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カテゴリ:クリスマス・ソング( 56 )
Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations
タイトル
Rudolph the Red-Nosed Reindeer
アーティスト
The Temptations
ライター
Johnny Marks
収録アルバム
Christmas Card
リリース年
1970年
他のヴァージョン
Billy May, the Crystals, Ray Charles, Fats Domino, Dean Martin, Alvin & the Chipmunks, Gene Autry, the Ventures, Paul Anka, the Cadillacs, Willie Nelson, the Melodeers, Lynyrd Skynyrd, Burl Ives, Vaughn Monroe & His Orchestra and so many others!
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Summertimeのときも、ついこのあいだのSleigh Rideのときも、ヴァージョンが多すぎるとボヤきましたが、このRudolph the Red-Nosed Reindeerの検索結果を見て、ひっくり返りました。なんと35種ももっていたのです。たくさんあるだろうとは思っていましたが、まさかこれほどとは思っていませんでした。よく考えもせずに集めてはいけない、という教訓ですので、以て他山の石となしてください。

しかたがないから、とにかく、ひととおり聴いてみました。上記の「その他のヴァージョン」にあげたものは、一部にすぎません。全部書けば、どこかでぜったいにスペルをまちがえるにちがいないし、お読みになる気も起きないだろうと考えたしだいです。これ以外にも、退屈なヴァージョン、馬鹿馬鹿しいヴァージョン、その他いろいろありますが、世の中には、知らないほうが幸せ、ということがらもあるのです!

(2011年12月追記 出来がいいので、無理矢理ここにクリップを押し込みます)
Jingle Cats - Rudolph and Santa Cat


◆ サンタ一家外伝 ◆◆
子ども向けの曲ではありますが、いちおうストーリーらしきものがあるので、歌詞を見てみます。看板に立てたテンプテーションズのヴァージョンは、一般的なものとすこし異なっています。調べてみたら、親切に、だれがどこを歌っているかまで書いてあるものがあったので、それを利用させていただきます。

クリスマス・ソングにはいくつかそういうものがあるのですが、このRudolph the Red-Nosed Reindeerにも、通常、ポップ・ミュージックの世界でいう「ヴァース」とは意味が異なる、前付けの独唱部という意味でのヴァースがあります。略すシンガーも多いのですが、テンプスはちゃんとこの前付けも歌っていますし、ここが彼らのヴァージョンのハイライトのひとつでもあります。では、その前付けのヴァースから。

Paul:
You Know there's Dasher and Dancer and Prancer and Vixen

Dennis:
Comet and Cupid and Donner and Blitzen

Eddie:
Oh, but do you recall

Otis:
The most famous reindeer of all?

Eddie:
Whoa-o-o-o-o

Melvin:
His name is...

「ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナー、ブリッツェン、いろいろなトナカイがいる、でも、あらゆるトナカイのなかでいちばん有名なトナカイを覚えているかい? その名前は……」

ダッシャーは「ダッシュする」のdashに-erをつけたもの、pranceは踊り跳ねること、vixenは辞書では「口やかましい女、がみがみ女」となっています。でも、色っぽい女性のこともvixenといいます。ドナーは不明。辞書で調べても「サンタクロースのトナカイの伝説的な名前」とあるだけです。おいおい。昔からそうなっているということなので、あきらめてください。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_1454284.jpgブリッツェンはドイツ語らしく、意味はわかりませんが、「電撃」という意味のblitzからきているのでしょう。例のナチス・ドイツの「電撃作戦」は、ドイツ語では「ブリッツクリーク」といいますが、それと同じ根の言葉だと思います。

ルドルフは「サンタクロースの9番目のトナカイ」だそうですから、サンタのトナカイには、ルドルフの先輩にあたる8頭のトナカイがいることになり、わたしは寡聞にして知りませんが、ダッシャーだのダンサーだのは、その名前なのでしょう。なんだか、浪花節の『清水次郎長外伝』みたいだなあ、と馬鹿馬鹿しい連想をしました。次郎長外伝の三十石船でしたか、あの「寿司食いねえ」のくだりで、森の石松が出てくるまでにずいぶん手間がかかるのと、この歌の独唱部はよく似ています。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_1411223.jpg各ラインでリードをとっているシンガーのフルネームを書いておくと、登場順に、ポール・ウィリアムズ、デニス・エドワーズ、エディー・ケンドリクス、オーティス・ウィリアムズ、メルヴィン・フランクリンです。デイヴィッド・ラフィンは68年に抜け、この70年リリースのRudolph the Red-Nosed Reindeerのときにはすでにいません。

◆ はぐれ者からヒーローへ ◆◆
さて、ようやくのことでファースト・ヴァースへ。ここからはテンプス版ではなく、一般的な歌詞を使います。テンプスは、ちょっとアドリブが入ったり、割り台詞のようにリードをまわしたり、コール&レスポンス風にしたりといったアレンジをしています。

Rudolph the red-nosed reindeer
Had a very shiny nose
And if you ever saw it
You would even say it glows

「赤鼻のトナカイ、ルドルフはピカピカ光る鼻をしていた、もしも実物を見れば、燃え立つほど光っているといいたくなるかもしれないほどさ」

前付けのヴァースの「その名前は……」から、直接にルドルフにつながっています。つづいてセカンド・ヴァース。

All of the other reindeer
Used to laugh and call him names
They never let poor Rudolph
Join in any reindeer games

「ほかのトナカイはみな、彼をあざ笑い、はやし立て、可哀想なルドルフをトナカイ仲間の遊びにいれてやろうとはしなかった」

「call one names」は成句で、悪口をいうことを意味します。童話によくあるパターンに感じますが、それもそのはず、赤鼻のトナカイは「醜いアヒルの子」をベースにして書かれたのだそうです。

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キャプションは歌詞をそのまま引用して「ほかのトナカイはみな、彼をあざ笑い、はやし立てたものだった」となっている。ただし、「だった」がイタリックで強調されている! 壁のトナカイの剥製にはネーム・プレートがあり、Dasherからはじまる8頭の名前がきちんと書いてある。


クライマクスのブリッジへ。

Then one foggy Christmas Eve
Santa came to say
"Rudolph with your nose so bright
Won't you guide my sleigh tonight?"
Then how the reindeer loved him
As they shouted out with glee
"Rudolph the red-nosed Reindeer
You'll go down in history"

「でも、ある霧の深いクリスマス・イヴのことだった、サンタがやってきて、『ルドルフ、そんなに光り輝く鼻をもっているんだから、ひとつそれで、今夜は橇の先導をしてくれないか?』といった、それからはほかのトナカイたちもルドルフのことが好きになり、大喜びで『赤鼻のトナカイ、ルドルフ、おまえは歴史に名を残すだろう』と叫んだのだった」

ちゃんと起承転結があって、いまどきの小学生の作文じみたポップ・チューンなどより、よほどよくできた歌詞です。昔の作詞家というのは、基礎ができていたこと、職人芸をもっていたことを、こういう歌詞を聴くたびに痛感します。

◆ テンプテーションズ盤 ◆◆
ヴァージョンがたくさんあると、だれを看板に立てるか迷うことが多いのですが、この曲については、はじめからテンプス盤と決めていました。わたしはテンプスがとりわけ好きなわけではありませんし、スモーキー・ロビンソンが楽曲提供とプロデュースしていた時代はともかくとして、ファンクに傾斜してからのテンプスにはまったく興味がなく、盤もあまりもっていません。でも、このRudolph the Red-Nosed Reindeerを聴くと、ひとりひとりの声が素晴らしくて、ボケッと曲をもらって歌っただけでナンバーワンR&Bコーラス・グループになったわけではないと、当たり前のことを改めて思います。

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このMotown Christmasというオムニバス盤にも、テンプスのRudolph the Red-Nosed Reindeerは収録されている。

もうひとつ、テンプス盤が面白いのは、ヴァースのメイジャー・コードをセヴンス・コードに変更していることです。この曲のヴァースは、キーがCだとすると、C-Gを往復するだけの単調なもので、あまり面白いとはいえません。これがたいていのヴァージョンに退屈してしまう理由です。C-Gでは和声的な面白みをもたせることができず、アレンジャー泣かせの曲です。じっさい、アレンジャーの苦闘がにじみ出ているヴァージョンがかなりあります。

ヴァースの2つのコードをセヴンスにすることで、コード・チェンジはシンプルなままでも、R&Bらしいグルーヴをつくりだす土台ができるわけで、テンプス盤のアレンジはクレヴァーな変更だと思います(ほかに、レイ・チャールズ盤もセヴンスでやっている。レイ・チャールズのコードの変更については、Rainy Night in Georgiaでもふれた)。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_147145.jpgじっさい、前付けの独唱部は、それぞれの声のよさとヴォーカル・テクニックの魅力で惹きつけ、ヴァースに入るとバンドのグルーヴで惹きつけるわけで、テンプス盤は群を抜いてよくできています。メンバーは不明ですが、1970年リリースだから、まちがいなくハリウッド録音で、ドラムズはポール・ハンフリーに聞こえます。ベースは微妙なところですが、キャロル・ケイより、ボブ・ウェストに近いと感じます。

40種類近いヴァージョンを聴かなければならないのだから、てんてこ舞いなのに、ほかのヴァージョンはほったらかしにして、すでに何度も聴いているテンプス盤を、今回も繰り返し聴いてしまいました。Rudolph the Red-Nosed Reindeerを聴かなければならないなら、テンプス盤しかありません。

◆ アルヴィン・ストーラー盤 ◆◆
とはいえ、ほかのヴァージョンがすべて退屈なわけではありません。つぎに好きなのは、ドラマーのアルヴィン・ストーラーのヴァージョンです。これはマンボ! じつに楽しいアレンジです。

アルヴィン・ストーラーはビッグバンドの時代から活躍していたドラマーで、50年代にはハリウッドでスタジオ・ワークをするようになったそうです。シェリー・マン、ジャック・スパーリング、ラリー・バンカーなどよりひと世代上の、ジャズ・オリエンティッドなスタジオ・ドラマーということになります。

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アルヴィン・ストーラーのRudolph the Red-Nosed Reindeerを収録したUltra Loungeシリーズのクリスマス篇、Christmas Cocktails Part One。このUltra Loungeのクリスマス篇は、毎年、シーズンになるとよく聴いている。

ビッグ・バンド時代には、ベニー・グッドマン、トミー・ドーシー、ハリー・ジェイムズなどの一流オーケストラでプレイし、スタジオ・プレイヤーとしては、ビリー・ホリデイ、メル・トーメ、フランク・シナトラ、エラ・フィッツジェラルドなどのレコーディングに参加したと資料にあります。

面白いのは、バディー・リッチのヴォーカル盤(そういうのがあるのです。盤はもっていませんが、バイオ・ヴィデオで歌っているのを見ました。本気でシンガーに転向するつもりだったとか! 変な人です)でストゥールに坐ったのが、アルヴィン・ストーラーだったことです。

歌をうたうと決めたら、ドラムを叩かないバディー・リッチも面白いのですが、この傑出したドラマーが、自分の歌のバッキングに選んだドラマーがストーラーだったということは、彼が信頼できるプレイヤーだったことを証明しています。ジャズ・ドラマーのなかには、手数ばかり多くて、ドラマーの基本であるタイムがまるでなっていない人がけっこういるのですが、バディー・リッチは素晴らしいタイムをしています。そのバディー・リッチが選んだのだから、ストーラーのタイムのよさはおわかりでしょう。

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ちなみに、バディー・リッチが娘のデビュー盤をプロデュースしたときに、彼が選んだドラマーはハル・ブレインです。ついでにいえば、パーカッションはミルト・ホランド。一流は一流を好むのです。ミルト・ホランドは、リッチが自分で叩かないことを不審に思い、仕事のあとで、なぜハルなのだと訊ねたそうです。彼はひと言「I want the best」と答えたとか。もっとも、このエピソードを文字にしたのは、ハル・ブレイン自身なのですが!

ともあれ、バディー・リッチを信用するなら(わたしは彼のファンなので信用します)、アルヴィン・ストーラーは、50年代のハル・ブレインだったことになるでしょう。そういう人の経歴の詳細もわからなければ、写真すら見つからないのだから、イヤな気分になります。光を当てなければいけないプレイヤーが、まだまだたくさん隠れているのでしょうね。

★★★ 12月22日追記 ★★★
MP3タグの表示をもとに、「アルヴィン・ストーラーのRudolph the Red-Nosed Reindeer」としましたが、久しぶりにライナーを見たら、アーティストの名前はビリー・メイとなっていました。ストーラーはこの曲ではヴォーカルとしてクレジットされています。謹んで訂正いたします。


◆ その他のヴァージョン ◆◆
Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_2162527.jpgつぎにくるのは、やはりフィル・スペクターがプロデュースした、クリスタルズのヴァージョンでしょう。ドラムはもちろんハル・ブレイン。バックビートを叩かず、フィルばかり叩く異例のプレイです。ハル以外にもだれかが、コンサート・ベース・ドラムをマレットで叩いているようで、変なアレンジです。12弦ギターのリックがフィーチャーされていますが、これはスペクターの全カタログのなかでも異例のこと。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_2173968.jpg当たり前のものはあまり面白くないのですが、オリジナルのジーン・オートリー盤はなかなかけっこうで、大ヒットもうなずけます。声もよくて、なるほど一時代を画した人だと感じます。

いい加減なクリスマス・オムニバスに入っていたもので、録音時期がよくわからないのですが、ファッツ・ドミノ盤も好みです。音は新しめですが、歌はいつものファッツのスタイルで、雰囲気があります。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_221442.jpgディーン・マーティン盤も、オーソドクスなつくりですが、なかなか楽しめます。声がいいんだから、当たり前です。

Speedoのキャディラックスは、R&Bコーラス・グループなので、初期のドリフターズを思わせるような、ドゥーワップ・アレンジでやっています。ドラムが下手で、グルーヴはいただけませんが、ヴォーカル・アレンジは好み。

ポール・アンカ盤はビッグ・バンド・アレンジで、サウンドとしては申し分ありません。クリスマス・ソングには、ビッグ・バンド・スタイルは合っていると思うのですが、なぜか、わが家にはそういうものがすくなく、これから鋭意博捜したいと思っています。だれだかわかりませんが、ドラマーはおおいに好み。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_225522.jpgレイ・チャールズ盤は前述のようにヴァースのコードをセヴンスに変更していて、それ自体はけっこうなのです。でも、リズムも8ビートにしているのですが、それがピタッとしなくて、いいグルーヴとはいいかねます。彼が50年代、60年代にいっしょにやったバンドにくらべると、数段落ちる、二流のバンドの音です。

スリー・サンズ盤は、毎度申し上げるように、チューバにめげるのですが、ギターはさすがのプレイ。

オーケストラものでは、うーん、とくにいいものはないのですが、しいていうとパーシー・フェイス楽団でしょうか。パーカッションの扱いが面白く感じます。ヘンリー・マンシーニも悪くはありませんが(ドラムが素晴らしい)、いつものアレンジの冴えは感じません。C-Gというか、I-Vなんていうコード進行の曲は、オーケストラ・アレンジには向かないのです。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_227491.jpgレーナード・スキナード盤は、全盛期ではなく、比較的近年の録音ですが、このバンドらしく、ギターがごり押しするところは楽しめます。似たような位置にあるシカゴ盤より上出来。

わが家にはないのですが、You Tubeで見た、というか、聴いたというべきでしょうが、ドン・マクリーン・ヴァージョンも悪くありません。ギター一本で歌っているのですが、コードの扱いにセンスが感じられます。

◆ 「売り子」としての一生 ◆◆
書き落としがあるような気もするのですが、このへんでもういいでしょう。

赤鼻のトナカイの物語は、デパートがクリスマス商戦の宣伝として、無料で配った絵本として生まれたものだそうです。商品を売るための材料だったものが、いつのまにか、なにやら神話じみたものになってしまったところに、アメリカらしさがあらわれているように思います。いや、まあ、日本だって、そちらの方向に傾いているような気がしなくもないのですが……。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_230591.jpgキャラクターができあがれば、当然、物語のほうも発展し、さまざまなメディアで、さまざまな「外伝」がつくられています。そういう物語を盤にしたものもあり、ウェブで見つけたものを聴いてみました。ルドルフがサンタのところのきた哀れな少年たちの手紙に心動かされ、彼らのさびれたサーカスに、犬のように鳴く猫とか、猫のように鳴く犬とか、そういう、ルドルフと同類のはぐれ者を集めて送り込み、おおいに繁盛させる、なんていう物語が収録されていました。

デパートの宣伝キャラクターという出自だから、そういう話にならざるをえないのでしょうね。もはや夢多き子どもではなく、ちょっとシニカルな大人になったわたしは、そうか、アメリカ人のいう機会均等とは、結局、商売のことなのだな、などとしょーもないことを思ったのでありました。

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by songsf4s | 2007-12-03 00:07 | クリスマス・ソング
New York's a Lonely Town by the Tradewinds
タイトル
New York's a Lonely Town
アーティスト
The Tradewinds
ライター
Pete Andreoli, Vince Poncia Jr.
収録アルバム
Excursions
リリース年
1965年
他のヴァージョン
Dave Edmunds (retitled as "London's a Lonely Town")
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この曲がクリスマス・ソングといえるかどうかは微妙なところで、ご異論もあろうかと思います。しかし、歌詞が明示的なクリスマス・ソングにはなっていなくても、クリスマス・アルバムに収録される曲というのはたくさんあります。I've Got My Love to Keep Me Warmしかり、Let It Snow!しかり。

じっさい、クリスマス・シーズンに町で流れるクリスマス・ソングのなかに、この曲はよく紛れ込んでいます。シャッフル・ビートで、ジングル・ベルがシャンシャン鳴っているのだから、まったく違和感はありません。紛れ込むのもたび重なれば、もはや紛れ込んだとはいえず、正当な地位を確保したといえるでしょう。

◆ 雪をかぶったサーフ・ボード ◆◆
楽曲、サウンドも魅力的な曲ですが、この曲をサーフ・クラシックに、そしてまたクリスマス・クラシックたらしめている大きな理由は、キュートな歌詞にあります。では、ファースト・ヴァース。音符の切れ目と歌詞の切れ目がきれいには一致しないので、意味を優先して行を切りました。

My folks moved to New York from California
I should have listened when my buddy said
"I warn ya, there'll be no surfin' there and no one even cares"

「俺の家族はカリフォルニアからニューヨークに引っ越したんだ。仲間の忠告を聴いておけばよかったよ。こういうんだ。『いっとくけどな、あっちにはサーフィンなんかないんだぜ。だれも気にもしていないんだからな』」

明快な設定で、説明の要はないでしょう。つづいてコーラス。

My woody's outside covered with snow
Nowhere to go now
New York's a lonely town
When you're the only surfer boy around

「外に置いたボードは雪まみれ、どこにも行くところなんかありゃしない、ニューヨークはさみしい町だぜ、サーファー仲間なんかひとりもいないんだからな」

これまた説明不要。雪をかぶったサーフボード、というアイディアを思いついたところで、この曲のヒットと、未来の古典化は保証されたといっていいでしょう。

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最初にNew York's a Lonely Townを聴いたのは、この70年代はじめにリリースされたGolden Summerというオムニバスでのことだった。ビーチボーイズやジャン&ディーンやヴェンチャーズなどの定番だけでなく、ジャック・ニーチーのThe Lonely Surfer、マーケッツのSurfer's Stomp、アネットのBeach Partyあたりも収録し、さらにはフロッグメンのUnderwaterだの、トラッシュメンのSurfin' Birdまで入っていて、非常にありがたい盤だった。LPジャケットを好まれる方もいらっしゃるでしょうから、お持ち帰り用に大きくしたので、いつものように、ご自分のところで必要なら、ご自由にどうぞ。"Golden Summer" double LP surf music anthology from the United Artists, UA-LA627-H2.


◆ 地名のイメージ ◆◆
セカンド・ヴァース。ここは意味的にコーラスまでつながっているので、コーラスもいっしょに。

From Central Park to Pasadena's such a long way
I feel so out of it walkin' down Broadway
I feel so bad each time I look out there and find

My woody's outside covered with snow
Nowhere to go now
New York's a lonely town
When you're the only surfer boy around

「セントラル・パークからパサディーナまでの遠さったらないぜ、ブロードウェイを歩いていると、ホント、浮いてるなって思う、家の外に置いたボードが雪をかぶっているのを見るたびにむかっ腹が立つ、ニューヨークはさみしい町だぜ、サーファー仲間なんかひとりもいやしない」

LA郊外とはいえ、パサディーナには海がないので、ここはマリブやバルボアのほうがよかったのではないでしょうか。作者のピート・アンドレオーリとヴィニー・ポンシーアは東部出身で、カリフォルニアには(フィル・スペクターの)仕事で滞在したことがあっただけなので、地理不案内だったか、または、リアリティーよりパサディーナという音をとったか、あるいは、カリフォルニア以外の住人にも通りのいい地名がほしかったのかもしれません。地付きの人間ならパサディーナは使わなかったでしょう。

New York\'s a Lonely Town by the Tradewinds_f0147840_2554573.jpgとはいえ、パサディーナに住んでいる人間でも、週末にはマリブやバルボアまでサーフィンに出かけたにちがいないので、まったくのウソでもありません。なにしろ、海の近くの子どもたちが、ダンスと音楽のために、パサディーナより遠い、郡部のエル・モンテまで出かけたという話がジョニー・オーティスの自伝に出てくるぐらいなので、その逆だって十分にありえます。LAというのは、世界でもっとも早く高速道路網が発達した土地なので、車さえあれば、60年代でもそういうことができたのです(このあたりのことは、『LAコンフィデンシャル』をはじめとする、ジェイムズ・エルロイの「暗黒のLA四部作」で描写されている)。

車とサーファーについては、Tell'em I'm Surfin' by the Fantastic Baggysなどで、すでにふれています。

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ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーのレーベル、Red Bird/Blue Catレコードの曲を集めた、こういうアンソロジーにもNew York's a Lonely Townは収録されている。


◆ フィル・スペクターの拒絶 ◆◆
ロード・アイランド出身のピート・アンドレオーリとヴィニー・ポンシーアのソングライター・チームは1964年、ジェフ・バリーとエリー・グリニッジにかわる共作者を探していたフィル・スペクターを紹介されます。アンドレオーリがいうように、これは彼らにとって「人生最大のチャンス」でした。二人はスペクターとともに、The Best Part of Breaking UpやDo I Love You(ともにロネッツ)などを書きます。

まだスペクターの共作者兼アシスタント兼ボディー・ガードだった時代に、アンドレオーリとポンシーアはNew York's a Lonely Townを録音し、フィル・スペクターに聴かせました。しかしスペクターは、これはヒットすると思うが、自分のレーベルからは出したくないと拒絶したそうです。どうして、ときいても、スペクターは理由を話さなかったとか。結局、二人はこの曲をスペクターの師匠筋であるジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの会社、レッド・バード・レコードからトレイドウィンズの名義でリリースすることになります。

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トレイドウィンズのパブ・ショップ。スタジオ・プロジェクトなので、これはフォト・セッションのみのメンバーである可能性が高い。

アンドレオーリは後年、なぜスペクターが拒否したかについて、もし、New York's a Lonely Townがヒットしたら、自分のアシスタントが独力でヒット曲をつくれることになり、スペクターは自分が「タッチを失った」という事実に直面しなければならないからだろう、といっています。まあ、それもひとつの見方でしょう。

フィル・スペクターは、ライチャウス・ブラザーズが、「スペクターのミュージシャン」と「スペクターのスタジオ」を使って、スペクター・サウンドを丸ごとコピーした(You're My) Soul and Inspirationがチャート・トッパーになったとき、強い不快感を示したと伝えられています。わたしは、スペクターがNew York's a Lonely Townを拒否したのは、Soul and Inspirationに不快感を示したのと、似たような意味ではないかと考えています。

フィル・スペクターは、理想のサウンドを得るために、とてつもないエネルギーを注ぎこんでいます。3時間のセッションで4曲を録音するのが常識だった時代に、シングルのA面一曲だけのために、スペクターは二日間を費やしたのです。彼がいかにサウンド作りに精魂を傾けたかは、エンジニアのラリー・レヴィンが後年、詳細に回想していますが、それは略します。

自分が長い時間と多大な費用をかけて作り上げたものを、たんに真似されるだけでも愉快ではないでしょう。まして、それがずっと短時間で、そしてわずかな費用で簡単にできてしまい、しかもヒットしてしまうのでは、オリジネーターの立つ瀬がないというものです。そういう不快感ではないでしょうか。

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有名なライノのCowabunga the Surf Boxにも、もちろんNew York's a Lonely Townは収録されている。しかし、このボックス、ディスク4は不要だった。ディスク4まですべて60年代のサーフ・ミュージックで埋め尽くせば、ライノの意図どおり決定版になっただろう。ゴミを増やすな>ライノ。画像がひん曲がっているのは、わたしのスキャンや加工が雑なせいではなく、はじめからそういうデザインになっているため。


◆ 迂回した本歌取り ◆◆
しかし、残念ながら、ギター・リック同様、サウンドのテクスチャーには著作権があるとはみなされていませんし、詰まるところ、フィル・スペクターも、彼のサウンドを独力でつくったわけでもないので、だれかが彼の音を「盗んだ」としても(じっさい、彼の「門下生」といえる人々は、ジャック・ニーチーにせよ、ソニー・ボノにせよ、ニーノ・テンポにせよ、みな、大なり小なり「スペクター・サウンド」の盤をつくっている)、すくなくともポップ・ミュージックの世界では、やむえをないことです。

アンドレオーリとポンシーアのNew York's a Lonely Townは、仮に「パクリ」だとしても、出来のよい、そして上品なパクリです。この程度の上品な「いただき方」ならば、「パクリ」とはいわず、「インスパイア」された、と婉曲にいうのが適当でしょう。リヴァーブのかけ方だって、スペクターのように極端ではありませんし、カスタネットを使ったわけでもありません(まあ、歌詞の設定上、ジングル・ベルをシャンシャン鳴らす必要があり、カスタネットが入りこむ余地もなければ、その必要もはじめからないのですが)。

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ジャケ写をスキャンせずに、いただきものですませようとしたのですが、ウェブで見つかったのは豆粒みたいなのがほんの2、3枚でした。どうやらすでに廃盤のようなので、やむなく自分でスキャンしました(「しわい屋」そのまんまの馬鹿咄)。(当ブログとしては)大きくし、裏もスキャンしておいたので、必要な方はご自由にお持ち帰りいただき、ご利用ください。武士は相身互い。"Excursions" by the Tradewinds, front and back.

じっさい、もしそのようなものがあるとしたら、彼らの「独創性」は、スペクターの手法をいかに換骨奪胎して、応用問題を解いたか、ということにあるでしょう。「サーフ・ミュージックに材を得た、スペクター風味のトラックと、ビーチボーイズ風味のヴォーカル・アレンジによる、クリスマス・ソング風の冬のノヴェルティー・ソング」という、おそろしく迂回した、危なっかしい本歌取りに成功したことが、この曲をクラシックにしたのです。

エコーにどっぷり漬けて、なにがなんだかわからなくしてしまうような「いただき方」は、彼らはしていません。もっとも強くフィル・スペクターの色が感じられるのは、各楽器の音を分離せず、ひとつの音に融合させている点です。わたしはフィル・スペクター・サウンドの核心は、楽器の音の融合と、「音の外側に広がる残響」だと思っているので、このアンドレオーリとポンシーアの方針には共鳴します。ある人の手法の本質を把握し、それを応用することと、「パクリ」は本質的に異なるものです。

◆ 本家による本歌取りのコピー ◆◆
New York's a Lonely Townは、「最後のサーフ・ヒット」といわれることもあります。この曲のヒット以後、サーフ・ミュージックがヒット・チャートに登場することはないからです。1963年をピークに、すでにサーフ・ミュージックは衰退していたのであって、たまたま最後になっただけでしょう。そもそも、歌詞の内容はサーフ・ミュージックのヴァリエーションですが、サウンドとしてはサーフ・ミュージックらしさは感じられません。

New York\'s a Lonely Town by the Tradewinds_f0147840_1495120.jpgその「最後のヒット」から11年たった1976年、I Hear You Knockin'のデイヴ・エドマンズがこの曲を、彼の国籍に合わせて、London's a Lonely Townと改題、改作してカヴァーしています。これはハリウッド録音で、バッキング・コーラスはブライアン・ウィルソン、ブルース・ジョンストン、テリー・メルチャー、カート・ベッチャーがやったと、これを収録したサーフ・アンソロジー、Pebbles 4のライナーはいっています。非常によくできたカヴァーですが、なにか新しいものを付け加えたわけではなく、残念ながら、ストレート・コピーに終わっています。

いくつかジャケット写真を示しておきましたが、トレイドウィンズのNew York's a Lonely Townは、無数の編集盤に収録されています。ダブっても省略せずに圧縮してHDDに収めてあるのですが、三種の音を聴いて、もっともきれいなのは、Cowabunga the Surf Box収録のものだと感じました。しかし、ここが皮肉なところですが、もっとも音の悪い、テイチク製国内盤Mind Excursion収録ヴァージョンが、もっとも心地よく感じられます。リヴァーブによる「ボカし」効果が、音の悪さにマッチしているのです。こういうことがあるので、盤をつくるのは、そして、それをヒットさせるのは、むずかしいことなのだと痛感します。

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こちらは、ピート・アンドレオーリ(アンダース)とヴィニー・ポンシーアのもうひとつのスタジオ・プロジェクトであるイノセンスのジャケット。
The cover of the Innocence's self-titled album. The Innocence was another studio project by Pete Andreoli and Vinnie Poncia.

by songsf4s | 2007-12-02 00:06 | クリスマス・ソング
Pretty Paper by Roy Orbison
タイトル
Pretty Paper
アーティスト
Roy Orbison
ライター
Willie Nelson
収録アルバム
The Legendary Roy Orbison
リリース年
1963年
他のヴァージョン
Willie Nelson
Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_23485082.jpg

クリスマス・ソング、とくにこの半世紀ぐらいにできたものは、おおむね明るく華やかなもので、そうでないものも、せいぜい「しめやか」といったあたりです。悲しい歌、つらい歌というのはあまりありません。今日はやや例外的な、苦味のあるクリスマス・ソングを取り上げます。

◆ にぎわう街角で ◆◆
曲としても好きなのですが、このPretty Paperを忘れがたいものにしているのは、60年代前半のポップ・チューンとしてもまれな、そして、クリスマス・ソングとしてもめずらしい題材をあつかった歌詞です。では、ファースト・ヴァース、といいたいところですが、ヒット・ヴァージョンであるロイ・オービソン盤も、作者のウィリー・ネルソンのセルフ・カヴァー盤も、ともにコーラスから入っているので、まずはコーラスから。

Pretty paper, pretty ribbons of blue
Wrap your presents to your darling from you
Pretty pencils to write "I love you"
Pretty paper, pretty ribbons of blue

「きれいなラッピング・ペーパーと、きれいな青いリボンで、愛する人へのプレゼントを包み、きれいな色鉛筆で「愛しているよ」と書く、きれいなラッピング・ペーパー、きれいな青いリボン」

どちらの盤もコーラスを前に出した理由は、ヴァースを聴けばわかるので、後述します。ここまでは尋常な、ただし、ちょっとジンとくるクリスマス・ソングになっています。

それでは(やっと)ファースト・ヴァース。

Crowded street, busy feet hustle by him
Downtown shoppers, Christmas is nigh
There he sits all alone on the sidewalk
Hoping that you won't pass him by

「混み合う街角、道を急ぐ人々の足が彼の脇を行き交う、ダウンタウンの買い物客、もうすぐクリスマス、そのなかで、彼はあなたが自分を無視して通りすぎないようにと願いながらただひとり歩道に坐っている」

Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_025588.jpg近年は見かけなくなりましたが、わたしが子どものころには、道ばたに坐って物乞いをしている人たちがどこの町にもいました。豊かになり、無駄がいっぱいある世の中になったおかげで、空き缶や段ボールなどの廃物を集めたり、コンビニやファースト・フード店の残り物をもらうことで生きていけるようになり、公道での物乞いはしないですむようになっただけで、この歌に登場する「彼」のような境遇の人がいなくなったわけではないのは、ご存知のとおり。いまも、この歌のアクチュアリティーは失われていません。

ハッピーなコーラスから入った理由は、これでおわかりでしょう。クリスマスの楽しげな買い物客でにぎわう店でプレゼントを買い、外に出た瞬間、その正反対のものを見る、という落差を利用するためです。

◆ 人生の立体像 ◆◆
以下はセカンドにして最後のヴァースですが、それが作者の狙いでしょうから、直後にコーラスをつなげてみます。

Should you stop? better not, much too busy
You're in a hurry, my how time does fly
In the distance the ringing of laughter
And in the midst of the laughter he cries

Pretty paper, pretty ribbons of blue
Wrap your presents to your darling from you
Pretty pencils to write "I love you"
Pretty paper, pretty ribbons of blue

Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_052499.jpg「あなたは立ち止まろうかと思う、いや、やめたほうがいい、忙しすぎる、あなたは道を急いでいる、光陰矢のごとしとはよくいったものだ、遠くのほうで笑い声が起こる、その笑いのさなかに彼は泣きだしてしまう。きれいなラッピング・ペーパーと、きれいな青いリボンで、愛する人へのプレゼントを包み、きれいな色鉛筆で「愛しているよ」と書く、きれいなラッピング・ペーパー、きれいな青いリボン」

対照的な境遇にある二人の人物が、ある日のある瞬間、街角で出会ったその一瞬をみごとにとらえ、われわれの生きているこの現実を、空間のまま立体的に歌のなかに封じ込んだ、みごとな歌詞です。

◆ ロンドン録音? ◆◆
わたしはロイ・オービソンのファンですし、ヒット・ヴァージョンでもあるので、オービソン盤を看板に立てました。しかし、オービソン盤とウィリー・ネルソン盤は甲乙つけがたい出来というか、時代がちがうので、比較するわけにはいかないと感じます。

この曲は62年に書かれたもので、その時点でウィリー・ネルソンが自分で歌ったものはリリースされていません(このときのデモを収録した盤があるらしいが未聴)。オリジナルはロイ・オービソン盤と思われます。ボックスのライナーによると、ウィリー・ネルソンが、オービソンのレーベルであるモニュメントのオーナー、フレッド・フォスターにデモを聴かせ、フォスターがこの曲をオービソンのクリスマス・シングルにすると決定したようです。

Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_095370.jpgオービソンは長いイギリス・ツアーの最中だったため(このとき、ビートル・マニアに遭遇し、のちにビートルズのスタイルを取り込んだOh Pretty Womanを生むことになる)、録音はロンドンでおこなわれたとライナーにあります。しかし、それはどうでしょう。アレンジはビル・ジャスティスで、ナッシュヴィルでデモをつくったとあります。だとしたら、それはデモではなく、ベーシック・トラックではないでしょうか。ピアノはフロイド・クレイマーのプレイに聞こえます。

クレイマーが弾いたものを採譜すれば、ロンドンのプレイヤーにも似たようなタッチは出せたでしょうが、そんな面倒なことをするくらいだったら、クレイマーが弾いたテープをロンドンにもっていき、オービソンのヴォーカルとストリングスをオーヴァーダブするほうがよほど簡単だし、よけいな費用もかからず、まちがいがありません。わたしは、この曲のステレオ・ミックスの左チャンネルにひとまとめになっているリズム・セクションは、ナッシュヴィルで録音されたものと考えます。

この仮定が正しければ、この曲もまた、ベーシック・トラックはバディー・ハーマンらの仕事ということになります。この前後のオービソンのセッションでは彼らがプレイしているからです。

◆ ポップとカントリー、60年代と70年代 ◆◆
冒頭にも書きましたが、クリスマス・ソングというのは、ふつうは「アッパー」なもので、この曲のような「ダウナー」は、当時としては異例です。ふつうなら、会社側が渋るものですが、オーナー自身がシンガーに録音を勧めたというのだから、フォスターというのは、なかなか面白い人だと思います。オービソンがほんとうの意味で成功するのも、フォスターのモニュメントと契約してからのことなので、この駆け出しのオーナーはいい耳をしていたのではないかと思われます。

Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_0113945.jpgただ、肯定的な材料もあったと思います。救世軍の「社会鍋」(まだやっているのでしょうか?)でわかるように、クリスマス・シーズンというのは、弱者救済のときだからです。マーロン・ブランドが歌って踊る、珍なクリスマス・ミュージカル『野郎どもと女たち』(原作はデイモン・ラニアンのGuys and Dolls。共演はフランク・シナトラ!)では、ブランド扮する博奕打ちの「スカイ」は、救世軍の尼さんに惚れてしまいます。

弱者に目を向けることもまた、クリスマスにふさわしい行為であり、たんにそのことを歌った曲がなかっただけと考えれば、業界的には「新機軸のクリスマス・ソング」とみなすことができるでしょう。しかし、やはり、会社にとっても、オービソンにとっても、ささやかなギャンブルではあったと思います。

女性コーラスとストリングスで甘み加えたアレンジと、オービソンの端正な歌いぶりは、この歌詞のダウナーな側面への抵抗を和らげるような形になっています。ヴァースの苦い現実を無視し、コーラスに意識を集中するなら、おだやかなバラッドに聞こえるでしょう。それがプロデューシングの意図だと感じます。象徴的にいえば、美しい包装紙でくるみ、美しいリボンをかけた、スリックなヴァージョンです。時代を考えれば、妥当な措置だったと思います(ふと、同じ時期にニューヨークで、バリー・マンがティーン・ポップに社会性を持ち込もうとしていたことを思いました)。

Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_0153279.jpgそれに対して、79年のウィリー・ネルソン盤は、苦い現実のほうにアクセントが置かれています。なんといっても、「ならず者カントリー」の旗手、「反逆者」といわれた人なので、きれいごとはなしなのです。とはいえ、この人の魅力も、他のすぐれたカントリー・シンガーとおなじように、情感のある歌い方にあります。たんに、その情感が甘さ一辺倒ではなく、苦味とざらつきという新しい味を加えたところが、旧世代のシンガーとはちがうだけです。彼がシンガーとして長い下積みを経験したのは、時代が彼のスタイルに追いつくまでに時間がかかったからでしょう。

Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_0164190.jpgウィリー・ネルソン盤には、オービソン盤とは大きく異なる点があります。コーラスの冒頭は、オービソン盤では、G-Dというコード・チェンジですが、ネルソンは、この2つのコードのあいだに、もうひとつコードを加えているのです。ネルソン盤はキーがDなので、そちらに転調して書きますが、D-B7-Aというコード・チェンジになっているのです。このオービソン盤にはないB7がじつに効果的で、ハッとさせられます。オービソンが使っていないことでわかるように、メロディー・ラインからいえばなくてかまわない、飾りのコードなのですが、飾りもまた音楽のだいじな一部です。

オービソン盤はキーが高く、素人が歌うような曲には聞こえないのですが、ネルソン盤を聴くと、わたしもひとつ唸ってみようか、なんて気になります。オービソン盤がメインストリーム・シンガーのスタイルであるのに対して、ネルソン盤はカントリー・シンガーのスタイルになっているということのあらわれですが、ギター一本でもできるようになっているし、コードもいたってシンプルなので、このクリスマスにはあなたもどうでしょうか?

◆ R&B風味のカントリー・アルバム ◆◆
最後に、このPretty Paperをタイトルにしたウィリー・ネルソンのクリスマス・アルバムについて。これはいいアルバムです。よくある、ほらよ一丁上がり的な、毒にも薬にもならない安直なクリスマス・アルバムではありません。ネルソン独特のプライヴェートなヴォーカル・スタイルが、当たり前のクリスマス・ソングに新しい味をあたえています。パーソネルは以下の通り。

Produced by Booker T. Jones

Willie Nelson……vocal/guitar
Jody Payne……guitar
Bee Spears, Chris Ethridge……bass
Paul English, Rex Ludwick……drums
Booker T. Jones……keyboards
Mickey Raphael……harmonica

ブッカー・T・ジョーンズのプロデュースというのは、意外な感じがするいっぽうで、なるほどと思います。オルガンもプレイしているので、曲によってはMG'sのように聞こえる一瞬もあります。クリス・エスリッジは、フライング・ブリトー・ブラザーズのオリジナル・ラインアップのひとり。ネルソン自身のギター・プレイもなかなか味があります。

Pretty Paper by Roy Orbison_f0147840_0385350.jpg

by songsf4s | 2007-12-01 00:03 | クリスマス・ソング
Christmas Island by the Andrews Sisters
タイトル
Christmas Island
アーティスト
The Andrews Sisters
ライター
Lyle Moraine
収録アルバム
Their All-Time Greatest Hits
リリース年
1946年
他のヴァージョン
The Lennon Sisters
Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_0151310.jpg

クリスマス・ソング特集はまだ二曲しかやっていないのに、すでにヴァージョンのあまりの多さ、歌詞の馬鹿馬鹿しさにへこたれています。そこで、ヴァージョンがすくなく、歌詞に多少は意味のあるものをあれこれ選った結果、この曲がよかろうと考えました。

◆ ジングル・ベルも雪ももううんざり ◆◆
以下の歌詞は、わが家にあるアンドルーズ・シスターズ盤とはいくぶん異なる、ジミー・バフェット盤の歌詞を参照し、前付けの部分を加えたものです。

Let's get away from sleigh bells
Let's get away from snow
Let's make a break some Christmas
Dear, I know the place to go

「スレイ・ベルはもうたくさん、雪もうんざり、クリスマスの休みにはどこかへいきましょう、いいところがあるのよ」

ここまでの4行はアンドルーズ盤にはありません。よけいな説明といえばそうなのですが、あってもわるくない前付けだと思います。スレイ・ベルには、わたしも少々うんざりしていますし、年をとって、どんどん気温が下がっていくいまの時季も、ちょっとつらく感じるようになったので、こういう歌は当方の気分にも合っています。

The Andrews Sisters - Christmas Island


あまりやりたくはないのですが、アンドルーズ・シスターズ、レノン・シスターズという、いにしえの「ガール・グループ」(とは当時はいわなかったでしょうが)に敬意を表し、今回は女言葉でいきます。では、アンドルーズ盤の歌い出しの部分を。

How'd you like to spend Christmas on Christmas Island?
How'd you like to spend the holiday away across the sea?
How'd you like to spend Christmas on Christmas Island?
How'd you like to hang a stocking on a great big coconut tree?

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_0325155.jpg「クリスマス島でクリスマスを過ごすのはいかが? クリスマス休暇に海を渡って遠出をするのはいかが? クリスマス島でクリスマスを過ごすのはいかが? ものすごく大きなココナツの木にストッキングを吊すのはいかが?」

ストッキングを吊すといっても、もちろん洗濯をするわけでもなければ、昔のハリウッド映画にあったような、色っぽいお誘いでもありません。いうまでもなくサンタ・クロースへのお誘いです。クリスマス島については後段で。

◆ ところ変われば、乗り物も変わる ◆◆
以下はコーラス。

How'd you like to stay up late, like the islanders do?
Wait for Santa to sail in with your presents in a canoe
If you ever spend Christmas on Christmas Island
You will never stray for everyday
Your Christmas dreams come true

「島の人たちみたいに、遅くまで眠らず、サンタがプレゼントをカヌーに載せてやってくるのを待つのはいかが? 一度でもクリスマス島でクリスマスを過ごせば、二度と夜遊びをすることもなくなるわよ」

サンタクロースの乗り物というのは、ノヴェルティー系のクリスマス・ソングでは重要な趣向のひとつです。すぐに思い浮かぶものでも、ホットロッド、ロケット、象など、さまざまな乗り物が登場しています。

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_034599.jpgstrayは迷うこと、彷徨うことをいいますが、女性が男に向かっていうのだからして、midnight paradeのことをいっているのだろうとみなしました。降誕祭という名前の付いた場所なのだから、という心ではないでしょうか。

管のアンサンブルによる間奏をはさんだあとは、ブリッジの繰り返しですが、最後に「止め」の一行が加えられています。

How'd you like to stay up late like the islanders do?
Wait for Santa to sail in with your presents in a canoe
If you ever spend Christmas on Christmas Island
You will never stray for everyday
Your Christmas dreams come true


◆ Discover Christmas Island (but which?) ◆◆
まず、クリスマス島とはどこのことなのか、という問題について。辞書で見るかぎりでは、クリスマス島という島は二カ所あります。ポリネシアのキリバス共和国はライン諸島にあるものと、オーストラリア領のものです。アメリカに近いという単純な理由によりますが、この曲が想定しているのは、キリバス共和国のクリスマス島のほうだと思います。なんだか地理のお勉強みたいですが、以下に世界大百科のクリスマス島の記述をコピーしておきます。

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_036380.jpg
なんだかサンタクロースのブーツのように見えなくもない

「中部太平洋、キリバス共和国のライン諸島中の環礁(北緯1"59'、西経157"30')。周囲約160kmにおよび、純粋のサンゴ礁島としては世界最大。面積364平方キロ、人口1288人(1978年)。1777年にキャプテン・クックにより初めて西欧人の知見に入った。当時、島に多数の住居址はあったものの、無人であった。島名は、クックがここでクリスマスを過ごしたことによる。1888年英領となった。19世紀半ば以降グアノが採掘され、20世紀に入ってからはココヤシのプランテーションが始まった。1956‐58年にイギリスの、62年にはアメリカの、それぞれ核実験場とされた。キリバス独立後は、漁業を中心とする同国の経済センターの一つとして発展している」

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_03979.jpg

たしかに、サンゴ礁島としては大きいと思いますが、人口は少ないですねえ。従業員1300人なんて工場は、日本中にざらにあるでしょうし、それくらいの人が働いているオフィス・ビルもかなりあるでしょう。「西欧人の知見に入った」という生硬な表現は、おそらく「発見」という不正確な表現を避けたためのものと思われます。昔、「コロンブスの新大陸発見」といっていたことは、近ごろの学校ではどう教えているのでしょうか。

なんだって、ポリネシアの島にクリスマス島などという名前がついているのかという謎は、キャプテン・クックで氷解です。いまになると、なにを好き勝手なゴタクをほざいているのやら、と思いますが、島の名前を聞こうにも、無人ではどうにもならないですね。

子どものころにこの島の名前を聞いた覚えがあったのですが、核実験場としてニュースで見たのだということがわかりました。この歌ができたころには、まだそんな未来は予見できなかったわけで、結果的に、ちょっと皮肉な歌詞になってしまったようです。

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_0401721.jpg
キャプテン・クックのクリスマス島地図

よせばいいのに、いろいろ読んでみたところ、キリバス共和国のスペルがなぜKiribatiという妙ちきりんなものなのかという理由がわかりました。キリバスの言葉にsの音をあらわす文字がないため、tiで代用しているのだそうです。キリバスというのは、Gilbertの意味だそうです(昔、ギルバート諸島といっていたのをご記憶でしょうか)。

で、クリスマス島を現地ではKiritimatiと書き、kee-rees-massと発音するというのだから、カタカナにすると「キーリースマス」あたりということになります。あんた、発音、なまってるよ。

◆ 真贋の謎 ◆◆
アンドルーズ・シスターズは1930年代終わりから1950年代はじめにかけて活躍した、ミネアポリス出身の3人組女性コーラス・グループです。わたしよりふたまわり上の音楽ファンは、こういう説明を読んだら、ビートルズとは何者かと説明するような愚劣なことだ、とお怒りになるでしょう。それくらいに無数のヒットのある人たちです。

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_0455912.jpgわたしはアンドルーズが活躍した時代には生まれていないので、彼女たちのことを知ったのは、ベット・ミドラーのBoogie Woogie Bugle Boyのカヴァーを通じてのことでした。その後、ベスト盤を手に入れ、いい曲ばかりなのに驚きました。Boogie Woogie Bugle BoyやBeat Me Daddy Eight to the Barのような「リズムもの」だけでなく、ミディアム・バラッドもうまくて、なるほど、第二次大戦をはさんだ時期、グレン・ミラーと並ぶトップ・アーティストだったというのも当然だと納得しました。

このChristmas Islandは、第2次大戦終結の翌年、1946年9月の録音で、その年のクリスマスにヒットしたそうです(B面はWinter Wonderland)。でも、問題があります。わたしが所持しているMCAの2枚組CDには、再録音ヴァージョンが多数混入しているのです。Christmas Islandも、1946年、すなわち、アンペクスのテープ・マシンが登場する以前の、ダイレクト・カッティング時代の録音にしては、音がよすぎるように感じます。

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_048944.jpgBillboard Greatest Christmas Hits 1935-1954という編集盤に収録されたChristmas Islandも同じテイクなので、ひょっとしたら、もとから非常にいい音で、それをディジタル技術でクリーンアップしただけかもしれませんが、どなたかご存知の方がいらしたら、ご教示を願いたいものです。オリジナルのSPを確認しないといけないので、むずかしいでしょうが。

Christmas Island by the Andrews Sisters_f0147840_0493066.jpgレノン・シスターズ盤は、アンドルーズ盤よりテンポを速くし、歌詞の設定に忠実に、ハワイアン風にやっています。といっても、ウクレレとスティール・ギターの飾りをつけただけのことです。わたしは大昔の女性コーラス・グループにはコロッとやられる傾向があるのですが、だれでもいいというわけではないことが、レノン・シスターズのChristmas Islandで確認できて、ホッとしました。残念ながら、アンドルーズやキング・シスターズのように、すばらしい声の人はいませんし、圧倒的なアンサンブルでもありません。

こうした「シスターズもの」(と昔の日本のジャズ・ファンは呼んでいたとか)の声のブレンドがつくりだす独特の味わいは、エルヴィス以後の時代には、みごとにこの地上からかき消されてしまうわけで、いま、こうして彼女のたちの歌声を聴き、ゆらりゆらゆらと南国気分にひたれるのはまことにありがたく、録音技術というものに感謝したくなります。


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アンドルーズ・シスターズ&ビング・クロスビー
A Merry Christmas with Bing Crosby & The Andrews Sisters
A Merry Christmas with Bing Crosby & The Andrews Sisters
by songsf4s | 2007-11-30 00:15 | クリスマス・ソング
Jingle Bell Rock by Bobby Helms
タイトル
Jingle Bell Rock
アーティスト
Bobby Helms
ライター
Joe Beal, Jim Boothe
収録アルバム
Fraulein: The Classic Years
リリース年
1957年
他のヴァージョン
Chet Atkins, Brenda Lee, Chubby Checker and Bobby Rydel, Herb Alpert & the Tijuana Brass, the Three Suns, Neil Diamond, Hall & Oates, the California Raisins
Jingle Bell Rock by Bobby Helms_f0147840_23563079.jpg

ロックンロール時代につくられた「新しいクリスマス・ソング」、つまり、トラッドでもなく、ティン・パン・アリーの時代につくられたものでもない、という意味にすぎませんが、そのなかで好きな曲を指折り数えてみると、年代的にいって、まずトップにこのボビー・ヘルムズのJingle Bell Rockがきます。

多くのカヴァー・ヴァージョンが生まれ、すでにクラシックといってよい曲ですが、うちにあるものをくらべてみると、やはり、オリジナルのヘルムズ盤がいまでももっとも出来がよいと感じます。そのあたりについては、のちほどということに。

Bobby Helms - Jingle Bell Rock (original recording)


◆ 「ロック」という言葉の響き ◆◆
歌詞をみていくことにしますが、昨日のSleigh Ride同様、景気がいいばかりで、これといった意味のない歌です。ともあれ、ファースト・ヴァース。

Jingle bell, jingle bell, jingle bell rock
Jingle bells swing and jingle bells ring
Snowing and blowing up bushels of fun
Now the jingle hop has begun

Jingle Bell Rock by Bobby Helms_f0147840_034570.jpg解釈するような歌詞ではないのはおわかりでしょう。ジングルベルが振れて、音が鳴るとか、クリスマスのダンス・パーティーがはじまったとか、まあ、そんなことを景気よくいっているだけです。bushelは重量の単位ですが、こういう場合はa lot ofなどと同じような意味です。hopはダンスまたはダンス・パーティーのこと。

ここで重要なのは、jingle bellという言葉に、rockという「新しい流行語」をつなげたことだけです。そう、rockという言葉が新しい響きをもっていた時代があったのです。そういう時代の気分がこのタイトルに反映され、それがこの曲の大ヒットのいくぶんかの裏づけとなったにちがいありません。

Jingle bell, jingle bell, jingle bell rock
Jingle bells chime in jingle bell time
Dancing and prancing in jingle bell square
In the frosty air

ここもまた解釈するほどの意味はなく、日本語にすると馬鹿馬鹿しく見えるヴァースです。pranceは跳ねることなので、dancing and prancingは踊り跳ねるということになります。

ジングル・ベル・スクエアという有名な場所があるのかと思い、ちょっと調べてみましたが、見あたりませんでした。この3語で検索すると、この歌詞ばかりがヒットしてしまいます。特定の場所を想定したわけではなく、日本でもときおり駅前などに大きなベルが置かれていたりしますが、そういうものを思い浮かべればいいのでしょう。

◆ アップデイトしたJingle Bell ◆◆
以下はブリッジ。

What a bright time
It's the right time to rock the night away
Jingle bell time is a swell time
To go gliding in a one-horse sleigh

rock the night awayは、一晩中踊り明かそう、ぐらいのところ。swellは形容詞の「すばらしい」という意味で使われているのでしょう。one-horse sleighは、Jingle Bellの冒頭「Dashin' through the snow, in a one-horse open-sleigh」の引用でしょう。一頭立ての橇という意味です。ここに、ロックンロール時代のJingle Bellとして、この曲を書いたという作者の意図が見えます。

Giddy-up jingle horse
pick up your feet
Jingle around the clock
Mix and a-mingle in the jingling feet
That's the jingle bell
That's the jingle bell
That's the jingle bell rock

Jingle Bell Rock by Bobby Helms_f0147840_0233817.jpggiddyupは、馬へのかけ声で、進め、進めといった感じ。ここでのpick upは、「スピードを出す」という場合の使い方でしょう。giddyupの同類、言い換えにすぎません。mingleはmixと同様の意味で、mix and mingleは、漢熟語などにもあるような、口調を整える意味で、音を変えながら同意語を反復しただけでしょう。jinglingはチリンチリンと音をたてることですが、jingling feetといっても、足音ではなく、馬につけた鈴が鳴っているということでしょう。

コードは簡単だし、音程のジャンプもなく、歌いやすい曲なので、ちょっとやってみようかという方のために、いちおう歌詞を見てみましたが、意味らしい意味はなく、要するに、軽快に、明るく歌えばいいだけの曲だとおわかりいただけたでしょう。

◆ ナッシュヴィルのエースたちの手腕 ◆◆
歌詞にはたいした意味はなく、わたしが気に入っているのは、楽曲と軽やかなサウンドです。たまたま、ベア・ファミリーの2枚組ベスト盤にセッショノグラフィーが載っているので、以下にデータを書き写します。

録音日は1957年10月29日、場所はナッシュビルのBradley Film & Recording Studio、プロデューサーはポール・コーエン。パーソネルは以下の通り。

Bobby Helms……vocal
Thomas Grady Martin……guitar
Walter "Hank" "Sugarfoot" Garland……guitar
Roy Q. Edenton or Harold Ray Bradley……rhythm guitar
Bob L. Moore……bass
Murray M. "Buddy" Harman Jr.……drums
Owen Bradley……piano
(poss.) Anita Kerr Singers……vocal chorus

バディー・ハーマン、シュガーフット・ガーランド、グレイディー・マーティン、ハロルド・ブラッドリー、オーウェン・ブラッドリーといった、50年代後半から60年代前半にかけてのナッシュヴィルのレギュラー、エース級がずらっと顔をそろえています。ケイデンス時代のエヴァリー・ブラザーズなどと共通するメンバーです。

Jingle Bell Rock by Bobby Helms_f0147840_0251012.jpg
左からボブ・ムーア、グレイディー・マーティン、バディー・ハーマン

だからといって、派手なプレイをしているわけではありません。50年代から60年代はじめまでのプロというのは、いたってストイックなもので、必要以上のことはしません。バディー・ハーマンは、いわばナッシュヴィルのハル・ブレインで(ロイ・ナップ・パーカッション・スクールではハーマンのほうが先輩。60年代のアメリカ音楽を支えた二人のドラマーが同じ音楽学校の出身だというのには驚く)、無数のセッションでプレイしていますが、63年以後のハル・ブレインのような、ド派手なトラックはありません。安定したビートを提供することを本分とした、昔気質のドラマーです。60年代初期のエルヴィスのヒット曲で、彼のプレイを堪能することができます。

バディー・ハーマンのシンプルで安定したプレイが代表するように、ナッシュヴィルらしい独特のグルーヴがあるところがこの曲の大きな魅力です。シャッフル・ビートというのは、平板にやってはいけないもので、ゆりかごが揺れるような、それこそ、「スウィング」する感覚がないと心地よくないものです。さすがは50年代の人たちは、自然に気持ちのよいシャッフル・ビートをつくっています。時代が下るにつれて、シャッフルの技は忘れられていくわけで、いまになると人間国宝的な技に思えます。

◆ 失われた伝統芸、シャッフル・フィール ◆◆
そのことは、近年のカヴァーを聴けばよくわかります。どれもみなひどいものです。シャッフル・フィールのない、たんなるバックビートしか叩いていません。ニール・ダイアモンド盤しかり、ホール&オーツ盤しかり、カリフォルニア・レーズンズ盤しかり。そろいもそろってダメなドラマーばかりです。

こうしたドラマーたちに、「シャッフルのスウィング感」なんていっても、「そりゃなんのことだ?」と聞き返されてしまうにちがいありません。エイト・ビートとシャッフルの本質的な違いは、音符の並び方などではなく、グルーヴのちがい、「気分のちがい」なのだということもわかっていないボンクラどもです。この30年ほどの音楽の我慢ならない腐れぶり、ドラマーの堕落ぶりが、この三つのヴァージョンに凝縮されて詰まっています。ただデカいビートを叩くことしかできないのでは、ドラマーとはいえないでしょう。そんなのばかりになってしまったので、わたしは同時代の音楽と縁を切ったのです。

あまりいいカヴァーはないのですが、そのなかでチェット・アトキンズ盤は、アレンジ、サウンドは安直でまったくいただけないものの、ギター・プレイの凄みは堪能できます。いつ聴いても、どの時代のプレイでも、チェット・アトキンズはわたしにはエイリアンです。どうしたらこんなプレイができるのか!

Chet Atkins - Jingle Bell Rock


このチェット・アトキンズのクリスマス・アルバム、East Tennessee Christmasは80年代の録音ですが、わたしが知るかぎり、彼はもう一枚クリスマス・アルバムを録音しています。そのChristmas with Chetは、昨日もふれたAdd More Musicで聴くことができるので、ギター・ファンの方は右のFriendsリンクからどうぞ。近々、このアルバムの収録曲にもふれる機会があるだろうと思います。

ハーブ・アルパート盤は、昨日も申し上げたように、ハル・ブレインが叩いているので、平板な、シャッフルになっていないシャッフルを聴かされる心配だけはありません。とくにいい出来のものとは思っていませんでしたが、ホール&オーツやニール・ダイアモンドの無惨なカヴァーを聴いたあとだと、ドラム、ベース、リズム・ギターのつくりだすシャッフル・フィールがじつに心地よく感じられます。

Jingle Bell Rock by Bobby Helms_f0147840_0323810.jpgスリー・サンズ盤は、うーん、ギターはいいんだけど、という感じで、またしてもチューバの音が疳に障ります。なんでチューバが必要なのでしょうか。思いつくのは救世軍のバンドぐらいですが、それがチューバの出所だとしたら、計算違いも甚だしいでしょう。救世軍の音楽を聴きたい人が何人いると思っているのでしょう?

ブレンダ・リー盤は、ボビー・ヘルムズのオリジナルとそれほど異ならないリズム・セクションで録音していると思われますが、あまり乗れません。ストリングスも女性コーラスも邪魔です。

チャビー・チェッカーとボビー・ライデルのデュエットは、アルバム・トラックとして、手間をかけずに雑に録音したという感じで、どこといって取り柄がありません。クリスマス・ソングというのはこういうのが多くて困ったものです。フィル・スペクターみたいに、ふだん以上にエネルギーを注ぎこむ人はきわめてまれで、彼のクリスマス・アルバムが古典になったのも当然だと感じます。

◆ キャプテン・サンタ物語 ◆◆
ひととおり各ヴァージョンを並べて聴いてみて、オリジナルのボビー・ヘルムズ盤の魅力がいっそう際だって感じられるようになりました。近年のカヴァーのように派手なプレイはまったくしていないのに、このヴァージョンがもっとも華やかに感じるのは、ボビー・ヘルムズの明るい声とレンディション、ナッシュヴィルの手練れたちのリラックスしたグルーヴのおかげです。

映画『リーザル・ウェポン』のアヴァン・タイトルの冒頭、LAの夜景の空撮シーンでこの曲が流れます。あのシーンにほかのヴァージョンをはめ込んだところを想像してみましたが、まったくうまくいかないと感じました。クリスマスらしい華やかな雰囲気にかけては、やはりヘルムズ盤が抜きんでています。それがちょうど半世紀前のリリースのときに6位までいく大ヒットとなり、さらに翌年から連続で4回もチャートインした理由です。

Jingle Bell Rockの45回転盤のB面には、Captain Santa Clausという曲が収録されていました。子ども向けの曲でしょうが、Jingle Bell Rockなどよりずっと楽しい歌詞になっています。サンタクロースの橇が壊れたので、今年のクリスマスのオモチャはなしになってしまった、さあ、たいへん、どうしよう、という歌です。

Bobby Helms - Captain Santa Claus (And His Reindeer Space Patrol)


できればこの特集で取り上げたいと思っていますが、そのチャンスがなかった場合にそなえて、いまふれておきます。ボビー・ヘルムズの盤を手に入れるなら、Captain Santa Clausも収録されているかどうか確認したほうがいいでしょう。このB面のほうも、クリスマス・シーズンになるとわたしはよくかけています。


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ボビー・ヘルムズ(オリジナル・レコーディング、MP3アルバム、ボビー・ヘルムズは新録音が多いのでMP3ダウンロードでも注意が必要)
Fraulein
Fraulein


チェット・アトキンズ
East Tennessee Christmas
East Tennessee Christmas
by songsf4s | 2007-11-29 00:03 | クリスマス・ソング
Sleigh Ride by Avalanches
タイトル
Sleigh Ride
アーティスト
Avalanches
ライター
Leroy Anderson, Mitchell Parish
収録アルバム
Ski Surfin'
リリース年
1964年
他のヴァージョン
The Ronettes, the Ventures, Herb Alpert & the Tijuana Brass, Johnny Mathis, Andy Williams, Jack Jones, the Three Suns, Ferrante & Teicher with Les Baxter, Leroy Anderson, America, Chicago, Ray Conniff, the California Raisins, Ella Fitzgerald
Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_181649.jpg

本日から年内いっぱい、あるいは年を越してクリスマス飾りを片づける新年七日あたりまでは、当たり前ながら、クリスマス・ソング特集をします。例によって、60年代のポップ/ロック系のもの、(ときにはおそろしく)古いスタンダード、さらには日本のものもまじえて、ごたまぜ状態になるはずです。

トップをどれにするかはさんざん悩みましたが、このところ、ハル・ブレインが登場していないことに気づき、彼が叩いたトラックを選びました。この曲に関しては、アヴァランシェーズのほかに、ロネッツおよびハーブ・アルパート&TJBのヴァージョンでもハルがプレイしたことがわかっています。

このSleigh Rideが収録されたアヴァランシェーズの唯一のアルバム、Ski Surfin'は、右のリンクからいけるAdd More Music to Your Dayの「レア・インスト」ページで入手することができます。LPリップで、192KbpsのMP3です。最近、ようやくCD化もされたようです。

◆ クリスマスらしい脳天気な歌詞 ◆◆
アヴァランシェーズはインストゥルメンタルでやっていますが、有名な曲なので、いちおう歌詞をざっと見ておきます。たいした意味はないし、むやみに長いので、すべてのヴァースは見ません。これだけヴァージョンが多いと、そちらにエネルギーをとられるわけでして。

ジェンダーをどちらにするかという問題もありますが、わたしは男なので、男が女の子に呼びかけるということにさせていただきます。女性シンガーが歌ったほうがいいようにも思うのですが、何度か文章上の性転換をやって、もう懲りているのです!

Just hear those sleigh bells jingling, ring ting tingling too
Come on, it's lovely weather for a sleigh ride together with you
Outside the snow is falling and friends are calling "yoo hoo"
Come on, it's lovely weather for a sleigh ride together with you

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_275267.jpg「スレイ・ベルがチリンチリンと鳴っているよ、さあ行こう、きみと橇滑りをするにはもってこいの天気だ、外は雪が降って、友だち連中がヤッホーと呼んでいる」

べつに問題になる箇所はないでしょう。そのまんまの歌詞です。歌詞からいって、サウンドはノリがよく、勢いのあるものにする必要があることがよくわかります。スロウ・バラッドにはぜったいにならないでしょう。

コーラス。

Giddy yap, giddy yap, giddy yap
Let's go, Let's look at the show
We're riding in a wonderland of snow
Giddy yap, giddy yap, gidd yap
It's grand, just holding your hand
We're gliding along with a song of a wintry fairy land

「ほら、ほら、ほら、さあ行こう、雪を見よう、雪のワンダーランドで橇滑りさ、きみの手を握っているだけですごくいい気分だ、冬のフェアリー・ランドの歌に合わせて橇滑り」

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_29510.jpg馬鹿馬鹿しくなってきたので、つぎのヴァースまで見て、あとは略します。どちらにしろ、このへんまでしか歌わないシンガーも多いのです。残りのヴァースは「品川心中」の後編状態で、60年代以降、歌っている人はほとんどいないでしょう。

Our cheeks are nice and rosy and comfy cozy are we
We're snuggled up together like two birds of a feather would be
Let's take that road before us and sing a chorus or two
Come on, it's lovely weather for a sleigh ride together with you

「ぼくらの頬はすっかり薔薇色、暖かくて気持ちがいい、同じ仲間の二羽の鳥みたいにくっついている」

すでに見たのと同じラインは略しました。まあ、意味については見ての通りのたわいのないものです。ただし、音韻としては歌っていて気持ちがよく、昔のプロフェッショナルらしい歌詞といえるでしょう。

◆ 大雪崩プロジェクト ◆◆
アヴァランシェーズはスタジオ・プロジェクトで、このSleigh Rideが収録されたSki Surfin'というアルバムがあるだけです。

クレジットは以下の通り。

Wayne Shanklin, Jr.……producer
Al Delory……piano
Billy Strange……guitar
Tommy Tedesco……guitar
Wayne Burdick……guitar
David Gates……Fender bass
Hal Blaine……drums
Engineer……Stan Ross, Gold Star Studio, California

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2104514.jpgビリー・ストレンジはおそらくダンエレクトロ6弦ベース(ダノ)もプレイしています。ウェイン・バーディックという人は、ギターとなっていますが、ペダル・スティールのほうで、ギター・ソロはとっていないでしょう。アル・ディローリーは、ピアノ、フェンダー・ピアノ、オルガンをプレイしています。

わたしはギター・インストが大好きなのですが、なかでも、このアヴァランシェーズのSki Surfin'は三本指に入ると考えています。ビリー&トミーという最強のギター・デュオが豪快にプレイし、ハル・ブレインが遠慮なしに叩きまくっているのだから、文句がありません。

また、アル・ディローリーがかなりいいプレイヤーであることが、この盤でわかります。アル・ディローリーは数多くのセッションに参加していますが、彼がソロをとったことが確実にわかっているものはすくなく、このアルバムを聴いて、手数は少ないものの、じつにいいラインを弾く人だとわかりました。このセンスが、のちにグレン・キャンベルのヒット曲における、アル・ディローリー節とでもいいたくなる、上品なアレンジメントにつながったと思います

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2115417.jpgSki Surfin'というアルバムの最大の魅力はビリー&トミーという、一時期のヴェンチャーズを支えた二人が顔をそろえたことですが、アル・ディローリーが随所でいいプレイをしていることが変化をもたらし、このアルバムを飽きのこないものにしています。このSleigh Rideで主としてリードをとるのはアル・ディローリーです。

ビリー&トミーのコンビがギターだと書きましたが、三回のセットのうち、両者がともに弾いたのは二回だけで、残りはどちらか一方だけではないかと思われます(三時間のセットを三回やって、九時間でアルバム一枚を録音するのが当時のハリウッドの常識だったことは、すでに何度かふれています)。おそらく、ビリー・ストレンジが二セットしかやっていないのだとわたしは考えています。

このSleigh Rideも、オブリガートやソロを弾いているときは、カッティングが聞こえなくなるので、ギターはひとりだと推測されます。トミー・テデスコではないでしょうか。アタッチメントを使ったのではない、自然な歪み(矛盾した表現であることは承知しているのですが、ほかにいいようがないのです!)を利用した音色で、ワイルドなオブリガートを入れているのがなかなか魅力的です。64年の録音ですから、キンクスのYou Really Got Meと同じ年です。ほぼ同時期に、同じようなギター・スタイルが英米で生みだされていたことになります。

アヴァランシェーズのSki Surfin'は、ある一点でちょっとした歴史的重要性があるのですが、それについては後述します。

◆ ハル・ブレインならではのブラシ ◆◆
他のヴァージョンの検討に移りますが、まずはハル・ブレインがプレイした残りの二曲。最初はロネッツ盤。もちろん、いまでは大古典となったフィル・スペクターのクリスマス・アルバムに収録されたトラックです。

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_215361.jpgフィル・スペクターが一曲一曲、それぞれをシングルのように精魂傾けてつくったアルバムなので、悪いトラックがあろうはずがなく、ロネッツのSleigh Rideもなかなか魅力的です。ハル・ブレインはこの曲ではブラシを使っていますが、よくあるソフトなブラシのプレイではなく、ハード・ヒットしているところが、いかにも彼らしいところです。

ハル・ブレインは、チャンスさえあれば、つねに他人とはちがうことをしようとする人ですが、こういうブラシの使い方も、彼が発明したのだと考えています。ロックンロール時代にふさわしいブラシです。もちろん、ブラシでもハル・ブレインのグルーヴに変化はなく、楽しいプレイになっています。とくにイントロは、ブラシの「返り」を計算したきれいなスネアが聴けます。ときおり入れる強い「フラム」によるアクセントも文句なし。

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2171416.jpgロニー・スペクターは元気のよさが身上の人なので、こういうアップテンポで明るい曲は合っています。もちろん、スペクターの判断なのでしょうが、このロネッツ・ヴァージョンはコーラスをまったく歌っていません。ヴァースだけなのです。かわりに、変化をつけるため(なにしろ、ヴァースだけだと、C-Am-F-Gとおそろしくシンプルなのです)、半音転調を繰り返して、どんどんキーが上がっていきます。Cではじまったものが、最後はFになっているのだから(そのときには、もうロニーの出番は終わって、バック・コーラスだけになっていますが)、馬鹿馬鹿しいくらいの転調です。

しかし、なんだってコーラスを切り捨ててしまったのか、だれか(下獄する前に!)スペクターに理由をたしかめてくれるといいのですが。

◆ ハーブ・アルパートおよびヴェンチャーズ ◆◆
Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2334811.jpgハル・ブレインが叩いたもう一曲、ハーブ・アルパート&TJBのヴァージョンは、あまりTJBっぽくない、聖歌隊風コーラスによるイントロがついています。ハル・ブレインが入ってくると、TJBらしくなるのですが、ストップ&スタートとそれに伴うテンポ・チェンジを繰り返すアレンジで、プロならでの「地味なうまさ」も聴きどころになっています。

しかし、このヴァージョン、あまりSleigh Rideに聞こえません。冒頭のフレーズだけを取り出して、それをテーマにべつの曲をつくった、という印象です。ハルの曲としてみるなら、キックのサウンドと正確さ、そしてテンポ・チェンジにおける、彼のいう「コマンド」、つまり、リーダーシップが注目でしょう。

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2241031.jpgインストを先に片づけてしまいます。有名なのはヴェンチャーズ・ヴァージョンです。これは65年にリリースされた、彼らのクリスマス・アルバムのオープナーで、あの年のクリスマスには、イヤってほど町じゅうで流れていましたし、いまでもよく耳にします。なかなか印象的な出来で、このアルバムが日本でヒットしたのも当然だと感じます(ビルボード・アルバム・チャートでも9位までいくヒット)。

このアルバムの特長は、各曲のイントロに、有名な曲のイントロをはめこんでいることです。Sleigh Rideはオープナーなので、彼ら自身の大ヒット曲であるWalk Don't Runのイントロが使われ、全体のアレンジもWalk Don't Runを彷彿させるものになっています。

この盤のパーソネルは、わたしにはよくわかりません。はっきりしているのは、ベースがデイヴィッド・ゲイツだということだけです。これはアヴァランシェーズと比較すれば、簡単にわかります。

しかし、ギターはだれでしょう。ビリー・ストレンジかと思った時期もあるのですが、最近はそうではないというほうに傾いています。かといって、ヴェンチャーズ・セッションに参加したことがわかっている他のプレイヤー、トミー・テデスコ、グレン・キャンベル、ジェイムズ・バートン、キャロル・ケイなどには聞こえません。

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_235018.jpg消去法でいくと、The Ventures Play the Country Classicsでリードをとったトミー・オールサップがいちばん近いような気がします。それは、主としてCountry ClassicsのPanhandle Ragが、Sleigh Rideのプレイに似ていると感じるためです。

ものを知らない小学生だったわたしは、たとえば、Rudolph the Red-Nosed ReindeerにI Feel Fineのイントロとアレンジを応用したことなどに、ひどく感心しました。しかし、大人になると、それほど単純な話ではないことがわかってきました。

まず第一に、過去のヒット曲のイントロやアレンジをクリスマス・ソングに応用する手法は、すでに63年にフィル・スペクターがやっています。たとえば、ロネッツが歌ったFrosty the Snowmanには、彼女たち自身の大ヒット曲、Be My Babyのイントロとアレンジが使われているのです。

では、フィル・スペクターから直接にヴェンチャーズにつながるかというと、そうではなかったと思われます。63年のスペクターのクリスマス・アルバムと、65年のヴェンチャーズのクリスマス・アルバムのあいだに、アヴァランシェーズのSki Surfin'があるのです。このアルバムはミッシング・リンクだと感じられます。なぜなら、アヴァランシェーズのSleigh Rideには、レイ・チャールズのWhat'd I Sayのイントロが利用されているのです。

フィル・スペクターがはじめたことが、翌年、「スペクターのバンド」を形成していたプレイヤーたちのスタジオ・プロジェクトであるアヴァランシェーズに受け継がれ、さらに翌年、ヴェンチャーズのクリスマス・アルバムで、大々的に利用されることになった、という道筋が、アヴァランシェーズのアルバムを聴いたことで見えてきました。

しかし、このクリスマス・ソングのアレンジの問題には、まだつづきがあります。フィル・スペクターを創始者としたかつての判断は、いくぶん修正する必要があるのではないかと考えるようになってきたのです。そのへんについては、White Christmasを取り上げるときに、もう一度検討する予定です。

◆ その他のインスト・ヴァージョン ◆◆
Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2362773.jpg残りのインストもので出来がよいのは、なんといっても、この曲の作者であるリロイ・アンダーソンのものです(リーロイと発音する場合はあるが、一般に使われている「ルロイ」の表記には賛成できない)。音像に広がりと奥行きがあり、派手で明るくて、わたしの好みであるばかりでなく、この曲にふさわしいアレンジになっています。

スリー・サンズ盤は、チューバなどが使われ、ちょっと珍なアレンジです。しかし、チューバが活躍しないところは、それなりに聴けます。アレンジが引っかかるだけで、ひとりひとりはうまいのです。しかし、このアレンジはいくらなんでもちょっと……。

ファランテ&タイチャーとレス・バクスター・オーケストラの共演盤は、可もなし不可もなしの出来。ピアノ・デュオというものが、そもそも、それほど面白いものではないだけかもしれませんが、レス・バクスター・オーケストラのほうも、とくに活躍しているわけではありません。

◆ ヴォーカル・ヴァージョン ◆◆
Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2391755.jpgヴォーカルものに移ります。とくに出来がよいと感じるのは、アンディー・ウィリアムズ盤です。いや、歌は知ったことじゃないのですが、サウンドの出来はこのヴァージョンが、ロネッツについでよいと感じます。アンディー・ウィリアムズはハリウッド以外の土地でも録音しているようですが、このスケール感はハリウッドのものでしょう。

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_2415919.jpgつぎにサウンドがいいのは、ジャック・ジョーンズ盤。リロイ・アンダーソンについでスケール感のある大きなサウンドになっています。

カーペンターズは、悪くはないものの、とくに好きということもありません。

ジョニー・マティスのヴォーカル・スタイルは、こういう軽快で楽しい曲にはあまり向いていないと感じます。サウンドはとくにどうということなし。

レイ・コニフは、インストではなく、大人数のコーラスでやっています。オーケストラの派手なサウンドがないと、べつに面白くもない人で、これはご家庭向き安全安心ヴァージョンという印象。

Sleigh Ride by Avalanches_f0147840_3304747.jpgいままでにちょっとほめたことが一度あるだけで、あとはボロクソにいっているエラ・フィッツジェラルド盤は、意外にいい出来です。たぶん、録音が古く、おばさんのねちっこい歌い方になる前だからでしょう。あまりいじらずに(でも、ちょっとだけ、曲を「いじめて」いるところもやはりある)、比較的(あくまでも比較的!)素直に歌っています。

アメリカとシカゴは、って、地理の話じゃなくて、グループ名ですが、両者ともにキャリア末期の悪あがきクリスマス・アルバムという印象で、割りたくなるような、火にくべたくなるような、ムッと不機嫌になり、額に青筋が立つような出来です。晩節をきれいにまっとうすることができないのは、人であれ、グループであれ、なんとも悲しいことです。まあ、もとからたいしたもんじゃないから、勢いがなくなると粗ばかりが目立つようになるだけですが。

ぐるっとまわってアンディー・ウィリアムズ盤にもどったら、やっぱり、イントロが流れた瞬間、お、これはいい音だ、と感じました。アンディー・ウィリアムズ盤の出来がいいのか、アメリカとシカゴがひどすぎるのか、そのへんはよくわかりませんが。

もうひとつ、カリフォルニア・レーズンズという、人を食ったというか、人に食われたというか、妙なアーティストのヴァージョンがまじっていますが、これはレーズン会社の宣伝用アニメのキャラクターです。まじめにやっているのですが、そこが問題で、たんなるいまどきのサウンドです。ふまじめにやれよ、ふまじめに。

アヴァランシェーズ、ロネッツ、ヴェンチャーズ、アンディー・ウィリアムズの4種があれば十分でしょう。よい子の皆さんと、堅気の大人は、わたしみたいに、こんなにたくさん集めて一晩で聴くような、ヤクザの真似はなさらないように。
by songsf4s | 2007-11-28 01:08 | クリスマス・ソング