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2009年 12月 30日 ( 1 )
年忘れ爆笑寄席その三 三笑亭可楽「尻餅」

今月の当家のご来場者の数は、クリスマス数日前がピークでした。歳末でお忙しいということもあるのでしょうが、その後、すこし減ったのは、「クリスマス特需」のピークがクリスマスより少し前になることのほうが大きいのでしょう。

今月の検索キーワードのトップは、「frosty the snowman 歌詞」でした。221回も検索されています。お一人の方が毎日、このキーワードで当家にいらしたとしても、221回にはなりません。やはり、かなりの数の方が歌詞を求めて当家にいらしたのでしょう。

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昨年のクリスマスには、キーワードのトップは「jingle bell rock 歌詞」でした。いや、このトップの入れ替わりになにか意味があるわけではなく、たまたまそうなっただけだろうと思います。まあ、この二曲が人気のあることは示しているのでしょうがね。

さて、クリスマス特需が終わって、だれもいらっしゃらないかというと、そんなことはありません。お忙しいなか、毎日150人ほどのご来訪があるとはすごいことで(さすがに今日は暢気なブログどころではないのでしょう、120ほどですが)、この時期なので、ありがたさもひとしおです。

◆ 大晦日、箱提灯は怖くない ◆◆
落語国にだって、お大尽もいれば、殿様もいるのですが、でもやっぱり、世の中と同じで、大多数は貧しい長屋住まい、歳末は金の工面に苦労するものと決まっています。その方面の代表的な噺のひとつが前回の「穴どろ」ですが、本日の「尻餅」も貧乏ぶりでは負けていません。

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江戸市中大晦日の図(三谷一馬『江戸庶民風俗絵典』より)。昔の大晦日は深更まで忙しかったので、みな提灯をもっている。右端は掛け取りか。商人だから弓張提灯をもっている。子どもを連れたおかみさんが手にしているのは馬提灯。元旦にあげる凧を忘れていたので、夜になってあわてて買いに行ったのか。左端、箱提灯をもっているのは武家の使用人、そのうしろが主人。ふだんなら箱提灯は畏怖されるが、大晦日ばかりは掛け取りの弓張提灯のほうが怖い。

今回もやはりクリップが見つからず、自前のサンプルをアップします。前回同様、二人の噺家に、前半後半をべつべつに演っていただくことにしました。例によって音質は落としてあります。いえ、十分にお楽しみいただける音質なので、ご安心あれ。

サンプル 八代目三笑亭可楽「尻餅」前半

サンプル 四代目柳家つばめ「尻餅」後半

「穴どろ」と「尻餅」のちがいは、こちらの亭主は腹が据わっていてずうずうしいことです。いえ、だからといって悪事をするわけではなく、無茶なことをいって、借金取りを追い払うていどのことです。もっとも、厳密にいえば恐喝罪であげられてしまうと思うのですがねえ。

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こちらも、小僧に弓張提灯をもたせた番頭というところか、除夜の鐘が鳴り終わるまで、この格好で掛け売りした勘定をとって歩く。ほうきを担いだ人物は煤払いの手伝いか? 赤ん坊を背負ったおかみさんは、なんと手に鮭をぶら下げている!

なんたって、舌先三寸と強面で、一銭も払わずに薪屋に受け取りを書かせ、追い返してしまうのだからひどいものです。おかみさんが恥ずかしがるのも当然です。落語だからこれですんでいますが、こんなひどいことをされた商人は、二度とこのうちに掛け売りはしないでしょう。自分で自分の首を絞めるに等しいのですが、まあ、そこまで苦しい台所なのだということなのでしょう。

◆ 貧に山水の風情あり、質の流れに借金の山 ◆◆
おかみさんがどういう風にコボすかはそれぞれの演出ですが、どうであれ、「ではやむをえない、近所の手前、餅つきをやっているような芝居をしよう」ということになるのが、この噺の柱で、あとの枝葉はそれぞれの工夫です。

落語というのは馬鹿にならないもので、ときおり、値を付けるなら百万両の一言を聞かせてくれます。わたしは八代目三笑亭可楽の「尻餅」で、これから演技に取りかかろうと、しんしんと冷え込む未明の戸外に出た男がつぶやく、つぎの一言にノックアウトされました。

「貧乏すると味があるっていうけど、すこし味がありすぎらあな」

いやはや。貧乏には「味がある」というのは、まったくそのとおりですなあ。でも、できれば味わいたくないものだから、「味がありすぎらあな」となるのでしょう。噺家は、売れないと赤貧洗うがごとしだそうで、可楽は晩成型だったから、若いころにおおいに苦労したのでしょう。元手のかかった一言です。

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「煤掃き」とある。年越しそばではなく、ただの中食か。そばのドンブリと蓋は、いまと変わらない。猫がいるのは、猫の手も借りたい、という心か。

◆ 味噌漉しの底にたまりし大ミソか? ◆◆
落語では貧乏は当たり前。とはいえ、可楽のような、あまりにも重く苦い一言ばかりではお客が帰ってしまいます。「長屋の花見」のように、貧乏から生まれる笑いが重要です。

この噺がおかしいのは、おそらくは「尻餅」という言葉それ自体をヒントにしたのであろう、おかみさんの大きなお尻をひっぱたいて、餅つきの音をシミュレートするところにあります。尻で餅つきだから「尻餅」なのです。

後半のサンプルにした柳家つばめ版では、当然ながら、おかみさんが嫌がります。

「イヤだよー、寒いよ」
「寒くないの! ひっぱたきゃ暑くなるよ」
「あったまるのにひっぱたかれてたまるかい。肩じゃいけないかい?」
「按摩じゃねい!」


というところが楽しいですなあ。くすぐりは自分でつくるのが原則なので、可楽版にはこれはありません。

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裕福な家では、餅は自分たちでついたもので、餅屋に頼むのは中流以下だそうな。ちょっと仕合わせのよい家では、「引きずり」という、道具をもって出向く餅屋に頼むもので、こういう店を構えたところに注文するのはあまり仕合わせのよくない人たちだったという。

しかし、この男、度胸はあるし、機略縦横、「餅は餅屋」というくらいに玄人と素人の区別がはっきりした分野の仕事をやらせても、すくなくとも調子はプロ並み、聞いている人間はみなホンモノの餅屋が餅をついているのだと思うでしょう。これほど才気のある人物がなぜ素寒貧なのか、ちょっと不思議に思わなくもありません。詐欺師になれば人の上に立つことができたでしょうに!

貧を笑う噺が多いのは、やはり、苦しいのはおまえひとりじゃない、みんな苦しいのだから、愚痴をいわずに生きていこう、という庶民芸能全般に通じる精神のせいなのでしょうね。

さて、当家の2009年はこの記事をもって終わります。でも、いつもよりほんの少しだけ遅くし、日付を元旦にした形で、つぎの更新をする予定なので、ほぼ24時間のインターヴァルということになるでしょう。三箇日もできれば更新のつもりでいますが、元旦は記事を書く時間をとれないかもしれません。

それではみなさま、よいお年を。あ、お正月には貧乏笑話はなし、景気よく行く予定です!


三笑亭可楽 うどん屋、味噌蔵、笠碁、尻餅
八代目 三笑亭可楽 落語集(2)
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三笑亭可楽 尻餅、花筏、文違い
花形落語特撰~落語の蔵~
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by songsf4s | 2009-12-30 23:53 | 落語