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カテゴリ:クリスマス・ソング( 56 )
Holiday on Skis by Al Caiola and Riz Ortolani
タイトル
Holiday on Skis
アーティスト
Al Caiola and Riz Ortolani
ライター
LeRoy Holmes
収録アルバム
The Sound of Christmas
リリース年
1967年
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◆ 犬の世界からきたコンダクター ◆◆
昨日は歌詞が短いジュリー・ロンドンのI'd Like You for Christmasで、久しぶりに楽をしましたが、今日はついに歌詞がなくなり、インストゥルメンタルです。本番の週末がきて、皆さまもいろいろお忙しいことでしょうし、わたしも野暮用やら、それほど野暮でもない用やら、いろいろあったりするわけでして。

Al Caiola & Riz Ortolani - Holiday On Skis


本日は、Silver Bellsのときに、隠し球だからといって、アルバム・ジャケットに無粋な目隠しをつけて、チラッとごらんいただいた、アル・カイオラとリズ・オルトラーニの共演盤の登場です。

f0147840_0112445.jpgアル・カイオラがギタリストで、The Maginificent Seven(『荒野の七人』)や、Bonanza(『カートライト兄弟』)のヒットがあることは、それなりに知られていることだと思います。しかし、リズ・オルトラーニはどうでしょうか。いや、じつは、どなたでも彼の曲をお聴きになったことがあるはずなのです。Moreの作曲者だからです。

f0147840_0124293.jpgもっとも、Moreというタイトルは、英語詩がつけられてからのもので、原タイトルはTi Guardero' Nel Cuoreだと盤に書いてあります。意味は知りません。この曲をテーマとした映画のほうのタイトルはMondo Caneといって、意味は「犬の世界」だそうです(邦題は『世界残酷物語』)。そういえば、犬の学名がなんかそんな名前だったと思い、いま辞書を調べたら、canis familiarisとありました。サントラ盤でも、冒頭に犬の鳴き声が入っています。公開当時に見たきりなので(超満員立ち見)、おっかない映画だったということしか覚えていません(こちらはまだ小学生で、牛が殺されるところでは目をつぶった!)。

とにかく、そういう人たち二人が、片やギター・プレイヤーとして、片やオーケストレーター兼コンダクターとして、共同プロデュースで制作したのが、このThe Sound of Christmasというアルバムです。

◆ アル・カイオラとビリー・ストレンジ ◆◆
看板に立てたHoliday on Skisという曲は、タイトルどおり(こういう場合のholidayは、たんなる休日ではなく、クリスマスの休暇をいいます)の軽快な仕上がりで、文句がありません。アル・カイオラは、鬼面人を威すインプロヴなどをするプレイヤーではなく、きれいなピッキングと運指で、あざやかにメロディーを弾くタイプなので、子どものころはあまり面白いとは思いませんでしたが、年をとって、「なにもしない」うまさがよくわかるようになりました。

f0147840_0142079.jpgアル・カイオラとビリー・ストレンジのプレイには共通点があるように感じ、ビリー・ザ・ボスにアル・カイオラのことをたずねたことがあります。絶賛でした。わたしは、ビリー・ストレンジは、アル・カイオラに影響を受けた、とまではいわないにしても、つねに意識して、自分のアルバムをつくっていたと考えています。微妙な細部のニュアンス、ちょっとしたピッキングや、タイミングの遅らせた方、すなわち「間」だけに「自己主張」をこめ、ストイックに、そして美しくメロディーを弾くことに徹したという意味で、アル・カイオラとビリー・ストレンジは東西の両巨頭です。こういううまさが子どものころにわかっていたらなあ、とこの年にして思います。

リズ・オルトラーニのオーケストレーションも、控えめながら、このトラックの華やかなムードをつくるのに欠かせない要素になっています。ささやかなオブリガートにも手間をかけていて、献身的なアレンジャーだと感じます。まあ、それだけ予算も潤沢だったのだと思われますが。

Holiday on Skisの作曲者であるリロイ・ホームズは、オーケストラ・リーダー兼アレンジャーで、このアルバムが録音されたときには、ユナイティッド・アーティスツでのアル・カイオラのレーベル・メイトだったと思われます。他人の曲、主として映画音楽のカヴァー・アルバムで売った人のようですが(代表作は、われわれの世代はシャドウズやサベージのカヴァーで記憶しているThe High and the Mighty、すなわち『紅の翼』のテーマ)、Holiday on Skisを聴くかぎり、すくなくともインストゥルメンタル曲の作者としては、悪くないセンスをもっていると感じます。

◆ 他のクリスマス・クラシック ◆◆
つい最近、入手したばかりの盤なので、残念ながら、本特集でこれまでに登場した楽曲では、この盤に収録されたヴァージョンにふれることができませんでした。アルバム・オープナーはSleigh Rideです。アヴァランシェーズ盤とはまったくタイプの違うアレンジですが、カイオラ=オルトラーニ盤も、軽快で、華やかで、いい出来です。このアルバムのハイライトのひとつでしょう。

Silver Bellsも、たとえばヴェンチャーズ盤とは大きく方向性が異なっていて、これはこれでいいヴァージョンです。リズ・オルトラーニというのは、このアルバムと、Mondo Caneのサントラを聴いたかぎりでは、管よりも弦の扱いに長けた人で、Silver Bellsの弦による間奏は印象的です。

f0147840_0184081.jpgWhite Christmasでは、アル・カイオラはめずらしく、かなりメロディーをくずしてプレイしています。べつにそれが悪いということはなく、他のトラック同様、心地よいプレイです。スロウな曲になると、リズ・オルトラーニの厚みのある弦がいっぽうの主役として前に出てきます。

総じて、非常に気持ちのよい盤で、わたしが知っているクリスマス・アルバムのなかで、五本指に入る出来と感じます。こんなに出来のよいアルバムが、CD化されないどころか、クリスマス・コンピレーションにとられることも少ないのはなんとしたことか、といいたくなります。わたしにとっては、今シーズンのベスト・クリスマス・アルバムです。これを聴けたことで、今年もけっこうなクリスマスとなりました。


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Ultra Lounge Christmas vol.1
Christmas Cocktails 1
Christmas Cocktails 1
by songsf4s | 2007-12-23 00:03 | クリスマス・ソング
I'd Like You for Christmas by Julie London
タイトル
I'd Like You for Christmas
アーティスト
Julie London
ライター
Bobby Troup
収録アルバム
Christmas Cocktails (Ultra Lounge series)
リリース年
1957年
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久しぶりに、歌詞が短く、なおかつ、カヴァーのない曲の登場です。わたしも大助かりですが、みなさんも長い記事の連打にお疲れで、そろそろ息抜きを必要となさっているのではないでしょうか。

昨日のBaby It's Cold Outsideに引きつづき、今日もちょっとだけ「大人」のクリスマス・ソングです。まあ、ジュリー・ロンドンですから、子どもっぽい歌なんか、はじめからありえないに決まっていますが。

Julie London - I'd Like You For Christmas


◆ クリスマスも、新年も、イースターも ◆◆
ジュリー・ロンドンがあの声で歌うから、ほほう、と思うの曲なので、音がわからないことにはどうにもならないところがあるのですが、とにかく歌詞を見てみましょう。ファースト・ヴァース。

I'd like You for Christmas
Please make my wish come true
'Cause I trim tree and deck the hallways
If I knew you'd be mine for always

「クリスマスのプレゼントにはあなたがいいわ、あなたがずっとわたしのものでいてくれるなら、クリスマス・トゥリーの飾りつけもするし、玄関の飾りもするわ、だからお願い、わたしの望みを叶えてね」

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trim treeは、庭木の枝打ちをすることではなく、トゥリーの飾り付けのことです。trimには「飾る」という意味もありますし、これはクリスマスの話ですから。

それにしても、いやあ、どうも、という歌詞です。これをあの声で歌うわけですからね。これをいわれた男は、冬だというのに、汗だくになって風邪をひいちゃうでしょう。でも、まだこんなのは序の口です。セカンド・ヴァース。

I won't be blue on Christmas
If old Saint Nick comes through
And he remenbers that I'd like you for Christmas
New Year's, Easter too

「サンタクロースがやってきて、わたしの願いを忘れずにいてくれたら、クリスマスにはブルーにならないでしょう、クリスマス・プレゼントも、お年玉も、イースターのプレゼントも、やっぱりあなたがいいわ」

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アメリカに新年のプレゼントなんていうものがあるのかどうか知りませんが、イースターのプレゼントは、たとえば、映画『イースター・パレード』の冒頭、フレッド・アステアがたったひとりの女性のために、前が見えなくなるほどたくさんプレゼントを運んでいるシーンでもわかるように、歴とした習慣です。この歌のような女性が相手なら、アステアも手ぶらで彼女のところへ行けばいいので、大助かりだったでしょう。もっとも、そうなると、あの玩具屋での、ドラムを叩きながらのすばらしいダンス・シークェンスもなかったことになってしまいますが。

歌詞としては以上でほぼ終わっているのですが、バックコーラスとの掛け合いに変化させて、もうひとヴァース歌います。

(She'd like you for Christmas)
Please make my wish come true
(That she trim tree and deck the hallways
If she knew you'd be hers for always)

「(彼女はクリスマス・プレゼントにあなたをほしがっている)どうかわたしの願いを叶えてね(あなたがいつも彼女のものであってくれるとわかれば、彼女はトゥリーもきれいに飾って、玄関の飾りつけもする)」

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そして、セカンド・ヴァースにもどり、クリスマス・プレゼントも、お年玉も、イースターのプレゼントも、みんなあなたがいい、といって終わります。ここまでいわれちゃったらどうしよう、てな歌詞ですが、まあ、はじめからその心配にはおよばないのですよね、残念ながら。

◆ 「ほんのちょっとの声」 ◆◆
f0147840_019672.jpg彼女のアルバムをお聴きになったことのある方ならおわかりでしょうが、ジュリー・ロンドンはじつにスペクトルの狭いシンガーです。ジュリー・ロンドン・スタイルの曲しか歌えないのです。つまり、スロウで、静かで、深夜のムードの歌ということです。でも、あれほどすばらしい声をもっていたのだから、その声に制約を受けるのはやむをえないことです。

このI'd Like You for Christmasも、テンポはゆるく、ソフトで、ふわっとした、いつものジュリー・ロンドンの歌です。しかし、なんともやは、これがじつにけっこうなのです。もっとも、残念ながら、小さなお子さんのいるご家庭向きとはいえないでしょう。あの歌い方ですからね。

f0147840_022681.jpgジュリー・ロンドン自身は、「ほんのちょっとの声」しかなかったので、いつもマイクにものすごく近づいて歌わなければならなかった、といっています。この制約があの独特のスタイルをつくったのだから、世の中はよくしたものです。そして、これはたぶん、ボビー・ジェントリーに影響をあたえたとわたしは考えています。ボビーも、初期は極端なオン・マイクで歌っていました。

この曲を書いたボビー・トループは、かのRoute 66の作者です。それよりも重要かもしれないのは、トループがジュリー・ロンドンの二度目の夫であり、ソングライターとして、アレンジャーとして、プロデューサーとして、彼女の成功を助けたことのほうかもしれません。

先年没したリバティー・レコードの創設者のひとり、サイ・ワロンカー(The Chipmunk Songの記事をご参照あれ)は、会社設立からまもなく、ジャズ・シンガーだったボビー・トループを自分のレーベルに誘いますが、トループはよそとの契約があったので、かわりに自分のガール・フレンドをワロンカーに紹介しました。それがジュリーです。そして、彼女のリバティーからのデビュー・シングル、Cry Me a Riverの大ヒットのおかげで、会社の基礎が固まったのです(そのつぎに登場するのが、デイヴィッド・セヴィルとチップマンクス、マーティン・デニー、それにエディー・コクラン!)。

f0147840_0233662.jpg有名になる前の彼女の歌を聴いたことがないのですが、きっと、かなり異なったスタイルだったのだろうと想像します。だれかすぐれた耳をもつ人が見いださないかぎり、「ほんのちょっと」の声しか出ないシンガーは、きっと無名なまま埋もれてしまったにちがいありません。あのようなスタイルは、半分はトループがつくったのではないでしょうか。ありがたい夫です。仲のよい夫婦だったのではないでしょうか。トループはジュリーが没した翌る2000年に亡くなっています。

◆ ほとんど会社の手先 ◆◆
I'd Like You for Christmasはシングルとしてリリースされました。ジュリー・ロンドンのさまざまなディスコグラフィーを見てまわったのですが、後年の編集盤までふくめ、彼女のアルバムにはこの曲は収録されていないらしく、いくつかのクリスマス・オムニバスにとられているだけでした。

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オムニバスならば、この特集で何度もご紹介した、Ultra Loungeシリーズのクリスマス篇、Cristmas Cocktailsで入手なさるといいでしょう。わたしがI'd Like You for Christmasを知ったのは、この編集盤でのことでした。

この盤に収録された曲は、本特集ではいくつも取り上げていて、まるでこの盤を紹介するために特集を組んだような状態になっています。じっさい、これで終わりではなく、すくなくとももう一曲はご紹介する予定です。それほどよくできた編集盤なのです。


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I'd Like You For Christmas収録オムニバス
Christmas Cocktails 1
Christmas Cocktails 1
by songsf4s | 2007-12-22 00:03 | クリスマス・ソング
Baby It's Cold Outside その2 by Ann-Margret with Al Hirt
タイトル
Baby It's Cold Outside
アーティスト
Ann-Margret with Al Hirt
ライター
Frank Loesser
収録アルバム
Beauty and the Beard
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Dean Martin, Johnny Mercer with Margaret Whiting, Carmen McRae with Sammy Davis Jr., Buddy Clark with Dinah Shore, Ray Charles with Betty Carter, Avalanches, Jimmy Smith & Wes Montgomery,
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この記事は、もともとひとつだったものを、エクサイト・ブログの文字数制限のために、二つに割った後半部分です。先に前半部分をお読みくださったのちに、以下をお読みになっていただければ幸いです。

◆ ディーン・マーティンのオリジナルと偽「新録音」 ◆◆
まだどれを看板に立てるか決めていませんが、最終候補は2種、例によって、わたしの大好きなディーン・マーティンのヴァージョン、そして、アン=マーグレットとアル・ハートのデュエットという勝負です。

f0147840_0264950.jpgディノはもうはまり役というしかありません。彼のためにあつらえたような曲です。ただし、ちょっと問題があります。すくなくともオリジナル盤はデュエットではないのです。

ディノのBaby It's Cold Outsideには2種類のヴァージョンがあります。ただし、ディノのヴォーカル自体は同じテイクです。どういうことかというと、最近になって、古いディノのヴォーカルに、新しいバックグランドを付け加え、べつにうまくもないし、雰囲気なんかまるっきりない女性シンガーとのデュエットに仕立てたものがあるのです。

f0147840_0304414.jpg会社がゴミ箱に捨てた古いトラックについていえば、わたしの耳にはまったく問題があるようには聞こえません。グルーヴはいいし、弦のアレンジはすばらしいし、フルートのオブリガートと間奏も立派なものです。これに問題があると感じるのは、近ごろの極端に低音を持ち上げたバランシングに慣れて、耳が馬鹿になった人間だけです。

問題があるとしたら、オリジナルの「マウス」役が女性コーラスだということです。でも、他のヴァージョンとは異なり、これはあくまでも「ウルフ」役のディノが主なのだから、ディノのキャラクターを浮き上がらせるには、むしろこのほうが効果的だと判断したのでしょう。わたしはオリジナル録音を支持します。

f0147840_031544.jpg確認できたかぎりでいうと、「新」録音を収録しているのは、Forever Coolという最近の編集盤だけです。デザインがいいので、ちょっとほしくなってしまうでしょうが、中身はすべて、Baby It's Cold Outsideと同様、「新」録音のデュエットばかりのようです。それ以外の盤はオリジナルを収録しているようですが、ディノのクリスマス・アルバムは種類が多く、毎年、シーズンになると新しいものが加えられています。そのなかの一枚は、改作盤を収録しているといっているブログがあったので、ご注意ください。

◆ アン=マーグレットとアル・ハート ◆◆
ディノ盤は「ウルフ」が主役ですが、ほかは「マウス」すなわち「可愛い子ちゃん」のほうが主役か、もしくは男女対等でやっています。

女性が目立っているものとしては、なんといってもアン=マーグレット盤が代表です。これまたディノ盤同様、新録音があり、相手役がだれだったか、最近の男性シンガーになっているようですが、オリジナルの「ウルフ」はアル・ハート、あのトランペッターです。といっても、ここではあのすばらしいトランペットはなしで、ヴォーカルのみですけれどね。



アン=マーグレットですから、どうしたってお色気たっぷりで、口では帰る、帰るといっているけれど、これならもう一押しすれば泊まるな、と思わせる雰囲気になっています。それがこのヴァージョンの最大の魅力です。

f0147840_0363148.jpgこの曲のカヴァーのなかには、「露骨」なものがあるそうです。でも、結局は「ウルフ」の企みも懇願も無に帰すのが構成の根幹なので、あまり露骨にやっては面白くないでしょう。アン=マーグレットのレンディションが「露骨」なほうの限界ではないかと思います。彼女の歌い方なら、男に言い寄られるなんて日に何回もあること、めずらしくもないという美女、相手を傷つけないあしらい方も承知している女性、という感じがします。期待だけはもたせてくれるのです。残念ながら、実体をともなわない空頼みですが!

いや、それにしても、すばらしい声の持ち主だなあ、といまはじめて聴いたように感心してしまいました(小学校のときから聴いていたのだから、いくらなんでも空々しい)。ボビー・ジェントリージュリー・ロンドンについては、当ブログでは声を大にして推奨してきましたが、アン=マーグレットもこのクラスに加えようと思います。

◆ 懇願する狼たち ◆◆
「ウルフ」をコミカルに演じるタイプのヴァージョンもあります。

うちにあるものでは、まずジョニー・マーサーとマーガレット・ホワイティングのヴァージョンがそうなっています。調べがついたかぎりでは、これがオリジナル録音と思われます。マーガレット・ホワイティングの歌い方は、ぜんぜん「期待」をもたせてくれません。「おもてなしありがとう」というところでさえ、なんだか冷たく聞こえますし、I'll take your handsのところでは、小さな悲鳴まであげています。相手の反応を読めずに、うっかりもう一押しなどしたら、平手打ちを喰らいそうな気配すらあります。

Margaret Whiting & Johnny Mercer - Baby Its Cold Outside


こういう状態では、男としては、ディノみたいにクールにかまえているわけにはいかず、泣き落とし戦術しかなくなります。How can you do this to meのところでは、ほんとうに泣きが入っちゃいます。こうなると、「そんなひどいことしていいのかよ」というディノ盤を想定した解釈は通用しません。「そんなひどいことしないでくれよ、頼むから」というニュアンスへと変化しているのです。いや、じつに面白い歌詞です。

こういうコミカルな面は、シンガーとしてのマーサーの持ち味なのだと感じます。そのことは彼のJingle Bellsのところでもちょっとふれました。

f0147840_0493376.jpgカーメン・マクレーとサミー・デイヴィス・ジュニアのヴァージョンでは、「ウルフ」はさらに滑稽の度を増しています。「マウス」役がカーメン・マクレーなので、「未経験」には感じられず、大人がたわむれているようなヴァージョンです。いやあ、ニュアンスが千変万化する、じつに面白い曲ですねえ。

後半、サム・ザ・ウルフは、いろいろな声色を使い、大手搦め手から、いや、それどころか、立ち上がったり、ひざまずいたり、上下動まで加えて、なんとか口説き落とそうとしますが、相手は海千山千、かどうかは知りませんが、小娘ではないので、笑って取り合いません。いや、一カ所、サムの大熱演がよほど可笑しかったらしく、カーメン・マクレーはほんとうに笑いそうになっていますが。これはこれで、じつに面白いヴァージョンです。

f0147840_0554649.jpgバディー・クラークとダイナ・ショア盤も、コミカルなレンディションです。ダイナ・ショアは、男のあの手この手につい乗せられて、その気になりそうになっては、I really have to goと、自分に言い聞かせています。これもいいなあ、と思います。イントロで、ドアを開け、外では木枯らしが吹き、ついでにこの曲のメロディーが流れてくるという趣向も笑えます。

レイ・チャールズ盤はいらないでしょう。テンポも、アレンジ(マーティー・ペイチ)も重いし、相手役のベティー・カーターの声と歌い方も気に入りません。まったく楽しさが感じられないヴァージョン。

◆ インストゥルメンタル盤 ◆◆
インストゥルメンタル盤は2種だけもっています。ひとつは、すでに何度も登場しているアヴァランシェーズ盤です。またしてもクレジットとは異なり、ギターはひとりですが、この曲についてはこれでいいと感じます。オルガンとのデュエットでやっているからです。ギターが「マウス」、オルガンが「ウルフ」と、逆ではないかという役割分担ですが、歌詞を知らなければ関係ないことですから。

f0147840_103985.jpg後半はギターのインプロヴですが、なかなかいいプレイです。この盤が面白いのは、ギターのトーンといい、フレージングといい、すでに後年の「ギター・ヒーロー」たちのプレイのニュアンス、イディオムを先取りしてしまったようなところがある点です。

64年にこれだけのことをやった盤があると、当時の子ども、すなわちわれわれが、ちょっと遅れて、たとえば68年ごろに知ったら、なんと思っただろうかと考えざるをえません。いや、どう思ったんでしょうかね。正直にいって、自分のことながら、うまく想像力が働きません。ひとつだけハッキリいえることは、60年代終わり、ギターの「新しい」スタイルに大騒ぎしていた自分は、ものを知らない馬鹿者だったと、いまでは痛感しているということです。

f0147840_113336.jpgもうひとつ、ウェス・モンドメリーとジミー・スミスのヴァージョンもあります。同じオルガンとギターのデュオでも、こちらはアヴァランシェーズのように、きっちり役割を分けてはいません。ジャズだから、申し訳程度にテーマをやると、すぐにインプロヴに突入なので、あとは曲がなんだろうと同じです。Baby It's Cold Outsideの「ヴァージョン」とはいいかねます。プレイも面白いものではなく、聴きどころなし(最後のシークェンスで、めずらしくウェスがミスっているのが「聴きどころ」か)。

一粒で二倍おいしい、とはいかず、天ぷらとマグロをひとつのどんぶりに盛って、「鉄天丼」というのをつくってみたら、まずかったというオチ。インスト盤は、ハル・ブレインもビシッとキメているアヴァランシェーズに軍配です。

◆ 名作と作者とその妻 ◆◆
フランク・レサーの曲は、すでにMoon of Manakoora by Dorothy Lamourと、Moon of Manakoora by the 50 Guitarsと、同じ曲ですが、二回にわたって取り上げています。そのときに書き落とした、人口に膾炙したレサーの曲としては、On a Slow Boat to Chinaもあります。

このBaby It's Cold Outsideは、もともとは、レサー自身が奥さんのリンといっしょに歌うために書いた曲なのだそうです。娘さんによると、パーティーでは大受けに受ける曲で(そりゃそうでしょう!)、「いつだってキャヴィアとトリュフに困ったことはなかった」と両親がいっていたとのことです。夫婦による盤もあるそうですが、残念ながら聴いたことがありません。

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左から、アンソニー・クイン、リン・レサー、フランク・レサー(1945年)

リンは、フランクといっしょにBaby It's Cold Outsideを歌うのが大好きだったので、フランクがワーナー・ブラザーズにこの曲を売ってしまったときには、烈火のごとく怒ったそうです。フランクは、こうでもしないかぎり、呪縛から逃れられず、一生、これを上まわる曲を書けないような気がした、と弁明したとか。ものをつくりつづけなければならない人間としての決断だったのでしょう。でも、奥さんが納得したかどうか。「夫婦の曲」として、Baby It's Cold Outsideを愛していた奥さんの気持ちもよくわかります。ほんとうに楽しい曲ですからね。

しかし、ワーナーに売ってしまったのも、それほど悪い取り引きではありませんでした。1949年のリカルド・モンタルバンとエスター・ウィリアムズ主演の映画、Neptune's Daughterの挿入歌となった結果、Baby It's Cold Outsideは、その年のアカデミー最優秀主題歌賞を獲得することになったからです。呪縛から逃れようとしたフランクにとっては、むしろ十字架になったかもしれませんが。

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フランク・レサー・ソングブック、"I Hear Music: Capitol Sings Frank Loesser"。Baby It's Cold Outsideは、ジョニー・マーサー盤を収録している。

ある曲のあらゆるヴァージョンを並べて聴いていると、原稿を書き終わったころには、その曲を歌いまくっているか、あるいは逆に、もう一生聴きたくないと思っているかのどちらかです。Baby It's Cold Outsideは、聴けば聴くほど面白くなってくるタイプの曲です。思ったよりむずかしい曲で、まだ歌うにはいたっていませんが!


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ディーン・マーティン
My Kind of Christmas
My Kind of Christmas
by songsf4s | 2007-12-21 00:23 | クリスマス・ソング
Baby It's Cold Outside その1 by Dean Martin
タイトル
Baby It's Cold Outside
アーティスト
ライター
Frank Loesser
収録アルバム
A Winter Romance
リリース年
1959年
他のヴァージョン
Ann Margret with Al Hirt, Johnny Mercer with Margaret Whiting, Carmen McRae with Sammy Davis Jr., Buddy Clark with Dinah Shore, Ray Charles with Betty Carter, Avalanches, Jimmy Smith & Wes Montgomery
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クリスマスというと、やはり子どもが中心になりますし、そもそも宗教行事なので、あまり「大人」の雰囲気の曲は目立たないのですが、そこはそれ、蛇の道は蛇(関係ないか)、やっぱり「大人のクリスマス・ソング」というのもあります。たとえば、当ブログすでに取り上げたもののなかでは、Let It Snow!などは、やや大人っぽい歌でした。

極端なものとしては、ケイ・マーティンという人(バックバンドはハー・ボディーガーズという名前!)の、その名もI Know What He Wants for Christmas (But I Don't Know How to Wrap It)というアルバムがあります。ジェケットは、ここに出すのはちょっとなあ、というデザインです。包む方法がわからなかったので、包まないことにしてしまったらしいのです。部分的ならオーケイでしょうかね。

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この女性はただのモデルで、ケイ・マーティンという人ではない。念のため。

ほほう、と思い、聴かせてもらいましたが、「大人の曲」満載でした。いや、ジョークとして笑える出来で、けっして悪いものではありません。音楽もまじめにやっています。ただし、最近では100ドルは堅いそうなので、ちょっと手が出せません。いや、買えないという意味です。いや、だから、LPを買えないということ。誤解なきよう。

本日のBaby It's Cold Outsideは、ふつうの値段で買えます。ということはつまり、ケイ・マーティンほど「大人の曲」ではなく、ちょっとだけ「大人の曲」、ちょうどLet It Snow!ぐらいのムードで、テレビで歌っても、東海林太郎スタイルの直立不動で、怪しい所作をつけなければ問題ありません。

◆ やっぱり帰らなきゃ ◆◆
それでは歌詞を見ていきますが、アドリブの入りこむ余地が十分にある構成ですし、なお悪いことに、まだだれのものを看板に立てるか決めていないのです。Silver Bellsをはじめ、過去にも拮抗した首位争いがありましたが、Baby It's Cold Outsideは、候補が二つではなく、いくつもあって、これまででもっともむずかしい判断になりそうです。

Dean Martin - Baby It's Cold Outside


看板が決まるまで待っていてははじめられないので、歌詞はディーン・マーティン盤でいくことにします。この曲は男女デュエットで歌うことを前提にして書かれています。パーレンのなかは男性シンガーが歌うパートです。どこからどこまでひとかたまりなのか、よくわからないのですが、タイトルのBaby it's cold outsideが出てくるところまでで一周とみなしました。長くてすまん。

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I really can't stay
(But baby it's cold outside)
I've got to go away
(But baby it's cold outside)
This evening has been
(Been hoping that you'd drop in)
So very nice
(I'll hold your hands, they're just like ice)
My mother will start to worry
(Beautiful, what's your hurry)
My father will be pacing the floor
(Listen to the fireplace roar)
So really I'd better scurry
(Beautiful, please don't hurry)
But maybe just a half a drink more
(Put some records on while I pour)
The neighbors might faint
(Baby it's bad out there)
Say what's in this drink
(No cabs to be had out there)
I wish I knew how
(Your eyes are like starlight now)
To break this spell
(I'll take your hat, your hair looks swell)
I ought to say "no, no, no sir"
(Mind if i move in closer)
At least I'm gonna say that I tried
(What's the sense in hurtin' my pride)
I really can't stay
(Oh baby don't hold out)
Baby it's cold outside

「ホントにもういられないのよ」
(ベイビー、外は寒いよ)
「やっぱり行かなきゃ」
(でも、ほんとうに寒いんだぜ)
「今夜はほんとうに……」
(きみが寄ってくれないかなとずっと思っていたよ)
「……楽しかったわ」
(手をかしてごらん、氷のように冷たいよ)
「そろそろお母さんが心配しはじめるわ」
(なにをそんなに急ぐ必要があるんだい)
「お父さんは部屋を行ったり来たりするわ」
(薪が燃える音をきいてごらんよ)
「だから、ちょっと急がないと」
(頼むから、そんな急がないでくれよ)
「でも、ちょっと飲むぐらいならいいかしらね」
(飲み物をつくっているあいだに、なにかレコードでもかけておいてくれないか)
「ご近所はビックリして気絶しちゃうでしょうね」
(外はひどい寒さだよ)
「ねえ、このお酒、なにが入っているの?」
(タクシーもつかまらないさ)
「なんとかしたいんだけど……」
(きみの瞳はまるで星のように輝いているよ)
「……この金縛りをね」
(帽子を取ってやろう、きみの髪はすばらしいからね)
「こういうときは『あら、おやめになってくださらない』っていわなきゃいけないのよね」
(もうちょっとそっちにいってもいいだろ?)
「とにかく努力はしたと、あとで言い訳できるわよね」
(ぼくのプライドを傷つけたってしかたないじゃないか)
「やっぱり帰らなきゃ」
(そんなにすげなくするなよ)
「(二人いっしょに)やっぱり外は寒い」

微妙に会話が噛み合わずにズレたり、裏側で起きている「所作」をうかがわせたりするこの歌を表現するには、なによりも男女の呼吸が重要なので、なかなかやっかいですが、うまくいくと、理想的なデュエット曲に聞こえます。最後のいっしょに歌うところは、「外は寒いぞ」という男と、「やっぱり外は寒いものね」という女の、それぞれ異なったニュアンスでありながら、意見が一致するところがなんともみごとです。

もう一点、「マウス」(可愛い子ちゃん)役と「ウルフ」のラインが、ほとんど韻を踏んでいることにもご注意を。

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◆ ああ、でも外は寒い ◆◆
後半も同じ長さなのですが、ここで打ち切りというわけにもいかないので、つづけることにします。

I simply must go
(Baby it's cold outside)
The answer is no
(Baby it's cold outside)
Your welcome has been
(How lucky that you droped in)
So nice and warm
(Look out the window at that storm)
My sister will be suspicious
(Gosh your lips look delcious)
My brother will be there at the door
(Waves upon the tropical shore)
My maiden aunts mind is vicious
(Gosh your lips are delicous)
But maybe just a cigarette more
(Never such a blizzard before)
I've gotta get home
(But baby you'd freeze out there)
Say lend me a coat
(It's up to your knees out there)
You've really been grand
(I thrill when you touch my hand)
But don't you see?
(How can you do this thing to me?)
There's bound to be talk tomorrow
(Think of my lifelong sorrow)
At least there will be plenty implied
(If you got pneumonia and died)
I really can't stay
(Get over that old out)
Baby it's cold
Baby it's cold outside

「とにかく帰らなきゃ」
(でも、外は寒いよ)
「答えはノーよ」
(でも、外は寒いよ)
「あなたのおもてなしは……」
(寄ってくれてほんとうにうれしいよ)
「……ほんとうにすばらしかったわ」
(窓から外を見てごらんよ、ひどい吹雪だから)
「妹に疑われちゃうわね」
(きみの唇はなんともすばらしく見えるね)
「きっと兄さんが迎えに来ちゃうわ」
(まるで南の海の波のようだ)
「わたしには独身の叔母さんがいるんだけれど、それはもう意地が悪いのよ」
(うーん、きみの唇はなんともすばらしいな)
「でも、タバコをもう一本くらいなら、まだいいかしらね」
(こんなひどい吹雪はいままでに見たことがないよ)
「うちに帰らなきゃ」
(でも、いま外に出たら凍えちゃうよ)
「コートを着せてくださらないこと?」
(膝までくるほどの雪じゃないか)
「おもてなし、ありがとう」
(きみの手がぼくの手にふれるとドキドキするよ)
「でも、わかってちょうだい……」
(どうしてそんなひどい仕打ちができるんだ?)
「……明日は人に会わなければなの」
(きみをいま外に出したら、ぼくは一生後悔するだろうな……)
「まあ、いろいろなことがありうるでしょう」
(……きみは肺炎にかかって死んじゃうからね)
「ほんとうに帰らなければなのよ」
(そのセリフは聞きあきたよ)
「(二人いっしょに)ベイビー、外はほんとうに寒い」

笑ってしまうのは、唇の件です。最初はlook delicious「すばらしそうに見える」だったのが、つぎのつぎのラインでは、are delicious「すばらしい」と断定しているところです。この間になにがあったかというと、なんて野暮なことはいいませんが。

歌詞がとほうもない長さのため、文字数制限を超えそうなので、ここで記事を二つに割ることにします。各ヴァージョンの検討はつぎの記事をご覧ください。
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ディーン・マーティン
My Kind of Christmas
My Kind of Christmas
by songsf4s | 2007-12-21 00:04 | クリスマス・ソング
I've Got My Love to Keep Me Warm by the Mills Brothers
タイトル
I've Got My Love to Keep Me Warm
アーティスト
The Mills Brothers
ライター
Irving Berlin
収録アルバム
The Very Best of the Mills Brothers
リリース年
未詳(1950年代?)
他のヴァージョン
Al Goodman & His Orchestra, the Avalanches, Bette Midler, Billie Holiday, Dean Martin, Dinah Washington, Doris Day, Ella & Louis, Enoch Light & His Orchestra, Erroll Garner, Frank DeVol And His Orchestra, Frank Sinatra, Julie London, Les Brown with the Starlighters, Machito & His Orchestra, Robert Maxwell His Harp And Orchestra, Sarah Vaughan & Billy Eckstine, the Ames Brothers with Sid Ramin & His Orchestra, the Creed Taylor Orchestra, The Ray Charles Singers, Tony Bennett
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先週から今週にかけてのアクセス数は、当ブログ発足以来の、ちょっとビックリするような多さでした。たまには「営業」に精を出してみようと思い、人気のあるクリスマス・ソングを中心に選曲した結果ではないかと思います。ご来場いただいたお客さん方には深く御礼申し上げます。

しかし、当ブログは、ブログなのだから当然ですが、これまでずっと気ままに選曲してきたので、そろそろ本来の姿に戻そうと思います。うかうかしていると、クリスマスが来てしまいますから、お客様お迎え用のタキシードを脱いで、どてらに着替え、こたつに入って、地味なクリスマス・ソングについても語ろうと思います。

といっても、本日のI've Got My Love to Keep Me Warmは、わが家のHDDで統計をとったかぎりでは、すくなくともシンガーのあいだではそれなりに人気のある、すくなくとも「あった」曲のようです。わたしは、アーヴィング・バーリンのクリスマス・ソングとしては、White Christmasよりこちらのほうを好んでいます。明示的なクリスマス・ソングではないのですが、クリスマス・アルバムによく収録されている曲です。

White Christmasほど人気が高くないのは、おそらく、ディミニシュ・コードを使った、やや複雑なメロディー・ラインのせいでしょう。しかし、それゆえに、飽きのこない魅力があります。

◆ 手袋と愛? ◆◆
それではファースト・ヴァース。

The snow is snowing and the wind is blowing
But I can weather the storm
What do I care how much it may storm?
For I've got my love to keep me warm

「雪が降り、風が吹いているけれど、吹雪ぐらい、しのぐことはできる、嵐がどれほどひどくても、それがなんだっていうんだ? ぼくには愛があるからいつも暖かいのさ」

the snow is snowingと、あえて語を重ねたところに工夫があり、印象的な歌いだしですが、日本語でそういう感じを出すのはむずかしいようです。つづけてセカンド・ヴァース。

I can't remember a worse December
Just watch those icicles form
Oh, what do I care if icicles form?
Oh, I've got my love to keep me warm

「こんなにひどい十二月は記憶にない、あのつららを見てごらん、でも、つららがどれほどできたって、それがなんだというんだ、ぼくには愛があるからいつも暖かいのさ」

ファースト・ヴァースのstormとwarmの韻もなるほどと思いますが、formとwarmもなかなかのコンビネーションです。つぎはブリッジ。

Off with my overcoat, off with my glove
I need no overcoat, I’m burning with love

「オーヴァーがなくても、手袋がなくても、どちらにしろ、ぼくにはオーヴァーなんかいりはしない、愛で燃えているのだから」

ここらで、語を重ねるのがこの歌詞の趣向なのだということが、疑いもなく明らかになります。同じ語の繰り返しでリズムをつくっていると感じます。それにしても、gloveとloveの韻には恐れ入りました。バーリンという人は、作詞家としてもなかなかなのだと思います。

最後のヴァース。

My heart's on fire, the flame grows higher
So I will weather the storm
What do I care how much it may storm?
Oh, I've got my love to keep me warm

「ぼくの心は燃えている、そしてその火は勢いを増すばかりだ、だから吹雪をしのぐことができるだろう、嵐がどれほどひどくなろうと、それがどうしたというのだ? ぼくには愛があるから、いつも暖かいのさ」

内容としてはたわいのない歌詞ですが、音韻的には非常にすぐれていると感じます。歌いやすく、覚えやすい歌詞で、そういうところもシンガーに好まれたのではないでしょうか。

◆ ミルズ・ブラザーズ盤 ◆◆
今回も非常にいいヴァージョンが二つあり、なかなか看板を決められませんでした。最終的にミルズ・ブラザーズにしたのは、この曲で彼らを看板にしなければ、たぶん、二度と看板にする機会はないだろうと考えたからにすぎません。いや、出来は非常にけっこうなんですよ。誤解なきよう。

しかし、ちょっと問題があります。わが家にあるミルズ・ブラザーズのベスト盤はいい加減な代物で(バッタものではなく、MCAとUniversalのロゴがついているが、廉価盤専用らしいHalfmoonというレーベルになっている)、録音時期が書いてないし、ライナーもあいまいな書き方をしているのです。そして、どうやら彼らは、この曲を何度か録音しているらしいのです。

f0147840_0223068.jpg最初は1930年代にこの曲を録音しているらしいのですが(アーヴィング・バーリンがこの曲を書いたのは1937年なので、発表直後のカヴァーということになる)、うちにあるのはどう考えてもそんなに古いはずがなく、50年代の再録音だと思われます。

しかし、けっして出来の悪いものではなく、オリジナルではなくても、十分に楽しめるものです。ポッドキャストのラジオ番組をはじめ、いくつか試聴してみましたが、どこも(たんにわたし同様、見識がないだけかもしれませんが)わが家のと同じテイクを使っていました。探してみると、オリジナル録音を集めたと思われる盤があるのですが、まあ、それは来年のお楽しみということにしておきます。

この再録音もいい出来です。リード・ヴォーカルの声は好みですし、古いスタイルのハーモニーも、わたしのようなロックンロール時代に育った人間には新鮮に聞こえます。バックはブラシのみのドラム、ベース、ギター、ピアノだけというシンプルな編成で、しかも地味にやっていますが、一流のグルーヴです。ピアノはかなりできる人で、楽しいオブリガートを入れています。全体的には、ちょっとライ・クーダーのアルバムJazzを思い起こさせます。アール・ハインズみたいなピアノだからかもしれませんが。

◆ ラットパック組 ◆◆
f0147840_0242457.jpg最後まで、ミルズ・ブラザーズとどちらを看板に立てるかで悩んだのは、ディーン・マーティン盤です。ディノのキャラクターに合っているし、アレンジも、バンドのプレイも、録音もすばらしく、ほとんど完璧な出来です。この曲の代表的なヴァージョンでしょう。The Best of I've Got My Love to Keep Me Warmを編集するなら、最後の最後、大トリにするべきトラックです。

ラットパック組のもうひとり、フランク・シナトラのヴァージョンもあります。不思議なことに、ディノとシナトラの両方のヴァージョンがそろうと、わたしの好みはつねにディノのほうに傾くようです。ディノのいい加減なところ、ないしは、いい加減そうによそおっているところが好みに合っているようです。二人が並ぶと、シナトラはきちんとしすぎているように感じるのではないかと、自分の心中を忖度しています。

しかし、これはこれで、当然ながら、よくできたヴァージョンです。もう同じことばかり書くのが馬鹿馬鹿しくなりつつありますが、アレンジ、バンドのプレイ、録音、すべてにわたって、シナトラの盤はつねにその時代の第一級のレベルにあります。そうなるように手配したうえで録音しているのだから当たり前ですが、この当たり前がだれにでもできるわけではないのです。

f0147840_0252764.jpgセッショノグラフィーを見ると、アレンジャーはディック・レイノルズで、シナトラはこの曲を1960年12月21日、ちょうどいまごろに録音しています。つまり、クリスマス・ソングとしては扱っていないことになります。それがこの曲の微妙なところで、クリスマス・ソングに繰り込むかどうかは「任意」なのです。歌詞がいっているのは、十二月ということだけなのですから。

シナトラを聴くたびに、一流のエンジニアを使い、まじめに録音するのはきわめて重要なことだと思います。時代やコンテクストが変わっても、シナトラのトラックがそのたびにきちんと対応でき、新たな光を放つのは、録音がいいからです。生きた音が捉えられているから、現代的なコンテクストにおいても、さらには『スペース・カウボーイ』のような宇宙空間にもちだしても、そこに生きたシナトラがやってきたような錯覚が生まれるのではないでしょうか。

◆ 歌もの各種 ◆◆
f0147840_0315879.jpg女性シンガーでは、ドリス・デイのものがいいと感じます。ドリス・デイのヴォーカルについては留保したい箇所があるのですが、バンドのプレイは申し分がなく、リラックスしたいいグルーヴをつくっています。

デビュー盤で、われわれものを知らない若造に、アンドルーズ・シスターズの魅力を教えてくれたベット・ミドラーは、I've Got My Love to Keep Me Warmでも、スウィング・バンドの魅力を現代に伝えようとしています。「再現もの」としてよくできたI've Got My Love to Keep Me Warmです。でも、残念ながら、それ以上のものではありません。

f0147840_0452392.jpgわたしはジュリー・ロンドンの大ファンなのですが、彼女のI've Got My Love to Keep Me Warmは、「微妙な」出来です。ものすごくテンポが遅く、深夜のムード、それも時計の針は文字盤の右側のほうに大きく傾いた音です。最初に聴いたときには、これはこれでいいのかもしれないな、よくわからないけれど、と思い、それからずいぶん時間がたちましたが、その感想からまだ一歩も抜けだせずにいます。

f0147840_046521.jpgよせばいいのに、いざ取り上げるとなると気になって、泥縄でいろいろなものを試聴してしまいましたが、そのなかでトニー・ベネット盤は、イントロだけで、これはいいな、と思いました。繰り返しになりますが、録音である以上、どのように記録するかは死活的に重要です。正直にいって、トニー・ベネットの歌が好きだということはないのですが、サウンドは一流です。

f0147840_0492560.jpgビリー・ホリデイ、ダイナ・ワシントンといった大物女性シンガーのものも聴いたのですが、このへんはもう相性が悪いとしかいいようがないみたいです。わたしには面白さがわかりませんでした。ジュリー・ロンドンのように、男ならだれも抵抗できないと思われる魅力があるわけではないし、バンドが圧倒的なグルーヴをもっているわけでもなく、だれかギョッとするほどうまいプレイヤーがいるわけでもなく、どこを聴けばいいのかわかりませんでした。歌のうまい下手は、わたしにとってはプライオリティーのきわめて低いポイントなのです。

◆ インスト盤各種 ◆◆
f0147840_0501429.jpgインスト盤としては、このクリスマス・ソング特集ですでに何度か登場している、アヴァランシェーズのものが好みです。クレジットでは、ギターはビリー・ストレンジとトミー・テデスコと書いてありますが、二人が揃っていないトラックがいくつかあり、このI've Got My Love to Keep Me Warmもそのひとつです。ディストーションがかかっているので、プレイヤーを特定しにくいのですが、6:4ぐらいの拮抗した賭け率でトミー・テデスコではないかと思います。きついツッコミがあるかもしれませんが! どちらがリードをとったにせよ、ギター好きの血が騒ぐプレイです。

ジャッキー・グリースンは、いつものように、呆れるほどスロウに、フワフワとやっています。ここまで「イージー」リスニングに徹底すると、「イージー」の向こう側に突き抜けて、薄皮一枚でアヴァンギャルド、というあたりまできているような気がしてきます。エスクィヴァルと、じつはそれほどへだたっていないのかもしれません。

よせばいいのに試聴してしまったものとしては、マチート&ヒズ・オーケストラというバンドのヴァージョンがあります。チャチャチャかマンボかわかりませんが、とにかくSouth American Wayアレンジです。この特集でも、アルヴィン・ストーラーのマンボ・アレンジRudolph the Red-Nosed Reindeerなどを取り上げていますが、こういうものは好みです。原曲のもっている味もへったくれもなくなっちゃうのですけれどね。

やはり試聴しただけですが、イノック・ライト盤も、ややラテン風味の、原曲はなんだっけ、歌詞はどういう意味だったっけ、というアレンジです。しかし、サウンドとしては楽しいもので、この人はちょっと集めてみようと思っています。

クリード・テイラー・オーケストラもまた軽快なアレンジで、インスト盤に歌詞の意味を考えろなんていっても無駄だ、と見切ってしまうなら、なかなか楽しめる出来です。

f0147840_05968.jpgレス・ブラウン楽団もなかなかいいグルーヴで、好みです。ビッグ・バンドの管の響きには、やはり他には求めようのない無二の魅力があります。ベースもうまい。

プレイヤーはグルッと一周して、ミルズ・ブラザーズに戻りました。やっぱり、このヴァージョンが、ディミニシュ・コードの箇所(I can WEATHER A STORMのところ)の響きがいちばんきれいだと感じます。
by songsf4s | 2007-12-20 00:05 | クリスマス・ソング
Silver Bells by Bing Crosby & Carol Richards
タイトル
Silver Bells
アーティスト
Bing Crosby & Carol Richards
ライター
Ray Evans, Jay Livingston
収録アルバム
Christmas with Bing Crosby
リリース年
1957年
他のヴァージョン
Alvin & The Chipmunks, Andre Kostelanetz, Andy Williams, Anne Murray, Barry Manilow, Bing Crosby & Ella Fitzgerald, Bing Crosby & Rosemary Clooney, Booker T. & the MG's, Brenda Lee, Burl Ives, Clint Walker, Dean Martin, Donny & Marie, Doris Day, Elvis Presley, Elvis Presley & the Imperials Quartet, Elvis Presley (alt. take), Fats Domino, Johnny Mathis, Olivia Newton-John, Percy Faith, Ray Conniff, Ruth Welcome, the Supremes, the Temptations, the Ventures
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今日もヴァージョンが山ほどある有名曲です。そのこと自体にはもう慣れたのですが、今回はどうにも看板が決められず、もっと早く登場させるつもりだったのに、ここまで引っぱってしまいました。

このクリスマス特集だけでなく、当ブログでは過去にそんなことをした例がないのですが、今回にかぎっては他力本願、ビルボード・チャートに看板を決めてもらいました。いや、うちには1955年以降のチャートしかないので、もっと大ヒットしたヴァージョンがあるのかもしれませんが、そのへんは不明なのだから仕方がありません。二日連続でビング・クロスビーが看板ですが、まあ、天下のクリスマス男だから、そういうことも起きる、ということでご了承を願います。

◆ クリスマスの街頭 ◆◆
この曲の背景や各ヴァージョンについては、あとで書くことにして、いつものように歌詞を見ていきます。コーラスから入るのが圧倒的多数派のようなので、まずはコーラスから。

Silver bells, silver bells
It's Christmas time in the city
Ring-a-ling, hear them ring
Soon it will be Christmas day

「シルヴァー・ベル、シルヴァー・ベル、都会のクリスマス・シーズン、リンリンと鳴るベルを聞いてごらん、もうすぐクリスマスがやってくる」

コーラスというのは、タイトルを繰り返す、イメージだけのものにしておき、あまり強い意味をもたせないほうがいいのですが、これはまさにその典型です。つづいてファースト・ヴァース。

City sidewalks, busy sidewalks
Dressed in holiday style
In the air there's a feeling of Christmas
Children laughing, people passing
Meeting smile after smile
And on every street corner youll hear...

「街の歩道、忙しく人が行き交う歩道、クリスマスのために着飾った人々、クリスマスの雰囲気がただよっている、子どもたちは笑い、人々は通りすぎていく、どの顔も笑顔また笑顔、そしてどこの街角でも聞こえてくる……」

f0147840_13217.jpgなにが聞こえてくるかといえば、当然、シルヴァー・ベルでして、そこはコーラスで歌うという仕組みです。

以下はセカンドにして最後のヴァース。ストーリーものではなく、情景描写ものなので、なにかが起きたり、変化したりするわけではありません。

Strings of street lights, even stoplights
Blink a bright red and green
As the shoppers rush home with their treasures
Hear the snow crunch, see the kids bunch
This is santa's big scene
And above all this bustle youll hear

「買い物客がそれぞれの宝物をもって家路を急ぐなか、街灯の連なり、そして信号の灯までもが、赤と青の光をまたたかせている、雪を踏みしめる音、子どもたちが群れ遊ぶ声を聞いてごらん、これがサンタの晴舞台さ、そしてこうした騒ぎの上に聞こえるだろう……」

といって、またコーラスの「シルヴァー・ベル」へとつながります。

◆ とりあえずビール三本、もとい、とりあえずビング三種 ◆◆
この曲の成り立ち、背景はあとまわしにして、さきに、いくつかヴァージョンを見ておきます。とくにひどいものはなく、どれも水準以上、AかAマイナスぐらいの感じで、Bはあまりなく、Cは皆無といっていいでしょう。

f0147840_13553.jpg看板に立てたビング・クロスビーとキャロル・リチャーズのデュエット盤は、オーセンティックな雰囲気に充ち満ち、「これが正調だ!」という感じです。作者のエヴァンズのインタヴューが、オープニングにこのヴァージョンを使っているのも、もっともだと思います。

ビングはほかにもいくつかこの曲を録音しています。まず、ローズマリー・クルーニーとのデュエット。全体の音としては、こちらのほうが落ち着きが感じられます。つまり、エンジニアリングがいいということです。きれいなバランシングで、音像に奥行きがあります。

もうひとつはエラ・フィッツジェラルドとのデュエット。何度も書いているように、わたしは彼女の歌を憎悪しているので、途中で聴くのをやめました。デュエットになると、ちょっと味が変わる人がけっこういるもので、とくに女性シンガーには多いのですが、エラはやっぱりエラ、ダメです。どうして、すっと、自然に歌えないのでしょうか。いつもほどひどくありませんが(そりゃ、ビングの前だから、常識のある人間なら暴れたりはしませんやね。シナトラだって三舎を避けたんだから、エラごときは三歩下がって師の影を踏まずですよ)、やっぱり、口のなかで曲をこねています。

◆ 女性シンガー ◆◆
f0147840_140957.jpgエラにくらべれば、ダニーとマリーのオズモンズ盤のほうが、ずっときれいに、素直にやっていて、好感がもてます。きれいな歌は、ふつうの人はきれいに歌うものと昔から決まっているんだぜ>エラ。名曲を片端からめちゃめちゃに壊して暴れるシンガーは、ソングライターに呪い殺されちゃうぞ。

f0147840_141564.jpgドリス・デイは、曲を壊してしまうタイプではないので、素直に歌っていて、悪くありません。ただ、わたしには賞味期限切れの歌い方のように感じられますが、ノスタルジックだ、なんていう褒め方もできるでしょう。まあ、同じ言葉でけなすこともできるのですが。

ついでなので、さらに女性シンガー。ブレンダ・リーはワルツ・タイムを強調して、カントリー風味にしています。うーん、どうでしょう。悪くはないけれど、とくにどうということもなし、でしょうか。女性シンガーはあとにしておけばよかったと後悔しかけています。

f0147840_1421486.jpgアン・マレイも、録音時期がちがうだけで、ブレンダ・リーと同じ方向性です。ちょっと背筋を伸ばしすぎで、Amaging Gracesでも聴いているような気分、つまり、ここは教会かよ、という感じになるところが、やや難あり。まあ、あちらとしては、クリスマスなんだからあたりまえじゃないの、と反論するでしょうが、毎度申し上げるように、当方、いたって不調法、安売りのハムより薄い信仰心しかもたない人間なのであります。いや、音楽は「信仰」しているつもりなんですがね。

スプリームズ盤は、アレンジは悪くないと感じます。ダイアナ・ロスのベタベタ声がお好きな方は楽しめるでしょう。わたしはダイアナ・ロスは40年前から嫌いです。

その点、テンプテーションズのほうは、ベタつきがなく、わたしにはまだしも好ましい出来に感じますが、とくにどうこういうほどすぐれてもいません。

◆ 男性シンガー ◆◆
f0147840_1474353.jpgビング以外の男性シンガーでまず聴くべきは……アンディー・ウィリアムズですね、自分で自分の選択に驚いちゃいますが。これまたサウンドが立派。アレンジャーとエンジニアの名前が知りたくなります。こういう音像をつくってくれれば、わたしごときはゴチャゴチャいわずに、口を閉じてサウンドを聴きます。

ファンとしては、ディーン・マーティン盤もやっぱり謹聴し……いや、リラックスして楽しみます。まあ、悪くはないけれど、ディノのクリスマス・ソングにはもっといいものがたくさんあるな、という感想です。

f0147840_1482759.jpgサウンドということでは、バール・アイヴズ盤もなかなかすごいものです。スペクターのきわめて人工的なリヴァーブの使い方は大好きなのです。でも、ふつう、というのはつまり、フィル・スペクター以外のケースという意味ですが、リヴァーブというのは上品に使うべきものでして、バール・アイヴズ盤のリヴァーブは、サウンド・エンジニアリングの教科書からたったいま切り抜いたみたいに、端正でパリッとしています。アンディー・ウィリアムズ盤以上にいい音像かもしれません。

エルヴィスは……やっぱり、クリスマス・ソングには向かない人なのじゃないでしょうか。子どものころ、エルヴィスが嫌いだったことを思いだしちゃいます。もっとシャキッと、グルーヴに乗って押しまくってくれるようなものなら、エルヴィスを聴きたいのですが、スロウな曲になると、やっぱり俺は「失われたエルヴィス世代」なんだ、と思います。

まだヴォーカルものはありますが、先を急ぐことにします。メシより好きなインストへ。

◆ This is orchestras' big scene ◆◆
インストでは、やはりパーシー・フェイスが筆頭でしょうか。いや、実力伯仲のオーケストラ(いや、リーダーが、というべきでしょうね。プレイヤーは重なっていたりします)が揃っているので、どれもみな出来がよくて、目移り、迷い箸の亡者になっちゃうのですが。

f0147840_152752.jpgとにかく、順不同ということにして、パーシー・フェイス。これはもうみごとな音像です。サウンドを楽しむには、やはりヴォーカルは邪魔だ、と持論が出そうになります。こういう音の広がりを、フィル・スペクターはどう思っていたのだろうか、なんて、あらぬことまで考えてしまいます。まったく畑違いの両者ですが、イメージしていた音は、案外、壁一枚でとなりどうしの三軒長屋だったのじゃないでしょうか。

三軒長屋のもう一軒、ヘンリー・マンシーニ盤もなかなかけっこうな出来です。ひょっとして、パーシー・フェイスと同じスタジオじゃないかという響きです。マンシーニはハリウッドのRCAの巨大なスタジオAを使っていたはずです。パーシー・フェイスはどうなのでしょうね。ともかく、同じ響きに聞こえます。さすがは「クラシックのRCA」、オーケストラはいい音で鳴ります。

f0147840_1533731.jpg以前にも書きましたが、マンシーニのクリスマス・アルバムはメドレーが多く、Silver Bellsは、Winter Wonderlandとのメドレーになっています。後半のほうのSilver Bellsは、マンシーニの「通常フォーマット」のひとつ、混声コーラス入りでやっています。これがいつもいいんですよね。レイ・コニフなんかよりよほどきれいです。

アンドレ・コステラネッツ(ご常連さんはそろそろこの名前を覚えてくださったでしょうか。記憶してご損はないと思いますよ。なかなかいいオーケストラです)は、サウンドとしては文句がありません。でも、ちょっと明るすぎるように思います。

わたしの感じ方にすぎませんが、この曲には、華やかなような、陽気なような、でも、どことなくもの悲しいような、人恋しいような、そういう微妙な陰影があって、気分しだい、歌い方しだいで、ふと涙が出そうになります。コステラネッツ盤は、明るい面しかなくて、やや平板に感じます。聴く人の気分によって、楽しくもなれば、寂しくもなるような、気分をそのまま映す鏡のようになっているのが、この曲のレンディションの理想ではないでしょうか。

◆ インスト・コンボ ◆◆
f0147840_1575843.jpgコンボもいいものがあります。まず、やむをえず何度かけなすハメになったMG's盤。Silver Bellsはいい出来です。わたしがもっとも好むMG's本来のスタイル、血が騒ぐグルーヴはありませんが、これはこれでいいと感じます。ダック・ダンのよさでしょうかね。

ヴェンチャーズ盤は、彼らのクリスマス・アルバムのハイライトのひとつでしょう。でも、この曲のアレンジの出典(何度も書いたことをまた繰り返しておくと、ヴェンチャーズのクリスマス・アルバムは、同時代の有名曲のイントロやアレンジを借用している)は、じつにわかりにくいものです。Silver Bellsのアレンジは、アルバムThe Fabulous Venturesに収録された、Only the Youngという曲をもとにしているのです。なかなかいい曲ですが、ファン以外はまず耳にしたことがないでしょう。

f0147840_1594840.jpgしかし、ベースにした曲がどうであれ、このトラックは好ましい出来です。Only the Youngをベースにしたため、通常とはちょっと異なるコード進行になったのも、結果的によかったと感じます。ひょっとしたら順序は逆で、コードに手を加えているうちに、Only the Youngに似てしまったので、同じアレンジを適用した、という道筋かもしれません。White Christmasでも同じことをいいましたが、アマチュア・ギタリストがクリスマスにプレイ・アロングしたいトラックのひとつでしょう。

f0147840_222985.jpgコンボではなく、ソリストですが、ルース・ウェルカムという人のツィター演奏によるSilver Bellsもあります。いや、もっているわけではなく、ファイルの「ご喜捨」を受けただけですが、なかなか楽しめました。

ツィターという楽器にさわったこともなければ、構造も知らないので、なぜそうなるのかさっぱりわからないし、このサウンドが普遍的なものなのか、この人独特のものなのかもわかりませんが、ハワイアン・スティール・ギターのような音になるときがあります。結果として、どことなくトロピカルな雰囲気と冬の感覚が同居した、面白いSilver Bellsになっています。そういえば、アヴァランシェーズもウィンター・サウンド・ア・ラ・トロピカルでした。

f0147840_2114740.jpgもう一曲、ついこのあいだ入手したギター/オーケストラ・インスト盤(たったこれだけのヒントで、あれだな、とわかってしまう人がいらっしゃるでしょうね)に収録されたSilver Bellsもあるのですが、隠し球なので、この盤の収録曲を看板に立てる日まで、しまっておくことにします。いいんですよ、これが。当ブログでは禁句扱いの「傑作」という言葉がノドまで出かかります。

◆ 鳴らした鐘が五億回 ◆◆
Silver Bellsという曲自体は、どなたでも、だれかのヴァージョンでお聴きになったことがあるでしょう。数百種のヴァージョンがあるそうですし、作者のひとりレイ・エヴァンズは、九十一歳のときのインタヴューで、累計で5億枚売れたといっています(何度も聴き直しましたが、たしかに、five hundred million recordsといっています)。ほんとうにそこまでいったかどうかはわかりませんが、まあ、少なめに見積もっても数千万枚は堅いでしょう。考えてみると、クリスマス・ソングというのは、とてつもないものなのだなと、なんだか意気消沈しそうになります。

f0147840_2324842.jpgこの曲は、二人の作者がまだパラマウント映画の社員だったときに割り当てられた映画『レモン・ドロップ・キッド』(なんか、つまらない邦題がついていましたが、つまらないゆえに失念)の挿入曲として書いたものだそうです。

二人の作者のうち、長生きしたほうのエヴァンズによると、二人は会社とは半年にいっぺん契約更新をしていました。ちょうど、契約更改の時期が迫り、二人はしばらくヒットからは見放されていたため、会社は契約更新に乗り気ではなく、プレッシャーのなかで仕事に入った、といっています。

ストーリー(後述)の都合で、クリスマス・ソングが必要になったのですが、エヴァンズは、二人とも乗り気ではなかったといっています。すでにこんなにたくさんクリスマス・ソングがあるのに、いまさらまた新しいものを書いてどうするのだ、と思ったそうです。エヴァンズは、あとで自分の愚かさを神に感謝した、といっていますがね!

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ピアノの前にジェイ・リヴィングストン、立っているのがレイ・エヴァンズ

二人のオフィスに、小さなベルがあったので、それをモティーフに、最初はTinkle Bellsという曲を書きました。tinkleは「チリンチリン」という音をいいます。そうしたら、リヴィングストンの奥さんに、そんなタイトルのクリスマス・ソングを書くなんて、どうかしている、tinkleにはべつの意味があるのを知らないのか、と呆れられてしまったのだとか。辞書には「《幼児・口》おしっこ」と出ています!

そこで、またべつの曲を書こうとしたのですが、結局は出発点に戻り、同じ曲をSilver Bellsと変えて、映画に使ったということのしだい。おしっこから5億枚とはまた、おそれいりはべりけりのトニー谷ざんすな。エヴァンズは、5億枚売れた曲を書くことができたのだし、九十一歳まで生きられたのだから、これ以上なにも望むことはない、毎朝起きると、神に感謝している、とインタヴューを結んでいます。なにやら、かつてのお正月の金さん銀さんのように、クリスマスにはもってこいの、お目出度いキャラクターであります。

f0147840_2465127.jpg書き忘れたことがありました。レイ・エヴァンズとジェイ・リヴィングストンのコンビは、アル・カイオラでヒットした『ボナンザ』のテーマの作者です。さらにいえば、「馬がしゃべる、そんな馬鹿な」の『ミスター・エド』の主題歌も彼らの作品です。子どものころ、さんざん歌った曲の作者だったのであります。もっとも、「馬がしゃべる、そんな馬鹿な」という日本語詞を書いたのがどなたかは、いまだに知りませんが。

◆ ちょっとあらすじ(またかよ!) ◆◆
わたしは映画『レモン・ドロップ・キッド』は見ていません。知っているのは、この映画の原作、デイモン・ラニアンの『レモン・ドロップ・キッド』という短編小説だけです。やむをえず、ウェブであらすじを読んでみました(なんと、法律家の団体が運営するサイトに掲載された、映画のなかの法律、という論考シリーズの一編。いろいろな人たちがいろいろなことをやっているものですねえ。Rainy Night in Georgiaのとき、タクシーの写真を探していて、タクシー写真専門サイトというのに飛び込んだときもビックリしました)。

f0147840_25439.jpg読んでみて、ラニアンの原作と関係があるのは、主人公のキャラクター設定だけで、ストーリーは原作とはほとんど関係ないことがわかりました。ラニアンはクリスマス・ストーリーをたくさん書いてはいますが、短編小説『レモン・ドロップ・キッド』はクリスマス・ストーリーではありません。でも、映画はクリスマスにデッド・ラインが設定された物語です。どういうデッド・ラインかというと……。

レモン・ドロップ・キッド(ボブ・ホープ)は、競馬の予想屋、それもかなりインチキな(いや、競馬の予想に正直なものと不正直なものの区別があるとしての話ですが)予想屋です。日本でいう予想屋とは違い、客の賭け金をあずかり、勝ち馬と予想したものに賭けると称して、まるごと懐に入れてしまうのです。

もちろん、勝ち馬には、まちがっても勝てないヨボヨボの馬を指定します。いや、ラニアンいうのところの「ボート・レースみたいな代物」で走る「板みたいに硬直した馬」(stiff as a plank)ですな。stiffには「失敗」という意味があります。ヒットしなかったレコードもstiffです。負け馬という意味から、板を連想した比喩です。こういう表現のおかげで、ラニアンはいまも一部で根強い人気があるのです。

しかし、当てごととなんとかは向こうからはずれる、キッドはうっかり暗黒街の大物をハメようとし、それだけならまだしも、あろうことか、うっかり勝ち馬を当ててしまいます。しかし、金は賭けていないのだから、払いようがありません。暗黒街のボスは、「外科医のサム」という「人からものを取り出す」ことを専門にしているギャングを紹介し、クリスマスまでに1万ドル耳をそろえて(とはアメリカ人はいわないでしょうが)もってこなければ、外科医のサムがキッドを「開く」ことになる、と脅します。まるでアジかサンマですな。

f0147840_2553077.jpg追いつめられたキッドは、いろいろな人間を集めてサンタクロースの扮装をさせ、ニューヨークの街頭で偽募金をつのることになります。どうやら、サンタたちが街で金を集めているシーンで、Silver Bellsが流れたようです。

さて、キッドの作戦はどうなったか、というところで、そろそろ文字数制限が迫ってきたので、結末が気になる方はヴィデオでもごらんになってください。デイモン・ラニアンの苦い原作とはまったく異なる、ハッピーなクリスマス・ストーリーです。

ところで、ウェブで調べていて、レモン・ドロップ・キッドという名前の競走馬がいることがわかりました。ラニアンの「キッド」が客に奨める馬は、みな「板みたいに硬直している」ことになっているので、この名前では勝てないんじゃないかと思うのですが。

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by songsf4s | 2007-12-19 00:02 | クリスマス・ソング
Frosty the Snowman by Bing Crosby
タイトル
Frosty the Snowman
アーティスト
Bing Crosby
ライター
Bob Thompson, Jack Halloran, Peter Matz
収録アルバム
Christmas Cocktails Part 3 (Ultra Lounge Series)
リリース年
1962年
他のヴァージョン
The Ronettes, the Chipmunks, Gene Autry, Willie Nelson, Fats Domino, the Ventures, Esquivel, Nat "King" Cole, Jan & Dean, the Beach Boys, Brenda Lee, Jimmy Durante with Jackie Vernon and June Foray, Ray Conniff, the Partridge Family, Jackson 5, Disney
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またまたヴァージョンの多い曲の登場です。しかし、ひととおり聴き直してみた結果、飛び抜けて出来がいいのは2種類のみだから、時間がなくなったら、残りはオミットすればいいので、楽勝です(なんて、いま言い切ってしまうと、あとで泣くかもしれませんが)。

しかし、問題があります。出来のよい二つのヴァージョン、ロネッツ盤とビング・クロスビー盤、どちらを先に立てるか決められないのです。いまはまだどちらでいくか決めていません。最後の5分間まで決まらないような気がします。心が決まるまでの時間、歌詞でも見てみましょう。

◆ トウモロコシの穂、ボタン、石炭 ◆◆
本日も子ども向けの歌詞です。子どもにとっては一年でいちばん楽しい時期だから、そういう歌が多いのは当然ですけれどね。子どもに話してきかせるお伽噺仕立ての曲なので、細かく割らずに、まず前半をひとまとめに。もちろん、さまざまなヴァリアントがありますが、以下の歌詞が一般的でしょう。

Frosty the snowman was a jolly happy soul
With a corncob pipe and a button nose and two eyes made out of coal
Frosty the snowman is a fairy tale, they say
He was made of snow but the children know that he came to life one day
There must have been some magic in that old silk hat they found
For when they placed it on his head he began to dance around
Frosty the snowman was alive as he could be
And the children say he could laugh and play just the same as you and me
Thumpetty thump thump thumpety thump thump
Look at Frosty go
Thumpetty thump thump thumpety thump thump
Over the hills of snow

「雪だるまのフロスティーは楽しい愉快なひと、トウモロコシの穂のパイプをくわえ、鼻はボタン、二つの目は石炭でできている、雪だるまのフロスティーなんてお伽噺だとみんなはいう、フロスティーは雪でできているけれど、子どもたちは知っている、彼がいつの日か命をもつことを、だれかが見つけたあの古ぼけたシルク・ハットには、なにか魔法が隠れていたにちがいない、あれをかぶったとたん、フロスティーが踊りだしちゃったのだから、雪だるまのフロスティーはどう見ても生きていた、子どもたちがいうには、彼はだれもと同じように、笑い、遊ぶのだそうな、バシャ、ドス、ドス、ドス、見てごらん、フロスティーが行く、バシャ、ドス、ドス、ドス、雪の積もった丘を越えて」

f0147840_0495948.jpgちょい意訳、すなわち不正確な解釈が入りましたが、だいたいにおいて合っているはずです。二つの異なる言語間の厳密に正確な互換性などありえないわけでしてね。とはいいながら、soulは少々問題ありです。ここでは霊魂、妖精などの意味で使っていると考えられますが、それでは落ち着きが悪いので、「ひと」としました。学齢前のお子さんにお話ししてやるなら、そういう言葉のほうがいいでしょう。

つづいて後半。これですべてです。いや、いろいろな演出法があり(たとえば、お話を聞く子どもとの対話をはさんだりする)、ヴァリアントが多数あるようですが、以下のような歌詞が平均的です。

Frosty the snowman knew the sun was hot that day
So he said, "Let's run and we'll have some fun now before I melt away"
Down to the village, with a broomstick in his hand
Running here and there all around the square, saying "Catch me if you can"
He led them down the streets of town right to the traffic cop
And he only paused a moment when he heard him holler "Stop!"
For Frosty the snow man had to hurry on his way
But he waved goodbye saying "Don't you cry. I'll be back again some day"

f0147840_051899.jpg「雪だるまのフロスティーは、その日は陽射しが強いとわかっていた、だから彼は、『溶けてしまう前に、走りまわって楽しく遊ぼうじゃないか』といった、箒を手に村に行き、『捕まえられるものなら、捕まえてごらん』と広場のあちこちを走りまわった、フロスティーはみんなを引き連れて通りを下り、交通整理のおまわりさんのところまで行った、立ち止まると、すぐにおまわりさんが「止まれ!」とさけぶ声が聞こえた、雪だるまのフロスティーは帰り道を急いでいたから、でも彼は『泣くことはないよ、またいつの日か戻ってくるからね』といって別れを告げたのだった」

◆ 大歌手ならではの味 ◆◆
この歌が多くのひとのイマジネーションをとらえた理由はよくわかります。笑わせて泣かせるという、藤山寛美の松竹新喜劇の骨法と同じ構造だからです。陽気さの裏に、まもなく消える「命」だという陰があるので、立体的な奥行きのあるお噺になっているのです。

そう考えれば、この曲の歌い方はひとつしかないことになります。ちょっと悲しい結末が待っているのだから、陽気に歌うしかないのです。スロウ・バラッドにして、しっとり歌っているヴァージョンがありますが、勘違いもはなはだしいというべきでしょう。

たしかに、テンポを落とすと、この曲のメロディー・ラインの美しさが際だちます。でも、それでは、まもなく消える命とわかっていながら、子どもたちとはしゃいでいるという、対比による奥行きが出ません。ただの堕落したお涙ちょうだい物語です。

f0147840_0522593.jpgビング・クロスビーは数多くのクリスマス・ソングを歌っているので、Frosty the Snowmanが、彼のクリスマス・ソングの代表作だなんてことはありません。でも、うちにある15種ほどのヴァージョンのなかで、もっともすぐれているもののひとつだと感じます。ほかのことをしながら流していて、このビング盤のイントロが流れた瞬間、音楽に注意が向きます。

ビング盤は1962年の録音なので、彼の全盛期はすぎていますが、幸いにも(といわざるをえないのですが)ビートルズがアメリカ音楽を大混乱に陥れる以前なので、大スター、大歌手のオーラがまだしっかりと彼を覆っています。ここがおそらくギリギリの時期でしょう。

1962年という時期は、サウンドのほうには好影響を与えています。もう3トラック・テープ・マシンによる、マルチ・トラック録音がはじまっているからです。イントロが流れた瞬間、まだビングの声が出てくる以前に、これはいい、と感じるのは、音の手ざわりに精彩があり、厚みと広がりがあるからです。

f0147840_0531236.jpgこれは、大歌手、売れている歌手の盤に共通する美点です。予算が潤沢で、トップ・クラスのスタッフがまじめにつくっているのです。悪い条件が好結果に結びつくこともあるのが、商業音楽のむずかしいところではあるのですが、クリスマス・ソングとなると、貧相なのは好ましくないに決まっているわけで、大歌手たちがいいクリスマス・アルバムを残しているのは、ある意味で当然なのです。トップ・アーティストの場合、面白くないクリスマス・アルバムができてしまったら、それは百パーセント歌手自身の責任といっていいでしょう。

過去に当ブログで、ビング・クロスビーを看板に立てたことがあるのはただ一度、Headless Horsemanのときだけです。まったくの偶然ですが、あれもまたハロウィーンに子どもに話してやる物語でした。じっさい、このFrosty the Snowmanも、ディクションが非常によく、子どもにも歌の意味がちゃんとわかるように歌われています。こういうところにも、やはり彼が並はずれた大歌手であったことがあらわれているように感じます。

◆ ロネッツ/フィル・スペクター盤 ◆◆
ロネッツのロニー・スペクターは、ビング・クロスビーとはまったく異なるタイプのシンガーですが、イントロが流れた瞬間、たちまちサウンドに引き込まれる点は、ビング盤とまったく同じです。

f0147840_0554971.jpgバンドの人数からいったら、フィル・スペクターがプロデュースした、ロネッツ盤Frosty the Snowmanより多いヴァージョンはいくらでもあります。でも、もっとも厚みと奥行きのある音になっているのはスペクター盤です。

よく、スペクターすなわちエコーのようにいわれます。たしかに、ゴールド・スター・スタジオの4連プレート・エコーがなければ、こんな音はつくれないにちがいありません。でも、それだけのことなら、スペクターでなくとも、同じ時代にゴールド・スター・スタジオをつかった人なら、だれでもつくれることになります。残念ながら、現実には、同時代のゴールド・スターで、深いエコーをかけたからといって、同じような圧倒的サウンドにはならないことは、すでに証明が終わっています。

たとえば、デイヴィッド・ゲイツがプロデュースしたガールフレンズのMy One and Only Jimmy Boyや、ロビン・ウォードのWonderful Summer、そして、ブライアン・ウィルソンがプロデュースしたビーチボーイズのDo You Wanna Danceをお聴きになればいいでしょう。たしかに、ゴールド・スターの4連エコーでなければ、こういうサウンドにはなりません。でも、それだからといって、フィル・スペクターのような圧倒的なものを感じるかといえば、ノーです。

スペクターの音は、エコーの靄に包まれてはいます。でも、それだけではないなにかが、エコーの靄の向こうにあるのが、つねに感じられます。彼のサウンドの中心には、強固な核があるのです。それが、彼と同時代に、ゴールド・スターで深いリヴァーブをかけて録った他の音楽とは決定的に異なる点です。

f0147840_0564528.jpgその核はなんなのか、表面的には2本ないし3本のベースに同じラインを弾かせていることなどがあげられはしますが、それだけのことでないのはいうまでもありません。非論理的な言い方になってしまいますが、常識はずれに長いリハーサル(これを嫌って、リオン・ラッセルはスペクターのセッションにいかなくなったし、長時間、12弦ギターを弾いていてたために手を切ったハワード・ロバーツは、後年、スペクターをきびしく指弾している)のあいだに、土台の地固めをするからだ、なんていいたくなります。

いや、冗談ではなく、スペクターがリハーサルにとほうもない時間をかけたのは、自然に「固まる」のを待っていたからではないかと思います。リヴァーブでぐずぐずに「煮込んで」も、型くずれのしない、強固な核ができるまでは、テイクに入れなかったのじゃないでしょうか。

この曲では、ハル・ブレインはBe My Babyを再演しています。イントロこそ、あのキック・ドラムではありませんが、あとはBe My Babyのビート・パターンをすこしだけスピードアップして、派手に、華やかにプレイしています。アヴァランシェーズのSleigh Ride同様、このフィル・スペクター盤Frosty the Snowmanもヴェンチャーズのクリスマス・アルバムに影響をあたえたにちがいありません。

◆ 他のヴァージョン ◆◆
f0147840_0575786.jpgまず、いいな、と思うのは、この曲のオリジナル・ヒット・ヴァージョンと思われるジーン・オートリー盤です。こういうあたたかい味わいのあるシンガーというのは、そうそういるものではなく、とりわけ現代にはどこにも見あたらなくなったものです。子どもに話しかけるFrosty the Snowmanのような曲にはぴったりで、アメリカの親たちは、この曲を子どもに買い与えるなら、いまでもオートリー盤を選ぶのではないかと想像します。そういう歌声です。

チップマンクス盤もいい出来です。この曲を歌うにはぴったりのキャラクターです。親はジーン・オートリー盤を与えたがるけれど、小さな子どもは、こっちがいい、とチップマンクスを選ぶのではないでしょうか。

f0147840_582070.jpgミッキー・マウスを中心とした、ディズニーのキャラクターたちの歌うヴァージョンは、日本の子どもが、声を聴いてそれとわかるわけではないので、あまり意味がないことになります。いまではDVDでしょうね。でも、クリスマス・アルバムはアートワークも非常に重要で、とくに子ども向けのものには、楽しいつくりのものがたくさんあります。子どもではなく、親のほうが幼い時代を懐かしんで、ディズニーのクリスマスLPをほしがるかもしれません。いや、LPとなると、世代的にはいまの親ではなく、その親、おじいちゃん、おばあちゃんですね。

ヴェンチャーズ盤は、子どものころからなじみなので、流れれば、うん、とうなずきはします。しかし、このアルバムの他のトラックにくらべると、それほどいいほうの部類とはいえないでしょう。アレンジはTequilaを借用しています。それも、オリジナルのチャンプス盤ではなく、彼ら自身のカヴァーをベースにしたという印象です。

ファッツ・ドミノのFrosty the Snowmanもわるくありません。お話おじさん的なキャラクターですからね。ファッツのクリスマス・アルバムの欠点は、予算不足が露骨に音の表面に浮き上がっていることです。ファッツ自身は、かつてのような味わいを失っていません。

とくに言及しておかなくてはならないのは、これくらいだと思います。あとは、それぞれのファンのためにやっているという感じで、それ以外の人には無関係という程度の出来でしょう。たとえば、ジャン&ディーンやビーチボーイズのファンは、やはり彼らのヴァージョンがほしいわけで、チップマンクスでもいい、というわけにはいかないでしょう。それだけの意味しかないと思います。

You Tubeにあるアニメは、映像より、音楽がいいと思いました。歌っているコーラス・グループの名前が知りたいところです。

いけない、やっぱり書き落としがありました。ウィリー・ネルソン盤も悪くない出来です。子ども向けの声とも思えないので、これは、クリスマスに子どものころのことを思いだしたい大人たちのためのヴァージョン、というところでしょうか。そうそう、エスクィヴァル盤も、例によって珍が入っていますが、悪くありません。

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by songsf4s | 2007-12-18 00:02 | クリスマス・ソング
The Chipmunk Song by the Chipmunks
タイトル
The Chipmunk Song
アーティスト
Alvin & the Chipmunks
ライター
Ross Bagdasarian, Sr.(David Seville)
収録アルバム
Christmas with the Chipmunks
リリース年
1958年
他のヴァージョン
The Three Suns
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毎日、何十種類もヴァージョンがある曲ばかりが相手では、とても身がもたないので、本日はちょっと箸休めに、カヴァーがほとんどない曲を取り上げます。

これまでは、他人の曲のカヴァーばかりでマンクスを登場させてきましたが、今日は彼ら自身の大ヒット曲、「持ち歌」であり、いまもってクリスマスの定番でありつづけているクラシックです。

どれくらい大ヒットかというと、1958年のビルボード・チャート・トッパーだから、これ以上はない大ヒットなのです。それどころか、それから毎年、62年まで、シーズンになるとチャート・インしています。ちょっとしたものです。そんじょそこらのシマリスにできることじゃありません。

f0147840_0145588.jpgいや、人間にだって簡単にはできません。一曲のヒットもなく業界を去ったシンガーやバンドがどれほどいたことか。ビルボード・チャート・トッパーを一曲もっていれば、一生食べられるっていうくらいですからね。それでチャート・トップになれるなら、シマリスになりたいと思った歌手だって、一人や二人じゃすまないでしょう。

チップマンクスは、声を聴かないことには話になりませんし、できれば、動画もほしいところです。ご心配はいりません。なんせ、ナンバーワン・ヒットはあるは、テレビのレギュラー番組はあるはの大スターですから、ちゃんとYou Tubeに、このThe Chipmunk Songを歌っているクリップがあります。



◆ アルヴィン! ◆◆
それでは歌詞を見てみます。というか、半分以上がセリフなのですけれどね。まずは歌に入る前の、デイヴィッド・セヴィルとチップマンクたちの会話から。

All right you Chipmunks! Ready to sing your song?
-I'll say we are!
-Yeah!
-Let's sing it now!
Okay, Simon?
-Okay!
Okay, Theodore?
-Okay!
Okay, Alvin? Alvin? ALVIN!
-OKAY!!!

「さあ、チップマンクたち、歌の用意はいいかな?」
「準備オーケイ!」
「いいよ!」
「早く歌おうよ!」
「よし、サイモン?」
「オーケイ!」
「よしと。シオダー?」
「オーケイ!」
「よしと。アルヴィン? あれ? アルヴィン? アルヴィン!」
「オーケイ!!!」

いたずら小僧アルヴィンだけは、ほかのことに忙しくて、歌う準備ができていません。なにに忙しかったかは、アニメのほうをご覧になれば一目瞭然です。もうクリスマス・プレゼントを開けちゃったのです。

◆ 早く来い来いおしょ……クリスマス ◆◆
アルヴィンもやっと準備ができたようなので、それではファースト・ヴァース。というか、ヴァースらしいヴァースはこれひとつなのですが。

Christmas, Christmas time is near
Time for toys and time for cheer
We've been good, but we can't last
Hurry Christmas, hurry fast
Want a plane that loops the loop
Me, I want a hula hoop
We can hardly stand the wait
Please Christmas, don't be late

「クリスマス、もうじきクリスマス、オモチャのとき、お祝い気分のとき、ぼくらはずっといい子にしてた、でも、そんなこといつまでもつづけられない、クリスマス、急いで来てよ、早く来てね、グルッと輪を描いて飛ぶ飛行機がほしいなあ、ぼくはフラフープがいい、とても待ちきれない、お願いだから、クリスマス、遅れずに来てね」

f0147840_0162932.jpgご覧のように、子ども向けの歌詞です。でも、なかなかキュートです。クリスマスが近いからいい子にしていたけれど、もうこれ以上は無理、というところが可愛いですねえ。もっとも、アルヴィンだけはいい子にしていたとは思えませんけれど。

このあいだ、近所のショッピング・モールで、フラフープをもっている五歳ぐらいの女の子を見かけました。一時期はフラフープなんていっても通じなくなっていましたが、もうあれこれいう必要がなくて助かります。わたしなんか、子どものときにもろにフラフープ・ブームにぶつかったので、懐かしい気分になります。やりすぎると腸捻転になる、なんて親におどかされましたっけ。

◆ アルヴィン!!! ◆◆
間奏のかわりに、またセリフです。

Okay fellas get ready. That was very good, Simon.
-Naturally.
Very good Theodore.
-Ahhh.
Ah, Alvin, you were a little flat, watch it.
Ah, Alvin. Alvin. ALVIN!
-OKAY.

「オーケイ、きみたち、準備して。いまのはすごくよかったよ、サイモン」
「当然でしょ」
「シオダーもすごくよかったよ」
「へっへっへ」
「えーと、アルヴィン、きみはちょっとフラットしていたよ。気をつけなさい。あれ? アルヴィン? アルヴィン? アルヴィン!」
「はあい!!!」

f0147840_01891.jpgアルヴィンは歌どころじゃなくて、お目当てのフラフープがあるかどうかたしかめようと、片端からプレゼントを開けていたことは、すでに動画をご覧になった方はおわかりでしょう。このいたずら小僧が、「いい子にしていた」なんて、ぜったいにありえませんよ。

二番目のヴァースは、最初のヴァースとほとんど同じです。ただし、Me, I want a hula hoopというアルヴィンのパートは、I still want a hula hoop「ぼくはやっぱりフラフープがほしい」と、微妙に書き換えられています。プレゼントのなかにフラフープがないことをたしかめたので、再度要求しているわけです。

では、最後のセリフ。

Very good, boys
-Let's sing it again! Yeah, let's sing it again!
No, That's enough, let's not overdo it
-What do you mean overdo it?
-We want to sing it again!
Now wait a minute, boys
-Why can't we sing it again?

Alvin, cut that out...Theodore, just a minute.
Simon will you cut that out? Boys...

「すごくよかったよ、みんな」
「もう一回、歌おうよ! もう一回、ねえ、もう一回」
「ダメだよ。さっきので十分さ。歌いすぎはよくないよ」
「歌いすぎって、どういう意味よ」
「もう一回歌いたいよ!」
「おいおい、ちょっと待った!」
「なんでもう一回歌っちゃダメなの?」
「アルヴィン、それをやめなさい。シオダー、ちょ、ちょっと待った。サイモン、それをやめてくれないか。おい、きみたち……」

大混乱のうちに幕。

◆ シマリス版フランケンシュタイン博士の正体 ◆◆
f0147840_020014.jpgコメディーとして面白いというだけでは、チャート・トッパーになれるものではありません。チップマンクスのキャラクターにだまされそうになりますが、じつは、なかなかいい曲なのです。楽曲としての構造がしっかりしているから、コメディーとして楽しく、しかも覚えやすいので、だからナンバーワンになったのだと思います。

ナンバーワン・ヒットについては、アンチョコをもっていることを思いだして読んでみました。The Billboard Book of Number One Hitsという本で、長年の愛読書です。たしか、以前、邦訳もあったと思います。痒いところに手が届く名著です。願わくば、もうすこし下位の曲についても、こういう本があればなあ、ですが。

いつもいっていますが、ものごとはなんでも調べてみるものですねえ。ビックリするようなことが書いてありました。この曲のライター、そしてチップマンクスの生みの親、というか、アルヴィンたちの声も彼なのですが、そのロス・バグダサリアン(発音不明なので、以下、芸名のデイヴィッド・セヴィルに)は、なんとウィリアム・サローヤンの従兄弟なのだそうです。コメディーの才能は、血筋によるものなのかもしれません。

f0147840_0211778.jpgもうひとつ驚いたのは、デイヴィッド・セヴィルが、ローズマリー・クルーニーのCome on-a My Houseの作者だということです。大昔、売れに売れた曲じゃないですか。日本ではだれでしたっけ、雪村いづみだったかが歌ってヒットし、わたしはそちらで記憶しています。

この曲と、セヴィル自身の名義によるチャート・トッパー、Witch Doctorと、それにThe Chipmunk Songを並べて聴いてみました。なにやら共通点があります。いずれも、意味よりも、音韻としての面白さを中心にした歌詞で、コミカルな楽しさのある曲だということです。とりあえず彼の曲だと判明しているもののうち、わが家にあるのはこの三曲だけですが、なかなか才能豊かなソングライターだと感じます。美しいバラッドはありませんが、曲も歌詞もリズミカルなものを書くタイプのソングライターです。

◆ 実写版チップマンクス? ◆◆
f0147840_0222062.jpgことの順序をハッキリさせておくと、最初にできたのは歌のほうです。このThe Chipmunk Songが大ヒットしたので、テレビ・アニメが制作される、という順序です。ウェブで、オリジナルと思われる45回転盤のスリーヴを見つけたのですが、デザインはおなじみの三匹ではなく、もろに(あまり可愛いとは思えない)シマリスなんです。

80年代に、どこかのDJが、ちょっとしたジョークとして、ブロンディーの曲を回転数を上げて放送し、チップマンクスの久しぶりの新曲、と紹介したら、リクエストが殺到しちゃったのだそうです。そこで、すでに没していたデイヴィッド・セヴィルにかわって、息子さんとその嫁さんがチップマンクスを復活させ、アルバムをつくり、さらにはテレビのほうも復活して、またヒットしてしまったのだそうです。

f0147840_0235746.jpgこのとき、Chipmunk Punkというアルバムがつくられていますが、もちろん、80年代なので、50年代ののどかなワルツなどではなく、子ども向けにちょっとソフトにしたロック・サウンドです。ナックのナンバーワン・ヒット、My Sharonaのカヴァーを試聴してみました。うーん。あのマンクスの低速回転録音声は、長く伸ばしたときにいい響きになるんですよね。アップテンポの曲にはあまり向いていませんし、シャウトもうまくいかないので、こういうタイプの曲はちょっと苦しいと感じます。マンクスがパンク化したらしいアニメのほうは面白かったかもしれませんが。

f0147840_025918.jpg話が前後しますが、初代チップマンクスはいろいろなアルバムを出しています。シングルも、The Chipmunk Songだけでなく、Alvin's Harmonicaという曲がトップ・テン入りする大ヒットになっていますし、ほかにも数曲がチャートインしています。当時の人気のほどが忍ばれます。

べつに皮肉でいうわけではないのですが、ひょっとしたら、コルジェムの関係者が、モンキーズという架空のバンドの物語を思いついたとき、ヒントになったのはチップマンクスなのではないか、なんて思いました。ほら、マンクスとマンキーズ(英語ではそういう発音)、似ているでしょ? どちらも、番組のなかで、演奏したり、歌ったり、さらにはレコーディングしたりしますしね。マンクスを実写でやってみたらどうだろう、というのがマンキーズの原点では?

◆ マンク・アラカルト ◆◆
以下、ランダムに上記アンチョコ本からこぼれ話を少々。

f0147840_0272976.jpgセヴィルの最初のビルボード・チャート・トッパー、Witch Doctorでも低速回転録音が使われています。この曲も、タイトルは知らなくても、コーラスでの、チップマンクス声のハーモニーを聴けば、ああ、あれか、と思いだす方が多いのではないでしょうか。わたしは後年、編集盤でこの曲を手に入れたとき、FENのオールディーズ番組でよくかかっていたことを思いだしました。

アルヴィン、サイモン、シオダーというチップマンクスの名前は、みなリバティー・レコード関係者の名前からとったそうです。サイモンはリバティー・レコード社長サイ・ワロンカー、すなわち、ワーナーのプロデューサーで、のちに社長になったレニー・ワロンカーのお父さん。アルヴィンはサイ・ワロンカーのパートナー、リバティーの共同設立者アル・ベネット、シオダーは、リバティーのエンジニア、テッド・キープから名づけられたのだそうです。

The Chipmunk Songのアイディアは、セヴィルの一番下の息子が、まだ九月なのに、クリスマスはまだなの、といったことによるそうです。うちの子がこういうことをいうのなら、世の中には同じことを思っている子どもが、ほかにもたくさんいるだろうと思った、といっています。「身近なマーケット・リサーチ」の勝利。

このThe Billboard Book of Number One Hitsを眺めていて、ひゃー、神話時代だなあ、と思いました。「ご近所」の顔ぶれが面白いのです。チップマンクスがナンバーワンになるためにどけてしまった前週のナンバーワンは、フィル・スペクターのグループ、テディー・ベアズのTo Know Him Is to Love Him、チップマンクスをどけてナンバーワンに坐ったのは、プラターズのSmoke Gets in Your Eyesです。

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1958年に最速でトップに立った曲だというのだから、このなかでもっとも売れたのはThe Chipmunk Songのようです。同じ年に自分自身の名義によるWitch Doctorでチャート・トッパーを得ているデイヴィッド・セヴィルは、自分の創造物に負けてしまったのでした。いや、まあ、ひとりで三匹の声もやったのだから、結局、勝ったというべきかもしれませんが。
by songsf4s | 2007-12-17 00:01 | クリスマス・ソング
White Christmas その2 by Darlene Love
タイトル
White Christmas
アーティスト
Darlene Love
ライター
Irving Berling
収録アルバム
A Christmas Gift for You from Phil Spector
リリース年
1963年
他のヴァージョン
別掲
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◆ お知らせ ◆◆
この記事は、画像アップロードの途中で文字数制限を超過したために、すでにひとつのものとして公開したものを、のちに分割した後半部分です。12月16日午前0時半からの1時間ほどのあいだにいらっしゃった10人ほどの方は、すでに以下のテキストはお読みになっています。

それ以外の方、当ブログでWhite Christmasの記事を読むのははじめてという方は、できれば前半のほうを先にお読みください。以下は、ひとつまえの記事のつづきです。

◆ フィル・スペクター盤: さらなる革命 ◆◆
しかし、最後まで、ドリフターズと看板を争ったのは、ビング・クロスビー盤ではありません。フィル・スペクターのクリスマス・アルバムのオープナー、ダーリーン・ラヴのヴァージョンです。

f0147840_4171535.jpgこういう記事を書くには、どうしたって、これから扱う曲をエンドレスに流しっぱなしにしているわけですが、ところどころに、イントロが流れた瞬間、グイと耳を引っ張られるヴァージョンが出現します。耳を引っ張られるといえば、なんといってもダーリーン・ラヴ盤のイントロです。もう、完璧! すばらしい響きです。このサウンドを得るまでに、フィル・スペクターとラリー・レヴィンがどれほど試行錯誤したかと思うと、なにやらこの世の地獄をかいま見るような気がするほどです。

でも、楽しかったのだろうなあ、と思います。理想の音を追求しているとき、ミュージシャンはやはり天国にいるにちがいありません。たとえ板子一枚下は地獄でも、「これだ!」と叫ぶような音が聞こえたときは、もう死んでもいいと思ったのじゃないでしょうか。いつまでも色褪せない、新鮮な響きがダーリーン・ラヴの、いや、フィル・スペクターのWhite Christmasにはあります。

f0147840_4185264.jpg細かいことをいうと、はじめて聴いたとき、ストップ・タイムのところで、ハッとしました。To hear sleigh bells in the snow, the snowの、あとのほうのthe snowのところです。ほかのヴァージョンにはないコードを使っているのです。キーをCに移調していうと、ここはGにいけばいいだけの箇所です。でも、スペクターはここにオーギュメントを使っているのです。Gなら「解決」した感覚になるのですが、Gaugだと、サスペンドした感じになります。これが新鮮かつチャーミングで、いいフックになっています。

ついでにいうと、ハル・ブレインは借りてきた猫のようにおとなしく叩いています。でも、エンディングでは、ちゃんと二分三連の強いキックの踏み込みをやって、これから繰り広げられる、ドラマーのストンピング・グラウンドの予告編がわりとしています。「まあ、あわてなさんな、まだまだこんなもんじゃない、お楽しみはこれからだぜ」とニヤリとハルが笑っている顔が見えるようです。

◆ オーケストラもの ◆◆
ほかに、イントロが流れた瞬間、いいサウンドだな、と感じるのは、まずヘンリー・マンシーニ盤です。管だけのイントロも、弦が加わってくるところもなかなかいい音です。お得意の混声コーラスも登場しますが、これはいつもよりドライな録音で、もっとウェットにしたほうがよかったような気もします。でも、その裏の管や弦のオブリガートはじつにきれいです。

f0147840_420988.jpg同じ系統でいうと、パーシー・フェイスも、やはりイントロからよくできていて、さすがだなと思います。コーラス(こちらは女声のみ)は、ヘンリー・マンシーニ盤より浮遊感があります。

ついでに、オーケストラをさらにいくと、昨日のJingle Bellsでも登場した、アンドレ・コステラネッツのものも気持ちのよいドリーミーな仕上がりです。トランペットの使い方も、ストリングスもけっこう。この盤はかなりいいのじゃないでしょうか。

ドリーミーといえば、ジャッキー・グリースン盤も例によってその線です。アンドレ・コステラネッツほど変化に富んでいないので、ドリーミーすぎて、ちょっと眠気を催しますけれどね。

みなそれぞれ持ち場が決まっているようなものですから、エスクィヴァル盤はやはり、ちょっと珍が入っています。はっきりキャラクターが出るものですねえ。どうしてこういうアレンジになっちゃうのか。いや、面白いし、好きです。にぎやかなWhite Christmasというのがあってもいいのじゃないでしょうか。

f0147840_421210.jpgポール・モーリアもご存知のようなあのスタイルでやっています。こういう曲でリスナーの期待を裏切るわけにはいかないので、意外性の勝負は避け、予定調和にもっていくのがやはり「大人の判断」なのでしょう。

そしてもちろん、ドメニコ・サヴィーノは穏やかに、平和に、安全に、すこやかにやっています。おやすみなさい、という気分なので、ちょっと昼寝します。

◆ 歌もの、主として男性ヴォーカル ◆◆
f0147840_4222582.jpg昼寝から目覚め、夢のなかで楽曲リストを整理していたことに気づき、愕然としました。

夢のお告げで、ほかのヴォーカルものとしてはこれだ、という卦が出た(ウソ)のは、アンディー・ウィリアムズ盤です。なにやらボビー・ゴールズボロが登場しそうなイントロです。Honeyですな。

f0147840_423311.jpg案外な拾いものはパートリッジ・ファミリー盤。こちらはニルソンのEverybody's Talkin'が出てきそうなイントロです。イントロだけでなく、テンポも、全体のアレンジもEverybody's Talkin'からの借り物でしょう。ヴェンチャーズがすべて借り物ですませたのなら、一曲や二曲、同じことをやってもかまわんだろう、てなあたりじゃないでしょうか。こういう軽快なWhite Christmasも、チェンジアップとして悪くないと思います。まあ、チェンジアップや箸休めが必要になるほど、一気に大量にまとめてWhite Christmasを聴くのは、わたしぐらいしかいないんでしょうけれど! White Christmasの過剰摂取で死ねるかどうか、人体実験中です。

ウィリー・ネルソン盤のイントロは、オルガンがペダル・ポイントを弾くもので(そういうコード進行の曲ですから)、連想ゲームをつづけると、これはスリー・ドッグ・ナイトのOld Fashioned Love Songです。ちょっとLet It Beからいただいたりもしていますが、なかなかけっこうな出来です。ウィリー・ネルソンという人は、パセティックな曲をパセティックに歌っても、自然にざらつきが入るので、過度に感傷的になることのない、安全ネットかサーモスタットが組み込まれているみたいなもので、得なシンガーだと思います。

さらに連想ゲーム。オーティス・レディングは、自分のI've been Loving You Too Longのアレンジでやっています、これはこのあいだ取り上げたMerry Christmas BabyのA面としてリリースされたものですが、個人的にはこちらはB面だろうと思います。ヒット・ポテンシャルはMerry Christmas Babyのほうがあったのではないでしょうか。

ディーン・マーティン盤は、これといった特長があるわけではなく、ストレートにやっているのですが、ファンとしては十分に満足のいく出来です。アルバムChirstmas with Dinoには、2種類のWhite Christmasが収録されていますが、トラック17のオルタネート・テイクと注記されたもののほうが、ディノのヴォーカルはいいと感じます。この人独特のディクションと歌い廻しが、こちらのほうに強く出ています。

◆ ギター・インスト篇 ◆◆
流しっぱなしにしていたら、プレイヤーがインストのかたまりに突入したので、ごちゃごちゃいわずに、プレイヤーの並び順でやります。なんせ、あなた、63ヴァージョンあるのだから、いちいちタイトルを見て選んで、これをやろうなんていっている余裕はないのです。昔は迷い箸をすると、「なんです、お行儀の悪い」と母親に怒られたもので、そういうのはいくつになっても抜けないのですな。

f0147840_4254246.jpgチェット・アトキンズは、うちにある2枚のクリスマス・アルバム、Christmas with Chet AtkinsとEast Tennessee Christmasの両方で、White Christmasをやっています。前者はしばしばご紹介しているAdd More Musicでダウンロードすることができるので、みなさんも、当ブログの右にあるFriendsリンクからあちらに飛んで、「Rare Inst. LPs」というボタンを押し、チェットのすばらしいアルバムをぜひお聴きあれ。

f0147840_427166.jpgふたつのヴァージョンのうち、どちらがいいか、なんて野暮なことをいうのはやめておきます。どちらもけっこうです。わたしはギターが好きで、東に困っている人がいると聞けば飛んでいって試聴してみる宮沢賢治状態なのですが、チェットみたいなギタリストって、チェットしかいませんよね。ウェスみたいな人はけっこういるんですが。

同じかたまりに50ギターズのヴァージョンがありますが、これはこれで、そんなにけなしたものでもないと見直しました。50ギターズの出来のよいアルバムを知っているので、それと比較すると、50ギターズ変じて15ギターズとはまたセコい、量を減らして値上げを回避しましたってか、なんて思ってしまいますが、知らなければ、これはこれで心地よいと感じるだろうと思います。

そういえば、ちょうど本日から、Add More Musicでは、50ギターズのMaria Elenaの配布をはじめました。トミー・テデスコがリードです。これはいいですよ、ホント。ギター好き、トミー・テデスコ・ファンは、この記事はここらで切り上げ(わたしも切り上げたい)、あちらにいって、テデスコの美しいプレイをお聴きになるようにお奨めします。

◆ インスト、コンボ篇 ◆◆
さて、お客さんの大部分はもうお読みになっていないでしょうが、さらなるWhite Christmasめぐりをつづけます。

ギター・インストのWhite Christmasとしては、ヴェンチャーズ盤もあります。ヴェンチャーズのクリスマス・アルバムは、何度も書いているように、過去の有名曲のアレンジおよびイントロの借用によって成り立っていますが、この曲はヴェンチャーズ・ファン以外には出典がわかりません。

White Christmasに借用した曲は、たいしてヒットしたわけではない、彼ら自身のBlue Starです。でも、子どものころ、わたしはBlue Starが大好きだったので、White Christmasも、いいなあ、と思いました。じっさい、Blue Starのアレンジは、タイトルどおり、星がきらめくような音ですから、White Christmasにはよくなじみます。

f0147840_4281391.jpgそれに、リードのコード・プレイが、チェット・アトキンズのようなウルトラ・ハイブロウではなく、真似できそうな気がするので、ついギターに手が伸びる仕組みになっています。今日も(70種類のWhite Christmasを抱えて忙しいのに!)ちょっといっしょに弾いてしまいました。アマチュア・ギタリストがクリスマスにプレイ・アロングしたい曲の筆頭ではないでしょうか。そして、このアルバムのなかでも、とくに出来のよい曲のひとつです。

インストとしては、またまたスリー・サンズ盤もあります。例によって珍ですが、これはこのアルバムのなかでもっとも珍。なんだかやたらににぎやかなWhite Christmasで、Jingle Bellsとまちがえたのかと思います。でもまあ、しっとりと、といえば聞こえがいいけれど、要するに、客なんかおっぽり出して、ひとり自分の世界に入っちゃって、むやみにナルシスティックに歌う女性ヴォーカルなんかより、こちらのほうがよほど気持ちがいい……いや、それほどではないにしても、気色の悪い思いはしないですみます。

◆ 大有名曲の〆はやっぱり大真打ち ◆◆
f0147840_4315410.jpgエルヴィス・プレスリーは、順列組み合わせと衣装替えを繰り返して、何度もクリスマス・アルバムがリリースされています。しかし、わたしの好みの方向のアレンジやレンディションがあまりなくて、ここまでまったく言及できず、エルヴィス・ファンのみなさんには失礼してしまいました。White Christmasはまあまあの出来だと思います。でも、エルヴィスを聴くなら、やはりクリスマス・ソングではないほうがいいような気もチラッとします。

エアロン・ネヴィルは、世にこれほどアップテンポが似合わない人はいないってくらいで、この曲も当然、スロウにやっています。この人の声は大好きなので、まあ、なんとなく聴いてしまいます。でも、White Christmasを聴いて、紙一重だなあ、と思いました。ちょっとズレると、ライオネル・リッチーになっちゃいそうな危うさがあります。そうなれば、わたしにとっては天敵ですから、またしても、割ってやるの、火にくべてやるのと、大騒ぎになっちゃいます。声というのは微妙なものだなあ、と痛感しました。バッキングがメロウすぎて、焼きすぎたマシュマロ状態なのもよくないと思います。メロウな声には、ちょっと対位法的なバッキングをしたほうがいいのです。

その点、ルイ・アームストロングは、いくらメロウなバッキングをしても、マシュマロが溶けて串から落ちてしまうような恐れはありません。間奏なんか、トロトロのストリングスですが、サッチモのヴォーカルがちょいビターなので、大丈夫。悪くない出来です。

f0147840_4324858.jpgわがプレイヤーには、検索結果リストの並び順のいたずらで、つぎにチップマンクス盤がきて、しかも、サッチモ盤と同じでキーがCなので、きれいにつながってしまいました。

でも、このトラックではチップマンクスは歌いません。最初にアルヴィンが登場して、「デイヴ、どうしたの、悲しそうな顔しちゃって」なんていうと、デイヴィッド・セヴィルが、「いや、悲しいわけじゃないんだよ」といって、White Christmasに入ります。ホワイト・クリスマスならいいのになあ、と思っていただけなんだ、というわけです。最後にまたアルヴィンが登場して、「デイヴ、見てみなよ、雪が降ってきたよ」といってエンディングとなります。いやあ、泣けますねえ。わたし、チップマンクスが大好きです。

エラ・フィッツジェラルドとバーバラ・ストライザンドの、どうだ、うまいだろ、といわんばかりの気色の悪いクリスマス・アルバムを中古屋に売り飛ばして、もてなしの心に満ちた、チップマンクスのあたたかくて楽しいクリスマス・アルバムをお買いになるように、強く、強く、衷心よりみなさまにお勧めします。わたしが考える音楽のあるべき姿は、エラ・フィッツジェラルドとは正反対の方向、たとえば、チップマンクスのサービス精神に結晶しています。

大真打ちのアルヴィンとチップマンクスが出てしまえば、あとはみな三文役者。いまや馬鹿馬鹿しいお座敷芸じみてきた、当ブログのクリスマス・ソング一気棚卸し、White Christmas篇も、これにて店じまい。お休みなさい。いや、棚卸しは明日もつづきますよ。またのご来場をお待ちしています。
by songsf4s | 2007-12-16 03:28 | クリスマス・ソング
White Christmas その1 by the Drifters
タイトル
White Christmas
アーティスト
The Drifters
ライター
Irving Berlin
収録アルバム
The Definitive Drifters
リリース年
1954年
他のヴァージョン
別掲
f0147840_043714.jpg

このところ、質より量で勝負になってしまい、数ばかりこなしていますが、まだ粗製濫造をつづけてなければならないようです。

Jingle BellsとWhite Christmas、どちらがたくさんあるだろうか、勝負は伯仲するだろうと思っていました。とんでもない。ダブル・スコアでWhite Christmasの圧勝です。いやはや、Summertimeのときに、なんてヴァージョンが多いんだ、と嘆いたのが懐かしく思えます。あのときはたったの14曲ですから。

見たくもないでしょうが、わが家のHDDを検索した結果を以下に、ドンと投げ出してみました。

Aaron Neville
Alvin & The Chipmunks
Andre Kostelanetz
Andy Williams
The Beach Boys
Bette Midler
Bing Crosby
Bing Crosby & Frank Sinatra
Bing Crosby-Danny Kaye-Peggy Lee-Trudy Stevens
Bob Conrad
Booker T. & The MG's
Burl Ives
Chet Atkins
Chet Atkins [alt. take]
Cliff Richard
Connie Francis
Darlene Love
Dean Martin
Dean Martin [alt. take]
Dick Haymes
Dolly Parton with Kenny Rogers
Domenico Savino & His Orchestra
Doris Day
The Drifters
Ella Fitzgerald
Elvis Presley
Esquivel
Fats Domino
Frank Sinatra
Frank Sinatra [alt. take]
Frank Sinatra [another alt. take]
Henry Mancini
Jackie Gleason
Jo Stafford
John Denver
Johnny Mathis
Louis Armstrong
Louis Armstrong & Friends
Rosemary Clooney
Olivia Newton-John with Kenny Loggins & Clint Black
Otis Redding
Patti Labelle & The Bluebelles
Paul Mauriat And His Orchestra
Peggy Lee
Percy Faith
Perry Como
Ray Conniff
Rosemary Clooney
The Supremes
The 50 Guitars
The 4 Seasons
The Carpenters
The Four Lovers
The Isley Brothers
The Lennon Sisters
The Osmonds
The Partridge Family
The Statues
The Temptations
The Three Suns
The Ventures
Tony Bennett
Willie Nelson

これで63種あります。ほんとうはもっとあるのですが、うるさいから、大嫌いな数ヴァージョンを刈り取ってしまいました。いや、これでもまだ十分にうるさいですけれどね。

f0147840_1252537.jpg

看板にはドリフターズ盤を立てましたが、これはもうきわどい勝負でして、いまもまだ迷っています。すくなくとも3枚、できれば5枚は看板を立てないと、ビリングの秩序を保てないってぐらいなものです。

すくなくとも、わが家のHDDのなかで統計をとったかぎりでは(まだ圧縮していないLPが数千枚あるのですが)、White Christmasは、シンガーたちにもっとも人気のある曲であることはまちがいありません。となると、その人気のよって来たるところはなんなんだ、と追求したいような気もしますが、シンガーというのは複雑で思索的な人種ではないので、理由はきっと単純なものにちがいありません。歌うと気持ちがいい、といったあたりじゃないでしょうか。

◆ オールド・ファッションド・クリスマス・ソング ◆◆
まあ、そういうことはあとまわしにして、とりあえず歌詞を見ていきましょう。当ブログへの、アーヴィング・バーリン師匠の初登場であります。

I'm dreaming of a white Christmas
Just like the ones I used to know
Where those treetops glisten, and children listen
To hear sleigh bells in the snow, the snow

f0147840_1274173.jpg「わたしはホワイト・クリスマスを夢見ている、木々の頂きが雪でぴかぴか光り、子どもたちが雪のなかに響くスレイ・ベルの音に耳を澄ます、そんな、昔知っていたクリスマスそっくりそのままのクリスマスを」

つづいてセカンド・ヴァース。この時期、つまりクライド・マクファーターがリード・テナーだった初期のドリフターズは、基本的にはドゥーワップ・グループなので、ところどころこぶしがまわっています。Iがつづくのは、どもっているのではなく、こぶしです。

Then, I-I-I am dreaming of a white Christmas
With every Christmas card I write
May your days, may your days, may your days be merry and bright
And may all your Christmases be white

f0147840_1443897.jpg「クリスマス・カードを一枚一枚書くごとに、ホワイト・クリスマスを夢見る、あなたがすばらしい毎日を送れますように、あなたのクリスマスがホワイト・クリスマスでありますように」

以上の2ヴァースでおしまいです。今日はヴァージョンが多すぎ、プレイヤーに根太があるなら、いまごろ折れているだろうという重さなので、短い歌詞は涙が出るほどうれしいですわ。

◆ ドリフターズ盤 ◆◆
いきなり細かい話になりますが、ドリフターズ盤のアレンジで好きなところは、May your days, may your days, may your daysのところです。楽器ではなく、バック・コーラスで、メイジャー・セヴンスのペダル・ポイント的な響きを強調しているしてところもいいですし(ここを強調しないとポイントがボケてしまう。そういう平板なヴァージョンも多数あり)、リードが、他のヴァージョンとはちがうラインを歌うところも、すごく魅力的です。

ドリフターズ盤のキーはAbですが、簡略化のために便宜的にCに移調していうと、ここはC-Cmaj7-C7-F-Fmという流れになっています。ルートだった音は、B-Bb-A-Ab-Gときれいに半音ずつ下がっていきます。明らかに、この曲の見せ場、聴かせどころ、フック・ラインです。とりわけドリフターズ盤は、ここの流れがきれいに響き、いつも待ちかまえていっしょに歌っています。

f0147840_14698.jpg

しかし、当ブログはじまって以来の、団塊世代の大学受験のような、とてつもない競争率(63分の1の確率!)のなかで、ドリフターズを看板に立てたのは、メロディーの改変が理由ではありません。ひとことでいえば、このヴァージョンが「現代クリスマス・ソング」の扉を開いたからではないか、と考えたからです。

f0147840_1475987.jpgほかにいくらでも曲があるのに、よりによってアーヴィング・バーリン書くところの国民的愛唱歌を、こともあろうにドゥーワップ・アレンジでやってしまったのは、ひょっとしたら、小さな革命ではなかったでしょうか。

賛美歌や、それに範をとったお行儀のよいクリスマス・ソングの時代がほんとうの意味で終わったのは、アーヴィング・バーリンがWhite Christmasを書いたときではなく、アーヴィング・バーリンのWhite Christmasに、黒人ドゥーワップ・グループが、黒人音楽のアレンジを適用し、大ヒットさせたときだと思います。

f0147840_1493388.jpgきちんと検証したわけではなく、いろいろなクリスマス・ソングを聴いていて、ここが大きな転回点ではないか、と直感的に思っただけにすぎないのですが、行儀の悪い現代クリスマス・ソングの出発点として、ドリフターズのヴァージョンは重要だと、目下のところは信じています。これがあったから、フィル・スペクターやヴェンチャーズのクリスマス・アルバムも生まれたのではないか、とさえ思います。

ちなみに、1955年以降、ビルボード・チャート100位以内に到達したWhite Christmasは、ビング・クロスビー盤をのぞけば、ドリフターズ盤のみです。ビング盤がリイシューでも大ヒットしているのに対し、ドリフターズは下位ですが、それでも、ほかのヴァージョンはまったく影も形もないのだから、この曲のレンディションとして、ドリフターズ盤はビング盤と並ぶ代表作なのだといってかまわないでしょう。

◆ とりあえずビール、じゃなくて、とりあえずビング ◆◆
ここからは、歴史的重要性など抜きにして、好きなものをいくか、なんて思うのですが、White Christmasともなると、なかなかそうはいかないですねえ。本来なら、これを看板に立てるべきじゃないか、という重要ヴァージョンがいくつもあって、「本来」もなにもあったもんじゃないだろ状態であります。

たとえば、チップマンクス盤、いや、そうじゃなくて、ジングル・キャッツ盤、でもなくて、ビング・クロスビー盤ですよね、やっぱり。たしかに、ビングのWhite Christmasが流れると、これがクリスマス・ソングじゃなければ、この世にクリスマス・ソングなどない、と思います。

f0147840_1524338.jpgなんたって、うちでわかる1955年以後のチャートだけだって、なんと8回もチャートインしているんだから呆れます。1942年のリリースですから、55年以前は毎年チャートインしていたのではないでしょうか。それも当然でしょう。これが流れれば、どこでなにをしていても、クリスマスだなあ、と思うのですからね。逆にいえば、クリスマスだなあ、と思いたくなったら、ビングのWhite Christmasを流せばいいのです。

f0147840_1552021.jpgWhite Christmasといえばビング、ビングといえばWhite Christmasというくらいで、一心同体、死なばもろとも、おまえ百まであたしゃ九十九まで、鶴は千年亀は万年(これは関係ない)ですから、一回や二回の録音ですむはずがありません。あまりにもヴァージョンが多くて、リストからうまくビングのだけを拾い出せないのですが、フランク・シナトラとのデュエットや、ダニー・ケイ、ペギー・リー、トゥルーディー・スティーヴンズとの共演盤もあります。テレビでデイヴィッド・ボウイとやったのも見たことがあります。いや、あれはWhite Christmasではなく、Little Drummer Boyだったか。

f0147840_1574056.jpgそれはともかく、シナトラとの豪華競演でも、ビングが自分の土俵に持ち込んだ、というか、シナトラが三舎を避けたというか、オーソリティーに敬意を払ったかっこうになっています。

最後に「Merry Christmas, Bing」「Merry Christmas, Frank」と挨拶を交わすところが、なんだか妙にジンときます。ビング・クロスビーとフランク・シナトラがいっしょに歌って、挨拶までしている、すごいなあ、てえんで完璧にミーハーですわ。歌の出来なんかどうでもよくて、クリスマスにふさわしい豪華さが珍重に値します。お釈迦さんとマホメットが、まあ、今日はほかならぬキリストくんの誕生日だからね、なんてえんで、教義の違いはとりあえず棚上げにして、握手したみたいなもんです。

★ ★ ★ ささやかな事故のお知らせ ★ ★ ★
画像をアップロードしている途中で、文字数が多すぎるといわれたので、やむをえずここで二分割します。ほんのわずかな時間で二回更新する形になりますが、本来はひとつながりだったものですので、つぎの記事はそのつもりでお読みくださるようお願いいたします。
by songsf4s | 2007-12-16 00:05 | クリスマス・ソング