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2009年 12月 16日 ( 1 )
クリスマス映画6B Pocketful of Miracles (映画『ポケット一杯の幸福』より その2)
タイトル
Pocketful of Miracles
アーティスト
OST
ライター
Sammy Cahn, Jimmy Van Heusen
収録アルバム
N/A
リリース年
1961年
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たとえブログでも、好不調、仕上がりの善し悪しは当然あります。前回の記事、『ポケット一杯の幸福』の前篇は、われながら不出来だったと反省しています。急いだからなのですが、急いだというのなら、いつだって残り何分と時計を見ながら書いているので、自分を納得させる弁解にはなりません。

それよりも、一度書いたことをどういうアングルから書き直すかということのほうが問題で、このクリスマス・スペシャル2では、毎度、過去の記事に苦しめられています。一昨年とちがう点は、今回は映画を見直したことと、前回は文字だけだったテーマ曲の二種類のカヴァーのサンプルを提示できたことです。

◆ 豪快なセット ◆◆
どんなものでも、同じものを繰り返し見たり聴いたりすれば、最初のときとはずいぶん見方聴き方が変わるものです。わたしの場合、明白な傾向は、二度目以降、スコアの出来とセットの細部が気になりはじめることです。

『ポケット一杯の幸福』に関してはちょっとおかしな具合になり、「細部」ではなく、エーと、反対語はあるのでしょうかね、「大部」なんていわないでしょうな、ま、とにかく、以前は木を見て森を見ず、画面の端ばかり見ていて、とんでもなく大きなセットを見逃していたことに気づき、呆然としました。以下のシークェンスです。

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船が動いているので以前は気づきませんでしたが、これはセットでしょう。こういう撮影をロケでやるのは大いなるトラブルのもとです。

日本でこれだけのセットを組むのは、予算からいってむずかしいでしょう。ただの板壁とはいいながら、ちゃんと大勢の人が乗れるだけの船腹をつくったうえに、入港らしくするために、全体をゆっくりスライドさせているのだから、ちょっとしたものです。

そもそも、この埠頭の場面が気になったのは、タイトルを見ていて、ニューヨークの町並みがオープン・セットに思えたからです。町並みをつくることにくらべれば、たいていのセットは楽勝だからと思い、ほかに大きなセットはないのかと見ていて、ああ、これもそうか、と思ったのです。

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それにしても、ホテルのファサードや裏口は何回か必要になるとはいえ、どうしても必要というわけではない付近の通りや建物もつくってしまうところが、やはりハリウッドの大監督によるA級映画らしいところです。

◆ あまった40分 ◆◆
しかし、フランク・キャプラはこの『ポケット一杯の幸福』を最後に、二度と映画をつくることはありませんでした。どちらかというと「強いられた引退」だったようです。当然、『ポケット一杯の幸福』も、大セットに見合うほどの興行成績は上げられませんでした。なにがいけなかったのやら。

好き嫌いでいうなら、わたしは『ポケット一杯の幸福』が好きです。テーマ曲も好きだし、リアリズムに毒されていない話のつくりにも、昔のものの香りがたっぷりあって好ましい雰囲気をもっています。でも、意地悪く観察すると、キャプラも年をとって耄碌したのかもしれないと感じます。

なによりも損なのは、自分自身の昔のヒット作を再映画化した点です。どうしてもヴェテランの批評家の目には、若きキャプラの清新な演出の記憶が残っているから、リメイクの評価はじっさいよりも悪くなってしまうでしょう。

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本文とは関係ないのだが、これほどすごい男女のケンカのシーンはほかに見た記憶がない。

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たとえベッドとはいえ、グレン・フォードはホープ・ラングを豪快に投げ飛ばす!

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服がやぶれて見えたクラシックなアンダーウェアがまたけっこう哉。

オリジナルの『一日だけの淑女』と比較していうなら、もっともいけないのは上映時間です。『一日だけの淑女』はいたってノーマルな90分程度、それに対して『ポケット一杯の幸福』は130分、これは長すぎるでしょう。どうしたって、どこかでダレます。

どこでダレたかというと、困ったことに冒頭付近です。オリジナルとリメイクの上映時間を差し引いた40分、これがリメイクの最大の欠陥で、アップル・アニーの娘がニューヨークにやってくる(シノプシスについては一昨年の記事をご覧あれ)という、メイン・ストーリーにたどり着くまでが、むやみに、そしてムダに長いのです。

序盤のサブ・プロット(シカゴの大物との交渉)があとで生きるならいいのですが、本筋に入ると放り出されたも同然になり、エンディングにからんでこないのだから、なんのためにもたもたした展開を我慢したのかと、あとで呆れることになります。こういうことをいうのは失礼きわまりないのですが、最初に見たテレビ放映ヴァージョンのほうが、よほど展開が速くて退屈しませんでした。不要なサブ・プロットを切ってしまったおかげです。

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フランク・キャプラが若いころのように頭が切れていれば、あるいは、セルフ・プロデュースではなく、だれかもののわかったプロデューサーがついていれば、よけいなことに金と時間を使うな、見せるべきものだけを見せろとキャプラを説得できたでしょうに。

◆ 雨の夜ではじまる不思議 ◆◆
気に入らないことは最初の30分に集中しています。タイトルからして首をかしげます。なにかべつの映画とまぎれてしまったのか、わたしは、タイトルかまたはその直後に、雪のちらつく街頭で、デイヴ・ザ・デュード(グレン・フォード)が、アップル・アニー(ベティー・デイヴィス)からリンゴを買うシーンがあったと思いこんでいました。

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ところがタイトルの街頭シーンは雪ではなく雨。なぜ開巻いきなり雨なのか、意味がわかりません。テーマ曲は軽快で明るいのに、あのざんざん降りの氷雨はなんなのでしょうか。雨に濡れた募金のサンタ・クロースの姿なんて、盛り上がるわけがありません。

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雪のちらつく夜に、デイヴ・ザ・デュードがアップル・アニーからリンゴを買う、というのは、わたしの勝手な思いこみ、たんなる記憶ちがいです。でも、なぜそういう記憶違いが起きたかといえば、そのほうがこの物語にふさわしい情景だからです。ざんざん降りの氷雨がまったくこの物語には不似合いだから、初見から再見までの数十年のあいだに、わたしの頭のなかで「正しいシーンが撮影された」のです。

クリスマスに雪が降っているなどというクリシェは、フランク・キャプラの趣味ではなかったのかもしれませんが、だからといって雨を降らせることはないでしょう。雨の夜からはじまる映画は、どう考えてもイヤな予感を抱かせます。いい娯楽映画をつくるには、居直ることも必要です。観客の予測をはずすのは快感を喚ぶ方向だけにかぎるべきで、予測をはずして不快感を与えてはなんの意味もありません。

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最初に見たのがテレビ放映だったので、冒頭の展開がこんなにだるいとは知らず、よくできた映画だと思いこんでいました。見返しても、最初の30分さえ切り抜ければ、あとは楽しめる出来だと感じます。ダレ場はどこにあっても困りますが、とりわけ冒頭でダレたら客は投げます。それくらいのことは、昔のキャプラならちゃんと計算していたでしょうにね。

◆ 俳優たち ◆◆
Look a little on the sunny sideといきましょう。リメイクの好ましい点をあげておきます。

まず、代貸役のピーター・フォークが、オリジナル版の代貸より楽しませてくれます。『刑事コロンボ』を見たあとで、若いころのピーター・フォークを見ると、なんだか落ち着かない思いをしますが、『ポケット一杯の幸福』は据わりのいい役で、楽しんで見ることができます。

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一昨年も書きましたが、これがデビュー作のアン=マーグレットが非常に魅力的です。一曲、アカペラで歌うシーンもあって、この歌声がまたけっこうなものです。

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アップル・アニーもリメイク版のベティー・デイヴィスのほうがいいと思います。シンデレラ変身シークェンスがいいのです。リンゴ売りの老婆から、みごとに貴婦人に変身します。オリジナルでも、リメイクでも、変身したアニーを見て、周囲が呆然とするのですが、リメイクのほうがリアリティーがあり、判事たちの褒めそやす言葉がお世辞に聞こえません。

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執事の役は、どちらの解釈が好ましいかという点についてはお好みしだいでしょう。オリジナルのほうがよりリアルなイギリス風謹厳実直バトラーです。リメイクはアメリカ風の軽い執事で、台詞が増えています。わたしはこの執事が「自分の意思でこの役割を引き受けた」というところと、「だれだってシンデレラ物語を愛しているものですよ」というところでは、思わず笑ってしまいました。

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『ポケット一杯の幸福』が、『一日だけの淑女』ほど世評が高くないのは、それだけの十分な理由があってのことだと認めたうえで、あえていいます。冒頭の30分さえなければ、わたしはリメイクのほうが好きです。


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by songsf4s | 2009-12-16 23:55 | クリスマス・ソング