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2008年 06月 26日 ( 1 )
Deep Purple その1 by Nino Tempo & April Stevens
タイトル
Deep Purple
アーティスト
Nino Tempo & April Stevens
ライター
Mitchell Parish, Peter De Rose
収録アルバム
The Best of Nino Tempo & April Stevens
リリース年
1963年
他のヴァージョン
Billy Strange, the Ventures, the Shadows, Santo & Johnny, Screaming Jay Hawkins, Bea Wain, Andre Kosotelanetz, the Three Suns
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本日は、この特集で取り上げる予定だった大物のなかで、最後に残った一曲です。スタンダード系、ジャズ系のヴァージョンも相当数あるのですが、スロウで気分が暗くなるので、オミットすることにしました。今回は、ロックンロール・エラに誕生した、旧時代とは絶縁した各種のDeep Purpleを中心にみていくことにします。

◆ 現代版「反魂香」 ◆◆
古い曲なので、歌詞にはヴァリエイションがありますが、当然、ここではニーノ&エイプリルのヴァージョンにしたがいます。ファースト・ヴァース。

When the deep purple falls over sleepy garden walls
And the stars begin to twinkle in the sky
In the mist of a memory you wander back to me

「眠たげな庭園の塀に紫の夜のとばりが降り、夜空に星々が瞬きはじめると、記憶の靄のなかからきみが漂いあらわれ、ため息とともにぼくの名前をささやく」

f0147840_23453293.jpg八代目三笑亭可楽のヴァージョンしか知らないのですが、「反魂香」という噺があります。土手の道哲と三浦屋の高尾太夫(いわゆる「仙台高尾」)の伝説にもとづいた噺ですが、落語だから、高尾と島田重三郎(実説では権三郎とも)の悲恋物語はそっちのけで、「反魂香」という、死者の魂をこの世に呼び戻す香と、心映えはともかくとして、ちょっと抜けている隣の住人のマヌケな霊降ろし失敗談になっています。

いちおう、怪談の季節にやる噺なので、可楽のヴァージョンでは、下座のSEも入る怪談仕立てで、道哲が焚いた香によって高尾の霊が出現する場面があります。高尾が「おまえは島田重三さん」といえば、「そちゃ女房、高尾じゃないか」と道哲がこたえ、高尾が「二世と交わせし反魂香、あだにや焚いてくだんすな、香の切れ目がえにしの切れ目」なんていいます(芝居の『吉原恋の道引き』からの引用だろう)。頓狂といわれればそれまでですが、Deep Purpleを聴くと、どうしても「反魂香」をおもいだしてしまいます。

落語のほうは、やはり女房を病気で亡くしたという隣人が、道哲にその香を分けてくれと頼んで断られてしまいます。しかたなく、夜中に生薬屋に駈け込み、「ほら、あの、おまえは島田重三さんていうあいつを三百くれ」とわけのわからないことをいうのですが、もちろん薬屋に売っているはずもなく、「よろずかねたん、てなあなんだね?」「そりゃ萬金丹と読むのですよ」と小僧に馬鹿にされるといったくだりのあと、「越中富山の反魂丹」という薬が目に入り、これを反魂香とまちがえて買って帰り……という展開で、もちろん、死んだ嫁さんをみごと甦らせる、という結果には残念ながらなりません。

f0147840_2347196.jpgそもそも、越中富山の、とくれば、反魂丹と決まっているというくらいで、反魂丹はだれでも知っている代表的な薬です。現代ならいざ知らず、昔の江戸で(道哲=島田重三郎は江戸初期十七世紀中葉の人物)反魂丹を知らなかったほうがどうかしているのです。まあ、それをいうなら、これまた現在もある萬金丹を知らなかったのだから、並のボンヤリではないという前ふりがあるのですが。

どうせついでなので、もうひとついうと、「萬金丹」という噺もあります。うちには五代目柳家小さんのヴァージョンしかないのですが、これは……いや、もう落語の梗概はやめておきましょう。

セカンド・ヴァース。「反魂香」でいうと、「おまえは島田重三さん」「そちゃ女房、高尾じゃないか」の情緒纏綿たるくだり。

In the still of the night once again I hold you tight
Though you're gone, your love lives on when moonlight beams
And as long as my heart will beat, lover we'll always meet
Here in my deep purple dreams
Here in my deep purple dreams

「夜のしじまのなかで、ふたたびきみを強く抱きしめる、きみは去ってしまったけれど、きみの愛は月の光とともに生きつづける、そして、ぼくの命がつづくかぎり、この紫の闇の夢のなかで恋人たちは出逢う」

ほらね、だから「反魂香」だっていったでしょう?

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◆ 長すぎるプレリュード ◆◆
歌詞は反魂香ですが、曲はなかなかどうして、反魂香どころではありません(なんのこっちゃ)。すごく変な曲なんです。これ以上変な曲はないといっていいかもしれません。しかし、時計を見ると、コード進行がどうの、メロディーラインがどうのなどと書いているひまはないので、そのあたりは、明日以降、この曲のインスト・ヴァージョンをあつかうときにくわしく見ることにします。

どなたでもそういう経験がおありだと思うのですが、子どものころ、この曲は、何度かラジオで聴き、すごく気になるのに、なかなかアーティスト名と曲名をアイデンティファイできず、数年のあいだ、最大の懸案でした。

ほら、ラジオで大リーグ中継を聴いたりするじゃないですか。基本的な野球用語や、選手名をある程度知らないとさっぱりわかりません。grounderとか、two to oneとか、top of the inningとか、swing and missとか、low outside corner and it's called strike number threeとか、on deck circleとか、the bases are loadedといった表現がわからないと、いまどういう状況になっているのかもイメージできないのです。また、レジー・ジャクソンとレジー・スミスがどちらのチームなのかがわからないと、いまヤンキーズが攻撃しているのか、ドジャーズが攻撃しているのか(これだけで、どの時代の話をしているのかおわかりになるでしょうが)もわかりません。

それと同じで、音楽の場合も、基礎となる「名鑑」が頭に入っていないと、ジョックのいっていることが聴き取れないのです。ニーノ・テンポとエイプリル・スティーヴンズは、残念ながら、「わたしの時代」にはすでに過去の人になっていて、ジョックが紹介しても、なかなかそれがアーティスト名と認識できなかったのです。

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やっとわかったのは、この曲が気になりはじめてから数年たった、1969年12月31日放送のロックンロール・カウントダウンのときでした(ちなみに、この日の除夜の鐘の前にたどり着いた、「現在」のトップテンのトリはショッキング・ブルーのVenus、2位はゼップのWhole Lotta Loveだった)。12月30日からはじまるロックンロール・カウントダウンは、各年度の代表的ヒット曲を、定時のニュースをのぞく55分間で1年というペースでノンストップで流し、一気に数十年を駆け抜ける番組でした。70年代半ばまでは毎年の恒例でしたが、いつのまにか消えたようです。

楽曲がアイデンティファイできたのだから、さっそく1970年正月に彼らの盤を買ったかというと、それが左にあらず、ここが当今とは大違いなのですが、あの時代、昔の曲を買うとなると、中古屋にいかねばなりませんでしたし、そのうえ、中古屋というのが、あそこにもあるここにもあるというものではなかったのです。昔は古い音楽の需要というのが極度に小さかったのです。

じゃあ、数年後に手に入れたかというと、これも左にあらず。80年代にビルボード・トップ40完全蒐集にとりかかったとき、この曲はトップ・プライオリティーだったのですが、CDはオミット、LPか45で買うというルールを作ったので、そう簡単にはいかず、ひどく時間がかかりました。結局、アナログでは手に入らず、CDで、それも、単独盤ではなく、オムニバス収録の一曲として、あきらめて買いました。ニーノ&エイプリルのベスト盤がやっと出たのは十年ぐらい前のことだったと思います。

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左からフィル・スペクター、エイプリル・スティーヴンズ、ニーノ・テンポ。一時期、ニーノはスペクターのアシスタントのようなことをしていた。

この曲を気にしはじめたのが中学の終わり、じっさいに手に入れるまでに30年ほどかかっているのだから、個人的には最長記録ではないかと思います。しかし、FENでは年に2、3回は耳にする曲で、それほどめずらしかったわけではありません。再発までに時間がかかったのは、アトランティックがポップ系の曲のリイシューに不熱心だったためでしょう。ソニー&シェールのリイシューも遅れました。

じっさい、こんなに気になる曲というのは、ほかにないってくらいで、じつになんとも、一読脳裏を去らず、じゃなくて、一聴脳裏を去らず、でした。なぜそんなに強い印象を残したのかは、のちにシャドウズ・ヴァージョンをコピーしてみて、明快にわかりました。構造自体、前代未聞といってもいいくらいなのです。

ということで、この曲が忘れがたい印象を残す理由については、話が面倒になるので、明日に持ち越しとさせていただきます。

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『ティファニーで朝食を』の一場面。中央がオードリー・ヘップバーン、その背後がジョージ・ペパード、ここまではいいが、右端はニーノ・テンポ。ニーノがこの映画に出ていたとは気づかなかった。何度も見ているのだが。

by songsf4s | 2008-06-26 23:56 | Moons & Junes