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2008年 04月 13日 ( 1 )
They're Coming to Take Me Away, Ha-Haaa! by Napoleon XIV
タイトル
They're Coming to Take Me Away, Ha-Haaa!
アーティスト
Napoleon XIV
ライター
N. Bonaparte
収録アルバム
They're Coming to Take Me Away, Ha-Haaa!
リリース年
1966年
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日曜だから、競馬場気分を出そうというわけではないのですが、当ブログの外にも「予想屋」Tonieさんが立っています。この予想屋さん、わたしの好みをよくご存知なので、四月の特集はみごとに的中されてしまいました。これでは商売にならないので、来月はなんとかして予想を外さないといけないのですが、つい、ヒントを喋ってしまう悪いクセがあって、いまは必死で口を閉じています。

特集ばかりではなく、Tonieさんは「配球」も読んできます。みごとに空振りさせる魔球を投じることもあれば、待たれていることがわかっていても、真ん中に投げなければいけないときもあり、ここでも勝負は伯仲しています。過去の配球傾向から、Tonieさんも、そろそろえげつない変化球が来そうだなと「待ち」を変えているころだと思いますが、それでも、今日の「球」は空振りをとれる魔球です。不正投球すれすれですから。

古今亭志ん生の、たしか「火焔太鼓」だったと思いますが、おかみさんがぼんやり亭主のことを「馬鹿が凝り固まっちまったよ、このしとは」と罵ります。馬鹿が凝り固まると、どうなるか? もちろん、あれになります。本日は、馬鹿が凝り固まって行き着いた、とどのつまりがこのていたらく、という曲です。

◆ はじめはそろりとよくあるパターン ◆◆
うっかり、曲なんていってしまいましたが、この「曲」にはメロディーはなく、たんなる語りです。スネアドラムとハンドクラップのバッキングがありますが、音階楽器はつかわれていません。じゃあラップかよ、って、あなた、60年代にラップはありません。本邦のちょぼくれ節、祭文、あほだら経などに近いでしょう。それでも、ヴァースとコーラスのようなものがあるのが不思議なところですが、おかげで分割は楽勝。では、ファースト・ヴァース。

Remember when you ran away
And I got on my knees and begged you
Not to leave because I'd go beserk?
Well
You left me anyhow
And then the days got worse and worse
And now you see I've gone completely out of my mind
And

「おまえが逃げだしたとき、どうか行かないでくれ、そうなったら俺はメチャクチャに暴れるにちがいないからと、ひざまずいて頼んだのを覚えているか? でも、結局、おまえは俺を置き去りにした、それからというもの、ものごとはまずくなるいっぽうで、もういまは完全に頭がおかしくなったってわけさ」

この、どかんと単体で出てくるWellやAndは、かなり怖いのですが、日本語にしにくくて、遺棄しました。つぎはコーラス。

They're coming to take me away, haha
They're coming to take me away
Ho ho, hee hee, ha ha
To the funny farm
Where life is beautiful all the time
And I'll be happy to see
Those nice young men
In their clean white coats
And they're coming to take me Away
Ha haaaaaa!

「奴らが俺を連れ去りに来る、ハハ、奴らが俺を連れ去りに来る、ホホ、ヒヒ、ハハ、人生はいつもすばらしいおかしな場所へと、清潔な白衣を着たやさしい若者たちを見て、俺はハッピーになるだろう、奴らが俺を連れ去りに来る、ハハアアア!」

読んで字のごとく、なにも付け加えることはございません。でも、なんだ、そういうことか、と思うのは早計、サゲの予想を立てるのもまだ早すぎます。

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◆ 論理の空転 ◆◆
セカンド・ヴァース。

You thought it was a joke
And so you laughed, you laughed!
When I had said that losing you
Would make me flip my lid
Right?
You know you laughed
I heard you laugh, you laughed
And laughed and laughed
And then you left
But now you know I'm utterly mad

「おまえを失ったら気が変になると俺がいったとき、おまえは冗談だと思って、笑って、笑って、笑い飛ばした、覚えているだろ? おまえは笑って、笑って、俺はおまえが笑って、笑うのをきいて、そして、おまえは去った、もう俺は完全に狂ったのがわかっただろう?」

繰り返しっていうのは怖いですねえ。近ごろ、わたしも同じ話を繰り返し書いているような気がして……。晩年の武者小路実篤は、こういうぐるぐる廻る文章を書いていたと、山田風太郎のエッセイにあります。だれにでも起こりうることなんですぜ、そこで笑っているあなた。

つぎはコーラス。最初のものに似ていますが、すこし変えてあります。

They're coming to take me away haha
They're coming to take me away
Ho ho, hee hee, ha ha
To the happy home with trees and flowers
And chirping birds and basket weavers
Who sit and smile and twiddle their thumbs and toes
And they're coming to take me away
Hahaaaaa!

同じことを書いていると、こっちまで頭がおかしくなりそうなので、ここは解釈を略します。

ただ、木々と花々と鳥たちはいいとして、坐って微笑みながら、親指とつま先をいじるバスケット編みたちというのがわかりません。字句通りの意味ではないような気がするのですが、じゃあ、それがなにかというと、さっぱりです。裏の意味があるのではなく、篭を編むことが療法の一種だったとか? twiddle one's thumbsは成句で、「両手の4本の指を組んで左右の親指をくるくる回す《手持ちぶさたにしている》、《なにもしないで》のらくらしている」と辞書にあります。

◆ 狂気の闇は深く ◆◆
それではラスト・ヴァース、解決篇です。解決篇でやっとヒントが出てくるんでは、わかるわけないじゃん、ですが。

I cooked your food
I cleaned your house
And this is how you pay me back
For all my kind unselfish loving deeds
Huh?
Well, you just wait
They'll find you yet
And when they do
they'll put you in the ASPCA, you mangy mutt
And

「俺はおまえのために料理をし、おまえの家を掃除してやったというのに、そういう無私の愛の奉仕に対して、おまえはこういう仕打ちをしようっていうのか、いまに見てろよ、連中はまだおまえを見つけていないが、見つかったらおまえなんか動物愛護協会送りだ、このバカ犬めが!」

f0147840_23454223.jpgNow and then、ときおり、こういうトリッキーな曲がヒットすることがあります。派手なサゲはジム・スタフォードのMy Girl Billに似ています。My Girl Billの場合は、最後にいたって、She's my girl, Billと、カンマを入れるだけのどんでん返しでしたが、They're Coming to Take Me Away, Ha-Haaa!は、妻または恋人に逃げられて発狂した男が、精神病院から抜けだして復讐にやってきたと思わせておいて、動物愛護協会が出てきたところで、家を掃除してやったって、そりゃ犬小屋のことかよ、となるわけですな。

しかし、よく考えると、逃げたのが人間だろうが犬だろうが、原因のいかんにかかわらず、語り手は気がふれたという事実は変わらないので、なにも解決していないのですけれどね。それでも、犬でよかった、とホッとする心理というのはなんでしょうか? すくなくとも、血まみれの凄惨な事件には発展しないだろうと思うからでしょうかねえ。

ということで、ジャケット・デザインの意味が、ここへ来てわかるので、大きくして、もう一度お目にかけます。

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不可視の犬を散歩させるボナパルト伯ナポレオン十四世。消火栓はどういう意味だって? そりゃあなた、電柱のない町では、マーキングの対象がほかにないからに決まっているでしょ。ADはかのエド・スラッシャー。さすがは一流という冴えたデザインなり。

◆ エンジニアリングのファインプレイ ◆◆
この「曲」を「うたった」ナポレオン十四世というのは、もちろん、シャレでつけた芸名です。日本にも、昔、葦原将軍や熊沢天皇といった「スター狂人」がいましたが(わが家には、葦原将軍のインタヴューがあるが、これがケッサク)、西洋の場合、誇大妄想狂は、自分はナポレオンだと思いこむのは有名なことで、昔はしばしば一コマ漫画に登場したから、説明の要はないでしょう。

LPでは、この曲の作者名はN. Bonaparteとなっていますが、これももちろん変名。本名はジェリー・サミュエルズといって、NYの独立スタジオのエンジニアでした。彼がこの曲を書き、語り、録音したのです。エンジニアリングのアイディアが盤としての出来を左右し、ひいては大ヒット(ビルボード3位)に結びついたと思います。

いま考えても不思議なのですが、メロディーがなく、歌詞がわからないとあまり面白くなさそうなこの曲は、どうやら日本でもリリースされたようで、ラジオで何度か聴いた記憶があります。わたしもまだ中一で、意味なんかわかるはずもないのに、一読三嘆ならぬ一聴三嘆、記憶に刻み込まれたので、言葉の壁を越える面白さがあるのかもしれません

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ドイツの45回転盤のピクチャー・スリーヴ。ここでも言葉の壁は乗り越えられた。

同じ年に聴いた、ボブ・ディランのRainy Day Woman #12 & 35の冒頭は、They're Coming to Take Me Awayによく似ていて、子どものわたしは、しばらくのあいだ、ボブ・ディランとナポレオン十四世というのは、じつは同一人物ではないかと疑っていました! 子どもというのも、奇妙な妄想をいだくものですなあ。

話が逸れましたが、言葉の壁を越えるパワーはどこから来ているかというと、主として、サミュエルズのエンジニアとしてのアイディアと、献身的オーヴァーダビングだと思います。

この「曲」の、サウンドとしてもっとも特徴的な点は、途中で声のピッチが、ヌルヌルとぬめるように上がっていき、気味の悪い思いをすることです。ただし、バックのドラムとハンドクラップとタンバリンのテンポとピッチは変わらないし、語りもテンポはまったく変化せず、ピッチだけが変化するのです。これがなんともいえぬ不思議な感覚をもたらし、ヒットの大きな要因になったと思われます。

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◆ ズボンまで下ろす大奮闘かな ◆◆
ウェブはありがたいもので、サミュエルズ自身が、この「曲」の録音について詳細に語っています。ご興味のある方はそちらをご覧ください。VFOを4トラックのテープ・マシンに接続して、ピッチを変調させたということですが、わたしにはいまひとつ飲み込めない説明です。

技術的に、そしてサウンド面で面白いのは、このピッチの操作だけだと思っていましたが、サミュエルズの話を読むと、目立たないところで涙ぐましい努力をしています。まず、ドラムはミュージシャンではなく、たんなる彼の友だちで、きちんと叩けないため、なんとか7秒間の出来のよいテイクを録り、これをループにしたというのです。なるほど、それなら正確なものができます。いまなら、PCの画面上で範囲選択し、コピー&ペーストすれば、それですんでしまいますが、アナログ技術の時代は大変です。

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The Second Comingというタイトルのナポレオン十四世のCD。エルバ島ならぬ、精神病院から脱出し、パリならぬニューヨークに舞い戻ったあとで録音されたトラックも収録されているそうだが、これは聴いていない。

ハンドクラップも印象的ですが(なんたってバッキングはいたって小編成で、スカスカのサウンドなので、すべてが目立つ!)、これも人数が足らず、ピンポンにつぐピンポンで音を太らせたそうです。膝を叩くと手を叩くよりも厚みのある音になるけれど、服の上からでは音が死ぬので、全員、ズボンを下ろしてくれと、録音に来た友人たちにいったけれど、拒否されたとか! そりゃそうでしょう。「芸術のためだ、脱いでくれ」とはわけがちがいますぜ!

精神病院からのお迎えの車のサイレンも鳴っていますが、これもハンド・サイレンしかなかったので、またピンポン、ピンポン、ピンポン(2台のテープ・マシンのあいだで音を繰り返しコピーすることをいう)で厚くしたそうです。エンジニアリングというのは、本質的にそういうところがあるのですが、ボケッと聴いているとわからないところで、作り手は悪戦苦闘しているのですなあ。

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ドクター・ディメントーの有名なノヴェルティー・ソング集では、They're Coming to Take Me Away, Ha-Haaa!はトリとして最後に収録されている。ノヴェルティー・ソングの大真打ち、キングである証左。最近、2枚組の拡大版がリリースされたが、やはり2枚目の最後におかれている。

サミュエルズが声のピッチの変調につかったVFOは、CM制作用のものを流用したのだそうです。1分間のCMという注文でも、秒数が足りなかったり、足が出たりすることがあり、それをピッタリ注文どおりにするために、時間を引き延ばしたり縮めたりするのにつかっていたのだとか。

しかし、この場合、ピッチとテンポは連動するのですが、They're Coming to Take Me Awayでは、ピッチだけが動いて、テンポは変わりません。こんなことは、いまなら、そこらに転がっているフリーウェアでもできますが、昔は大変です。そうするには4トラックに接続する必要があったというのですが、そこがよく理解できず、噛みくだいた説明はできませんでした。どうかあしからず。

なんでも、NYのラジオ局に、これは女性迫害の曲だと抗議があったそうです。エンディングで、犬だとハッキリいっているのに、と思うのですが、ほら、「このメス犬が!」なんて罵り言葉のある国なので、犬といっても犬とはかぎらないのですね。世の中、いろいろです。
by songsf4s | 2008-04-13 23:54 | 愚者の船