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2009年 05月 24日 ( 1 )
Everybody's Talkin' by Nilsson (OST 『真夜中のカウボーイ』より その2)
タイトル
Everybody's Talkin'
アーティスト
Nilsson (OST)
ライター
Fred Neil
収録アルバム
Aerial Ballet
リリース年
1968年
他のヴァージョン
Fred Neil, Spanky & Our Gang, the Exotic Guitars, Vincent Bell, Louis Armstrong, Willie Nelson, Harold Melvin & the Blue Notes, Stephen Stills, Crosby Stills & Nash, George Tipton
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読んでから30年以上たったいまも忘れないのですが、シャーリー・ジャクソンの『野蛮人との生活』のなかに、「家じゅうが流感にかかった夜」という愉快な一篇がありました。風邪をひいた子どもたちが両親の寝室にやってきたり、あれこれしているうちにゴチャゴチャして、朝になったら、家じゅうだれひとりとして自分のベッドに寝ていなかったという話です。

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いや、それはどうでもいいのです。「流感」という言葉はどうなったのだろう、と思ったのです。辞書には「【流感】流行性感冒の略」とあり、しからば「流行性感冒」を見ると「りゅうこうせい‐かんぼう【流行性感冒】インフルエンザ・ウイルスによって起る急性伝染病。多くは高熱を発し、四肢疼痛・頭痛・全身倦怠・食欲不振などを呈し、急性肺炎を起しやすい。インフルエンザ。略称、流感」とあります。

なぜこれを使わないのでしょうか? 「インフル」なんて、また馬鹿馬鹿しい経済用語か、と思われそうな、薄みっともない略語よりは、ずっとマシだと思うのですがねえ。相手がインフルだなんていう、いかにも軽そうなものなら、ぜったいに死ぬはずがない、なんて、わたしならナメてかかります。いや、それをいうなら「流感」もぜったいに死にそうもありませんがね。たとえば「エボラ」なんていう語感の、どうだ、爆発して死にそうだろう、という迫力とは桁違いですわ。

英語はどうかというと、日本語よりさらに軽くて、fluと略しますね。ご存知ジョニー・リヴァーズのRockin' Pneumonia-Boogie Woogie Fluですな、なんていうとお里が知れてしまうので、こういうときは、ヒューイ・ピアノ・スミスの、といわないといかんのですが、しかし、ジョニー・リヴァーズ盤が昔から大好きなのです。



ドラムはジム・ゴードン、ベースはジョー・オズボーンです。ピアノはラリー・ネクテルで、すごいとはいいませんが、ラリーといえば馬鹿のひとつ覚えで、だれもがいうBridge Over Troubled Waterの死にそうな退屈さにくらべれば、この曲のピアノはまだしも聴きどころがあります。あんなテキトーな、出来損ないクラシック風プレイを褒めると、それこそお里が知れますぜ。

ちゃんとジミーがトラップに坐ったライヴ・ヴァージョンもあります。ただし、ベースはオズボーンではないし、ピアノもラリーではありません。もっとドラムをオンでミックスしてくれたら、ことのついでにジミーの手だけを写してくれたら、まったく文句なしなんですが!



うーん、こういうのを見ると、とくにうまくないとはいいながら、ラリーのほうがずっといいなあ、と思います。いや、このたぐいのプレイなら、ベストはリオン・ラッセルで、それにくらべると、ラリーのプレイはせいぜい及第点というところでしょう。

◆ ニルソンのヴァリアント ◆◆
さて、Everybody's Talkin'のつづきです。昔はAerial Ballet収録ヴァージョンが映画にも使われたのだと思っていまいたが、今回見直したら、よく似ているけれど、ヴァリアントだとわかりました。先にAerial Balletのリズム・セクションのクレジットをコピーしておきます。

Bass……Larry Knechtel
Bass……Lyle Ritz
Drums……Jim Gordon
Guitar……Dennis Budimir
Guitar……Al Casey
Harpsichord……Michael Melvoin

文句なしですねえ。ハリウッドの黄金時代が偲ばれます。二人いるベースは、もちろん、ラリーがフェンダー、ライル・リッツがアップライトです。Everybody's Talkin'では、わたしの耳にはフェンダーしかないように聞こえるので、ラリーのプレイということになります。ドラムはブラシだけなので、だれとはわかりませんが、気持のいいタイムで、ジミーといわれれば、やっぱりね、と思います(いわれてわかるんじゃダメだっていうの>俺)。

ギターのラインはシンプルなのですが、なんだかひどく弾きにくくて、あせりました。目下練習中。このピッキングがすごくきれいで、この曲の気持よさの半分ぐらいは左チャンネルのギターのタイムのよさに由来すると感じます。ギターがきれいに聞こえるのは映画ヴァージョンのほうです。

両方をしつこく聞いてみて、なんだか、ほぼ同じメンバーじゃないかという気がしてきました。まあ、こういう風に、多少状況が変わっても、つねに一定の品質を保証できるところが、黄金時代のハリウッドのスタジオの特徴なので、メンバーの問題ではなく、インフラストラクチャーの問題というべきでしょうけれど。

f0147840_19474937.jpgついでといってはなんですが、「幻の主題歌」であるI Guess the Lord Must Be in New York Cityのほうのメンバーも見ておきます。

Bass……Larry Knechtel
Drums……Jim Gordon
Flute……Jim Horn
Guitar……David Cohen
Guitar……Howard Roberts
Piano……Michael Wofford
Piano……Michael Melvoin
Saxophone……Tom Scott

肝心のバンジョーのプレイヤーがわかりませんが、デイヴィッド・コーエンでしょうか。ハワード・ロバーツがニルソンのセッションというのも、へえ、ですが、この人がバンジョーを弾いた例は寡聞にして知りません。このHarryというアルバムには大きなセッションの曲もあるのに、まるでコンボでやったみたいなパーソネルなので、ここにはごく一部しか書かれていないのでしょう。

ともあれ、このアルバムでもやっぱりドラムはジミー。ニルソンはハル・ブレインとほとんどかすっていない(RCA契約以前のものに、ハルがあとでオーヴァーダブしてリリースしたものがある)、めずらしい60年代のハリウッド・ベースのアーティストなのです。ジム・ゴードンの若々しさが好きだったのでしょうかねえ。それにしては、異様なまでに地味なプレイばかりさせていますが!

◆ オリジナルやらカヴァーやら ◆◆
f0147840_1949397.jpgEverybody's Talkin'のオリジナルは作者のフレッド・ニールによるものです。わたしはフォークを不得手とするので、割り引いてお読みいただきたいのですが、オリジナルのフレッド・ニール盤には、ニルソン盤のような心弾むグルーヴはありません。ブラシでもいいからドラムがあったほうがいいし、1小節に2音でもいいからベースも入れたほうがいいのだということが、フレッド・ニール盤を聴くとよくわかります。好き嫌いの問題は抜きにしても、このグルーヴ(というか、その欠如)では、映画に使うわけにいかないのだけはハッキリしています。こちらのヴァージョンでは、『真夜中のカウボーイ』の冒頭8分あまりの長いシークェンスの躍動感は生まれません。

しかし、リズム・セクションなしでも魅力的なヴァージョンというのもやはりあります。スティーヴ・スティルズのライヴです。ご存知のようにスティルズのアコースティックというのは非常に独特のサウンドで、ちょっとスタイルは異なりますが、ネッド・ドヒーニーのように、非アコースティック的に扱うところがおおいなる魅力です。バッファロー・スプリングフィールドの時代でいえばBlue Bird、CS&Nの時代ならSuite: Judy Blue Eyesが、そうしたスティルズのアコースティックの代表作でしょう。

f0147840_1950132.jpgなぜそうなるかというと、理由はいくつかあると思います。1)マーティンを使うこと(ギブソンのアコースティックは強い音が出ず、あくまでもコード・ストローク向き)、2)基本的にタイムがすぐれている、3)ブリッジのすぐそばで強くピッキングすること、なんてあたりじゃないでしょうか。Love the One You're Withがヒットしていたころ、友だちがスティルズのライヴを見たそうですが、ステージにはずらっとギターが並べてあったといいます。すぐに弦を切ってしまうので、どんどん「弾きつぶし」、ギターを替えて弾いていくのだそうです。ブリッジのそばで強くピッキングすれば、新品の弦だってひとたまりもありません。Black Queenなんかすごかったそうで、そうだろうなあ、と思います。

スティルズのEverybody's Talkin'は、Black Queenのような強烈なプレイではなく、あっさりしたものです。しかし、スティルズのアコースティックはすばらしいので、あっさり弾いても気持のよいグルーヴになります。

スティルズにはもうひとつEverybody's Talkin'があります。CS&N時代、1970年の未リリース・トラック、リハーサルないしはデモです。わたしはこのグループのファンではないので、グレアム・ナッシュとデイヴィッド・クロスビーのハーモニーはどうでもよくて、やはりギターを聴いてしまいます。こちらのヴァージョンのギターも、おっ、いいな、と思う箇所があります。

◆ その他の歌もの ◆◆
f0147840_16414774.jpgウィリー・ネルソン盤もギターが悪くありません。ニルソン盤のギターは、うへえ、これは弾けないぜ、と思いますが、こちらならわたしでも大丈夫じゃないかという気がしてきます(えてして、たんに「気がする」だけだったことがあとでわかるが)。ナイロン弦2本でやっているので、キレはありませんが、こののんびりしたところがウィリー・ネルソン盤Everybody's Talkin'の賞味のしどころでしょう。間奏(ネルソン自身のプレイ?)では、オクターヴ奏法なども織り込んで、ちょっと浮いているかな、と思いつつも、楽しく聴けます。

面白いのはスパンキー&アワー・ギャング盤です。イントロのアップライト・ベースが楽しめます。トラックによってはハル・ブレインだったりしたグループだから、当然、このベースもプロでしょう。かなり弾ける人です。しかし、冷静になると、ベース以外はべつに面白くもなんともないヴァージョンですな。ベースがキマッたので、ほかのことは忘れちゃったのでしょう。典型的な「手術は成功した、患者は死んだ」ヴァージョンで、全体としては不出来。

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ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツといえばフィリー・ソウルなのでありまして、彼らのEverybody's Talkin'は、わが家にある唯一のソウル・ヴァージョンです。リズム・アレンジは考え過ぎじゃないかと思います。いや、うまいドラマーなら変なリズム・パターンでもきっちりグルーヴをつくってくるので、このドラマーが下手なだけかもしれませんが、どちらにせよ、うまくいっていません。もっとストレートなグルーヴにしたほうが楽しめたでしょう。



主としてIf You Don't Know Me by Nowの印象によりますが、わたしはこのグループがそこそこ好きなので、ドラムの変なパターンに耳をふさげば、このヴァージョンも悪くはないかもしれないと思います。いや、べつによくもないですが。

ルイ・アームストロング盤は、晩年のものですし、アレンジも現代的すぎて、不向きなサウンドだと思います。ご本人が望んだ録音とは思えません。

◆ インスト ◆◆
インストは2種あります。曲調からいって当然オーケストラものはなく、ギターもののみです。まず、エキゾティック・ギターズ。これは右側のFrindsリンクからいけるAdd More Musicのレア・インスト・ページでLPリップを入手できますので、よろしかったらお試しあれ。No. 30がエキゾティック・ギターズのその名もEverybody's Talkin'というアルバムです。

f0147840_16513219.jpgさて中身は、なんと申しましょうか、とくにどうということのない、ごくふつうの出来です。メンバーが一流のわりには、だれもファイン・プレイをせず、軽く流した、という印象。このプレイだけではドラムもハルとは判断できませんし、ベースもキャロル・ケイという結論には飛びつけません。

リードはアル・ケイシーだそうで、彼はニルソン・ヴァージョンでもギターを弾いていたのですが、あちらではアコースティック、こちらではエレクトリックのリード。まあ、みなうまい人たちなので、腹が立ったりすることはなく、スーパーで買い物をしているときに流れてきたら、ほう、この手の音楽でもマシなものがあるんだな、ぐらいのことは思うんじゃないでしょうか。

f0147840_16523074.jpgヴィンセント・ベルまたはヴィニー・ベルは、60年代から70年代にかけておおいに活躍したNYのセッション・ギタリストです。当家では何度か言及しているので、ご記憶のお客さん方もいらっしゃるでしょう。ベルはなかなか面白いプレイをすることがあるのですが、この曲は、やはり可もなし不可もなしで、とくに面白い箇所はありません。

以上でEverybody's Talkin'はおしまいですが、『真夜中のカウボーイ』はまだつづきます。あと一回か、ひょっとしたら二回、こんどはジョン・バリーのスコアのほうを検討するつもりです。
by songsf4s | 2009-05-24 17:01 | 映画・TV音楽