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2009年 04月 02日 ( 1 )
This Country's Going to War by the Marx Brothers (OST 『我が輩はカモである』より)
タイトル
This Country's Going to War
アーティスト
The Marx Brothers (OST)
ライター
Bert Kalmar, Harry Ruby
収録アルバム
N/A
リリース年
1933年
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クリント・イーストウッド・シリーズも楽しいのですが、そちらのほうはつぎの映画の準備ができていないので、本日はまったく関係ないところにジャンプします。コメディー、それも戦前のマルクス・ブラザーズ映画です。

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◆ 狂気のプロダクション・ナンバー ◆◆
いちおう、プロットをご説明したほうがいいのでしょうが、なんたってマルクス・ブラザーズ映画だから、グラウチョの「超論理」を中心にプロットがつくられているので、話はぐちゃぐちゃなのです。

なんの説明もなしにいきなり、極度の財政難に陥った架空の国フリードニアの大金持ちの未亡人が、政府を財政支援する条件として、グラウチョ扮するルーファス・T・ファイアフライを国家元首にしてしまいます。グラウチョだから、当然のごとく、論理がねじれ、飛躍して、あわよくばフリードニアを占領しようとあれこれと策謀を弄する隣国と戦争することになってしまう、という、その宣戦布告直後に、今日の歌、This Country's Going to Warに突入します。とにかくまあ、お聴きあれ、というか、ご覧あれ。



幼児のころから見たすべての映画のなかで、もっとも仰天した音楽シーンです。いやもう、ひっくり返っちゃいました。後半、「ハイディ・ハイディ・ホー」シークェンスに突入してからが一段と狂気の度合いが増して、映画史上に燦然と輝くお馬鹿シーンだなあ、と感じ入ってしまいます。いったい、だれのアイディアなのやら。クレジットを見ると、ソングライター・チームのバート・キャルマーとハリー・ルビーのふたりが、ストーリーも書いたことになっています。

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しかし、シナリオとしては、ここに歌詞があり、「全員で歌い踊る」ぐらいしか書いてないでしょうから、やはり監督のレオ・マケアリーとコレオグラファーの仕事と考えるべきでしょう。

ちなみに、ハーポが馬に乗って走るシーンは、アメリカ人なら子どもも知っている、独立戦争の英雄、ポール・リヴィアの伝説をもじったものです。辞書には、ポール・リヴィアとは《米国の銀細工師で愛国者 1775年4月18 日夜を徹して馬を飛ばし、英国軍の進撃をいちはやくマサチューセッツの人びとに知らせた》とあります。「いち早く知らせ」なければいけないのに、ハーポは眠っちゃうわけですが、人間の靴といっしょに馬の蹄鉄が脱いであるのが笑えます。

◆ 二大名場面 ◆◆
こんな大がかりなプロダクション・ナンバーは、マルクス映画としては例外というべきで、この『我が輩はカモである』には、映画史上名高いシーンがほかにあります。まず、たいていの映画史家がベストのひとつにあげる「鏡の場面」からどうぞ。シテュエーションを簡単に説明しておくと、チコとハーポは隣国から送りこまれたスパイで、一夜、大金持ちの未亡人の邸に忍び込み、グラウチョに化けて「プラン」を盗み出そうとして、グラウチョに見つかり、逃げまわっている、というところです。



こちら側に立つのがグラウチョ、向こう側に立つのはグラウチョの扮装をしたハーポです。いえ、映画のなかではそういう設定になっているというだけで、わたしには見分けがつきませんが!

ついでなので、後年、ハーポがI Love Lucy(『ルーシー・ショウ』)に出演し、ルシール・ボールを相手にこのルーティンを再演したときのクリップもどうぞ。



つづいて、二大名場面のもういっぽう、ピーナツ・ヴェンダー。



YouTubeでは、これは「帽子の場」とされていますが、わたしとしては「足技の場」といいたくなります。グラウチョは論理の飛躍で世界を混乱に陥れますが、ハーポはふるまいの飛躍によって世界を混乱に陥れます。その飛躍したふるまいのなかでも、この足技がなんといってもファーラウトしちゃっていて、はじめて見たときは死ぬほど笑いました。こんなに無意味で、こんなに可笑しな行動はざらにないでしょう。どこから思いついたのか見当もつきませんが、たぶん、われわれの行動のなかに、こういうギャグを生む要素があるのではないかと思います。こんなことをする人間などいるはずがないけれど、なんとなく、だれでもしてしまいそうな気がしてくるところが、なんともおそろしいルーティンです。

もうひとつ、べつの映画から同じ足技のヴァリアントをご覧いただきましょう。



◆ ミュージシャンとしてのマルクス兄弟 ◆◆
マルクス・ブラザーズ、とくにハーポとチコは音楽的才能に恵まれていました。その一端をすこしご覧いただきましょう。まず、ハーポの名前の由来となったハープの演奏。これもI Love Lucyからのクリップで、曲はTake Me Out to the Ball Gameです。



途中でマイナーに転調するところが、なるほどねえ、です。マルクス・ブラザーズ映画には、しばしばプロットと関係なく、ハーポがハープをプレイするシーンが挿入されます。たぶん、彼らの舞台の構成を踏襲したのでしょう。

つぎはチコのピアノ・プレイ。いいものがたくさんあって迷ってしまい、とくにベストというわけではないのですが……。



途中で鍵盤と手のアップになるのは、通常なら、本物のピアニストが弾いたカットへの切り替えなのですが、チコの場合は、たんに楽しい手と指の動きをよく見せるための「寄り」にすぎません。専門のピアニストはぜったいにこういうことはしないわけで、ヴォードヴィリアンの邪道芸といわれればそれまでですが、しかし、そこらの半チクな本物のピアニストなんかよりよほどうまいし、見ているだけで楽しくなるプレイです。

つぎはチコとハーポのピアノ連弾。



最後はハーポによる音楽ギャグの大技。



わたしはこれを見て、おおいにガッカリしました。なんだ、もう大昔にやっちゃってたんだ、新しいギャグなんかないんだな、です。いや、ギャグだけじゃありません。ほら、フーが大暴れして、ギターやアンプやドラムセットを叩き壊したり、ジミがストラトを燃やしたり、ああいうことも、すでに大昔にマルクス兄弟がやっちゃっていたわけで、いやまったく知らぬが仏、モンタレーの記録映画を見て、すげえ、すげえといっていたわれわれは、ものを知らない典型的な「いまどきの若者」だったのですねえ。

でも、大人たちも、先にやった人間がいたのなら、いたと教えてくれないとなあ。お互い、ちがう文化を生きていると、見るもの聴くものがまったく重ならないので、コミュニケーションというものが成立しないのですなあ。

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by songsf4s | 2009-04-02 18:59 | 映画・TV音楽