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2010年 09月 26日 ( 1 )
黒澤明監督『椿三十郎』(1962年、東宝=黒澤プロ) その3

リンクをまちがえてしまったBuddy Emmons "Bluemmons"も、Paul Smith "Blue Moon"も、ともにアクセスが多く、ホッとしました。

有名なアーティストはほうっておいても大丈夫なのです。でも、このバディー・エモンズやポール・スミスのように、どなたでもご存知というわけではないプレイヤーの場合、紹介のときに噛んじゃったりすると具合の悪いことになるので、しまった、と後悔していましたが、事なきを得たようです。

◆ トリッキーな展開 ◆◆
今日は『椿三十郎』を完了したいと思うのですが、どうなりますやら。

ピンチはチャンス、チャンスはピンチなのかもしれませんが、三船用心棒が仲代達矢に仕事を世話してもらいに行ったあとのくだりが、この映画のシナリオ面での剣が峰です。

「『椿三十郎』その2」で書いたように、三船用心棒が出かけたあとで、残された若侍が、三船支持派と懐疑派に分かれて対立し、結局、双方から二人ずつ出して、容子を探ることになります。

三船敏郎のほうは仲代達矢と連れだって、悪党の首魁・清水将夫大目付のところに向かって出発します。どうせ仲代達矢が気づくにちがいないという判断なのでしょう、三船敏郎のほうから「つけてくるのがいるな」といい、角を曲がったところで、加山雄三、土屋嘉男、田中邦衛、太刀川寛の若侍四人組を気絶させて捕らえます。

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この種のアクション映画で重要なことは、主人公以下、観客が感情移入する対象を危地に放り込み、そこからどうやって脱出させるかで工夫を凝らすことです。

三船浪人は、四人の若侍をとりあえず斬らずに生け捕りにすることに成功しましたが、問題は、彼らをどうやって逃がすかです。こいつらを大目付への手みやげにしようということになりますが、その邸まで連れて行く方法が問題になり、敵に奪い返されないように護衛の手勢を呼んでこようと、使いの人間を三人やることになります。

その三人が出発した直後に、三船敏郎が、いや、三人でも危ない、俺もついて行く、と仲代達矢に断って駈けだします。シナリオ・ライター陣が脳髄を振り絞ったトリッキーなシークェンスのはじまりです。

ほんの一丁も行かないうちに、三十郎は三人の使者に追いつき、「俺もいっしょに行く」といって安心させて歩きはじめ、抜刀するや、瞬く間に三人を斃してしまいます。二太刀浴びせたのはひとりだけ、あとは一刀でおしまい。

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いまなら細かくカットを割るでしょうが、昔の映画ではありますし、三船敏郎だから、1カットで見せます。1カットなのに、あるいは1カットだからなのか、ダイナミズム、スピード感のあるすばらしいシーンです。

邸に駈け戻ると、「いけねえ、もう三人ともやられていた」と、敵の一派の待ち伏せにあったように仲代達矢に報告します。結局、仲代達矢がひとりで手勢を呼びに出かけ、わずかな侍、足軽とともに、三船浪人はその場に残ります。

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◆ 大殺陣 ◆◆
仲代達矢が出かけるや、三船敏郎は若侍たちを縛った縄を切りはじめ、見張りの侍に「なにをするのか」といわれると、「わからねえのか、こいつらを助けるのよ」といって、斬り合いがはじまります。

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正確かどうか自信がありませんが、時間にして約40秒間、4カットのあいだに、用心棒は二十三人を切り捨てるという、大殺戮をやってのけます。もちろん、こんなに斬れる日本刀は存在しませんが(数人斬れば、刃こぼれでささらのようになるか、曲がるか、折れるかするそうな)、三船敏郎の動きがすばらしく、ただただ見入ってしまうシークェンスです。

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アドレナリンが体を駆けめぐっているのがよくわかる息づかいと表情で、三船敏郎は、呆然と惨状を見つめる四人の若侍のところに行くと(こういう三船敏郎の動きを追うときのキャメラ・ワークはどれもお見事)、「おまえらのおかげで、とんだ殺生をしたぜ」と吐き捨てると、ものすごいビンタを食らわせます。

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インタヴューで田中邦衛が、三船さんの腕力を思い知りました、といっているくらいで、ここはよくある「見切り」ではなく、ほんとうに全員を殴り飛ばしています。

田中邦衛がものすごい一打を喰らうところは、キャメラがきっちり捉えていますし、加山雄三もちゃんと殴られているのがわかります。可哀想なのは、キャメラが振られて追いつかなかった土屋嘉男と太刀川寛です。

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たぶん、キツい一打を喰らったはずですが、キャメラはその瞬間を捉えていません。まあ、いまのはNG、なんてんで、もう一度殴られるよりは、一発の殴られ損ですんでよかったというべきでしょうが!

三船敏郎とはどういう俳優だったかというなら、この三人斬殺から、二十三人殺戮、そして四人殴打を、すばらしいダイナミズム、力感、スピード感をもって、みごとにやってのけた俳優である、といえばいいでしょう。すごいの一言。

◆ 文字と映像 ◆◆
シナリオとしては、ここはトリッキーなアイディアの連続で、薄氷を踏むクリティカル・パスです。三船浪人が瞬時に思いついたトリックは、ライター陣が何時間も、何日も知恵を絞った結果でしょう。いいアイディアではありますが、演出がタコだと、ガタガタになってしまう、危険なギャンブルです。

もっともきびしいのは、三人を殺されたあと、仲代達矢がひとりで出かけるところで、これは落ち着いて考えると合理的ではありません。

さらに、三船用心棒は四人を救出したあと、逃げずに、四人に縛らせ、自分も被害者のように装いますが、これも、ボンクラならともかく、仲代達矢なら、三船敏郎一人が生き残ったことをもっと疑ったところでしょう(自分は中立の部外者だといって抵抗しなかったと説明する)。

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このへんで、あれ、と鼻白まずにすむのは、ひとえに三船敏郎の力強さのおかげです。あのすさまじい瞬間的な殺戮の余韻から、観客はまだ立ち直っていないのです!

理想をいえば、どこから見ても隙のない処理で窮地を脱するほうがいいのかもしれませんが、このように、やや強引なのだけれど、映画的な処理のうまさと、大スターの迫力と、すばらしいアクションをたっぷり詰め込んで、クリティカル・パスを正面突破するのも、いかにも映画らしくて好ましいと思います。

柴田錬三郎が、たしか『七人の侍』について、あの程度のストーリーではダメだ、ということを書いていました。その通りです。小説だったら、あれは凡作です。チャンバラ小説の大家としては、あれですめば楽なものだと腹が立ったことでしょう。

しかし、『七人の侍』は小説ではありません。早坂文雄の音楽がつき、三船敏郎、志村喬、宮口精二といった俳優たちが、そして馬が、じっさいに体の動きで表現したものを、黒澤明と中井朝一がフィルムに定着したものです。

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アジトに戻った三船用心棒が、山賊の親方よろしく碁盤に坐って酒をやりながら、説教をするのが可笑しい。前列には現場にいた四人が並ぶ。左から土屋嘉男、加山雄三、田中邦衛、太刀川寛。後列左から平田昭彦、江原達治、松井鍵三、久保明、波里達彦。

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映画というのは、たんなるストーリーでもないし、文章表現とはまったく異なる性質も持っています。『椿三十郎』の若侍救出シークェンスは、小説としては成立しないかもしれませんが(小説を読むとき、われわれは映画を見るときよりずっと冷めている)、三船敏郎が縦横に走りまわるので、観客はこの俳優のパワーに気圧されてしまうのです。

完了どころか、小林桂樹の最後のショットにもたどり着けませんでしたが、『椿三十郎』でもっとも濃密なシークェンスを細かく見たので、すっかり疲れてしまいました。次回は断じて完結することにして、今日はここまでで切り上げさせていただきます。


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原作
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映画音楽 佐藤勝作品集 第13集 : 黒澤明監督作品篇
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by songsf4s | 2010-09-26 23:57 | 映画