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2007年 08月 16日 ( 1 )
When Snowflakes Fall in the Summer by Julie London
タイトル
When Snowflakes Fall in the Summer
アーティスト
Julie London
ライター
Barry Mann, Cynthia Weil
収録アルバム
The Wonderful World of Julie London
リリース年
1963年
他のヴァージョン
The Everly Brothers
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おかしなもので、四季折々の歌という枠組みをはめただけなのに、じつにいろいろな偏りが起きています。ブラック・アーティストが極端にすくない、すごく好きなライターなのにまだ登場しない人がいる、十代のころからずっと好きだったジム・ゴードンの叩いたトラックもいまだに出てこない、といった現象です。ただ、やみくもに好きなアーティスト、好きな楽曲、好きなプレイをあげていけば、こんなことはぜったいに起こらないのですが、この不自由さも、それなりに面白くもないことはありません。

今回は、ようやくにしてバリー・マンとシンシア・ワイル夫妻の曲を取り上げることができます。タイトルに夏とあるものの、実態としては夏の歌かどうかは微妙といわざるをえないし、とくに出来のよい曲ですらないのですが、ほかならぬマン=ワイル作品だし、歌い手もほかならぬジュリー・ロンドンだから、えーい、かまうもんか、であります。

◆ 分類学上の問題点 ◆◆
このところ、歌詞の検討をサボっていましたが、今回はメロディーと同じほどに歌詞にもウェイトがかかった曲ですし、内容的に面倒なことはなにもないので、細かく見ていくことにします。ポイントは、「夏に雪が降るならば」というタイトルがどのように説明されるか、という一点だけです。それではファースト・ヴァース。

When roses bloom in December
When pears grow on an apple tree
When snowflakes fall in the summer
You'll be true to me

いきなり、「十二月に薔薇が咲くならば」というファースト・ラインで、この曲が夏の歌ではないことがバレバレです。男性のなかには植物にまったく関心のない方がいるので、あえて念押しすると、多くの薔薇は晩春から初夏にかけて咲きます。どこかの薔薇園に出かけるのなら、だれもがこの季節を選ぶはずで、ふつうの薔薇は十二月に咲いたりはしません。

f0147840_23384288.jpg2行目は「林檎の木に梨が生るならば」とあります。もちろん、そんなことはありえない、という含意なのですが、じつは、林檎と梨は、果物としては見間違えることはまずないものの、分類としては近縁種です。梅、桜、桃、杏などと同様、梨と林檎もバラ科の落葉小高木で、仲間なのです。林檎の木に梨を接ぎ木することも不可能ではないだろうと思います。まあ、林檎の木に接ぎ木された梨の木は、どちらの木なのだと問えば、もちろん梨の木なので、林檎の木に梨が生るのではなく、梨の木に梨が生るだけですが!

いや、なにか植物を林檎の木に生らせるのなら、たとえば、葡萄のように、林檎とはまったく近縁ではない、バラ科の落葉小高木ではないものにしてくれれば、分類学的な落ち着きの悪さを回避できたのに、と植物にはこだわりのあるわたしとしては思うわけです。そう感じた園芸家はほかにもいることでしょう。シンシア・ワイルの植物知識は平均以下ということがこの一行でわかるわけですが、しかし、この曲を書いたころ、彼女は二十歳かそこらのはずで、自分の二十代をふりかえれば、五十歩百歩の知識しかもっていなかったのだから、あまり偉そうなことはいえません。若いうちというのは、植物に対する意識が低いものだから、まあ、しかたないでしょう。

そして3行目「夏に雪が降るならば」ときます。地球のどこかには夏に雪が降るところもあるでしょうが、これはアメリカの話なので、この行については突っ込みは控えます。「そんなことはありえない」ということです。

以上、3行にわたって、ありえないことを三つ並べ、4行目で「You'll be true to me」すなわち意訳するならば、「あなたの浮気もやむだろう」とくるわけです。つまり、彼女の恋人いうのは、手がつけられない遊び人であることをいうために、あれこれとありえないことを並べたわけで、典型的な羅列・並列型の歌詞です。この曲は明らかに、並列型歌詞の親玉ともいうべき、有名な大ヒット曲をベースにしていますが、それについてはあとでふれます。

◆ 不完全な異化 ◆◆
セカンド・ヴァースでもとくに変化はなく、さらに羅列がつづきます。

When moonbeams shine in the morning
When sparrows don't know how to fly
When snowflakes fall in the summer
You won't make me cry

f0147840_23402491.jpg「月が朝輝くなら、燕が飛び方を知らないならば、夏に雪が降るならば、あなたがわたしを悲しませることもなくなるだろう」というわけで、ファース・ヴァースの同工異曲です。朝、ボンヤリと月が見えることもありますが、「Shine」はしないから、まあ、よしとしておきましょう。飛翔技術に関するかぎり、カラスがチャーリー・ワッツなら、ツバメはさしづめハル・ブレインかジム・ゴードンというところで、技術のレベルも精度もまったくちがうことはだれでも承知のことなので、このラインについてはまったく異存はありません。

以下はブリッジ。

You'll never change I just know it
And there never be summer snow
Darling it' s just as impossible
For me to ever let you go

「わたしにはわかっている、あなたはけっして変わらない、夏に雪が降るなんてありえないように、わたしがあなたを放すこともぜったいにないでしょう」と、さすがにブリッジでは、ここまでの延長線上の羅列はしていません。しかし、とくに変化があるわけではなく、言い方を変えただけです。「シンシア、ここは書き直したほうがよくないかい? わたしがドン・カーシュナーだったら、この4行は不可だね。これではブリッジになっていないよ」と独り言。

そして最後のヴァース。

And when spring rain comes in the autumn
When lemons taste like honeydew
When snowflakes fall in the summer
I'll stop loving you

「春雨が秋に降るならば、レモンが蜜の味ならば、夏に雪が降るならば、わたしはあなたを愛さなくなるでしょう」と、まあ、予想されたとおり、にっちもさっちもいかない関係にまったく曙光が射さないまま、この歌は終わっています。

◆ ボール紙キャラクターに息吹をあたえる ◆◆
メロディーについていえば、When Snowflkaes Fall in the Summerは、バリー・マンの曲のなかでとくに出来のいいほうではなく、まあ悪くはないといった程度の出来です。歌詞についていえば、羅列型はみなそういうものとはいえ、ちょっと変化がなさすぎで、とりわけ、アイスクリームにおけるウェファース、お汁粉における紫蘇漬け、すなわちチェンジアップであるべきブリッジに工夫が足りず、シンシア・ワイルとしては、とくに自慢できるようなものではないでしょう。

f0147840_2342125.jpgくさしたついでにもうひとついうと、春雨が秋に降るならば、というラインもいただけません。対比による異化が不完全で、面白くもなんともありません。春分の日が秋にあるならば、夏至が冬にあるならば、というのと同じじゃないか、馬鹿馬鹿しいよ、と思います。シンシア・ワイル、いまだ修行中というところでしょう。

映画の場合、馬鹿馬鹿しい脚本に有無をいわせず強引なリアリティーをあたえるのが大スターの役割です。この場合、近ごろのチンピラ俳優ではなく、ジョン・ウェインか、せめてフランク・シナトラあたりを想起してくれないと困ります。こういう嫌も応もないパワーをもった俳優は、クリント・イーストウッドを最後に絶滅することになるでしょう。

いや、音楽の話でした。単独では倒れてしまいそうな脆弱な楽曲に、太い支柱をあたえて直立させるのが、シンガーとプレイヤー、とくに前者の最大の役割です。そういう意味で、このダブル・トラックされたジュリー・ロンドンの声は、ちょっと冷静になればとうてい納得のいかないこの曲に、リアリティーがあるかのようにむりやりに錯覚させるだけの力をもっています。

シンシア・ワイルがこの歌詞をうまく書けなかったのは、ひょっとしたら、これが大人の男と女の歌で、彼女がまだ子どもだったせいかもしれません。そうとしか思えないでしょう? こういう前進も後退もまったく不可能という関係は、ありうるとしたら、肉体関係のある大人の男女のあいだだけのことで、どう考えてもティーネイジャーが歌える曲ではありません。見ようによっては、これは我慢のならないほど腐りきった男女で、思い起こすのは成瀬己喜男の『浮雲』における森雅之と高峰秀子の関係、『女が階段を上る時』の高峰秀子のバーのマダムとその家族の関係で、それくらい救いがなく、腹立たしいものです。いや、そういう暗さを中和するのも俳優/シンガーの役目なのですが。

◆ 本家・羅列型歌詞 ◆◆
この曲は、明らかにThe End of the Worldをベースにしています。と書いてから、あわててスキーター・デイヴィスのThe End of the Worldのヒットの時期を確認しました。63年2月にピーク・ポジションなので、リリースは62年でしょう。ということで、順序としても、When Snowflakes Fall in the SummerはThe End of the Worldをベースにしたという想定に問題はありません。

なぜそう思うかというと、まずは曲調が似ているということですが、歌詞の構造もよく似ているからです。試みにThe End of the Worldのファースト・ヴァースを見ると……

Why does the sun go on shining
Why does the sea rush to shore
Don't they know it's the end of the world
'Cause you don't love me any more

あなたがもうわたしのことを愛していないのだから、世界は終わってしまったのに、なぜ太陽は輝きつづけ、どうして岸辺に波が打ち寄せつづけるのだろうか(そんなことはありえないことなのに)、と、これまた冷静に聴けば馬鹿馬鹿しくてやっていられないようなことが、えんえんと4ヴァース+ブリッジを使って、同じような調子でつづられています。

馬鹿馬鹿しい設定ではありますが、流行歌というのはこういうものなので、その範囲において、The End of the Worldはやはり秀作といえるでしょう。その秀作の尻馬に乗ろうとして、When Snowflakes Fall in the Summerは、微妙な細部での失策に足を取られて、失速したといったあたりではないでしょうか。

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ちなみに、アメリカでは、The End of the Worldはスキーター・デイヴィス盤がヒットしていますが、わたしが子どものころ、日本のラジオからよく流れてきたのは、ジュリー・ロンドンのヴァージョンでした。これは正しい選択だったと思います。スキーター・デイヴィスはひどいガラッパチのカントリー・ガールで、「もののあわれ」とはもっとも遠いところにあるシンガーなので、プロデューサーは、「もっといまにも死にそうなくらい悲しげな歌い方で」と、何度もダメ出しをしなければならなかっただろうと想像します。

それに対して、ジュリー・ロンドンの声はあれですからね、スキーター・デイヴィスのカントリー姐ちゃん丸出しとは180度反対で、じつにもってけっこうな仕上がりなわけですよ、当然ながら。山ほどあるの百万倍ぐらいあるこの曲のカヴァーのなかで、聴くべきはジュリー・ロンドン盤であります。

◆ 真夏に雪が降れば涼しいだろうに ◆◆
このブログを初期からご覧になっている方、あるいは、あとからバック・イシューまでこまめにご覧になった方は、べつの曲を連想したかもしれません。ペトゥラ・クラークのThe Thirty First of Juneです。あの曲も、6月31日という、ありえない日付をタイトルにしていましたし、内容的に、というか、歌詞の技法的に近似したところもあります。

f0147840_23522913.jpgつまり、このように、まず、なにかありえないことを思いついたら、それを増殖させるだけで歌詞が書けるということを示していて、基本的な発想法のひとつだということでしょう。みなさんもお試しになってはいかがでしょうか。1曲当たれば、遊蕩児として後半生を送れるかもしれません。そうすれば、また歌詞のネタを仕入れられることでしょう!

書き忘れるところでしたが、エヴァリーズもこの曲をやっているようです。残念ながらうちにはありませんし、ウェブに落ちているのを拾うこともできませんでした。しかし、わたしはドンとフィルの大ファンですが、たとえ性差別主義者といわれようと、この曲は男女リヴァーシブルの歌詞にはとうてい思えないので(1963年の曲だということをお忘れなく。「フェミニズム」が、男が女を保護することを意味した時代です)、聴くまでもないヴァージョンでしょう。

ジュリー・ロンドンの抵抗しがたい魅力について、とうとうと書きつらねるつもりでしたが、彼女の出番はまだまだありそうなので、つぎの機会に譲ることにします。子どものときから彼女の声は好きでしたが、年をとるにつれて、いよいよ慕わしく感じられるようになってきた、とだけ申し上げておきます。曲の出来は一歩及ばなかった感じですが、彼女のパフォーマンスはそれを補ってあまりある出来で、この夏は、何度もこの曲を聴きました。涼しくて涼しくて、今日のような記録的な猛暑の日にはふさわしいトラックです。
by songsf4s | 2007-08-16 23:52 | 夏の歌