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2008年 01月 21日 ( 1 )
Winter Weather by Peggy Lee with the Benny Goodman Orchestra
タイトル
Winter Weather
アーティスト
Peggy Lee with the Benny Goodman Orchestra
ライター
Ted Shapiro
収録アルバム
The Complete Recordings 1941-1947
リリース年
録音1941年11月27日(リリースは1942年?)
他のヴァージョン
The Pied Piper
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すでに何度か同じことを書きましたが、本日のWinter Weatherにもまたクリスマス・ソングの「魔の手」が伸びています。すでにペギー・リー盤を収録したA Big Band Chrismasというものがあるのです。

しかし、ペギー・リーのセッショノグラフィーを読むと、この曲は1941年11月27日および同年12月10日(ラジオ放送用と思われる)に録音されています。ラジオのほうは、ディスクに録音したのであっても、間をおかずに放送したのでしょうが(東部と西部の時刻のズレを調整するために、ディスクに録音することもよくあった)、11月27日のニューヨークでのスタジオ録音は、クリスマス・リリース用としては、ちょっと手遅れです。つまり、クリスマス・ソングのつもりはなかったのではないでしょうか。

◆ またしてもdueをcollect ◆◆
それでは歌詞を見てみます。2ヴァースなのか、1ヴァースなのか、構成が明確ではないのですが、いずれにしても短いので、以下にすべてをひとまとめにかかげます。ペギー・リー/ベニー・グッドマン盤とパイド・パイパーズ盤のあいだに、大きな異同はありません。

I love the winter weather
So the two of us can get together
There's nothing sweeter, finer
When it's nice and cold
I can hold my baby closer to me
And collect the kisses that are due me
I love the winter weather
'Cause I've got my love to keep me warm

「冬の天気が大好き、二人がくっついていられるから、冬ほど楽しくて、素敵なものはない、すごく寒いときには恋人とぴったりくっついて、すべてのキスを手に入れられる、冬の天気が大好き、わたしを暖めてくれる人がいるから」

短いわりには、わかりにくい、または、日本語にしにくい箇所の多い歌詞です。まず引っかかったのはSoです。そうって、いったいどこがそうなんだよ、ですが、文法的にはよくわからないものの、文脈からすれば、forとかcozのような意味で使われていると考えて問題ないでしょう。こういうsoの使い方は、文法的にどう説明されるのか、よくわかりません。イレギュラーな用法に思えます。

f0147840_0243574.jpgsweeter, finerの箇所は、ペギー・リー/ベニー・グッドマン盤のなかで、後半、ヴォーカルがアート・ロンドン(後年の芸名であるアート・ランドとクレジットしている盤もあり)に交代すると、sweeter or finerと歌っています。どちらでも意味上の大きな違いはありませんが。

そして、一昨日のDire Wolf by Grateful Dead その2に引きつづき、dueをcollectするという言いまわしの登場です。ここもわたしにはイレギュラーな用法に思えます。本来なら、collect the kisses that are due to meと、dueのあとにtoがないとまずいのではないでしょうか。

意味としては、一昨日も書いたように、「本来、権利をもっているものを手に入れる」ですから、「わたしに所有権のあるすべてのキスを入手する」となります。日本語にするから奇妙なのだということはわかっていますが、しかし、こういうところでdueをcollectすると表現するのは、ネイティヴにとっても、すくなくとも、いくぶんかは耳に立つのではないでしょうか。そういう効果を狙ったものに思えます。

◆ ビッグバンド時代のシンガー ◆◆
はじめに、ペギー・リー/ベニー・グッドマン盤の録音日付をわざわざ書いたのは、2種類のヴァージョンが接近した時期に録音されていることを示すためばかりではありません。多少は歴史に対する関心のある方は、そのことにすぐに気づかれたでしょう。

この曲が放送された(ないしは放送用録音がおこなわれた)1941年12月10日は、あちらの時間では、太平洋戦争開戦の3日後にあたります。このとき、ほかにNot mine、Not A Care In The World、Why Don't You Do Right?の3曲を放送ないしは録音したことが記録にあります。このタイトルには意味があるような気がします。「この世に気にかかることはなにもない」「どうしてあなたはきちんとできないの?」というタイトルですからね。

f0147840_039417.jpgそういうことが関係あるのかどうか、ペギー・リー/ベニー・グッドマンのWinter Weatherはアップテンポで、なかなかのグッドフィーリンです。上記の歌詞だけで、どうやってもたせるのかと思うかもしれませんが、スウィングの時代なので、インストゥルメンタル・パートが長いのです。

わたしはこの時代のプレイヤーにはさっぱり不案内なのですが、ご興味をお持ちの方もいらっしゃるでしょうから、コピーしておくと、Mel Powell (a, p), Eddie Sauter (a), Benny Goodman (cl), Sol Kane, Clint Neagley (as), George Berg, Vido Musso (ts), Chuck Gentry (bar), Al Davis, Joe Ferrante, Jimmy Maxwell (t), Cutty Cutshall, Lou McGarity (tb), Tom Morgan (g), Sam Weiss (b), Ralph Collier (d), Peggy Lee, Art London (v)というメンバーになっています。

知っている名前はヴィドー・ムソーだけです。ハル・ブレインがその回想記Hal Blaine and the Wrecking Crewのなかで、トミー・サンズが引退したあとの、落ち着かない時期にやった仕事のひとつとして、ヴィドー・ムソー・バンドをあげています。

f0147840_041199.jpg話が脇に逸れましたが、スウィングの時代には、歌手はいわばバンドの付属物、主体はバンド・リーダーおよびバンドのほうにあります。いまでは、Peggy Lee and the Benny Goodman Orchestraなどというクレジットで売られていますが、あの時代には、The Benny Goodman Orchestra with Peggy Leeだったのではないでしょうか。リーダーの名を冠したオーケストラの名前だけがあり、歌手の名前がないもののも山ほどあります。

f0147840_0451973.jpgしたがって、当然、しばしば、長いインストゥルメンタル・イントロ and/or ブレイクがあります。Winter Weatherの場合は、中間にベニー・グッドマンのクラリネット・ブレイクがあり、後半、アート・ロンドンの歌になります。

スウィングの時代のいいところは、ソロはそれほど重要ではなく、バンド、つまり管のアンサンブルに重心がかかっていることです。この曲でも、もちろん、ベニー・グッドマンのソロもいいとは思いますが、それよりも、サックスを中心とした管のアンサンブルの豊かさがグッドフィーリンを生む源泉になっています。

後年のペギー・リーはとくに好きな歌手ではないのですが、ベニー・グッドマン・オーケストラ時代は、声もシンギング・スタイルもあっさりとあと口がよく、女性シンガーは若いうちが花、という当方の年来の考えが、またしても(残念ながら)裏づけられてしまいました。色香を失いはじめると、「技」とかいう無意味なものを意識してしまうのでしょう。技で食えるなら、だれも苦労はしません。芸事の場合、通人は別として、おおかたの客が買ってくれるのは、本人にもよくわからない、曖昧模糊としてとらまえどころのないsomethingのほうなのです。

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◆ 革命的グループ ◆◆
わが家にはもうひとつ、パイド・パイパーズによるWinter Weatherがあります。この記事を書くために、彼らのバックグラウンドをいろいろ読んでみたのですが、勉強になりました。いや、大部分はみなさまには無関係なことで、ハリウッド音楽史の脚注をいくつか手に入れたというだけなのですが。

f0147840_0481675.jpgパイド・パイパーズ盤Winter Weatherはミディアム・テンポで、ペギー・リー/ベニー・グッドマン盤よりかなり遅くやっています。しかし、これはこれで、やはりグッド・グルーヴがあります。

この曲でもおそらくアレンジとコンダクトを担当したであろうポール・ウェストンは、トミー・ドーシー・オーケストラのアレンジャーだったときに、パイド・パイパーズといっしょに仕事をし、のちに彼らが独立して、キャピトルと契約してからは、多くの録音でアレンジをしています(パイド・パイパーズがハーモニーをつけたジョニー・マーサーのJingle Bellsも、やはりポール・ウェストン・オーケストラによるバッキングだった)。そのウェストンのパイド・パイパーズ評。

The Pipers were ahead of their time. Their vocal arrangements were like those for a sax section and a brass section, and they would interweave, singing unison or sometimes sing against each other's parts. It was revolutionary and we'd never heard anything like it.

「パイド・パイパーズは時代の先をいっていた。彼らのヴォーカル・アレンジメントは、サックス・セクションやブラス・セクションのアレンジに近いもので、ユニゾンで歌ったり、ときにはお互いに相反するラインを歌ったりというぐあいで、彼らのハーモニーは交錯した。あれは革命的なスタイルで、われわれはあのようなものをかつて聴いたことがなかった」

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発足当時のキャピトル・レコードのスタッフと経営者。左からポール・ウェストン、ジョー・スタフォード(パイド・パイパーズ)、経営者でもあり、アーティストでもあったジョニー・マーサー、そして、ジューン・ハットン。

パイド・パイパーズのハーモニーについてわたしが感じるのも、ウェストンがいっているのと同じようなことです。interweave=織りなす、という言葉でウェストンがいっているのは、それぞれのラインがメロディー、3度、5度というように、つねに並行しているのではなく、メロディーより高いラインを歌っていたのが、すっとメロディーの下にさがったりすること、つまりラインが交錯することでしょう。

f0147840_105417.jpgわたしは、コードを分解しただけみたいなハーモニーなら、むしろないほうがいいと思うタイプの人間なので、パイド・パイパーズのヴォーカル・アレンジメントは理想的なものに感じます。こういうハーモニーなら退屈しませんし、シンガーの個性を過度に殺すこともありません。この「個性のオーヴァーキル」こそ、わたしが凡庸なヴォーカル・ハーモニーを嫌う理由のひとつです。たしかに、声のハーモニーは美しいのですが、夕暮れの富士山だって3分見ていれば飽きます。凡庸なハーモニーは8小節聴けばあくびが出ます。

最近になって、パイド・パイパーズを「発見」して興奮したのは、そういう意味です。彼らのようなハーモニーなら、LPまるごと聴いても飽きません(ポール・ウェストンのアレンジとオーケストラのレベルが高いことも重要)。適度にくっつき、適度に離れる呼吸のよさは、そんじょそこらのヴォーカル・グループにはないもので、キング・シスターズの「発見」と併せて、思わず、40年代から50年代のコーラス・グループの渉猟にとりかかってしまったほどです。40年代こそ、アメリカのヴォーカル・グループの黄金時代だと、わたしの直感が叫び、飛び跳ねている最中なのです。

パイド・パイパーズのWinter Weatherは、彼らの「時代の先をいく」スタイルが直接にあらわれたトラックではありません。ハイ・テクニックは抑え、リスナーをグッド・フィーリンにさせることに徹した、という印象です。もちろん、音楽なのだから、グッド・フィーリンさえあれば、不満のあろうはずもありません。

◆ ジョニー・オーティスの慨嘆 ◆◆
ジョニー・オーティスは、R&Bの誕生にふれて、ああいうバンドというのは、要するに、経済的な問題に「押しつぶされたビッグ・バンド」なのだと表現しました。初期R&Bバンドの4管編成というのは、「管のハーモニーにテンションをつけられる最低限の人数」だというのです。オーティスはビッグバンドの時代にキャリアをスタートした人ですから、管が大勢いた時代を懐かしがっています。

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Johnny Otis "Upside Your Head!: Rhythm and Blues on Central Avenue" リズム&ブルーズ発祥の地と目される、LAのセントラル・アヴェニューを本拠とし、40年代、50年代にLA音楽シーンの立役者となったジョニー・オーティスの回想記。表紙もオーティス自身。近年は画家、料理人として活躍中らしい。

オーティスがいっているのは、第二次大戦後、1940年代後半から50年代はじめのの状況です。ビッグバンドに比較すれば相対的に貧弱な4管編成だったために、ギターやドラムが前に出なければならない(つまり、早い話がデカい音を出さなければならない)必要性が生まれ、それがロックンロールの誕生とその基本的なサウンドにつながるのですが、それはべつの話。

40年代前半の音楽を聴いていると、ジョニー・オーティスの嘆きがよくわかり、いまから握手しにいきたくなります。Winter Weatherのふたつのヴァージョンを聴いていても、ヴォーカルのみならず、それと同じほどに、管の豊かな響きが耳に残ります。ヴォーカル・グループばかりでなく、管のアンサンブルに関しても、1940年代前半がやはり「黄金時代」なのではないでしょうか。

レコーディッド・ミュージックの時代というのはありがたいものです。はるか昔に失われ、おそらく、二度と取り戻せないであろう豊かな音の響きを、一歩も家の外に出ることなく、暖かい部屋にいながらにして楽しめるのですから。I love the winter weather!
by songsf4s | 2008-01-21 23:56 | 冬の歌