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2011年 10月 09日 ( 1 )
The Beatles Studio Sessionsを聴く その1 With The Beatles
 
今日は映画のほうをやろうと、いちおうの準備(例によってサウンドトラックの切り出し)をすませ、なかばまで書いたのですが、途中で疲れ、「積ん読」になっていたビートルズを聴いたら、いろいろ面白いことがあって、そちらを先に書く気になってしまいました。

ビートルズに関しては、膨大なブートレグの蓄積があり、彼らが録音したもので、ブート化されていないものはないのではないかと思うほどです。

いや、極論です。まだ全曲の全テイクが聴けるようになったわけではありません。でも、その方向に徐々に歩んでいるのはまちがいないでしょう。この四半世紀ほどのあいだに、ずいぶんさまざまなテイクを聴けるようになりました。

となると、それをまとめてみようという人間があらわれ、ブートの登場と流通となります。だんだん話が微妙なところに入り込むので、そのあたりの「業界」のありようは、ブラックボックスとして、話を進めます。

「積ん読」になっていたビートルズとは、当記事のタイトルに書いたように、With The Beatles収録曲の各種テイクを集めたものです。わたしの知るかぎり、これまででもっとも総合的な別テイク集です。

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◆ For Fans Only ◆◆
順番にしたがうなら、Please Please Meから入らなければいけませんが、With The Beatlesのほうが好きで、そちらから聴きはじめてしまったので、Please Please Meは後日に書くことにします。

別テイク集というのは、徹底的に聴きこんだアルバムでないと面白くありません。したがって、この記事の対象は、ビートルズ・ファンのみです。ビートルズには馴染みがない、あるいは好まないという方は、現物を聴いても、当記事を読んでも、面白くもなんともないでしょう。

まず、With The Beatlesのオフィシャル・リリースのソング・リスティングから。

1. It Won't Be Long *
2. All I've Got To Do
3. All My Loving *
4. Don't Bother Me *
5. Little Child
6. Till There Was You
7. Please Mister Postman *
8. Roll Over Beethoven *
9. Hold Me Tight *
10. You Really Got A Hold On Me
11. I Wanna Be Your Man *
12. Devil In Her Heart
13. Not A Second Time
14. Money

以上のうち、The Beatles Studio Sessionsにオルタネート・テイクが収録されているのは、曲名の末尾にアスタリスクを付したものです。

また、この時期にシングルやEPでリリースされただけで、アルバムには収録されなかったものとして、

From Me to You
Thank You Girl
I Want to Hold Your Hand
She Loves You
This Boy

の五曲、さらに、後年Let It Beでリメイク・ヴァージョンがリリースされることになるOne After 909などが収録されています。

さて、それでは音そのものへとまいりましょう。しつこく繰り返しますが、この記事はビートルズ・ファン・オンリーです。徹底的に聴きこんで細部を知っていないと、ヴァリアントを聴いても、違いがわからず、面白くないでしょう。

では、記憶を新たにするために、まず一曲、オフィシャル・リリース・ヴァージョンを聴いていただきます。

The Beatles - Don't Bother Me


ご存知のように、Don't Bother Meはジョージ・ハリソンが書いた曲ではじめてリリースされたものです(厳密にいうと、Cry for a Shadowを処女作というべきかもしれないが、EMIからリリースされたものではない)。

したがって、ヴォーカルもジョージ自身ですが、当然ながら、かなり危ないし、ビートルズもまだ安定する以前なので、ちょっと苦闘していて、いま振り返れば、その苦しみが非常に興味深く感じられます。

それではサンプルをどうぞ。

サンプル The Beatles "Don't Bother Me" (take 10 with no overdub)

完成品というのは、全体に対してディレイやリヴァーブがかけられたり、とくにビートルズの場合、ヴォーカルをダブル、トリプルにしたりするものですし、パーカッションやギターリックを加えたりもしますが、これはそれ以前の、映画でいうなら「プロダクション」段階の音です。ポスト・プロダクション処理がされる以前の、nakedトラックなのです。

いや、ヴォーカル・オーヴァーダブはしているではないか、とお考えの方がいらっしゃるかもしれませんが、それは勘違いです。ビートルズは、For Saleまではヴォーカルも含めて、いわゆる「一発録り」でした。プレイしながら「ライヴで」歌っていたのです。

プレイをまちがえても、ヴォーカルをとちっても、リテイクしなければならなかったので、大変といえば大変ですが、基本的にはスタジオ・ライヴですから、ある意味で面倒がないし(だからPlease Please Meを一日で完成できた)、初期のビートルズがもっていたはつらつたる魅力の源泉は、ひとつにはこの一発録りにあったのではないかと思います。

いや、それにしても、苦しんでいますなあ。ジョージはピッチのいいほうではないし、リンゴも初期はミスが多く、やがて安定するタイムも、この時代には(とくにフィルインで)不安定になることがあって、そうした若きジョン、ポール、ジョージ&リンゴの未熟さがよくあらわれたトラックです。

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もちろん、ファンというのは馬鹿なもので、その苦しむビートルズに感情移入し、なんとかいいテイクを録ろうと汗をかくファブ4をひどく愛おしく感じるのですけれどね! お互い、若かったなあ、てな気分です。

細かいことをいうと、このトラックでの、ブレイクからの戻りの、スネアの一打を改めて聴いて、リンゴはまだ基本的なタイムが早かったことを確認しました。基本的なタイムが微妙に早いので、こういう一打でも、ほんのミリセカンド早く入ってしまうのであり、それが全体の不安定さを招来していると感じます。いや、いまとなれば、この未熟さも魅力のひとつなので、タイムが早くたっていいんですがね!

つぎの曲はもっと苦しんでいます。まずはオフィシャル・リリースされた完成品から。

The Beatles - Hold Me Tight (mono)


Don't Bother Meもそうですが、Hold Me Tightもあまり世評は高くありません。ただし、ポールは愛着があるといったことがあり、その裏にはなかなかキメられなかったスタジオでの苦しみがあるのだろうと思います。

それでは七転八倒分の一をご紹介します。ほんとうは七足す八どころか、オリジナルとリメイクをすべて勘定すると40テイク前後あるようなので、十八転十九倒ぐらいだったようですが。

サンプル The Beatles "Hold Me Tight" (take 21 complete)

この曲はギターがまじめにリックを弾きつづけなければならず、ミスをすればすぐにわかるタイプなのですが、意外にも(といってはジョンとジョージに失礼だが)苦しみに苦しんでいるのはポールです。

このテイク21は、途中でブレイクダウンすることなく、最後までいっていますが、リリース・テイクにくらべて、ポールのヴォーカルがあちこちでスムーズにいっていないのははっきり聞き取れます。

ポール自身、納得がいかなかったに違いありません。冒頭でブレイクダウンしてしまったテイク23に彼の苛立ちが記録されています。

サンプル The Beatles "Hold Me Tight" (take 23 breakdown)

しかし、なんと魅力的なことか、とため息が出ます。わたしはジョン・レノンのファンであって、ポール・マッカートニーのファンであったことはないのですが、それでもなお、これだからビートルズは特別だったのだ、といいたくなるほど、ポールの声が魅力的で、じつに胸に迫るものがあります。

リリース・ヴァージョンでは、ヴァースでポール自身がオーヴァーダブしているので、こういう生な若々しい声は聞けません。半世紀近くも遅れてファンになりそうです!

もう一曲聴きます。まずはリリース・ヴァージョン。

The Beatles - Thank You Girl


こちらはジョンの曲ですが、例によって、ときおりポールがジョンにかわってメロディーを歌い、ジョンがその三度下にまわったりする、初期ビートルズならではの変則的なハーモニーをやっています。この入れ替わりが子どものころも大好きでしたし、いまでも好ましく思います。ジョンとポールだからこそ、こんなことをやったのです。

サンプル The Beatles "Thank You Girl" (take 6)

ジョンとポールのヴォーカルにもあちこちにほころびがあり、スムーズにいっていませんが、なんといっても、リンゴがミス連発で、頭を抱えてしまうようなテイクです。

初期のリンゴはフィルインのミス、タイム・キーピングのしそこないがけっこうあるのですが、この曲のような状態では、どうおまけしても、OKは出せません。とくにエンディングにかけてフィルイン連発になるところは、うわあ、どうしよう、です。

おそらく、どうしてもうまくいかないからでしょう。エンディングだけ独立させ、edit pieceとして、何度か録音し直しています。あとでそこだけ、他のまともなテイクにテープ編集でつなげるための措置です。ところが、そのエディット・ピースでもリンゴはミスを繰り返し、泥沼の様相を呈します。いや、ジョンとポールのヴォーカルも、この部分はなかなかうまくいかないのですが。

サンプル The Beatles "Thank You Girl" (take 9 edit piece)

リンゴは左利きで、同じ左利きとしてわたしはよくわかるのですが、右利き用のセッティングで16分のフィルインを叩くと、うまくいかないことがしばしばあります。ストレートにスネア-タムタム-フロアタムというように流せないので(右手から入らずに、左手から入ると、手を動かす順番からいって、移動がうまくいかない)、変則的なフィルをたくさんつくったとリンゴ自身が、後年語っています。

そういう事情もあったでしょうし、そもそも、中期までのリンゴのタイムがちょっと不安定なところがあって、こうした、あらあら大変、というフィルインのミスが生まれてしまうのでしょう。

リリース・テイクを聴けば、全体にすこし突っ込み気味ではあるものの、とにかく、エンディングを許容できるあたりにまとめてくるのだから、やはりたいしたものです。まあいいか、と投げてしまうと、LAの素人サーフ・グループと同じになってしまい、ビートルズがああいう存在になることはありえなかったでしょう。

まだいろいろあるのですが、ちょっと家庭の事情で邪魔が入ったので、今夜は細かいことは持ち越しとして、ここまででアップします。次回、さらにビートルズのセッションを聴き進めることにします。


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ビートルズ(オフィシャル・リリース盤)
With the Beatles (Dig)
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by songsf4s | 2011-10-09 23:52 | ブリティシュ・インヴェイジョン