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2011年 10月 17日 ( 1 )
The Beatles Studio Sessionsを聴く その7 Help! 後編
 
毎回、トラック・リスティングを見て、この曲が入っているなら、そっちを聴かせろよ、と思われる方も多いだろうと想像します。

しかし、ラフ・ミックスのアセテートだとか、DVDからの切り出しといった、たんなるミックス違いもたくさんありますし、すでに多数のブートで出回っているものや、音質のよくないものもあり、そういうのを選り分けていると、こうなってしまうのです。ご寛恕を。

いまではユーチューブにも多数の別テイクがあがっているので、探せば相当数が聴けると思います。わたしがオミットしても、やはり気になる、という曲がある場合は、検索なさってみるといいでしょう。

◆ Ticket to Ride唯一のテイク ◆◆
マーク・ルーイゾーンのThe Complete Beatles Recording Sessionsは、上梓のときにすぐにあの重いLPサイズのハードカヴァーを買って(銀座イエナで。まだアマゾンがなかった)通読しましたし、折にふれて参照してきました。

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しかし、こういう機会に改めて調べると、びっくりすることがまだあります。今回の驚きは、Ticket to Rideが、後にも先にも2テイクしかなく、しかも最後までいったのはテイク2のみだということです。だから、あのよく知っているサウンドのものしか聴けないのです。

しかし、これはTwist & Shoutが2テイクで完了した(テイク1がリリースされた)のとは意味が違うことが、The Complete Beatles Recording Sessionsを読むとわかります。説明の前に(と気を持たせるほどのことではないのだが)、話が長くなったので、音を貼りつけます。

オフィシャル・リリースと並べて聴かないと違いがわからないと思いますが、Ticket to Rideのステレオ定位を広げたリミックス・ヴァージョンというのをおいてみます。

サンプル The Beatles "Ticket to Ride" (take 2 wide stereo remix)

どうしてそういうことになったかというと、テイク・ナンバーをふらずに、リハーサルからテープを廻し、いいものがあれば、それ(トラックのみであったりする)をOKとするという方法を使いはじめたのがひとつ。

リハーサルであれ、テイクであれ、いいバックトラックを選んで、ここにあらゆるものを積み重ねるという方法をとりはじめたので、テイクがほとんどない曲というのも散見するようになった、といったぐあいに、マーク・ルーイゾーンは説明しています。その典型がTicket to Rideなのだと。

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したがって、ポールがリードを乗っ取る前の、ジョージのオブリガートが入ったTicket to Ride、なんていうのはありません。十代のときから兄貴分と弟分のような関係でやってきたから、それなりに収まっているのでしょうが、ふつう、揉めますよ、こういうことをすると。

いや、リードのプレイといい、これまたポールが考えたという、フラムを多用するドラム・パターンといい、まったく自明ではなく、立派なものだと思いますが、しかしそれゆえに、押しのけられたほうの腹立ちはいや増したことでしょう。ジョンのおかげで、パワーバランスがとれていたに違いありません。

◆ 「それはたくさんを意味する」と自動翻訳はいった ◆◆
冒頭でご説明したとおり、Help!本体に関するかぎり、あとはミックス違いや、よくある別テイクが収録されているだけで、あえて取り上げるほどの曲はもうありません。

シングルについても似たようなものです。リンゴが歌ったIf You've Got Troublesは、以前から何度もブートに収録され、Anthology入りも果たしたので、たいていの方がご存知でしょう。

結局、ボツになって、リンゴはかわりにバック・オウエンズのAct Naturallyを歌うことになりますが、それもnaturallyだと思います。If You've Got Troublesはいかにもトラブルサムな曲で、彼らが放棄したのは当然です。

もう一曲、彼らが放棄した曲は、やむをえない判断ではあったものの、ちょっと惜しいと感じます。ポールの曲です(絵は『ヘルプ!』の撮影風景)。

The Beatles - That Means a Lot (take 1, Anthology ver.)


このヴァージョンが、従来からブートによく収録され、最終的にAnthologyでもとられることになりました。

はじめて聴いたときは、エコーのかけ方のせいもあって、まったくビートルズらしく聞こえませんでした。スペクターごっこかよ、です。

楽曲も、アレンジ、サウンドも、ポールのヴォーカルも、ジョンとジョージのコーラスも、それ自体はすべて、なにも悪い点はないと思います。たんにビートルズの音楽に聞こえないだけです。

テイク1は1965年2月20日に録音されましたが、それから40日ほどたって、彼らはThat Means a Lotのリメイクを試みます。録音されたものから、もうすこしバンド・サウンドらしくしようという意図だったと推測できます。

The Beatles - That Means a Lot (remake take 20)


ノーマン・スミスが冒頭でリメイクを宣言し、テイク・ナンバーはいきなり20に飛びます。

深いエコーはないギター・コンボ・アレンジ、ということで、こちらはビートルズの音に聞こえますが、だれが聴いても、やっぱりちがうだろー、という雰囲気です。

The Beatles - That Means a Lot (remake take 21)


The Beatles - That Means A Lot (remake take 23-4、クリップのタイトルはtake 22-24となっているが、22はない)


マーク・ルーイゾーンの本によれば、テイク24でリメイク・セッションは終わっています。これで彼らはこの曲の完成をあきらめ、P・J・プロビーが歌うことになります。

サンプル P.J. Proby "That Means a Lot"

バート・バカラックの曲をジーン・ピットニーが歌っているのかと思っちゃいます。これでこの曲がうまくいかなかったか理由は明らかです。

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構造的に見て、ビートルズが歌うべき曲になっているとは思えません。しいていうなら、Yesterdayのようにポールがひとりで歌えばうまくいったかもしれませんが、たとえそうしていても、あるいは、そうなればなおのこと、ビートルズのアルバムには収録できなかったでしょう。

最後の手段はI'll Be BackやAnd I Love Herのようなアコースティック・アレンジかな、と思いますが、その前に四人は、この曲は違うと判断したのだろうと思います。歌詞があいまいで、ビートルズの大きな魅力のひとつであった直截性に欠けるのも、致命的な短所だと思いますが。

Yesterdayといい、このThat Means a Lotといい、ポールはこの時期、マット・モンロー的ムードにあったのかもしれません。仕事のうえでか、プライヴェートでのことか、そんなことは知りませんが、なにかuneasyな状況があって、ややタイプの違う曲、というか、ここまではあまり表に出さなかった側面を強調しはじめたのかもしれません。

今回聴き直して、改めて感心したのは、彼らがこのやや異質な曲を、非ビートルズ的スタイルでさばいてみせたそのスキルの高さです。みなフィル・スペクターのファンだったのだから、わからなくはないのですが、それにしても、その気になりさえすれば、ビートルズ的相貌を捨てられるともわかったのは、この実を結ばなかったセッションの収穫だったと感じます。

That Means a Lotのテイク2は、ビートルズ以前の時代への先祖返りのような古めかしさをまとっていますが、ベクトルは異なるにせよ、非ビートルズ的という意味では、このあとのビートルズの変化と呼応するように感じます。

いかにもビートルズらしいビートルズの時代は、このHelp!で終わります。ここから先は、変化につぐ変化の時期です。ビートルズ・ファンの好みも割れていきます。

わたしはRubber Soulを好みますが、わたしのあまり好まないRevolverを彼らのベスト・アルバムとする人もいます。好みかどうかは別として、Sgt. Peppersは驚きに満ちたアルバムでした。

ビートルズは、それまでのビートルズとは異なる音の可能性が広がっていることに気づき、よくいえば発見の旅に向かうことになります。悪くいえば、長い長いダウンヒルにさしかかります。

次回は、べつのブートレグを使ってRubber Soulをやるか、久しぶりにブライアン・ウィルソンに正面から向き合うか、はたまた日活を見るか、それともギターものか、まだ決めかねています。


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by songsf4s | 2011-10-17 23:51 | ブリティシュ・インヴェイジョン