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2010年 10月 31日 ( 1 )
池野成『牡丹燈籠』スコア、武満徹『雨月物語』スコア他、和風ハロウィーン怪談特集補足

今日はバーベット・シュローダー監督『陰獣』などという映画を見ていたのですが、記事にするには間に合いませんでした。そもそも、怪異ムードは横溢しているものの、怪談ではなく、ミステリーなので、怪談特集で取り上げるのもちょっとうまくないのです。ともあれ、途中までですが、それなりに楽しめる出来でした。

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江戸川乱歩の読者ならもちろん中編『陰獣』をご存知でしょう。博文館・新青年編集長だった横溝正史が、この原稿を乱歩からとった話を何度かエッセイに書いています。ミステリー的結構の出来不出来については見解は分かれるでしょうが、乱歩の代表作のひとつであることはまちがいありません。

フランス人がなんだって『陰獣』を映画化しようと思ったのかは知りませんが、ボアロー=ナルスジャック的な、無理に無理を重ねたトリッキーな展開がフランス人好みなのかもしれません。

じっさい、映画の冒頭はなかなか楽しいトリックになっています(スポイラー警報。この映画を見て驚きたい方はここでやめてつぎの見出しにジャンプされよ)。京都らしい町でなにやら事件があり、パトカー(大昔のトヨペット!)に乗って私服がひとりで駈けつけます。

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刑事は銃を構えて慎重に家に入っていき、女が座っているのを見て安心し、近寄ると、ゴロンと首が転がります。乱歩的ですな。さらに奥に入っていき、襖の影に刀をもった人物を認め、いきなり発砲します。

しかしそれは鏡の像で、背後の障子が赤く血潮で染まり、その向こうから縛られた女性が倒れてきます。誤射だったのです。瀕死の女を抱きとめ、刑事が振り返ると、刀をもった男がいます。刑事は刀掛けの長刀をとると、男と斬り合いをはじめますが、数合ののち、首を飛ばされてしまいます。

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犯人は悠々と現場から立ち去り、クレジットが流れはじめます。ずいぶん謎めいたアヴァン・タイトルだな、とりあえずさっぱり意味がわからんぜ、と思っていると、クレジットはオープニングではなく、エンディングで、映画は終わってしまいます。

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画面が明るくなると、そこはフランスの大学の講義室らしく、若いフランス人が、いま終わった映画について論述をはじめます。この映画は日本の作家・大江春泥のベストセラーをもとにしたもので、ご覧のように、大江の話の特徴は、悪が凱歌をあげることだ、などといいます。

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やがて、この教師が作家で、これから新著のプロモーションで日本に行くところだということがわかります。この作家はしばしば悪夢を見るため、乱歩や正史の作品同様、この映画もなんとなく怪奇ものの様相を呈しはじめます。

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この種の映画はあまり書きすぎると興醒めなので、このへんでやめておきましょう。最初のうちは、どこが『陰獣』なのかと思っていましたが、途中から、骨組は乱歩の原作のままで、きちんとパラフレーズしていることがわかってきます。加藤泰監督、あおい輝彦主演の『陰獣』と並べて見るのもまた一興かもしれません。そういえば、テレビで天知茂のも見た記憶もあります。もちろん、小説がいちばんいいと思いますが。

◆ 池野成「牡丹燈籠」スコア ◆◆
さて、今日の本題は以前お約束した、池野成による『牡丹燈籠』のスコアです。

サンプル 池野成「牡丹燈籠」

これはどこの部分のスコアという風には簡単には云えないトラックで、さまざまな部分から抜き出したものがひとつにまとめられています。ひょっとしたら、新たに譜面を起こした再録音の可能性もあると思います。なんとなく、映画よりオーケストラのサイズが大きいように感じるのです。

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池野成「牡丹燈籠」は「怪獣王」という10枚組ボックスに収録されている。

この種の映画の場合、どうしても「スティンガー」、すなわち威しの音が必要で、そのために、いくぶんチープな印象になりますが、この独立したトラックには、そういう音はほとんど採録されていないため、ノーマルなオーケストラ音楽の味わいが強くなっています。

どうであれ、わたしはこのトラックを聴いて、映画のなかで聴いているより、単独で聴くほうがずっといいと感じました。まったく、昔の日本映画の音楽というのは、どこを掘っても大判小判ざくざくで、すごいものだと思います。

◆ 1キロ超のサウンドステージ!? ◆◆
さらに補足はつづき、こんどは小林正樹監督の『怪談』です。

まず、撮影場所ですが、京都の近くで、「戦争中に飛行機の格納庫として使われていた建物」を見つけたと小林正樹監督はいっています。そのサイズがじつに全長1000メートル、幅60メートル、天井まで18メートルだとか。道理で広く感じるわけです!

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そういう場所だから、映画スタジオの設備はなにもなく、ホリゾントからつくっていかねばならなかったそうです。そして、天井が高すぎて照明部は怖がり、鳶職をやとったけれど、ふつうのスタジオより距離が遠いので光量がいり、ライトが大きくなり、そのために発電機も多数必要になって、ひどく費用がかさんだとのことです

その結果、製作プロダクション「にんじんくらぶ」は倒産、小林監督自身も自宅を売却するハメになったそうです。まったく、映画作りはこれだから、監督がみな有名女優と結婚するのでしょう。稼ぐのは奥さんばかり。

スコアについて。中村嘉葎雄の語りと琵琶のスタンドインは鶴田錦史だったそうです。語り(謡い?)についてはわかりませんが、琵琶には感銘を受けました。ジミヘンがやって以来、ジミー・ペイジなども真似しておおいに流行った、ピックで弦をこするスタントがありますが、鶴田錦史は撥でガリガリギリギリ絃をこすっています。『怪談』の公開は1965年です。日本のギター・プレイヤーは『怪談』を見て、ジミヘンより先にあの技を思いつくべきでした。

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『怪談』では、武満徹はスコアばかりでなく、音響効果もすべてやったそうです。たとえば、尺八の演奏を録音し、それに大々的に加工を加え、風の音をつくったりしたというのです。画面もほぼすべてスタジオで撮られているので、この人工的な音は絵にふさわしい効果を生んでいます。

『怪談』の製作は1964年(公開は翌年正月)、ポップ/ロックの世界も1966年ごろから実験的なものが目立ちはじめますが(ビートルズがはじめてテープの逆回転を使ったのは、1966年のRain)、やはり現代音楽のほうがそのあたりは先んじていたようです。

◆ 早坂文雄倒れる ◆◆
最後は『雨月物語』の補足です。

この映画の音楽のクレジットが、「音楽監督 早坂文雄」「音楽補佐 斉藤一郎」となっていることにふれて、一部を斉藤一郎が書いたという意味だろうとわたしは書きました。

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それで間違いではないのですが、なぜそうなったとかというと、早坂文雄は胸が悪く、『雨月物語』のときに病勢が悪化してしまったかららしいのです。それで途中から斉藤一郎が作曲を引き継ぎ、オーケストレーションとコンダクトを佐藤勝がおこなったようです。

わが友、三河のOさんからのメールには、早坂文雄の譜面も一部は残ったと佐藤勝の著書に書かれている、とあります。ということは、斉藤一郎のほうが主体となったというように受け取れますが、関係者はみなすでに物故しているので、いまとなっては、細かいことはわかりません。

日本映画を代表する作品のスコアの成り立ちが謎に包まれてしまったとは、なんとも恥ずかしいことで、研究者や評論家はなにをボンヤリ突っ立っていたのかと思います。耳無し芳一評論家ばかりなのでしょうな。情けない!

黒澤映画OST以外の早坂文雄の盤はお持ちではないのかとOさんにたずねたら、いまのところ入手できず、という返事でした。どちらにしろフルスコアはリリースされていないから、映画から切り出してみたらどうですかと、逆に煽られてしまいました。まあ、切り出しは馴れたものですが、それでも手間暇かかるので、いつになるとはお約束せず、いずれ折を見て、私家版ベスト・オヴ・早坂文雄映画スコアを編集してみようと思います。


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by songsf4s | 2010-10-31 23:23 | 映画・TV音楽