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2007年 07月 28日 ( 1 )
The Theme from A Summer Place by Percy Faith and His Orchestra
タイトル
The Theme from A Summer Place
アーティスト
Percy Faith and His Orchestra
ライター
Max Steiner
収録アルバム
Billboard Top Movie Hits 1960
リリース年
1960年
他のヴァージョン
The Lettermen, The Ventures, The Tornados
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年をとってくると、いわゆるラウンジ、モンド、エキゾティカといった妙なジャンル、大昔の日本では「ムード音楽」といわれていたものが、妙に、ほんとうに気色が悪いほど妙に、楽しく聴けるようになってきて、われながら驚きます。大人になって、わさび漬けを食べるようになったとき以来の驚きです。

いや、そのいっぽうで、やっぱりグレイトフル・デッドも聴いていたりするのですが、こうなってくるとおかしなもので、デッドもラウンジ・ミュージックの一種のような気がしてきたりします。なんだか、倒錯的気分ですが。

中学生ごろのピュアリスト気質はどこへやら、とんでもないモンスター雑食動物に化けるというのは、わたしぐらいの年齢のハードコアな音楽ファンには案外多いのではないかと思います。

◆ 人生、一寸先は闇 ◆◆
さて、パーシー・フェイスです。十代のころは徹底的に馬鹿にしていたあの人です。わたしは「喫茶店音楽」などと呼んでいましたが、のちにミューザックとかエレヴェーター・ミュージック(エレヴェーターのなかで流れるBGMという意味)などという言葉で呼ばれるようになった音楽がありますが、そういう言葉から連想するのは、わたしの場合、なんといってもパーシー・フェイスでした。

それくらいに、この「避暑地の出来事のテーマ」(という邦題だと思いこんでいたのですが、それは映画の邦題に引きずられた大誤解で、調べてみたら、呆れ果てたことに「夏の日の恋」というのだそうです。いやはや、なんともまあ、絶句するのみ)は、徹底的に「消費」され尽くした曲だったのです。

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しかし、なにごとであれ、つねに「ドンデン」がくる可能性をはらんでいるもので、ほかの曲が目的で買ったオムニバスに入っていたこの曲を聴き、大人になったわたしはひっくり返りました。

これだけ隅々まできちんとつくってあれば、大ヒットして当然です。素晴らしいアレンジ、素晴らしいプレイ、素晴らしいスケール感、素晴らしい録音で、レコード・プロダクションというのは、このようにやらなければいけないというお手本です。ロック時代の雑駁下品な音作りなんか、足元にも及びません。世界は原初のときが最高で、それからずっと長い下り坂がつづいているのだという大昔の世界観に同意したくなるほどです。

食べ物の嗜好がどんどん変わっていくのはつねに自覚していましたが、音楽の好みもやはり大ドンデンを起こすときがあるのですねえ。中学のときに、おまえは将来、パーシー・フェイスを絶賛するようになるのだ、とわたしに話しかけるメフィストがいたら、おととい来やがれ、たとえ太陽が西から昇る日が来ても、オレがパーシー・フェイスを聴く日など断じて来ない、と笑い飛ばしたでしょう。

なにごとも思いこみはいけません。人生、一寸先は闇、板子一枚下は地獄、角を曲がったとたん、パーシー・フェイスを聴いている、という人生の一大意外事、世界観の大逆転に邂逅することだってあるのです。だとするなら、太陽が西から昇る日だって、いつかは来るかもしれません。

◆ フレンチ・ホルン天国 ◆◆
細かく、セクターごとにアレンジを検討したくなるのですが、そんなことをやっている暇はないし、そんなものを読むお暇な方はいらっしゃらないでしょうから、思い切りはしょってみます。

・イントロは、ピアノの3連だけなら尋常だが、フルートの3連を重ねた(しかも左右両チャンネルで!)発想が素晴らしい。

・ヴァースで登場するリズムギターとブラシは、シンプルで地味だが、うまさのにじみ出るプレイ。フレンチ・ホルンのカウンター・メロディーもたいへんけっこう。

・ブリッジ(出てくるところが早すぎるが、二度と出てこないので、コーラスではなくブリッジと呼んでおく)では、ホルンはメロディーに転ずるが、このやや異例のアレンジが素晴らしい。

・後半の半音転調はおきまりではあるが(いや、この曲あたりが、おきまりになるそもそもの起源なのかもしれない)、ドラムに思い切ったアクセントをつけさせたことで、非常に効果的になっている。

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新宿厚生年金ホールで指揮を執るパーシー・フェイス。ドラム・ストゥールに坐るのはアール・パーマー。

大急ぎでいうと、だいたいこんなところです。なによりも強く印象に残るのは、フレンチ・ホルンの使い方がみごとだということです。わたしはこの楽器の音色が大好きなので、フレンチ・ホルンを効果的に使ったものは、それだけで気に入ってしまうのですが、これほどまでに全編で活躍するアレンジは、ポップ・フィールドではそうたくさんはありません。ストリングスはシンプルなのに対し、フレンチ・ホルンのアレンジはかなり複雑で、人数も多く、フレンチ・ホルン・ファン(なんて、わたしだけかもしれませんが)にとっては楽園のような曲です。

いや、話は逆かもしれません。自分の金で盤を買うようになる小学校4年のときよりずっと前にヒットし、その後もメディアや喫茶店で使われつづけた曲ですから、わたしのフレンチ・ホルン好きは、この曲に端を発したものである可能性のほうが高いでしょう。サブリミナル広告のように、このパーシー・フェイスのアレンジがわたしの意識下に忍びこんだにちがいありません。

◆ サウンドトラック ◆◆
他のヴァージョンの検討は、次回「レターメン」篇以降にさせていただくことにし、いくつか付随的なことがらにふれておきます。

パーシー・フェイス盤がサントラなのかと思っていましたが、オリジナル・スコアを書いたマックス・スタイナー指揮によるサントラがちゃんとべつに存在することを知りました。

映画のほうは小さいころに一回、十数年前にテレビでもう一回と、二度しか見たことがありません。小さいころに見たときはなんのことかわかっていなくて、まったくなにも覚えていませんでしたが、テレビで見直して、あれ、こんな暗い映画だったのかよと驚きました。

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トロイ・ドナヒューというと、「サーフサイド6」だったか、テレビドラマでおなじみでしたし、AIPのものではないかもしれませんが、類似のビーチ・ムーヴィーによく出ていたので、テレビ放映のときは、そういう映画を思い描いて見ました。とーんでもない大誤解。シリアスな映画なのでビックリしました。というより、ガッカリしました。脳天気な映画を見たい気分のときに、あれはないですわ。

ただ、スコアは面白いと感じました。あのメロディーは、じっさいにはテーマではないのですが、少しずつ色合いを変えて何度も登場します。

◆ アール・パーマーとパーシー・フェイス ◆◆
キャロル・ケイさんとメールのやりとりをしているときに、今日、アール(・パーマー)に会ったので、近ごろはこれこれこういう日本のファンとメールのやりとりをしていると話したら、「俺は何度も日本に行っている、そいつは俺のプレイを見たことがないのか」というので、彼はロック・ファンで、ジャズ・コンボやオーケストラは聴かないから、知らなかったのだろうといっておいた、といわれて、おおいに赤面したことがあります。

調べたら(って、わたしが調べたのではなく、右のリンクからいける、「You Tubeを聴く」のO隊長が調べたのですが)、ちゃんと来ていただけでなく、ライヴ盤まで残していたのでした。それがこれです。

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調べただけではなく、O隊長は中古盤屋で購入するときに、よぶんに一枚買い、わたしにプレゼントしてくれたのです。なんと、4チャンネル盤です。残念ながら、うちでは4チャンネル盤を再生できない(いや、もちろん、2チャンネルとしては再生できます。そういうフォーマットなのです)のですが、ちゃんと裏ジャケにアール・パーマーがストゥールに坐っている写真までついていました。

アールはかつてのスタジオ・エースですから、どうやら、パーシー・フェイスのさまざまな盤でプレイしているようですが、そのへんはこれからの研究課題のひとつで、まだ発見できていません。

そういうことはアール・パーマーにかぎったことではなく、ポップ/ロック・フィールドで活躍したスタジオ・エースの多くが、いわゆるラウンジ・ミュージックの分野でもたくさんプレイしています。近ごろはそちらを漁っているので、いずれ、なにか面白い曲をご紹介できるかもしれません。

◆ ライヴ映像 ◆◆
これもO隊長に教えていただいたのですが、以下のような映像があります。ちょっとしたプレイで、感銘を受けました。

The Theme from A Summer Place

O隊長は、最前列のヴァイオリンのなかにFelix Slatkinがいるのではないかとおっしゃっていますが、わたしもそのような気がします。シナトラのコンサート・マスターだった人で、夫人のエリナー・スラトキンはチェリスト、息子のなんとかスラトキン(すみません、クラシックに興味がないので、何度読んでも右の眼から左の眼へと、するっと文字が抜けていってしまうのです)は指揮者だそうです。

O隊長によれば、クラシック界での評価は不当なほど薄い人だそうですが、そんなことより、シナトラのコンサート・マスターを永年つとめたという「評価」のほうが、はるかに、ずーっとはるかに重要なことです。フランク・シナトラはアメリカ史の重要な一部です。これからも研究が重ねられ、スラトキン夫妻の業績も語られつづけるでしょう。

あ、でも、わたしとしては、スラトキン自身の名義でリリースされたI Get a Kick Out of Youのすんげえアレンジのほうが、じつは忘れがたく思っています。シナトラが、あの一時代を築いた彼独特のシンコペーションで、♪I...gettakick...outtayouと歌うところを、ティンパニーでやっちゃうのです。いやもう、ひっくり返りますぜ、おのおのがた。
by songsf4s | 2007-07-28 23:48 | 夏の歌