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2010年 09月 17日 ( 1 )
サンプラー Blue Moon その2 by Frank Sinatra
タイトル
Blue Moon
アーティスト
Frank Sinatra
ライター
Lorenz Hart, Richard Rodgers
収録アルバム
Sinatra's Swingin' Session
リリース年
1961年
他のヴァージョン
The Marcels, Elvis Presley, Bob Dylan, Julie London, the Ventures, Bruce Johnston, Cliff Richard, Ten Tuff Guitars, Percey Faith, Paul Weston, Jimmy McGriff, Jorgen Ingmann, Santo & Johnny, Leroy Holmes, Sy Zentner, Sam Cooke
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前回は、月の出がすごく遅くなって見えないなどと書きましたが、それはちょっと前のことで、すでに「すごく早くなって見えない」のだと、あとから気づきました。いや、わたしが夕食後の散歩に出かけるころには、西に沈んでしまっていたのです。それが、さらに遅くなって、今日は見えました。

本日もBlue Moonを2種類聴こうと思います。これまた、軽率なことをいったと思うのですが、前回、「この曲のオーソドキシー」などと気軽に書いてしまいました。漠然としたイメージでいったにすぎず、特定のヴァージョン、とくにオリジナルを念頭にして書いたわけではありません。

Blue Moonは戦前の映画、Hollywood Partyでジーン・ハーロウ(!)が歌う曲として書かれたものの、そのシーンは撮られず、のちにManhattan Melodramaという映画に使われたそうです。



第二次大戦まえはこんな感じですね。われわれがイメージするスロウ・バラッドというのはたぶん1950年代の産物で、昔はみなゆっくりというわけではなく、50年代のクルーナーならスロウに歌う曲でも、1930年代にはミディアム・テンポで歌うという一般的傾向があると思います。

しかし、このシンガーはだれなのでしょうか。ウェブ時代の悪い傾向で、どのサイトも、すべて同じことしか書いてなくて、最初に書いただれかがシンガーの名前を明示しなかったために、その後の孫引きサイトもみな名前が書いてありません。マーナ・ロイなのでしょうか。

◆ 「シナトラ文化」恐るべし ◆◆
さて、今夜の主役はフランク・シナトラのBlue Moonです。

「橋本忍『複眼の映像 私と黒澤明』と小林信彦『黒澤明という時代』」という記事でふれた橋本忍の本に、野村芳太郎が『ジョーズ』を絶賛したという話が出てきます。野村芳太郎がどういう点を褒めたかというと、『ジョーズ』という映画はOKカットしか使っていない、というのです。

やはり映画監督の映画の見方はちがいます。たしかに、素人が見ても、日活アクションなど、ああ、ここは撮り直したかっただろうな、と同情するショットが往々にしてあります。しかし、撮り直せば、フィルムと時間を消費することになります。OKではないがこの程度ならやむをえない、というショットが生き残って、上映されることになってしまうのです。

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野村芳太郎にフランク・シナトラのBlue Moonを聴かせたら、きっと絶賛するでしょう。OKカットしかない映画のような出来なのです。フランク・シナトラのみならず、プレイヤーもスタッフも完璧な仕事をしています。たとえば、ギタリストとしては録り直したかっただろうなあ、なんて思う一瞬はまったくないのです。全員が、俺は自分の仕事を完璧にやったぞ、と満足したテイクにちがいありません。

サンプル Frank Sinatra "Blue Moon"

この年までいろいろなものを聴きましたが、これほどどこにも隙のない録音はほかに思いつきません。プレイヤーはノーミス、間奏のサックス(たぶんプラズ・ジョンソン)がすばらしいし、ビル・ミラーのピアノのオブリガートにもしばしば耳を引っ張られます。

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むろん、ネルソン・リドルのオーケストレーションは弦、管ともにすばらしいし、エンジニアリングはステイト・オヴ・ディ・アート、世界の頂点にあったハリウッドのスタジオだけがつくれるみごとなサウンド・レイヤーを組み上げています。順序が逆になりましたが、シナトラも、技術的にはこの時期が頂点だったなあ、としみじみするようなヴォーカル・レンディションです。

わたしがずっとハリウッドの音楽産業を調べてきたのは、世界でただ一カ所、ハリウッドだけがこういうゴージャスなサウンドを生み出せたのはなぜか、ということが知りたかったからです。

◆ アーヴ・コトラー、ビル・ミラー、ジョー・コンフォート ◆◆
シナトラのセッションというのは、パーソネルが公開されているケースは少ないのですが、Blue Moonは数少ない例外で、プレイヤーの名前がわかります。以下、フランク・シナトラ・セッショノグラフィーのコロンビア時代のページの記載を貼りつけます。

Frank Sinatra (ldr), Nelson Riddle (con, a), Buddy Collette, Chuck Gentry, William Green, Plas Johnson, Wilbur Schwartz (r), Carroll Lewis, Vito "Mickey" Mangano, George Seaberg, Clarence "Shorty" Sherock (t), George Arus, Gail Martin, Tommy Pederson, Tom Shepard (tb), Al Viola (g), Joe Comfort (b), Bill Miller (p), Kathryn Julye (hrp), Irv Cottler (d), Emil Richards (per), Victor Bay, Alex Beller, Kurt Dieterle, Jacques Gasselin, Louis Kaufman, Murray Kellner, Joseph Livoti, Mischa Russell, Gerald Vinci, William Weiss (vn), Alvin Dinkin, Stan Harris (vl), Ossip Giskin, Armond Kaproff, Eleanor Slatkin (vc), Frank Sinatra (v)

フランク・シナトラがメンバーを決めるわけではなく、アレンジャーの注文でコントラクターが集めたのだろうと思いますが、それでも「常連」はいます。ギターのアル・ヴィオラは「シナトラのギタリスト」といわれています。ピアノのビル・ミラーは1950年代初めから「シナトラ一座」の「座付きピアニスト」をシナトラの引退まで務めました。スタジオ入りする以前の、シナトラがひとりでアルバムの曲をリハーサルし、仕上げていくときにピアノを弾いたのもミラーです。

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アル・ヴィオラのような位置のドラマーはいなかったのではないかと思いますが、しいていうと、アーヴ・コトラーがシナトラ・セッションのストゥールに坐ることが多かったようです。

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「ミスター・タイム」というニックネームがなにに由来するかは知りませんが、ふつうに考えれば、タイムが精確だということでしょう。繊細な技の持ち主ではないように感じますが、タイムはキッチリしています。

上記のメンバーで、あとはわたしが知っているのはバディー・コレット(アルトを中心とした木管)、エミール・リチャーズ(マレットおよびパーカッション)、エリナー・スラトキン(チェロ)、そしてジョー・コンフォート(ベース)といったあたりです。

ジョー・コンフォートは、ナット・キング・コール・トリオのベースぐらいの認識でしたが、シナトラのBlue Moonを聴くと、気持のいいタイムで、スタジオ・プレイヤーとしての必要条件を満たした人だったのだなと思いました。

ナット・キング・コール・トリオ(ジョー・コンフォート=ベース)



◆ Apache以前のヨルゲン・イングマン ◆◆
前回同様、もう一種類、インストをいってみましょう。前回はオルガン・インストだったので、今回はギター・インストにします。Apacheを大ヒットさせたデンマークのギタリスト、ヨルゲン・イングマンの1959年の録音です。

サンプル Jorgen Ingmann "Blue Moon"

一聴、すぐにわかった方もいらっしゃるでしょうが、レス・ポール・スタイルの露骨なコピーです。40年代後半からレス・ポールがはじめた、可変速回転録音によるピッチの変調と、多数のギターのオーヴァーダブによる「サウンド・オン・サウンド」という意味です。

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気持のいいサウンドだから、レス・ポールも長いあいだつづけたのであって、日本に多数のヴェンチャーズ・コピー・バンドが生まれたように、レス・ポールの追随者が生まれても不思議はありません。ヨルゲン・イングマンという人は、レス・ポールのスタイルを拝借することで地歩を築いたのだろうと想像します。このBlue Moonも、グッド・フィーリンのある音作りをしています。

しかし、Apacheではサウンド・オン・サウンドは使わず、ストレートにプレイしています。アメリカで、オリジナルのシャドウズ盤を押しのけて大ヒットするほどの特徴はないのです。

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まあ、ゼムのGloriaがアメリカではヒットせず、(ダジャレじみて恐縮だが)シャドウズ・オヴ・ナイトのひどいローカル・カヴァーがヒットしたことにくらべれば、ヨルゲン・イングマンのApacheがヒットしたのは、とほうもない間違いというわけでもありません。シャドウズのハンク・マーヴィンとヨルゲン・イングマンのあいだには大きな力量の差はないのです。

それにしても、どのヴァージョンをサンプルにしよう、というときに、これほど迷う曲はめずらしいですなあ。ほんとうに出来のいいヴァージョンがそろっていて、オミットするのに苦労します。苦労するのはイヤだから、あと何回かやって、いいものはすべて並べようと思います。


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Sinatra's Swingin Session
Sinatra's Swingin Session
by songsf4s | 2010-09-17 23:55 | Harvest Moonの歌