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2008年 05月 18日 ( 1 )
The Windmills of Your Mind その2 by Dusty Springfield
タイトル
The Windmills of Your Mind
アーティスト
Dusty Springfield
ライター
Michel Legrand, Alan and Marilyn Bergman
収録アルバム
Dusty in Memphis
リリース年
1969年
他のヴァージョン
Noel Harrison, Petula Clark, Vanilla Fudge, Henry Mancini, Paul Mauriat, Percy Faith, Jose Feliciano, Michel Legrand (instrumental theme from the OST), David Grisman (as Clinch Mountain Windmill), the Sandpipers, Art Farmer with the Great Jazz Trio
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プレイヤーの表示をつらつら眺めてみると、Windmills of Your Mindではなく、The Windmills of Your Mindと定冠詞をつけるほうが多数派でした。盤を取り出して確認したところ、オリジナルのThe Thomas Crown Affairサントラ盤も定冠詞をつけていたため、昨日の記事にまでさかのぼって修正しました。

◆ キャロル・ケイとミシェル・ルグラン ◆◆
昨日の記事で、同じThe Thomas Crown Affairで使われているThe Boston Stranglerという曲も、ついでに聴いてみてくださいと申し上げました。その理由は、冒頭でベースだけが単独で聞こえるからです。ファンの方はすぐにお気づきになったはずですが、このプレイヤーはキャロル・ケイです。

馴れた耳なら、だれにいわれなくてもわかるほどハッキリ特長が出ていますが、これはご本人も確認していることなので、まちがいありません。そもそも、わたしがThe Thomas Crown Affairのサントラを買ったのは、CKさんとメールを交換していて、あの映画でプレイしたということをお聞きし、卒然と、あれはいい映画だった、と記憶がよみがえった結果なのです。

サントラCDに収録されている曲のなかにはスタンダップ・ベースが使われている曲もあり、そうしたトラックはもちろん別人のプレイですが、フェンダー・ベースはすべてキャロル・ケイのプレイだろうと思います。CKさんは、ミシェル・ルグランをきわめて高く評価していて、この映画でのプレイはご自分でも気に入っているようです。

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ついでにいうと、ベースだけでなく、The Boston Stranglerのドラムも聞き覚えがあるとお感じになる方が多いのではないでしょうか。ガチガチに大丈夫というわけなく、確率は80パーセントぐらいですが、ハル・ブレインのプレイだろうと思います。ハルは映画の世界ではエース・ドラマーではありませんでしたが、やはり相当数のサントラで叩いているようです。

ノエル・ハリソンのThe Windmills of Your Mindのベースも、CK印がペタッと押してあるプレイになっています。ドラムは非常に控えめなので、だれともつきませんが、ハルではないと感じるプレイもしていません。

テンポがゆるくなったり、元にもどったりするので、見えないところで技術が求められる曲ですが、当然ながら、ハリウッドのクルーはそういうときにこそ力を発揮することになっていて、きわめてスムーズなサウンドをつくっています。

◆ ノエル・ハリソンとミシェル・ルグラン ◆◆
ノエル・ハリソンは、結局、「レックス・ハリソンの息子」という「枕詞」がとれなかった人で、華々しいキャリアがなく、The Windmills of Your Mindで記憶されることになるのではないでしょうか。ほかのヴァージョンとくらべてみて、やっと認識できたのですが、存在感の稀薄な、ノエル・ハリソンのふわふわとした声は、この曲にはふさわしいと感じます。

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ノエル・ハリソン。「アンクルの女」より。

映画では、テーマソングの変奏曲というのがしばしば使われ、サントラのThe Windmills of Your Mindにもインスト・ヴァージョンがあります。ミシェル・ルグラン名義になっているこのヴァリアントは、トラックはノエル・ハリソン盤と同一のもので、ヴォーカルのパートをハープシコードのプレイに差し替えただけではないかと思います。このヴァージョンが映画のどこで流れるのかは記憶していませんが、リード楽器としてハープシコードを選択したのは正解だと感じます。

ライナーによると、The Thomas Crown Affairの音楽は、奇妙な形で制作されたそうです。ミシェル・ルグランはノーマン・ジュイソンに、「監督は二カ月ばかりヴァケーションをとってください」といったそうです。つまり、口を出すな、ということです。

f0147840_2337892.jpgフィルムをみながら、秒刻みのスコアを書くという通常の方法もとりませんでした。一度だけラッシュを見て、その印象をもとに、90分のシンフォニーを書く、もしも結果が気に入らなかったら、新しいスコアをノーギャラで書くといったのだそうです。映画に使われたのは、もちろん、ルグランがフリーハンドで書いたスコアです(ジョン・カーペンターも、Halloweenのスコアは、フィルムを参照せずに書いたといっている。まあ、カーペンターの場合、自分が監督したのだから、明確に記憶していただろうが)。

よくあることですが、The Windmills of Your Mindも、ヴァージョンによってずいぶんコードが異なっています。ノエル・ハリソン盤は、途中、自信のないところがありますが、ファースト・ヴァースとセカンド・ヴァースはEbm-Bb7-Ebm-Eb7-Abm7-Db7-F#-Abm7-Db7-Bb7-Adim-Bb7-Ebmというあたりだろうと思います(サード・ヴァースはかなり異なっているが、まだとれていない)。

ポイントは、EbmからEb7への移行と、Adimです。聴いていると、この二カ所が非常に耳に立ちます。こういうのは、ロック・グループの曲にはあまり見かけないパターンでしょう。

ちなみに、ライヴなので、OSTヴァージョンとは大きく異なりますが、ミシェル・ルグラン自身の歌によるThe Windmills of Your MindがYou Tubeにあるので、ご興味のある方はどうぞ。やっぱりシャンソンになっちゃうねー、でした。

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◆ 歌ものカヴァー ◆◆
キャロル・ケイとハル・ブレインの話が出たついでに、もうひとつ、このコンビのプレイに聞こえるヴァージョンをあげておきます。ペトゥラ・クラーク盤です。The Windmills of Your Mindが収録されたPortrait of Petule/Happy Heartの大部分のトラックは、Arranged and Conducted by Ernie Freemanとクレジットされています。つまり、ハリウッド録音だということです。

f0147840_23431476.jpgペット・クラークのハリウッド録音のアルバムでは、ハルは皆勤賞ではないかとおもうほどしばしばプレイしています。キャロル・ケイもペットのトラックはたくさんやったといっています。まあ、この時期にハリウッドで録音すると、ハル・ブレイン以外のドラマーに当たる確率のほうが低いといっていっていいくらいなのですが!

ペットのWindmills of Your Mind(盤の記載では定冠詞がない)は、いかにも彼女にふさわしいアレンジになっています。さすがはアーニー・フリーマンというべきでしょう。プレイも歌もアヴェレージ以上の出来です。ただ、この曲については、わたしはもっともテンポが速いほうがいいのではないかと感じます。ペットらしさという意味では、このテンポがいいのでしょうが。

f0147840_2345084.jpgもうひとつ、ハル・ブレインがプレイしたThe Windmills of Your Mindがあります。サンドパイパーズ盤です。ああいうグループなので、どの曲も、すごいというほどよくもなければ、腹が立つほどダメということもなく、いろいろな意味でほどほどの、BGM的な音ですが、そのかぎりにおいては、サンドパイパーズのThe Windmills of Your Mindも、それなりに楽しめる出来です。ハル・ブレインも、ほどほどに活躍しています。

世にいわれるほど、ダスティー・スプリングフィールドのDusty in Memphisがすぐれた盤だとは思いませんが(メンフィスのプレイヤーのグルーヴはポップ系の曲には合わない。メンフィスのよさを感じるのはSon of a Preacher Manなど、一握りのトラックだけ。ランディー・ニューマンのJust One Smileなどはまったくいただけない)、このアルバムに収められたThe Windmills of Your Mindは、オリジナル以外ではもっともすぐれたものと感じます。これだけがトップ40にチャートインしたのも当然でしょう。You Tubeには動画はありませんが、音だけならダスティーのThe Windmills of Your Mindも聴くことができます。

f0147840_23533564.jpgなにがいいかというと、The Windmills of Your Mindでは、ダスティーの声が彼女のほかのどんな盤よりもすばらしく聞こえることです(といっても、数枚しか聴いたことがないのだが)。じっさい、このアルバムのほかの曲を聴いても、これほどいい感じで声がしゃがれて、テクスチャーのでているトラックはありません。キーもちょうどよかったのでしょう。低いところにいって、声がクラックする瞬間がじつに魅力的です。

メンフィスのリズム・セクションでポップ系の曲をやる意外性、というベンチの狙いはまったくの机上の空論、下手な考え休むに似たりだと思います(レジー・ヤングが下手に聞こえるのは、不向きな曲が多いからだろう)。しかし、ほかのことはどうあれ、ダスティーのすばらしい瞬間を記録できたのだから、まんざら無駄な遠出でもなかったといえるでしょう。

◆ オーケストラものカヴァー ◆◆
オーケストラものには、あまりいいと感じるものはありません。パラドキシカルな言い方になってしまいますが、本来がオーケストラ向きの曲だからだろうと思います。対比の魅力がなく、いずれもクリシェに堕していると感じます。

f0147840_23552052.jpg長いあいだ、ヘンリー・マンシーニにささやかな偏見をもっていました。子どものときに、ヘンリー・マンシーニがカヴァーしたLove Theme from Romeo and Julietが大ヒットしたのですが、これが大嫌いだったのです。ヘンリー・マンシーニのThe Windmills of Your Mindを聴くと、そのLove Theme from Romeo and Julietを思いだします。

双方ともピアノをリード楽器にしているから、ということだけでなく、楽曲自体がちょっと似たところがあると感じます。その後、好みも変わって、いまではポップ・オーケストラをよく聴くようになっていますし、なかでもヘンリー・マンシーニはスーパーAクラスだと思いますが、それでもやはり、Love Theme from Romeo and Juliet(ドラムはハル・ブレインだが)はあまり好きではなく、そして、それに似た雰囲気をもつ、マンシーニ盤The Windmills of Your Mindも、やはり気に入りません。

パーシー・フェイスは、この曲をアルバム・タイトルにしたほどで、力が入っているのですが、どうでしょうかねえ。OST収録のヴァリアントと同じように、ハープシコードをリード楽器に使っていますが、その分だけOST収録のインスト・ヴァージョンに似てしまったと感じます。テンポを遅くしてしっとりとやるヴァージョンが多いのに、パーシー・フェイスはOSTに近い速めのテンポでやっていること自体はけっこうですが、それも特長を出せなかった一因で、やや皮肉な結果になっています。

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ポール・モーリアはイントロのストリングスのフレージングが、どこからどう見てもポール・モーリア以外の何者でもなく、思わず笑ってしまいます。こういうムードで売った人だからなあ、と思います。ポール・モーリア・ファンには十分に楽しめる出来でしょう。

◆ 変わり種ヴァージョン ◆◆
f0147840_0122183.jpgスタジオ録音とは異なるものですが、You Tubeにはホセ・フェリシアーノのThe Windmills of Your Mindもあります。わたしの好みからいうと、ややパセティックすぎますが、フェリシアーノというのはそういう人なのだから、そんなことをいってもはじまりません。この曲は演歌的にやったほうがいいと感じる方にとっては、あるいはこれがベスト・レンディションかもしれません。スタジオ盤は悪くない出来です(ヴィデオを見て、やっぱりいろいろよぶんなテンションをつけているなあ、と思った。ギタリストとしては当然だが)。

さて、残ったのは変わり種がふたつ。ひとつは、いわずと知れたヴァニラ・ファッジ盤です。もう、ヴァニラだとしかいいようのないアレンジでやっています。この年になると、こういうのはいいんだか悪いんだか、さっぱりわかりません。

f0147840_0124696.jpgヴァニラ・ファッジのThe Windmills of Your Mindは、先日取り上げたSeason of the Witchに近いアレンジといっていいでしょう。ヴァニラのアレンジのひとつのパターンがこれでした。思いきりテンポを落とし、大仰に、おどろおどろしくやるのです。十代の子どもはこういう音が好きなので、わたしもそれなりに聴いていましたが、この曲が収録されたアルバム、Rock & Rollのころには、怪獣映画に飽きた小学生のように、もうヴァニラ・ファッジはたくさんだと思っていました。

年をとってみると、こういう音にかすかなノスタルジーを感じますし、子ども(この場合はわたしのことではなく、ヴァニラのこと)というのは可愛いなあ、とも感じます。こういう風にやるのがアーティスティックだと思いこんでいたのでしょうねえ。大人には思いつかないことです。まあ、それだけのことで、いまとなっては60年代のスーヴェニアの意味しかないでしょう。

f0147840_013322.jpgどん尻に控えしは、デイヴィッド・グリスマンのブルーグラス・ヴァージョン。タイトルもClinch Mountain Windmillsとなっているので、同じ曲といっていいかどうかも微妙ですが、しかし、The Windmills of Your Mindのメロディーをテーマにした一種のジャム、という表現ならかまわないでしょう。使用楽器はフラット・マンドリンとバンジョーのみで、おおむね、グリスマンのマンドリンを聴かせるためのトラックといえます。

グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアは、晩年、しばしばデイヴィッド・グリスマンといっしょにサイド・プロジェクトをやっていて、そこに、ハル・ブレインがパーカッションで加わることもあり、グリスマンという人はなかなか気になる存在です。Clinch Mountain Windmillsが収録されたDawg Duosというアルバムには、ハル・ブレインも参加していますが、前述のように、マンドリンとバンジョーのデュオ曲なので、Clinch Mountain Windmillsではハルはプレイしていません。

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類は友を呼ぶ。ジェリー・ガルシア(左)とデイヴィッド・グリスマン。

◆ その他の寿限無寿限無 ◆◆
これで終わりかと思ったら、まだアート・ファーマー盤がありました。わたしは日活映画を浴びるほど見たので、こういうフリューゲルホーンを聴くと、なんだか日活みたいだなあ、と思います。『銀座の恋の物語』の開巻まもなく、物干しでトランペットを吹いていた、あの遠景の人物はアート・ファーマー? 無理矢理こじつけてみると、あのころの日活映画の音楽には、ジャズ・プレイヤーがたくさん参加していたので、ある種のシンクロニシティーがあって当然なのでしょう。

余談はさておき、アート・ファーマー盤も出来は悪くありません。ジャズというより、ジャズ・ミュージシャンによるポップ・オーケストラ・アルバムというおもむきで、ジャズのほうからも、ポップのほうからも、あまり相手にされないアルバムでしょうけれどね。まじめに聴き直してみて、ベースは非常にうまいと感じました。グッド・グルーヴの持主です。面倒がらずに名前を確認したら、エディー・ゴメスという人だそうです。

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それにしても、You Tubeで検索をかけると、じつにもって呆れかえるほど多数のThe Windmills of Your Mindがありますなあ。バーバラ・ルイス・ヴァージョンなんてのがあったので、思わず聴いちゃいましたが、ひどいバッド・グルーヴで辟易しました。わたしは彼女のファンなのですが、出来のいいのはほんの一握りだと思います。You Tubeにアップしただれかさんは、ライノのベスト盤のジャケットを使っていますが、この盤にはThe Windmills of Your Mindは収録されていません。

さらにいくつか聴いてみましたが、いいものというのは、そうそうゴロゴロしているものではないということがよくわかっただけでした。しいていうと、意外にもマット・モンローのものが好ましい出来に感じました。だいたい、この曲は大仰にアレンジしたくなるところがあるので、そこをぐっとこらえて、軽くやるとうまくいくのです。そういう意味でマット・モンロー盤のアレンジとレンディションは正解でしょう(ただし、サブリミナルみたいなスライド・ショーは見ないほう身のため!)。
by songsf4s | 2008-05-18 23:55 | 風の歌