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2010年 08月 13日 ( 1 )
岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』 その6

とくになにごとかが起きるわけではないので、これまで省いてきましたが、すべての公務を終え、陸相官邸に帰った阿南陸軍大臣(三船敏郎)のすがたも、ハイ・テンションの事件の推移と対比されるかたちで、カットバックで何度も登場します。

深夜、義弟の竹下少佐が訪ねてくる、陸相官邸の最初のシーンで、すでに阿南大将は、脇に短刀をおき、文机に向かって辞世の歌を書いているところで、この先、なにが起こるかはハッキリわかるように描かれています。

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『日本のいちばん長い日』の原作には略図がついています。それによると、陸相官邸は、国会議事堂前の西洋庭園か、または隣接する憲政記念館の敷地にあったようです。どちらも夕方五時までなら自由に見学できるので、お近くにお寄りの際には往時をしのんでみては如何でしょうか。

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国会議事堂前西洋庭園のなかには、「日本水準原点標庫」(標高を測るための原点標をしまってある)というものもあります。ミニチュアのギリシャ神殿のような格好をしているのですが、これがなんと辰野金吾設計なのです。国会議事堂を設計することを念願とし、長年、妻木頼黄(日本橋を設計した)と鍔迫り合いを演じた辰野博士の小さな設計物が、いまも(怨みを飲んで?)議事堂を見上げているわけで、考えてみるとちょっと怖いのですが。

◆ われわれに刃向かうものは賊軍だ ◆◆
東部軍の蹶起を促すために、井田中佐は水谷近衛師団参謀長をともなって、お濠端の第一生命館を訪れますが、ことは中佐が望んだようには運びません。事件のショックでうろがまわった水谷参謀長が、森師団長の殺害まで、すべて話してしまうのです。

これで、師団長殺害は伏せておこうというもくろみはあっさり崩れてしまい、呼応蹶起するどころか、激怒した田中東部軍司令官は、みずから宮城に行き、叛乱軍鎮圧の指揮を執るといきりたち、部下に諫められます。二・二六のときにもいわれた「皇軍相撃つの悲劇を避ける」というあたりでしょうか。とりあえず、不破参謀たちが事実をたしかめに近衛師団司令部に向かうことになります。

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宮内省では、畑中少佐たち叛乱軍将校が、JOAK職員に録音の経過と録音盤のありかについて尋問し、侍従の方にあずけた、名前は知らないという返答を得ます。この時点では、録音盤が宮内省内にあることを確認して、椎崎中佐は満足します。自分たちが宮城を押さえているかぎり、放送はできないからです。

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三時ごろ、井田中佐が戻り、畑中少佐、椎崎中佐らに、東部軍が起たなかったことを伝え、万事休す、夜明けまでに兵を引けと諭し、阿南大臣に経過を報告するといって去ります。客観的には、このあたりで、大きく見れば、もう事態は収束に向かうことが読めます。しかし、個々の人びとの運命はまだ決せず、揺れ動きつづけます。

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井田中佐が去ると、椎崎中佐は「天皇を擁しているのはわれわれのほうだ、われわれに刃向かうものはみな賊軍だ」と、意気阻喪しかけた仲間を叱咤し、こうなると録音盤の存在が邪魔だ、早く探しだそうと、再度、JOAKの矢部国内局長(加東大介)を尋問し、兵たちを動員して宮内省の大捜索に取りかかります。

◆ 目標、首相官邸! ◆◆
いっぽう、不破参謀らは近衛師団司令部に駈けつけ、石原少佐と衝突しそうになりますが、少佐は、国家の興廃の際に立ち上がれない腑抜けが最後にどうなるか、東部軍の腰抜け参謀殿にとくと見てもらおう、といって通し、東部軍の二人は、血の海になった師団長室で、森中将の死を確認します。

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宮内省での録音盤の捜索は難航し、椎崎中佐は、さらに人員を投入しますが、発見には至りません。JOAK職員も、侍従にあずけたとはいいますが、名前は知らないと主張します。

横浜警備隊は多摩川を越え、佐々木大尉は「目標、首相官邸!」と叫びます。鈴木貫太郎首相は、二・二六のときにも安藤大尉の率いる一隊に襲撃を受け、三発も撃たれて、瀕死の重傷を負いながら生き残ったのに、またしても叛乱軍につけ狙われることになるのだから、よくよく運のない人というか、いや、二・二六を生き延びたのだから、運のいい人というか、よくわかりません。こういう巡り合わせになってしまう人というのが、世の中にはときおりいるものなのでしょう。

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時刻は午前4時。夜もどん詰まり、いちばん暗い時刻です。依然、録音盤は発見できず、焦燥する畑中少佐、椎崎中佐らは、芳賀連隊長に、陸軍大臣をお連れするという約束はどうなったのだ、と詰め寄られます。芳賀大佐も、命令で動いたものの、なにやら様子がおかしいと気づきはじめたようです。

◆ 一死を以て大罪を謝し奉る ◆◆
夜明けごろ、首相官邸に到着した横浜警備隊の叛乱兵は、トラックを降りるとそのまま配備につき、「撃てえ!」の命令一下、いきなり外から首相官邸を撃ちはじめるのだから、じつにもって乱暴な話です。なかにいた迫水書記官が、窓から顔を出して、撃たれそうになります。

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ここで警備の警官(小川安三)が出てきて、首相はここにはいらっしゃいません、私邸のほうにお帰りです、わたしはあなた方に賛成です、がんばってください、なんていわれて、そうか、といって握手なんかして、なかも調べずに去ってしまうのだから、佐々木大尉というのは、案外、人がいいのかもしれません!

録音盤が見つからず、くじけそうになる畑中少佐に、椎崎中佐は、まだ手はある、いまから放送局に行け、そして夜明けとともに、抗戦を訴える放送をするのだ、と説得します。畑中少佐は直情径行、猪突猛進、椎崎中佐は粘液質で忍耐強い策謀家、という性格分けで、黒沢年男、中丸忠雄、ともに熱演です。

陸相官邸では、「一死を以て大罪を謝し奉る」という遺言も書き終わり、阿南陸軍大臣が、義弟の竹下少佐および井田中佐と酒を酌み交わし、日本の将来について話をしています。準備は終わったのです。

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思ったよりずっと長くなってしまった『日本のいちばん長い日』ですが、「国体の護持」のことなどを考えつつ、あと一回で終えるつもりです。


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by songsf4s | 2010-08-13 23:55 | 映画