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2010年 03月 18日 ( 1 )
そして写真だけが残る(ことになるだろう) その3 鈴木惣太郎著『不滅の大投手・沢村栄治』

子どものころ、アイスホッケーというものをチラッとやりました。

ラグビーやサッカーなどでも似たようなことが起きますが、アイスホッケーではひどくのバツの悪い思いをすることがあります。ラグビーでもサッカーでも、ボールを奪い合っているときはコケてあたりまえです。でも、ゲームの進行とは関係のないところ、だれも注目していない端のほうで、芝に足を取られたかなにかして、ひとりで勝手にプレイヤーがコケると、思わず笑ってしまいます。

でも、笑ったとたんに、子どものころ、アイスホッケーで、はるか彼方にすっ飛んでいったパックを追いかけようとして、氷の溝にエッジをとられて転んでしまったことを思いだし、ひとりで赤面してしまいます。野球のフィールドもひどいデコボコ状態ですが、スケート・リンクも、とくにアイスホッケーのゲームの最中には、ものすごい荒れ方なのです。2本の刃物を履いた大の男が12人、氷の上で大立ち回りをやっているのだから、当然です。

ときおり、なにかの拍子に、当ブログの過去の記事を読み返すことがあります。たいていは小さな文字のまちがいを見つけて修正します。どんなに慎重に書いても、かならず間違いはあるものだから、それ自体はやむをえません。それでも、ときおり、おいおい、まちがえるに事欠いて、そんなところでまちがえるなよ、と思うことがあります。

今日見つけたのはヴァン・モリソンのFull Force Galeの記事の変換間違いです。歌詞の解釈のところで、「どこを漂白していようと、家に帰る道は見つかるだろう」と書いていたのです!

「どこを漂白」って、襟かよ袖かよ、洗濯してどうするんだ、と自分でツッコミを入れました。ずっと昔の記事なので、もう読む人がいるかどうかも定かではないのですが、アイスホッケーでひとりでコケたときのように、だれも見ていないところでコケて赤面してしまいました。こういう間違いが山ほど眠っているのかと思うと、ゾッとします!

◆ 野球書だって? ◆◆
本日もまた古書供養です。

文芸書の場合、古書価がものすごく高い本というのは、ある程度想像がつきます。もちろん、先日ご紹介したトム・リーミーの『サンディエゴ・ライトフット・スー』のような本は例外ですけれどね。

しかし、それ以外の分野の本になると、よくわかりません。あちこちひっくりかえしていると、いろいろと妙な本、いや、そういっては失礼ですが、わたしのメインラインではない、脇道の本が出てきます。こんな本はいかが?

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十代の終わりから二十代、いや、三十代もまだ、わたしは野球狂でした。当然、本もたくさん読みました。日本の選手の伝記はもちろん、かつて牧野茂ヘッドコーチがしきりに吹聴していたロイ・カンパネラの『ドジャース戦法』だの、『テッド・ウィリアムズ自伝』だの、ジム・バウトンの『ボール・フォア』だの、手当たり次第に読みました。

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ロイ・カンパネラはドジャーズのキャッチャーだった。彼の『ドジャース戦法』はいわゆる「シンキング・ベースボール」を提唱したもので、牧野茂はこれをベースに「ジャイアンツ野球」を考案した。牧野茂はジャイアンツ退団後、TBSの解説者になり、渡辺謙太郎アナウンサーとのコンビで当時の野球ファンをおおいに楽しませた。あんなに楽しかった野球中継は後にも先にもない。

小説だってリング・ラードナーの「アリバイ・アイク」(英語でよろしければ、ここで読める)だの、デイモン・ラニアンの「ベースボール・ハティー」だのといった古典はちゃんと読んでいました。ヤンキーズの左腕クローザー、スパーキー・ライルの『Bronx Zoo』という爆笑の回想記なんかは忘れがたいですな。ライルのサイドに近いスリークォーターのフォームがいまでも目に浮かびます。同時期のロン・グィドリーのフォームも懐かしいですな。

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スパーキー・ライル。長い腕をいっぱいに伸ばす豪快なフォームが懐かしい。

『がんばれベアーズ』でテイタム・オニールを見たとき、ちゃんと球が行きそうなフォームになっていて、おおいに感心しました。いや、いま見れば、スタンドインの、おそらくは少年のピッチングのショットとうまくつないでいるのですが。

『がんばれベアーズ』パート5 テイタム・オニールのベアーズ入団


ウォルター・マソーとテイタム・オニールの「おまえ、キャットフィッシュ・ハンターかなんかのつもりか」「だれそれ?」という会話が愉快。ハンターは当時のヤンキーズのピッチャーです。あとのほうのシーンでは、こんどはテイタム・オニールが「あの子、何様のつもり、ミッキー・マントル?」なんていいます。

つぎは練習ではなく、ゲームに入ってからのフォーム。足を高く上げて、膝がグラヴをもった左手にあたっています。膝の高さで思いだすのは、もちろんロン・グィドリー。いや、グラヴの手に当たるほど膝をあげるのは大リーグではめずらしくないことですが。

『がんばれベアーズ』パート6 ベアーズ快進撃


で、話をメイジャー・リーグの本に戻して、1978年のヤンキーズ対ドジャーズのワールド・シリーズ(これほど盛り上がったワールド・シリーズはない!)の山場を描いた「カーブを投げてくれ、ボブ」というエッセイも忘れがたい一編ですが、著者を忘れました。レジー・ジャクソンに直球だけで挑んだドジャーズのルーキー、ボブ・ウェルチの物語です。

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「お願いだからカーヴを投げてくれ、ボブ」しかし、ボブ・ウェルチのカーヴはいわゆるションベン・カーヴで、わたしでも打てそうなだらしない曲がり方をした。あのときまだドジャーズには、堀内恒夫にカーヴを伝授したドン・サットンがいたのだが……。

さて、鈴木惣太郎著『不滅の大投手・沢村栄治』です。雑書を詰め込んだ箱から飛び出したこの本を見て、いっしょに出てきたほかの野球本(カネやんの『やったるで!20年』とか!)とは異なり、これは価値があるような気がしました。いや、本の価値というのは人によって大きく異なるのですが、ここでいっているのは「古書価」です。

古書関係のサイトでこの本が検索で引っかかったのは一カ所だけで、その店は3150円をつけていました(アマゾンにも出品されているが、あれは相場の参考にはまったくならないのは周知のこと。無茶な値段をつける輩が多すぎる!)。著者は、ジャイアンツ(というか、正しくは「大日本東京野球倶楽部」)の創設に尽力し、ひいては日本プロ野球の誕生にも寄与した鈴木惣太郎です。著者名で検索すると、けっこうな数の著書が出てきました。かなり高価なものも多く、『不滅の大投手・沢村栄治』の3150円は安価な部類です。

3150円の価格がつけられたエディションは80年代の新装版なのですが、わが家にあるのは昭和50年発行です。たいていの場合は新装版より古いもののほうが高値になります。このエディションは目下市場に出ていないようで判断はできませんが、手間をかけてオークションに出品する価値があるかもしれません。いやはや、わからんものです。

いま、カネやんの本だって値がつく可能性なきにしもあらず、調べもせずに安いだろうなどというのは無礼千万と考え直し、検索しました。一件だけですが、2000円の価格がつけられていました。こりゃまたスツレイをば! お詫びにオークションに出させていただきます>400勝投手。

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◆ 歴史を私有財産化する厚顔無恥 ◆◆
話は本から離れて野球へと向かいます。久しぶりにレジー・ジャクソンのバッティング・フォームが見たいと思い、検索してみました。簡単に見つかると思ったのですが、あにはからんや、スティルを並べたクリップばかりでした。



やっと見つかった上のクリップは、エンジェルズ(まだカリフォルニアではなく、アナハイム・エンジェルズ)時代のもの、それも練習中、ケージ越しにチラッと見えるだけです。いや、これだけでも豪快なフォームだなあと思いますがね。近年でいえば、ボンズやマグワイアも、フォームを見ただけでのけぞりますが、神話時代のことはいざ知らず、自分が見たかぎりでは、やはり史上最高のスラッガーはレジー・ジャクソンだと思います。

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レジー・ジャクソン。独特の足の使い方をした。とくに左足が不思議千万。

1978年のワールド・シリーズばかりでなく、古いゲームの動画がまったくといっていいほど見つからないのは、偶然とは思えません。メイジャー・リーグ機構がきびしく統制しているにちがいありません。うーん、なんだかなあ、とは思いますが、過去のゲームのアーカイヴも彼等のいうassetなのでしょう。わたしのように、久しぶりにレジー・ジャクソンのホームランが見たい、なんて思う人間は山ほどいるのでしょうから、そのなかには安価なDVDを買ってでも見ようという人もいるにちがいありません。あらゆる文化は人類共有の資産だという大前提を忘れてほしくないのですが、大リーグも生活苦にあえいでいるのでしょう。

◆ 最後までわからないのは…… ◆◆
腹が立つから日本シリーズのクリップを探しました。野球馬鹿人生でいちばん盛り上がったゲームのハイライト。

1976年日本シリーズ第6戦 巨人-阪急


第5戦までの対戦成績は阪急の3勝2敗、王手でした。しかも、阪急が初戦から3連勝したあと、ジャイアンツが盛り返してきたという、もっとも面白い状況でした。この第6戦は、しかし、スコアボードに表示されたように、5回表が終わったところで阪急7-0巨人で、もはや、やんぬるかな、という状況。ここからまた打ちまくったのだから、ファンとしては当然、大騒ぎです。柴田が大活躍したことは記憶していましたが、サヨナラは高田のライト前ヒットだったことがこのクリップでわかりました。

王手をかけられての第6戦を7-0から大逆転したのだから、これはもうもらったも同然、なんて浮き浮きして翌日を迎えましたね。しかし、野球は下駄を履くまでわからない、とはこの日のためにつくられた言葉にちがいありません。ジャイアンツは、ご老齢の阪急足立光宏投手の、ピッチャーズマウンドからホームプレートまで、ボールが口笛を吹きながらぶらぶら物見遊山でもするような遅球に手もなくひねられて、たしか3-1で敗れました。ジャイアンツの先発、クライド・ライトもまずまずの調子だったのですがねえ。

いまでも忘れないのは、後半に入って2死満塁のチャンスで、淡口(たしかルーキー・シーズン)が空振りしたインサイドのスライダーが、そのまま膝に当たったことです。だまって立っていればデッドボールで1点入ったのに、空振りしたために三振バッターアウト、チェンジになってしまったのだから、天国と地獄とはこのことです。いや、足立投手の変化球がそれだけキレていたということなのでしょうが、それにしてもねえ。あの三振、逸機で、万事休すとあきらめました。

この日、野球は最後までわからない、とりわけ日本シリーズは、という教訓を、たんなる観念ではなく、実体のあるものとして胸に刻みました。流れも重要ですが、流れをひっくりかえす資質をもったプレイヤーもいるのです。足立投手には何度もやられましたが、あの日のピッチングがジャイアンツ・ファンにとってはワースト記録です。ジャイアンツの日本シリーズというと、多くのジャイアンツ・ファンが西武ライオンズとの戦いを思い浮かべるようですが、わたしは阪急との死闘をもっとも鮮明に記憶しています。

こういう経験をしてくれば当然ですが、89年のシリーズで近鉄に3連敗したときも、まだわからない、と思っていました。ジャイアンツ自身、3連勝後に西鉄に引っ繰り返された、「神様、仏様、稲尾様」シリーズや、足立投手にしてやられたシリーズを経験しているのだから、ファンとしては当然の気持です。

と、ここまで書いてから、当家のお客様に、熱烈な近鉄ファンがいらっしゃることを思いだしました。いやあ、あのときはどうも失礼。勝敗は時の運でありまして、それにしても、江夏にしてやられたときは悔しかったですなあ、満塁になったときは、これでもうもらった、と欣喜雀躍しましたよ、てなことをとってつけたように云って、本日はおしまい。ブログも、どこに行き着くかは、最後までわからないものですな。


The Bronx Zoo
The Bronx Zoo
by songsf4s | 2010-03-18 23:54 | 書物