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2007年 11月 14日 ( 1 )
Autumn Almanac by the Kinks その2
タイトル
Autumn Almanac
アーティスト
The Kinks
ライター
Ray Davies
収録アルバム
Singles Collection
リリース年
1967年
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◆ 生まれ育った土地への執着 ◆◆
さっそく昨日のつづきで、第五ブロック。これまでに出てこなかったメロディー、コード・パターンで、第二のブリッジのようになっています。そんなものを表現する用語はないのですが!

This is my street
And I'm never gonna leave it
And I'm always gonna stay
If I live to be ninety-nine
'Cause all the people I meet
Seem to come from my street
And I can't get away
Because it's calling me
Come on home
Hear it calling me
Come on home

「ここはわたしの通り、けっしてここから離れることはないだろう、たとえ99歳まで生きたとしても、ずっとここにいる、会う人会う人がみなわたしの通りからやってきたように思えるから、どちらにしろ逃げることはできない、通りが、帰っておいで、帰っておいでと呼びかけるのだから」

f0147840_235322100.jpg自伝を読んだという有利な地点からいえば、ここは、モデルとなった庭師とRD自身の観点が渾然一体となって表現されたブロックだと感じます。自伝のなかで、彼は、デイヴィーズ邸の庭師となる以前に、この人物を毎日のように見かけていたと書いています。まるで通りに住んでいるように見えたことが、ここに表現されているのではないでしょうか。

また、RDが家族に強い絆を感じていたことも反映されていると感じます。RDはデビューまもなく、まだ十代のうちに結婚しますが、スターが集まる地区には引っ越さず、実家や姉たちの家から歩いていけるところにある、子どものころからよく知っていたクラシックな家に住みます。だから、子どものころから見かけていた人物を庭師に雇ったのです。

彼はこの庭師の仕事ぶりをよく眺めていたそうで、たぶん、共感できるなにかを、この庭師のすがたか、または日々の行動に感じたのでしょう。あえて想像をたくましくすれば、季節のめぐりにシンクロした生活というものへの共感ではないかと思います。

このあとは、すでに出てきたライン、コーラスに聞こえる部分をちょっと変形しながら繰り返して終わります。

Oh, my autumn almanac
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac
Oh, my autumn almanac
Yes, yes, yes, yes, yes, yes, yes, yes

最後のyesを繰り返すところだけが、これまでに出てきていないコード・パターンになっています。

◆ イレギュラー尽くしの楽曲構成 ◆◆
歌詞はいろいろな点でイギリス的であり、同時に「レイ・デイヴィーズ的」とでもいうしかないものですが、曲のほうは、歌詞にもまして、じつになんとも妙な展開をします。

ふつう、ポップ・チューンというのは、せいぜい、ヴァース、コーラス、ブリッジという三要素で構成されるもので(間奏はこのいずれかのパターンを利用する)、ヴァースを何度繰り返そうとも、おおむね同じコード進行だし(まれに、部分的に変化させることはある)、コーラスも同様につくられているものです。

f0147840_23544679.jpgところが、このAutumn Almanacは、そういう常識的な構成はとらず、同じところには戻らない、というルールでつくったかのように、どんどんパターンが変わっていきます。しかも、リーズナブルとはいえないところにジャンプするし、そのうえ、その際に変拍子(基本は4/4だが、3/4や2/4をはさんだりする)まで使うのだから、じつにもって厄介きわまりない造りです。

いちおう、コードをとってみたのですが、まだ穴がありますし、たぶん、ベースとギターとピアノがちがうところを弾いている(言い換えるなら、分散和音になっている)せいで、確信がもてない箇所もあります。しかし、奇妙なコード・チェンジこそがこの曲の「アイデンティティー」なので、とりわけイレギュラーな部分について、すこし検討してみることにします。

以下、楽器をやらない方にはチンプンカンプンのマンボ・ジャンボな話になるので、飛ばしてください。楽器をやる方でも、この曲をご存知ないと、隔靴掻痒にお感じになるでしょうが、一般論として、そのコードからそこへは移動しない、ということがポイントになるので、その点だけつかんでいただければと思います。

譜面やギター・タブ・サイトも参照しましたが、どれも全面的に納得はできず、以下は自分の耳に聞こえたコードを記述しました。譜面やタブ・サイトと意見が分かれたということは、それだけわかりにくい曲だということで、わたしのコードも、間違いがあるにちがいありません。耳のいい方の修正をお待ちしています。

◆ 終わりなき変化 ◆◆
それではコードを見ていきますが、テキストのままだと環境によって見え方が変わる、つまり歌詞とコードの位置関係がズレる恐れがあるので、JPEGにしました。読めるかどうか、おおいに問題ですが、ヴューワーで拡大すれば読めることは確認しましたので、いったん画像を保存していただければ大丈夫でしょう。

なお、JPEGにしたにもかかわらず、歌詞とコードがいくぶんズレているかもしれません。テキスト・ファイルをPhotsoshopに貼りつけたときに、フォントのせいで、コードとコードの空白が詰まってしまい、時間の関係でていねいに修正できなかったのです。おおむね、こういう順番でコードが変わる、ぐらいに受け取ってください。

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冒頭の、歌詞がなく、コードだけの部分はイントロです。これはいたってノーマルなI-IV-Vパターンです。それはいいのですが、歌に入ったとたん、IVのマイナー、すなわちBmになるわけで、いきなり反則技でくるのだから、面喰らいます。

いや、そもそも、イントロがI-IV-Vの形式になっているからといって、このIすなわちF#がキーといえるかどうかも微妙です。どこがキーだかよくわからないのですが、ひょっとしたらAではないかという気もします。コーラスから入るタイプの曲のように、冒頭の音がキーではないこともあるわけで、そういう風に捉えたほうがいいかもしれません。

yes, yesと繰り返すところは、ギターは、たとえばDかAのまま動かずに、ピアノとベースだけ動くというようにしても、不自然ではなく聞こえるはずです。でも、たぶん、動かしていると思います。ひどく忙しい移行ですが、66年の大ヒット、Sunny Afternoon以来、この時期のRDはそういう手法をよく使っています。

つぎのパートもイレギュラーなコード・チェンジが出てきます。

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eveningとpeopleのあいだで4分音符がひとつ飛ばされ、3/4をはさむ変拍子になっています。でも、そんなのは「常識の範囲内」といっていいくらいで、このあとの展開がまた変なのです。

Tea以降のD#m-Bb-C#-G#-B-Bbというちょっと変則的な流れも、まあ、百歩譲って、了解の範囲内ということにしておきましょう。でも、B-Bbと降りてきたのに、つぎのコードがBmって、そりゃなんだよ、そんなのありか、と思います。教育を受けた作曲家ならぜったいに避けるにちがいない、強引なコード・チェンジです。Bmが出てくるたびに、ポンとどこかに飛んでしまう、強い「転調感」があります。おそらく、それがRDの狙いなのでしょう。

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このブロックの前半は、いたってノーマルな3コードで、聴いていても安定感があります。ただし、キーがどこだかわからないので、戻るべき場所に戻ったという感覚はありません。ふつうの曲なら、この部分はそういうどっしりとした安定感をもたらすはずです。そもそも、東西南北がわからないのだから、どこにいても、なんとなく落ち着かないのだと思います。

AからAmに移行するThis is my streetのところも、やはり強い転調感がありますが、ここからの展開はじつにきれいで、この曲のハイライトでしょう。stayからninety-nineにいたる、C-Em-Bb-Aという進行は、ついこのあいだ、ボビー・ゴールズボロのBlue Autumnで見たばかりのパターンです。あのときは、同じパターンの曲を思いつかない、などと書きましたが、灯台もと暗し、よく知っている曲に使われていました!

'Cause all the people I meetのmeetのところからつぎのコードは、よくわかりません。D7とFはまちがっているかもしれませんし、たとえ正しくても、なにかもうひとつコードがはさまっているかもしれません。いずれにしても、また転調して、不思議なところにいくのですが、それがこの曲の本質で、どんどん転調しつつ、どことも知れない場所に向かって進んでいく感覚があります。

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ここはいままでに出てきたコードをちょっと変形して繰り返すだけですし、コード・チェンジ自体にも異様なところはなく、さすがにエンディングは、ぐるっと環を描いて「元に戻った」感覚があります。キーはAではないか、と書いたのは、最後がここに来るからです。

このyes, yes, yes, yes, it's my autumn almanacだけが、この曲の一貫性を保っている要素で、これがなければ、ただ異なるパターンがつぎつぎに出てくるだけの、バラバラな印象をあたえてしまうでしょう。

◆ 破綻、成長、破綻、成長の「コード・チェンジ」 ◆◆
RDはオフィシャル本で、この曲を書き上げたときは、Waterloo Sunsetのときと同じように、またひとつ階段を上がった気がしたと語っています。たしかに、尋常一様の曲ではありません。

コードが複雑、といったとき、われわれがふつう思い浮かべるのは、まず、テンションが山ほどついた、メイジャーやマイナーやセヴンスなどの当たり前のものではないコードが頻出する曲のことでしょう。トム・ジョビンの曲などですね。あるいは、ジャズではごく当たり前な、本来はシンプルなコードなのに、「解釈として」テンションをつけていく場合でしょう。

Autumn Almanacのコードは複雑ですが、上記のような意味ではいたってシンプルです。ベースとの分散和音的なものはべつとして、ギターはメイジャー、マイナー、セヴンスぐらいしか使っていません。たんに、そのメイジャーとマイナーの組み合わせが、常識はずれなだけです。

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スタジオのRD。覗き窓があるバッフルなど、アメリカのスタジオの写真では見たことがない。そもそも、アメリカのバッフルは首から下ぐらいの高さになっている。覗き窓の向こうには、フライングVを弾くデイヴ・デイヴィーズがいる。手前はピート・クエイフ。

ポップ/ロックの世界は、ときに奇妙なコード進行を使うことはあっても、おおむね、なんらかの単純なパターンに還元できるものです。つまり、なじみのパターンの組み合わせで曲をつくれるということです。

キンクスの、そしてレイモンド・ダグラスの最初の大ヒット曲であるYou Really Got Meは、そうした、基本的にはシンプルな構成の曲でした。印象的なのは、こういうタイプのハード・ドライヴィングなストレート・ロッカーにはめったに使われない、転調があるからです。

RDは、プレイヤーになるつもりで(アイドルはなんとタル・ファーローだった!)、ソングライターになる気などなく、ましてやシンガーになるつもりなどさらさらなかったそうです。パイと契約して、最初のレコーディングのときにRDが歌ったプレイバックを聴き、弟のデイヴが「兄貴って、コマーシャルな声してるな」と感心したというぐらいで、ちょうど本邦のサベージのように、「会社に歌わされた」にすぎないのです。

You Really Got Meの原型は、プロになる以前につくっていたということですが、最初の大ヒット曲に、すでに異例の転調があったことは注目すべきことだと思います。

f0147840_0243517.jpgしかし、彼のソングライティングが内省的になっていくのは、リード・シンガーであり、ソングライターであるという重圧から、神経衰弱で寝込み(Do a Brian Wilson「ブライアン・ウィルソンをやる」、すなわち、ツアーに同行せず、スタジオ・ワークに集中するという案も出たとか)、そこから回復するときに書いたSunny Afternoon以降のことだと感じます。ベースがペダル・ポイント的に下降する(ただし、ギターもいっしょに動くので、ペダル・ポイントではない)という手法は、Sunny Afternoonからはじまり、Waterloo Sunset、Autumn Almanac(この曲は下降ではなく、上昇だが)へとつながっていきます。

RDの転調への執着は、You Really Got Me以来のものですが、そこから、転調につぐ転調で、目的地がさっぱり見えないAutumn Almanacまでの距離の、なんと遠いことか! たしかに、この曲を書き上げて、RDがある達成感をいだいたのも不思議ではなく、これほど奇妙な構成をとった曲を、わたしはほかに知りません。You Really Got Meから3年で、とんでもないところまで来たと思います。

ただし、世の中はそういうものですが、RDの成長とともに、キンクスは女の子に追いかけまわされ、シャツを引きちぎられるアイドル・グループから、カルト・バンドへと必然的な変化を強いられることになります。こんどは、女の子にかわって、わたしのような人間が彼らの「基盤」になっていくわけで、そこからの脱出に、RDはまた悪戦苦闘することになるでしょう。


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The Kinks
Ultimate Collection
Ultimate Collection
by songsf4s | 2007-11-14 23:27 | 秋の歌