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2008年 06月 28日 ( 2 )
Deep Purple その3 by Screamin' Jay Hawkins
タイトル
Deep Purple
アーティスト
Screamin' Jay Hawkins
ライター
Mitchell Parish, Peter De Rose
収録アルバム
At Home with Screamin' Jay Hawkins
リリース年
1958年
他のヴァージョン
Nino Tempo & April Stevens, Billy Strange, the Ventures, Santo & Johnny, the Shadows, Bea Wain, the Hi-Lo's, Andre Kostelanetz, the Hi-Lo's, Norrie Paramor, Percy Faith, Mantovani & His Orchestra, the Beach Boys, the King Sisters, the Singers Unlimited, Earl Grant
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昨日は眠くて眠くて、途中でなにを書いているのかわからなくなったのですが、案の定、あとからチョンボに気づきました。昨日のDeep Purple その2 by the Shadowsでご紹介したビリー・ストレンジ盤Deep Purpleは、右のリンクからいけるAdd More Musicの「Rare Inst. LPs」ページで、MP3ファイルをダウンロードできます。No.11がアルバムMr. Guitarです。

さて、ほんとうに好きなDeep Purpleのヴァージョンは、一昨日昨日に分けて取り上げた、ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ、シャドウズ、ビリー・ストレンジの3種で、それ以外には、とくにこだわりのあるヴァージョンはありません。今日は落ち穂拾いです。

◆ 怪奇シンガーのストレート・ヴァージョン ◆◆
今日の看板には、ほかに適当なものもなく、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズを立てました。

スクリーミン・ジェイ・ホーキンズというと、わたしはどうしてもConstipation Blues、すなわち「便秘のブルース」の馬鹿馬鹿しさを思いだしてしまいます。関東だけの番組だったのかもしれませんが、昔、福田一郎が国内未リリースの新着盤ばかりをかける番組があって(日本の局で最初に、ゼップのGood Times Bad Timesを、ヤードバーズの連中がつくった新しいバンドのデビュー作として紹介した。つまり、放送していたのは1968年ごろということ)、そこで紹介されていました。これまた一聴三嘆、というか一聴爆笑、忘れがたい曲です。

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Screamin' Jay Hawkins "Frenzy"

この曲には、前付けのヴァースならぬ、シンガー自身による紹介があります。「たいていの人は、愛や失恋や孤独についての歌を覚えているものだ。しかし、真の苦痛に関する歌を録音した人間はこれまでにいない」とかなんとか、しょーもないことをいってから、おもむろに苦痛にのたうつブルーズをうたう、という趣向です。なかなか役者なんですねえ、これが。

ホーキンズはいつもそんなひょうきんな歌ばかりうたっているかというと、そうでもあり、そうでもなし、というところでしょうか。カヴァー写真を見ていただければおわかりになるでしょうが、主として怪奇ものをうたっています。恐怖と笑いは隣接した情動なので、怪奇ものというのはたいていがコメディーでもあるのです。

では、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズのDeep Purpleはどうかというと、彼のつもりとしては、たぶん、シャレだったのでしょう。その意味で、一昨日の歌詞のところでくどくど書いたように、落語の「反魂香」につながるヴァージョンです。

いや、べつに怪奇ものらしい味つけをしているわけではありません。ふつうに、クラブ・シンガーのように(というほど愚直に正直正太夫をしているわけでもないが)うたっています。しかし、聴くほうは、ホーキンズがどういうシンガーであるかという先入観をもっているので、ここではコンテクストが逆転し、ホーキンズがまともな歌をまともにうたうと、なんだか奇妙に聞こえるのです。

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歌詞のところで、この曲は反魂香だなんていったときは、シャレと受け取られたかもしれませんが、冗談でもなんでもなく、死者の魂を呼び出す、霊降ろし、魂寄せの歌だと思います。ということは、本来なら、昨秋のEvil Moonの歌特集で取り上げるべきだったのかもしれません。まあ、いろいろミスはあるものです。

◆ ヴェンチャーズとサント&ジョニー ◆◆
ヴェンチャーズ盤は、In The Vaults Vol.2という初期アウトテイク集に収録されているものです。この盤のライナーでは、めずらしくも、セッション・プレイヤーの関与に言及されているのですが、これがじつになんとも奇怪な記述の連続で、わたしは、ヴェンチャーズはスタジオにはいなかったという説を、部分的に認めることによって、肝心の部分を誤魔化すための、ヴェンチャーズ・マニアによる悪質なプロパガンダではないかと考えています。簡単にいえば、なにを世迷い言いってるんだ、このタワケが、というライナーです。

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The Ventures in the Vaults Vol.2

よって、ライナーは無視して書くと、Deep Purpleも、例によって、いつものメンバーで録音されたと思われます。すなわち、ギターがビリー・ストレンジとキャロル・ケイ、ベースがレイ・ポールマン、ドラムがハル・ブレインです。これがデビューから1963年ごろまでの、スタジオにおける「ヴェンチャーズ」の中核メンバーです。

リードがビリー・ストレンジなのだから、どういうプレイかは説明の要もないでしょう。昨日も書いたように、ヴェンチャーズ名義のDeep Purpleでも、ビリー・ザ・ボスは「球もちのよい」プレイをしています。キャロル・ケイのプレイと考えられるリズム・ギターが、ちょっと妙な動きをするところも、ヴェンチャーズ盤Deep Purpleのお楽しみのひとつです。

f0147840_23515497.jpgギターものとしてはもうひとつ、サント&ジョニー盤があります。彼らの代表曲であるSleepwalkもマイナー・コードの使い方に特徴のある奇妙な構造の曲で、わたしはこの曲とDeep Purpleのあいだに、いくぶんかの近縁性を感じます。サント&ジョニーに似つかわしい曲調といえるでしょう。ただ、プレイとしてはわりにストレートかつノーマルで、とくに見せ場はありません。オーケストラのオーヴァーダブを必要とした、それが理由でしょう。オーケストラのおかげで、ちょっと魅力的なヴァージョンになったと感じます。

ギターものではないのですが、コンボによるインストということでは、あとはアール・グラント盤があります。グラントは、ここではオルガンとピアノの両方をプレイしているようです。べつに悪いところはどこにもありませんが、どこからどう見てもたんなるラウンジ・ミュージック、というより、昔の言葉で「ムード・ミュージック」といったほうがより正確にこのヴァージョンのありようを表せるように感じます。

◆ オーケストラもの ◆◆
f0147840_23555599.jpg曲調からいって当然だと思うのですが、オーケストラものもかなりあります。最近聴くようになったので、まだ飽きていないだけかもしれませんが、オーケストラものDeep Purpleのなかでは、アンドレ・コステラネッツがもっともいいと感じます。

コステラネッツは、系統としては、ゴードン・ジェンキンズと同じように、アイディアが豊富で、それをどんどん放り込んで、変化に富んだアレンジをするタイプです。ジェンキンズほどすごいとは思いませんが、なかなかカラフルなアレンジで、なおかつ、それが良くも悪くも行きすぎにならず、ほどよくまとめているので、つねにリラックスして聴けます。

f0147840_23581299.jpgその正反対の場所に位置するのがアルチューロ・マントヴァーニでしょう。マントヴァーニのアレンジは、ダイナミック・レンジが広いというか、基本的には、どこかでドーンとおどかすことを前提にしているので(その意味でワーグナー的といえる)、それを引き立たせるために、他のパートはゆるやかなアレンジになっています。

昨日、Deep Purpleは半音進行が特徴だと書きましたが、半音進行といえば、元祖(かどうかは知らないが!)はワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」でしょう。マントヴァーニのアレンジにはワーグナーを感じるので、いっそ、現代版「トリスタンとイゾルデ」にするつもりで、ドカーンとやって、オーケストラによる半音進行のエロティックな味わいを前面に押し立てればよかったのに、と思いますが、残念ながらそこまで徹底したものではなく、一カ所でドカーンとストリングスとティンパニーをぶちかましているだけです。

結局、こういう曲をオーケストラでやるとなると、ストリングスの扱いが勝負になると思います。1959年のパーシー・フェイス盤も、前半はそういうアレンジで、なかなかいい弦だと感じます。中間での、左右にひとりずつ、ふたりのヴァイオリニストがちらっと活躍するところもけっこうです。しかし、このあたりから活躍しだすピアノがどうも気に入らなくて、満足とはいきません。

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ノリー・パラマー盤は、ストリング・アレンジと全体のサウンドという意味ではいちばんいい出来かもしれません。これはステレオになっているのですが(しかも、なかなかすばらしい音像)、録音デイトがわかりません。1956年リリースとしているところがありましたが、56年にはまだステレオ盤の商用化ははじまっていないでしょう。56年リリースが正しいとすると、これは後年のリプロセスト・ステレオということになりますが、そうは聞こえないほど、いい音像です。

ジャッキー・“ミネソタ・ファッツ”・グリーソン盤は、これでもか、という徹底したラウンジ・ミュージック・アレンジで、そういうものが嫌いでなければ楽しめます。クリシェに頼っていうなら、典型的な「ソフト&メロウ」なのですが、そこはハリウッド、なかなかどうして、しっかりしたプレイをし、しっかりした録音をしているので、ちょっとやそっとの年月では腐らないようにできています。Blue Velvetとのメドレーになっていますが、スムーズにつないでいます。いわれてみると、Blue VelvetもDeep Purpleにいくぶんかの近縁性があるようです。

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Jackie Gleason "The Romantic Moods" このキャピトルの2枚組エキゾティカ/ラウンジ・ベスト盤シリーズは、ほかにマーティン・デニーやレス・バクスターのものなどが出ていて、どれもギョッとするようなカヴァー・デザインだが、ジャッキー・グリーソンのものがいちばんすごいような気がする。

◆ 謎のヴァージョン ◆◆
f0147840_019112.jpgウェブで1939年のビー・ウェイン盤と称するものを聴きましたが、おかしなことに、ビー・ウェインはシンガーであるにもかかわらず、これはインスト盤でした。調べてみると、ビー・ウェインは1930年代終わりには、ラリー・クリントン&ヒズ・オーケストラの専属シンガーだったそうです。

f0147840_0112510.jpgそして、またべつの方向から、ラリー・クリントンとDeep Purpleの結びつきを調べると、1939年にラリー・クリントン盤Deep Purpleがチャートトッパーになったという記述が見つかり、どうやら、ビー・ウェイン盤Deep Purpleと称するファイルは、じつはラリー・クリントン盤らしいという結論になりました。ただし、ラリー・クリントン盤Deep Purpleといっても複数あり、そのなかにはヴォーカル入りのものがあって、ヒットしたのはこちらで、わたしが聴いたものは、べつのヴァージョンだったのかもしれません。

じっさいに音を聴くと、これがナンバーワンになるかなあ、という出来です。たいていの人が、ガーシュウィンのRhapsody in Blueを連想するのじゃないでしょうか。ピアノを中心としたシンフォニックなアレンジなのです。悪くはないものの、チャートトッパーになるほどの一般性があるとは思えません。妙な謎が残ってしまったものです。

◆ その他のヴァージョン ◆◆
スタンダード系女性シンガーのものは、鬱の「原因菌」になるので、ジュリー・ロンドンなど一握りをのぞいて、先日、大部分を外付けHDDに追い出し、検索からはずしましたが、コーラス・グループのフォルダーはまだ検索対象にしています。

f0147840_0125712.jpg大の贔屓であるキング・シスターズをはじめ、シンガーズ・アンリミティッド、そして、ハイロウズという3種があります。キング・シスターズ盤はがっかりするようなつまらない出来、シンガーズ・アンリミティッドもどうということなし。唯一、ハイロウズ盤がかなりいけます。いや、ハーモニーがいいというより、ストリング・アレンジが好みだというだけなのですが。アレンジとコンダクトはフランク・カムストック。

f0147840_0152059.jpgダニー&マリー・オズモンドは正真正銘の盗品。ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ盤のアレンジをそのままコピーしただけのものです。こういう「カヴァー」とは名ばかり、ただの頂き物が跡を絶たないのは、じつにもってけしからんというか、嘆かわしいというか、言葉を失います。法律に触れなければなにをしてもいいというものではないでしょう。

ビーチボーイズのLandlockedというブートにもDeep Purpleが入っています。盤にはビーチボーイズと書いてありますが、じっさいには、オーケストラをバックにしたブライアン・ウィルソンのソロです。わたしはビーチボーイズ・フリークではないので、このへんのお蔵入りしたトラックに関する知識がないのですが、70年代後半以降の、声が死んでからのブライアンであることははっきりわかります。残念ながら、とくに聴くべきところはないと感じます。

あまり好みでない女性シンガーのファイルは根絶したつもりだったのですが、メイナード・ファーガソンとの共演盤だったために、ジャズのフォルダーにおいてあり、ジェノサイドを生き延びたダイアン・シューアのヴァージョンがあります。まあ、お笑いじみたところがあるので、ちょっと聴いてみました。

できそこないのオペラ歌手とイマ・スマック(まあ、あの超絶悶絶唱法をご存知ない方にはわからないだろうが、テレミンと人間のあいだに生まれた合いの子を想像してもらえれば、それほど遠くないだろう)を掛け合わせたみたいな、じつになんとも奇っ怪な歌い方で、笑えるといえば笑えるし、笑いがこわばるといえばこわばります。怪奇音楽というなら、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズより、ダイアン・シューアのほうが上かもしれません。

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The Beach Boys "Landlocked" (boot)

by songsf4s | 2008-06-28 23:56 | Moons & Junes
Deep Purple その2 by the Shadows
タイトル
Deep Purple
アーティスト
The Shadows
ライター
Mitchell Parish, Peter De Rose
収録アルバム
The Sound of the Shadows
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Nino Tempo & April Stevens, Billy Strange, the Ventures, Santo & Johnny, Screaming Jay Hawkins, Bea Wain
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◆ 半、半、半、半、半音進行! ◆◆
忘れないうちに書いておきますが、昨日、Deep Purpleのような構造の曲はほかにはないだろうといってしまいました。しかし、シャドウズを聴いているうちに、ひとつだけほかにも例があることを思いだしました。ディミトリー・ティオムキンのThe High and the Mighty、すなわち「紅の翼」のテーマです。ティオムキンのほうがずっと複雑ですが、大胆さにおいてDeep Purpleと近縁関係にあると感じます。

どこが大胆かというと、「てめえなんざあ昨日の天ぷらだ」という、「上げっぱなし」「下げっぱなし」の利用です。The High and the Mightyは、上下両方を使っていますが、Deep Purpleは「下げっぱなし」、それも、半音ずつズルズルと下げっぱなしにするという、とんでもないシークェンスがあるのです。

f0147840_23565819.jpg今日はDeep Purpleの話なので、The High and the Mightyのことはとりあえず棚上げにします。で、Deep Purpleの「In the mist of a memory」のラインのメロディーは、ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ盤の場合、F(low)-G-F(high)-E-Eb-D-Db-Bbとなっています。FからDbまで半音で下げてくるこのシークェンスが、強い印象を残し、一聴三嘆、脳裏を去らずとなるわけです。

しかし、この程度で驚いていると、シャドウズ・ヴァージョンは心停止ものです。同じシークェンスをハンク・マーヴィンがどう弾いているかというと、キーが異なるのですが、転調の手間を省いてそのまま書くと、C(low)-D-C(high)-B-Bb-A-Ab-Gと弾いているのです。

これだけでも冗談みたいですが、この直後も、G-F#-F-E-Eb-Dと、やはり、ただ半音ずつ下げていくだけなのです。さらにこの直後も、D-Db-Cとやっています。なんのことはない、1オクターヴのあいだにある音をまったく省略せず、すべての音をたどって半音ずつ下がってきただけなのです。

このようにやっているのは、うちにあるDeep Purpleのなかでは、シャドウズ・ヴァージョンだけです。おそらく、ハンク・マーヴィンのアイディアでしょう。どうせ半音進行なら、徹底的にやってみよう、てえんで、高いCから低いCに下げていってみたら、なんと、コードと矛盾しなかった、ラッキー、てなものではないでしょうか。

◆ ふたたびニーノ&エイプリル ◆◆
話の都合で、ニーノ&エイプリル盤とシャドウズ盤が入れ込みになってしまいましたが、Deep Purpleに関しては、わたしはこの2種がいちばん好きで、両方ともよく聴きましたし、シャドウズ盤は何度もプレイ・アロングしました。

f0147840_23594839.jpgニーノもエイプリルも、ピッチのいいほうではありません。そういうデュオが、こういう半音進行のある曲をうたうと、なかなかもって、妙なぐあいになります。でも、ピッチの善し悪しというのは、コンテクストしだいのところがあって、この曲の場合は、二人のピッチの不正確さが、かえってフックになり、チャート・トッパーになるひとつの原動力となったと感じます。

ニーノの回想によれば、この曲はセッションの最後に、その場の思いつきでやったのだそうです。まあ、こういう手柄話というのは、尾鰭とまではいわないまでも、多少は色がついていたりするものです。最後の15分で録音したというのは、そのまま受け取るわけにはいきません。でも、たいした手間をかけていない、ほんの1、2テイクでやったというのなら、そうだろうと感じます。非常にシンプルだけど、グッドフィーリンのあるトラックになっています。ドラムはアール・パーマーで、活躍はしませんが、リラックスしたグルーヴをつくっています。

わたしの耳を捉えたのは、半音進行の箇所、in the mist of a memory, you wonder back to meの、尋常ならざる響きでしたが、ニーノの特徴ある鼻にかかった声と、そういってはなんですが、ピッチの悪さも寄与した、不思議な浮遊感があります。ナンバーワンになったのも、わたしと同じように感じたリスナーが大勢いたからでしょう。

◆ インスト・バンドの工夫 ◆◆
シャドウズ盤Deep Purpleが収録されたThe Sound of the Shadowsは、Dance with the Shadowsと並ぶ、彼らの代表作といっていいでしょう(たまたま、両方ともフェンダーではなく、バーンズを使っていた時代の録音)。Deep Purpleのほかにも、かのBossa Rooが入っていますし、Santa AnaやWindjammer、そして、Brazilなどもよくプレイ・アロングしました。

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ハンク・マーヴィンとバーンズ

シャドウズというか、ハンク・マーヴィンのプレイには、ひとつの型があります。よくやるアレンジ・スタイルは、低音弦ではじめて、つぎのヴァースはオクターヴ上げ、最後は元のキーに戻る、というものです。

Deep Purpleは、このパターンのヴァリアントになっています。4ヴァースやるのですが、まず最初は恒例によって低音弦でやります。そして、上述のように、ストレートに上のCから5弦のCまで半音ずつ降下します。

つぎのヴァースも低音弦でのスタートは変わりません。しかし、途中はパターンを変えています。上のCから降下してきてきたラインを途中で遮り、オクターヴ上げてからまた降下させているのです。曲の構造から導きだされたアイディアでしょうが、さすがはハンク・マーヴィン、と唸っちゃいます。こういうインスピレーションをもっていないと、インスト・バンドのギタリストを長年つづけることはできません。

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1967年のシャドウズ。全員がバーンズだった。日本に来たのもこの年だったが、やはりバーンズを使っていた。アコースティックはたしか、6弦も12弦もギブソン・ハミングバード。

つぎのヴァースへ移行する直前に、全音転調をします。インスト・バンドにとって、転調は変化をつけるための必須の道具です。しかし、ここでは、「オクターヴ上げて高音弦に移動」というパターンと、転調というふたつのパターンを重ねて使うことで、さらにこのチェンジ・オヴ・ペース感覚を強めています。プレイ・アロングするほうとしても、運指が大きく異なるので、最初のヴァースで記憶した指の動きは、ここでチャラにしなくてはなりません。このあたりが、プレイ・アロングしていて楽しいところです。シャドウズの曲に共通する楽しさです。

このサード・ヴァースのプレイは、またファーストと同じパターンに戻り、ストレートに1オクターヴの階段を、半音ずつ一段一段降下していきます。たんに、ファースト・ヴァースより1オクターヴと1音分高いところで弾くだけです。ただし、こんどは主として12フレットに人差し指をおいてのプレイなので、運指パターンはまったく異なりますが。

最後のヴァースは、サード・ヴァースより1オクターヴ下で弾きます。ただし、こんどはストレートな降下は使わず、セカンド・ヴァースと同じように、降下を途中で打ち切って、いったんオクターヴ上げてから、また再降下するというパターンです。

というようにして、メロディーが変わるわけではないのに、4つのヴァースすべてが異なる、変化に富んだプレイになっているのです。インスト・バンドのチェンジアップ手法にはさまざまなパターンがありますが、そういうことをだれかが学校で教えるなら、教科書にぜひとも採用するべき曲が、シャドウズのDeep Purpleです。

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Dance with the Shadows これまたThe Sounds of the Shadows同様、プレイ・アロングして楽しいアルバムで、やはりバーンズ独特の中音域の響きを楽しむこともできる。

◆ ビリー・ストレンジ盤 ◆◆
アルバムMr. Guitarに収録されたビリー・ストレンジ・ヴァージョンもなかなか楽しい出来です。これまたビリー御大の代表作といえるアルバムで、ほかにも楽しい曲が入っているのですが、まあ、それはべつの話。

ビリー・ストレンジのアルバムには、しばしば管が使われ、「ビッグバンド・ギターインスト」とでもいいたくなるようなアレンジが施されているのですが、Deep Purpleはコンボによるものです。ドラム(ハル・ブレイン。きれいなサイドスティックをやっている)、アップライト・ベース、アコースティックとエレクトリックのリズム・ギター、ピアノ、そして御大のフェンダーによるリードというシンプルな編成です。

f0147840_017434.jpgドラム、ベース、アコースティック・リズムのつくりだすグルーヴが軽快でグッド・フィーリンがあるのが、ビリー・ストレンジ盤Deep Purpleのなによりの美点といえます。アップライト・ベースを使ったことがみごとにはまったと感じます。

御大のプレイがまたすばらしいのです。いや、高速ランなどまったく登場しません。その正反対といっていいでしょう。いかに「きれいに遅く」弾くかの勝負なのです。細部での遅らせ方、日本的にいえば「間の取り方」でどれほど豊かなニュアンスを生むか、なのです。

ビリー・ストレンジより速く弾けるプレイヤーは、多士済々のハリウッド・ギタリスト陣には、トミー・テデスコを筆頭に、いくらでもいました。しかし、タイミングのコントロールによって、音に豊かな表情をもたせることにかけては、ビリー・ザ・ボスの右に出るプレイヤーはいませんでした。わたしは、シャドウズ盤のみならず、ビリー・ストレンジ盤も何度もプレイ・アロングしていますが、どうしても待ちきれず、打者でいえば躰が「泳いだ」状態になり、ボスの「球もちのよさ」を何度も痛感させられました。

残りのヴァージョンは明日以降に。
by songsf4s | 2008-06-28 00:06 | Moons & Junes