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2010年 08月 07日 ( 1 )
岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』 その3

これまでの2回は、ただ俳優の顔と役名を並べただけなので、プロットがぜんぜんわからないでしょうが、まだたいしたことは起きていないのです。軍部、とくに陸軍の抵抗にあって、政府はポツダム宣言受諾に踏み切れず、結局、天皇ご親裁となり、受諾が決まる、というあたりまでです。

当然、降伏反対、断固継戦を主張する人びとも紹介され(これまでにふれた人を役者の名前でいえば、黒沢年男、中丸忠雄、井上孝雄、高橋悦史、田崎潤)、波乱も暗示されます。

◆ 「老悪童」たち ◆◆
東宝映画だから当然ですが、『日本のいちばん長い日』のキャストは、あるときは黒澤映画に見えたり、あるときは東宝特撮映画に見えたりします。いや、若大将映画に見えたり、駅前シリーズに見えたりはしませんが!

しかし、他社の映画を思いだすシークェンスもあります。

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竜岡晋(石渡荘太郎宮内大臣)と中村伸郎(木戸幸一内大臣)

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北竜二(蓮沼蕃〔しげる〕陸軍中将、侍従武官長)

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この中村伸郎と北竜二の組み合わせは、小津映画ファンにはおなじみです。『秋日和』、『彼岸花』、『秋刀魚の味』という晩年の三部作で活躍する「老悪童」たちを演じたからです。さらに佐分利信や笠智衆が加わると完璧なんですが、どうであれ、これも意識的なキャスティングであり、意識的なショットでしょう。

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小津安二郎『秋刀魚の味』 左から中村伸郎、三宅邦子(背中)、北竜二、笠智衆

天皇はラジオ放送を通じて国民に直接、無条件降伏の決定を知らせる決断をします。歴史がどうこうということを離れていうなら、この決断のおかげで、映画のストーリーテリングの核ができあがり、以後、この放送を中心に話が動くことになります。

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石田茂樹(NHK荒川技術局長)

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加東大介(NHK矢部国内局長)

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森野五郎(NHK大橋八郎会長)

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北村和夫(佐藤内閣官房総務課長)

もちろん、徹底抗戦派のクーデター計画もプロットのいっぽうの柱であり、映画は彼らの策動を追いますが、いずれ、若手将校たちの話は放送の件と合流することになります。この両者がないと、映画としては苦しい展開になったでしょう、というか、映画化しようなどとは、だれも考えなかったでしょう。いっこうに話がまとまらない閣議だけでは客が全員寝ちゃいます。

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佐藤允(古賀秀正少佐、近衛師団参謀)

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久保明(石原貞吉少佐、近衛師団参謀)

「王城の警衛」、天皇のボディーガードであるはずの近衛師団の将校たちが、クーデターを企図するのだから、毎度ながら帝国陸軍のメンタリティーというのはよくわかりません(ま、天皇をダシにした、「維新の志士」とかいう、薩摩や長州のテロリストどもの親類だと思えばいいのかもしれない)。事態は二・二六事件に似た相貌を帯びはじめます。

◆ 長老たち ◆◆
いっぽう、ライヴか録音かでもめていた天皇の放送は録音と決まり(閣議の議題になる!)、その準備がはじまります。

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神山繁(宮内省加藤総務局長)

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浜村純(宮内省筧庶務課長)

天皇が放送局に来てスタジオで録音するなどというのはありえないわけで(当時のJOAKは田村町にあったのだから、宮城の「ほんの筋向かい」だが!)、宮内省の役人たちが場所の選定をしたりします。浜村純の宮内省職員はドンピシャリ。

いっぽう陸軍では、荒尾大佐の発案で、長老たちが集められ、部下の妄動を抑える、という一札を入れることになります。

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小瀬格(若松只一陸軍次官) 左は荒尾大佐(玉川伊佐男)

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岩谷壮(杉山元陸軍元帥)

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今福正雄(畑俊六陸軍元帥)

このあたりからすこしテンポが速くなり、描写が立体的になり、「映画の娯しみ」がふくらみはじめます。

ちょうどいまの時期を扱っているところにもってきて、政治家、官僚、軍人しか出てこないので、みな正装しているため、じつに暑そうな画面になっていて、冬に見たほうがいい映画なのですが、とりわけ、クーデターの首謀者のひとり、畑中少佐(黒沢年男)があちこち駆けずりまわって、口角泡を飛ばして議論する様は、見ているだけで熱中症になりそうです。

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坂を上るので、北の丸(近衛師団)か市ヶ谷台(陸軍省)に向かっているのかと思ったのですが、ついた先は、なぜか低地の第一生命館です。暑さと畑中少佐の不屈の闘志を描くために、高台から低地に向かうという地理的リアリズムは捨てたのかもしれません。

戦後、第一生命館は進駐軍に接収され、GHQが置かれたことはよく知られていますが、太平洋戦争中はここに東部軍管区司令部が置かれていたそうです。むろん、わたしはその時代を知っているわけではありませんが、映画やドキュメンタリーでおなじみの「東部軍管区発表」という例の空襲警報の出どころです。

第一生命館はすでに建て替わっていますが、皮一枚残す気色の悪い建築法で、ファサードの列柱だけは保存されました。建築学者はみなこのファサードを絶賛するのですが、素人の目には四角い棒がただ並んだ鶏小屋の化け物にすぎず、かつて近代建築行脚をしたときも、フィルムと現像代の無駄だから、この建物は素通りしました。いまだに嫌いです。わたしが好きなのは「装飾への強い意志を持ったデザイン」を有する建築だけです。

さて、汗だくになって四角い棒のあいだを駆け抜けた畑中少佐を迎えたのはこの人。

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石山健二郎(田中静壱陸軍大将、東部軍司令官)

田中静壱〔しずいち〕大将の写真を見ると、まったく雰囲気がちがいますが、わたしは石山健二郎が好きなので、かまわん、かまわん、です。「なにをしにきた!」と畑中少佐を一喝するところも、堂に入った将軍ぶりで、大向こうから声がかかりそうです。

もっとドンドン顔写真を並べるつもりだったのですが、そろそろ時間切れ、次回は「サスペンス映画」らしいところに入れるので、もっとスピードアップしたいものです。

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by songsf4s | 2010-08-07 23:49 | 映画