人気ブログランキング |
2010年 06月 17日 ( 1 )
デニス・ホッパー監督『イージー・ライダー』(1969年) その3

アメリカに帰化した人だから神経質にならなくていいとは思うのですが、『イージー・ライダー』の撮影監督のLaszlo Kovacsは、ハンガリーの発音をカタカナに音訳すると、ラーズロー・コヴァーチュといったあたりになるようです。Gabor Szobo同様、ハンガリーの人名の発音はむずかしいなあとため息が出ました。

しかも、本来なら、日本人と同じように、姓、名の順なのだそうです。ハンガリーではそうなっているなんて、いまのいままで知らなかったのだから暢気なものです。こんどは同窓のヴィルモス・ジグモンドVilmos Zsigmondの発音も、ほんとうはぜんぜんちがうのかなあ、と気になってきました。

f0147840_21313880.jpg
ヴィルモス・ジグモンド(左)とラズロ・コヴァックス

英語式発音にもどりますが、コヴァックスとジグモンドは、1956年のハンガリー動乱(最近では「ハンガリー事件」というらしい。アメリカではHungary Revolutionと呼んでいる)をアリフレックスで記録し、フィルムの現像のためにオーストリアに脱出したのだとか。それですめばまだしも、心配するヴィルモス・ジグモンドをおいて、コヴァックスはふたたびハンガリーに戻り、家族を連れだしたのだそうです。そういう生きるか死ぬかのはげしい嵐をくぐり抜けた人には、わたしはちょっとたじろいでしまいます。わが人生には、ついに「コップのなかの嵐」程度のものしか起きませんでしたから。

デニス・ホッパーがコヴァックスの死に際してコメントを求められ、hard-working manといっていましたが、ハリウッド映画界の門戸は狭い(かつては縁故採用最優先の業界として名を馳せた。ジュニアがゴロゴロいるのはそのため)せいばかりでなく、名を成す前にアメリカに渡ったために、必死で働かなければフィーチャー・フィルムの撮影監督にはなれなかったのでしょう。

ジグモンドもふくめ、撮影所が崩壊したあとにハリウッドにたどり着いたのは、アール・パーマーを筆頭とする、フリーランスのスタジオ・プレイヤーの場合と同様、ある意味で幸運だったのではないでしょうか。50年代後半に入ると、ハリウッドは内製をやめ、「アウトソーシング」ばやりになり、縁故採用の時代は終わるからです。

f0147840_21332468.jpg
ラズロ・コヴァックスとミッチェル

音楽界もその嵐のとばっちりを食った結果、フリーランスのプレイヤーがスポットの仕事をできるようになります。かつては社員しかプレイできなかった映画スコアも、フリーランスのプレイヤーで録音されるようになるのです。それも大きな動機となって、アメリカ全土の若いミュージシャンが雪崩をうってハリウッドを目指し(アール・パーマーはハリウッドに行って映画音楽をやると決意して、ニューオーリンズを離れた)、60年代がハリウッド産ポップ・ミュージックの黄金時代になる前提条件を確立します。50年代後半のハリウッド映画界の大崩壊がなければ、60年代の音楽はまったく別物になっていたでしょう。

お年寄りにはつらい時代だったでしょうが、ハル・ブレインやトミー・テデスコといった若いプレイヤーたちは、未明までオーヴァータイムの仕事をし、そのままスタジオの床に寝て、朝8時半には、翌日の1ラウンド目の3時間セッションから一日をスタートするというハードワークによって、スタジオ・キングになっていきました。ハル・ブレインやトミー・テデスコたちと、ラズロ・コヴァックスやヴィルモス・ジグモンドをどうしても重ねて見てしまう所以です。ハリウッド大崩壊時代は、逆にいえば「門戸開放」の時代でもあったのでした。

◆ And put it right on me ◆◆
前回ふれたバーズのWasn't Born to Followが流れるシーンの最後で、二人はヒッチハイカーに出会い、ピーター・フォンダがうしろにその男を乗せます。この直後に流れるのが、ザ・バンドのWeightです。以下のクリップではアーティスト名がスミスになっていますが、正しくはザ・バンドです。なぜそういう間違いが起きるかというと、ザ・バンドが映画での楽曲の使用は許可しながら、OSTへの収録を拒否したため、Weightだけはスミスのカヴァーで代替されたからです。OST盤と映画ではヴァージョンが異なることに気づかない人がいるのでしょう。

ザ・バンド Weight


ここもまた、ラズロ・コヴァックスの撮影に惚れ惚れするシークェンスです。撮影にはツキも必要であり、運も実力のうちと痛感させられます。陽が傾いてからのジョン・フォード的世界も十分に美しいのですが、最後のほうに出てくる夕焼けをパーンで見せるところのすばらしいこと。真っ赤な夕焼けが群青の空にグラーデションで変化していくパーンなんて、前にも後にも見たことがなく、『イージー・ライダー』でしか知りません。ラズロ・コヴァックスはこのショットがお気に入りじゃないのでしょうかねえ。たんなる運のおかげと思ったのかもしれませんが。

f0147840_21382759.jpg

わたしはザ・バンドには興味がありませんが、この曲はそこそこの出来だし(つぎのCripple Creekで、無縁な音と思った)、絵にもうまくはまっていると思います。もちろん、コヴァックス贔屓は、絵がすばらしいから音が引き立つのよ、逆じゃないぜ、と秘かにつぶやいていますが。呵々。すまん、ザ・バンド・ファン諸兄姉。

f0147840_2138402.jpg

f0147840_21384773.jpg

◆ 嗚呼コミューン ◆◆
あのころ、ヒッピーたちが集まって「コミューン」をつくり、共同生活を送るということがあったようです。概念としては当時も知っていましたが、日本にはあまり例がなかったのではないでしょうか。

Wasn't Born to Followの最後で二人が拾ったヒッチハイカーは、なにかの用を足して、コミューンに帰ろうとしていたところだったようで、例によって野宿をした翌日、キャプテン・アメリカとビリーは、このヒッピーをコミューンに送り届けます。

f0147840_2333895.jpg

f0147840_23331977.jpg

当然、ここで二人は数十人の男女が子どもたちと共同生活するコミューンのあり方を観察します。このコミューンはちょうど種まきをしているところですが、見るからに降水量は少なそうで、土地もやせています。ビリーは、うまくいくはずがない、といいますが、キャプテン・アメリカは、半分は祈りも込めて、彼らはやっていけるだろうとこたえます。

f0147840_23334732.jpg

f0147840_2333589.jpg

f0147840_2334939.jpg

f0147840_2334208.jpg

キャプテン・アメリカとビリーの人物像はかなり明瞭に描き分けられています。キャプテンはポジティヴで、オープンなのに対して、ビリーはネガティヴで、他者を警戒します。また、女好きでおっちょこちょいなところがあって、コミューンの連中から警戒されてもしまいます。

コミューンの女性のひとりが、キャプテン・アメリカを気に入り、親しくなろうとしているいっぽうで、ビリーはたちまちコミューンにうんざりして、さっさと出発しようというので、カレン・ブラックは一計を案じ、友だちをビリーにあてがって、川へと水遊びに出かけます。

しかし、水遊びをするのは川ではなく、その畔の石造りの、なんなのでしょうか、いったん、水をためる場所にも見えるのですが、安全に水遊びができるように、簡単に水を引ける場所につくった小さなプールなのか、そういう場所で水につかります。

f0147840_23344957.jpg

f0147840_2335122.jpg

f0147840_23351246.jpg

『イージー・ライダー』はほとんどすべてロケーション撮影だと思われます。この石造りのプールも出来合いに見えます。コミューン自体が廃墟の町の裏手にあるようで、プールもかつての町の人びとがつくったというように見えます。そういう場所を選んで、すべて別々のロケーションで撮られたにせよ、そのように解釈できるように映像を組み立てたということは、明らかに意図したシンボリズムです。廃墟の町の跡にできた共同体なのだから、なにかの象徴ないしは縮図に他なりません。

ここでもまたバーズのWasn't Born to Followが流れますが、最初のモーターサイクル・ライドの場面でもうまくはまっていたのと同様に、ここでも心地よい絵と音のアマルガムをつくりだしています。同じ曲を二度使いたくなった気持はよくわかります。それだけ、この曲にはグッド・フィーリンがあるということでしょう。

ヒッチハイクした男は別れ際、「いい機会があって、それにふさわしい連中といっしょのとき、これをやってみろ」といって、ピーター・フォンダになにか小さなものを渡します。それがなんだったのかはこの場面では示されず、あとで明らかになります。

f0147840_23352915.jpg

『イージー・ライダー』はさらにつづきますが、目下、ちょっと忙しいため、つぎに映画のことを書けるのは週明けになってしまうかもしれません。週末は、休まずになにか更新するとしても、サンプラーになりそうなので、そのおつもりでおいでいただけたらと思います。


metalsideをフォローしましょう



イージー★ライダー コレクターズ・エディション [DVD]
イージー★ライダー コレクターズ・エディション [DVD]


イージー・ライダー ― オリジナル・サウンドトラック
イージー・ライダー ― オリジナル・サウンドトラック


by songsf4s | 2010-06-17 23:51 | 映画・TV音楽