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2009年 12月 29日 ( 1 )
年忘れ爆笑寄席その二 古今亭志ん生「穴どろ」

音楽ブログが映画音楽を取り上げるところまではノーマルだったのですが、そのうち、音楽抜きで映画を取り上げるようになったりして、羊頭狗肉か狗頭羊肉かわかりませんが、約款を書き換えないとまずいんじゃないかという、看板に偽りありの状態になってきました。

映画をやったのだから、落語をやってまずいということはないだろうと居直って、昨日は「宿屋の富」を聴いてみました。この噺は典型的な歳末噺とはいえませんが、今日は、これこそが歳末噺という「穴どろ」にしてみました。

大晦日に必要だという三両の金ができず、おかみさんに家に入れてもらえない男が、金策に歩きまわっている途中で、大きな商家の座敷に残り物のごちそうと酒だけが見え、人がいないのを見て、ふらふらと上がり込んでしまい、思わぬことから泥棒にされてしまうという、マヌケであると同時に哀しい噺です。

◆ 越すに越されぬ大晦日 ◆◆
f0147840_23111290.jpgYouTubeに「宿屋の富」のクリップがあったのは、やはりただの幸運にすぎなかったのでしょう。「穴どろ」はそうはいきませんでした。わたしが好まない五代目柳家小さんのクリップがあるだけ、それもほんの一部でした。

ちょっと苦慮してしまったのですが、不完全なもので音質が悪ければいいだろうと思い、前半を古今亭志ん生、後半を三代目春風亭柳好が演ずるというハイブリッド版をサンプルにしてみました。

サンプル 「穴どろ」前半(志ん生)

サンプル 「穴どろ」後半(柳好)

だれかがそういう風に変更してやっているのか、これを「泥棒」の噺としている人がいましたが、お聴きになればわかるように、結果的に泥棒といわれても仕方のない状況にはまりこんだだけの、困った酔っぱらいにすぎません。

なんたって、「木彫りの鬼みてえな顔した」女房に、「おまいなんか夫って顔じゃないよ、夫の下に危ないでもつけやがれ」と罵られて、うっかり「おっと、あぶねえ」とつぶやいてしまうようなお人好しですから、悪事をしようにも、ろくなことはできそうもありません。

それにしても、「びんぼう自慢」の志ん生がこういう噺を演ると、笑いながらも、やるせなくなってきますなあ。

◆ 夕べより今朝かぶりたい綿帽子 ◆◆
志ん生版の「穴どろ」の楽しいところは、十八番の「替わり目」のさわりを思い起こさせる、女房自慢の独り言です。三両もって来なきゃ家ぃ入れないよ、と邪険な女房に腹を立てながら、酒が入ると腹立ちが惚気に化けていく可笑しさはたまりません。

「夕べより今朝かぶりたい綿帽子」で、婚礼の翌朝は蚊の鳴くような声で「はい」とこたえ、「あなた」とやさしく呼んでいたのが、やがて「おまいさん」になり(夫婦としては「おまいさん」といっているのがいちばんいい時期でしょうな)、しまいには「おい」になったというのも、ルーティンながら、やはり略さないでくれてよかったと思います。

f0147840_2312391.jpg
穴蔵。ひところ、「江戸考古学」というのが流行って、そういう本を読んだが、東京を掘ると、穴蔵に放り込まれたものがずいぶん出土して、当時の生活ぶりを知る格好の材料になるのだそうな。

後半に登場する「カシラ」の代理は、弟分であったり、客分であったりしますが、じつに小心な人間で、それをどう表現するかが工夫のしどころです。サンプルには入れなかった志ん生版では、客分で、「こっちのケツにヒョットコが彫ってあるんだ、こっちへオカメが彫ってあるんだ、背中に般若が彫ってあるんだ」という、なんだかマヌケな彫り物をした人間です。

柳好版は弟分という設定で、彫り物はないようです。十代目文治版がそうでしたが、「右の腕に上り龍、左の腕に下り龍」という、「上り龍下り龍」の彫り物というので演じているものもいくつかありました。

いやはや、サンプルを出してしまうと、落語のことをあれこれいうのはやりにくいものですねえ。筋書きを書くのは面倒なものですが、書かないとなると、こんどは手持ちぶさたですわ。まあ、ゴチャゴチャいうのは野暮、落語はただ聴けばいいだけですがね。

落語を聴く興趣のひとつは、昔の生活感覚にふれられることです。この「穴どろ」の場合、旦那が「坊のめでたい日だ、今日はうちから縄付きは出したくない」というところで、なるほどねえ、と思いました。生活のなかにしみこんだ慈悲の心、とでもいえばいいのでしょうかね。いろいろたいへんだったのでしょうが、やはり昔のほうが生活しやすかったのではないだろうかという気がしてきました。


古今亭志ん生
五代目 古今亭志ん生(10)穴泥/五銭の遊び
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古今亭志ん生『びんぼう自慢』
びんぼう自慢 (ちくま文庫)
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古今亭志ん生『なめくじ艦隊』
なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)
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三代目春風亭柳好 穴泥、青菜、居残り佐平次
ビクター落語 三代目 春風亭柳好 青菜、他
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八代目林家正蔵 穴どろ、煙草の火
なごやか寄席シリーズ 八代目 林家正蔵 煙草の火/穴どろ
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江戸を掘る―近世都市考古学への招待
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by songsf4s | 2009-12-29 23:44 | 落語