人気ブログランキング |
2007年 07月 27日 ( 1 )
Summer In El Barrio by Felix Cavaliere
タイトル
Summer In El Barrio
アーティスト
Felix Cavaliere
ライター
Felix Cavaliere, Carman Moore
収録アルバム
Felix Cavaliere
リリース年
1974年
f0147840_23281528.jpg

◆ 本題に入る前の(やや面倒な)手続き ◆◆
きついものがつづいたので、楽なものはないかとHDDを漁り、取りいだしましたるはFelix Cavaliereのソロ・デビュー盤に収録された曲であります。Felix Cavaliereはおおむねフェリックス・キャヴァリエと書くようですが、この表記には強い抵抗があり、かといって妥当と思われる表記をすると、こんどは強い抵抗を受けそうなので、原綴にさせていただきます。

Felix Cavaliereといってもご存知ない方のほうが多いでしょうが、かの(ヤング・)ラスカルズの中心メンバーです、といってもご存知ない方が多いかもしれませんが、何度もCMに使われているGroovin'のライターであり、オリジナル・パフォーマーであります。といってもご存知ない方は――ま、それくらいの知名度なのです。

ラスカルズの曲は、日本ではGroovin'とPeople Got to Be Freeがそこそこヒットしたくらいですし、リリース当時よりむしろ近年のほうが、ラジオやテレビからGroovin'が流れてくることが多いと感じるほどで、日本ではまったくといっていいほどダメでした。しかし、アメリカでは、一時はティーン・マガジンの表紙登場頻度をモンキーズと争ったほどのトップ・アーティストでした。

いや、これではほめたことになっていないかもしれませんが、当時のハードコアなロックンロール・キッドは、モンキーズは「芸能人」と思っていたのに対し、ラスカルズはりっぱなミュージシャンとみなし、アイドライズしたもので、わたしはラスカルズのドラマー、ディノ・ダネリのファンでしたし、匿名のベーシストのプレイに興奮したものです(のちにチャック・レイニーと判明した)。

しかし、People Got to Be Freeまでは飛ぶ鳥を落とす勢いだった彼らも、やがて内部分裂と時代の変化というダメージによって、わたしのようなLonely Too Long以来の古いファンでも、リリースされたことさえ知らなかったようなアルバムを残し、静かに消えていきました。わたしが買ったのはアトランティック時代のアルバムSeeまでで、CBS移籍後のアルバムなど知りもしませんでした。

◆ 南米にあらず、北米なり ◆◆
つぎにFelix Cavaliereの音を聴いたのは、ベアズヴィルから出たこのソロ・デビュー盤でした。主観的にはずいぶんブランクがあり、サウンドはラスカルズには似ても似つかぬ色合いになっていましたが、この人の最大の長所であるソングライティングは、Seeのときよりずっと持ち直していて、これほどつぶぞろいなのは、Freedom Suite以来といってよく、ひと夏のあいだずっと聴いていた記憶があります。

このアルバムは、1曲をのぞき、あとはすべてFelix Cavaliereとカーマン・ムーアという人の共作で、ここでとりあげるSummer in El Barrioもそうです。全体にラテン色というか、サルサ色というか、そういう色合いの濃いアルバムですが、この曲は管の扱いなどに、とりわけそちらへの傾斜が強く出ています。

f0147840_23324665.jpg

サウンドから、エル・バリオというのは南米のどこかの土地と思っていましたが、調べてみると、ニューヨークのハーレムの一区画なのだそうです。サルサ・ブームの震源地に近いあたりでしょうか(その方面には興味を持ったことがないので、よく知りません)。ウェブで検索をかけたら、イースト・ハーレムのサイトなどというのにぶつかって、へえー、でした。

サルサかなにか知りませんが、どこのことを歌っているかがわかれば、歌詞が語っている光景をじつに簡単に思い浮かべることができます。

◆ 窃視症的片想い ◆◆
ファースト・ヴァースは以下のようになっています。

Summer in El Barrio
Suddenly the street becomes a sea of dreams
People makes the choreography
It's warm again and my love will come out and dance


夏になると、エル・バリオでは通りに「夢が満ちあふれ」(ちょっとなあ、と首をかしげますが)、人々は振り付けをする(=即興のダンスをする)、暖かくなったから、愛しい人も外に出て踊るだろう、といったようなことがファースト・ヴァースで歌われています。

こんな通り、

f0147840_2330404.jpg

が暗くなると、暑くて部屋にいられない人や、心落ち着かなくなった人々が出てきて、通りでおしゃべりをしたり、踊ったりするのでしょう。セカンド・ヴァースで「まるで回転木馬でも見ているみたいだ」といっているので、とんでもなくにぎやかなことがわかります。

人々が走りまわるあいだに「It's her sweet figure moving quietly that puts me under spell」というのだから、鶏群の一鶴のような彼女のすがたに、語り手はボウッとなっているようです。しかし、ということは、たぶん、自分の部屋か非常階段かなんかから彼女をじっと見ているのでしょう。恋人ではなく、顔見知り程度なのだということがわかります。

Dance under the moonlight
Sweet Rosita sweet, come on and dance


と、セカンド・コーラスでいっているので、ロジータという名前ぐらいは知っていることになります。最後までいっても、この語り手が彼女と接触することはなく、ただじっと見て、踊るんだ、踊ってくれ、ロジータと思念しているだけですから、ブライアン・デ・パーマ映画を思い浮かべ、ひとつまちがうと危ない世界だな、などとよけいなことを考えました。

Cause when you fall in love
You're in love with everyone
And any place your lover happens to be


だれかに恋をしていれば、だれもが好ましく思え、そして、恋人がそのときいる場所ならどこでも、みな好ましく思えるものだ、というのですから、語り手は完全に多幸症状態で、とりあえず深刻な犯罪に走るおそれはなさそうです。

でも、恋人がいるところならどこでも好ましく思える、ということは、逆にいうと、エル・バリオは、ロジータがいなければ好ましくない場所なのかもしれません。どんな住環境かは知りませんが、夜になると騒々しくて、アパートのなかは蒸し風呂、なんていう場所らしいので、ニューヨークにいったらぜひ立ち寄るべき場所などということはないのでしょう。

◆ トッド・ラングレンのスタイル ◆◆
このアルバムはトッド・ラングレンとFelix Cavaliereの共同プロデュースで、アルバムSomething/Anythingと、シングルI Saw the LightおよびHello, It's Me以来、トッドのファンになっていたわたしは、そういう面でも関心をもちました。

トッドのプロデューシング・スタイルは、簡単にいうと、彼の持ち味と、アーティストの持ち味の中間のどこかに、二者の力がベクトル合成されたなにものかをつくりだす、といったあたりです。グランド・ファンクのLocomotionは、どちらか片一方からは生まれなかった選曲であり、サウンドでしょう。

f0147840_23333585.jpg

Felix Cavaliereのこのソロ・デビュー盤にも同じことがいえます。トッドも、Felix Cavaliereも、どちらか単独では、こういうサウンドにはつくらなかったでしょうし、じっさい、両者とも、キャリア全体を通じて、こういう風味の音作りは、他のアルバムではやっていません。二人の指向性が合成されたところに、「サルサ風味のブルー・アイド・ソウル」とでもいうスタイルが形づくられたのだと思います。

残念ながら、Felix Cavaliereはこのあと、現在に至るまで、ぜひ聴きたいようなアルバムは一枚もつくっていません。ファンだからつきあっただけです。退屈なだけのDesitinyとか、マテリアルは合格点以上のものがそろっているけれど、サウンドはただただ不愉快なだけのCastle in the Airとか、衰えがめだつDreams in Motionとか、書いていても頭に血がのぼってくるものばかりですが、このデビュー盤だけは、好ましい出来で、いまも聴きつづけています。

出来のよいソロ・デビュー盤が売れなくて、バンド時代の勢いをソロ・キャリアに持ち込めなかった人など、掃いて捨てるほどいますが、ラスカルズ時代が素晴らしかっただけに、この盤が商業的に成功しなかったせいで、つぎつぎにダメなアルバムをつくるハメに陥ったような気がして、なんとも惜しいことだと思います。Castle in the Airなど、マテリアルだけを見ればラスカルズ時代に迫るほどの秀作そろいで、たんに録音の段階で信じられない大失敗(あのマヌケなシンドラムの音!)をしたにすぎないわけで、「なぜなんだ!」と叫びたくなります。

まあ、出来がよい、といえるアルバムが一枚残っただけでよしとしましょう。まるでダメなものしかつくれなかった人々の亡霊があふれている業界なのですから。
by songsf4s | 2007-07-27 23:34 | 夏の歌