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2008年 05月 02日 ( 1 )
The Breeze and I by the Shadows その1
タイトル
The Breeze and I
アーティスト
The Shadows
ライター
Ernesto Lecuona
収録アルバム
Complete Singles A's and B's 1959-1980
リリース年
1963年
他のヴァージョン
The 50 Guitars, Santo & Johnny, the Tornados, Jim Messina & His Jesters, The Three Suns, Bert Kaempfert, Esquivel, Henry Mancini, Les Baxter, Stanley Black & His Concert Orchestra, the Explosion Rockets, the Flamingos, the Four Freshmen
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風の歌特集は、二日目からもう蹉跌しちゃった状態で、タイム・リミット目前なのに、なにを取り上げるか決まらず、今日は休むか、と思ったのですが、そのかわりに、二回に分けるしかなさそうな曲の前半だけをやることにします。

f0147840_23381143.jpg本日はどなたもご存知の曲、エルネスト・レクオーナのThe Breeze and Iです。この、TabooやMalaguenaの作者のことをあれこれ書きはじめると、ことはとほうもなく面倒になるので、今回はそちらのほうには踏み込みません。You Tubeに、レクオーナ自身がこの曲の原曲であるAndaluciaをプレイした映像があるので、ご興味のある方はそちらをどうぞ。ピアニストとしてもなかなかの腕ですし、ワルツ・タイムなので、ありゃりゃ、とあわてます。

だれが考えたって、この曲はインストのはずなんですが、お立ち会い、じつは、ちゃんと歌詞があるのです。歌詞があるどころか、わたしは知らなかったのですが(!)、うちにもちゃんと2種類もヴォーカル・ヴァージョンがあって、あちゃあ、でした。

◆ セカンド・ヴァースなどだれも聴かないなら、いっそ…… ◆◆
ということで、あとから加えられた泥縄の歌詞がなにをいっているか、チラッと見てみましょう。ファースト・ヴァース。

The breeze and I are saying with a sigh
That you no longer care
The breeze and I are whispering goodbye
To dreams we used to share

「そよ風とわたしは溜め息とともにいう、あなたはもうわたしのことを愛していないと、そよ風とわたしは、わたしたちがいっしょに見た夢に別れの言葉をささやく」

なにも問題はないようなので、まっすぐブリッジへ。

Ours was a love song that seemed constant as the moon
Ending in a strange, mournful tune
And all about me, they know you have departed without me
And we wonder why
The breeze and I
The breeze and I

「わたしたちのあいだは、月のように永遠に思えるラヴ・ソングではじまり、見知らぬ、苦悶の曲で終わる、わたしのまわりの人たちはみな、わたしを置いてあなたが去ったことを知っている、そして、そよ風とわたしは、なぜなのだろうと考える」

このall about meはちょっと悩ましいのですが、コンテクストから考えて、all the people around meのことだとみなしておきます。aboutにはaroundと同じような意味もありますから。

やや不思議な構成の曲で、歌詞はこれだけしかなく、あとはここまでに出てきたものを適当に繰り返します。ワン・ヴァース、ワン・ブリッジとはまためずらしい!

◆ 歌もの2種 ◆◆
さて、歌詞は簡単なのですが、各ヴァージョンの検討のほうはそうはいきません。今日はいつもとは順番を変えて、重要性の低いものを先に片づけることにします。

f0147840_23432931.jpgくだらねーなー、と呆れたのがフォー・フレッシュメン盤。インスト盤がすぐれたアレンジのものが多いなか、なんだよこれは、でした。ムードもへったくれもなく、ただプレイしました、ただうたいました、ああ、そうですか、です。

白痴なのか文盲なのか、別れの歌だなんてことも、まったく気にしていないらしく、にぎやかに、楽しそうにやっています。いくらラテンだからって、ここまで脳天気にやることもないでしょう。

いや、インストならわかりますよ。でも、フォー・フレッシュメンはヴォーカル・グループなのだから、音とともに言葉も伝えなければいけないわけで、言葉の意味を全面的に否定した歌い方は、ふつうはしないでしょう。犬が西向きゃ尾は東、地球の上に朝が来る、その反対側は夜だろう、てな状態です。稲垣足穂が、政治と文学を同居させるのは、二台の機関車を反対向きに接続するようなものだ、どこにも行き着かない、といっていましたが、フォー・フレッシュメンのThe Breeze and Iはまさにそれでしょう。

対比のつもりだったのでしょうかねえ。だとしたら、時代の先をいく立派な、いや、革新的といってもいいレンディションだと思います。哀しい歌をサラリとうたうのが、60年代音楽の大きな特長と考えている人間として、脱帽しておきます。でも、60年代音楽なら、こんな、対比にもなっていない、ただの衝突矛盾にすぎない垢抜けないことはやらんぞ、と捨てゼリフをいっておきます。

f0147840_2347395.jpgフォー・フレッシュメンにくらべれば、フラミンゴーズははるかにマシです。といっても、フォー・フレッシュメンが0点以下なのに対し、フラミンゴーズは30点ぐらいというところですが、すくなくともマイナスではなく、プラスの数値です。

たとえば、マーセルズなんかでもそうですが、大ヒットが出ると、とくにドゥーワップ・グループは、そのヒット・レシピに忠実であろうとする傾向があります。要するに、二匹目のドジョウ的アレンジ、サウンドにするということです。いや、否定的にいっているわけではなく、こういうことは「そうあるべき」であり、それが「フォーマット」というものであり、しばしば「フォーマット」が「スタイル」に成長することがあり、そして、娯楽の世界ではフォーマットをうまく使うのは基本的技術なのです。

問題は、フォーマットに則ってつくったからといって、それでいいもの、売れるものができるとはかぎらず、要は作り手の能力と運しだいということです。「ギターを持った歌う流れ者が、たまたま腰を落ち着けた町で悪人どもを豪快にやっつけ、ふたたびどこかに去っていく」というフォーマットが当たったら、当然、つぎもそういう映画を、ということになりますが、あとはみな縮小再生産に堕するのがふつうです。

f0147840_23521016.jpgフラミンゴーズは、I Only Have Eyes for Youの、スロウな、さみしい、しかし、ドラマティックなヴァージョンを当てたので、このフォーマットでBreeze and Iをやりました。フォー・フレッシュメンのあとで聴くと、このほうがずっといいと思いますが、これはちょっとさびしすぎるレンディションで、いくらなんでもテンポが遅すぎると感じます(I Only Have Eyes for Youとほぼ同じテンポ)。

この曲が本来的にもつグッド・フィーリンが抹消されているのはまずいでしょう。I Only Have Eyes for Youにはあったドラマも感じません。この曲の他のヴァージョンとは異なる、紋切り型ではないアレンジは買えますが、しかし、フラミンゴーズの文脈で見れば、自分たちのヒット曲のフォーマットを紋切り型にしてしまったのだから、結局はクリシェなのです。

マーセルズが二度とBlue Moonのようなヒットを生まなかったのと同じで、フラミンゴーズも、いくらフォーマットを守っても、結局、I Only Have Eyes for Youの成功を再現することはできませんでした。それが、シンガー、グループ、バンドの「器」だというべきであって、フォーマットを守ることが間違いだということにはならないでしょう。フォーマットというのは、つねに使いようなのです。

◆ スタンリー・ブラック・オーケストラ ◆◆
残るすべてのヴァージョンがインストです。いいものを褒めるのは手間暇かかるので、今日は勘弁していただき、インストのほうも、あまりよろしくないものから先に片づけます。しかし、悪いものはありません。すごくいいもの、かなりいいもの、まあまあのもの、といった感じです。

あまり面白くないと感じるのは、スタンリー・ブラック盤です。ほんの一握りの盤しか聴いたことがありませんが、このイギリスのピアニスト/バンド・リーダーのものには、それなりに面白い盤があります。スモール・コンボでやったもの、たとえば、Tropical MoonlightやCuban Moonlightなどは、イギリスのエキゾティカもナメてはいけない、と感じさせるものでした。

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しかし、うちにある2枚のオーケストラもの、Franceというアルバムと、The Breeze and Iを収録したLatin Rhythmsという盤は、どちらも、なんだかなあ、という出来です。スタジオの鳴りが悪いのか、エンジニアがタコなのか、たんにテクノロジー・レベルの問題なのか(コンソールの入力チャンネル数とマイクの設置可能本数など)、大編成なのに、サウンドに広がりも厚みもなく、ペラッとした音になっているのがいただけません。

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それほどアクの強いものではありませんが、タンゴ的アレンジで、それ自体はけっこうだと思います。しかし、中途半端な感じで、タンゴでやるなら、笑ってしまうほどタンゴを強調したほうが面白かったのではないかと思います。サウンドのみならず、アレンジの面でも平板な出来です。ストリングス、クラリネット、アコーディオンと、アタックの強くない楽器ばかりがリードをとっているのも、輪郭をぼやかすことに貢献しています。なんとか褒めどころを見つけようと思ってジタバタしているのですが、結局、なにもなし。スタンリー・ブラックを聴くなら、ほかの盤のほうがいいでしょう。

時間切れなので、一転して、いいヴァージョンばかりになる後半は、明日以降に持ち越させていただきます。看板にしたシャドウズ盤のことぐらいは書こうと思ったのですが、それもままならず。ああ、忙しい、忙しいといって、五月兎は去っていくのでした。あ、ルイス・キャロルのあれは、五月じゃなくて、三月だったか!
by songsf4s | 2008-05-02 23:57 | 風の歌