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2008年 07月 08日 ( 1 )
Pearly Shells by Billy Vaughn & His Orchestra
タイトル
Pearly Shells
アーティスト
Billy Vaughn & His Orchestra
ライター
Webley Edwards, John Kalapana, Leon Pober
収録アルバム
Pearly Shells
リリース年
1965年
他のヴァージョン
Burl Ives, the 50 Guitars, Arthur Lyman, Martin Denny, Henry Mancini, Ray Conniff, Connie Francis, the Exotic Guitars
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今月に入って取り上げたのは、エキゾティカとギターインストばかりです。ランダムにインストを取り上げようと思ったのですが、エキゾティカ、ギターインストというのが、ごく自然な傾きのようなので、しばらくはその方向にしようと思います。

アトランティックスを取り上げてみて思ったのですが、もうひとつ、ノスタルジーの要素も加味しようと思います。当家は古い曲しか扱わないのだから、わざわざ断るまでもなく、もともとノスタルジックではないか、といわれそうですが、ものごとというのは、そういうものではないのです。

たとえば、フランク・シナトラの40年代の録音なんていうのを何度か取り上げていますが、そういうのは、子どものときに聴いていたわけではありません。ごく最近、「はじめて」聴いたものなのです。もちろん、そこになにがしかの、ワン・クッション入った、「間接のノスタルジー」が忍びこむのですが、「そういえば、あのころは」の枕詞ではじまるあれこれはいっさい出てきません。あのころもこのころも、最近知った録音なのですから!

わたしだけのことではないと思うのですが、夏になると、いろいろなことを思いだします。そして、ギターインストを聴けば、やっぱり、子どものころを思いだすのです。だから、ラウンジ/エキゾティカ、ギターインスト、という方向に、もうひとつ、ノルタルジアも加えて、しばらくのあいだ、気まぐれにそぞろ歩きをすることにしました。

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1965年の東京日本橋白木屋(のちに東横百貨店、東急百貨店、先年廃業)の新聞広告。戦後20年、日本にも「消費する十代」が出現したことが認識された。

◆ プールサイド小景ヴァリアント ◆◆
本日の曲はPearly Shells、すなわち「真珠貝の唄」です。この曲が日本でヒットしたのは、1965年だと思います。はじめて盤を買ったのが1963年、音楽が最大の趣味となって、小遣いの大部分を投入するようになったのが1965年のはじめ、すでにロック系の曲に傾いていた時期ですが、性が未分化の胎児みたいなもので、まだ、anything goes from those little radiosでした。もう半年もすると「路線」が固まってしまう、その「夜明け前」のことです。

この曲を聴くと、どこかのホテルのプールの情景がよみがえります。たぶん、できたばかりのパシフィック・パーク茅ヶ崎だろうと思います。泳いだ記憶はなく(そしてきれいなお姉さんたちの記憶はさらさらない!)、バンドのことだけが記憶に残っています。ペダルスティールとか、ドラムセットとか、ヴァイブラフォーンといった、メカニカルな楽器が気になり、どうやら、そのことしか記憶に残らなかったようです。

ほかの曲を知らなかっただけかもしれませんが、このバンドが演奏した曲も、Pearly Shellsしか覚えていません。プール・パーティーの余興だから、そのときに大ヒットしていた曲を繰り返しプレイしたのではないかと思います。

いま、この曲を聴いてどう思うかというと、なんとシンプル、なんとベーシック、なんとロジカル、子どもにもよくわかったにちがいない、といったあたりです。

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パシフィック・パーク茅ヶ崎。この写真をお借りしてきた、http://www5a.biglobe.ne.jp/~wo-house/pacific-park-chigasaki.htmによると、開業は1965年とのことだが、これはわたしの記憶と一致する。

◆ 真珠「湾」の唄 ◆◆
わかりやすいのも道理で、原曲はハワイの民謡だそうです。フォーク・ミュージックというのは、オーギュメントだのディミニシュだのフラッティッド・フィフスだなんてものは使われないことになっていて、メイジャーコードのみか、せいぜい、ちょっとマイナーがある程度なのです。

Hawaiian Music Hall of Fameというサイトのこのページに、原曲である"Pupu A O Ewa"(意味は「エワの貝」だそうな)の誕生の背景が書いてあります。せっかくなので、ここに書いてあることのあらましを書きますが、ただし、これは「エワ貝」のほうの背景であって、Pearly Shellsの背景ではないということをご承知おきあれ。英語詞には無関係なのです(Pupu A O Ewaの原詩とその英訳がここにある)。

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真珠湾は「カアフパアハウ」という鮫身の女神によって守られていたのだそうです。1909年、米海軍がここに乾ドックをつくることになり、工事がはじまりました。ある漁師が、そこはやめたほうがいい、女神の御座所だから、と建設業者にいいました。コンクリートの注入ができない、湧水の掻いだしが追いつかないなど、工事は難航したものの、予定より2年遅れて、1913年2月に完成しました。しかし、竣工式の当日、ドックは崩壊し、死者ひとりの被害をだし、400万ドルが水泡に帰しました。

翌年の11月には、新たな工事がはじまりました。こんどは建設業者も慎重になり、ミセス・プアヒという祈祷師に相談したところ、御祓いが必要だということになり、いけにえを捧げ、祈りを唱えました。底まで掘り進んだときには、5メートル弱の鮫の死骸が出てきたとか。

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なんだか、空港拡張工事を頓挫させたという、羽田稲荷の祟りによく似た話ですが、Pearly Shellsの原曲は、この話をもとにした歌詞だったようです。英語詞しか知らないのだから、こういうバックグラウンドがわかっても、「なんということだ!」なんて、驚いたりはしませんが……。英語詞はじつにもって呆れ果てた出来です。

◆ ビリー・ヴォーン盤 ◆◆
日本でヒットしたPearly Shellsは、ビリー・ヴォーン盤だったと記憶しています。歌ものも記憶があるので、あるいはバール・アイヴズ盤か、その他の神のみぞ知るローカル盤のいずれかもヒットしたのかもしれません。場合によっては、本国ではぜんぜん当たらなかった海外のヴァージョンが、日本だけでヒットするということもあったので、そのへんになると、ビルボード・チャートから世界を眺めているわたしにはよくわからない領域です。

ずっと後年、ビリー・ヴォーンのPearly Shellsを買ったときも、「このヴァージョンだ」と思いましたし、ライナーにも、国内ではビリー・ヴォーン盤が大ヒットしたと書いてあるので、あの夏に、どこへいっても流れていたのはこれだったといって大丈夫でしょう。

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じっさい、ビリー・ヴォーン盤はよくできています。手元には10種を超えるPearly Shellsがありますが、速すぎもせず、遅すぎもせず、ちょうどいいテンポだと感じるのはなんといってもビリー・ヴォーン、あとはエキゾティック・ギターズぐらいです。アップライト・ベースのグルーヴがいいことも、おおいにあずかっているでしょう。

ビリー・ヴォーン・オーケストラは、サックスのアンサンブルで売ったバンドですが、Pearly Shellsではサックスは登場しません。その名残としてフルートのソロがありますが、主役はあくまでもヴァイブラフォーンとパーカッションです。無理にサックスを使わなかったのは正解でした。代表作のSail Along Silvery Moonは、サックスが中心でも涼しげなサウンドになっていましたが、いつもそうなるという保証はありません。Pearly Shellsの場合、リード楽器がサックスでは、ぶち壊しになる可能性が高いと感じます。

f0147840_2236272.jpgなお、ビリー・ヴォーンのPearly Shellsには後年の再録音盤があります。こちらはベースがフェンダーで、それだけで聴く気を失います。どういうわけか、ビッグバンドにはフェンダーベースは合わないと感じます。ビリー・ヴォーンにかぎらず、多くのビッグバンドやポップ・オーケストラがベースをフェンダーに切り替えていったのは、時代の要請であるという判断だったのでしょうが、中途半端に新しくすると、かえって古めかしく聞こえるものです。

◆ 他のヴァージョン ◆◆
ビルボード・チャート上では、ビリー・ヴォーン盤はホット100に届かず、バブリング・アンダー・チャートをかすっただけです。唯一、ビルボードにチャートインしたのは、バール・アイヴズのヴォーカル・ヴァージョンです。

f0147840_22404854.jpgアイヴズは、うまくはないけれど、人柄のよさが出た(といっても、知り合いではないので、ほんとうのことはわからないが、そういう印象をあたえる)うたいっぷりに嫌味がなく、ささやかなりともヒットしたのは、べつに不思議はないと感じます。どうでもいいことですが、バックの女声コーラスの「エア、エア」という合いの手に記憶を刺激されて、しばらく考えこんでしまいました。答えが出るまでにえらく手間取ったのですが、ニルソンのBest Move(Flash Harry収録)だとわかりました。

f0147840_22573377.jpgそれほどいいヴァージョンがなくて、つぎはどれだ、と迷い箸をしてしまいます。しいていうと、エキゾティック・ギターズ盤がまとまりがあるように感じます。テンポもビリー・ヴォーン盤に近く、このあたりでやるべき曲なのだと確信させてくれます。

Add More Musicのキムラさんが褒めていない50ギターズのReturn to Paradiseというアルバムは、エキゾティカ系統の曲が多く、当家ではしばしば取り上げてきました。つい先日のQuiet Villageのように絶賛するか、そこそこ褒めてばかりで、なんだか借金をしているような気分でしたが、今日はすこし返済ができます。50ギターズのPearly Shellsはあまりよくないのです。こういうトラックを聴くと、キムラさんが、この方向はちがう、とおっしゃる真意がよくわかります。

アーサー・ライマン盤は、あらあらどうしちゃったの、というほどドラムが乱れて、かえって面白いぐらいです。このドラマーが相手なら、わたしは盤石の自信をもって勝負を挑んじゃいます。そもそもテンポが速すぎるし、どうしてこういう奇天烈なリズム・パターンにしたのか、まったく理解できません。そこがなんともエキゾティック!

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まずは"Paradise"としてリリースされ……

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同じ内容のまま"Pearly Shells"とリパッケージされたらしい。

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こちらはアメリカ以外のどこかの国のジャケットらしい。内容はParadise/Pearly Shellsと同じ。

マーティン・デニー盤もよろしくありません。テンポが速すぎるのが最大の欠点ですが、途中、4ビートにするのも意味がわからないというか、要するにダサいのです。

こういう鄙びた味わいのあるヴァージョンにくらべると、さすがにヘンリー・マンシーニ盤は洗練されています。フレンチ・ホルンやストリングスの使い方は手に入ったものですが、ただし、冒頭、リードをとる管(またしても楽器がわからない!)がジョークのようで、マンシーニにしてはめずらしく、リード楽器の選択を過ったと感じます。しかし、後半のホルンなんかすばらしいラインで、惜しいなあ、と思います。

f0147840_237660.jpgわたしはコニー・フランシスがそこそこ好きなのですが、たまたま、取り上げる曲が悪いものにばかり当たり、当ブログではあまり褒めたことがありません。残念ながら、彼女のPearly Shellsもあまり好みではありません。アレンジがまったくのお門違いだと思うのですが……。

レイ・コニフもいつもの調子で、いくらイージー・リスニングといっても、ちょっとイージーすぎるだろうと思います。どれを聴いてもつまらないので、縁がないと判断し、検索対象フォルダーから移動しようと思います。以後、当ブログにはレイ・コニフは登場しないでしょう。

◆ またしてもフォニーの問題 ◆◆
結局、子どものころに気に入っていたビリー・ヴォーン盤以外には、とくに面白いと感じるPearly Shellsはありません。10種類もあれば、たいてい、好きなヴァージョンとはずいぶんちがうが、これはこれで面白い、なんて感じるヴァージョンがあるものなのですが、たまには、こういうはずれクジばかりのこともあるようです。

こういうことをいうのはみっともないなあ、と思うのですが、じつは、この曲は典型的なアメリカ生まれの疑似ハワイアンだと思っていました。メイジャーコードだらけの曲調から、そういう印象を受けたのです。もちろん、ビリー・ヴォーンは典型的なハリウッドのオーケストラですしね。

オーセンティックなハワイアン・ミュージックというのは、スラックキー・ギターが入るような渋いものであり、常磐ハワイアン・センター的ハワイアンはフォニーだという印象をもっていたのですが、そうとばかりもいえないということが、Pearly Shellsでわかりました。「常磐ハワイセンター的ハワイアン」とはなんのことだ、といわれれば、Pearly Shellsのことだ、といいたくなるのですから。

アメリカ本土では、ハワイアンのフォニーが無数につくられたのですが、そういう便乗ものも、まったくの砂上の楼閣とはいいきれず、それなりの根拠の上に構築されたものなのかもしれないし、いや、そういうことではなく、ハワイアン・ミュージックのほうに、アメリカン・ミュージック的バイアスがかかってしまったのだ、ということなのかもしれません。答は波路はるかに……。
by songsf4s | 2008-07-08 23:41 | Instrumental