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2009年 06月 01日 ( 1 )
Mr. Downtown by Freddy Fredrickson (OST 『すべてをあなたに』より その3)
タイトル
Mr. Downtown
アーティスト
Freddy Fredrickson (OST)
ライター
Tom Hanks, Gary Goetzman, Mike Piccirillo
収録アルバム
That Thing You Do! (OST)
リリース年
1996年
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このところ当家は映画、テレビの音楽ばかりやっているので、どうしてもYouTubeのお世話になることが多いのですが、検索機能の使いにくさには往生します。面倒なので、検索結果画面ではなく、つい関連動画を開いていってしまうのですが、それをやっていると、さっき見ようと思ったはずのクリップがどこかにいってしまい、およそお呼びでないところにたどり着いていたりします。

つい最近遭遇したのですが、こういう検索エンジンがあります。ちょっと使ってみたところ、YouTube本体でクリップを検索するよりよほどシステマティックかつ効率的に内容をチェックすることができ、すぐにこちらに切り替えてしまいました。人それぞれ目的が異なるので、このほうがいいと断言はしませんが、このckuik.com(たぶん「クウィック」と読む)のほうが、わたしの場合は作業がしやすいと感じています。

◆ オール・ガール・フォーキーズ ◆◆
本日はThat Thing You Do!の最後なので、落ち穂拾いとして、小さなディテールをランダムに見ていこうと思います。

過去のある時代を描いた物語、あるいは、ある特殊な世界を描いた物語では、小さなディテールが気になるものです。もちろん、そちらに気をとられすぎると、つくる側も見る側も失敗することがありますが、しかし、ディテールが貧弱では、どんな物語もうまくいきません。

That Thing You Doという映画で最初に声を立てて笑ったのは、こういうショットです。

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これは主人公であるワンダーズがエントリーしたタレント・スカウト・ショウの一コマで、女の子四人組のフォーク・グループの登場シーンです。いかにもダメそうなグループで、ヤジを飛ばされ、紙飛行機を投げつけられます。

この映画の時代設定よりずいぶん下った1960年代終わりのことですが、わたしが通った中学高校一貫校の中等部にも、こういう女の子だけのフォーク・グループが複数あって、紙ヒコーキを投げつけられたりはしませんでしたが、わたしら高等部の硬派は、かんべんしてくれよ、と頭を抱えていました。

したがって、That Thing You Doのこのシーンでわたしが笑ったのは、「いずこも同じ、あのころはこういうのがいて、男たちは困っていたよねえ」といった気分の表出といえます。さらに補うなら、「いや、すまん、不寛容は悪徳だと、いまでは反省している」という気分も何パーセントかは含まれています!

◆ ありそうな、なさそうな ◆◆
ワンダーズは、トム・ハンクスが働くプレイトーン・レーベルと契約すると同時に、プレイトーン傘下アーティストのパッケージ・ショウに組み込まれてツアーに出ます。はじめは、当然ながら「浅い」ところに出演するのですが、ツアーのあいだにデビュー曲That Thing You Do!がビルボード・チャートをどんどん上昇していき、ショウでのビリングスもあがっていくことになります。

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これはごくふつうのことで、パッケージ・ツアーのあいだにシングルがヒットしはじめ、出番が入れ替わったというのは、さまざまなアーティストの逸話にあります。ロイ・オービソンのイギリス・ツアーの前座として出演していたビートルズが売れはじめ、最後にはオービソンが先に出るようになったそうです(このときの経験がオービソンにビートルズ・スタイルを模したOh, Pretty Womanを書かせたといわれている)。

この「プレイトーン・ギャラクシー・オヴ・スターズ」というパッケージ・ショウの描写として、いろいろなグループが登場し、さまざまな60年代風パスティーシュ・ソングが流れます。前回取り上げたシャントレリーンズのHold My Hand, Hold My Heartもその一曲でした。

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64年というのは「ビートルズはやってきたけれど、アメリカ自前のビート・グループの供給は極度に不足していた時期」と定義することができます。プレイトーンも、ビートルズ以前の時代のアーティストばかりで、このへんのディテールもじつに生真面目につくってあります。

べつにお勧めするわけではないので、よほど興味を持たれた方以外は無視していただきたいのですが、たとえばダイアン・デインという大年増のシンガーがいて、ワンダーズのヴォーカルといい仲になってしまいます。



65年ぐらいになっても、こういうタイプの曲というのはまだチャートにいくらでもあって、小学生としては勘弁してほしい音楽の典型でした。64年にはまだラジオの虫ではありませんでしたが、あとからチャートを見れば、うーん、これはきびしい、楽しめる曲はそれほど多くない、あの時代にラジオを聴いていたら、古めかしい音楽にうんざりしただろう、と思います。

今日の看板に立てたフレディー・フレデリクソンという架空のシンガーによるMr. Downtownという曲も、ビートルズ以前の時代に大ヒットした曲という設定になっていて、このシンガーの代表作としてツアーのステージで歌われます。ビートルズ旋風が吹き荒れた直後には古めかしく聞こえただろう、という微妙な雰囲気がよく出た曲作り、サウンド作りです。



これはじつに面白い発想でつくられています。ベースとピアノの左手によるリフは、明らかにヘンリー・マンシーニのPeter Gunnのテーマを意識したものです。歌詞からも、「ピーター・ガン」と同じような探偵ドラマないしは警察ドラマの主題歌なのだろうと想像がつきます。おそらく、50年代終わりから60年代はじめのヒット・ドラマで、すでに放送が終わっているもの、という設定でしょう。

では、徹頭徹尾リアリズムで貫かれているかというと、そうでもないのです。どこがリアルでないかというと、この曲がインストではなく、歌ものだという点です。いや、歌ものでも、(たいていは混声)コーラスだと、「サンセット77」「サーフサイド6」「バークにまかせろ」、「ハワイアン・アイ」などの例があります。しかし、ソロ・ヴォーカルによる探偵・警察ドラマの主題歌というのは、わたしが知るかぎり存在しません(カヴァーはのぞく)。この微妙な隙間を衝いて、「あったかもしれない主題歌」をつくってしまったところが、わたしには非常に面白く感じられました。

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Mr. Downtownを歌うフレディー・フレデリクソン

◆ 成金社長 ◆◆
ツアーの途中でThat Thing You Do!がビルボード・チャート7位に到達したため、残りの予定はキャンセルされ、ワンダーズはLAに飛びます。このLAで起きるあれこれも、なかなか興味深いものです。

まず、プレイトーンの社長とのプロモーション用写真の撮影という「仕事」をするのですが、これがまたリアリズムと誇張の中間で、笑ってしまいました。会社の規模はかなり大きく、しかもハリウッドに本社機能があるという設定のようです。となると、キャピトル・レコードしかないのですが、なんとなく、そういう想定ではないだろうと感じます。この風体、人相、立ち居振る舞いからわたしが連想する経営者は、インペリアルのルー・チャドです。

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映画のなかのこの経営者は音楽にはまったく関心がなく、ワンダーズのヴォーカルを失望させます。チャドは音楽より金のほうがずっと好きだったかもしれませんが、すくなくとも会社の発足当初は音楽に無関心ということはなかったと思われ、その点では劇中の経営者とは異なります。まあ、デイヴ・バーソロミューをニューオーリーンズ駐在タレント・スカウトに任命して以降は、運と経営手腕だけでやっていったのかもしれませんが。

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ルー・チャド

インペリアルとスペシャルティーという、R&Bおよびロックンロールの黎明期に大きな役割を果たしたLAの独立レーベルの経営者が会社を売却したのは、60年代終わりからのカリフォルニアの石油ブームのせいだといわれています(ロス・マクドナルドの小説に、石油汚染に悩むカリフォルニアの海の描写があったと記憶している)。石油のほうでイヤというほど儲けたので、音楽での小銭稼ぎに興味を失ってしまったのです。映画のなかのプレイトーンの社長がルー・チャドをモデルにしているかどうかはおくとして、身なりや態度はいかにも未来の石油成金というムードで、非常に知的とはいいがたい業界をうまく象徴していると感じます。

◆ ビーチ・ムーヴィー ◆◆
リズム・ギターがLAで失望したのは、成金じみた社長だけではありません。「メイジャーな」映画に出演させてやるといわれて連れて行かれたのは、こんなロケーションでした。

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劇中劇におけるこのバンドの名前はCap'n Geech and the Shrimp Shack Shootersというとんでもないもので、プレイしているのもまたShrimp Shackという、しょーもないインスト。Short Shortsをさらに馬鹿馬鹿しくしたようなムードの曲である。

これは明らかにAIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)が大量生産したビーチ・ムーヴィーの雰囲気です。と書いてから、泥縄でAIPのこの種の映画のリストを眺めて、あれ、となってしまいました。わたしが記憶している映画がAIPのリストにないのです。べつのキーワードで調べたところ、わたしが勘違いをしてもしかたのない事情があったことがわかりました。

f0147840_2228376.jpg主題歌がサーフ・アンソロジーなどに採録されることが多い、アネットとフランキー・アヴァロンが主演したBeach Party(AIP、1963年)がこの分野の嚆矢だというのは、わたしが記憶していたとおりでした。この映画がヒットしたおかげで、AIPもこの種の「ビーチ・ムーヴィー」ないしは「ビキニ・ムーヴィー」を大量生産したのですが、じつはメイジャーもAIPに追随し、模倣作もずいぶんあったのだそうです。

たくさん見ているのですが、はっきり記憶しているのは、ウォーカー・ブラザーズやスプリームズの出演したものです(毎年夏になると三浦海岸でやっているような、海辺のライヴ・ショウという雰囲気の場面に出てくる)。そういう映画はないかと調べてみたら、どうやら『踊る太陽』(Beach Ball, 1965年)という作品らしいとわかりました。これがAIPではなく、パラマウントの製作なのです。

ということで、That Thing You Do!に出てくるビーチ・ムーヴィー・シークェンスは、AIPへのオマージュと断言するわけにはいかないのですが、まあ、われわれの世代が子どものころによく見た、浜辺で若者が大騒ぎを繰り広げる、バンドやシンガーが登場する映画を模したものであることはまちがいありません。ああいう大馬鹿映画をたくさん見た子どものなれの果てとしては、これは当然、必要なディテールだと感じます。そういうものをなおざりにしなかったのは、やはり脚本家、監督であるトム・ハンクスが、ああいう映画をたくさん見た証拠でしょう。

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◆ 夢やぶれて ◆◆
リズム・ギターはトム・ハンクスとの契約にも不満げな顔をし、知性のない社長に失望し、馬鹿馬鹿しいビーチ・ムーヴィーで、プレイしている振りをさせられておおいに腹を立てます。さらに、テレビに出演したときには「女性の皆さん、お気をつけなさい、彼は婚約中です」というテロップ(エド・サリヴァン・ショウにビートルズが出演したとき、ジョン・レノンのアップで「女性ファンにはお生憎、彼は妻帯者」というテロップが出たことを前提にしている)を出されて激怒し、楽屋に戻るや、ガールフレンドを罵倒します。

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翌日、アルバムのレコーディングでスタジオにいくと、契約によって、プレイトーンのカタログにある曲を録音しろといわれ、ついにこのリズム・ギターは「俺はやめた」といってスタジオを出て行ってしまいます。まあ、いかにもありそうな話を、かなり誇張して、短い時間のなかに詰め込んだだけなのでしょう。

でも、わたしは、このリズム・ギターの人物描写はやりすぎだと感じましたし、それがこの映画の最大の欠点であり、そのせいでエンディングがギクシャクし、後味を損ねたと思います。たしかにありそうな話なのですが、誇張がひどく、あまりにも早い段階でエゴをむき出しにさせてしまったために、どこにも共感できるところのないキャラクターとなってしまったように思います。

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バンドの人間関係というのはむずかしいもので、遅かれ早かれエゴの衝突が起きます。でも、キャリアのピークにあるときというのは、そういう衝突を回避する力が働くもので、この映画のエンディングはその原則に反しています。エゴ・トリップに入るにはまだ早すぎるのに、映画を終わらせる必要から、リズム・ギターを無理にものすごくイヤな野郎に仕立てたという印象なのです。

この映画のディテールは、わたしのような60年代育ちにとっては非常に楽しいもので、再見に耐える造りになっていますが、エンディングが爽やかでないのは惜しい瑕瑾だと思います。いや、空中分解で終わることに異議があるわけではないのですが、ほかにもっときれいな分裂のさせ方があったのではないかと思えてならないのです。

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最後にプレイヤーのクレジットが出る。こういう映画はめずらしい。しかし、もはや名前を知っているのはディーン・パークスとゲーリー・マラバーのみ。マラバーはあまりもっていないが、ネッド・ドヒーニーの盤で聴くかぎりでは、タイムがしっかりした好ましいタイプのドラマーである。

by songsf4s | 2009-06-01 23:52 | 映画・TV音楽