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2014年 02月 02日 ( 1 )
トッド・ラングレンのひとり2パート・ハーモニー その2
 
トッド・ラングレンのいま出回っている盤を眺めていて、アマゾンの記述は不正確だと思ったものがある。

これは間違えても不思議はないのだが、トッドのソロの1枚目と2枚目のタイトルは、

Runt 1970

Runt: Ballad of Todd Rundgren 1971

である。これが目下2ファーとして1枚になっている。だから、表記としては、

Runt/Runt: Ballad of Todd Rundgren

が正しいのだが、じっさいにはRunt/Ballad of Todd Rundgrenと、Runtがひとつ足りず、セカンド・アルバムのタイトルが半欠けになっている。

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以前、「Only a Game by Matthew Fisher」という記事で、Mathew Fisherというタイトルのアルバムと、Strange Daysというタイトルの2枚を合わせた2ファーCDなのに、たいていの人が、マシュー・フィッシャーというシンガーのStrange Daysという1枚のアルバムであるかのように誤解していると書いたが、それと似たような現象といえる。

トッドの最初の2枚がなんでこんなややこしいことになったのか、昔、友人に理由を縷々説明されたのだが、忘れてしまった。

たしか、セイルズ兄弟とトッドの3人で、「ラント」というグループを組んだつもりだった、というような話だったと思う。

それが実現せず、その名残として、トッド・ラングレンのアルバムというより、ラントというバンドのアルバムのような形式にした、とかいったことじゃなかっただろうか。まあ、どうでもいいようなことだが!

さて、今回は1972年にリリースされたサード・アルバム、Something/Anything?の2番目に収録されたこの曲のハーモニーを検討する。

このダブルLPは、最後のD面を除く、A、B、C面の全曲のソングライティング、演奏、ヴォーカルをトッド・ラングレンがひとりでやっている。この曲もそのひとり多重録音。

Todd Rundgren - It Wouldn't Have Made Any Difference


かなり変なハーモニーだということは、一聴、たちどころにおわかりかと思う。どこにどのようにハーモニーを入れるか(あるいは入れないか)という、ひとつ上のレベルのメタな部分も問題なのだが、とりあえず、どんなラインをつくっているかを見る。

まず、ファースト・コーラスの後半。When itまでは単独で、Wouldn'tから上にハーモニーが入ってくる。

以下の譜面がわりの「半採譜」では、例によって上段が歌詞、中段がメロディー、下段がハーモニー。You just didn't love meのところはハーモニーが消えるので、略した。

When it wouldn't really
Db-D-E-E-E-E
    A-A-A-A
make any difference
E-Db-B-B-A-Db
A-F#-E-D-E-E
If you really loved me
B-B-B-A-B-Db
E-E-E-D-E-F#

メロディーからしてすでに動きの小さいお経ラインなので、ハーモニーもお経になるのは当然の結果なのだが、それにしてもやはり、ピーター&ゴードンやデイヴ・クラーク5のスタイルを連想させる。

こうして眺めると、ラインそれ自体はそれほど強引とはいえず、たんに、ハーモニーが入ってくる時の高いAの音のように、その音域でハーモニーを入れるのは、ふつうは避けるのではないかというところでハーモニーを入れるので、それが無理矢理な感触を生み、耳を引っ張られるらしい。

loved meのところのハーモニーがF#にあがるのも気になるのだが、ここのコードはF#mなので、F#は主音だから、外れているわけではない。トッドの声がひっくり返るか返らないかの微妙な出方をしていて、ピッチが揺れるので耳を引っ張られるのかもしれない。

ここがこの曲のヴォーカル・アレンジの複雑なところなのだが、ファースト・ヴァースにはハーモニーはなかったのだが、セカンドの冒頭には入っている。いちおうコピーしてみたが、後半の尻尾(I could be)はよく聞こえず、まったく自信なし。

I know of hundreds
B-A-E-B-A
D-Db-A-D-Db
Of times I could be
Ab-Ab-Ab-Ab-Ab-F#
B-B-B-B-B-A

メロディーがI know ofのofでEまでジャンプするので、いきおい、ハーモニーも上へと押し上げられるわけだが、それにしてもAまでジャンプすることはないのに、と(笑いながら)思う。しかし、そこでハッとするのだから、効果的といえるのだが。

このofのところだけ上は歌わず、I know -- hundredsと歌っても、まったく問題ないはずなのに、かなり無理のあるジャンプをやってしまうのが、いかにもトッド・ラングレンだと思う。

ここは、大滝詠一の「それは僕ぢゃないよ」に出てくる、「ただの風さ」の「さ」で上のCまでジャンプするところを想起させる(「大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その14」という記事で詳細に検討した)。

いや、ここは最初の音からして、すんなり収まらない。ここのコードはIのところはE、knowのところでAに行く。E-Aという進行だ。

したがって、当たり前ながら、メロディーはコードの構成音であるB-Aと動いているのだが、ハーモニーはD-Dbという遷移になっている。DbはAメイジャーの構成音だが、DはEメイジャーの構成音ではない。

この部分のハーモニーがイレギュラーに響くのは、このDの音のせいだと思う。DはEに対してセヴンスの音なので、コードがEメイジャーのところでDを歌うと、合わせてE7コードということになってしまう。

視点を変える。Dの音はAメイジャー・コードではサスペンディッド4th(以下sus4)を形成する。sus4は長くつづけないほうがいいコードで、すぐにメイジャーに戻す必要があるが、I knowのコードがAsus4→Aの遷移だとみなすと、この変則ハーモニーはちょうどその規則にしたがって音が動いたことになる。

いや、話が逆だった。D-Dbという動きのせいで、ここのコードがAsus4→Aと動いたかのような印象を与えるのだろう。それで、「なんとなく変だ」というところに留まり、「合ってないんじゃないか」とは感じないのだと思う。

こんなことを計算してやったとは思えないのだが、まあ、とにかく、結果的にAsus4の響きになって、この変なハーモニーは、変は変なりにかろうじて落ち着いたような気がする。呵々。

だいぶ離れたので、もう一度、同じクリップを貼り付ける。

Todd Rundgren - It Wouldn't Have Made Any Difference


個々のラインではなく、ハーモニーの「出し入れ」についてもすこし見ておく。これが凝っているのだ。

この曲はVerse/Chorus/Verse/Chorus/
Bridge/Verse/Chorusという、典型的な構成をとっている。しかし、ハーモニーの使い方は、各ブロックごとにすべて異なり、同じパターンを繰り返すことはない。

最初は、ハーモニーが入るのはコーラスの後半のみ(バックグラウンドのウーアー・コーラスは勘定に入れない)。

セカンド・ヴァースは、ヴァース冒頭と、コーラスの大部分にハーモニーがある。

サード・ヴァースは、コーラス前半の後半分とコーラス後半(ややこしい書き方で申し訳ない。コーラスを4つの部分に分けると、2番目と3番目と4番目)にハーモニーがある。

さらにややこしいことに、コーラスのハーモニーがないところには、メロディーをダブル・トラックにしてユニゾンで歌っていたりするし、ハーモニーのチャンネルを移動させたり、じつに目が回るような細かい操作をしている。

すべてが計算されたわけではなく、ヴォーカルを7回も8回も重ねているうちに、あっちのチャンネル、こっちのチャンネルと動かしてしまい、そのままミックスしただけなのかもしれないが、分析する方は「神経衰弱じゃないんだからさあ、トッド」とボヤきが出る。

32トラック初体験だったのか、ヴォーカル・アレンジの実験をやっているとしか思えない。いや、変なハーモニー・ラインとは直接に関係のあることではないのだが、どちらも、オーヴァーダブの時点であれこれ考えたことの結果なのだと思う。

これはトッド・ラングレンのソロではなく、彼のバンド、ユートピアの曲だが、参考にクリップをおく。ビートルズ・ファンは、冒頭の数小節でトッドの意図がわかって笑いだすにちがいない。

Utopia - I Just Want to Touch You


これはDeface The Musicという1980年のアルバムのオープナーで、LP全体がビートルズのパスティーシュになっている。

しかも、曲調やアレンジは徐々に後年のビートルズのスタイルへと変化していき、彼らの歴史をたどるような構成になっている。遊びはまじめにやらないと面白くないわけで、やるなら凝らないといけない。

ただし、最後は68年ごろの音で、つまり、最後の2枚には模作するほどの面白味はないということを示唆している(と偏見)。

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いや、話はそこではなかった。ハーモニーの問題である。

サンプル Utopia - Where Does the World Go to Hide

最初のI Just Want to Touch Youにしても、この曲にしても、ハーモニーはやっているのだが、ノーマルで、とくに耳を引っ張られる箇所はない。

ここがよくわからない。ビートルズのパスティーシュなのだから、トッドらしい変則ハーモニーが飛び出しそうなものだが、アルバム全体を通して、とくにそういう曲はない。

いちおう、拡大版のフル・アルバムをおいておく。ビートルズのどの曲がベースになっているか考えながらお聴きあれ。簡単な曲もあれば、悩む曲もある。

Utopia - Deface the Music extended edition full album


結局、バンドとしてやるには、あの変則ハーモニーはあまりにも面倒なのかもしれない。ライヴでやると外しやすい難所になってしまうということもあるだろう。

トッドがダリル・ホールとやったライヴでも、スタジオ録音のコピーのような2パートはわずかな箇所のみで、おおむねウーアー・コーラスで逃げた。

では、最後にそのライヴ、It Wouldn't Have Made Any Differenceの近年の姿を。




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Todd Rundgren
Runt/Ballad of Todd Rundgren
Runt/Ballad of Todd Rundgren

Something/Anything
Something/Anything

RuntおよびFaithfulを収録
Todd Rundgren (Original Album Classics)
Todd Rundgren (Original Album Classics)

Utopia
Adventures in Utopia & Deface the Music/Swing to T
Adventures in Utopia & Deface the Music/Swing to T
by songsf4s | 2014-02-02 23:03 | ハーモニー