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2008年 01月 15日 ( 1 )
Canadian Sunset by Marty Paich Piano Quartet
タイトル
Canadian Sunset
アーティスト
Marty Paich Piano Quartet
ライター
Eddie Heywood, Norman Gimbel
収録アルバム
Lush Latin & Cool
リリース年
1960年
他のヴァージョン
Avalanches, Hugo Winterhalter & His Orchestra with Eddie Heywood, Earl Grant, the Three Suns, Andy Williams, Dean Martin, Jimmy McGriff, Johnny Hodges with the Lawrence Welk Orchestra
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ちょっと尻取りめいてきましたが、昨日のショーティー・ロジャーズのSnowballにつづいて、同じくジャズ出身のハリウッドを代表するアレンジャーが、プレイヤーとしてつくったアルバムからの曲です。

マーティー・ペイチのヴァージョンはインストゥルメンタルで、今日も歌詞がなくて楽勝、といきたいところなのですが、ご存知のように、この曲にはちゃんと歌詞があります。しかも、うちにもヴォーカル盤が複数あるので、無視するわけにはいかないのでした。

◆ 日の出から日没まで ◆◆
うちにあるこの曲のヴォーカル盤はディーン・マーティンとアンディー・ウィリアムズのもので、両者のあいだに大きな異同はありませんが、ここではディーン・マーティン盤に依拠します。ではファースト・ヴァース。

Once I was alone
So lonely and then
You came out of nowhere
Like the sun up from the hills

「以前はひとりで、ひどくさみしかった、そこにきみがどこからともなくあらわれた、丘の向こうに陽が昇るように」

「カナダの夕暮れ」というタイトルなのに、なんだって陽が昇るのだ、という疑問をお持ちでしょうが、映画や小説同様、そういう疑問はしばらく口にせず、ラグビー式にいえば「アドヴァンティジを見る」のがルールです。映画や小説同様、作者の意図は「サスペンド」、つまり「気をもたせる」ことにあるわけですから。

Cold, cold was the wind
Warm, warm were your lips
Out there, on that ski trail
Where your kiss filled me with thrills

「風はどこまでも冷たく、きみの唇はどこまでも暖かい、あのスキー・コースで、きみの口づけはわたしを夢中にさせた」

冷たい風と暖かい唇の対比とはまた恐れ入ります。あんまり記憶にない技です。スキー場に出ていたのなら、どちらの唇も悪魔の尻と同じぐらい冷えているだろう、なんていいたくなるのですが。

つづいてブリッジ。

A weekend in Canada, a change of scene
Was the most I bargained for
And then I discovered you and in your eyes
I found the love that I couldn't ignore

「気分転換にカナダで週末を過ごすことをなによりも楽しみにしていた、そしてきみに出逢い、きみの目に無視しようのない愛を見いだした」

サードにして最後のヴァース。

Down, down came the sun
Fast, fast, fast, beat my heart
I knew when the sun set
From that day, we'd never ever part

「どんどん太陽が沈むにつれて、わたしの心は高鳴りゆく、あの日、太陽が沈んだとき、わたしたちが別れることがないのはわかっていた」

というわけで、日の出のようにはじまった恋が、日没とともにどう進展するかを想像させるというだけのことでした。

◆ マーティー・ペイチ・ピアノ・カルテット盤 ◆◆
まず、看板に立てたマーティー・ペイチ・ピアノ・カルテット盤から見ていきます。ショーティー・ロジャーズ同様、ペイチもプレイヤーとしてのキャリアに見切りをつけ、60年代にはポップ・フィールドまで含む広い分野で活躍した、ハリウッドを代表するアレンジャーのひとりです。

f0147840_0482098.jpg右からマーティー・ペイチ、ショーティー・ロジャーズ

70年代以降に音楽を聴くようになった世代には、トトのなんとかペイチのお父さんといったほうがわかりやすいかもしれませんが、わたしはスティーヴ・ルカサーは虫酸が走るほど嫌いで、彼のギター・ソロはすべて早送りしますし、ペイチ同様、スタジオ・ミュージシャン二世であるトトのドラマー、ジェフ・ポーカロはタイムが悪いし(ラス・カンケルやジョン・グェランよりはいくぶんマシ)、あまりといえばあまりな、露骨なジム・ゴードン・コピー・キャットぶりも、ジム・ゴードンの熱烈なファンとしては大不快なので、無視します。ペイチといえば、わたしの場合、父親のほうしか存在しません。

マーティー・ペイチ・ピアノ・カルテットという名義なので、これだけ見ると、ピアノのほかに、ドラム、ギター、ベースという4ピース・コンボを想像なさるでしょうが、それはまったくの早計。じつは4人のピアニストの共演なのです。このトラックのプレイヤーを以下にペーストしておきます。

Marty Paich……Piano
Pete Jolly……Piano
Jimmy Rowles……Piano
John Williams……Piano
Bill Pitman……Guitar
Joe Mondragon……Bass
Carlos Mejia……Conga
Ray Rivera……Percussion
Manuel Lopez……Percussion
Pat Rodriguez……Percussion

ピート・ジョリーやジョー・モンドラゴンのように、昨日取り上げたショーティー・ロジャーズのSnowballと重なる人たちもいます。同じハリウッドで、ロジャーズは59年に、ペイチは60年に録音しているのだから、べつに不思議はありません。他の曲では、ロジャーズのThe Swingin' Nutcracker同様、メル・ルイス、アート・ペパー、バド・シャンクもプレイしています。

ギターのビル・ピットマンはポップ・セッションでもおなじみの人です。フィル・スペクターのシングルB面に、Tedesco and Pitmanというインスト曲がありますが、Tedescoはもちろんトミー・テデスコ、そしてPitmanとはビル・ピットマンのことです。つまり、フィル・スペクター・セッションのレギュラーだったということです。

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Tommy Tedesco and Bill Pitman。「こういうささやかな昼寝が利くんだ」とキャプションにある! トミー・テデスコ自伝の写真キャプションはみなこの調子。そういうキャラクターだったのだとキャロル・ケイがいっている。トミーが手にしているのは、ギターではなく、バンジョー。

マーティー・ペイチ・ピアノ・カルテット盤Canadian Sunsetは、ドラムレスで、コンガのみならず、パーカッションが3人もクレジットされていることから想像がつくように、ラテン・アレンジです。ピアノをどういう風に使っているかというと、ひとりは、この曲と一体化しているとも思われる、F#-Eb-Db-Eb-Db-Eb-Db(キーをCに移調すると、C-A-G-A-G-A-G)というパターンのリックを弾いているだけに聞こえます。左右両方で、メロディーを弾いているピアニストが二人いることまではわかりますが、あとひとりはどこでなにをしているのかわかりません。ときおり、左チャンネルでメロディーを重ねているのかもしれません。

f0147840_123157.jpg後半、ソロのやりとりになりますが、「火を噴くインプロヴ」などというタイプのプレイではなく、細かく小節を割っているので、基本的にはメロディーのヴァリエーションです。つまり、わたしが好まない、得手勝手なモダン・ジャズ的プレイではなく、アレンジ、サウンド、アンサンブルを重視するラウンジ・ミュージックの行き方で、なかなかグッド・フィーリンです。

4人のピアニストというので、ギタリストの人数で勝負したものを連想したというわけではないのですが、使用楽器は異なるものの、サウンドの方向性としては、50ギターズに近いものがあります。インプロヴは最小限にとどめた「国境の南」的サウンド、という共通点があるのです。

◆ アヴァランシェーズ盤ほか ◆◆
f0147840_141983.jpg例によって、わがアヴァランシェーズもこの曲をやっています。ヴァースはピアノのアル・ディローリーが弾き(好ましいプレイ)、最初のブリッジはウェイン・バーディックのペダル・スティールが弾くというアレンジで、ここまでは比較的ノーマルな、たんにグッド・フィーリンのインストという展開です。しかし、二度目のブリッジが、トレモロ・ピッキングのディストーション・ギターで、これはちょっと血湧き肉躍るサウンドであり、プレイです。とくに入口のグリサンド風のプレイは、子どもの心がよみがえるようなエキサイトメントがあります。

トミー・テデスコとビリー・ストレンジのどちらがこのプレイをやったのか? わたしは持ち金の3分の2ぐらいなら、ビリー・ストレンジのほうに張ります。

ハル・ブレインは、このアルバムでは気分よく叩きまくっていて、Canadian Sunsetはとりわけハルのプレイが楽しいトラックです。非常に調子のいい日だったのだろうと感じます。また、スネアのチューニングのよさにも改めて惚れます。

f0147840_161071.jpgジミー・マグリフ盤も、同じ系統のロック的なサウンドです。こちらは60年代終わりの録音なので、ギターはワウをかけているし、ドラムとベースのプレイにもちょっとファンク味が混入しています。ドラムのプレイは嫌いではないといった程度ですが、スネアのチューニングがデイヴ・クラークのようにパンパンに高くて好みです。この時期にはもうスネアのチューニングを落とし、ミュートするのが流行になりつつあったので、こういうサウンドは少数派だったでしょう。世にあらまほしきはパシーンとウルトラ・ドライなサウンドのスネア哉。あなかしこ。

f0147840_18337.jpgIndian Summerの記事で絶賛したジョニー・ホッジズのヴァージョンは、ローレンス・ウェルク・オーケストラとの共演です。このヴァージョンは、上述のC-A-G-A-G-A-Gというリックを使わず、ギターと弦のピジカートで、On Broadwayのようなリックをやっています。あのリックがないとCanadian Sunsetを聴いている気分にならないのですが、ホッジズのプレイ自体はこのトラックでも悪くありません。シナトラのIndian Summerのプレイのように、大絶賛とはいきませんが。

f0147840_192536.jpg順番からいうと、最初に言及するべきは、フーゴー・ヴィンターハールター(固有名詞発音辞典の発音記号をもとにした表記。Hugo Winterhalterなので、英語読みするなら「ヒューゴー・ウィンターホールター」あたりか。アクセントは第一シラブル)とエディー・ヘイウッドのヴァージョンだったかもしれません。これは1956年にビルボード・チャート2位までいく大ヒットで、Canadian Sunsetの代表的ヴァージョンだからです。人数にまかせたスケール感のあるイントロが印象的。C-A-G-A-G-A-Gというリックは、頭のほうをシンコペートさせていますが、この(たぶんオリジナル)ヴァージョンからあるので、淵源はここなのでしょう。

◆ 他のヴァージョン ◆◆
f0147840_1103475.jpgヴォーカル盤を見ておきます。アンディー・ウィリアムズ盤は、ヴィンターハールター/エディー・ヘイウッド盤にほんのわずかに遅れ、同じ1956年にビルボード7位にまでのぼる大ヒットになっています。ウィリアムズにとって、最初のトップテン・ヒットのようです。時期が早いので、後年のアンディー・ウィリアムズとはずいぶん雰囲気が異なり、ダブル・トラックどころか、たぶん3回のオーヴァーダブをやっています。明るく、軽快で晴れやかなサウンドで、ヒットも当然だと感じます。C-A-G-A-G-A-Gリック(すこしパターンを変えているので、この並びとはちがう)は管でやっています。

f0147840_1105374.jpgディーン・マーティン盤は、いつものディノ節です。こういう曲はもう「合っている」としかいいようがありません。C-A-G-A-G-A-Gリックは、クラリネットが担当し、同時に、ベースのパターンのなかにとけ込んでいるところは、ちょっとシック。ディノ・ファンには十分に満足のいく仕上がりです。こういうラヴ・ソングはディノがもっとも得意とするところですから。後半、4ビートに移行するのも悪くありません。

f0147840_111463.jpgまたインストゥルメンタルに戻りますが、アール・グラント盤は、うちにあるもののなかでもっともスロウにやっています。途中からテンポを変えないまま、ディノ盤同様、4ビートになりますが、ドラムがバタバタするところが興醒めです。ドラムがおとなしくしている部分に関しては、これはこれでいいかもしれない、ぐらいの出来なのですが。

スリー・サンズは、どうしても珍が入ってしまうグループで、スムーズにいきません。毎度、彼らのトラックを聴くたびに、なにが原因で、あちこちに刈り残しがあるボサボサ頭のような出来になるのか考えるのですが、いまだに原因を究明できず。ドラムに責任の一半があるのはたしかなのですが。

◆ Canadian SunsetとMy Guy ◆◆
こぼれ話をひとつ。キャロル・ケイは、長年にわたって、モータウンが初期からハリウッドでトラックを録音していたと主張しています。モータウン問題の詳細については、かつてわたしが、木村センセのAdd More Musicに書いた『モータウン・ミステリー』という記事を参照していただいたほうがよいので、それは略します。

f0147840_1173357.jpgここでいいたいのは、Canadian Sunsetに関わることだけです。彼女は、モータウンの初期のハリウッド録音の例として、メアリー・ウェルズのMy Guyをあげています。彼女はこのトラックではギターをプレイしたそうですが(リリース盤ではギターはよく聞こえないが、カラオケ・ヴァージョンというか、たんなるトラック・オンリーがリリースされていて、これを聴くと、じつに味なプレイをしていたことがわかる)、その録音の様子にふれ、モータウンの仕事で譜面があったことはまれで、ほどんどは現場でのヘッド・アレンジだったとし、My Guyのイントロは、彼女の提案で、Canadian Sunsetのリックを変形したものを使った、といっています。

わたしが、しつこくC-A-G-A-G-A-Gパターンのリックにこだわった理由はこれです。フーゴー・ヴィンターハールター盤Canadian Sunsetと、メアリー・ウェルズのMy Guyの両方をお持ちの方は、比較してみてください。
by songsf4s | 2008-01-15 23:55 | 冬の歌