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2008年 05月 10日 ( 1 )
Cast Your Fate to the Wind その2 by Billy Strange & the Challengers
タイトル
Cast Your Fate to the Wind
アーティスト
Billy Strange & the Challengers
ライター
Vince Guaraldi, Carl Werber
収録アルバム
Billy Strange & the Challengers
リリース年
1967年
他のヴァージョン
The Sandpipers, David Axelrod, Johnny Rivers, Vince Guaraldi Trio, Sounds Orchestral, Quincy Jones, Martin Denny, We Five, Ramsey Lewis
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昨日は曖昧模糊とした歌詞の解釈に難渋して、いろいろなことを書き忘れ、挙げ句の果てに、ジョニー・リヴァーズのジャケット写真の表を入れるつもりが、裏を入れてしまい、あとで気づいてビックリ仰天する騒ぎでした。

忘れたことのうち、もっともまずいのはライター名。これは忘れたというより、昨日の段階ではよくわからなかったのです。いまはCarl Werberという名前を入れていますが、これも確定ではありません。Weberとしている盤もあるのです。また、なんとかLoweだったか、べつの名前を書いているものもあれば、Werberと併記されているものもあります。

ライター・クレジットの混乱は思いのほか多いものです。厳密にいえば、これは作者名ではなく、著作権者名であり、たんに作者と著作権者が同一であるケースが多いにすぎません。著作権が譲渡されることはしばしばあります。また著作権をめぐる裁判の結果、ライター・クレジットが変更されることもあります。この曲の歌詞には、なにかそういう裏の事情があり、その結果、盤によってクレジットが異なっているのではないでしょうか。

◆ ボス・ギター・アンサンブル ◆◆
今日の看板には、ビリー・ストレンジ&ザ・チャレンジャーズを立てました。これはビリー・ストレンジとそのバンドということではなく、ビリー・ストレンジ・ウィズ・ザ・チャレンジャーズとしたほうがいいもので、ビリー・ザ・ボスとチャレンジャーズという、GNPクレシェンドのレーベル・メイトの共演という企画です。

しかし、そんなことは表向きのことにすぎません。実体は、ハリウッドのエース・プレイヤーたちのスタジオ・プロジェクトです。チャレンジャーズというグループは実在しましたが、スタジオではメンバーの一部がプレイした可能性はあっても、ドラムやリードといったキー・プレイヤーはみなスタジオ・ミュージシャンです。

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チャレンジャーズのベスト盤に付されたクレジット。なるほど、Additional Guest Musiciansとは、ものはいいようである。しかし、じっさいにはこんなものですむはずがない。これはごく一部にすぎないだろう。ただし、メンバー自身のプレイとしか思えないトラックもあるので、うっかりアウトテイク集なんか買ってしまうと、わたしのように泣きを見ることになる。

しかし、建前にいくぶんかは忠実であろうとした結果、この盤はなかなか楽しい仕上がりになりました。チャレンジャーズにビリー・ストレンジが加わったという建前なので、いつもよりギターの数が多いのです。ギター・アンサンブル・マニアとしては、これほどうれしいことはありません。

ビリー・ストレンジ&ザ・チャレンジャーズのCast Your Fate to the Windは、まず、左チャンネルのダンエレクトロ6弦ベース(ダノ)がリードをとります。そのうしろでコード・ストロークをしているギターはおそらく二人、ダノにすこしかぶるようにもう一本のギターが左に入ってきて、これが短いソロというかメロディー・ラインを弾きます。

そして、いよいよ御大ビリー・ザ・ボス・ストレンジが、看板役者のように花道から、いや、いままで空いていた右チャンネルに登場します。ボスはニュアンスたっぷりのソフトなプレイを得意としていますが、ここではめったにやらないワイルドなインプロヴをやっています。

ビリー・ザ・ボスの16小節が終わって、ストップ・タイムをはさんだあとはやや複雑になります。ボスはそのまま残ってオブリガートにまわり、たぶん2本のギターがメロディーを弾き、その下にはダノが加わっているように聞こえます(最初に出てきた左チャンネルのダノはヴァースだけで消える)。

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ダノ・プレイヤーでもあったキャロル・ケイは、ダノはベースではなく、1オクターヴ低いギター、すなわち「ベース・ギター」である、といっています。「ローカル47」(アメリカ音楽家組合LA支部)の支払伝票では、ダノをプレイした場合、そのプレイヤーの楽器は「ギター」と記載されます。「ベース」と記載されるのはアップライトまたはフェンダーを弾いた場合のみ。これも、キャロル・ケイが組合に訂正を申し入れた結果なのだとか。彼女にいわせると、フェンダー・ベースを「ベース・ギター」というのは間違いで、この言葉は本来ダノを指すのだそうです。

で、CK説にしたがい、ダノをギターに繰り入れて(じっさいこの曲では、ベースのパートはフェンダー・ベースがプレイしていて、ダノはギターのパートを弾いている)勘定すると、この曲に登場するギターは、同じフレーズを弾いているギターがあるので、断定は困難ですが、おそらく左4人、右4人で、左右合わせて8人ということになりそうです。

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Danelectro Longhorn model 6 string bass guitar これは1966年製で、もとの持ち主はフーのジョン・エントウィスルだとか。

しかしですねえ、いくら60年代のハリウッドではオーヴァーダブは避けるといっても、8人が雁首そろえて弾いたとは思えません。ベーシック・トラックの段階ではコードのストロークやカッティングをしたプレイヤーが、二度目にはリードにまわったのではないでしょうか。きちんと計画を立てれば、4人×2パスで完了するはずです。これなら、ベーシック・トラッキングのあとに、ヴォーカル・オーヴァーダブをするのと同じ程度のジェネレーション・ロスですみます(ただし、プレイヤーは、というか、組合は、ひとりの人間が2種類の仕事をしたら、ふたり分の料金を請求するので、コスト・ダウン効果は小さい)。

書き忘れましたが、このヴァージョンもドラムはまちがいなくハル・ブレインです。インストでは歌手の邪魔をする心配はないので、ハルはいつも派手に叩きます。この曲でも、楽しそうに叩きまくっています。

なんせ、年端もいかぬころにサーフ・ブームに遭遇した世代なので、ちゃんとやってくれているかぎりは、こういうタイプのサウンドを、わたしはほぼ無条件で歓迎します。この盤は、ドラムがハル・ブレイン、ギターはビリー・ストレンジという好条件がそろっているし、しかも、アレンジされたギター・アンサンブルなのだから、これは極楽というものです。ギター・インスト・ファン、サーフ・インスト・ファンには、このレアLPを強くお奨めします。まだCDになっていない楽しい盤が山ほどあるのです。

◆ ピアノもの2種 ◆◆
興味のおもむくままにハル・ブレイン関連盤を先に出しましたが、Cast Your Fate to the Windのもっとも有名なヴァージョンは、オリジナルのヴィンス・グァーラルディー盤と、カヴァー・ヒットのサウンズ・オーケストラル盤です。

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この2種はひとつにまとめてしまっていいでしょう。サウンズ・オーケストラル盤は、ヴィンス・グァーラルディー盤のコピーだからです。法律的には問題ないのかもしれませんが、わたしがサウンズ・オーケストラル盤のピアニストだったら、こんな屈辱的な贋造は断じてしない、「それはぼくのやり方ではない」なんてフィリップ・マーロウのようなことをいって、プロデューサーに食ってかかるでしょう。

2種のどこがちがうかというと、オリジナルはピアノ・トリオのプレイなのに対して、模造品はそこにオーケストラをかぶせているという点です。それくらいのことはしないと寝覚めが悪いでしょう。リズム・セクションに関しては、オリジナルをそのままありがたくいただいただけのもので、なんの工夫もしていません。

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オリジナルは、イントロではベースが弓弾きでルート(Eb)をドローンのようにずっと鳴らしています。これがなかなか効果的なのですが、サウンズ・オーケストラル盤では、これを3オクターヴ上げ、ヴァイオリンでEbを鳴らしています。こういうのをアイディアと呼ぶ人もいるかもしれませんが、わたしなら「盗み方がセコい」といいます。

オリジナルが市場のことを考えずに、気ままにやっているのに対し、贋作は、売ろうという姿勢が明確で、聴きやすいサウンドになっています。だからヒットしたのでしょう。ヒットのためならなんでもやる、ということ自体はけっこうだと思います。しかし、その「なんでも」とは、なんらかの「工夫」でなくてはなりません。たとえば、バックビートが弱いと見れば、自転車のチェーンでスタジオの床をぶっ叩く(マーサ&ザ・ヴァンデラーズのDancin' in the Street)といったたぐいのことです。「なんでも」のなかには、盗みは含まれないのです。

以前、ペレス・プラードのCherry Pink and Apple Blossom Whiteを取り上げたときも、イギリス製模造品を聴いてイヤな気分になりましたが、そういう国民性なのかもしれません。われわれも同じような国民性をもっているような気がする、ということもそのときに書きました(自分で自分をコピーしてばかりで、近ごろめげている)。

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Vince Guaraldi

「法律が、警察が裁けないのなら、俺が裁く」なんて裕次郎にいわれるまえに、仮にも職業として音楽をつくる人間なら、コピーなんかアマチュアのやること、というプライドぐらいは持てといいたくなります。あっ、裕次郎の台詞自体がミッキー・スピレインの盗作か!

◆ エキゾティカの行き着いた場所 ◆◆
気分を変えるために、変わり種をいきましょう。変わり種とくれば、マーティン・デニー盤です。いや、いつものマーティン・デニーではありません。Exotic Moogというアルバム・タイトルが示すように、多数のムーグが右から左に、左から右に、ビュンビュン飛びかっちゃうのです。

ひところ、ムーグの音なんか聴きたくもなかったのですが、これだけ時間がたつと、アナログ・シンセの太いサウンドが、また魅力的に感じられるようになりました。ディジタル・シンセには、逆立ちしたってこんな音は出せません。アナログ・シンセが消えたのは、音が悪かったからではなく、パッチの設定が悪夢のように手間がかかったにすぎないわけで、プログラミングせずに、ただ懐手で聴いているぶんには、アナログのほうがはるかに音楽的な音だと感じます。

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Martin Denny "Exotic Moog" Quiet Village、The Enchanted Sea、Yellow Birdなどのエキゾティカ・クラシックのムーグ・ヴァージョンも入っている。ジャケットは二つ折りですらなく、ただのペラ一枚、そのくせ限定1000部だなんてくだらないことが書いてある。シリアル・ナンバーもないのに、限定もハチの頭もない。2オン1で、抱き合わせはLes Baxter "Moog Rock"だから、まあ、色彩は統一されている。

エキゾティカのすぐ隣に、どうやらささやかなハモンド・ブームがあったように思われますし、スペース・サウンドの流行もエキゾティカの文脈にありました。つまり、エキゾティカとは特定のサウンドのことではなく、異質な音を求める「気分」それ自体のことである、と定義するべきなのでしょう。

その気分が、ときには南洋ムードに、ときにはジャングル・ムードに、さらには宇宙ムードに、というように、刹那の像を結ぶということでしょう。そう捉えれば、最後に登場したエキゾティカの像が、シンセ・サウンドだったことは不思議でもなんでもないことになります。たまたま、これは細野晴臣が『泰安洋行』からYMOへとたどった道と重なります。

ハリウッド録音はまだつづきます。デイヴィッド・アクスルロッドもまたハリウッドの裏方のひとりです。イレクトリック・プルーンズのMass in F Minorは、じつはプルーンズとは関係なく、アクスルロッドがつくったものだそうで、このへんがいかにもハリウッドらしいところです(現在ではアクスルロッド名義で、The Warner/Reprise Recordings: Electric Prunes And Sessionsというタイトルの盤が出ていて、これはすでに公然の事実。ただし、いまだにプルーンズがプレイしたと考えられている初期のものについても、当然、疑いはおよぶことになる)。

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左上から、David Axelrod "Heavy Axe" The Electric Prunes "Mass in F Minor" David Axelrod "Warner/Reprise Sessions" David Axelrod "Earth Rot"

しかし、Cast Your Fate to the Windを収録したHeavy Axeという盤は1975年のものです。つまり、残念ながら、ハリウッドのインフラストラクチャーが半壊したあとの録音なのです。まだ瓦礫の山にはなっていませんが、取り壊しが決まって、住人の多数が転出してしまったあとのさびしい集合住宅状態。

こうなると、個々のプレイヤーの技量だけではどうにもなりません。うまくいくときもあれば、惨憺たる仕上がりになるときもあります。デイヴィッド・アクスルロッドのCast Your Fate to the Windは、どちらでもありません。つまり、とくに面白くもなければ、腹が立つようなものでもないのです。アクスルロッドの盤としては、1970年のEarth Rotのほうが、わたしには面白く感じられます。

◆ その他のヴァージョン ◆◆
f0147840_0225781.jpgクリスマス・ソング特集のときに、ラムジー・ルイスの盤をけなした記憶がありますが、Cast Your Fate to the Windは、なかなか好ましい出来です。ピアノとコンガを前に出し、ブラスとストリングスをうしろに下げた立体的なバランシングがけっこう。

ピアニストなのに、いや、ピアニストだからというべきかもしれませんが、ヴィンス・グァーラルディーとはまったく似ていないアレンジにしたのも、本来、当然のことながら、サウンズ・オーケストラルの模造品を聴いたあとだと、こうでなくちゃいけない、と思います。いや、くどいようですが、アレンジは変えなくては「いけない」ものです。そういう手間をかけないコピー品がたくさんあるからといって、それが正しいということにはなりません。

f0147840_0232052.jpg泥縄で2ヴァージョン、試聴してみました。ひとつはクウィンシー・ジョーンズ盤。ドラムとベースはけっこうなグルーヴです。しかし、おおむねフュージョンの雰囲気で、その手が嫌いなわたしとしては、好みではありません。レスリー・ゴアのときのクウィンシー・ジョーンズの仕事ぶりにはおおいに感銘を受けましたが、こういう盤を聴くと、あれはやっぱり、アレンジャーがクラウス・オーゲルマンだったことが大きかったのかもしれない、という気がしてきます。

ウィー・ファイヴ盤は、サウンドがどうこうという前に、なんでこんな風にうたうのかな、という出だしで、そこでいったん聴く気が萎えます。リード・ヴォーカルの女性、名前を調べたこともありませんが、もともと彼女の声とシンギング・スタイルは好みではなく、縁がないものと思い、Make Someone Happyという盤を買ったはいいけれど、つまらん、とほったらかしにしていました。

f0147840_0234528.jpgCast Your Fate to the Windについては、最初のへんてこりんな歌いまわしの難所を通過できれば、あとはそれほど奇天烈ではありません。このリード・シンガー、高い声は疳に障りますが(いや、ハイ・パートにいったときの「歌い方」が疳に障るのであって、声質の問題ではないかもしれない)、中音域ではそれほど悪くありません。

まだやっているらしく、オフィシャル・サイトがあったので、ちょっとバイオを読んでみました。それで、コーラス・グループ的なノリ、フォーク・グループ的なノリの尻尾が、尾てい骨に退化しないまま、尻尾としてそのまま残っているのだとわかり、気に入らなかった理由が得心できました。

わが家のプレイヤーでの順番は、いちばんつまらないサウンズ・オーケストラル盤を先頭にし、最後にサンドパイパーズ盤を置いています。やっぱり、サンドパイパーズ盤がいちばん気持のいいグルーヴです。つぎがビリー・ストレンジ&ザ・チャレンジャーズ、そのつぎが微妙ですが、ドラスティックに変貌を遂げているマーティン・デニー盤でしょうか。
by songsf4s | 2008-05-10 23:57 | 風の歌