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2009年 12月 11日 ( 1 )
クリスマス映画5A Silver Bells (映画『腰抜けペテン師』The Lemon Drop Kidより その1)
タイトル
Silver Bells
アーティスト
Marilyn Maxwell & Bob Hope
ライター
Jay Livingston, Ray Evans
収録アルバム
N/A
リリース年
1951年
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一昨年のクリスマス・スペシャルのSilver Bellsの記事で、この曲はデイモン・ラニアンの「レモン・ドロップ・キッド」を原作とした、映画『腰抜けペテン師』の挿入曲として書かれた、ということを見てきたように講釈しました。

そのとき、こういう風に現物を確認しないまま、だれかの書いたことを引き写すのはイヤだなあと思ったので、今回は雪辱を期してみました。

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◆ クリスマスの街頭 ◆◆
一昨年の記事で、シノプシスを読んだかぎりでは、ラニアンの短編「レモン・ドロップ・キッド」と、ボブ・ホープ主演の映画『レモン・ドロップ・キッド』(1951年)とのあいだには、ほとんど連絡がないと書きました。じっさいに映画を見ても、ラニアンならこんな話はつくらないぜ、という主人公の性格設定であり、話の展開でした。

そういう話はあとにして、映画のなかでSilver Bellsが流れるシーンをとりあえずご覧あれ。一昨年の記事で推測したとおりのシークェンスで流れました。つまり、それなりに絵に添った歌詞になっているということです。

Silver Bells街頭シークェンス


なんともいえずノスタルジックに感じられるシークェンスで、こういう絵に出合えるのが、大昔の映画を見る大きな楽しみのひとつです。たんなる絵と音としてなら、わたしはこういうシークェンスを見ていれば満足してしまいます。問題は、映画には物語という次元もあることです。

◆ リメイクゆえの逸脱 ◆◆
f0147840_071530.jpg一昨年はわかっていなかったのですが、デイモン・ラニアンの「レモン・ドロップ・キッド」は、1934年にすでに映画化されているそうです。今回はそちらのほうのシノプシスを読みましたが、なんだ、ラニアンの「レモン・ドロップ・キッド」そのままの話じゃないかと思いました。

ということで、1951年のリメイク版が変な話になった責任は、最初の映画化にはないことは明らかです。いや、すでにストレートな映画化があったので、すこしひねりを入れようとして、大失敗したというパターンかもしれません。リメイクはつねにむずかしいのです。

ボブ・ホープ扮するレモン・ドロップ・キッドは競馬の予想屋です。日本の競馬場の外にいて、大げさな口上つきで予想紙を売っているようなタイプの予想屋とはちょっとちがいます。個別にカモを引っかけては、自分がいかにも事情に通じているように思わせ、それぞれの客にちがう馬に賭けさせるのです。

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「ふむふむ、ほう、そいつはすごいな」馬から直接情報をもらっているというデモンストレーション! 耳の穴にレモン・ドロップが押し込んであり、馬はそれをとろうとして、キッドの耳に口を寄せる。たんなる偶然だが、Silver Bellsを書いたレイ・エヴァンズとジェイ・リヴィングストンのコンビは、後年、馬がしゃべるテレビ・ドラマ「ミスター・エド」のテーマ曲を書いた。

たとえば、自分は獣医で、これから出走する馬の状態はよく知っているのだけれど、医者は「患者」(馬だろうが!)のことについては守秘義務があるから明かすことはできない、とかなんとかもったいぶったことをいったあげく、つぎのレースは〈アイアン・バー〉のものだ、などと吹き込みます。鉄の棒だなんて名前の馬が走るかよ、と思って見ていると、これが一着!

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「いや、〈患者〉のことはしゃべれないから」獣医のふり。

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「弟はジョッキーでねとペテン師いい」。よくある「家族親戚」パターン。

そういう調子で、つぎつぎとちがう馬を売り込んでいけば、だれかが当たります。当たった相手からは謝礼をもらい、はずれた客には二度と顔を合わせないようにする、という戦術です。

◆ 詐欺が不得意な詐欺師 ◆◆
一昨年はこの部分をまちがって書いてしまいました。わたしが読んだシノプシスがまちがっていたのか、急いでいたために、記憶していたラニアンの設定で書いてしまったのか、どちらかです。

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客にぜったい勝てない馬に賭けさせ、その賭金を預かって、馬券を買ったようなフリをして買わずに丸ごと懐に入れてしまう、というやり口は、デイモン・ラニアンの「レモン・ドロップ・キッド」のほうで、映画はちがうのです。ラニアンの原作では、ぜったいに勝てないはずのよぼよぼ馬が勝ってしまい、レモン・ドロップ・キッドが窮地に追い込まれる、という導入部でした。

1951年のリメイク版映画では、暗黒街の顔役の娘を、そうとは知らずにカモにしてしまい、〈ライトニング〉という名前だけは走りそうな馬に賭けさせます。これが〈アイアン・バー〉とは月とスッポン、スタートから嫌がり、案の定、ドンケツになって、2万ドルの損をさせてしまいます。これであとは、一昨年の記事のシノプシスに話がつながります。

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馬券売り場の前で千ドル札をひらひらさせている、という設定からして理解不能。そんなことをして無事ですむほどアメリカの競馬場は平和なのだろうか?

わたしは、この設定からしてダメだと思いました。暗黒街の顔役の娘は、このレースでもっとも大金をもったカモです。そういうカモにはできるだけ確度の高い情報を教えるのが論理的です。賭金が大きいほど報酬も大きくなるのが理屈です。最上の客にもっとも勝てそうもない馬を割り当てるようでは、一日もこの業界で生きていけないはずです。

映画はそういう観客の不満には頓着せず、どんどん先に進んでしまいます。暗黒街の顔役に脅されたキッドは、クリスマスまでに2万ドルを返すと約束し、〈外科医のサム〉という「人からものを取り出すことの専門家」に鰺のように「開かれる」のをなんとか免れます。

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盗んだダイアモンドを飲み込んだという男を、これから〈外科医のサム〉が「開く」のだといって、キッドにちょっとのぞき見させる。

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隣室からサムがやってきて、ダイアモンドをボスにわたす。レモン・ドロップ・キッドは震え上がるが、じつは、飲み込んだというのはウソで、靴からとりだしただけ。ここは笑えるシークェンス。

金を返すために、キッドはニューヨークに戻り、クリスマスのインチキ募金で金を稼ぐことを思いつきますが、市の許可証をもっていなかったために警察につかまってしまいます。

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窮余の一策、キッドは困っている老婦人のための施設をでっちあげ(キッドを脅している顔役が所有するカジノを転用する)、そのための寄付を募るといってライセンスを得ます。

◆ キャラクター設定の混乱 ◆◆
このあと、べつの悪党がキッドの金と老婦人たちを横取りし、それを取り戻すために奮闘するという展開になりますが、なんだかギクシャクした話の運びでした。

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元はカジノの急造老人ホーム、プール・テーブルをベッドがわりする。ラシャが傷んだらボールの転がり方が狂うじゃないか!

なによりも、レモン・ドロップ・キッドのキャラクターが、いい奴なんだか、悪い奴なんだかはっきりせず、大団円にいたっても、めでたしめでたし、にならないのが困りものです。考えの足りないケチな詐欺師が詐欺をやりそこない(つまり、考えの足りない下手くそなシナリオ・ライターが人物設定とプロットを混乱させ)、苦しまぎれと運で、うっかりまちがえてハッピーエンドになってしまっただけです。

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木村威夫の『映画美術』を読んで以来、暖炉のサイズに注目しているが、このカジノ兼老人ホームのマントルピースは、これまでに見たもので最大。天井まで届いているので、上にものを飾れない! じつは、警察の手入れに備えて、プール・テーブルなどを壁の向こうに収容するために、大きくつくってある。

最後に官憲の力を借りるなら、はじめからキッドを善人(いやまあ、詐欺師だから、善人はないが、デイモン・ラニアンの登場人物はみな「愛すべき悪党」なのだ。ラニアンの話を映画化するなら、「人好きのする悪人」を描く力量が必要不可欠)とするべきだし、あくまでもピカロとしたいなら、最後も警官などの力を借りずに、独力で敵対する悪党の向こうずねをかっぱらう、という話にするべきでした。詐欺師が警官と手を組むというのは、警察の腐敗への皮肉だったのでしょうかね?

はてさて、映画を見て、シノプシスを書くのが精一杯、ずらりと並べたSilver Bellsを聴くところまではたどり着けませんでした。次回、White Christmasの半分ほど、たったの39種類しかない(!)Silver Bellsの各ヴァージョンを検討し、一昨年の記事を補訂します。三月ウサギじゃありませんが、急がないとクリスマスはすぐそこ、ろくに映画を見ないうちに終わってしまいそうです!

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Damon Runyon "Little Miss Marker"
ブロードウェイの天使 (新潮文庫)
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『リトル・ミス・マーカー』もシャーリー・テンプル主演で映画化されている。

Damon Runyon "Broadway Incident"
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ブロードウェイの出来事 (ブロードウェイ物語)

デイモン・ラニアン短編集『ガイズ・アンド・ドールズ』
Guys and Dolls: The Stories of Damon Runyon
Guys and Dolls: The Stories of Damon Runyon
日本語で読むのはかなりきびしい作家で、最後はオリジナルで読もうという結論に到達するかもしれない。

『レモン・ドロップ・キッド』DVD(米盤、日本語字幕なし)
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リージョン・コード無視DVDプレイヤーないしはリージョン・コード解除ソフトが必要になる可能性が高い。
by songsf4s | 2009-12-11 23:17 | クリスマス・ソング