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2007年 12月 02日 ( 1 )
New York's a Lonely Town by the Tradewinds
タイトル
New York's a Lonely Town
アーティスト
The Tradewinds
ライター
Pete Andreoli, Vince Poncia Jr.
収録アルバム
Excursions
リリース年
1965年
他のヴァージョン
Dave Edmunds (retitled as "London's a Lonely Town")
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この曲がクリスマス・ソングといえるかどうかは微妙なところで、ご異論もあろうかと思います。しかし、歌詞が明示的なクリスマス・ソングにはなっていなくても、クリスマス・アルバムに収録される曲というのはたくさんあります。I've Got My Love to Keep Me Warmしかり、Let It Snow!しかり。

じっさい、クリスマス・シーズンに町で流れるクリスマス・ソングのなかに、この曲はよく紛れ込んでいます。シャッフル・ビートで、ジングル・ベルがシャンシャン鳴っているのだから、まったく違和感はありません。紛れ込むのもたび重なれば、もはや紛れ込んだとはいえず、正当な地位を確保したといえるでしょう。

◆ 雪をかぶったサーフ・ボード ◆◆
楽曲、サウンドも魅力的な曲ですが、この曲をサーフ・クラシックに、そしてまたクリスマス・クラシックたらしめている大きな理由は、キュートな歌詞にあります。では、ファースト・ヴァース。音符の切れ目と歌詞の切れ目がきれいには一致しないので、意味を優先して行を切りました。

My folks moved to New York from California
I should have listened when my buddy said
"I warn ya, there'll be no surfin' there and no one even cares"

「俺の家族はカリフォルニアからニューヨークに引っ越したんだ。仲間の忠告を聴いておけばよかったよ。こういうんだ。『いっとくけどな、あっちにはサーフィンなんかないんだぜ。だれも気にもしていないんだからな』」

明快な設定で、説明の要はないでしょう。つづいてコーラス。

My woody's outside covered with snow
Nowhere to go now
New York's a lonely town
When you're the only surfer boy around

「外に置いたボードは雪まみれ、どこにも行くところなんかありゃしない、ニューヨークはさみしい町だぜ、サーファー仲間なんかひとりもいないんだからな」

これまた説明不要。雪をかぶったサーフボード、というアイディアを思いついたところで、この曲のヒットと、未来の古典化は保証されたといっていいでしょう。

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最初にNew York's a Lonely Townを聴いたのは、この70年代はじめにリリースされたGolden Summerというオムニバスでのことだった。ビーチボーイズやジャン&ディーンやヴェンチャーズなどの定番だけでなく、ジャック・ニーチーのThe Lonely Surfer、マーケッツのSurfer's Stomp、アネットのBeach Partyあたりも収録し、さらにはフロッグメンのUnderwaterだの、トラッシュメンのSurfin' Birdまで入っていて、非常にありがたい盤だった。LPジャケットを好まれる方もいらっしゃるでしょうから、お持ち帰り用に大きくしたので、いつものように、ご自分のところで必要なら、ご自由にどうぞ。"Golden Summer" double LP surf music anthology from the United Artists, UA-LA627-H2.


◆ 地名のイメージ ◆◆
セカンド・ヴァース。ここは意味的にコーラスまでつながっているので、コーラスもいっしょに。

From Central Park to Pasadena's such a long way
I feel so out of it walkin' down Broadway
I feel so bad each time I look out there and find

My woody's outside covered with snow
Nowhere to go now
New York's a lonely town
When you're the only surfer boy around

「セントラル・パークからパサディーナまでの遠さったらないぜ、ブロードウェイを歩いていると、ホント、浮いてるなって思う、家の外に置いたボードが雪をかぶっているのを見るたびにむかっ腹が立つ、ニューヨークはさみしい町だぜ、サーファー仲間なんかひとりもいやしない」

LA郊外とはいえ、パサディーナには海がないので、ここはマリブやバルボアのほうがよかったのではないでしょうか。作者のピート・アンドレオーリとヴィニー・ポンシーアは東部出身で、カリフォルニアには(フィル・スペクターの)仕事で滞在したことがあっただけなので、地理不案内だったか、または、リアリティーよりパサディーナという音をとったか、あるいは、カリフォルニア以外の住人にも通りのいい地名がほしかったのかもしれません。地付きの人間ならパサディーナは使わなかったでしょう。

New York\'s a Lonely Town by the Tradewinds_f0147840_2554573.jpgとはいえ、パサディーナに住んでいる人間でも、週末にはマリブやバルボアまでサーフィンに出かけたにちがいないので、まったくのウソでもありません。なにしろ、海の近くの子どもたちが、ダンスと音楽のために、パサディーナより遠い、郡部のエル・モンテまで出かけたという話がジョニー・オーティスの自伝に出てくるぐらいなので、その逆だって十分にありえます。LAというのは、世界でもっとも早く高速道路網が発達した土地なので、車さえあれば、60年代でもそういうことができたのです(このあたりのことは、『LAコンフィデンシャル』をはじめとする、ジェイムズ・エルロイの「暗黒のLA四部作」で描写されている)。

車とサーファーについては、Tell'em I'm Surfin' by the Fantastic Baggysなどで、すでにふれています。

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ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーのレーベル、Red Bird/Blue Catレコードの曲を集めた、こういうアンソロジーにもNew York's a Lonely Townは収録されている。


◆ フィル・スペクターの拒絶 ◆◆
ロード・アイランド出身のピート・アンドレオーリとヴィニー・ポンシーアのソングライター・チームは1964年、ジェフ・バリーとエリー・グリニッジにかわる共作者を探していたフィル・スペクターを紹介されます。アンドレオーリがいうように、これは彼らにとって「人生最大のチャンス」でした。二人はスペクターとともに、The Best Part of Breaking UpやDo I Love You(ともにロネッツ)などを書きます。

まだスペクターの共作者兼アシスタント兼ボディー・ガードだった時代に、アンドレオーリとポンシーアはNew York's a Lonely Townを録音し、フィル・スペクターに聴かせました。しかしスペクターは、これはヒットすると思うが、自分のレーベルからは出したくないと拒絶したそうです。どうして、ときいても、スペクターは理由を話さなかったとか。結局、二人はこの曲をスペクターの師匠筋であるジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの会社、レッド・バード・レコードからトレイドウィンズの名義でリリースすることになります。

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トレイドウィンズのパブ・ショップ。スタジオ・プロジェクトなので、これはフォト・セッションのみのメンバーである可能性が高い。

アンドレオーリは後年、なぜスペクターが拒否したかについて、もし、New York's a Lonely Townがヒットしたら、自分のアシスタントが独力でヒット曲をつくれることになり、スペクターは自分が「タッチを失った」という事実に直面しなければならないからだろう、といっています。まあ、それもひとつの見方でしょう。

フィル・スペクターは、ライチャウス・ブラザーズが、「スペクターのミュージシャン」と「スペクターのスタジオ」を使って、スペクター・サウンドを丸ごとコピーした(You're My) Soul and Inspirationがチャート・トッパーになったとき、強い不快感を示したと伝えられています。わたしは、スペクターがNew York's a Lonely Townを拒否したのは、Soul and Inspirationに不快感を示したのと、似たような意味ではないかと考えています。

フィル・スペクターは、理想のサウンドを得るために、とてつもないエネルギーを注ぎこんでいます。3時間のセッションで4曲を録音するのが常識だった時代に、シングルのA面一曲だけのために、スペクターは二日間を費やしたのです。彼がいかにサウンド作りに精魂を傾けたかは、エンジニアのラリー・レヴィンが後年、詳細に回想していますが、それは略します。

自分が長い時間と多大な費用をかけて作り上げたものを、たんに真似されるだけでも愉快ではないでしょう。まして、それがずっと短時間で、そしてわずかな費用で簡単にできてしまい、しかもヒットしてしまうのでは、オリジネーターの立つ瀬がないというものです。そういう不快感ではないでしょうか。

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有名なライノのCowabunga the Surf Boxにも、もちろんNew York's a Lonely Townは収録されている。しかし、このボックス、ディスク4は不要だった。ディスク4まですべて60年代のサーフ・ミュージックで埋め尽くせば、ライノの意図どおり決定版になっただろう。ゴミを増やすな>ライノ。画像がひん曲がっているのは、わたしのスキャンや加工が雑なせいではなく、はじめからそういうデザインになっているため。


◆ 迂回した本歌取り ◆◆
しかし、残念ながら、ギター・リック同様、サウンドのテクスチャーには著作権があるとはみなされていませんし、詰まるところ、フィル・スペクターも、彼のサウンドを独力でつくったわけでもないので、だれかが彼の音を「盗んだ」としても(じっさい、彼の「門下生」といえる人々は、ジャック・ニーチーにせよ、ソニー・ボノにせよ、ニーノ・テンポにせよ、みな、大なり小なり「スペクター・サウンド」の盤をつくっている)、すくなくともポップ・ミュージックの世界では、やむえをないことです。

アンドレオーリとポンシーアのNew York's a Lonely Townは、仮に「パクリ」だとしても、出来のよい、そして上品なパクリです。この程度の上品な「いただき方」ならば、「パクリ」とはいわず、「インスパイア」された、と婉曲にいうのが適当でしょう。リヴァーブのかけ方だって、スペクターのように極端ではありませんし、カスタネットを使ったわけでもありません(まあ、歌詞の設定上、ジングル・ベルをシャンシャン鳴らす必要があり、カスタネットが入りこむ余地もなければ、その必要もはじめからないのですが)。

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ジャケ写をスキャンせずに、いただきものですませようとしたのですが、ウェブで見つかったのは豆粒みたいなのがほんの2、3枚でした。どうやらすでに廃盤のようなので、やむなく自分でスキャンしました(「しわい屋」そのまんまの馬鹿咄)。(当ブログとしては)大きくし、裏もスキャンしておいたので、必要な方はご自由にお持ち帰りいただき、ご利用ください。武士は相身互い。"Excursions" by the Tradewinds, front and back.

じっさい、もしそのようなものがあるとしたら、彼らの「独創性」は、スペクターの手法をいかに換骨奪胎して、応用問題を解いたか、ということにあるでしょう。「サーフ・ミュージックに材を得た、スペクター風味のトラックと、ビーチボーイズ風味のヴォーカル・アレンジによる、クリスマス・ソング風の冬のノヴェルティー・ソング」という、おそろしく迂回した、危なっかしい本歌取りに成功したことが、この曲をクラシックにしたのです。

エコーにどっぷり漬けて、なにがなんだかわからなくしてしまうような「いただき方」は、彼らはしていません。もっとも強くフィル・スペクターの色が感じられるのは、各楽器の音を分離せず、ひとつの音に融合させている点です。わたしはフィル・スペクター・サウンドの核心は、楽器の音の融合と、「音の外側に広がる残響」だと思っているので、このアンドレオーリとポンシーアの方針には共鳴します。ある人の手法の本質を把握し、それを応用することと、「パクリ」は本質的に異なるものです。

◆ 本家による本歌取りのコピー ◆◆
New York's a Lonely Townは、「最後のサーフ・ヒット」といわれることもあります。この曲のヒット以後、サーフ・ミュージックがヒット・チャートに登場することはないからです。1963年をピークに、すでにサーフ・ミュージックは衰退していたのであって、たまたま最後になっただけでしょう。そもそも、歌詞の内容はサーフ・ミュージックのヴァリエーションですが、サウンドとしてはサーフ・ミュージックらしさは感じられません。

New York\'s a Lonely Town by the Tradewinds_f0147840_1495120.jpgその「最後のヒット」から11年たった1976年、I Hear You Knockin'のデイヴ・エドマンズがこの曲を、彼の国籍に合わせて、London's a Lonely Townと改題、改作してカヴァーしています。これはハリウッド録音で、バッキング・コーラスはブライアン・ウィルソン、ブルース・ジョンストン、テリー・メルチャー、カート・ベッチャーがやったと、これを収録したサーフ・アンソロジー、Pebbles 4のライナーはいっています。非常によくできたカヴァーですが、なにか新しいものを付け加えたわけではなく、残念ながら、ストレート・コピーに終わっています。

いくつかジャケット写真を示しておきましたが、トレイドウィンズのNew York's a Lonely Townは、無数の編集盤に収録されています。ダブっても省略せずに圧縮してHDDに収めてあるのですが、三種の音を聴いて、もっともきれいなのは、Cowabunga the Surf Box収録のものだと感じました。しかし、ここが皮肉なところですが、もっとも音の悪い、テイチク製国内盤Mind Excursion収録ヴァージョンが、もっとも心地よく感じられます。リヴァーブによる「ボカし」効果が、音の悪さにマッチしているのです。こういうことがあるので、盤をつくるのは、そして、それをヒットさせるのは、むずかしいことなのだと痛感します。

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こちらは、ピート・アンドレオーリ(アンダース)とヴィニー・ポンシーアのもうひとつのスタジオ・プロジェクトであるイノセンスのジャケット。
The cover of the Innocence's self-titled album. The Innocence was another studio project by Pete Andreoli and Vinnie Poncia.

by songsf4s | 2007-12-02 00:06 | クリスマス・ソング