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2008年 04月 21日 ( 1 )
Why Do Fools Fall in Love by the Beach Boys その2
タイトル
Why Do Fools Fall in Love
アーティスト
The Beach Boys
ライター
Franky Lymon, Morris Levy
収録アルバム
Good Vibrations: Thirty Years of the Beach Boys
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Frankie Lymon & the Teenagers, the Happenings, Benn Zeppa & the Four Jacks, the Diamonds, Linda Scott, the Four Seasons, Gale Storm, the Teeners, Joni Mitchell, California Music
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昨日に引きつづきのWhy Do Fools Fall in Love、後半の今日はビーチボーイズ盤についてです。というか、このトラックでのハル・ブレインのプレイが中心になりますので、ドラミングにはご興味がないであろう大多数のお客さんは、一気に最後の小見出しにジャンプしていただくほうがいいでしょう。

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ハル・ブレインが譜面の肩に押したスタンプ

◆ ハル・ブレイン・ストライクス・アゲイン ◆◆
ハル・ブレインがなぜあれほどのプレイヤーになり、空前絶後の4万曲という記録を残せたかは、いまではよくわかっています。箇条書きにすることだってできます。

1 どこまでも明るく華やかなビート
2 正確なタイム
3 独創性
4 アレンジ能力
5 献身
6 気配り
7 腕力、脚力、体力

もっとも重要なのはタイムだろうと思われがちですが、わたしはそうではないと考えています。彼とキャリアが重なるドラマーでも、たとえばジム・ゴードンのように、タイムのうえではハルより正確なプレイヤーもいますし、時代が下るにつれて、クリック・トラック(電子的メトロノームのようなもの)の助けもあって、全般にドラマーのタイムはよくなっていきます。

しかし、ほかのドラマーが逆立ちしても真似できないのが、あの華やかなビートです。おそらく、タイム、手首の使い方、機材、チューニング、録音などが総合されて生まれるものなのでしょうが、ハル・ブレインのビートには、ほかのだれともまったく異なる、華やかさ、明るさがありました。それが南カリフォルニアという土地と、1960年代という時代が要請するものとピッタリ重なった結果が、前人未踏の大活躍につながったと思います。

独創性とアレンジ能力については説明不要でしょう。ハル・ブレインはいまではロック・ドラミングの一般的ヴォキャブラリーとみなされているものを、もっとも多く開発したプレイヤーです。また、アレンジャーはリズム・セクションの譜面を書かず、コード譜しかわたさないことが多いので、ドラミングの設計はプレイヤーの仕事でした。楽曲が解釈できなければ、プレイはできないのです。

献身も重要です。なにしろ、朝8時半からはじまって(午前中は映画の仕事が中心だそうな)、ふつうの一日は3時間のセットを3回やれば終わるはずなのですが、フランク・シナトラのように夕食後にスタジオに入る習慣の人もいますし、ほかにも深夜から未明にかけてのセッションは多く、眠れるのは明け方ごろ、それもベッドではなく、スタジオの床ということもしばしばだったというのだから、ワーカホリックでなければ務まりません。

f0147840_23223823.jpgThe Pet Sounds Sessionsを聴いていて、ハッとした一瞬があります。テイクがはじまったとたんにブライアンがホールドして、もっとテンポを速くと、喋りながら、フィンガースナップで自分が望んでいるテンポをやってみせると、即座にハルがブライアンの指に合わせてスティックを叩きはじめます。ブライアンが、じゃあもう一度、というと、それまで叩いていたスティックの4分にのせて、間髪入れずにハルがカウントインし、あっというまにテイクにもどっていたのです。このみごとなセッション・リーダーぶりを聴いて、さてこそ、と思いました。こういう人がいれば、セッションは遅滞なくスムーズに運びます。

ハル・ブレインは、ただ派手なフィルインでドラマーのキングになったわけではないのです。手足よりも、むしろ頭とハートで天下を取ったというべきでしょう。

◆ ヴァースのプレイ ◆◆
さて、Why Do Fools Fall in Loveでのハル・ブレインのプレイです。上記の彼の特質のうち、献身や気配りは盤にはあらわれませんが、それ以外はすべてこの曲から読み取ることができます。

ヴァースでは、ハルは2&4の前半は叩かず、4のみをヒットしているのですが、どの4も同じかというと、お立ち会い、そんな工夫のないことはしないのです。基本的にはフラムを使っているといっていいのですが、よく聴けば、4のパターンは2種類を使い分けています。

フラムというのは、左右のスティックを、ほんのわずかにタイミングをずらしてヒットするプレイをいいます。Why Do Fools Fall in Loveのヴァースにおける4の第一パターンは、スネアによるフラムです。

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スネアでフラムを叩くときのかまえ。ここではスタンダード・グリップ(レギュラー・グリップ)でやっている。モデルはハル・ブレイン自身。Hal Blaine "Have Fun!!! Play Drums!!!"より。

もうひとつのパターンは、左手でスネア、右手でタムタムないしはフロアタムを同時にヒットするプレイです。これは、フィル・スペクターの録音では頻繁に使ったプレイだと、アール・パーマーがマックス・ウェインバーグに語っています。

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スネアとフロアタムを同時にヒットするプレイ。ここでもグリップはスタンダードだが、ケースによってはハルもモダーンを使ったらしい。

この2パターンを、小節ごとに交互に使っているのです。なぜそんな面倒なことをするかというと、ビートに表情をもたせるためです。ビートのパターンは、しばしばサウンド全体の色合いを(ときには大きく)変化させます。まったくの推測ですが、派手な変化はヴォーカルの邪魔になる、でも変化はもたせたい、という相反する要求を満足させようとした結果が、ボンヤリしていると聞き落としそうなこの地味なパターン変化でしょう。

生地の色は同じまま、織り方だけを、平織りではなく、畝織りか綾織りにするといった、微妙なテクスチャーの変化です。こういう小さな工夫こそ、ハル・ブレインをハル・ブレインたらしめた最大の要素だと、わたしは考えています。

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この逆手のパターンは、フィルインで使うもので、バックビートではこの叩き方はしないだろう。

◆ ブリッジと間奏のプレイ ◆◆
ブリッジでは、当然ながら、リズム・パターンを変えています。もっとも目立つちがいは、2&4のバックビートを両方とも叩くパターンを使っていることです。

8小節のブリッジのちょうど真ん中、5小節目の最初の拍(スネアのビートに対しては裏)で、キックによる8分の2打を入れているのも、ヴァースとはちがうところです。ここでキックが聞こえるということは、ほかではキックは使っていないということかもしれません。エコーがすごくて(スタジオはおそらくゴールド・スター)、深海状態のため、明白にはわからないのですが。

ブリッジのあと、またヴァースを繰り返してから、サックスのアンサンブルによる間奏に突入します。邪魔なヴォーカルが消えるので、ここはドラムを聴くチャンスです。ブリッジ同様、2&4の両方を叩くパターンですが、いきなり1小節目の4で、ものすごく深い響きがしているので、右手でフロアタムをヒットしながら、左手はスネアというプレイであることがはっきりわかります。

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面白いのは、間奏の尻尾です。カウントしてみてわかったのですが、この間奏、サックスのプレイは6小節なものの、そのあとにヴォーカルだけになるストップ・タイムがあり、ここまで入れると、合計11小節という変な長さなのです。最後の5小節分がストップ・タイムで、ここはヴァースにもどる手続きとして、イントロのヴォーカル・リックを繰り返すため、変則的な長さになったのです。

ヴォーカルが入っているリリース盤ではわからなくなりますが、トラッキング・セッションの段階では、ガイド・ヴォーカルがないかぎり、この5小節は完全な無音部です。5小節というと、音楽の時間にあってはかなり長いので、ふつう、これだけ休むと、戻りのタイミングがむずかしくなります。戻りを正確にそろえるには、全員がカウントしなければなりませんが、プロといえども、これはかなり困難です。

えー、お客さんの多くが、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスのA Taste of Honeyという曲をご存知だろうと思います。おもちなら、ちょっとお聴きになってみてくださると、以後の話がわかりやすくなります。

f0147840_23503147.jpgA Taste of Honeyの冒頭、ギター、ベース、管、マリンバなどによる短い、そしてテンポの遅いイントロのあと、ハル・ブレインは4分でキックを強く踏み込んでいます。これはこの曲のフックラインになっていますが、ハル・ブレインは回想記で、なぜこんなアレンジにしたかという裏話をしています。

長いストップ・タイムのあとで全員が入ってくるのですが、リハーサルでどうしてもきれいにそろわず、業を煮やしたハルが、ここで入れ、という合図のために、キックで四分をやったところ、プロデューサーのハーブ・アルパートが、アレンジの一部として、そのプレイを採用したというのです。

Why Do Fools Fall in Loveの5小節にわたるストップ・タイムでも、ハル・ブレインは同じような処理をしています。スティックどうしを叩き合わせて、2&4をやっているのです。やはり5小節のストップというのは無理で、タイミング出しをしたほうがきれいに戻れるという判断もあったのでしょうし、もうひとつは、ヴォーカル・オーヴァーダブへの配慮でしょう。ヴォーカルだって、バックが無音でタイミングを取るよりは、メトロノームのように拍を刻むハルのスティックが聞こえるほうが、はるかに楽に決まっています。

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◆ サード・ヴァースとエンディング ◆◆
間奏後のヴァースでは、ハルはまたパターンを変えています。こんどはヴァースでも2&4の両方を、左手はスネア、右手はフロアタムで叩くパターンにしています。スネアのみのフラムはしなくなります。

そして、エンディングの繰り返しに入ると、長短のフィルインもあちこちに織り込み、だれもがハル・ブレインのトレードマークだと思っている、派手なプレイの連発になります。もうファイナル・ストレッチなので、ヴォーカルを邪魔する心配より、サウンド全体を盛り上げることのほうを優先しているのです。

ハル・ブレインというと、シャッフル・ビートという印象があるのですが、じっさいに勘定してみると、それほどたくさんはありません。そういう印象をもったのは、おそらく、このWhy Do Fools Fall in Loveや、フィル・スペクターのクリスマス・アルバムでの、シャッフルのプレイが強く印象に残っているためでしょう。

シャッフル・ビートの場合、ほうっておくと、フィルインは自然に3連系になります。具体的には、ストレートな4分3連、4分3連と8分、16分などとのコンビネーション、そして、ハル・ブレインのトレード・マーク、キックも連動させた2分3連です。

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自然に出てくるのは以上のようなパターンのフィルインなのですが、べつの系統もあります。これはハル・ブレインとアール・パーマーが広めたものですが、straight 16th against shuffle=「シャッフルに逆らう16分のパラディドル」という荒技があるのです。これはシャッフルのグルーヴの流れに棹さすもので、ナチュラルな響きではなく、かなり強引なプレイなのですが、それゆえに耳に立ち、チェンジアップとして大きな効果を発揮します。

Why Do Fools Fall in Loveのフェイドアウト直前に連発されるさまざまなフィルインの多くは3連系、それもストレートな4分3連です。ただ、一カ所だけ、マイクが当たっていないためにほとんど聴き取れないのですが、タムタムからフロアタムにかけて、straight 16th against shuffleを使っています。「ハル・ブレイン参上」のサインです。

f0147840_08582.jpgドラム馬鹿だけが興味をもつそうした細部はさておき、どのフィルインも正確にしてかつ派手で、いうにいわれぬ華やかさがあり、まったく申し分ありません。何度目のテイクでここにたどり着いたか知りませんが、これほどまでに大量のフィルインを叩いて、まったく乱れのないプレイは、ハル・ブレインといえども、そう多くはないでしょう。

バックビートよし、フィルイン完璧、元気いっぱいでどこまでも力強く、これ以上はないほど華やか、いたるところに張りめぐらせられた小さな工夫の数々、ストップ・タイムでの気配り、いずれをとっても、ハル・ブレインらしさ、そして、彼もその誕生に一役買った「いかにもカリフォルニアらしい明るさ」に充ち満ちた素晴らしいプレイです。

◆ ギターのグルーヴ ◆◆
サウンドは音の集合体です。グルーヴはドラマーだけがつくるものではありません。ふつう、グルーヴのもういっぽうの主役はベースなのですが、このWhy Do Fools Fall in Loveに関しては、アコースティックとエレクトリックという、2本のギターのほうが気になります。

まずアコースティック。ハッキリ聞こえないのですが、ストロークのリズムは8-8-4-8-8-4というパターンのようで、これがシャッフル・フィールの最大の担い手になっていると感じます。

エレクトリックのほうはもっと聴き取りにくく、聞こえてくるのもほんのたまのことなのですが、どうやら、x-8-x-8-x-8-x-8(xは休符)というパターン、または、8分のストロークの表拍(ダウン)をミュートし、裏拍(アップ)だけが聞こえるようにするパターン、またはそのヴァリエーションに思われます。

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ハル・ブレインとブライアン・ウィルソン

この2種類のギターのストロークないしはカッティングが、ハル・ブレインのうるわしいビートと相まって、じつにいいグルーヴを形成しています。エレクトリックなんか、ほとんど聞こえないから、なくてもいいといえなくもないのに、このように「羽織の裏地」に凝るようになったのは、ブライアン・ウィルソンがフィル・スペクターの音作りを意識しはじめた証拠かもしれません(いや、じっさいには、ほかの曲に必要なプレイヤーだから、帰られては困る、というだけでしょうけれど!)。

60年代のビーチボーイズのベースは、当初は主としてレイ・ポールマンが、そして、途中からキャロル・ケイが多く弾くようになります。キャロル・ケイは、ベースになる以前から、ビーチボーイズのセッションではしばしばリズム・ギターをプレイしたそうです。エレクトリックだけでなく、アコースティック・リズムでも彼女は引っ張りだこで、ソニー・ボノは、彼女のアコースティック抜きでは録音しなかったそうです。ということは、あのI Got You Babeのアコースティックはキャロル・ケイということになります。

f0147840_0143779.jpg以前にも書きましたが、キャロル・ケイのアコースティックとは、いわゆるフォーク・ギターではなく、エピフォン・エンペラーという、フルアコースティックのジャズ・ギターによるものです。エンペラーのコード・サウンドのおかげで、ずいぶんたくさん仕事がきた、といっていました。

Why Do Fools Fall in Loveのメンバーを推測すると、ビーチボーイズ初期の多くのトラックと同じように、ハル・ブレイン=ドラムズ、レイ・ポールマン=フェンダー・ベース、キャロル・ケイ=リズム・ギター(アコースティック)、ビリー・ストレンジ=リード・ギター(ただし、この曲ではエレクトリックのカッティング)ではないでしょうか。ほかにパーカッションとサックス(候補としてはスティーヴ・ダグラスとプラズ・ジョンソン)がいますが、そちらについては推測の材料がありません。

しかし、このメンバー、おかしなことに、初期ヴェンチャーズそのまま。当時のハリウッドの精鋭だから、当たり前といえば当たり前なのですが、なんだか、妙な感じがします。いや、仕事先の都合に合わせて、プレイもサウンドもみごとに変貌させていく、彼らのとてつもない適応力と創意に脱帽しておけばいいだけでしょうね。

ハル・ブレイン以外は、だれもスポットライトを浴びるようなプレイはしていませんが、うまい人ばかりが集まり、ピタッとはまったときは、なんともいいグルーヴが生まれるものだと思います。ブライアン・ウィルソンにとっては、これは本線の仕事ではなく、フィル・スペクターのサウンドを研究するための実験だったのかもしれませんが、シングル・カットするべきだったと惜しまれます。

ブライアンのヴォーカルについて、なにもふれていなかったことに気づきました。他人の曲なので、代表作にあげられているのは見たことがありませんが、わたしは、ブライアンのあらゆるヴォーカルのなかで、このWhy Do Fools Fall in Loveがもっともいい出来だと思っています。

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Hal Blaine "Psychedelic Percussion" ドラマーのリーダー・アルバムというのはたいていが退屈なものだが、このアルバムはとりわけお薦め「できない」。このCDは2オン1で、片割れはエミール・リチャーズのStones。

by songsf4s | 2008-04-21 23:57 | 愚者の船