サウンドのみならず、ホームズの楽曲の出来も賞賛しています。

ホームズはインスト曲の作り方を知っている人だったのでしょう。そういうところが、このSearch for Vulcanのギター・リックにもあらわれていて、ギター・インスト好きとしては、思わず乗ってしまうわけです。ほんのささやかなところでの解釈、処理なのですが、こういうことができれば、アレンジャーとしても成功するのではないかという気がします。

◆ ジェイムズ・ボンド・ゴーズ・ウェスト ◆◆
すこしだけテーマのカヴァーの落ち穂拾いをしておきます。

このカヴァー群について、どうしてそうなったのかなあ、と首をかしげることがあります。前回、アル・カイオラのカヴァーについて、アレンジが西部劇音楽のようだと書きました。カイオラは西部劇のテーマのカヴァーで有名な人だから、これについてはべつに不思議でもなんでもありません。

でも、このパターンがほかにもたくさんあるのは、いったいどういうことなのでしょう? Goldfingerその3でふれた、チェルトナム・オーケストラも、アコースティック・ギターのストロークがこの西部劇パターンですし、すでに言及済みのダン&デイル、ディック・ハイマン、パーシー・フェイスもやはり、アコースティック・ギターが同じリズムでストロークしています。

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いや、これが西部劇のテーマだというのなら、そういう風にパターンが偏っても異とするには足らないでしょうが、ジェイムズ・ボンドもの、しかも、バハマの海を舞台にした話が、なんで馬が疾駆するような表現になってしまうのでしょうか。さっぱり意味がわかりません。まったくおかしなことがあるものです。

◆ テーマのカヴァー拾遺 ◆◆
f0147840_1382656.jpg毎度けなしてばかりのジェイムズ・ボンド・セクステットは、この曲に関してはまずまずのパフォーマンスです。ドラムがフィルインをほとんど入れないため、フィルインで突っ込むジョン・グェランの悪癖(フィルインで突っ込み、バックビートに戻るときに微妙な間を入れて調整するというのは素人の特徴なのだが!)が最小限に抑制され、結果として、タイムがそこそこ安定したおかげです。グェランさえいなければ、なかなかいいメンバーだということが、Thunderballのカヴァーでよくわかります。とくにサックスがけっこうで、だれだっけとメンバーを見ると、バディー・コレット。やっぱり、うまい人だったんですねえ。まあ、下手な人がスタジオで有名になるはずがありませんが、グェランという例外もあるので……。

同じ系統としてはジャズ・オールスターズがありますが、こちらは、ギターがなぜかPeter Gunnのリックを弾いています。とくに面白いアイディアではないように思うのですがねえ。あまりレベルの高いプレイではありません。

f0147840_139427.jpgオーケストラでドーンとぶちかます方向は、ジョン・バリーがサントラでやっているから、それだけですでに不利なのですが、そういうカヴァーが生まれてしまうのは、やはりやむをえないところでしょう。いちばん派手なのはローランド・ショウのヴァージョンで、ジョン・バリーを圧倒してやろうという気迫が感じられます。しかし、ドラムがもたつき気味で、そこで大きくマイナス点がついてしまいます。百日の説法屁一発では譬えがちがうかもしれませんが、ほかが完璧でも、ドラムがヘボだとすべてぶち壊し、ゼロ以下になってしまいます。

レグ・ゲストはペラペラしたサウンドの12弦をリードに使っているところが楽しめます。レイ・バレートー盤は、途中で出てくるストリングスのアレンジが変わっていて、そこだけ印象に残ります。レイ・マーティンはアレンジはいただけませんが、二度登場するギターはなかなかけっこうです。ハリウッド録音なので、だれか知っているプレイヤーかもしれません。

あとはとくにふれなければならないヴァージョンはないようです。それにしても、チェルトナム・オーケストラは、この曲でも依然としてシャレなのかマジなのか判断ができず、思案投げ首ですわ。

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by songsf4s | 2009-04-14 23:28 | 映画・TV音楽
Thunderball その2 by Billy Strange (『サンダーボール作戦』より)
タイトル
Thunderball
アーティスト
Billy Strange
ライター
John Barry, Don Black
収録アルバム
Secret Agent File
リリース年
1966年
他のヴァージョン
Tom Jones, Al Caiola, Count Basie, Hugo Montenegro, Leroy Holmes, Ray Barretto, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Sounds Orchestral, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra, Davie Allan & the Arrows, Dick Hyman, Elliott Fisher, The Jazz All-Stars, Percy Faith & His Orchestra, Dan & Dale
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◆ またもビリー・ストレンジ盤 ◆◆
当家のお馴染みさんには、またかよ、といわれてしまうかもしれませんが、Goldfingerにつづいて、Thunderballもカヴァー筆頭はビリー・ストレンジ盤を選びました。ふだんなら、こういう重複は避けるのですが、Goldfinger同様、Thunderballもビリー親分のサウンドは冴えているのです。彼のこの系統の二大作品といっていいでしょう。

例によって、右のリンクから行けるAdd More Musicの「レア・インスト」ページで、この曲が収録されたビリー・ストレンジのアルバム、Secret Agent FileのLPリップを入手することができます。なかなかけっこうなアルバムなので、ダウンロードしても損はありません。オープナーがThunderball、クローザーがGoldfingerとなっているということは、この2曲の出来がすばらしい、ということで作り手とリスナーの考えが一致したようです。

ビリー御大はGoldfingerではフェンダーを使っていましたが、Thunderballはダノ(ダンエレクトロ6弦ベース)でリードをとっています。いや、わかったようなことを書いていますが、以前はこのギターのサウンドが不思議で、ボスにメールを送り、Thunderballではどんなイフェクターを使ったのですか、なんてまるっきり見当違いな質問をしてしまいました。

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こちらはLP版Secret Agent Fileのフロント。タイトルどおり「ファイル」フォルダーの形になっているのだが……。しかし、いつも手抜きのGNP Crescendoとしては、マシな部類のデザインではある。

ボスは、あの時代にはイフェクターはほとんど使わなかった、使ったとしたらファズ・ボックスぐらいだ。ほかに変な音がするものとしては、イフェクターではないが、ときおりダノを弾いた、という返信をくださり、それを読んだ瞬間、わたしは「ダノだ、ダノに決まってるじゃんか!」と、自分のうかつさに腹を立てました。いわれてわかるんじゃ、情けないだろうに>俺。

ダノというのは、うまくはまるとじつに効果的な楽器で、この変なメロディー・ラインをもつ曲には最適の選択だったと思います。以前、なにを取り上げたときだったか、ボスのダノのリードがすぐ終わってしまうのが残念だと書きましたが、この曲は頭から尻尾まで全編ダノ、たっぷり堪能することができます。思うに、映画にも、トム・ジョーンズの歌ものより、このダノ・ヴァージョンを使ったほうがはまったのではないかという気がします。

ドラムはハル・ブレインですが、ほかのメンバーはわかりません。気になるのはサックスで、冒頭からいいオブリガートをつけています。ラインはアレンジャーであるビリー・ストレンジのものでしょうが、音の出がよくて、うまい人だなあ、と思います。数あるボスのホーン・アレンジのなかでも、この曲はベストのひとつだと思います。

◆ ヒューゴー・モンテネグロ、デイヴィー・アラン ◆◆
ビリー・ストレンジ盤以外を見渡すと、もう抜きんでたものはありません。どこかに美点のあるものと、どこにも美点らしいものがないもの、そのどちらかです(当たり前か!)。

f0147840_2350574.jpg例によってレッキング・クルーからみを優先して、ヒューゴー・モンテネグロ盤からいきますか。出だしは、大丈夫かなあ、というおぼつかなさですが、ストリングスが入ってくると、うん、いいなあ、と頷いてしまいます。またまた変な鍵盤楽器が使われていますが、とりあえず解明の手がかりがないので、気にしないことにします。

ギター・インスト好みのためにはデイヴィー・アラン&ディ・アロウズのヴァージョンがあります。なんだか、ヴェンチャーズそっくりのアレンジ、サウンドで、MP3タグに間違ってVの字が書いてあったら、そうなのだと思ってしまうにちがいありません。なんと申しましょうか、二人の銀座サウンドなのですな、これが。ベースがボブ・ボーグルよりうまいし、ドラムがメル・テイラーよりタイムが遅く、つねに突っ込みそうでかろうじて踏みとどまっている断崖絶壁の気分の悪さはない、というのがツアー用Vの字とはちがうところですが、だいたい、Vの字からして、60年代には、ツアー・バンドそのままで録音したスタジオ盤はほとんどないので、アロウズはヴェンチャーズと大差ないといって問題ないような気がします。

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全員モズライトというところがまたヴェンチャーズ風で笑える。しかも、ダブル・ネック! そういえば、ビリー・ストレンジ御大が、モズライトの12弦のネックはすばらしいと絶賛していたことを思いだした。

デイヴィー・アランというのはマイク・カーブがらみで出てきたそうです。カーブはハル・ブレインのお得意さんだから、当然、クルーのトラックになりそうなものですが、すくなくともこの曲に関するかぎりは、ハル・ブレインでもアール・パーマーでもジム・ゴードンでもなく、一流プレイヤーには思えません。クルーというより、スタジオとステージを行ったり来たりしている一軍半のプレイヤーを随時雇っていた、なんてあたりじゃないでしょうか。

内実はどうであれ、ギターインスト好きならこのトラックはそれなりに楽しめます。ヴェンチャーズ風サウンドで、メル・テイラーよりタイムの遅いドラム(うまいドラムとはいっていない!)だと、そこそこいい感じになる、ということは、あの時期のVの路線もかならずしも間違っていたわけではない、ということになるのでしょう。せっかくだから、「二人の銀座サウンド」だなんて、知らないと思ってテキトーなことをいいやがって、と怒っている人たちのために、証拠を提出しておきます。

サンプル

◆ ギターもの ◆◆
ついでだから、さらにギターものをいきます。アル・カイオラは、レズリーに通したギターは悪くないし、ペラペラしたリズム・ギターのサウンドも面白いのですが、リズム・アレンジが奇妙で、違和感があります。そもそも、このヴァージョンが収められたアルバムはTuff Guitar Tijuana Styleというタイトルで、その名のとおり、マリアッチ風ないしはメキシコ風のアレンジで、という企画です。だからドラムが、スネアのみでタンタラタンタラとTelstar風のリズムを叩きつづけているのでしょうが、マリアッチというより、もろに西部劇風です。ギターはいいのに、惜しい!

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ウェブでダン&デイルのThunderballというアルバムを拾ったのがHDDにあったのですが、まったく記憶がなく、どうして拾ったのかと思って調べたら、サン・ラとブルーズ・プロジェクトのメンバーによるスタジオ・プロジェクトだそうです。どんなゲテかという下司な関心だったわけですが、そんなことは忘れてしまい、やっと今回聴きました。

ダニー・カルブのギターはそれなりに好きだったので、そういう意味ではそこそこ楽しめます。60年代の素人バンドに共通の欠点で、みなタイムが早く、リード・ギターもすこし拍を食う傾向があるのはいただけませんが、まあ、そういうことに神経質になる人は少ないでしょう。ブルーズ・プロジェクトのトラックにはものすごいのがあって、中学の軽音楽部を思いだしてゲラゲラ笑ってしまうことがありますが、このトラックでは中学は卒業し、高校生一年生の一学期ぐらいのレベルまでは来ています。

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サン・ラはどうしているのかというと、たぶん、オルガンをプレイしたのでしょう。ふつうにやると、当然ながら、ふつうに聞こえるわけで、べつに面白くもなんともなく、わたしだって、これくらいなら弾けます。

プロデューサーはトム・ウィルソンですが、有名な人でこの程度かよ、てえんで、NYのレベルの低さにガッカリしました。企画ものをやるなら、もっと工夫しないと……。サン・ラにふつうに弾かせてどうする気だったのかと思います。ふつうに弾くなら、もっといいプレイヤーが山ほどいるでしょうに。商売人根性のない、商売をナメたプロデューサーだったのでしょう。ジョー・サラシーノの爪の垢でも煎じて飲めよ、です。売るっていうのは芸術をつくるよりはるかにむずかしいんだぜ>ウィルソン。

やはりこれだけたくさんカヴァーがあると簡単には片づかず、またしても、もう1イニング延長させていただきます。グルッと一周して、ビリー・ストレンジ盤にもどると、やっぱり、ダノのゴツい音がカッコいいですなあ。
by songsf4s | 2009-04-12 23:57 | 映画・TV音楽
Thunderball その1 by Tom Jones (OST 『サンダーボール作戦』より)
タイトル
Thunderball
アーティスト
Tom Jones (OST)
ライター
John Barry, Don Black
収録アルバム
Thunderball (OST)
リリース年
1965年
他のヴァージョン
Billy Strange, Al Caiola, Count Basie, Hugo Montenegro, Leroy Holmes, Ray Barretto, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Sounds Orchestral, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra, Davie Allan & the Arrows, Dick Hyman, Elliott Fisher, The Jazz All-Stars, Percy Faith & His Orchestra, Dan & Dale
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前回の『ゴールドフィンガー』(その1その2その3)に引きつづき、ジェイムズ・ボンド・シリーズのテーマです。今回は第4作『サンダーボール作戦』のテーマ。



何度か、60年代映画のタイトルは凝っていて楽しいものがたくさんあったということを書いていますが、ジェイムズ・ボンド・シリーズのなかでは、このThunderballのものがベストではないかと思います。どうして、こういう楽しいタイトルがなくなってしまったのでしょうかね。

それはともかく、音楽のほうです。Goldfingerとちがって、Thunderballのコードは、やや風変わりではあるものの、比較的シンプルで、悪凝りタイプではありません。いや、シンプルではあるけれど、しかしやっぱり、かなり変です。Bbm-F#-F-Bbmというイントロおよびヴァース冒頭のコード進行からして、それほど自明とはいえません(ヴァースではさらにBbm-B-F-Bbmのパターンが加えられ、ヴァースに関してはこれで押し通す)。ここに載るメロディーも、F-Bb-C-C#-C-Ab-F-Bb/Bb-B-F#-F-Eb-Db-C-Eb-Db、というように随所に半音進行を使っていて、それがエキゾティックな感覚を喚起しています。

じっさい、こういう半音進行というのはきわめてエキゾティカ的で、このテーマの変奏曲はまさにそういう方向でアレンジされています。



とんとレス・バクスターかアクスル・ストーダールかといったサウンドで、ここまでハッキリとバクスターしちゃっていると、意図的にエキゾティカの線を狙ったのではないかと考えざるをえません。舞台がバハマなので、まあ、南太平洋とはずいぶん方向ちがいではあるものの、もともとエキゾティカは「架空の南洋」の音楽なので、バハマに当てはめたところで、問題はないでしょう。

◆ ボツ・テーマ ◆◆
エキゾティカ的な構造をとっているために、話がいきなりヴァリアントのインスト・ヴァージョンのほうにいってしまいましたが、テーマのほうはもちろん歌もので、今回はトム・ジョーンズが歌っています。Goldfingerのほうはビルボード8位まで行きましたが、こちらは25位止まり。とはいえ、とにかくチャートインしたのは立派だし、楽曲の出来からいって妥当なスロットまでは行っているわけで、これ以上は実力では無理でしょう。Goldfingerほど圧倒的な魅力はありませんから。

トム・ジョーンズ・ファンというわけではなく、歌いあげるタイプはみな敬遠する人間なので、どちらかというと苦手なのですが(好きなのはIt's Not Unusualのみ)、この曲は歌いにくいイヤな流れがあちこちにあって、そういうラインで渋滞せず、自然に聴かせているところは、さすがにうまいものだと、好き嫌いを超えたところで思います。ロック・シンガーにはタフな曲です。

The Best of James Bond: 30th Anniversary Collectionという盤をもっているのですが、そのなかにDionne WarwickのMr. Kiss Kiss Bang Bangという、耳慣れない曲が入っています。これはThunderballのテーマとして用意され、ボツになったものだそうで、これをThunderballのタイトルに重ねた奇特な人がいました。



いやもう一目瞭然、だれが聴いても、8小節でボツ決定、ゴミ箱行きです。こんなテーマではだれもジェイムズ・ボンドを見る気分にはなりません。盤として聴いていても出来の悪い曲だと思っていましたが、絵に載せると、ひどさもひどし、録音する前にわかるだろうに、と思うのですがねえ。

Goldfingerほどカヴァーは多くないだろうと思ったのですが、どうしてどうして、Thunderballも大量にあるので、そのへんは次回に検討させていただきます。
by songsf4s | 2009-04-11 22:53 | 映画・TV音楽
Goldfinger その3 by Ray Martin & His Orchestra (『ゴールドフィンガー』より)
タイトル
Goldfinger
アーティスト
Ray Martin & His Orchestra
ライター
John Barry, Leslie Bricusse, Anthony Newley
収録アルバム
Goldfinger and Other Music from James Bond Thrillers
リリース年
1965年
他のヴァージョン
Billy Strange, Shirley Basey, Al Caiola, Count Basie, Elliott Fisher, Hank Marvin, Hugo Montenegro, Jimmy Smith, Leroy Holmes, Mantovani, Nicky Hopkins, Ray Barretto, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Santo & Johnny, Sounds Orchestral, the Atlantics, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra
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ヴァージョンが多く、ちょっと手間取ったGoldfingerですが、ようやくエンディングにたどり着けそうです。

◆ レイ・マーティン盤 ◆◆
残ったトラックのなかには抜きんでたものはなく、そうなると、いきおい、気分は変わり種へと向かうようで、ほんのわずかながら珍が入ったレイ・マーティン盤を看板に立てました。

レイ・マーティンはいちおうオーケストラ・リーダーなのですが、この曲のイントロは、歌ものにありそうな女声コーラスを使っていて、しかも、ここのコードがGoldfingerとはおよそ縁のない進行で(F-Faug-F6-Faug-Fといった、Becauseタイプの進行に聞こえる)、そこがちょっと魅力的なのです。

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レイ・マーティン この盤にGoldfingerが収録されているということではなく、顔写真としてご覧いただきたい。

オリジナルのコード進行ももちろん面白いのですが、ジョン・バリーの曲の通弊で、凝りすぎの傾向があり、何度か聴いていると、飽きが来ます。とくに、多数のヴァージョンを並べてつぎつぎに聴いているというコンテクストにあっては、レイ・マーティン盤のイントロが流れると、テンポの速さのおかげもあって、爽やかといっていいくらいの軽ろみを感じます。バリーのギトギトした曲を湯に通して脂抜きしたといったおもむきです。

LPリップで、ちょっとノイズが入っていますが、よろしければ試聴を。

サンプル1

◆ レイ・バレートー盤 ◆◆
同じように、イントロが流れた瞬間、やれやれ、軽いのはありがたい、と感じるのは、レイ・バレートー盤です。バレートーはラテン・パーカッション・プレイヤーなのですが、トラップ・ドラムに坐っている写真もあって、この曲はどちらをプレイしたのだろう、と思います。

ハル・ブレインは大別格として神棚に祭り上げて除外し、残った他のヴァージョンと比較すると、このヴァージョンのドラマーはかなりタイムがよく、眉間に皺が寄ったり、額に青筋が立ったり、憤怒のあまり卒中を起こすようなグルーヴではないのです。

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もちろん、ハル・ブレインやジム・ゴードンと並び立つようなレベルなどではありませんが、ロック系の一流ドラマーのなかに混じっても違和感がない程度の正確さはもっていて、ジャズ・ドラマーもそうそうタイムのひどい人ばかりでもないようです。これもサンプルいってみましょう。

サンプル2

◆ コミック・オーケストラ ◆◆
かなり珍なのは、チェルトナム・オーケストラ盤です。と書いたはいいのですが、ウェブで拾ったもので、このオーケストラの正体は知りません。ピアノとコーラスにはいくぶんかクラシック系の雰囲気がありますが、しかし、チェルトナム・フィルハーモニック・オーケストラやチェルトナム・シンフォニー・オーケストラといったヘヴィー級とは関係のない、ごくごく軽い系統です。まったくの当てずっぽうですが、スタジオ・プロジェクトではないでしょうか。

クラシックでもなければ、ポップともいえず、その中途半端なところがこのヴァージョンの賞味のしどころでしょう。混声コーラスがセコくて楽しめます。少人数のくせして、クラシックの合唱のようにGoldfingerを歌っているわけで、これが笑わずにいられようか、です。大人数でも笑えたでしょうが、それならたいていの人間が思いつくわけで、数人でやっているところがギャグとしては秀逸です。

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ほら、エーと、あの野球映画はなんといいましたっけ、チャーリー・シーンがワイルド・シングというあだ名のリリーヴァーをやる話。あの映画で、ワイルド・シングがマウンドに向かうときに、3、4人しかいない応援団が、インディアンの太鼓を叩きながら(球団がクリーヴランド・インディアンズだから)、一所懸命にWild Thingを歌うシーンがあったじゃないですか、あのセコさの面白みです。

しかし、この盤、ひょっとしたらマジなのでしょうか。わたしは頭からお笑いと決めてかかってしまったのですが……。

◆ 「タイムの悪いドラマー」という自己撞着的存在 ◆◆
残るヴァージョンは、「悪くはない」または「ひどい」のいずれかです。

f0147840_2351592.jpgニッキー・ホプキンズ・ファンというのがけっこういらっしゃるようですが、この盤はやめたほうがいいでしょう。ドラムがひどいミスをやっていて、わたしの額に青い稲妻が走ります。こういうミスをするドラマーも縛り首ものですが、しかし、あくまでも従犯であって、情状酌量の余地はあります。人間はミスをする動物ですからね。主犯はなんといっても、こんなあまりといえばあまりな、明々白々たる大馬鹿チョンボをそのままオーケイにしてしまったA&Rです。どこに耳をつけてるんだ、タワケ!

f0147840_2353177.jpgドラムのひどさでは、ジェイムズ・ボンド・セクステットもいい勝負で、だれだよ、このタコは、とクレジットを見たら、ジョン・グェラン。そういえば、以前、このアルバムの曲を取り上げたときにも、グェランをこきおろしたことを思い出しました。タイムは悪いは、左手首が硬いは、ドラミング設計は野暮の骨頂とくるは、まったくいいところがありません。ジミー・ボンド自身は非常にタイムがいいので、グェランではなく、シェリー・マンやメル・ルイスやジャック・スパーリングなどの、タイムのよいジャズ系スタジオ・ドラマーを起用していれば、このアルバムは成功したことでしょう。リーダー・アルバムがほとんどない人だけに、残念無念ですな。

f0147840_23534553.jpg悪くないのはマントヴァーニでしょうか。マントヴァーニだから、どういう方向か見当がつくでしょうねえ。ジョン・バリーがナンボのもんじゃい、フィル・スペクターのエコー? あんなもの浅い浅い、という、くどさもくどし、派手も派手派手し、イントロなんか、思いきりリヴァーブを深くして、ドカーンとやっています。このドカーンをとったらなにも残らない人だから、まあ、しようがないですが、考えてみると、オリジナルも基本的にはドカーン路線だから、これではカヴァーじゃなくてコピーではないかという気もチラとします。ついでながら、このドラマーは好みです。イントロのロールがきれいで、グェランのようなリトル・リーガーとはリーグがちがいます。

f0147840_2354674.jpgジミー・スミスは、なんだかトラフィックのBlind Manみたいなイントロで、頭が混乱しますが、考えてみれば、スティーヴ・ウィンウッドのほうがジミー・スミスにいろいろ学んだのでした。このドラムも下手で、ヴァースをちょっと聴いただけで、それ以上は辛抱なりませんでした。ジミー・スミスにしても、ウェス・モンゴメリーにしても、こういう下手なのとプレイしていて、ステージでぶち切れてしまい、ドラマーに殴りかかったりしなかったのだろうかと、毎度、不思議に思います。わたしなら、ぜったいに我慢しませんね。そもそも、それ以前に、もっとマシなドラマーを雇って、頭に血が上らないようにするでしょうが。

まだいくつかありますが、オリジナルに近い路線のものはオリジナルに勝てず、オリジナルから遠ざかったものはうまくいってない、という感じで、もう聴くに足るほどのものはありません。

◆ 倒錯的アレンジ ◆◆
カヴァーというのはおかしなものだなあ、と思います。「カヴァーの本義」なんてものがあるとは思えませんが、仮につくってみると、「ある楽曲に本来そなわっている可能性を最大限に引き出す試み、または、ある楽曲の異なる可能性を探究する試み」なんていう定義はどうでしょうか。

しかし、現実に即して考えると、まったくべつの定義をするべきのようです。「人口に膾炙した楽曲を利用することによって、耳慣れない楽曲でリスナーの心をつかむゼロからの苦しい作業を回避する怠惰な試み」あたりではないでしょうか。

最初の定義が理想であり、そういうカヴァーにはつねに心惹かれますが、じっさいにつくられるものの大多数は第二の定義に当てはまるようです。まあ、両者の中間ぐらいの、いいものをつくろうという気がなかったわけではないが、諸般の事情でその意図は挫折した、というものもしばしばあるように思います。

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奇妙だな、と思うのは、なんのためにカヴァーしているのか、その目的を見失ってしまったものが数多く見受けられることです。今回言及したレイ・マーティンとレイ・バレートーの2ヴァージョンは、そのタイプに思えます。そこまで楽曲の本来の味から遠ざかるのだったら、はじめからカヴァーなどせず、新しい曲を書いたほうがいいのでは、と思ってしまいます。レイ・マーティン盤にしても、レイ・バレートー盤にしても、イントロおよび、そこから敷衍され、全体に使われているリフは面白いのですが、どう考えても、Goldfingerという曲のイントロやリフとして適切とは思えません。そもそも、この曲をリフ・ドリヴンでアレンジすること自体が奇妙なのです。リフ・ドリヴンの曲がやりたいなら、べつの曲を作ればいいでしょうに。

しかし、まあ、人間というのは不完全なわけでして、スパイ/クライム・ミュージックの盤をつくろうという企画が先にあり、では、どの曲をやるか、そして、どうやるか、と煮詰めていくうちに、コピーはしたくない、なにかいいアレンジのアイディアはないか、とジタバタしはじめ、やがて「無意味な差別化」が忍び込んで、カヴァーする意味が失われていくのでしょう。

そう考えていくと、OST盤に収録されたジョン・バリーのいくつかのヴァリアントを、仮に一種のカヴァーと見なすなら、「カヴァーの本義」から外れないりっぱなアレンジで、やっぱり、小手先でこねくり回した他人のカヴァーとはちがう、さすがに本家は強い、と思います。もちろん、理想は理想、現実は現実、無理矢理なアレンジだって、それはそれで面白かったりするのですがね!

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by songsf4s | 2009-04-08 21:59 | 映画・TV音楽
Goldfinger その2 by Billy Strange (『ゴールドフィンガー』より)
タイトル
アーティスト
Billy Strange
ライター
John Barry, Leslie Bricusse, Anthony Newley
収録アルバム
Goldfinger
リリース年
1965年
他のヴァージョン
Shirley Basey, Al Caiola, Count Basie, Elliott Fisher, Hank Marvin, Hugo Montenegro, Jimmy Smith, Leroy Holmes, Mantovani, Nicky Hopkins, Ray Barretto, Ray Martin & His Orchestra, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Santo & Johnny, Sounds Orchestral, the Atlantics, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra, the Ventures
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さて、前回のGoldfingerその1でお約束したように、今回はカヴァー・ヴァージョンの検討です。やや数が多いので、全部を聴けるかどうかはわかりませんが、とにかく「レディー、アクション!」

◆ ビリー・ストレンジ ◆◆
昔から文句なしに好きなのはビリー・ストレンジ盤です。例によって、これは右のリンクから行けるAdd More Musicの「レア・インスト」ページで、LPリップを入手することができます。No.42がこの曲をタイトルとしたアルバム、Goldfingerです。

アレンジとしては、前回ご紹介した、ジョン・バリーによるレヴ・アップ・インスト・ヴァージョンに非常に近いのですが、並べてみると、ほんの1小節で、あっ、これは格がまったく違う、とたちどころにわかります。グルーヴの差が歴然なのです。さすがはレッキング・クルー、イギリスのミュージシャンなどまったく寄せつけず、ビリー・ザ・ボスのギターとともに爆走しています。

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Secret Agent Fileというオムニバス盤にもビリー・ストレンジのGoldfingerが収録されている。大部分はボスのトラックなのだが、ほんの一握りだけ他人のものが入っているというおかしな編集盤で、ビリー・ストレンジの映画TV音楽カヴァーだけで統一するべきだった。

いや、ホント、聞き比べというのはやってみるものです。単体で聴いたときは、ジョン・バリーのレヴ・アップ・ヴァージョンもかなりいい出来だと思ったのですが、それはたんにギターが攻めるプレイをしていることにごまかされていただけであって、真打ちの前では、霞むどころか、じつはかなりトロいグルーヴだったということが白日の下に露呈されてしまいます。ドラマーの力量の差というのは、じつになんとも恐ろしいものだと改めて痛感しました。

ビリー・ストレンジ・ヴァージョンのハイライトは、終盤近く、F-Ab、F-Dbというダブル・ピッキングのギターのフレーズに呼応して、ハル・ブレインが16分でタムタムを叩き、ギターとドラムのインタープレイになるところでしょう。ハル・ブレインはいろいろ奇妙な工夫をしましたが、こういうタイプのプレイはほかに例がないと思います。このインタープレイを聴くだけでも、このヴァージョンを入手する価値があります。

◆ ヒューゴー・モンテネグロ ◆◆
つぎに面白いのは、またレッキング・クルーがらみですが、ヒューゴー・モンテネグロのヴァージョンでしょう。OSTにようにホットな路線はとらず、ヴァイブラフォーンなどを使ってクールなアレンジをしています。

毎度のことながら、またしてもなんだかわからない鍵盤楽器がリードをとっています。オンディオラインとか、クラヴィオラインとか、そういった新開発のものなのでしょう。ヘンリー・マンシーニがときおり使っていた(たとえばMoon Riverなど)キーボード楽器に近いサウンドです。

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この曲ではハル・ブレインは活躍しませんが、だれだかわからないアップライト・ベースのグルーヴがすばらしく、やっぱり音楽はグルーヴで決まるなあ、と思います。ハリウッドにはうまいアップライトのスタジオ・プレイヤーがたくさんいて、もっとこうした人たちの研究が進めばいいのですがねえ。ざっと名前をあげておくと、ライル・リッツ、レッド・カレンダー、チャック・バーグホーファー、レイ・ブラウン、ジミー・ボンド、レッド・ミッチェル、ジョー・モンドラゴンといったところでしょうか。すくなくともわたしは、アップライトが攻めのプレイをしていたら、この人たちの名前を思い浮かべます。

◆ ギターもの ◆◆
なめていたら、意外にも面白かったのがアトランティックス盤です。ドラムは微妙に走っていますが、ギターのトーンの作り方とプレイはなかなか楽しめます。このバンド、ものすごく下手になったり、そこそこ安定したプレイを見せたり、なんだか怪しいところがあります。影武者はハリウッドの特許ではなく、NYでもあったし、イギリスでもあったし、もちろんわが日本国でもあったことなのを思い出すのですが、さて、どうでしょうか。

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それにくらべて、アル・カイオラのヴァージョンは、うーん、です。いや、カイオラのギターはいつだってそれなりに楽しめるのですが、アレンジ、サウンドがねえ……。同時期のハリウッドが「完成されたグルーヴ・マシーン」であるレッキング・クルーによって、つねにグルーヴで楽しませるサウンド作りをしていたのに対し、このころのNYは地盤沈下がはげしく、ただタイムが安定しているだけで、楽しいとか面白いとか、そういうものではなくなっていったことを、アル・カイオラの盤ではしばしば痛感します。アレンジャーのセンスも時代遅れになりつつあったのでしょう。

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ついでなので、さらにギターものをつづけます。おつぎは、ギターはギターでもペダル・スティール・ギターのサント&ジョニー盤。うーん、判断がむずかしいところですねえ。アレンジがはまったとはいいかねますが、ほかに似ているヴァージョンがない、ということはいえるので、まあ、悪くはない、というあたりでしょうか。リズム・パターンも、狙いどおりにうまくいったとはいえませんが、工夫を凝らしたところは買えます。

ヴェンチャーズは例によって箸にも棒にもかからない出来です。ビリー・ストレンジやハル・ブレインが影武者をやっていたころをのぞけば、このバンド、どこにも聴きどころのないガービジですな。まだこれから取り上げる予定の映画のテーマをカヴァーしているのですが、どれを聴いても悲惨なものばかりなので、これ以上は無駄と見極め、これを最後に検索対象から外します。

ハンク・マーヴィンは、ヴェンチャーズよりずっとマシなミュージシャンですが、それでもやはり、この曲のサウンドはボロボロで、ギターだけ聴くというわけにはいかず、ドラムを聴いていると脳溢血で即死してしまいそうになるので、健康被害を考えて、これも検索対象から外すことにします。やっぱり、シャドウズで終わってしまった人ですねえ。

ちょっと疲れもしましたし、長い記事はやめにして、できるだけ短く、さっと読める(というより、さっと書けることのほうが重要なのだが!)ものにしようと思ってもいるので、本日はこれまでとさせていただきます。まだまだたくさんヴァージョンが残っていますし、なかには聴くに足るものもあるので、しつこくて恐縮ですが、もう一回延長させていただきます。
by songsf4s | 2009-04-07 23:47 | 映画・TV音楽
Goldfinger その1 by Shirley Bassey (OST 『ゴールドフィンガー』より)
タイトル
アーティスト
Shirley Bassey (OST)
ライター
John Barry, Leslie Bricusse, Anthony Newley
収録アルバム
Goldfinger (OST)
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Al Caiola, Billy Strange, Count Basie, Elliott Fisher, Hank Marvin, Hugo Montenegro, Jimmy Smith, Leroy Holmes, Mantovani, Nicky Hopkins, Ray Barretto, Ray Martin & His Orchestra, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Santo & Johnny, Sounds Orchestral, the Atlantics, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra, the Ventures
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当地ではこんなことは久しぶりですが、染井吉野は今日あたりがピークで、多くの株が満開になっています。このところ、三月中に満開になってしまうことが多かったので、もはやそういうものと見極めていましたが、あにはからんや、昔のように、入学式の記念写真を校庭の満開の桜の下で撮影できるという、近年ではめずらしい現象が起きました。

三月末の真冬のような寒い数日のせいでこういうことになったのでしょうが、ご近所をまわると、どこの海棠も開花してしまい、こちらは寒さの影響を受けなかったように見受けられます。わたしの頭のなかでは、染井吉野が散ると海棠の出番、ということになっていたのですが、今年は染井吉野と海棠がほぼ同着です。植物のことというのは、毎年毎年、知識の微調整を要求されますなあ。

今年の花見でひとつ知識が増えました。いつも気にしていた、同じ株に紅白の花を咲かせる桃の名前がわかったのです。「源平桃」というのだそうです。いわれてみれば、じつに簡単な命名方法で、なんだよ、そうだったのか、でした。もちろん、「赤勝て、白勝て」で、源氏の旗は白、平氏は赤だから、紅白に咲き分ける桃の品種は「源平桃」というしだい。「紅白歌合戦」だなんて、僅々半世紀余の歴史しかない代物に騙されちゃいけません。紅白といえば、女と男ではなく、古来、源氏と平氏のことなのです。

◆ イレギュラーな構成 ◆◆
昨年、体調を崩す以前に、スパイ/クライム・ミュージックの系譜をしばらく追いかけたのに、それきりで尻切トンボになってしまいました。いちおう、準備だけはしてあったので、そろそろそれを使って、これからしばらくのあいだ、いくつか聴き、そして見てみることにします。

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本日はスパイ/クライム・ミュージックの親玉であるジェイムズ・ボンド・シリーズの転回点であり、ブレイクスルーとなった『ゴールドフィンガー』です。これ以前に、『007は殺しの番号』と『ロシアより愛をこめて』の二作ががありますが、前者はすでに昨年、その1その2の二度にわたって見ています。『ロシアより愛をこめて』は、とりあえず先送りということにさせていただき、できれば後日、取り上げようと思います。

それではまずタイトル・シークェンス。以下のクリップでは、いわゆる「ガン・バレル」とタイトルがつながっていますが、この取って付けたようなぎこちない編集からもおわかりのように、映画ではべつべつのものです。ご存知のように、ジェイムズ・ボンド・シリーズでは、ガン・バレル・カットが冒頭にあり、アヴァン・タイトルで映画に入って、ボンドがなにかの任務を果たし(そのクリップは後出)、しかるのちにタイトルに入るようになっています。



もう10年以上昔のことで、細部はすっかり忘れてしまいましたが、わたしはこの曲をMIDIでコピーしたことがあります。いろいろな曲をコピーしましたが、これほど苦労したのは後にも先にもありません。コピーするべきパートが多く、ヴァイオリンだけで4パートつくった記憶があります。しかも、たとえばE-Cというイントロ・リックも、強いアクセントがついているので、それをのっぺりしたMIDIの発声でどう再現するかという問題がなかなかきびしく、どうしてこんなに苦しい遊びをしているのだろうと、しまいには泣きが入りました。

コピーは理解への最短距離、やってみて、じつに面白い構造の曲だと思いました。最後はEbにゴチャゴチャとテンションがついて、不協和音ぎりぎりの音で終わっていますが、Eだったはずのキーが、どうしてEbになってしまったのか、なんだか猫だましでも食らった気分で、どこで「すり替え」があったのだろうかと、グラウチョのように考えこんでしまいました。

ジョン・バリーというのは、頭の構造がノーマルではないタイプの作曲家で、こういうイレギュラーなところが、彼の曲にはたくさん仕込まれています。たとえば、Goldfingerのストップ・タイム(It's the kiss of death from Mister...のところ)のチェロのリックのように、それがはまると、じつになんともいえない効果を生みます。

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この曲のアレンジで目立つのは、アコースティック・ギターのストロークが、聞こえるか聞こえないかはべつとして、冒頭からずっと鳴りつづけていることです。オーケストラの下敷きとしてアコースティック・ギターのストロークを使う手法というのは、フィル・スペクターの諸作をはじめ、ハリウッドのポップ・ミュージックでは当たり前のものになっていましたが、それを映画音楽に応用したところは、ポップにも片足をかけていたジョン・バリー(たとえば、Goldfingerのころにチャド&ジェレミーのプロデュースもしている)らしいセンスだと感じます。

同時期にモリコーネも同じ手法を使っていることを考え合わせると、要するに「時代精神の産物」ということなのかもしれませんが、保守的なメインストリームのバラッドにすぎなかった前作のテーマ、From Russia with Loveから考えると、Goldfingerのコンテンポラリーなタッチは、やはりクォンタム・リープに思えます。Goldfingerのテーマがヒットしたことが、このシリーズのヒットと安定化につながったのはまちがいないでしょう。子どもだったわたしは、あとからFrom Russia with Loveを聴いて、なんだよこれは、と嗤いました。Goldfingerのすごみとはまったく無縁な、同じシリーズのテーマとは想像もつかない、つまらない曲だと当時は思ったのです。

◆ ヴァリアント2種 ◆◆
映画音楽の楽しみのひとつは、場面に応じたテーマ曲のヴァリアントの使い方です。エンニオ・モリコーネのように、ジョン・バリーにも匿名のオーケストレーターが付いていたのかもしれません。しかし、そのクレジットは見あたらないので、とりあえずバリーのアレンジだと考えておきますが、Goldfingerの場合、もっともすぐれた変奏曲は、アルプスのシーンに使われたAlpine Driveというタイトルのスロウ・バラッド・アレンジです。

サンプル1

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スロウ・バラッド・ヴァージョンが流れるアルプスの場面。

もうひとつはその反対側、レヴ・アップしたインスト・ヴァージョン。このヴァージョン自体は、映画のなかには出てこないようで、最終段階でカットされてしまったのかもしれません。出来はすばらしいので、惜しいことをしたものです。

サンプル2

うちにあるカヴァー盤の多くは、シャーリー・バシー歌うテーマではなく、こちらのほうを元にしたアレンジが過半を占めています。このアレンジのままで、アル・カイオラあたりが弾いてもぜんぜん問題ない、というか、アル・カイオラの盤かと思ってしまうほどなので、それも当然でしょう。

カヴァーについては、本日は検討する余裕がないので、次回まわしとさせていただきます。

◆ ハロルド坂田の怪演 ◆◆
このシリーズのヒット、そしてなかんずく『ゴールドフィンガー』がブレイクスルーになった背景には、いくつかの工夫があったと思います。子どもとしては、なんといっても、つぎつぎに登場するガジェットが最大の魅力でした。いや、媚態を振りまく女優陣に魅力がなかったというわけではないのですが、それは「あったほうがいい」ぐらいのあたりで、Qのつくりだすガジェットのほうは「なくてはならないもの」でした。

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いま、大人の目で振り返ると、短いインターヴァルで、小さな工夫をつぎつぎに繰り出すあたりに、新しいアクション映画の作り方が示されていたのだと思います。毎度毎度のお楽しみである、アヴァン・タイトルの「短編アクション」がその典型で、『ゴールドフィンガー』の場合は、つぎのようなシークェンスになっています。

アヴァン・タイトル


ウェット・スーツの下に白いタキシードというのはなかなかすばらしいアイディアで、赤いカーネーションかなにかを挿すところは、まさに錦上花を添えるダメ押しというところ。

さらに、女の瞳のなかに背後から襲いかかる敵の姿を見るというのも小さな工夫だし、古来人の殺し方にも四十八手ありてなぐあいに、瞬時の判断で感電死させるというのも、また小さな工夫で、大技のあいだにこういう細かなアイディアがたっぷり詰め込まれていることが、このシリーズに躍動感をあたえたと思います。

アクションものでは悪役にも工夫を凝らさなければなりませんが、ジェイムズ・ボンド・シリーズはその面でもつねに高得点をあげていました。首魁も大事ですが、それよりも、じっさいのアクションを担当する悪役が重要で、この映画ではハロルド坂田扮するオッドジョブがそれにあたります。映画でのオッドジョブの活躍はDVDかなにかで見ていただくことにして、ここではオッドジョブのキャラクターを援用したハロルド坂田出演のヴィックスのCMをどうぞ。



これを下敷きにした、Tonight Showの一こま。



こんなものは、日本にいては見られなかったわけで、ウェブというのはありがたいものです。

それでは、次回はGoldfingerのカヴァーを聴きくらべることにします。
by songsf4s | 2009-04-06 23:28 | 映画・TV音楽
This Country's Going to War by the Marx Brothers (OST 『我が輩はカモである』より)
タイトル
This Country's Going to War
アーティスト
The Marx Brothers (OST)
ライター
Bert Kalmar, Harry Ruby
収録アルバム
N/A
リリース年
1933年
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クリント・イーストウッド・シリーズも楽しいのですが、そちらのほうはつぎの映画の準備ができていないので、本日はまったく関係ないところにジャンプします。コメディー、それも戦前のマルクス・ブラザーズ映画です。

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◆ 狂気のプロダクション・ナンバー ◆◆
いちおう、プロットをご説明したほうがいいのでしょうが、なんたってマルクス・ブラザーズ映画だから、グラウチョの「超論理」を中心にプロットがつくられているので、話はぐちゃぐちゃなのです。

なんの説明もなしにいきなり、極度の財政難に陥った架空の国フリードニアの大金持ちの未亡人が、政府を財政支援する条件として、グラウチョ扮するルーファス・T・ファイアフライを国家元首にしてしまいます。グラウチョだから、当然のごとく、論理がねじれ、飛躍して、あわよくばフリードニアを占領しようとあれこれと策謀を弄する隣国と戦争することになってしまう、という、その宣戦布告直後に、今日の歌、This Country's Going to Warに突入します。とにかくまあ、お聴きあれ、というか、ご覧あれ。



幼児のころから見たすべての映画のなかで、もっとも仰天した音楽シーンです。いやもう、ひっくり返っちゃいました。後半、「ハイディ・ハイディ・ホー」シークェンスに突入してからが一段と狂気の度合いが増して、映画史上に燦然と輝くお馬鹿シーンだなあ、と感じ入ってしまいます。いったい、だれのアイディアなのやら。クレジットを見ると、ソングライター・チームのバート・キャルマーとハリー・ルビーのふたりが、ストーリーも書いたことになっています。

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しかし、シナリオとしては、ここに歌詞があり、「全員で歌い踊る」ぐらいしか書いてないでしょうから、やはり監督のレオ・マケアリーとコレオグラファーの仕事と考えるべきでしょう。

ちなみに、ハーポが馬に乗って走るシーンは、アメリカ人なら子どもも知っている、独立戦争の英雄、ポール・リヴィアの伝説をもじったものです。辞書には、ポール・リヴィアとは《米国の銀細工師で愛国者 1775年4月18 日夜を徹して馬を飛ばし、英国軍の進撃をいちはやくマサチューセッツの人びとに知らせた》とあります。「いち早く知らせ」なければいけないのに、ハーポは眠っちゃうわけですが、人間の靴といっしょに馬の蹄鉄が脱いであるのが笑えます。

◆ 二大名場面 ◆◆
こんな大がかりなプロダクション・ナンバーは、マルクス映画としては例外というべきで、この『我が輩はカモである』には、映画史上名高いシーンがほかにあります。まず、たいていの映画史家がベストのひとつにあげる「鏡の場面」からどうぞ。シテュエーションを簡単に説明しておくと、チコとハーポは隣国から送りこまれたスパイで、一夜、大金持ちの未亡人の邸に忍び込み、グラウチョに化けて「プラン」を盗み出そうとして、グラウチョに見つかり、逃げまわっている、というところです。



こちら側に立つのがグラウチョ、向こう側に立つのはグラウチョの扮装をしたハーポです。いえ、映画のなかではそういう設定になっているというだけで、わたしには見分けがつきませんが!

ついでなので、後年、ハーポがI Love Lucy(『ルーシー・ショウ』)に出演し、ルシール・ボールを相手にこのルーティンを再演したときのクリップもどうぞ。



つづいて、二大名場面のもういっぽう、ピーナツ・ヴェンダー。



YouTubeでは、これは「帽子の場」とされていますが、わたしとしては「足技の場」といいたくなります。グラウチョは論理の飛躍で世界を混乱に陥れますが、ハーポはふるまいの飛躍によって世界を混乱に陥れます。その飛躍したふるまいのなかでも、この足技がなんといってもファーラウトしちゃっていて、はじめて見たときは死ぬほど笑いました。こんなに無意味で、こんなに可笑しな行動はざらにないでしょう。どこから思いついたのか見当もつきませんが、たぶん、われわれの行動のなかに、こういうギャグを生む要素があるのではないかと思います。こんなことをする人間などいるはずがないけれど、なんとなく、だれでもしてしまいそうな気がしてくるところが、なんともおそろしいルーティンです。

もうひとつ、べつの映画から同じ足技のヴァリアントをご覧いただきましょう。



◆ ミュージシャンとしてのマルクス兄弟 ◆◆
マルクス・ブラザーズ、とくにハーポとチコは音楽的才能に恵まれていました。その一端をすこしご覧いただきましょう。まず、ハーポの名前の由来となったハープの演奏。これもI Love Lucyからのクリップで、曲はTake Me Out to the Ball Gameです。



途中でマイナーに転調するところが、なるほどねえ、です。マルクス・ブラザーズ映画には、しばしばプロットと関係なく、ハーポがハープをプレイするシーンが挿入されます。たぶん、彼らの舞台の構成を踏襲したのでしょう。

つぎはチコのピアノ・プレイ。いいものがたくさんあって迷ってしまい、とくにベストというわけではないのですが……。



途中で鍵盤と手のアップになるのは、通常なら、本物のピアニストが弾いたカットへの切り替えなのですが、チコの場合は、たんに楽しい手と指の動きをよく見せるための「寄り」にすぎません。専門のピアニストはぜったいにこういうことはしないわけで、ヴォードヴィリアンの邪道芸といわれればそれまでですが、しかし、そこらの半チクな本物のピアニストなんかよりよほどうまいし、見ているだけで楽しくなるプレイです。

つぎはチコとハーポのピアノ連弾。



最後はハーポによる音楽ギャグの大技。



わたしはこれを見て、おおいにガッカリしました。なんだ、もう大昔にやっちゃってたんだ、新しいギャグなんかないんだな、です。いや、ギャグだけじゃありません。ほら、フーが大暴れして、ギターやアンプやドラムセットを叩き壊したり、ジミがストラトを燃やしたり、ああいうことも、すでに大昔にマルクス兄弟がやっちゃっていたわけで、いやまったく知らぬが仏、モンタレーの記録映画を見て、すげえ、すげえといっていたわれわれは、ものを知らない典型的な「いまどきの若者」だったのですねえ。

でも、大人たちも、先にやった人間がいたのなら、いたと教えてくれないとなあ。お互い、ちがう文化を生きていると、見るもの聴くものがまったく重ならないので、コミュニケーションというものが成立しないのですなあ。

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by songsf4s | 2009-04-02 18:59 | 映画・TV音楽