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2008年 04月 11日 ( 1 )
Foolish Little Girl by the Shirelles
タイトル
Foolish Little Girl
アーティスト
The Shirelles
ライター
Howard Greenfield, Helen Miller
収録アルバム
Anthology 1959-1967
リリース年
1963年
他のヴァージョン
The Cookies
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ものごとのバランスはどうなっているかと、つらつら右のメニューを眺めてみたのですが、バランスもなにも、ものすごい偏り方で、おのれの嗜好はいかんともしがたいと痛感します。

まず、男女間のバランス。改めて勘定するまでもなく、男のほうにドーッと傾いています。人種間のバランスもまた、白人が有色人種を圧倒しています。どちらも自分の好みがストレートに出ているともいえるし、同時に、ブラック・ミュージックは季節を扱わない、という一般的な傾向の反映でもあるようです。

ということで、今日は、女性で有色人種というアーティストを取り上げ、「ピー・アイ・マン」をやってみます(なんのことかわからない方は、アルフレッド・ベスターの短編集をお読みあれ)。

◆ アメリカ版女歌謡漫才 ◆◆
馬鹿ソング特集なので、当然、音からして馬鹿っぽい曲もあるのですが、今日のFoolish Little Girlは、「これぞオーセンティックな馬鹿ソング」などと馬鹿なことがいいたくなるほど、馬鹿興趣の横溢する、よくできた構成の馬鹿歌詞のように思います。では、歌に入る前の前付けヴァースのようなもの、ただしメロディーのない、ただのセリフ。

You broke his heart and made him cry
And he's been blue since then
Now he's found somebody new
And you want him back again

「あんたがふったから、彼は悲しんじゃって、あんまりつらいものだから、新しい相手を見つけたんじゃないの、それをいまになって、よりをもどしたいなんて……」

f0147840_23353129.jpgこの曲は、シャーリー・オーウェンズとその加勢となる友人部隊が、馬鹿な友だちを囲んでいじめ抜く、もとい、彼女のはなはだしく人倫にもとる心得違いをさとし、人生をstraighten upするのを手伝ってあげる、という趣向になっています。ということで、以上のセリフはシャーリー・オーウェンズがしゃべっています。

以下、歌に入りますが、どこがヴァースで、どこがコーラスなのやら、さっぱりわかりません。素直に印象をいうと、コーラス・パート1と、コーラス・パート2があるだけで、ヴァースはなし、というアブノーマルな構成に思えます。昔、パット・マガーのものだったか、『探偵を捜せ』という主客転倒した変なミステリーを読みましたが、この曲は差詰め「ヴァースを捜せ」です。たぶん冒頭はコーラスだろうと思います。あとで繰り返されるからです。では、あくまでも「たぶん」にすぎないコーラス。

Foolish little girl, fickle little girl
You didn't want him when he wanted you
He's found another love
It's her he's dreaming of
And there's not a single thing that you can do

「まったく馬鹿な娘だよ、ホント気まぐれなんだから、彼のほうが言い寄っているときに、あんたは相手にしなかったじゃないの、もう彼は新しい娘を見つけて、いま彼の夢に出てくるのはその娘なんだよ、もうこうなったら、できることなんかなんにもないんだってば」

内容からおわかりのように、ここもシャーリー・オーウェンズのパートで、冒頭のセリフと大差のないことをいっています。まあ、曲の頭ですから、概略説明の周知徹底というところ。リスナーも馬鹿扱い!

f0147840_2338175.jpg日本語詞をつけ、かしまし娘がこの曲をうたうところを想像して、ひとりでケラケラ笑っちゃいました。ついでに、HDDにあるほんの百席弱の漫才コレクションもまた、男に偏っているのに気づきました。落語のほうは……って、あなた、落語は男に決まっているじゃないですか。千二百席ほどの落語コレクション(HDDに入れてあると、自分で勘定しないですむので助かる)のうち、女噺家のものは一席もありません。

◆ とんだ手遅れ ◆◆
つづいて、ヴァースないしはコーラス第2部といった感じのパート。便宜的に、この部分をヴァースと呼ぶことにします。二度目にはこの部分の歌詞は変化するからです。

But I love him
No you don't, it's just your pride that's hurt
I still love him
If you got him back again
You'd go right out and do him dirt

ここは掛け合いなので(だから、漫才だというのです)、書き方を変えて、だれの受け持ちかをハッキリさせます。

パア子ちゃん「でも、彼のことが好きなんだもん」
友だち部隊「そんなことあるもんか、プライドを傷つけられただけじゃん」
パア子ちゃん「でも、やっぱり愛してるんだもん」
友だち部隊「彼を取り戻したって、どうせあんたはまたすぐに、彼にひどいことをするだけじゃん」

「だもん」と「じゃん」で脚韻を踏んでみました(冗談だってば)。

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コーラスをはさんで、セカンド・ヴァースないしはコーラス2のBという感じのパートへ。

But I love him
It's too late to have a change of heart
I still love him
Tomorrow is his wedding day and you'll keep quiet if you're smart

パア子ちゃん「でも、彼のことが好きなんだもん」
友だち部隊「いまさら気が変わったって遅いっていうの!」
パア子ちゃん「でも、やっぱり愛してるんだもん」
友だち部隊「明日は彼の結婚式、すこしは脳みそがあったら、しっかり口を閉じてるんだよ」

だいぶ意訳が入りましたが、中身はおおむねこのようなことをいっているのであります。まったく、友だちのいうとおりで、結婚式じゃあ、手遅れも手遅れ、なにをいまさら、です。『卒業』みたいなのは、映画のなかだけのこと。

以下は最後のコーラスのあとに出てくるエンディング。

Forget him cause he don't belong to you
It's too late he's found somebody new
There's not a single thing that you can do

すでに出てきたことのささやかな言い換えなので、解釈は略します。

◆ シレルズの時代 ◆◆
つらつら考えてみたのですが、ガール・グループを看板に立てるのはこれがはじめてのようです。ロネッツを取り上げたことがありますが、あのときも看板にはしませんでした。しかし、「ガール・グループ」という言葉は、しばしば同時期のガール・シンガー群をも包含するので、そういう意味でなら、ダーリーン・ラヴ(「ダーレン」という日本の会社の表記は間違い)を看板に立てたことはあります。

f0147840_23454515.jpgガール・グループが嫌いなんてことはなく、それなりに集めたこともあるのですが、これまた、季節をあまり扱わないので、当ブログの制約のゆえに、縁がなかったのではないかと思います。

ガール・グループというものがすぐれて60年代的産物だとするなら、つまり、アンドルーズ・シスターズに代表される、スウィング時代の女性コーラス・グループを勘定に入れず、ボベッツやシャンテルズなどを、「ガール・ドゥーワップ・グループ」という、ガール・グループに先行する祖型的な存在とするなら、シレルズはガール・グループの始祖です。彼女たちの1960年のビルボード・チャート・トッパー、Will You Love Me Tomorrowとともに、本格的なガール・グループの時代がはじまったからです。

わたしが盤を買うようになる以前に活躍したグループですし、わたしが育った時代には、ロネッツのBe My Babyのリヴァイヴァル(日本国内での)という例外はあったものの、ガール・グループはほぼ完全に忘れられていたので(それをいうなら、ガール・グループにかぎらず、60年代とは、あらゆる過去の音楽を亡失した、百パーセント「今日を生きる」時代だった)、シレルズの盤を買ったのは1980年前後のことです。

そのときの印象は、楽曲の粒がそろっている、ということで、シレルズそのものについてはなんとも思わず(シャーリー・オーウェンズの声は好みではない)、サウンドはカビくさいと思っただけでした。

その後、他のガール・グループはサウンドも面白いものが多数あることがわかりましたが、ひるがえって考えると、「ほどのよいダサさ」のおかげで、シレルズはトップに立ったのだということも見えてきました。サウンドがするどすぎると、一般受けはしないのです。ただし、一般受けしない先鋭的部分は、イギリスの「ボーイ・グループ」、すなわち、ビートルズ以下のブリティッシュ・ビート・グループに影響をあたえたと思います。

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◆ Foolish Little Girlの特殊性 ◆◆
シャーリー・オーウェンズの声は気に入りませんでしたが、ただし、一曲だけ、いい声だと思ったものがあります。それがFoolish Little Girlです。

いや、シャーリー・オーウェンズではなく、名前不明のパア子ちゃん役の声が、じつになんとも馬鹿っぽくて可愛いのです。こんな声をしていちゃ、頭が空っぽなのも当然だ、と納得してしまうリアリティーがあります(性差別ならず。男にも馬鹿っぽい声のシンガーはたくさんいる)。

f0147840_23501567.jpgそして、おかしなことに、好きではないシャーリー・オーウェンズの声も、この曲では「役柄」にピッタリだと感じます。妹分をビシビシやりこめる姐御として、これほど理想的な声はないでしょう。だから、好きじゃないのですが!

このトラックについては不明ですが、シレルズのセッションでは、しばしばゲーリー・チェスターがストゥールに坐ったということで(ただし、参考までに申し上げておくと、マイケル・“スティクス”・カイリーないしはキーリーMichael "Stix" Killeyという謎のドラマーも、関与を主張している>NYスタジオ事情研究者諸兄)、多くの曲が安心して聴けるグルーヴになっています。しかし、シレルズのトラックはおおむねシンプルで、ハリウッド産ガール・グループ/シンガーのように、歌なんかどうでもよくなるような、すごいサウンドのトラックはありません。

この曲のバッキングで面白いのは、馬鹿っぽいミューティッド・ギターのアルペジオと、チープなオルガンのトーンでしょう。Foolish Little GirlやBaby It's Youで使われているオルガンが、ビートルズのBaby It's Youのみならず、Mr. Moonlightあたりにまで遠く響いているような気がします。

f0147840_23511587.jpgGirl Groupsというヴィデオでだったと思いますが、シレルズは、64年のブリティッシュ・インヴェイジョンの結果、自分たちは市場から駆逐された、という趣旨のことをいっていました。ガール・グループというジャンルに関してはそういう面もあったでしょうが、シレルズに話をかぎるなら、それ以前に明らかに下降線に入っています。Foolish Little Girlは、彼女たちにとって、最後のヒットらしいヒットです。

A&Rのルーサー・ディクソンがセプターを辞めて、キャピトルに移ったのが、やはり響いたのではないでしょうか。極論をいいますが、シレルズがトップに立ったのは、楽曲選択に誤りがなかったおかげのような気がします(歌にもサウンドにも、とりたてて魅力はない)。そして、楽曲選択はA&Rの責任です。ディクソンを失ったあとで、とにもかくにも、Foolish Little Girlというトップ10ヒットが生まれたのは、むしろ僥倖というべきでしょう。この前後にはほかにたいした曲はありません。

◆ ジョン・ミリアスと1963年 ◆◆
f0147840_23532265.jpgわが家にあるこの曲のカヴァーは、シレルズと同時期に活躍したガール・グループ、クッキーズ(Don't Say Nothing Bad About My Babyは好み)のものだけです。

こちらの友だち部隊の歌い方は粘りけがあって好みではありませんが、パア子ちゃん役は、シレルズとどっちが馬鹿っぽいか、勝負は写真判定というくらいで、こちらもなかなか聴かせてくれます。ピッチの善し悪しの差で、クッキーズのパア子ちゃんの勝ちかもしれません。この「役」の場合、ピッチの悪いほうが魅力的に響くのです。皮肉でもなんでもなく、そう思います。

どちらのヴァージョンを聴いても、こんな曲を書くライターがいて、こんな曲をうたうグループが二組もあって、こんな曲がビルボード・トップ10に入るほどリスナーに好かれたというのは、考えてみるとすごいことかもしれない、と思います。わたしは幼すぎて、時代がどうこうなんてことは意識していませんでしたが、ひょっとしたら、60年代はじめというのは、いい時代だったのじゃないでしょうか。すくなくとも脳天気だったのはまちがいないと感じます。ケネディー暗殺以前だから、ということでしょうかねえ……。

f0147840_23543093.jpgジョン・ミリアスが、ビートルズによってアメリカの音楽は死んだ、といっています。『ビッグ・ウェンズデイ』という映画は、じつは、その考えを作品化したものだった、ということを、大昔のコメントに書きましたが、コメントは検索がきかないので、もう一度繰り返します。

あの映画の前半、60年代初頭をあつかったシークェンスでは、63年ぐらいまでのヒット曲(たとえば、クリスタルズのHe's a Rebel)が、ほとんどノンストップで流れます。それが後半に入ると、パタリと音がしなくなるのです。60年代後半の音楽は嫌いだということを、作品のなかで明確に表現しているのです。映画を使って音楽批評をやった監督なんて、ジョン・ミリアスをもって嚆矢とし、最後とするのではないでしょうか。

わたしはビートルズの時代に育ったので、ジョン・ミリアスに心から賛成するわけではありません。しかし、彼の気持ちはよくわかります。自分自身とある時代の音楽を重ね合わせたのは、なにもジョン・ミリアスひとりのことではないからです。Foolish Little Girlを聴いていると、この曲は百パーセントこの時代に属している、他の時代にはつくられなかった歌だと感じます。それで、ジョン・ミリアスと『ビッグ・ウェンズデイ』のことを思いだしたのでした。
by songsf4s | 2008-04-11 23:55 | 愚者の船