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カテゴリ:Moons & Junes( 24 )
Magic Is the Moonlight by Julie London
タイトル
Magic Is the Moonlight
アーティスト
Julie London
ライター
Maria Grever, Charles Pasquale
収録アルバム
Latin in a Satin Mood
リリース年
1963年
他のヴァージョン
Nat 'King' Cole, Dean Martin, Cliff Richard, Jerry Vale, Los Indios Tabajaras, the 50 Guitars, Martin Denny, Esquivel
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今月のMoons & Junes特集は、その性質からいって当然ながら、スタンダードが多くなりそうな気配がひしひしとします。いえ、ロックンロール時代になると、月の歌が少なくなるなどということはありません。たんに、月はかならずしもロマンティックなものではなくなるだけです。まして、ジューン・ブライドなどというものが登場する可能性は、いちいち曲に当たってみるまでもありません。

まあ、わたしだって、ロマンティックな月の歌なんてものを、それほど好んでいるわけではないし、ジューン・ブライドの曲なんていうのものが面白いと感じることもありません。たんに、伝統には相応の敬意を払うべきだと考えているにすぎません。

当然、変化球を中心にしたいと思っていますが、ファンシーが成立する大前提は、オーソドキシーが存在していることです。順序からいって、先にオーセンティックな月と六月の歌というのを見ておかないと、変化球が変化球でなくなってしまうので、本日は、メインラインの曲がどんなものかを見るために、Magic Is the Moonlightを取り上げることにします。

◆ 正調ロマンティカ ◆◆
どのヴァージョンを看板に立てるか決めずに書いているので、ジェンダーをどちらにしたらいいのかもわからないヘルマフロディテ状態なのですが、いちおう男を想定して、歌詞を見ていきます。原曲はスペイン語だそうで、ナット・コールやクリフ・リチャードのように原詞でうたっているヴァージョンもありますが、わたしにはさっぱりわからないので、当然、英語詞でいきます。

Magic is the moonlight
On this lover's June night
As I see the moonlight
Shining in your eyes

「この恋人たちのための六月の夜、きみの瞳に月の光が輝いているのを見ると、月の光は魔法」

六月という設定になっているのは、夜でもあたたかく、そぞろ歩きにはふさわしい時季だということもいくぶんかはあるでしょうが、ジューン・ブライドを前提としているにちがいありません。

セカンド・ヴァース。

Can't resist their power
In this moonlit hour
Love begin to flower
This is paradise

「この月の輝くとき、その力にはあらがえず、恋が花開く、ここはパラダイス」

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ブリッジ。

Living in the splendor
Of your kiss so tender
Make my heart surrender
To your love divine

「きみのやわらかいキスの歓びとともにあると、きみのすばらしい愛に降参せずにはいられない」

内容のせいもあるかもしれませんが、このヴァースの紋切り型の脚韻には、どうなんだろうねえ、こういうのは、と思ってしまいます。書かれた当時はこれでもよかったのかもしれませんが、60年代にはすでに古くさく感じられたでしょう。韻というのはむずかしいものだと思います。韻のための韻に堕すのは、避けなければいけないことでしょう。

最後のヴァース。

Magic is the moonlight
More than any June night
Magic is the moonlight
For it made you mine

「月の光は魔法、六月のどんな夜よりも、月の光は魔法、そのおかげできみはぼくのものになったのだから」

◆ スペイン語ヴァージョン ◆◆
なんだか、昔風の歌詞の典型を見たような気分になってしまいましたが、この歌詞がいいのか悪いのかはさておくとして、この曲が忘却の淵に沈んだ理由が歌詞にあるのはまちがいないと感じます。甘み一辺倒では、60年代の疾風怒濤には耐えられなかったにちがいありません。

いまになると、こういう曲を男がうたっていたのが不思議に感じられますが、わが家にあるこの曲の女性シンガーによるものは、ジュリー・ロンドン・ヴァージョンのみ、あとは男ばかり。たしかに、As I see the moonlight shining in your eyesのラインは、女性シンガー向きではありませんが、全体のムードとしては女性シンガー向きです。まあ、昔は男が歯の浮くようなセリフで女性をくどくことは、ダサいとは思われていなかったのだと受け取っておきます。

f0147840_01171.jpgナット・コールは全編スペイン語でうたっています。Spanish is a loving tongueだからなのかなんだかよくわかりませんが、ラテン音楽のみならず、スペイン語でうたうこと自体が流行した時代があったように思われます。スペイン語圏のブログを見ると(あくまでも見るのであって、読むわけではない)、英語を母語とするシンガーのスペイン語による盤というのは、うんざりするほど取り上げられています。ということはつまり、それだけスペイン語圏が有力な市場だったということを示しているのかもしれません。

しかし、ナット・コールのMagic Is the Moonlightは、自然な歌いっぷりに聞こえ、かならずしも市場価値だけのために、スペイン語でうたっていたようには思えません。スペイン語でうたうことそれ自体を楽しんでいたのではないでしょうか。

f0147840_061779.jpgそれに対して、クリフ・リチャードのスペイン語版Magic Is the Moonlightは、明らかに市場を意識しただけのものなのが聴き取れます。スペイン語などさっぱりわからないわたしの耳にさえ、ぎこちなく響きます。ラテン語的なやわらかい響きではなく、英語的な硬い響きです。じっさい、英語ヴァージョンを聴くと、トラックは使いまわしだったことがわかります。

f0147840_092343.jpgしたがって、出来は英語ヴァージョンのほうがずっといいと感じるのですが、ただし、うちにあるもので比較すると、モノ・ミックスのスペイン語版のほうがずっとマスタリングがよくて、これだから聴いてみないとわかりません。63年ですからねえ、この時代のイギリスはステレオ・ミックスを想定していないので、モノのほうがずっとマシに聞こえるのです。

Fly Me to the Moonでは、アレンジ、サウンドがよろしくないとくさしましたが、Magic Is the Moonlightはけっこうなバッキングです。まだシャドウズが全員参加のころでしょうか、アコースティック・ギターのリードがなかなか印象的です。

◆ ディノとジュリー・ロンドン ◆◆
ディーン・マーティンは英語でスタートし、最後のほうはスペイン語にスウィッチしています。ということは、とくにスペイン語圏市場に向けたものではなく、あくまでも英語圏向けであり、スペイン語はアクセサリーだということを示しています。レス・ポールのVaya Condiosのようなものです。

f0147840_02045100.jpgディノのMagic Is the Moonlightを収録したDino Latinoは、1963年、リプリーズ移籍直後のリリースで、アレンジャーはドン・コスタです。クリフ・リチャード盤と同じ年なので、米英の技術レベルの格差が如実にわかります。ディノのMagic Is the Moonlightはすばらしい録音なのです。

録音の善し悪しを云々するとき、わたしは全体のサウンドのことばかり考えているのですが、ふと、ヴォーカルの録音のことを思いました。ディノはうまいとか下手とかいったことを超越したシンガーです。「ディノというキャラクター」をうたったのです。それは、細部のニュアンスに表現されるわけで、やはりエンジニアリングに大きく依存することでしょう。こういうタイプのシンガーは、うまく録音しないことには、魅力が伝わらないにちがいありません。

もちろん、Magic Is the Moonlightでも、サウンドは素晴らしいものです。ドン・コスタのアレンジもまた、エンジニアの手腕なくしては魅力半減でしょう。奥行きと広がりのある美しいサウンドです。

そういう意味ではジュリー・ロンドンも同じです。声質そのものに大きな魅力のあるシンガーですから、録音は重要です。いい声だなあ、と感じるということは、エンジニアがいい仕事をした証拠です。歌詞からいうと男がうたうべきと感じる曲なのですが、全体のムードはいたって女性的、メロドラマ的なので、女性がうたったほうが、尻がむずむずしないですみます。ただし、ジュリーは男のように低いキーでうたっていますが。

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ディノ盤同様、ジュリー・ロンドンのMagic Is the Moonlightを収録したアルバム、Latin in a Satin Moodも63年のリリースで、こちらのアレンジャーはアーニー・フリーマンです。Fly Me to the Moonもフリーマンのアレンジでしたが、このLatin in a Satin Moodでフリーマンははじめてジュリーのアレンジをしたようです。なかなか悪くないのですが、Fly Me to the Moonのように、数小節聴いただけで、これはいい、と坐り直すほどではありません。

それにしても、63年リリースが多いというのは、なんだか象徴的に感じます。翌年、ビートルズがアメリカでセンセーションを起こして以降、こういう曲はうっちゃらかされてしまうわけで、なんだか、予感の産物のような気がしてきます。

◆ インスト4種 ◆◆
インスト・ヴァージョンはどれも楽しめます。やっぱり、わたしはこういう歌詞は苦手なのです。

インスト盤は年代がいくぶんばらけています。うちにあるもっとも古いものはエスクィヴァル盤で1958年のリリース。派手なトランペットもピアノもどうでもいいのですが、毎度ながら、ペダル・スティールの不思議なオブリガートにはニコニコしてしまいます。

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ハワイアンでもなく、カントリーでもなく、ジェリー・ガルシアがたまにやったような、「スペーシー」なペダル・スティール・サウンドのオリジネイターは、ひょっとしたらエスクィヴァルなのかもしれません。いや、ジェリー・ガルシアとはまったく異なるプレイなのですが、サウンドのなかで果たしている役割という意味では、いくぶんかの近縁性があるのです。

50ギターズは、セカンド・アルバムの50 Guitars Go South of The Border Vol.2で、Magic Is the Moonlightを取り上げています。2枚目までのリードはローリンド・アルメイダです。最初の2枚はこのところ聴いていなかったのですが、久しぶりに聴くと、いかにも50ギターズらしいというスタイルは、まだ完成していなかったのだと感じます。あれはやはり、トミー・テデスコのリードとアーニー・フリーマンのアレンジの力だったことが、逆によくわかりました。

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だからといって、50ギターズのMagic Is the Moonlightは出来がよくないということではありません。Add More Musicの50ギターズのページでキムラさんがお書きになっているように、このプロジェクトの大きな特徴のひとつである、独特の音の奥行きはすでにできあがっていて、ハリウッドの録音に馴染んだ人間には、じつに気持のいいサウンドです。

なお、十年ほど前にリリースされた、50 Guitars Go South of The Border Vol.2のCDをお持ちの方にご注意申し上げると、あの楽曲表示はメチャクチャです。正しくは、トラック8がMagic Is the Moonlightです。

マーティン・デニーのMagic Is the Moonlightも、同じ1961年のリリースです。エキゾティカの命脈は尽きたと読んだのか、このアルバムはすでにエキゾティック・サウンドではなく、ストレートなラウンジ・ミュージックになっています。録音もハリウッドでしょう。エキゾティック・バーズの啼き声が入った、コンボによるエキゾティカを期待すると、肩すかしを食らいます。ここにいるのは、ラウンジ・ミュージックのピアニストとしてのマーティン・デニーです。パーカッションの扱いに、わずかにエキゾティカ風味が残されているだけです。

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いつまでも同じ音を求められても困るでしょうが、やっぱり、マーティン・デニーには「変なサウンド」を期待してしまいます。べつに悪い出来ではないのですが、「なんだかふつうすぎるなあ」と感じます。オーセンティックなエキゾティカ(オーセンティシティーを否定したところにエキゾティカが成立する基盤が生まれるので、むちゃくちゃに矛盾した表現だが)でなくてもいいから、エスクィヴァルのように「変なオヤジ」に徹してほしかったと、無い物ねだりをしてしまいます。

どん尻に控えしは、わが家にある「最新の」Magic Is the Moonlight、ロス・インディオス・タバハラスのヴァージョンです。1966年の録音で、不思議なピッチの揺れ方をする箇所があるので、例のフレットを削ったギターによるプレイなのでしょう。

f0147840_0314696.jpg冒頭は、おっと、ちがう曲をドラッグしてしまったのか、と思ったほどで、ほかのヴァージョンでは聴かれないメロディーをプレイしています。ということは、原曲には前付けヴァースがあることを示しているのかもしれません。残念ながら、わが家にあるヴォーカルものは、みな同じメロディーではじまっているので、確認はできないのですが。

Magic Is the Moonlight一曲だけでも、ロマンティカにはめげそうになっていますが、もうひとつふたつ、「オーセンティックな」月の曲というのを並べてみようと、いまの段階では思っています。
by songsf4s | 2008-06-05 23:55 | Moons & Junes
Fly Me to the Moon その3 by the 50 Guitars
タイトル
Fly Me to the Moon (a.k.a. "In Other Words")
アーティスト
The 50 Guitars
ライター
Bart Howard
収録アルバム
In a Brazilian Mood
リリース年
1967年
他のヴァージョン
別掲
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昨日、当家では、ことのついでのように、バディー・リッチにふれたのですが、右のリンクからいける、オオノさんの「Yxx Txxxを聴こう」でも、リッチが取り上げられていました。こいつは奇遇、というほどでもありませんが、しからばというので、You Tubeの画像を見てみました。

久しぶりにリッチのドラミングを見ましたが、いや、やっぱりすごいものです。ちゃんとシンバル両面打ちもやっていて、いよ、待ってました、でした。いやはや、ドラム・ソロなんてものは、それほど面白くないものと相場は決まっているのですが、バディー・リッチとジム・ゴードンはべつです。

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この異様に低くセットされたシンバルが両面打ちを喰らう。バディー・リッチのセットはスリンガーランドだと思っていたが、これはラディック。晩年はセットを替えたのか、たんなる宣伝用ショットなのか。

リッチのタイムのよさというのは、生来のものかもしれませんが、ビッグバンドでプレイしてきたことも、やはり影響しているのではないでしょうか。ジャズに関しては、スウィング時代のほうが、いいドラマーが多いと感じます。モダン・ジャズの時代になると、有名なドラマーでも、タイムの悪い人が多く、額に青筋が立ちます。マックス・ローチなんてのをはじめて聴いたときは、うっそー、とひっくり返りました。ぜったいにバックビートは叩けないタイプで、どんなロック・バンドのオーディションにもパスしないでしょう。

これは個々のドラマーの責任というより、時代の、いや、正確にはモダン・ジャズという狭いゲットーのパラダイムだったのだと考えています。

クラシックのピアニストなんか、タイムがどうこうなどという尺度を当てはめることができません。ソロの場合、自分の感覚だけでプレイしているので、タイムは揺れに揺れまくります。一定のタイムでプレイするようには、はなからできていないのです。

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ハイハットも異様に低くセットされている。8分を刻むのが目的ではなく、装飾音に使っていることがセッティングにも如実にあらわれている。

モダン・ジャズもやはり、タイムを重視しない音楽だったのでしょう。そうじゃなければ、あんなタイムのひどいドラマーがうじゃうじゃ湧いて出たことの説明がつきません。タイムの面では、スウィング時代より大きく後退してしまったのです。モダン・ジャズはダンス音楽ではなかったのだから、スウィング時代よりタイムが悪くなったのは、考えてみれば当たり前の現象なのかもしれません。

そう考えると、ダンスも馬鹿になりません。わたしは踊るのを好んだことは一度もありませんが、つまるところ、音楽を聴けば、つねに頭のなかでは踊っているのでしょう。だから、その頭のなかのステップが踏みにくいグルーヴがいちいち疳に障り、このバッド・グルーヴの責任者、出てきて謝れ、てえんで、クレジットをにらみつけちゃったりするのです。馬鹿ですな。今年の盤ならともかく、半世紀昔の盤をつかまえて怒っても、しようがないでしょうに!

◆ 50ギターズ ◆◆
馬鹿の反省はほどほどにして、今日はFly Me to the Moonのインスト・ヴァージョンをできるだけたくさん聴いて、この曲の棚卸しを終えます。

看板には50ギターズを立てました。いつも50ギターズなので、今日はべつのものにしようと思って、けっこうしつこく聴いたのですが、どれかひとつとなると、やっぱりトミー・テデスコを差し置くほどのものはありません。

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ガットを弾くトミー・テデスコ。こんなにブームが長いのには相応の理由があるのだろうが……。

そう、Fly Me to the Moonにかぎっていえば、50ギターズというアンサンブルではなく、トミー・テデスコの個人プレイの魅力なのです。トレードマークの超高速ランを駆使しちゃっていますからねえ。トミー・テデスコここにあり、というプレイです。

50ギターズ盤Fly Me to the Moonのテンポは、ほかのインストものにくらべて遅めです。50ギターズでは、ソリスト以外のギタリストは、ほぼつねにトレモロ・ピッキングをしているからではないでしょうか。テンポが速すぎると、トレモロがきれいに聞こえないだろうと思います。それと同時に、この曲の場合、テデスコの高速ランに合わせたテンポだとも感じます。

ガットを弾いているときのトミー・テデスコは、クレジットがなくてもすぐにわかります。高速ランが出てこなくてもわかるのです。ヴィブラートでわかるのです。言葉でいうと、ただ非常に強いヴィブラートとしかいいようがないようですが、明確に理由を分析できていないだけで、じっさいには、それだけのことではないのかもしれません。とにかく、トミーのガットが流れれば、これはトミーにちがいないと感じます。

たとえば、エルヴィスのMemoriesをお持ちの方は、お聴きになってみてください。あのガットギターはトミーのプレイです。あのプレイを何度か聴いて、トミーのムードが理解できれば、もうそれだけで、他のトラックでトミーがガットを弾いているのを聴いても、すぐにわかるようになるでしょう。それくらい明確な特徴のあるプレイなのです。

50ギターズは、アンサンブルも面白いのですが、やはり、トミーのプレイの魅力も大きく、それがあるので、つぎつぎと聴きたくなってしまうのです。

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50ギターズのプロデューサーとソリスト。スナッフ・ギャレット(手前)とトミー・テデスコ。

◆ ローリンド・アルメイダ ◆◆
50ギターズの最初の2枚でリードをとった、ローリンド・アルメイダのFly Me to the Moonもあります。トミー・テデスコとちがって、高速ランなどという派手なことはまったくしないギタリストで、子どもが聴いても、どこが面白いのかまったくわからないというタイプです。

トム・ジョビンがアメリカにくるや、たちまち受け容れられた素地は、アルメイダがつくったのだと書いているものを読んだ記憶があります。アルメイダがハリウッドにいたおかげで、すでにボサノヴァというものが知られていたからだというのです。

f0147840_23544586.jpg当然、ローリンド・アルメイダのFly Me to the Moonは、ストレートなボサノヴァ・アレンジです。冒頭のコードワークなんか聴いていると、うまい人だなあ、と感じるのですが、ソロというのをしないので、ギターを聴きたい人間としては、ちょっと戸惑います。よほど目立つことが嫌いだったのだとしか思えません。

たいした数を聴いたわけではありませんが、わたしが知るかぎり、だれが聴いてもすぐにうまいとわかるようなプレイはまったくなくて、じつに渋い、あまりにも渋すぎるプレイばかりです。そのぶんだけ、アンサンブルを重んじていたのだろうと思います。たしかに、気分よく聴けるヴァージョンですが、あまりにもBGM的すぎて、盤としてゆっくり聴くという感じにはならないところが、わたしには物足りなく感じられます。

◆ ギターもの3種 ◆◆
ほかにもギターものがいくつかあります。まず、ニューヨーク版エレクトリック50ギターズといったおもむきのプロジェクトである、テン・タフ・ギターズのヴァージョン。このアルバム全体についていえることですが、Fly Me to the Moonも、面白いような、物足りないような、なんとも微妙な出来です。

f0147840_23575491.jpg数多くのエレクトリックギターを並べて、そのアンサンブルで盤をつくろうというアイディアそのものは、ギター・アンサンブル・ファンとしては、そういうのはぜひやってちょうだい、という大歓迎企画です。しかし、その実現となると、やはり楽じゃないですねえ。アレンジが完璧にうまくいったと感じるトラックはないのです。もうすこし楽しめるアレンジができたのではないかと、隔靴掻痒の思いをさせられます。

ただし、このドラマーはおおいに好みです。ほかの曲もかなりいいプレイをしていますが、Fly Me to the Moonは、テンポがちょうどよかったのか、とりわけいいプレイです。

f0147840_05341.jpgまたハリウッドに戻ると、TボーンズのFly Me to the Moonもあります。リードギターはたぶんトミー・テデスコだろうと思うのですが、Tボーンズでのトミーは、いや、テレキャスターのときのトミーは、じつに不精というか、譜面のとおりに弾くだけで、インプロヴなんかめったにやりません。ドラムはハル・ブレインでしょうが、これまた、芸を見せてくれているとはいいかねます。ベースはなにをするというわけでもありませんが、非常にいいグルーヴです。CKさんかもしれません。

ギターものFly Me to the Moonはもうひとつ、ウェス・モンゴメリー盤があります。いわゆるイージー・リスニングにシフトしてからのウェスの盤は、痛し痒しです。毎度、ドラムがヘナチョコで、なんだよこれは、と例によって額に青筋なのです。

f0147840_095317.jpgいや、本日の長い枕で書いたように、いわゆるモダン・ジャズのものなら、タイムは気にしていないのだろうと、ほうっておきます(すくなくとも、こちらも気にしないように「努力」する)。でもねえ、これはもうジャズではないでしょう。ポップです。ポップでは、こんなプレイをしちゃダメです。フィルがみな、舌足らずの横着プレイで、ちゃんと叩けよ、なんのためにスティックをもっているんだと、ぶんむくれになります。正しくないビートを、小手先でゴチャゴチャやって誤魔化すドラミングほど腹の立つものはありません。

こういうのは生活習慣病なのです。ジャズの世界で甘やかされて、正確なビートを叩く努力をせず、周囲も精度を要求しなかったから、小手先で誤魔化す習慣が身に付いてしまったのです。ポップの世界では、いい加減な仕事をすると、翌日から食えなくなるので、こういうプレイヤーは生き残れません。

晩年にいくにしたがって、ウェスのオクターヴ奏法はすごみを加えていきます。トーンが澄んでいくのです。だから、ギタープレイとしては非常に面白いのですが、サウンドとしては、もう耐え難いまでに田舎臭くて、ハリウッドの洗練されたサウンドとプレイに馴染んでいる人間としては、なにが悲しくてこんなダサいバンドを聴かなければならないのだ、ブログなんかはじめなければよかった、とまで思います。

痛し痒しだというのはそこなのです。ウェスはいいけれど、ベンチがアホで、サウンドとしてはまるで形ができていません。ポップをナメたらいかんよ。商売というのは、お芸術なんかよりはるかにきびしいのだよ>ウェス・ベンチ。

◆ イーノック・ライトとアル・ハート ◆◆
f0147840_0154018.jpgギターもの以外で面白いインストというと、まずイーノック・ライト盤でしょう。ボサノヴァのようにはじまりながら、じつは速いチャチャチャみたいなところもあり、マンボのようになってしまうところもありで、「ラテン闇鍋」とでもいうようなアレンジです。こういうゴチャゴチャとにぎやかな飾りつけのアレンジは、エスクィヴァルと共通しています。プレイヤーも共通しているのではないでしょうか。

イーノック・ライトの盤は、彼自身がつくったコマンドというレーベルから出ています。ライトはエンジニアリングに一家言があり、コマンドも機材に金をかけたそうですが、なるほど、いま聴いても手ざわりのいいサウンドです。ポップ・オーケストラというのは、録音が悪いと興趣半減なのです。

アル・ハート盤もちょっとしたものです。いつもはここまでパセティックではないのですが、Fly Me to the Moonは、アル・ハートにニニ・ロッソが取り憑いたみたいなプレイをしています。ここまで派手にやってくれれば、もはや確信犯、文句も出なくなります。

f0147840_0204822.jpgそれにしても、アル・ハートという人はじつにうまいですなあ。わたしはトランペットという楽器が好きではないのですが、その理由のひとつは、ピッチの悪いプレイヤーが多いことです。どうして、高音にいったときに、多くのトランペッターがフラットするのか、不思議でしかたありません。やっぱり、肺活量の限界とか、そういうことでしょうかね。ブラスバンドにいたとき、よその楽器にちょっかいを出したのですが、トランペットは音を出すのが面倒なのにへこたれて、ピッチがどうこうなどという、高度なむずかしさを知るところまではいきませんでした。

どうであれ、アル・ハートを聴いていると、フラットするプレイヤーが多いのは、やはりプレイヤー自身の責任なのだということがわかります。アル・ハートはどんなに高いところにいっても、きっちりしたピッチでやっています。

お芸術のつもりかなんか知りませんが、フラットしちゃあ、芸術もハチの頭もないでしょう。ちゃんとプレイできて、はじめてアーティスティックなところに入りこんでいく切符が手に入るわけで、アル・ハートのビシッとしたプレイは、そこのところをよく考えろよと、くちばしの黄色い(そしてフラットする)ジャズ・トランペッターにいっているように、わたしには聞こえます。ジャズでは「スタイル」などといって誤魔化せても、ポップは誤魔化しのきかない、その場で現金払いの世界です。うまいか下手か、それだけの区別しかありません。

どんな楽器でも、それがもつ音の可能性の限界をきわめた人は、やはり、芸術家なんかよりずっと偉いのです。アル・ハートを聴いていると、トランペットというのは、じつはこういう楽器だったのか、と目を開かれます。これだけ気持のよい音が出せるのは、芸術なんかよりずっと価値のあることです。

◆ ジョー・ハーネル ◆◆
まだ言及すべきレベルに達しているヴァージョンが残っているのですが、そろそろ梅の収穫時期となり、去年つけた梅酒のことを思いだして、試し酒をしたら、これがなかなかけっこうな出来で、つい盃を重ねてしまい、気持よくなってきたので、あとはテキトーにやらせていただきます。いっときますが、いつもしらふで書いているんですよ。今日は例外です。

昨日の「その2」のジュリー・ロンドンのところでちょっとふれましたが、ジョー・ハーネルのFly Me to the Moonは、ヒットしただけあって、なかなかよくできています。ジョー・ハーネルなんていう人は、もっていることすら知らなかったほどで(オムニバスに入っていただけ)、どういうキャリアか調べてみました。ピアニストだったんですね(おいおい、大丈夫か)。しかし、あまり面白いピアノとは思えません。ピート・ジョリーかリオン・ラッセルでも聴いていたほうがずっといいと思います。

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Joe Harnell "Fly Me to the Moon" このデザインはおおいに好み。

このヴァージョンの魅力はピアノ・プレイではなく、オーケストレーションのほうにあります。のちに交通事故に遭ってからは、ハーネルの仕事の中心はアレンジに移ったそうですが(そしてハリウッドに移り、テレビの仕事をするようになり、「バイオニック・ジェニー」の音楽を書く!)、アレンジャーとして十分にやっていける力量があることは、このFly Me to the Moonを聴いただけでもわかります。全体の構成については、かならずしも感心できないところがありますが、弦のラインは非常に面白い箇所があります。

◆ スタンリー・ブラック ◆◆
スタンリー・ブラック盤は、いいところもあるんだけどなあ、と口ごもる出来です。音だけ聴いていると、1961年か62年ぐらいかと思ったのですが、確認すると66年。うーん、イギリスの環境は劣悪だったのだなあ、66年でこの録音はまずいだろう、と感じます。

f0147840_0305838.jpgいや、ロックンロールなら、この程度でもいいだろうと思いますが、アメリカのラウンジ・ミュージックの場合、録音を非常に重視します。スタンリー・ブラック盤Fly Me to the Moonは、1959年、すなわちステレオ・ブームのど真ん中にあったアメリカにもっていっても、通用しなかっただろうと思います(ちなみに、日本でステレオ・ブームが起きたのは1963、4年というところ)。

ジョージ・マーティンが、毎年、アメリカに視察にいっていたことを書いていて、そのくだりで録音機材、とくにテープ・マシンのトラック数にふれ、アメリカに追いつくのに苦労したといっています。

そういう環境のちがいというのは、このブログをはじめて以来、しばしば感じています。それだけが理由ではもちろんないのですが、ビートルズが登場するまで、ごく一握りをのぞけば(たとえばトーネイドーズのTelstar)、イギリスの音楽がアメリカ市場では受け容れられなかったのは、録音の面からも当然だと感じます。

まだ2種のヴァージョンが残っていますが、刀折れ、矢弾尽きた感じなので、ここいらで店仕舞いにしようと思います。テッド・ヒース盤なんて、素晴らしい録音なのですが、やっぱり録音だけよくてもねえ、という感じなのです。

いや、プレイもけっこうなのですが、こういう曲をムーディーにやられても、困惑するのみなのです。わたしは「深夜のバー・カウンター」タイプの人間ではないものでしてね。そんなタイプだったら、ブログなどやらずに、いまごろバーにいるでしょうに!
by songsf4s | 2008-06-03 23:58 | Moons & Junes
Fly Me to the Moon その2 by Frank Sinatra
タイトル
Fly Me to the Moon (a.k.a. "In Other Words")
アーティスト
Frank Sinatra
ライター
Bart Howard
収録アルバム
It Might As Well Be Spring
リリース年
1964年
他のヴァージョン
別掲
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各ヴァージョンの検討に入るまえに、昨日ふれたコードのことから。ほかのヴァージョンをちゃんととる時間の余裕はなかったのですが、たとえば、

Fly me to the moon
Am7          Dm7
And let me sing among the stars
G7                     C

というような始まり方が、シンプルなコードワークとしては一般的ではないかと思います(コードネームのあいだには全角スペースをおいただけなので、環境によってコードの位置がずれることがある)。ボビー・ウォマック盤の冒頭をこのキーに合わせると、Am7-F-G7-Cだから、ほぼ同じ、代用コードのヴァリエーションの範囲内です。印象はずいぶん異なるのに、意外なこともあるものです。

ひとつだけいえるのは、じっさいのアレンジでは、上記の一般化したコードほど単純ではないことが多く、しばしばテンションをつけたり、飾りのコードが追加されたりするのに対して、ボビー・ウォマックは、正真正銘、シンプルにやっているというちがいがあることです。

問題は、このあとだというご意見もありましょうが、残念ながら、時間がとれませんでした。どうかあしからず。

◆ フランク・シナトラ盤 ◆◆
f0147840_23582785.jpgクリント・イーストウッドが監督・主演し、トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェイムズ・ガーナーらと共演した『スペース・カウボーイ』というのは、なかなか楽しい映画でした。設定にいくぶん無理があるのですが、そういう綻びを隠すのが俳優の役目ときまっているわけで、そういうことはお手のものという老練な男優がずらっと勢揃いしたおかげで、ゴチャゴチャ難癖をつける隙をあたえませんでした。

冒頭、トミー・リー・ジョーンズの役の若いときの俳優(ほかにいい書き方がないものかと思うが、思いつかず。ご老体たちの若いころのシーンはみな若い俳優が演じている)が、X-15のような実験機を成層圏近くまでぶっ飛ばしながら、Fly Me to the Moonをうたうところがなかなか印象的でした。もっとも、この直後に墜落してしまうのですが!

このFly Me to the Moonは、じつは伏線だったことが最後にわかります。エンド・タイトルに移るまえに、チッチ、チッチ、チッチとハイハットだか、ベースの弦をスラップする音だか、ミュートしたアコースティック・ギターだかがビートを刻みはじめると、おお、あれじゃないか、となります。シナトラのFly Me to the Moonだぞ、と思うのです。

前後がないので、なんのことかわからない画像ですが、いちおうYou Tubeに、そのシーンがあります。たしかに、こういう脚本だったら、最後はシナトラをもってくるしかないな、と思います。エンド・タイトルにシナトラが流れると、映画を見た満足感が増すように、いつも感じます。

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フランク・シナトラとジョン・F・ケネディー。時期から考えて、Fly Me to the Moonは宇宙開発に刺激されて生まれ、有人宇宙飛行計画の進展とともに親しまれるようになった曲なのかもしれない。

フランク・シナトラのFly Me to the Moonの最初のヴァージョンは、1964年6月9日に録音されています。アレンジとコンダクトはクウィンシー・ジョーンズ、パーソネルは不明ですが、カウント・ベイシー・オーケストラとの共演となっています。アレンジは可もなし不可もなしですが、プレイは非常にけっこうで、乗れます。

だいたいが、わたしはビッグバンド・ドラミングが好きなのですが、こういうドラマーなら文句ありません。ジャズ・コンボのドラマーにはよろしくない人がたくさんいますが、ビッグバンドでは、コンボとちがって、ドラマーが重要な位置にある、というか、タイム・キーピングは死活的に重要なので、ひどいドラマーというのはいません。いや、しばしば、名前を知りたくなるドラミングにぶつかります。

シナトラのヴォーカルも、いつものようにけっこうなものです。こういうのを聴くと、やっぱり、ミディアムからアップで、グルーヴに乗ってうたっているときのシナトラがいちばんいいと思います。

f0147840_012272.jpgシナトラのFly Me to the Moonにはライヴがいくつかあるようですが、うちにあるのは94年の福岡ドームでの録音です。もう最晩年の録音なので、声はぜんぜん出ていませんが、それはそれでいいか、と思います。ただ、冒頭で、クウィンシー・ジョーンズの曲といって、オーケストレーターと言い直しているのが、ああ、やっぱり記憶がねえ、と哀しくなります(この年になると、ひとごとではない)。ソングライターの名前はついに思いださなかったのか、イントロが終わってしまっただけなのか……。

◆ ジュリー・ロンドン盤 ◆◆
歌もので、すげえなあ、と感動するのがジュリー・ロンドン・ヴァージョン。この人の声が好きな方なら、Fly Me to the Moonは必聴でしょう。あまりいい音質ではなく、ジュリーの声の魅力が十全に伝わるとはいえませんが、You Tubeにこのスタジオ録音があります。

f0147840_0134346.jpgいつだってジュリー・ロンドンの声はけっこうなものですが、Fly Me to the Moonはいちだんと素晴らしいうたいっぷりです。チキン・スキン・ヴォイスですぜ。いろいろな編集盤に収録されているのも当然の出来だと思います。アップテンポが得意なシンガーだとは思わないのですが、こういうのを聴くと、不得手というわけでもないのだな、と認識を改めます。

ジュリーの歌ばかりでなく、アレンジ、プレイ、そして録音も素晴らしく(残念ながらYou Tubeのクリップはモノだが、ほんとうはステレオ)、ほぼ完璧な出来のトラックです。すげえな、アレンジャーはだれだよ、と確認すれば、アーニー・フリーマン。じゃあ、これくらいは当たり前だ、なんていいそうになります。でも、アーニー・フリーマンですからね、やっぱり当然の出来というべきでしょう。

f0147840_0171853.jpgアーニー・フリーマンのいいところは、甘いだけではない、軽く苦味をきかせた弦のアンサンブルをつくれることです。ハリウッドにはクールな管のアレンジができる人は、ビリー・メイ、ショーティー・ロジャーズ、ニール・ヘフティーをはじめ、たくさんいましたが、ただ甘いだけではない弦のアレンジをできる人は多くなかったと感じます。

60年代中期にフリーマンが大活躍することになった大きな理由は、この弦のアレンジではないかと考えています。いや、たんに弦のアレンジで抜きんでていたというだけで、管のアレンジが下手だというわけではないので、誤解なきよう。ブレンダ・ハロウェイのYou've Made Me So Very Happy(こちらがオリジナル)でのフリーマンのアレンジはむちゃくちゃにカッコよくて、あれを聴くと、BS&Tのカヴァーなんか子どものいたずらに思えます。

Fly Me to the Moonのイントロの弦のピジカートによるリックは、ヒット・ヴァージョンであるジョー・ハーネル盤(後述)からの借り物でしょうが、ハーネル盤とは比較にならないほどスケール・アップしています。アイディアをたっぷり詰め込んだ、冴えに冴えたストリング・アレンジメントです。ピアノとドラムとベースのリズム・セクションがまたうまくて、じつに気分よく聴けます。毎度いっていますが、これがハリウッドというインフラストラクチャーの地力です。

てなこといって、うやむやにせず、久しぶりに「体を張った推測」をすると、ドラマーはアール・パーマーです。タイムとフロアタムのサウンドからいって、確率90パーセント以上。だって、プロデューサーはスナッフ・ギャレットですからね。ギャレット=フリーマンとくれば、ボビー・ヴィーのコンビです。プレイヤーも同じだと考えてよい、というか、推測の基本原則からいって、明白な否定材料となる音が聞こえないかぎり、時期が同じならメンバーも同じだと考える「べき」なのです。となると、ベースはレッド・カレンダーあたりが有力。いいグルーヴです。

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左から、アーニー・フリーマン、スナッフ・ギャレット、アール・パーマー。壁面の吸音材の形状から考えて、場所はユナイティッド・ウェスタン・レコーダーと思われる。

そこまではいいとして、ピアノもほかのセッションと同じように、フリーマン自身のプレイなのでしょうか。だとしたら、やっぱり、アレンジャーとしてばかりでなく、プレイヤーとしてもたいしたものだったのだなあ、と見直しちゃいます。目の覚めるようなプレイです。

ギャレット=フリーマンのコンビから、もうひとつ推測できることがあります。スタジオはユナイティッド・ウェスタンだということです。この弦の鳴りから考えて、確率98パーセントぐらい。すべての条件が、ほうっておいてもいい音になってしまうように整っているのです。だからいつもいっているでしょ、これがハリウッドというインフラストラクチャーのすごいところなのです。

ノーマルな歌もののFly Me to the Moonとしては、このジュリー・ロンドン・ヴァージョンがいちばんいいと思います。

◆ クリス・モンテイズ盤 ◆◆
f0147840_0272775.jpgテンポのゆるいものは概して苦手なので、そういうものはオミットさせていただき、速めのものとしては、ほかにクリス・モンテイズ(ご本人の発音にしたがってカタカナ表記した)盤があります。この時期のクリス・モンテイズのバンドは、ハル・ブレインをはじめ、手練れがそろっていて面白いのですが、この曲は、大満足とまではいきません。小満足ぐらいです。

クリス・モンテイズの盤で面白いのは、ハル以外では、ピアノが非常にいいことです。主としてピート・ジョリーが弾いていたようですが、ハル・ブレインの回想記によると、バディー・グレコが来ていたこともあったそうです(テレビ番組だけのワンショットだろうが、バディー・リッチとグレコが共演したトラックがあって、これがすごいのなんの! いや、リッチ、グレコの両方ともが、ということ)。

Fly Me to the Moonのピアノがどちらかはわかりませんが、いずれにしても、いいプレイヤーです。しかし、こういう曲で、こういうテンポでは、あまり活躍の余地がありません。活躍の余地がないといえば、ハル・ブレインも同じです。このテンポでフィルインを入れると、どうしてもせわしない印象になるのを否めません。いや、ちょっとだけタムを入れてくれたので、まちがいなくハルと確認できたのですが、でも、このフィルはないほうがいいだろうと思います。

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ピート・ジョリー(左)とバディー・グレコ

ということで、いくらなんでもテンポが速すぎるかな、と感じますが、その点をのぞけば、悪くないトラックです。ただ、このアルバムは、ほかにすごくいい出来のトラック(タイトル・カットのThe More I See YouやCall Me)があるので、相対的に印象が薄いのです。

◆ エイプリル・スティーヴンズほか ◆◆
ほかに気になる歌ものFly Me to the Moonとしては、エイプリル・スティーヴンズのものがあります。うまいとはいいかねるのですが、目立つ声をしているし、あまりスムーズとはいえない、変わった歌い方をするので、なんとなく気になるシンガーです。こういう風に、同じ曲のヴァージョンくらべをやるときには、得な人だと思います。まあ、うまくないところが目立ってしまって損だ、と逆のこともいえるかもしれませんが。

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エイプリル・スティーヴンズは、前付けのヴァースをうたっています。前付けヴァースまでうたっているのは、うちにはほかにイーディー・ゴーメ、ジャック・ジョーンズ、トニー・ベネットのものしかないようです。この前付けヴァースは、メロディー・ラインが平板で、しかも永遠につづくかと思うほど長いので、わたしのように短気な人間は、もう能書きはよくわかったから、さっさと本題に入れ、とイライラしてしまいます。切ったほうが正解。

f0147840_0373852.jpgアストラッド・ジルベルトはいつもの調子です。彼女の歌が好きならば、Fly Me to the Moonも楽しめるでしょう。わたしは、彼女のピッチの悪さに大きな違和を感じるときがあるので、このヴァージョンはそれほど好きでもありませんが。Fly Me to the Moonのように、音程がジャンプする箇所がある曲は合わないような気がします。語りに近い曲のほうがいいのではないでしょうか。

クリフ・リチャードのFly Me to the Moonは2種類ありますが、リメイクはスロウ・バラッド・アレンジで、まったく好みではありません。アップテンポ・ヴァージョンは、ファースト・ヴァースとコーラスはなかなか悪くないな、と思うのですが、そのあと、ドラム(ブライアン・ベネットでしょう)が入ってきて、思いきり派手にバックビートを叩き、うるさくキックを入れ、それとともに、全体が騒々しくなるのが好みではありません。ドラマーの責任ではなく、プロデューサー、アレンジャーの仕事ぶりが気に入らないということですが。

f0147840_0385889.jpgサンドパイパーズは、スペイン語(たぶん)でうたっています。このグループに向いている曲だと思うのですが、Fly Me to the Moonはぎくしゃくしたところがあって、あまり気持よくありません。もっと流れるようにスムーズにうたえばよかったような……。

まだ歌ものが残っていますが、もうバテバテなので、ここらで打ち切りとさせていただきます。インスト・ヴァージョンにはまったく手が着けられなかったので、もう一回延長して、明日以降にそちらのほうの棚卸しをします。
by songsf4s | 2008-06-02 23:56 | Moons & Junes
Fly Me to the Moon その1 by Bobby Womack
タイトル
Fly Me to the Moon (a.k.a. "In Other Words")
アーティスト
Bobby Womack
ライター
Bart Howard
収録アルバム
Fly Me to the Moon
リリース年
1968年
他のヴァージョン
別掲
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去年の秋に予告したとおり、六月はMoons & Junesと題して、月の歌、ないしはジューン・ブライド、(ひょっとしたら)ないしは、もっと大束に、結婚の歌を特集します。なぜ六月に月なのか、なぜジューン・ブライドはめでたいかというと、ギリシャ神話に起源があるのでことは面倒、委細後便ということで、本日は説明しません。そもそも、去年の六月にも書いたのですがね。

Fly Me to the Moonは、まったく説明の必要のない楽曲で、多少とも音楽を聴く方なら、とりわけ当家のお客さんのような方々のHDDには、すでに十や百や千のFly Me to the Moonが収録されていることでしょう。うちのHDDには以下のFly Me to the Moonがあるようです。

Frank Sinatra with Count Basie Orchestra
Frank Sinatra
Nat King Cole
Bobby Womack
Joe Harnell
Al Hirt
Petula Clark
Wes Montggomery
The 50 Guitars
The Three Suns
Matt Monro
Enoch Light
Laurindo Almeida
Ten Tuff Guitars
April Stevens
Dinah Washington
Eydie Gorme
Julie London
Cliff Richard
Jack Jones
Johnny Mathis
Neil Sedaka
Tony Bennett
Astrud Gilberto
The Four Lads
The Sandpipers
The T-Bones
Chris Montez
Stanley Black

シナトラのFly Me to the Moonは一種類ではなく、ライヴがありますし、ほかにも、ソースのちがいによって、同一のテイクでも複数のファイルのあるものがあります。これだけ数があると、今日中にすべて聴き直すのは不可能で、たぶん今日は取り上げてもごく一握り、ひょっとしたら、ヴァージョン検討はすべて明日以降にするかもしれません。

You Tubeに今日の看板にしたボビー・ウォマック・ヴァージョンがありますので、よろしかったらお聴きになってみてください。いや、わかっています。こんな曲、いまさら聴きたくもない、とおっしゃるんでしょう? でも、騙されたと思って、ウォマック・ヴァージョンを試してみてください。はじめて聴いたとき、わたしはひっくり返りました。

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◆ つまり換言するなら ◆◆
なにはともあれ、歌詞を見ることにします。ファースト・ヴァースとコーラスをまとめて。

Fly me to the moon
Let me sing among those stars
Let me see what spring is like
On jupiter and mars

In other words, hold my hand
In other words, baby kiss me

「月まで送りこんで、あの星々のなかでうたわせてくれ、木星や火星の春がどんなものかみせてくれ、つまり、ぼくの手をにぎって、要するに、キスしてくれということさ」

このヴァースがあったために、昨秋の月の歌特集ではこの曲を取り上げるのをためらったのです。もう六月一日、春とはいいにくいのですが、秋にやるよりはマシでしょう。

Fly Me to the Moonは、発表当初はIn Other Wordsというタイトルだったそうです。それをFly Me to the Moonというタイトルに変えてしまった犯人は特定できませんが、シナトラあたりじゃないかと思っています。

だれがコックロビンを殺し、だれがIn Other Wordsを抹殺したかはどうでもいいとしても、非英語スピーキング・ピープルとしては、このin other world=言い換えるなら、換言するなら、という硬い表現が歌のなかに出てくるのは、妙ちきりんな印象を受けます。英語としては硬い表現ではないのでしょうかねえ。よくわかりません。しかし、タイトルにしたということは、作者はこの言いまわしをポイントと考えていたことになり、やはり、歌のなかに出てくると耳立つ表現なのではないかと想像します。

でも、よく考えてみると、in other wordsの前後を等号で結べませんな。作者としては、そこに工夫したということでしょう。「つまり」といいながら、ぜんぜんつまりになっていなくて、脈絡もなく、手を握ってくれ、キスしてくれ、という可笑しさです。

◆ 忠実に訳せばtrueならず ◆◆
つづいてセカンド・ヴァースとコーラス。ナンシーに「2ヴァースの歌はいいんだよ」と教えたというシナトラ好みの、2バース、2コーラス構成の曲なので、これがラスト・ヴァースです。

Fill my heart with song
Let me sing for ever more
You are all I long for
All I worship and adore

In other words, please be true
In other words, I love you

「ぼくのハートを歌でいっぱいにして、永遠にうたわせてくれ、ぼくが思いこがれ、あがめ慕うのはきみだけ、つまり、正直であってほしい、要するに、愛しているということさ」

毎度ながら、be trueというのは嫌な表現だと思います。歌詞に頻出しながら、これほど日本語にしにくい言いまわしはないのではないかと思います。それこそ「要するに」、love meと同じ意味だとつねに思っています。そう書きたいのですが、「換言すると」といって、直後にI love youが出てきちゃうので、ここはヒジョーにやりにくいとしかいいようがありません。ともあれ、シナトラじゃないけれど、2ヴァースは歌は助かります。

◆ ボビー・ウォマックの爆破粉砕ヴァージョン ◆◆
世に「耳タコ」の曲はあまたあれど、この曲なんぞは、耳にタコができて、角質化が極度に進行し、象皮病みたいになっちゃっているといっていいのじゃないでしょうか。ということは、例によって、原曲解体爆破粉砕アレンジが好ましいということです。

よって、今日の看板はボビー・ウォマック・ヴァージョンとしました。じっさい、このヴァージョンがなければ、この曲は無視したでしょう。リリース当時はこのヴァージョンは知らず(そもそも、ボビー・ウォマックそのものが好きではなかった)、はじめて聴いたのは、ライノの60年代ソウル・ボックス、Beg, Scream & Shout!でのことでした。

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"Beg, Scream & Shout" 6枚組CDボックスで、オールドタイマーの方はご記憶だろうが、昔あった45回転盤のキャリング・ケースをそのまま模したボックスに収められている。じっさい、サイズは45回転盤用になっているので、CDの代わりにホンモノの45を入れることもできる。

いやあ、驚きましたねえ。こんなにいい曲だとは知りませんでした。というか、もう完全に耳が麻痺して、この曲が流れても、いいとも悪いとも、好きとも嫌いとも思わず、「たんなるFly Me to the Moon」という透明ななにものか、右の耳から左の耳になんら痕跡も残さず通過するだけのたんなる波動ぐらいに感じていて、音楽と思ってすらいませんでした。

しかし、ボビー・ウォマック・ヴァージョンを聴いたとたん、音楽として明確な像を結び、ちゃんとメロディーを認識したのだから、アレンジというのはおそろしいものです。

ギターのイントロからして、1小節も聴かないうちに、お、これはいいぞ、と身構えさせる魅力をもっています。いま、コピーしようとしたのですが、できませんでした。チューニングを半音上げているか、カポを使っているか、どちらかじゃないでしょうか。どうであれ、こういうプレイは、グッと気分が盛りあがります。FmからGm7にいくところが非常に魅力的です。ウォマック自身によるプレイなのでしょう。

じっさい、ヴァースに入って、管が入ってくると、うるさい、いらない、消えろ、と感じるほどギターがいいプレイをしています。もう8から16トラックの時期なので、管の抹消は可能なはずです。いまからでも遅くない、アンダブド・ヴァージョンをリリースしてもらいたいと思います。管を削除すると、R&Bらしさは失われ、ロック寄りの音になるでしょう。そうなればなったで、面白いと思うのですがねえ。

きちんとコードをコピーする時間がなかったのですが、コピーするまでもなく、ふつうのFly Me to the Moonとは、ずいぶん変えていると感じます。いまざっととったところでは、Cm7-Ab-Bb7-Eb-Eb7-Ab-G7-Cm7-Eb-Ab-Bb7-Eb-Dm-Cm-Fm-Gm7-Fm-Bb7-Eb-Cm7-Bb7といったあたりじゃないでしょうか。最後の三つはちょっと怪しいので、明日、修正するかもしれません。

いや、これだけじゃあ意味がないのですが、「ふつうの」Fly Me to the Moonのほうのコードをとるどころか、まだ数曲聴き直しただけなので、比較検討は明日以降にさせていただきます。

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キャリング・ケースを開けると、なかにはこのように、一見、ダストカヴァーに収めた45回転盤のようなものが6枚と、小さな箱がひとつ入っている。

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そのうちの1枚を取り出すと、こうなっている。一見、穴あきの45回転盤ダストカヴァーと中身のレーベルというおもむき。ロゴマークはチェス・レコードのパロディーになっていることにご注意。チェスのロゴは馬(チェスの駒)だが、ライノ・レコードだからこちらはサイを象っている。

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ダスト・カヴァーと中身はこういう関係。

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中身を完全に取り出したところ。一見、45回転盤だが、外側の溝のある部分は、プラスティックのCDホールダーにすぎず、レーベルに見えるものと、その外周がCDになっている。パアでんねんという悪凝りデザイン。

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悪凝りは盤のみにおさまらない。ライナーもこの小さな箱に入っている。

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小箱のなかにはこういうカードが入っている。

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じつはこのカードの一枚一枚がライナーで、表はアーティストの写真、裏がライナー。ついでに、トリヴィア・クイズがついていて、ゲームをすることもできる!

by songsf4s | 2008-06-01 23:57 | Moons & Junes