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2008年 09月 22日 ( 1 )
The Best of Jim Gordon その5

◆ ダウンビートの死 ◆◆
ご存知の方も多いでしょうが、先週末、「8ビートを発明した男」アール・パーマーが亡くなりました。享年八十四。

世にいう「レッキング・クルー」のプレイヤーのなかでは最年長グループの人なので、子が親を追い越して死んでしまうような番狂わせではありませんし、年齢も年齢なので、大往生というべきでしょう。合掌。

ウェブ上の訃報を読んでみましたが、どれもこれも問題外、読めば読むほど腹が立ってきました。紙だったら丸めてゴミ箱に放り込んでやるところです。ウェブはそれができないのが問題ですな。腹が立ったときにCtrl+Alt+Delかなんかやると、新聞紙を引き裂くアニメかなんか出てくれると少しは気が収まるかもしれませんが、しかし、やっぱり、激しい情動を感じたときには、体を使ってなにかがしたくなるようです。

そこで、ジム・ゴードン特集を終えたら、こんどはアール・パーマーのキャリアを俯瞰する特集をやろうと決めました。「生ける戦後アメリカ音楽史」だった人なので、まともにやったら、戦後アメリカ大衆音楽史全二十三巻補巻二巻索引一巻を書くようなものですが、まさか、そんなトチ狂ったことはしません。ファッツ・ドミノ、スマイリー・ルイス、ロイド・プライス、リトル・リチャードといったロックンロール創成期の人たちからはじめて、ハリウッド・ビート・ミュージックの黄金時代と黄昏にいたる歴史を、ドラム・ビートの観点から駆け抜けるだけです。

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しかしなんですなあ、だんだん、この世よりあの世のほうに「知り合い」がたくさんいるようになってきて、「天国よいとこ一度はおいで、酒はうまいしネエちゃんはきれい」なだけでなく、映画、小説、音楽も、あっちのほうがよさそうに思えてきます。

でもまあ、医療刑務所のジム・ゴードンが、いつかは、『ドグラ・マグラ』の呉一郎のように、「ブーン」という音とともに目覚めて正気を取り戻し(ゴードンに面会した人は、見たところ健康そうで、まともに話していたと証言しているが)、塀のこちら側に還ってきて、再び、われわれに「ドラマーのタイム」とはどういう意味かを思い知らせてくれるかもしれないので、もう少し待ってみましょう。

◆ 中途トラック・リスト2 ◆◆
いやはや、なにも更新できないまま、どんどん日はたっていくのに、お客さんは減る気配がなく、まことに恐縮しております。三つ目のブログ(正確には、去年つくって、その後うち捨ててしまった菜園ブログがあるので、こんどは四つ目なのだが!)、しかも英語のものをはじめることになったということもありますし、そのまえに「新家」の更新もあって、宙にお手玉を四つ飛ばしているジャグラーかなんかのようで、いまなにをしているのか自分でもわからなくなるほどですが、もっとも重くのしかかっているのは、じつはこのジム・ゴードン特集なのです。

f0147840_23544640.jpgなにが大変といって、後半の選曲のむずかしいのなんの、谷ナオミ『悶えの部屋』(というLPを週末に聴いた!)もかくや、てなぐらいの七転八倒ですぜ。どうむずかしいかなんていったところで、わかっていただけないかもしれませんが、なかには具眼の士もいらっしゃるでしょうから、門外不出地下秘密中途リストを公開してみましょう。以前掲載したリストは、あれで一応固定して(ただし、スティーリー・ダンのRikki Don't Lose That Numberは削除)、以下は、それ以後の選曲です。

01_Traffic_Hidden Treasure
05_Alice Cooper_You and Me
03_Seals & Crofts_Hummingbird
10_Harry Nilsson_Together
05_Dave Mason_World In Changes
01_Derek & The Dominos_Evil
07_Bread_Move Over
08_The Yellow Balloon_Follow The Sunshine
03_Derek & The Dominos_Let It Rain
10_Mike Post_The Rockford Files
01_George Harrison_You
05_Frank Zappa_DC Boogie
03_Frank Zappa_St Alfonzo's Pancake Breakfast
04_Frank Zappa_Father O'blivion
04_Steely Dan_Barrytown
06_Steely Dan_Parker's Band
08_Steely Dan_Pretzel Logic
20_Bread_Friends And Lovers
19_Johnny Rivers_Rockin' Pneumonia, Boogie Woogie Flu
09_Tom Scott_Blues For Hari
01_Mason Williams_Overture
11_Johnny Rivers_Life Is a Game

並び順にもトラックナンバーにも意味はなく、元のアルバムでの曲順にすぎません。そして、この全部をベストに算入するわけではなく、ここから5曲ぐらいは刈り込むつもりです。ちょっと迷っているのがザッパ、大いに迷っているのがスティーリー・ダンで、この二者のトラックがダブついているのはそのせいです。

なんだかアイロニカルというか、当たり前というか、好きなアーティストの曲はすぐに決まるのに、スティーリー・ダンのように相性が悪いと、日ごろ聴いていないし、改めて聴くのも憂鬱かつ面倒で、いきなり「食が細く」なって、判断に時間もかかります。

ブレッドもいいプレイがそろっていますし、それより粒はやや落ちますが、ジョニー・リヴァーズのL.A. Reggaeも飛び抜けた曲はないかわりに、どの曲も捨てがたい出来です。メイソン・ウィリアムズだって、ほかにも気の動くトラックがあります。ここにはありませんが、ホール&オーツとジャック・ブルースとランディー・ニューマンは、聴き直したうえで、結局、ひとつもとりませんでした。

◆ Gordon Lightfoot - Sundown ◆◆
f0147840_0203012.jpgともあれ、すこしずつ先へ進むことにします。本日のトップはまたまたシブい歌伴です。もうほとんど繰り返しギャグになりつつありますが、こういうときにこそ、衆に抜きんでたジム・ゴードンのすばらしいタイムが際だつという例のアレでして、いいバックビートを叩いています。ただし、いつもとは微妙に異なるバックビートに聞こえます。そしてそれが、このトラックをベストに入れた理由です。たぶん、意識的に、ほんの少しだけいつもよりタイミングを遅らせようとしたのではないかと思います。それで、やや粘りのあるグルーヴが生み出されたのでしょう。

それにしても、こういう風に、まったくフィルインがない状態で、ただただバックビートを聴いていると、だんだんメンフィス・アンダーグラウンド的トランス状態に入っていき、これはこれで、別種の気持ちよさがあるかな、と思えてきます。ジム・ゴードンのカタログにあっては、やや特殊なプレイです。

◆ Carly Simon - You're So Vain ◆◆
大ヒットしたこのYou're So Vainより、ひとつ前のマイナー・ヒットであるAnticipationのほうが、曲としては好きなのですが、この双子じみた二曲を並べて聴くと、こりゃやっぱり、ドラマーのレベルがまったくちがう、と呆然とします。

f0147840_0233014.jpg仮にわたしがAnticipationを叩いたアンディー・ニューマークで、ベスト盤でジム・ゴードンのプレイと自分の粗末な品を並べられたりしたら、好調のときでも「思うところあって旅に出ます。探さないでください」と書き置きするでしょうし、不調のどん底だったら「ごめんなさい」と書いて、丈夫なロープを買いにいきます。

芸の世界は怖いですねえ。お芸術の世界はいくらでも言い訳ができますが(芸術観のちがい、とかね!)、一文字とれて「芸」になると、上手いか下手か、イエスかノーか、0か1かの二値論理です。並べた瞬間、美しいものは燦然と輝き、醜いものは塵芥に変じます。

なんて感覚的なことで片づけては失礼なので、分析に入ります。いや、じつに簡単な分析です。アンディー・ニューマークには、聴けばだれにでもすぐにわかる大欠点、ドラマーにとっては致命的な欠陥があるのです。それは「両手のアンバランス」と「コチコチに硬い左手首」です。左手の手首が硬いため、リストを柔軟に使い、スナップをきかせた、きれいなスネアのヒットができないのです。両手を交互に使うプレイになると、チンバのギッコンバッタンをやっているから、すぐにわかります。控えめに叩いたほうがいいビートを、妙に強く叩いてしまうという、湯呑みをひっくり返す粗忽な女中状態なのです。

ドラマーにとってごく初歩的な、しかしもっとも重要な資質は、左右の手を、どちらが利き手かわからないほどバランスよくコントロールできる能力です。ジム・ケルトナーがときおり、左右の手をひっくり返して、左手でハイハット、右手でスネアを叩くのは、ただの気分転換だけでなく、偏ったもののバランスを正したいという衝動に駆られるからではないでしょうか。それほど、ドラマーにとって左右のバランス、とりわけ「非利き手」(利き手の対語は「利かない手」といいたくなるが、そんな言葉はそれこそきいたことがない)の手首をどれほど柔軟に使えるかは、死活的に重要です。

ジム・ゴードンのように、銀のスプーンならぬ、黄金のドラム・スティックを握りしめて産道を通ってきたようなプレイヤーには、もちろん、左右のバランスがどうこうとか、手首の柔軟性が云々だとか、スナップがああだこうだとか、そんな初歩的なことを、わたしごときにいわせるような隙ははじめからありません。彼はドラマーになるためにこの世に生まれてきたのです。

f0147840_141974.jpg昔は、コーラスのYou're so vainに入る直前のフロアタムのハード・ヒットとキックの強い踏み込みで、すげえなあ、と感心しました。しかし、年をとると、やっぱり着目点が変化していきます。You're So Vainには、一カ所、ハル・ブレインのようにクレヴァーな処理をしているところがあるのです。

それは、ファースト・ヴァースの歌詞でいうと、「you watched yourself gavotte」のところの小節だけ、それまで軽くストレートにヒットしていたのを、サイドスティックに切り替えている箇所です。数年前にベスト・オヴ・ジム・ゴードンをつくろうと思って、このトラックを聴き直したとき、ここで、へえ、そんな細かい工夫をしていたのかよ、と失礼ながら感心しちゃいました。サイドスティックへの切り替え、無音のストップタイム、フロアタムとスネアのハード・ヒットという流れをつくって、あの印象的なコーラスを導き出しているのです。

当ブログでは、ハル・ブレインのことを「小さな工夫、大きな親切の人」と呼んできました。どんな曲でも、プレイ方針が固まったところで、ハルはそれを譜面に起こしました。以後、何度テイクを重ねようと、プロデューサーから注文がつかないかぎり、その譜面にしたがってプレイをしたのです。だから、ハル・ブレインのプレイにおいては、「どのような方針でドラミングが設計されているか」という「メタな」部分も、じっさいのサウンドと同様に重要性をもちます。つまり、ハルのプレイは抜きで、譜面だけであっても、相応の意味をもつのです。

ジム・ゴードンの場合、プレイに工夫がなく、譜面に起こしても意味がない、というわけではもちろんありませんが、ハルのように第一打からフェイドアウトに至るまで、一打もゆるがせにすることなく、緻密にプレイをデザインするようなことはなかったにちがいありません。おそらく、だいたいの方針が決まったら、あとは本能が告げるままに、完全にその世界に入り込んで、あのデモーニッシュな連打を生み出したのでしょう。

そう考えてくると、この曲もまたジム・ゴードンのカタログにあってはやや変わり種で、こういうことをすることもある、ということを知り、知らせるために、ベスト・セレクションにぜひ算入すべきだろうと思います。

◆ Nitty Gritty Dirt Band - Some Of Shelley's Blues ◆◆
先日のリストでは、ここでスティーリー・ダンのRikki Don't Lose That Nubmerなのですが、この曲はたぶんオミットすることになるので、ここでもとばして、ニッティー・グリッティー・ダート・バンドへと進みます。

数年前の最初のベスト・オヴ・ジム・ゴードンのときに、あれこれ調べてリストをつくっていて、アッといってしまったのは、ニッティー・グリッティー・ダート・バンドのアルバムでプレイしているという記述を読んで、Uncle Charlie And His Dog Teddyを取り出したときのことでした。小さな文字ですが、ちゃんとジム・ゴードンがクレジットされていたのです。いや、このアルバムのドラムはすごいと子どものころから思ってはいたのです。でも、ジム・ゴードンだとは思っていなかったのです。

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なぜそんなトンマなことになったかというと、このアルバムがリリースされた直後、わたしは新宿厚生年金で彼らのライヴを見たからです。ザ・バンドのように楽器をもちまわすグループでしたが、主としてストゥールに坐っているプレイヤーはかなりの腕だったのです。それで、うっかり、このUncle Charlie And His Dog Teddyのドラマーも、あのときのプレイヤーだと思いこんでしまったというしだい。

いやはや、なんてえボンヤリ者だ、と呆れます。そうでしょう? こんなドラマーがあそこにもいる、ここにもいる、どこにでもいる、なんてことは、確率の法則からいってありえないのです。ドラミングを聴いて、すごいと思ったら、クレジットはどうであれ、じっさいにはそれと知られた人がプレイしていると思ったほうがいいのです。

盤のクレジットでは、ドラムはジム・ゴードンとラス・カンケルとなっていますが、すぐれたプレイが充満しているので、カンケルはほんの2曲かそこらしかやっていないでしょう。多くはジム・ゴードンの仕事です。

じっさい、いいプレイが多すぎて、一曲に決めるのがむずかしいのですが、楽曲もいいし、フロアタムが深い、いい音で録れているという理由で、マイケル・ネスミス作のこのアルバム・オープナーを選びました。乗れるグルーヴです。

残りの選曲ができていないので、本日はここまでとさせていただきます。今回は思ったよりあいだがあいてしまいましたが、今後はせめて、二日にいっぺんは更新したいと考えています。

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by songsf4s | 2008-09-22 23:56 | ドラマー特集