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2010年 10月 20日 ( 1 )
静かな破滅、騒々しい破滅―小松左京『こちらニッポン』と広瀬正『ツィス』 その2

◆ J・G・バラードの変容する世界 ◆◆
『妖星ゴラス』からディザースター話に入りこんでしまったのですが、案外奥の深いジャンルで、小説のほうに手を出すと、収拾がつかなくなるのに、まずいことをした、と昨夜、寝につきながら思いました。

小学校のころから、この世界がべつのものに変容するという「お話」が大好きでした。あかね書房の「少年少女世界推理文学全集」というものがあり、この子ども向けの叢書(以前にも書いたことがあるが、伊坂芳太郎、横尾忠則、宇野亞喜良などのすごいイラストレーター陣だった)の最後のほうに『ドウエル教授の首』というSFが収められていました。

f0147840_22543541.jpgここから「SF」というものを読もうという気になり(なにしろ、東宝映画ではおなじみだったので)、子どもの小遣いでも大丈夫という理由で、創元文庫の棚を見ていき、『沈んだ世界』という本を買いました。作者はJ・G・バラード。

バラードの読者は、小学生がそんなところでなにをウロウロしているのだと思うでしょうが、その時点では「ニューウェイヴSF」も「内宇宙への旅」も知ったことではなく、扉に書いてあるシノプシスを読んで、水没してしまった世界を舞台にした(あのころはポンペイの遺跡も好きだった)冒険物語だと思ったのです。

子どもはすごいもので、バラードの晦渋さも内省も、全部丸ごと無視して、面白い冒険小説だったと満足しました! ほんのしばらく前までは都市として機能していた場所が水没し、そこに入りこんでいくという設定があれば、わたしにはそれで十分で、作者がなにを考えようが無関係、そこから勝手に絵を作り上げて遊んでいたのでしょう。

f0147840_22552760.jpgアラン・ケイが、ゲームの解像度を上げることについて興味深いことをいっています。「人は精細な画像をもとめてゲームをするわけではない、みずからの空想の中に入りこむスウィッチを必要としているだけである」

ゲームのみならず、映画についても、小説についても、同じことが云えるかもしれません。J・G・バラードのSF界での位置など毫も配慮しない子どもは、彼の奥行きのある小説をたんなる「スウィッチ」として利用したのでしょう。

小松左京とはまったく方向性のちがう作家ですが、バラードもじつに多くのディザースターものを書いています。たんに、ちょっと変なだけです。

『狂風世界』なんていうのは『ツイスター』よりちょっと変、『燃える世界』も『原子力潜水艦シービュー号』の兄弟、といえるかもしれません(いえないかもしれない!)。ただし、『結晶世界』までいくと、いったいこれはなんだ? です。いえ、代表作といわれるのも当然の出来だと思いましたが、ディザースターとはいいにくいようです。

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以上二葉は『原子力潜水艦シービュー号』より(訂正。映画版の邦題は「地球の危機」だったが、原題は映画、TV、小説すべてVoyage to the Bottom of the Sea)。ヴァン・アレン帯がどうこうして(くわしいことは失念)、とてつもない高温になるという、一種のディザースターだが、潜水艦が舞台なので、あまりディザースターらしい絵はなかったと思う。そもそも、異常な高温はけっこうだが、空が赤くなるというのはいかがなものか。いやまあ、小学校のときは疑問を抱かず、素直に見たが……。

◆ 「この世と人と悪魔」 ◆◆
きちんと準備をしてからとりかかればいいのに、『妖星ゴラス』のスピンオフのようにしてはじめてしまったので、あとからあとから、ドゥームズデイものをはじめとするさまざまなディザースター作品が思い起こされ、頭のなかは大混乱、当然、書くこともあちこちに飛びます。

大昔にハリー・ベラフォンテが無人の町を歩く映画をテレビで見たような気がしました。突然、絵が見えたのです。調べてみたら、『地球全滅』(1959、The World, the flesh and the Devil=「この世と人と悪魔」。劇場未公開で、上記邦題はテレビ放映時のもの)というタイトルだそうです。

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話の中身はきれいに記憶から飛んでしまいましたが、ハリー・ベラフォンテは鉱山技師で、調査の最中に事故で坑道から出られなくなり、数日後にやっと脱出したら、戦争があったために、だれも人がいなかった、というところからはじまるようです。

核戦争後の世界が、なぜ数日で安全になったのか、シノプシスを読んでもよくわからないのですが、ハリー・ベラフォンテは生存者を求めてニューヨークにやってきて、一握りの人に出会い、そしてなにが起こるか、という展開のようです。

話が面白いかどうかはわかりませんが、絵柄はすばらしいので、いつか再見し、きちんととりあげたいと思います。

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◆ 安全な破滅 ◆◆
このハリー・ベラフォンテ主演の『地球全滅』は、原因こそ異なれ、そして目指したものも異なるようですが、結果的にできあがった絵柄は小松左京の『こちらニッポン……』に似ています。主人公は、なんとか生存者を見つけようと、無人の都市を彷徨するのですから。

『こちらニッポン……』は映画ではありませんが、頭のなかで視覚化をせずに小説を読む人はいないでしょう。『地球全滅』(しかしなあ、というタイトルだなあ)のことはしばらく忘れていましたが、この二者は、無傷で都市が残ったという点で、ドゥームズデイ・ディザースターのなかでも、サブジャンルを形成できそうな気がします。戦争や大災害などがあると、ふつうは壊れてしまいますからね。

たいした例があるわけでもないのに、サブジャンルもハチの頭もないものですが、でも、都市を独り占めしたときの、「起きてみつ、寝てみつ、四畳半の広さかな」みたいな空しさには、複雑な味わいがあります。

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なんといいますか、われわれの問題のほとんどは、社会の一員であることから来ます。もちろん医学的な問題はこのかぎりではないのですが、人間関係の悩みや経済的な問題はすぐれて社会的であり、人間関係と経済の問題が解決されれば、あとは健康問題ぐらいしか、われわれを苦しめるものはないでしょう。

都市が丸ごと無事に残り、自分以外の人間はゼロか、限りなくゼロに近い「人間真空地帯」に投げ出されたら、トラブル・フリーのパラダイスかもしれないと思うことがあります。

ところが、人間の自我を支えているのは他者です。他者が誰もいなくなれば、われわれの自我はゲシュタルト崩壊の危機に直面します。他人がいて、はじめて自分というものの存在を規定できるのに、その「器」が消えてしまったら、われわれの自我は形を失って流失してしまうでしょう。

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『地球全滅』のポスター。これはタイトルの絵解きなのだろう。「男と女と悪魔」と解釈できる。

だから、この世にひとりで投げ出された『こちらニッポン……』と『地球全滅』の主人公が、事態を把握した瞬間、すぐに他の生存者を求めて彷徨をはじめるのです。この世に自分ひとりしかいないというのは、たぶん、究極の悪夢なのでしょう。

高校のとき、「ユートピア」という言葉がトーマス・モアの小説からきたことを習ったとき、そういう年ごろでもあったので、わたしはせせら笑いました。わたしの愛する破滅ものフィクションによれば、ユートピアは反ユートピアと一体化して実現するのです。

自我が他者を必要とする以上、地獄の壁を這い上がって、隣の敷地に転がりこんでも、そこはタイプの異なる地獄だということに気づくだけです。『カジノ・ロワイヤル』で、ウディー・アレンが死刑場から脱出するのといっしょです。

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しかし、それでもなお、無人都市に強く惹かれるのは、どういうことなのでしょうか。「この世界から休暇をとる」というあたりかな、と思うのですが、自分でもよくわかりません。

毎度、外題に広瀬正の『ツィス』を掲げているのに、なかなか登場させられず、恐縮です。記憶を新たにしようと読み直している最中で、次回は大丈夫だと思います。


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by songsf4s | 2010-10-20 20:55 | 書物