人気ブログランキング |
2009年 06月 06日 ( 1 )
The High and the Mighty by Dimitri Tiomkin (OST 『紅の翼』より その1)
タイトル
The High and the Mighty
アーティスト
Dimitri Tiomkin (OST)
ライター
Dimitri Tiomkin, Ned Washington
収録アルバム
The High and the Mighty (OST)
リリース年
1954年
他のヴァージョン
The Shadows, Les Baxter, Los Indios Tabajaras, Victor Young, Mantovani, Perez Prado, 101 Strings, Muzzy Marcellino, LeRoy Holmes
f0147840_19501279.jpg

そういうものも少なくないだろうと思うのですが、本日の『紅の翼』のテーマは、大昔から知っている曲なのに、これをテーマとした映画のほうは見たことがありませんでした。

万一誤解があるといけないので、念のために確認しておきます。『紅の翼』といっても、中平康監督、石原裕次郎主演の日活映画ではなく、ウィリアム・ウェルマン監督、ジョン・ウェイン主演のワーナー・ブラザーズ映画、The High and the Mightyのほうです。両者とも「航空映画」といえますし、ほかにも共通点があるので、おそらく日活作品は、ワーナー作品をヒントにして製作されたのだろうと想像します。『紅の翼』というのは、いかにも日活好みの語感で、タイトルを拝借する誘惑に勝てなかったのでしょう。

f0147840_19503470.jpgこの曲をはじめて聴いたのは、たぶん1965年、まだアマチュアだったサベージが、テレビの「勝ち抜きエレキ合戦」(または同種の別番組)で、何度かプレイしたせいです。当時をご存知ない方のために補足しておくと、このグループのベースは寺尾聡でした。

あの番組からはほかにもバンドが輩出したと思いますが、小学校六年だったわたしが惚れ込んだのはサベージだけでした。たいていのバンドがWipe Out!だとか、Bulldogだとか、Yellow Jacketといったシンプルな曲(そしてヴェンチャーズのレパートリー)をやっているときに、The High and the Mightyのような、子どもには無茶苦茶に大人っぽく聞こえる曲をやったサベージは、他とは隔絶した別格中の別格でした(よけいなことを思いだした。後年、ヤマハのコンテストで、下手くそなPurple HazeやFoxy LadyやGloriaを山ほど聴いたあとで、同じようにトリオの編成なのに、エヴェリーズのAll I Have to Do Is Dreamをやったフリッパーというグループにも、サベージと同じようなショックを受けた)。

そのあと、中学のとき、こんどはサベージ盤のもとになったシャドウズ盤を買い、以後、わたしの頭のなかでは、この曲はつねに「シャドウズの『紅の翼』」でした。昨夏、映画やテレビの音楽を取り上げるようになって以来、いずれこの曲をやろうと思っていたのですが、なかなかその機会がありませんでした。

f0147840_19553168.jpg
何度かふれているが、シネマスコープはわたしの幼児のころの流行で、『紅の翼』もこのフォーマット。シネマスコープの登場以来、わが家は京橋のテアトル東京にしばしば通うようになったそうな。なにかシネマスコープの映画で、向こうから来る飛行機を、幼児のわたしが頭を下げてよけたというのはわが家でひとつ話になっていたが、考えてみると、『紅の翼』はその飛行機をよけた映画である可能性が高い。だとしたら、見たことがなかったというのはわたしの記憶違いということになるが、この映画を公開時にテアトル東京で見たとしたら、二歳かせいぜい三歳のこと、覚えているはずがない!

◆ オリジナル・サウンドトラック ◆◆
『紅の翼』は、ごく簡単にいえば、ハワイからサンフランシスコに飛ぶ旅客機が、エンジン・トラブルのために燃料の多くを失い、不時着するか否かという危機に見舞われる、という話です。

f0147840_20374265.jpg

f0147840_20375588.jpg
ハワイからの離陸シーン。いかにも幼児が怖がり、頭を下げてよけそうなショットではある!

後年のディザースター映画、とくに『大空港』などの原型といわれるそうですが、その種の映画の特質でもあったように、『紅の翼』もいわゆる「グランド・ホテル形式」をとっています。ある特定の空間を、一定時間ともにした人々の人間模様を、つぎつぎに輪切りにしてみせる、というタイプです。後年のディザースター映画でいえば、『タワーリング・インフェルノ』や『ポセイドン・アドベンチャー』が典型ですが、たとえば『タイタニック』のようなずっと時代の下った映画も、この形式をなぞっています。

それではオープニング・シークェンスをご覧あれ。



なまじシャドウズのカヴァーを知っていると、かなりイメージがちがうので、なんだ、こういう曲だったのか、という気がしなくもありません。いや、メロディーが大きく異なるわけではないのですが、シャドウズ盤には日没のようなムードがあり、原題より邦題のほうがふさわしいのに対して、このOSTには、真っ昼間の明るい大空が似つかわしい、というだけです。

シャドウズのテンポに馴れていると、OSTはなんだかむやみに速く感じられますが、こういう明るい絵柄で流れるのだから、あまり遅くするわけにもいかず、すこし速めの晴れ晴れとしたサウンドになるのも当然といえます。とはいえ、やはり無心ほどむずかしいことはなく、シャドウズ盤は聴かなかったことにして、というぐあいには簡単にはいかず、このヴァージョンへの「適応」にはちょっとばかり苦労しました。

あまりいい処理とは思えないのですが、クリップにもあるように、オーケストラによるテーマの直後に、同じ曲が口笛だけで流れます。ジョン・ウェインが口笛を吹きながら歩いている、というショットで、その曲として使われているのです。そして、これは一度や二度ではなく、劇中、何度も口笛ヴァージョンが流れます。ジョン・ウェインの役はダン・ローマンというパイロットなのですが、この人物が「口笛ダン」(Whistling Dan)とあだ名されるほど、しょっちゅう口笛を吹いているという設定なのです。

f0147840_20431312.jpg
危機にあっても、機長(右、ロバート・スタック)のリクエストで、口笛を吹くダン・ローマン。

こういうテーマの扱いというのはめずらしくなく、たとえば、昨年取り上げた史上最大の作戦でも、登場人物がテーマ曲を口笛で吹くシーンがありました。それが音楽映画で、劇中でその曲が「実在」のものとして扱われ、人物たちがそれを承知している、といったケースはべつとして、このように、本来は「芝居の外側」にある曲を「内側」で使うのは、わたしには違和感があります。

◆ 幻の主題「歌」? ◆◆
サントラ盤の最後に、テーマと同じメロディーによる歌が入っていますが、わからないのは、これが映画には使われていないことです。念のために検索してみたところ、映画には使われなかったこの主題歌に関する記事が見つかりました。これはレナード・バーンスティーンがなぜ『波止場』のスコアでオスカーを取れなかったのかを考究する記事で、その主因としてディミトリー・ティオムキンがやり玉にあげられているのです。以下、この記事からの要約です。

f0147840_2050389.jpg

ティオムキンは悪名高き自己宣伝屋で、積極的にオスカーを奪取することで有名でした(最終的に、音楽賞、主題歌賞あわせて四度受賞した)。『紅の翼』のテーマはすぐにさまざまなカヴァーが出まわり、そのうちいくつかはヒットしましたが、アカデミー委員会は、映画のなかには歌詞のあるヴァージョンが登場しないので、この曲はアカデミー最優秀主題歌賞の要件を満たしていないとしました。ティオムキンは製作会社に、この歌詞のある「歌ヴァージョン」を入れたプリントを一本だけつくらせ、年末にLAでのみ上映することで、強引に主題歌賞の対象となる資格をあたえました。

そのほかにもあれこれ宣伝工作をしたようですが、結局、この年度の主題歌賞はThree Coins in the Fountain(『愛の泉』)にあたえられ、ティオムキンはスコアのほうで音楽賞を得るに留まりました。そして、この記事の筆者は、ティオムキンに音楽賞があたえられたのは、投票者が主題歌賞の埋め合わせに、と考えたからではないか、と述べています。本来なら、音楽賞はバーンスティーンにあたえられるべきだったという含意です。

よその記事の要約は以上でおしまいです。なるほど、ショウの裏側、じゃなくて、賞の裏側というのはいろいろあるものなのですねえ。わたしは、『紅の翼』のスコアは、べつに悪いところはないものの、かといって、その年度を代表するほどすぐれているとも思いません。しかし、The High and the Mightyというテーマ曲のほうは、子どものときから大好きなので、この曲に賞があたえられたというのなら、ティオムキンの嫌味なキャラクターとは無関係に、フェアなことだと感じたでしょう。Three Coins in the Fountainより、The High and the Mightyのほうがずっといいと思います。

f0147840_20505513.jpg

まあ、賞というのは、理性や合理とは無縁で、なにかべつのものの総和によって決まるものなので、忘れることにしましょう。これだけの年月がたってしまえば、生まれたときにこの曲にからまっていたあれこれは、もうきれいさっぱり洗い流されています。

もう一回だけ『紅の翼』をつづけ、次回はカヴァー・ヴァージョンを検討します。いくつかすぐれたものがあります。

f0147840_20511534.jpg

by songsf4s | 2009-06-06 23:48 | 映画・TV音楽