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2010年 08月 21日 ( 1 )
Exhost by Martial Solal(ジャン・ベッケル監督『黄金の男』より その2)

手遅れになってから思ったのですが、学校の授業はやはりまじめにやっておくものです。数学だって、物理だって、化学だって、「日常生活に関係ない」なんてことはないのです。深く関係しているのに、知識がないから、それが理解できないだけです。

大学ではフランス語を第二外国語にしたのですが、ミシェル・ポルナレフなんか女が聴く音楽じゃネエか、とか、もうゴダールは見ないもんね、とか、いろいろ弁解をして、「ギャルソン」の七面倒な発音から逃げ出しました。

おかげで、シェイラのことを調べるのにも苦労してしまったりします。悪いことに、フランス語は辞書の引き方もヘンテコリンのチンプンカンプンで、目的の単語に行き着くだけでも一大事業になったりします。

しかし、いまやグーグルというものがあるので、引越のときに白水社仏和辞典を捨ててしまっても、ぜんぜんノープロブレムと英語で開き直れます。やれやれ、たかが原題の意味を云うだけなのに、いったい何文字タイプしたのやら。

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さて『黄金の男』の原題、Echappement Libreとはいかなる意味か? 「backfire」または「open exhaust」だそうです。後者は、つまり、暴走族のお子様が好む、マフラーをはずして、「オープン」にしたエキゾーストです。どちらの意味なのか? どちらかというと両方かもしれません。英語のbackfireには「裏目」「逆目」「当てはずれ」の意味もあるそうですから。

『黄金の男』では、主役はジャン=ポール・ベルモンドなんだか、車なんだかわからないほど、黄金製トライアンフTR4が活躍しますし、オープニング・クレジットのアニメーションで、Echappement Libreというタイトルは、エキゾーストを吐き出し、車輪がついて左手に走り去っていきます。

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じっさい、この映画のトライアンフの捉え方はなかなか魅力的です。車の動きを追う画面のリズムも子どもには楽しかったのだな、トライアンフという車の名前とディテールを記憶したのもこの映画でのことだった、なんて思ってから、ああ、こういう画面はあのころよく見ていたから、この映画にも無条件で親しみを感じたのだな、と思いいたりました。

◆ 日活版『黄金の男』、なんて ◆◆
どういう映画を連想したかというと、もちろん、日活アクションです。

たとえば、当家で過去に取り上げた映画なら、鈴木清順監督、宍戸錠主演の『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』や、山崎徳次郎監督、赤木圭一郎主演『霧笛が俺を呼んでいる』がそうなのですが、日活アクションではむやみに車が走りまわったものです。スポーツカーが疾駆するショットは、ジェイムズ・ボンド映画ばかりでなく、日活好みでもありました(とりわけMGが好まれたのはなぜ?)。

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以上三葉は『霧笛が俺を呼んでいる』より、赤木圭一郎と芦川いづみが城ヶ島に向かうシークェンス。

当時はそんなことはまったく意識しませんでしたが、再見してみると、『黄金の男』はそのまま日活で再映画化できるほど、日活アクション的なニュアンスの豊富な映画です(フランスの映画人は日本映画をよく見ていたので、冗談ではなく、ほんとうにジャン・ベッケルが日活アクションを見ていた可能性もゼロではない、といいたくなるほど強い近縁性がある)。人物配置と背景の、いわゆる「世界」の作り方、プロットの展開、ショットのデザイン、いずれもそのまま日活にもっていけます。

まあ、日活が、ヨーロッパ各地を転々とする映画を撮る可能性はきわめて低いのですが、女と見れば見境なく声をかけるような、ちょっと考えの足りないお調子者が、組織の裏をかいて、金塊を奪取してやろうと一攫千金の夢を見、スポーツカーでそこら中走りまわる、という設定だけでも、かなり日活的です。

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以上三葉は『霧笛が俺を呼んでいる』より、赤木圭一郎が吉永小百合とともに横浜中央病院を出発するシークェンス。

『黄金の男』を再見しながら、日活キャストを考えはじめました。主人公のお調子者は、石原裕次郎や小林旭には合いません。宍戸錠か渡哲也(舛田利雄の『紅の流れ星』では『勝手にしやがれ』のベルモンドを参考にして演じた)あたりでしょう。なんなら川地民夫というのもありかもしれません。

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以上三葉は『紅の流れ星』オープニング。暗殺者・渡哲也。

ジーン・セバーグが演じた女は、セクシーでクラッシーで突っ張っているという、日活にいないタイプのキャラクターで、うーん、楠侑子か、なんて実現性の薄い無理矢理なキャスティングをしそうになりますが、やはり『紅の流れ星』からの連想で、浅丘ルリ子しかいないだろうと思います。他社からのゲストがオーケイなら、若尾文子か岩下志麻あたり、いや、加賀まりこもいいかもしれません。加賀まりこが池部良と共演した篠田正浩の『乾いた花』もスポーツカーのシーンの多い映画でした。

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『紅の流れ星』より浅丘ルリ子と渡哲也

ゲルト・フレーベが演じた組織の「コントロール」は、当然、二本柳寛か芦田伸介あたりでしょう。ベルモンドから金塊を買い取ろうとして、組織に殺されてしまう歯医者は大坂志郎、ベルモンドを密航させる船長は山田禅二、ベルモンドに金の買い手を紹介する気のいいホテルのフロントは藤村有弘または小沢昭一、そのガールフレンドは星ナオミ、ほら、すらすら配役が決まります。

いや、『黄金の男』を見ていない方には面白くもなんともないので、もうキャスティングやめておきます。肝心なのは、さまざまなショットが日活映画を思い起こさせる、ということだけです。当時は意識していませんでしたが、これが意識下のレベルで作用し、初見でおおいに親近感を抱き、親の目を盗んで再見した動機のひとつになったような気がします。

◆ 疾走する4ビート ◆◆
タイトルがオープン・エキゾーストまたはバックファイアというぐらいだから、ほんとうに車の走るシーンが多く、マルシャル・ソラルのスコアも、そういうシーンでのものが冴えています。『黄金の男』のOST盤は、『勝手にしやがれ』など、他のマルシャル・ソラルの映画音楽と入れ込みなので、トラック数が少なく、いずれもミドルなどの遅めのテンポです。

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しかし、面白いと感じるのは、スピード感のあるシーンに使われたトラックなので、いくつか映画から切り出してみました。タイトルはすべて、例によってわたしが適当につけたもので、映画からなのでモノーラルです。

サンプル Martial Solal "Driving 1"
サンプル Martial Solal "Exhaust 1"

Driving 1と名づけたトラックできかれるダイアログは、ジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグのものです。

甲乙つけがたい出来で、じつにけっこうなグルーヴです。軽快に疾駆するトライアンフの絵と、マルシャル・ソラルのスコアがみごとに呼応して、『黄金の男』という映画は、幼いわたしの感性に訴えたのだと、いまにしてよく理解できました。スクリーン・プロセスによる合成をあまり使わず、ほとんど実写だということも、リアルな疾走感を生むのに大きく寄与したと思います。

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この映画の話題もまた、切れ場の多い噺と同じで、いつ終えてもかまわないのですが、切り出したトラックはまだあるので、もう一回だけつづけようと思います。ジーン・セバーグのことをまだ書いていませんし。


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by songsf4s | 2010-08-21 23:56 | 映画・TV音楽