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2009年 03月 22日 ( 1 )
Feed the Birds (Tuppence a Bag) by Julie Andrews (OST 『メリー・ポピンズ』より)
タイトル
Feed the Birds (Tuppence a Bag)
アーティスト
Julie Andrews
ライター
Richard M. Sherman, Robert B. Sherman)
収録アルバム
Mary Poppins (OST)
リリース年
1964年
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当地では白木蓮はもう散りはじめていますが、辛夷がほぼ満開になりました。日当たりのよいところにある染井吉野がかなり開花してしまい、この調子ではつぎの週末あたりにピークがきてしまうでしょう。三月のうちに満開というのは、子どものころより十日は早い勘定で、どうもなじめません。ちがう土地に生まれ育てば、またべつの感覚をもったはずで、十日ぐらい早くなってもどうということもなかろうにと思うのですが、人間の主観というのはおかしなものです。

◆ 英語版寿限無 ◆◆
なんだか戦争映画とミュージカルを交互にやっているようなぐあいになってきて、分裂しているような気もしなくはないのですが、どちらもたいていの場合、音楽が面白いものなので、わたしの主観としては、まあ、当然の結果というあたりなのです。いや、それにしても、『フルメタル・ジャケット』のつぎが『メリー・ポピンズ』はないなあ、という気はチラッとしています。

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『メリー・ポピンズ』の曲でいちばん有名なのは、いうまでもなくChim Chim Cher-eeです。この曲が歌われる屋根の上のダンス・シーン自体、この映画のハイライトでしょう。

この映画を見たのは中学一年のときでしたが、そのときに学校で流行ったのは、Supercalifragilisticexpialidociousでした。「寿限無」のようなもので、記憶して、いえること自体を面白がったのです。いま、そらで書いてみましたが、スペルも正確に記憶していました。

それにしても、わたしはSupercalifragilisticexpialidoucious(スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスと発音する)を記憶しているのに、ATOKの辞書は「寿限無」すら知らないのに呆然としました。こんな当たり前のことをいちいち登録させないでほしいものです。ちょっと古いことになると、ATOKはすぐに白痴同然になってしまうから、歴史のことなどを書くと、おそろしく苦労させられます。日本語そのものを扱うソフトウェアなのだから、言葉遊びに関わる固有名詞ぐらい、辞書に収録するのが義務でしょう。日本文化に貢献するぐらいの高い志でつくってくれないと困ります。



で、このへんてこりんな単語の意味はなんなの、ですよね? 映画のなかでは「なにをいえばいいのかわからないときにいう言葉」と説明されています。念のために辞書を引くと、「スーパーカリフラジリスティクエクスピアリドーシャス 《子供が英語で最も長い語として使うナンセンス語; 「すばらしい」という程度の意味もある; ミュージカル映画 Mary Poppins (1964) 中の歌に出てくるもので, いやなことを忘れるためのおまじないのことば とされている」

なんだか、この記述を読むとメアリー・ポピンズがオリジンのように受け取れます。調べてみたら、そのとおりだそうで、この曲の作者、シャーマン兄弟が、必死に考えてひねり出した言葉だとありました。辞書に載る言葉で、それをつくった人間がはっきりしているというのは、ごく稀な例じゃないでしょうか。

◆ 鳩に餌を ◆◆
いや、Supercalifragilisticexpialidouciousも楽しい歌ですが、この映画でもっともすばらしい曲は、なんといってもFeed the Birds (Tuppence a Bag)です。はじめて聴いたときは、なんという美しい曲だと溜め息が出ました。



昔の歌にはよくあった、前付けヴァースありの構成です。前付けヴァースというのは、二度と歌われない「使い捨て」のパートなので、ソングライターは、ここにもっともいいメロディーはぜったいに投入しません。

また、前付けで「解決」した感覚をつくると、つまり、適切なコード(Cに対するGなど)をもってきてしまうと、そこで曲が切れた印象をあたえてしまうので、グルグルグルグル宙を舞わせて、なかなか落ち着かせないようなコード進行にするのが原則です。わたしという人間がまた、解決しそうでしないまま、ずるずるダラダラやっているのが大嫌い、イライライライラして、脳溢血を起こしそうになります。

しかし、このFeed the Birdsの前付けヴァースは、ほとんど独立した曲になっていて、きちんと5度にもってきて、何度も解決しています。ゴミのようなつまらないメロディーでできている、という前付けの常識を多少とも打ち破る、出来のいいメロディーラインですし、マイナーでスタートしてメイジャーに転調させる、といった工夫もしてあります。そして、ヴァースに入るときに、もう一度転調させたのもうまくいっています。

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ジュリー・アンドルーズ扮するメアリー・ポピンズが降り立った家は、「桜木小路17番地」(Cherry Tree Lane No. 17)という住所で、外は桜並木になっている。映画がはじまったときも桜は満開、終わったときも満開だし、デザインも染井吉野ではなく、八重桜の系統に見える。イギリスの園芸業者は日本の開国とともにやってきて、大量の植物を買いあさっていったが、染井吉野は普及しなかった? いや、舞台はロンドンだが、ハリウッド映画だから、桜の選択にはアメリカ人の先入観が反映されているのかもしれない。

わたしはこの世の前付けヴァースの99パーセントを嫌悪しているし、じっさいの録音では、まともなイントロを加える余地をつくるためにも、曲の流れをすっきりさせるためにも、前付けは切り捨てるのが正しいアレンジだと思っていますが、Feed the Birdsの前付けだけは、切るわけにはいかないと感じます。ひょっとしたら、シャーマン兄弟というのは、すごく偉いソングライター・チームかもしれません。ふつう、前付けなんてみないい加減につくるものですが、この曲だけは例外中の大例外といっていいでしょう。

いま、ざっとコードをとってみたところ、前付けヴァースの前半は以下のような進行のようです。

Ebm/Abm/B/Bb/Ebm/Bb/Ebm
Ebm/Bb/Ebm
Db/F#/Db/F#/Fdim(?)

このEbmからDbへの転調、マイナーからメイジャーへの転調が非常に効果的です。ヴァースに入るときにも、もう一度この転調が利用されます。コードをとってみて思ったのは、比較的シンプルな進行なのに、うまく変化をもたせているということです。やはり、名前を残す人というのはちがうものだなあ、でした。なお、上記のBbのところはBb7のほうがいいかもしれません。

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◆ タペンス ◆◆
いまでも忘れないのですが、タイトルにもあるtuppenceはなんなんだ、と思いました。なにしろ中一だから、英語なんてよくわかっていないわけで(いや、それをいうなら、いまでもかなりいい加減なのだが!)、字幕で「2ペンス」といわれても困るんですよね。歌のほうが「Two pence」といっているならわかるのですがね(いま、penceのあとにsをつけそうになってしまった。だから、いい加減だっていうの>俺。学校で習ったことは右の耳から左の耳なんだからもー)。

しかし、どこにだって、したり顔をしてうんちくを傾ける人間というのがいるわけですよ。私のクラスにもそういうのがいまして、2ペンスは特殊なのだ、なまって「タペンス」と発音するのだ、と得々と解説したのです。なぜそうなるのか、いまでもわかっていないのですが、われわれが「十」を発音するとき、あとになにかがつくと、たとえば「十軒店」を「じっけんだな」と発音するようなものなのでしょう。

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東京の日本橋、伝馬町の牢屋跡のすぐ近くに、「十思小学校」という学校があったのですが、これは「じっし」小学校と発音するのだそうです。震災後の学校建築のひとつの典型で、かなり好きだったのですが、その後、近隣の学校と統合されたようで、コミュニティー・センターのようなものになったようです。いまもあの表現派風の建物が残っているといいのですが、どうでしょうか。校庭の隣には「石町の時の鐘」もあって、由緒ある場所なのです。

というわけで、ぜんぜん解決していないのですが、たぶん、タペンスは習慣的に発音が変形されてしまっただけではないでしょうか。

◆ 謎の削除 ◆◆
この映画のハイライトは、前半なら絵のなかの世界への旅、後半なら屋根の上でのシークェンスです。ところが、不思議なことに、40周年記念DVDといっしょにリリースされた2枚組サウンドトラック・アルバムには、この屋根の上で歌い踊るときの曲、Step in Timeが入っていません。まあ、曲としてはいたってシンプルですが、シーンとしてはもっとも楽しいところなので、あの盤を買った人の大多数がこの削除を不満に思ったのではないでしょうか。



大人の目で見ると、この映画のちょっと前に大ヒットしたミュージカル『ウェスト・サイド物語』のプロダクション・ナンバーのパロディーみたいな振り付けがところどころにあって、思わず笑ってしまいます。たぶん、意図的にウェスト・サイド物語に似せたのでしょう。

検索してみたところ、最近のエディションではStep in Timeを復活させたものもあるようで、慶賀に堪えません。どうも、音楽業界というところは、ソフトウェア業界と同じで、わざと欠陥商品をつくっては、あとになって、欠陥を修正したものをつくったのでまた買ってくださいという、見え透いたセコい商売をやる傾向があって、じつに下品ですな。堅気の世界では、こういうのは詐欺と呼ぶと思うのですが、詐欺は被害者のほうが悪いということなのでしょう。Pet Soundsやスペクターのクリスマス・アルバムを勘定してみると、わたしもかなりパアな詐欺被害者体質のように思われます。最近は反省して、身を慎んでいますが。

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by songsf4s | 2009-03-22 22:34 | 映画・TV音楽